神様、俺を異世界へ! 〜ふと呟いたら異世界へ送り込まれました〜 作:相楽 弥
“
このリドルトの街にあるギルドには、またいつも通りの活気が戻ってきた。
冒険者達は皆、前を向いて生きる事を決意したのだ。
そして、今日は一際活気が溢れている。
その理由は──
「......キリシマヒロト様。 貴方にアルカゼニア公国王より“白獣”討伐の報奨金が支払われています!」
ギルド職員のミラさんがギルド中に響き渡る声で宣言する。
それと同時に、周りに居る冒険者達から大きな歓声が上がった。
隣ではエストがまるで自分の事のように誇らしげな顔をしている。
俺はそんな皆に背を押されるように、一歩前へ出た。
「それではっ、こちらが賞金の白金貨十枚になりますっ!」
「じゅっ......!?」
思わず耳を疑った。
白金貨といえばこの世界に流通している通貨の中で最も価値のある物。
今まで神様に貰った金貨だけでも十分不自由ない暮らしをしていたが、白金貨十枚......。
(俺、命狙われたりしないよな......?)
心做しかギラギラしだした周りの冒険者の視線に脅えながらも、ミラさんが持っている皮袋を受け取る。
ズシリ、と重さが伝わった。
「えー、更にキリシマ様一行にはこちらの“白獣討伐証”を贈呈致します!」
そう言って彼女が隣に居る職員から木製のトレイを受け取る。
「わ、私も頂けるんですか......?」
「そりゃ仲間だし。 ......それに、ザウロさんと一緒に助けに来てくれただろ、俺の事」
あの再会の後。
俺はザウロさんとエストに肩を貸され、
......身長の高低差で逆に辛かったのは内緒だ。
少し照れたように笑うエストと共に、ミラさんから討伐証を受け取ると彼女に「冒険者カードを出して頂けますか?」とお願いされたので、二人分のカードを提出する。
「それでは、その討伐証をカードの上にお願いします」
「これで良いんで......うわっ!」
瞬間、カードが眩い光に包まれ、その光が引く頃には持っていたはずの討伐証が消えていた。
代わりに、カードの備考欄に“白獣討伐証”と刻印されている。
「......はいっ! これで完成です!」
彼女からカードを返して貰う。
と、エストがあることに気がついた。
「ヒロトさんっ! 私達、等級が上がってますよ!」
そう言われて等級の欄を見る。
すると、今まで“赤”と表示されていた部分が“紫”に変化していた。
なんと、二等級昇進だ。
「それでは皆さん! キリシマ様一行に大きな拍手と歓声をっ!!」
その言葉と同時に、ギルド内に割れんばかりの拍手と歓声が響き渡った───
──────────
その夜。
あの時ギルドに居た冒険者や職員達を巻き込んで大宴会を敢行した俺達は、食堂で水を飲みながら今後の事について話し合っていた。
「俺、王都に行ってみたいんだ」
「王都......ですか?」
アルカゼニア公国の王都アイギシュタ。
そこには、様々な国からの輸入品や国内の特産品が集まる市があるという。
更に、今日俺達が受け取った“白獣討伐証”があれば、王都の有力な冒険者達御用達の店にも入る事が出来るらしい。
折角報酬も貰った事だし、一度その市や店にも行ってみたい。
......というのも理由の一つだが、一番の理由は別にあった。
「エイリックに聞いたんだけど、凄い綺麗な街なんだろ?」
「私も前に行ったのはずっと前なのでよく覚えていませんけど......。 確か、大きなお城を中心に周りに街が広がっているんです」
王都にある展望台から見る景色は壮観だった、とエストは語った。
......というか、エストは行ったことあるのか。
「でも、王都行きともなればこの街からだとかなり遠いですよ? それなりに準備もしないとですし、場合によっては野宿なんて事も......」
野宿。
野宿か......。
「それも、冒険者らしくて良いんじゃないか? 確か用務店に行けばテントが置いてるだろ?」
火を囲んで一日の冒険を振り返りながら食事を摂る。
冒険話に花を咲かせながら仲間と共に野宿をするなんていうのは、実に俺の思い描く冒険者像に近い物だ。
エストは少し考えるように目を瞑ると、少し嬉しそうにして言った。
「それじゃあ、明日から準備を始めましょうか。 ......ふふっ」
「ん、何だか嬉しそうだな」
きっと冒険する事への不安よりも、楽しみの方が勝っているのだろう。
俺達は明日から早速王都への旅の準備を整える事を約束し、それぞれの部屋で眠りについた。
──────────
「いらっしゃいませ! ......お、貴方は......」
「どうも。 頼んでたヤツ、出来てますか?」
「ええっ! 少々お待ちくださいね」
数日後。
俺はこの世界に来て始めて服を買った店、“アルビオン”にやって来ていた。
というのも、先日この店にある依頼を出していたのだ。
「いやー、魔獣の毛皮を加工するというのは中々面白い仕事でしたね。 勿論、仕上がりはバッチリですよ!」
魔獣の毛皮。
あの後、ギルド職員達がザウロさん付き添いの元で辛うじて形を保っていた“白獣”の遺骸を回収してくれたらしい。
その後、オルグから「これは君の物だ」と毛皮を貰った。
彼曰く、魔獣の毛皮は装備品に加工すると高い防御性能に加えて特殊な効果が付与されるらしい。
ならば、という事で俺はこの店に毛皮の加工を頼んだのだ。
「どうです? 着心地の方は」
俺は“白獣”の毛皮で出来たコートを羽織ると腕をグイと伸ばす。
......違和感も無いし、サイズも丁度いい。
「バッチリ、ですね。 凄く動きやすそうです」
話によれば、この革コートはそこらの鋼鉄装備よりも耐久力が高いらしい。
また、魔獣の毛皮を用いたからか魔力、魔法防御のステータスの向上も見込めるという。
「更にですね、こちらを装備している間は聖属性の魔法の威力が向上するのですよ」
へぇ、そんな効果まで。
......そういえば、“白獣”も雷撃で攻撃をしてきたが、あれも聖属性の魔法だったのだろうか。
その関係で威力が向上するのかもしれない。
「ありがとうございます。 それじゃあ俺はこれで」
俺はにこやかに見送ってくれた店員に礼を言うと、店を後にした。
──────────
「おおっ、良い物着てるじゃねぇかヒロト!」
「それ、魔獣の毛皮......ですか?」
宿に戻るとエストとアルバーさんに出迎えられた。
と、エストの装備が変わっている事に気が付いた。
「それ、新調したのか?」
「はいっ! どうです? 似合ってますか?」
今のエストは全身の装備を一新していた。
前まで来ていた茶色のローブから所々に金色の装飾が入った黒い肩出しの服を着て、その上から青色のマントを羽織っている。
手には革製の黒いグローブを着用し、腰に巻いたベルトにワンドとナイフを装着している。
「似合ってるよ。 すごく可愛い物を選んだんだな」
そう言われて嬉しそうに笑うエスト。
......一番可愛いのは笑っている本人なのだが、口に出すのは恥ずかしいのでよしておこう。
「それで? 出発は明日なんだろ?」
一人、蚊帳の外になっていたアルバーさんが少し苦笑い気味に聞いてきた。
ここ数日で必要な物は全て用意出来た。
今はこの宿にある倉庫に特別に預かって貰っている。
それと、貰った白金貨は俺とエストで等分した後に手元に一枚を残して全て銀行へ預金した。
どうやらこの世界にも銀行はあるらしく、企業秘密の魔法を使って個人ごとに口座を振り分けているのだとか。
それがもし何かを収納しておける魔法なら習得してみたいのだが、教えてもらえなかったので断念した。
「いよいよ明日出発......! 楽しみだなぁ......」
「楽しみ過ぎて眠れない、なんてのはやめてくれよ? エストしか馬車操縦できる人居ないんだから」
「わ、分かってますよぅ!」
──────────
翌日。
俺とエストは馬車貸しで前よりも少しだけ良い物を借りると、そこへ荷物を積んで街の正門前にやって来ていた。
「また、戻ってきた時はお願いしますね。 アルバーさん」
「おうっ! まだ払ってもらった分も止まってねぇし、いつでも帰ってこられるように部屋は掃除しておいてやるよ」
アルバーさんはわざわざ俺達のために弁当まで用意して持たせてくれた。
この人には、いつかちゃんと恩を返さないとな。
「ヒロト、エスト。 王都に行くなら何か土産物でも買ってきてくれよな!」
「そんなに高いやつじゃなくてもいいけどね。 ......そんなに高いやつじゃなくても」
「二回も言わなくていいっての......」
見送りに来るなり土産物の催促をしてくる彼等に苦笑いを浮かべ、その後ろにいるエイリックに目をやる。
「王都は本当に良い所だよ。 是非ゆっくり観光してくるといいさ」
「エイリックさんもお元気で! ジェドさんとヤビさんにもよろしく伝えておいてくださいね?」
「ああ。 任せておいてくれ」
彼は貴族時代に王都に暮らしていた事もあり、オススメの観光名所をリストアップしてくれた。
「それじゃあ、行ってきます!」
俺達は見送りに来てくれた彼等に大手を振りながら、リドルトの街を後にした。
目指すは王都アイギシュタ。
俺とエストの新たな旅が、今始まったのだ。
これで第一章完結となります。
この後は、キャラクター紹介のオマケになりますのでどうぞご覧下さい。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
感想や、アドバイス等頂けるとありがたいです。