神様、俺を異世界へ! 〜ふと呟いたら異世界へ送り込まれました〜 作:相楽 弥
「畜生……」
「ぐっ……こんなはずじゃ……」
"フロストフルーレ"を跳ね返されて、怪我をしたやつを"ヒール"で治療してやった後、捕縛魔法"バインド"を掛けて自由を奪ってやった。
"バインド"は闇属性の捕縛魔法。
唱えると、魔力の鎖が対象を締め上げて体の自由を奪う。
また、魔法の行使も鎖によって無効化することが出来るみたいだ。
これは白獣討伐隊で知り合ったジャドさんから教えてもらった魔法で、エイリックが貴族だった頃の彼が護衛団長を勤めていた時に重宝していたらしい。
実際、相手に傷一つなくほぼ無力化出来るため、非常に便利な魔法だ。
「それじゃあ……色々と話してもらおうか?」
足元に転がる2人の男を見下ろしながら、尋問を始める。
こいつらが俺に攻撃を仕掛けてきた理由は分からないが、状況から推理するとこの村が破壊された原因がこいつらである可能性は少なくない。
「なんで俺を狙った? この村の破壊は、お前たちの仕業なのか?」
俺は精一杯の低い声で相手に尋問を開始した。
……のだが、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「……破壊? あんた、この村を襲った賊の一味じゃあ無いのか?」
「……は?」
お前達の方がよっぽど賊っぽい格好をしてるじゃねーか、というツッコミは心の内に留めておいて……。
どうやら、コイツらにとってもよく分からない状況らしい。
「ちょっと待てよ、アンタらは一体何者なんだ? ……俺はてっきりこの村を襲った盗賊かなんかなのかと……」
「ば、バカ言うもんじゃないぜ! 俺たちゃこの村を守ってんだ!」
心外だ! と言わんばかりに語気を強めて反論する男達。
……この村を守ってるって、どういうことだろうか。
(ますます分かんなくなってきたぞ……?)
と、遠くの方から何やら声が聞こえて来るのに気がついた。
熱源感知にも2つの反応がある。
(敵か……? いや、この声は……)
声がする方に振り返ると、こちらに向かって走ってくる2人の姿が見えた。
「ヒロトさーん! その人達をいじめないであげてくださーい!」
声の主、片方はエストだ。
……とすると、隣の女の子は……。
「お前ら──ッ!!! 何やってんだ──ッ!!!」
「「お、お嬢──ッ!!?」」
随分ご立腹なイリアの声と、男たちの悲鳴が聞こえた。
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「「ほ、本当に申し訳ありませんでしたァ──ッ!!!」」
場所は移って長老の家。
2人の男が床にめり込むんじゃないかと心配になるくらいに、深々と土下座していた。
「まあ、ただの勘違いだったわけだし……俺も怪我してないから大丈夫だよ」
「そんなッ! お嬢の恩人にとんだ失礼を働いて……かくなる上は指をッ……」
「わーッ!? や、やめろやめろ、そんなのしなくていいからッ!」
……こんな調子でさっきから話が進まない。
と、そこへ村長のアビヌさんを連れてイリアがやってきた。
「おいお前らッ! いい加減ヒロトも困ってるからやめろッ! あと、お嬢って呼び方もやめろッ!」
「で、ですがお嬢ッ! 俺たちゃ、とんでもねぇことを……」
……このやり取りはもう少し続きそうだな。
俺がそう苦笑していると、エストがある疑問を投げかけた。
「あのー……話を遮るように申し訳ないんですが、イリアちゃんとお2人はどんなご関係なんでしょうか?」
そういえばそうだ。
さっきからこの2人はイリアのことを『お嬢』と呼んでいる。
本人はどうやらその呼ばれ方が気に入らないみたいだが……、もしかして、彼女はどこか名家のお嬢様だったりするんだろうか。
「えーっと……どこから話したらいいかなぁ……」
イリアは少し照れたように頬を掻くと、俺達の疑問に答えてくれた。
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どうやら、彼等はイリアが所属する傭兵団の団員らしい。
そしてイリアはその傭兵団の副団長。
彼らがイリアを『お嬢』と呼ぶのは、彼女が傭兵団団長の娘であるからだそうだ。
しかしながら、彼女が副団長を務めているのはただ単に団長の娘だから、という訳では無いようで。
双剣術と自身の小柄な体躯を活かした超高速の剣技を得意とするイリアは、傭兵団内でも1番の剣の使い手らしい。
「ほんと、ウチのバカがゴメンな……」
「いやいや、そこはホントに気にしなくっていいんだけどさ。 ……結局、この村で何が起きてるんだ?」
色々と驚いたが、やっぱり気になるのはそこだ。
と、ここまで静かに話を聞いていた村長のアビヌさんがようやく口を開いた。
「……そのことについては、私からお話致しましょう。……あれはつい数日前のことでございます……」
そういうとアビヌさんは事の顛末をゆっくりと話し始めた。
「先日キリシマ殿がリリィの命を救ってくださった後、しばらくは村も平和な日々が続いていたのです。 しかし……」
アビヌさんが話を続ける中、ふとイリアの方を見やると何故か悔しげな表情をしている。
それが少し気にかかったが、その答えはすぐに分かった。
「ほんの数日前、丁度イリアが傭兵団の会合があると村を離れた時のことです。 ……どこからともなく賊がこの村を襲いました」
なるほど。
イリアはどうやら、自分の不在時にこの村が襲われたこと。
それを悔いているらしい。
勿論、この件に関してイリアには何も非はない、とアビヌさんは言っているし俺もそう思う。
……けれど、当人からすれば納得できないだろう、というのも分かった。
「けどアビヌさん……失礼ですが、この村には賊が狙うような財産は……」
話を聞いていたエストが疑問を呈する。
確かに、プアブ村はお世辞にも裕福とはいえない。
むしろ、貧乏だ。
村の人達は明日を生きる為に農作に励み、毎日を過ごしている。
……そんな村から一体何を奪おうとしたのだろう。
「そこが私にも分からぬのです。……自分で言うのもなんではありますが、この村は貧乏で有名です。 それを賊も知らぬ訳はないと思うのですが……」
幸い先の襲撃で村の人々に被害は出ていないようだ。
そして今は、イリアの要請で傭兵団から数名の団員が派遣されているみたいだ。
「……キリシマ殿。 あなた方はもうこの村を離れられた方がよろしいでしょう。 王都への旅の途中ともお聞きしておりますし、危険な目に合われる前にどうか……」
「アタシもそう思う。 ……折角楽しい旅の途中なんだ、村のことはアタシ達で何とかしてみせるから、気にしないで出発した方がいいよ」
……どうしたもんかなぁ。
ふと隣に座るエストに目を向ける。
……どうやら気持ちは同じらしい、俺の目を見てこくりと頷いた。
「なあ、イリア。 ……俺達もこの村を守るのに協力させて貰えないか?」
「私からもお願いしますっ!」
そう言って2人で頭を下げた。
「や、やめてくれよッ! ……ヒロト達にこれ以上世話になる訳には──」
「友達が困ってるんだ。 ……見捨てる訳にはいかない」
「……ッ!」
イリアが言葉を詰まらせる。
「……ホントに、頼ってもいいのか?」
ボソッと、ハツラツとした彼女にしては珍しく小声で。
頬を赤らめて彼女は呟いた。
「当たり前だ。 ……一緒に村の人達を助けよう」
そう言って笑ってみせると、彼女は少し目を伏せあと、困ったように。
けれども、いつもの元気な笑顔で言った。
「おうっ!」