神様、俺を異世界へ! 〜ふと呟いたら異世界へ送り込まれました〜 作:相楽 弥
翌朝、俺達は宿で軽い食事を済ませて外へ出た。
まだ太陽が昇り始めた頃で風が吹くと少しだけ肌寒く感じる。
俺の後ろを歩くエストは先程から体が震えている。
......だが、それは寒さからくるものでは無い。
「......緊張、してるのか?」
「は、はい......。 これから危険な場所に向かうんだな、と思うと緊張して......あと、ほんの少しだけ怖いです」
「......そっか、そうだよな」
考えてみればそうだ。
俺は今まで、自分が神様から受けとったステータスによって、様々な危機を脱してきた。
......だが、そんな俺もここに来る前はただの学生だ。
エストのそんな等身大の言葉が、俺にその事を深く自覚させた。
「......ヒロトさん?」
歩く足を突然止めた俺を見て、エストが不思議そうに俺の名前を呼ぶ。
そんな彼女の方へと振り返ると、少しだけ笑ってこう言った。
「......怖いのはエストだけじゃない。 俺だってきっと怖い。 ......だから、一緒に頑張ろう?」
「......! は、はいっ!」
俺がそんな事を言うのは意外だったのか、エストは少しの間驚いたように固まった後、元気よく返事をしてくれた。
(向かうは森の深部。 ......俺だって死ぬかもしれないんだ、気を引き締めていこう)
俺は心に深く刻み込むと、また歩き出した。
──────────
「お、やっと来たか」
「悪い、ちょっと遅くなっちまったな」
俺達が集合場所の街の正門へ到着してから数分後。
ギルドが予定していた集合時間にあと少しでなるという所で、ベックとラッカルがやって来た。
ラッカルの方はまだ眠気が覚め切っていないのか、
「おいラッカル。 お前いつまで寝てんだよっ」
ベックにも背中を軽く叩かれて顔を顰めたラッカルが反論する。
「寝てないよ! 眠いんだよ!」
「......それ、どっちにしてもダメだと思うんですけど.....」
苦笑い気味に寝ぼけた反論をするラッカルにツッコミを入れるエスト。
ひとしきり俺達も笑うと、そろそろ時間だろうと馬車乗り場の方へと向かった。
「えーっと、俺達の馬車は.....」
街の正門前には沢山の馬車が並べて停められていた。
その数およそ六台。
今回の遠征用にギルドが五人乗りの馬車を借りてきてくれたらしい。
各々冒険者達が決められた番号の馬車へと乗り込んでいく。
(俺達は三番の馬車だったな......お、あれか)
因みにベック達二人は六番の馬車だ。
どうやら役割毎にどの馬車に乗るかが決められているらしい。
俺達は“三番”と御者がプラカード的なものを持っている馬車の所へ向かうと、彼か持っている書類にサインをする。
......どうやら他の冒険者は既に乗り込んでいるようだ。
馬車に乗り込むと、そこには三人の冒険者が席に着いていた。
「どうも。 今日からよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします.....」
第一印象は大事だからな。
俺は目の前の冒険者達に頭を下げて挨拶をすると、エストもそれに習って頭を下げた。
「ハッハッハ、そんなに
一人の中年冒険者──ヤビ・イーバという──が傍に寄ってくるなり俺の背中をばしばしと叩く。
どうやら歓迎されているらしい。
そんな彼に「そこに座りな」と言われたので、
......隣では何をすればいいのか、と緊張しているエストが俺の服の裾を掴んでいる。
(仕方ないか、エスト以外全員男だもんな)
と、そんな俺達の様子を見ていたヤビの後ろの冒険者二人が口を開いた。
「君達がヒロトくんとエストさんか。 君達の噂はよく耳にするよ。 初めまして、僕はエイリック・ローズ、等級は青だよ」
「......ジャド・ゴルゴラ、等級は同じく青だ。よろしく頼む」
二人は自己紹介を済ませると、じーっと俺達の方を見てきた。
......ああ、そうか。
俺達も自己紹介をしておかないと。
「えっと、初めまして。 霧島大翔、等級は赤です。 これからよろしくお願いします」
俺は自己紹介を終え、未だ服の裾を掴んだままのエストに促すと、オドオドがまだ抜けないながらも彼女は自己紹介を始めた。
「え、エスト・シルヴィア......です。 と、等級は赤、です。 よ、よろしくお願いしますっ」
「へぇ、お前さんら赤等級で選ばれたのか!」
俺達の挨拶を聞いていたヤビが興味深そうに俺達を眺め回す。
だが、「
「私の仲間がすまないね。 ......あれでも紫等級なんだから、しっかりして欲しいものなんだが」
「え、ヤビさんって紫なんですか!?」
思わず驚いてしまった。
一見この中では一番弱そう......という訳でもないが、身なりを見る限り商人に間違えられてもおかしくない格好だ。
そんな彼が紫等級とは......やはり、人は見かけだけで判断してはいけないということらしい。
「......ジャド、君はもう少し喋ってもいいんじゃないか?」
「......気が向いたら話しかけよう」
騒がしいヤビが居る一方で、積まれた荷にもたれかかっているジャドは無口な男らしい。
頬に作った傷やその屈強な体、鋭い目をした彼の事を俺は初対面の時にこの中で一番強い冒険者だと思っていたのだが、ヤビの方が等級が上。
......本当に分からなくなってきたぞ。
「冒険者の皆さん、そろそろ出発致しますよ」
御者台から声が掛かった。
今回の遠征では、ギルド職員が馬車を
ヤビ曰く、森の深部に入る手前には冒険者の為にギルドが設営した
......まあ、野営場にも一応魔物は湧いてくるらしいので、それなりに腕のある職員が選ばれているらしいが。
暫く話し込んでいると、ゴトンとという音と共に馬車の車輪が回りだし、少しずつ前へと進み始める。
「ヒロトー! エストー!」
「......! こ、この声って」
思わず馬車の窓から顔を出してみると、沢山集まっている街の人々の中で、一際野太い声を響かせながら俺達に手を振るアルバーさんの姿があった。
「頑張ってこいよー!! 宿に帰ってきたら、とびっきり美味い飯を食わせてやるからなー!!」
そんな彼の姿を見て、俺とエストは顔を見合わせて少しだけ笑うと
「「行ってきまーす!!」」
彼に負けないくらいの大声で返した。
その後、アルバーさんは俺達の馬車が見えなくなるまで手を振り続けてくれた。
──────────
「へぇ、エイリックは元貴族なのか」
「といっても、名前さえ知られていない小さな家だけれどね。 だけど、一時期は王都に住んでいたんだ」
俺達は街を出てから、エイリック達三人の冒険者と雑談に花を咲かせていた。
聞けば聞くほど面白い話が山ほど出てくるので、彼等との話はまるで飽きない。
そうやって話を続けている内に、いつの間にか俺の敬語口調も取れていた。
「それで、ワシらはエイリックが家から出る事を決めた時、一緒にこっちへ出てきたんだ」
「......そういう事だ」
どうやらヤビさんとジャドさんは元々エイリックに仕えていた従者だったらしい。
そして、このまま貴族としての生活を続ける事に限界を感じたエイリックの話を聞いて、共に冒険者になる事を決意したという。
「まあ、元々冒険者という職に憧れはあったからね。 どうせ貴族の座を捨てるのなら、自分のやりたい事をやってみたいと思ってね」
因みに今のエイリックの家名である“ローズ”は冒険者になる際にジャドさんが考えた名前らしく、本名ではないそうだ。
と、そんな彼の話を聞いていたエストが真剣な様子で問い掛けた。
「......貴方は、貴族として生きる事を辞める時に、後悔はしなかったんですか?」
突然エストから投げ掛けられた質問に少し驚いたような表情をした彼だったが、少しも考え込む様子を見せずに即答した。
「後悔なんて
優しげな目でヤビさんとジャドさんの方を見やると、もう一度エストの方へと向き直り。
「───今の生活の方が、何百倍も楽しいからね」
そう言ってニッコリと笑った。
(貴族の生活......か。 今の日本じゃ馴染みのない文化だからあんまし考えたこと無かったけど.....)
冒険者の暮らしも決して楽なものでは無い。
何なら、貴族で居た方が圧倒的に安全だろう。
......それでもエイリックがその安全な生活を飛び出してきたということは、それだけ貴族の生活には
「そう、ですか。 ......エイリックさんは、それで冒険者になったんですね」
エイリックの答えを聞いて、エストは少し
「まあ、エイリックが家を出たいって言い出した時はワシも驚いたがな!」
そう言って何が面白いのか大笑いをするヤビさん。
それからも彼等とは沢山
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