神様、俺を異世界へ! 〜ふと呟いたら異世界へ送り込まれました〜 作:相楽 弥
コボルトの襲撃を退けた後、俺たちは急いでアビヌさんの家に全員を集めた。
「まさか私達が眠っていた間に、そんなことがあったなんて……」
「ですが、コボルトの群れの襲撃くらいならこの村でも偶に起こることはありますし……そこまで重大なこととは思えないのですが……?」
「ただのコボルトの群れなら、の話です。 ……これを見てください」
そう言って、俺はイリアから受け取った石を卓上へ置く。
ビー玉くらい大きさの鈍い紫色の石を見て、最初に声を上げたのはエストだった。
「こ、これっ、服従の魔石じゃないですか!? なんでこんなものが……」
「服従の魔石? ……エスト、詳しく教えてくれないか?」
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話によると、彼女は昔に書物でこの魔石を見たことがあるらしい。
『服従の魔石』。
その名の通り、この魔石には対象に対して”絶対服従”の命令を実行する。
しかし、人間や高位の魔物のように知能や自我の強い相手に対しては効果を発揮することが出来ない、所謂マジックアイテムの一種だ。
そして、この魔石を好んで使うのが魔物を召喚して戦う
彼らは、召喚した魔物にこの魔石を埋め込むことで、自身の命令を実行する傀儡として利用するのだ。
そして、この魔石がコボルトの死体から回収できたということは───
「そのコボルトは、召喚士によって喚びだされた魔物だということ。 ……つまり、何者かが襲撃するよう命令をした、ということです」
そう言ってエストは、俺が置いた魔石を手に取る。
……と、彼女はその魔石を見つめながら不思議そうな表情になった。
「どうかしたのか、エスト」
「……この魔石、まだ微かに魔力が残ってますね。 多分、召喚の際に流し込まれた魔力の残滓だと思いますが……」
さっき俺が感じたのはその魔力だったってことか。
……ん、待てよ。
「なあエスト。 その残ってる魔力は、召喚士が流し込んだものってことだよな」
「はい。 ……それが、どうかしたんですか?」
なるほど、ここはアレの出番だな。
俺はエストの持っている魔石を受け取ると、
「その召喚士、追跡できるかもしれない」
握りしめてニヤリと笑った。
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俺はもう一度、コボルト達と戦った場所へと戻ってきた。
今ここにいるのはイリアとエストの2人。
ノルドさんとガイゾーさんには万が一に備えてもらうため、村で待機してもらっている。
「追跡するって、どうするつもりなんだ?」
遠くを見ながら、イリアが聞いてくる。
時折目を瞑っているのは周囲の気配を探っているからなのだろうか。
「ヒロトさんっ、頼まれたもの準備出来ましたよ!」
エストが水を張った小さな皿を持ってやってきた。
俺はそこへ先程の魔石を浮かべると、
「よーし、それじゃあ始めるか……。 ”リワインド”!」
その魔石に魔法をかけた。
するとどうだろうか、魔石は水面をゆっくりと移動していく。
そうして魔石は北東を指して静止した。
「す、凄い! コンパスになったぞ!」
それを見てキラキラと目を輝かせながら興奮するイリアと、
「いつの間に覚えてたんですか? ……もう、魔法の先生としての威厳が……」
また知らないところで、俺が新しい魔法を覚えてきたと呆れるエスト。
”リワインド”は闇属性の追従魔法で、この魔法を発動した対象を元の位置に戻すことが出来る。
本来は壊れたものの修復などにこの魔法が使用されるのだが、俺は今回この魔法の対象を元の位置に戻そうとする力を利用することにした。
今この魔石には召喚士が注ぎ込んだ魔力が残っている。
そして、魔力というものは魔素を強く帯びた物質には長く残留するという性質があると、エストが教えてくれた。
つまるところ、召喚士のものである魔力を帯びた魔石に”リワインド”を掛けることで、魔石の中の魔力は本来の持ち主である召喚士の元へ戻ろうとするということだ。
「修復能力の応用でコンパスの指針に……。 もう、私に教えられることは無さそうですね」
ちょっと拗ねたように小石を蹴るエスト。
……次に魔法を覚える時は、ちゃんと先生に教えてもらおう。
(方角は分かった。 ……後は、これを辿るだけだ)
魔石に宿った魔力がいつまで持つか分からない。
俺達は急いで召喚士の場所へ向かった。
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指し示す先は深い森の中。
万が一の奇襲を警戒しつつ、”熱源感知”を発動させながら森の中を駆け抜ける。
(反応が鈍くなってきた。 ……近いみたいだな)
少しずつではあるが、魔石が中心へと近づいている。
俺は一旦足を止めると、2人を呼び寄せた。
「どうしたんだ? もう敵は近いんだろ?」
「ああ。 ……だから、ここからはこいつを使うぞ」
そう言って俺は、イリアとエストの手を握る。
そして目を瞑ると、
「”存在希釈”」
白獣討伐隊で共に戦った公国騎士、ザウロさんの固有技能。
”存在希釈”を発動した。
「これで相手からは気付かれないはずだ。……発動してるよな、これ」
発動したはずなのだが、特に変化を感じない。
まあ”存在希釈”は体を透明にするとかわかりやすい変化のあるスキルじゃない。
が、先程から発動させている”熱源感知”から2人の反応が消えている。
成功、ということで良さそうだ。
「2人とも、攻撃準備だ。 ……一気に詰めるぞッ!」
「おうっ!」
「はいっ!」
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コンパスが指し示す所へ到着すると、少し開けた場所に出た。
(居たっ! 敵は1人と……周りに魔物を置いてやがるな)
俺は2人に合図を送ると、召喚士の背後をとる。
"存在希釈"と魔法の行使は両立できない。
更に言えば、攻撃を仕掛けたと同時に認識されてしまう為、迂闊に攻撃を仕掛けるのは危険だ。
つまり、安全に攻撃するには解除と同時に相手を完全に無力化する必要がある。
「いつでもいいぞっ!」
既に双剣を抜き、突撃の体勢を取っているイリア。
俺は召喚士の背後で地に手を付けて魔法の準備を始める。
エストも魔力を練り終えたのか、こくりと頷いた。
「……今だッ! "プリズムパルス"ッ!!!」
瞬間、辺りに霧が発生する。
「……!? な、何だっ!?」
急に発生した霧に狼狽する敵は、後ろを振り返ろうとして───
「掛かったなッ! "フラッシュ"ッ!!!」
ほんの一瞬だけだが、強力な光が辺りを包んで召喚士と魔物達の視界を奪った。
「がっ、ああっ、目がァァ……!!!」
「今だ、イリア、エストッ!」
キィィィンという音が辺りに響く。
それは、エストが発動した魔法陣が回転を始めた音。
「"アイシクルレイン"ッ!」
空から降り注ぐ氷柱が周りを囲んでいた魔物の数を減らしていく。
そして驚くことにイリアはその氷柱の雨を潜り抜け───
「覚悟ッ!」
「ふげェッ!?」
双剣の峰で敵の体を思いっきりぶっ叩いた!