神様、俺を異世界へ! 〜ふと呟いたら異世界へ送り込まれました〜   作:相楽 弥

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#23 勝利、そしてそれぞれの──

「......」

 

 目を覚ますと、青空が広がっていた。

 

 どうやら俺は地面に寝転んでいるらしい。

 土の匂いが、俺の鼻をくすぐる。

 

(そうだ。 俺はヤツを倒すために“ライトニング・ディヴァイン”を放って──)

 

 体をゆっくりと起こし、辺りを見回す。

 周りの木々は地面ごとひっくり返っており、俺が寝転んでいる場所には隕石でも落ちたのかというようなクレーターが出来ていた。

 

 そして、クレーターの中心から少し逸れた所に、それはあった。

 

(......白い毛皮。 焦げだらけだし、そもそも形がないな......)

 

 どうやら、俺は“白獣(はくじゅう)”に勝利したらしい。

 安堵と共に体を疲れが襲う。

 

 ドサリとその場へ座り込み、もう一度空を仰ぐ。

 

「......終わったな」

 

 一言呟くと、再びやって来た眠気に抗う事無く(まぶた)を閉じた。

 

 

──────────

 

 

「ヒロトさーん!!」

 

「キリシマ殿ーッ!!」

 

 森林深部。

 

 私はヒロトさんに“テレポート”で野営場に転移させられた後、その場へ戻ってきたザウロさんと共に彼を探しに向かった。

 

(さっきの光の柱......多分、ヒロトさんが使った“ライトニング・ディヴァイン”のはず......)

 

 前に一度、イリアちゃんを助ける為に放った彼の最大級の攻撃魔法。

 

 あれを放ったってことは、ヒロトさんは“白獣”に勝ったのかもしれないけれど、そう思っても不安は拭えなかった。

 

「シルヴィア殿。 ここから少し先に気配が複数ある。 迂回して彼の元へ向かおう」

 

「は、はいっ」

 

 そう。

 今私達が居る深部には、強力な魔物が大量に存在する。

 

 もしヒロトさんが“ライトニング・ディヴァイン”を使って“白獣”に勝ったとしても、疲労した所をその魔物達に襲われてしまったら、きっと彼にも勝ち目はない。

 

(急がなきゃ......!!)

 

 そう焦る気持ちを何とか抑えながら、私はザウロさんと共に彼の姿を探した。

 

 

──────────

 

(こ、これは......!)

 

 受付を担当していた職員からの報告を受け、私はすぐさま街の正門へと向かった。

 

 そして、そこに広がる光景に言葉を失った。

 ......が、すぐに指示を飛ばす。

 

「冒険者の救護を急げ! 傷の深い者をなるべく優先せよ!」

 

 そこに居たのは、今朝“フロウラ連合調査隊”として“白獣”の調査へと向かった冒険者達。

 

 しかし、事態は最悪の展開を辿ったらしい。

 

「私の背に乗れ! 教会へと急ぐぞ!」

 

「す、すみません、ギルドマスター......」

 

 既に絶命寸前にまで追い込まれている者もいる。

 

 そんな彼等が此処へ辿り着けたのは──

 

(キリシマ氏の“テレポート”か......)

 

 しかし、その彼の姿は何処にもない。

 私の中に一つの可能性がよぎり、それを肯定するしかないという現実にゾッとした。

 

(彼は、戦っているのか......?)

 

 

──────────

 

 俺は再び目を覚ました。

 いや、覚まさせられたというのが正しいか。

 

 無意識的に発動させていた“熱源感知”が、複数の気配を捉えたのだ。

 

(数は......六か)

 

 傍に倒れている剣を握り立ち上がる。

 此処は森の深部、“白獣”を倒したところでまだ沢山の魔物が生息している。

 

(魔力は回復してる。 身体は少しダルいけど、動けない程じゃない)

 

 キィィ......という音ともに魔方陣を複数展開する。

 あの戦いの中で魔力のコントロールが上達したのか、一度に複数の魔方陣を展開できるようになったらしい。

 

 それらを左手へ移し、右手に握る剣を正面に構える。

 魔力の動きに気がついたのか、周りの魔物達が一斉にこちらへと駆け出してくる。

 

 ギリッと歯を食いしばり、右足を前へ。

 

 瞬間、此方(こちら)へと飛び出してきた魔物の姿をその目に捉え、大きく声上げ突撃した。

 

「かかってこいっ!!」

 

 正面から突撃してくる一体を真っ二つに斬り裂く。

 

 更に左手を空へと突き上げ、収斂(しゅうれん)させた魔力を一気に解放する。

 

「“アイシクル・レイン”ッ!」

 

 放たれた数発の蒼い弾丸。

 

 それは空中で一つになり、強い光を放つ。

 

 そして爆散。

 

 弾けた無数の氷刃が降り注いだ。

 

 蹂躙される魔物は、やがて自らの体を貫いた刃からその体を凍てつかせ──

 

「フッ......!」

 

 動きを止めた彼等の間を剣を振るいながら疾走。

 

 まだ意識のある首を次々に(はね)飛ばし、絶命させた。

 

(......? こっちに二つの気配が......)

 

 刀身に付着した血液を水属性初級魔法、“ウォーター”で洗い流す。

 そして向かってくる気配に、何時でも攻撃が出来るように構えていると──

 

「ヒロトさんっ!」

 

「え、エスト!? それに、ザウロさんまで......」

 

 現れたのは俺が“テレポート”で逃がしたはずのエストだった。

 その後ろで、驚嘆(きょうたん)の表情を浮かべて立ちつくしているザウロさんの姿が見える。

 

 突然エストが俺の方へと飛び込んで来た。

 

「えっ、ちょっと、わっ!」

 

 突然の事に踏ん張れず、そのまま慣性に身を任せて倒れ込む俺とエスト。

 完全にのしかかった状態の彼女は、俺の服を掴むと涙混じりに俺を叱った。

 

「何でッ! 何でまた無茶をしたんですかッ!」

 

「......ごめん」

 

 それ以外に、返せる言葉が見つからなかった。

 彼女は以前にも、俺が無茶をした事で泣きながら怒ったことがある。

 

 ......彼女を泣かせるまいと思っていたが、俺はまた彼女を......。

 

「......生きて、るんですか......?」

 

 俺の胸に顔を(うず)め、ポツリとエストが呟いた。

 そんな彼女の震える肩に手を置くと、一言一言噛み締めるように伝えた。

 

「うん......俺は、生きてるよ」

 

 それを聞いて不安が一気に解けたのか、エストは大きな声を上げて泣き始めた。

 

 俺は暫く、そのまま地に背をあずける事にした。

 

 

──────────

 

「......」

 

 冒険者ギルドに併設されたテラス。

 その隅で、俺はボーッと空を見つめながらとある光景を思い出していた。

 

 隣ではエストが同じ様にして空を眺めている。

 

(......この戦いで何人死んだんだろう)

 

 次々と(ひつぎ)に入れられていく遺体。

 仲間だった冒険者の変わり果てた姿を前にして、膝から崩れ落ちてしまう者。

 

 信じられないといった表情で叫び泣く者。

 

 作戦に参加した冒険者は騎士を除いて二十四名。

 冒険者の死者は四名だった。

 

「......“リザレクション”は使えない、か......」

 

 蘇生魔法である“リザレクション”。

 しかし、その魔法にも限界は存在する。

 

 蘇生対象の遺体の欠損が激しいと、蘇生することが出来ないのだ。

 

 今回遺体となった冒険者達は、いずれも“白獣”の爪撃によって酷く傷ついていた。

 ......五体満足な物など、存在しなかった。

 

「ヒロトさん......」

 

 エストが俺の方を向いて、心配そうな表情を見せる。

 

 きっと、俺の顔は悔しさに歪んでいたのだろう。

 気が付けば、ギリッと歯を食いしばっていた。

 

 と、そこへ二人の冒険者がやって来た。

 

「......ベック、ラッカル」

 

「おう。 ......お前も、無事で何よりだぜ」

 

 幸い、と言っていいのか。

 俺が知り合った冒険者達は大きな怪我を負うことも無く、無事だったらしい。

 

 このギルドへ“テレポート”で戻ってきた時に、たまたま目の前にいたエイリックが他の二人の無事を教えてくれた。

 

 ベックとラッカルは“白獣”の襲撃を受けた当時、列の最後方(さいこうほう)で荷物の整理をしていたらしい。

 それが不幸中の幸いで、彼等はどの冒険者よりも早く逃げ出す事が出来た。

 

「仮にも僕らは冒険者なのに、ね。 ......逃げる事しか頭に無かったよ」

 

 ラッカルはその事をずっと気にしているのか、俯き気味に言った。

 

「......それで、良かったんじゃないか?」

 

 ふと、そんな言葉が俺の口から零れ落ちた。

 

 瞬間、俺の顔を三人が見る。

 その時俺がどんな表情をしていたのかは分からない。

 

「生きよう。 ......死んでしまった人達の分まで」

 

「ヒロト......」

 

「きっとそれが、生き残った俺達に出来る事だから」

 

 暫くの間、沈黙が空間を支配した。

 

 そんな空気を変えようとしたのだろう。

 明るいいつもの口調で、ベックが言った。

 

「そういえばお前、一人で“白獣”を倒したらしいじゃねえか! すげぇよなぁ、俺達と同じ赤等級だってのによ!」

 

 バシバシと俺の背中を叩きながら、ケラケラと笑うベック。

 そんな彼の姿を見て少し気が楽になったのか、俯いていたラッカルが追随する様に

 

「“白獣”は賞金首モンスターだから国から報酬が貰えるんじゃないかな。 ......そうなったら、一度僕らにご飯奢ってよ」

 

「おうっ、飛びっきり高いやつな!」

 

 そんな二人の姿を見て、少し元気が戻ってきた俺は浮かれた二人にこう言ってやった。

 

「お前ら、高い物食べても味分かんないだろ?」

 

「な、なにおう!」

 

 いつものやり取り。

 ......その何処かに陰りを感じながらも、俺達は戦いの終結を迎えたのだった。




ここまで読んでいただきありがとうございました。
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