神様、俺を異世界へ! 〜ふと呟いたら異世界へ送り込まれました〜   作:相楽 弥

3 / 34
#3 最初の夜は

宿屋の名前は『リリーブ』と言うらしい。

 おそらく手書きだろう、味のある字体でこれまたデカデカと看板に書かれていた。

 

 先程よったアルビオンの店先と比べるとかなり質素だが、花壇の花々が丁寧に手入れされているのは宿主がそれだけ手をかけているとい証拠だろう。

 

 きっと、良い宿だ。

 

「いらっしゃい! 泊まりかい?」

 

 中に入ると、カウンターで大柄な男の人がニカッと笑って出迎えてくれた。

 白のタンクトップにエプロンという服装に一瞬自分の判断を疑うが、人は良さそうなのでそのままチェックインする事としよう。

 

「そのナリからしてアンタ冒険者だろ? 宿代まけてやるよ」

 

「えっ」

 

 何と、この宿は冒険者の宿代をまけてくれるらしい。

 理由を聞いてみれば冒険者は収入が安定しない為、軌道に乗るまで節約できる部分はとことん切り詰めなければ生活出来ないらしい。

 

 ならば、と彼は冒険者達の宿代をかなりまけているらしい。

 

「で、何泊するんだ? ウチは一泊につき鉄貨五枚だ」

 

 鉄貨。

 さっき屋台の男から教えてもらった情報によれば、白金貨から順に金貨、銀貨、銅貨、鉄貨といった価値らしく、レートとしてはそれぞれ百枚につき上の位の貨幣一枚だそう。

 

 生憎(あいにく)鉄貨は持ち合わせていないが、服を買った事で銅貨なら持っている。

 

「取り敢えず一ヶ月ぐらいでお願いします」

 

「よし、それじゃあ銅貨一枚と鉄貨五十枚だが......端数は切って銅貨一枚で良いぜ」

 

「いや、払いますよ! 払えますからちゃんと出させてください!」

 

 端数を切る、と彼は言ったがこの場合十日分の宿泊代を無料にしようと言っているのと同じだ。

 さすがにそこまでの施しを受けるわけにはいかない。

 

「いいから取っとけっての。浮いた金で美味いもん食えよ」

 

「いやいや、流石に貰えませんってば......」

 

 数分程こんな問答が続いたのだが、結局ご好意に負けて受け取ってしまった。

 ......今後何らかの形でちゃんと返そう。

 

 その後提示された書類にサインをする事になったのだが、そこでもまた驚いた。

 

(書けちゃうんだもんなぁ、異世界語)

 

 書いた事など一度文字のはずなのにスラスラとペンが動く。

 自分に起きている変化に改めて驚くと同時に、このサポートを付けてくれたあの神様に心の中で感謝した。

 

 

──────────

 

 

「じゃ、これがアンタの部屋の鍵だ。無くした時の罰金はまけねぇからな」

 

 そう言って彼──アルバーと言うらしい──から手渡された鍵に書かれた番号の部屋へと向かう。

 

 到着して中へ入ってみると、そこには真っ白なシーツが敷かれた一人用のベッドと簡素なクローゼットにタンス。

 トイレも完備されている様で安心した。

 

 浴場は共用だそうで、決まった時間に入浴するらしい。

 欲を言えば専用の物が欲しかったが、十二分に満足のいく部屋なので我慢しよう。

 

 俺は早速クローゼットに購入した服を収納し、防具を外してタンスの上のスペースに置く。

 ブレザーは......タンスの中に閉まっておこう。

 

「さてと、取り敢えずまずは所持品の確認だな。日本に居た時に持ってた物も(いく)つかあるし」

 

 ブレザーのポケットに入っていたものを取り敢えずベッドの上に並べる。

 

 財布、家の鍵、スマホに理科室から失敬したライター......。

 

「ロクなもの持ってないな......」

 

 というか何を思って俺は理科室のライターを持ってきたのだろう。

 確か実験の時に使ったものだと思うが......。

 

 財布は中身を抜けば使えるかと思ったが、どのコインのサイズも小銭入れのスペースにまるで収まらないので断念。

 

 家の鍵は論外で、スマホは充電が出来ない上に電波が無いのでただの金属の塊だ。

 

「使えそうなのはライターだけか? これも使い捨てだから長持ちはしなさそうだけど」

 

 まあキャンプでもする事になったなら火起こしが楽になるか。

 

 俺は今着ている服のポケットにライターを入れると、アルバーが用意するという夕食にありつく為に部屋を後にした。

 

 

 

 

 夕食は少し硬めのパンにハムとチーズを挟んだサンドイッチと少し辛めの味付けがされた野菜炒めだった。

 

 異世界に来て初めて摂ったちゃんとした食事だったが、この世界の料理も凄く美味い事が判明。

 昼間に食べたコッケ鳥の串焼きもそうだが、俺好みの味付けがされた物が多いのだ。

 

 というか、これをあのタンクトップが作っているのだから驚きだ。

 人は見かけによらないというのは本当らしい。

 

 十分ほどで平らげた俺は食器を返却すると、少し夜の街へと繰り出す事にした。

 というのも、入浴できる時間が決まっているのでそれまでは寝ることが出来ないからだ。

 

 というか風呂に入らずに寝るのは絶対に嫌だ。

 不衛生云々の前に習慣というのもあって崩したくないのだ。

 

「......けど、星が綺麗に見えるのな」

 

 ふと空を見あげれば、満天の星空が空を覆っている。

 日本にいた頃は、それこそ山奥に行かなければ見ることが出来なかっただろう星空がこんな街中でも見ることが出来るのだから凄いものだ。

 

(これからは、此処が俺の暮らす世界なんだよな)

 

 俺は今日、異世界へと降り立った。

 気まぐれに呟いた言葉を神様に拾われて、軽いノリで叶えてもらって。

 

 まだ実感は無いけど、最強のステータスまで貰ってこの世界へと渡ってきた。

 

「......まだ分かんない事だらけだけど、そのうち慣れるよな」

 

 これから俺の異世界生活が、始まるんだ。




ここまで読んでいただきありがとうございました。
感想や、アドバイス等頂けるとありがたいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。