神様、俺を異世界へ! 〜ふと呟いたら異世界へ送り込まれました〜 作:相楽 弥
次回は未定です。
テッセンさんを村へ運び込み、アビヌさんの家の寝床に寝かせる。
……傷は治療したが、"ヒール"では失った血液や体力の全てまでは回復させることが出来ない。
随分顔色は良くなってきたが、まだ少し安静にした方がいいだろう、とエストが提案してくれた。
「改めて礼を言います、ヒロト殿。 ……お嬢からのお手紙で聞いてはおりましたが、素晴らしい魔法の腕をお持ちだ」
「いやいや、それほどでも……ってそうじゃないや。 一体何があったんです? 今にも死にそうなぐらいの大怪我でしたけど……」
さっきのテッセンさんの傷は素人目に見ても酷い状態だった。
特に一番傷の深かった左足首はほとんどちぎれていたし、脇腹の傷からはおびただしい量の出血があった。
よくあんな状態でこの場所まで辿り着けたものだ。
「それに、他の3人はどうしたんだ? ……ここに帰ってきたのはお前だけだったけど……」
イリアが水の入ったコップを置きながら聞く。
と、それを聞いた瞬間にテッセンさんは寝床から跳ね起きて、再び土下座をした。
「申し訳ありませんッお嬢ッ!!! ……俺は、他の3人を残して……ッ!」
声を震わせながら、謝罪の言葉を述べるテッセンさんの姿に困惑しつつも何かを察したのか、イリアは彼の肩に手を当て、
「……お前は、アタシ達に3人の事を伝えるためにあんな体で戻ってきてくれたんだ。 よくやったとアタシは思うよ」
「……ッ! お嬢……ッ!!!」
そのまま涙を流し始める彼を、イリアは慰める。
……普段の彼女とは違って、傭兵団の副団長としての風格を感じさせるような、カリスマが今の彼女から感じられる。
「済んだ事は仕方ない。 ……それに、他にも伝えることがあるんだろ?」
「……ええ。 お嬢、どうか落ち着いて聞いてください」
ゴクリ、と思わず息を呑んでしまう。
そんな俺たちの事を少し見つめた後、真剣な面持ちでテッセンさんが話し始めた。
「実は───」
───────────────────────────────────
テッセンさんの話をまとめるとこうだった。
時は遡って数時間前。
テッセンさん率いる捜索隊は、数日間かけてようやく賊の拠点と思しき洞窟を発見したらしい。
そうして、拠点の見張り役と村に戻って報告をする役に別れることになったのだが、仲間の内の一人が突然豹変したように襲いかかったという。
テッセンさん以外の2人が豹変した仲間の攻撃によって深手を負ってしまい、テッセンさん自身も怪我を負いながらなんとか無力化に成功した。
……しかし、傷ついた2人の仲間は気がついた時には姿がなく、洞窟の入口に向かって2筋の血痕が続いていたのを見て彼は怒りのまま洞窟に突撃したらしい。
「……そして、このザマです。 本当に申し訳ありませんッ、お嬢ッ!」
そう言ってまた土下座をするテッセンさん。
額が床にめり込むんではなかろうかと心配になるくらい、必死の土下座だった。
「怒りに身を任せ、冷静な判断をしなかったばかりか、手も足も出ませんでした……ッ!!!」
ギリッ、という鈍い音が聞こえる。
音の方向へ目を向けると、イリアが歯を食いしばっていた。
……固く握った拳からは血がポタポタと滴り落ちている。
やがてイリアはおもむろに立ち上がり、ゆっくりと歩きながら部屋を出ていこうとする。
「……イリア」
「……わかってるさ。 冷静に、だろ」
彼らとは知り合ったばかりの俺ですら、怒りの感情を感じているのだ。
……イリアが必死に冷静さを保とうとしているのはすぐに分かった。
「行くなら、声をかけてくれ。 ……手伝うよ」
それだけ、声をかけた。
彼女の表情はよく見えなかったが、その背中には何か決意めいた雰囲気が漂っていた。
───────────────────────────────────
部屋を出たアタシは、急いで装備の支度を整えていた。
時間はない。
一刻を争う状況だっていうのは、すぐに理解出来た。
……早く奴らを仕留めなきゃ、レノ達の命が危ないんだ。
「イリア?」
不意に後ろから呼びかけられる。
声の主は、リリィだ。
焦った様子のアタシの姿が不思議に見えたのか、キョトンとした顔で見つめている。
「……リリィ。 」
「どうしたの、イリア。 なんだかすっごく怖い顔してるけど……」
ふと鏡を見ると、酷く歪んだ顔が映る。
……こんな顔してたのか、アタシ。
リリィは不安げに声を震わせながら続ける。
「もしかして、傭兵のお仕事で何かあったの? ……またあの怖い人たちが来るの……?」
アタシはリリィの震える体をぎゅっと抱きしめた。
そうせずには居られなかった。
「イリア……?」
「大丈夫……絶対大丈夫だからな……リリィ」
まるで自分に言い聞かせるように何度も呟く。
あの日以来、リリィはすっかり外で遊ぶのを怖がるようになってしまったし、アタシも外の警戒に集中してたせいで、一緒にいてあげられる時間が少なかった。
……もうこんなのはうんざりだ。
絶対に、もうこんな思いをリリィにさせてたまるか。
「く、苦しいよぉ、イリアぁ」
「……! ご、ごめんリリィ! 大丈夫か……?」
無意識のうちにリリィを抱きしめる力が強くなっていたらしく、息苦しそうな彼女から慌てて離れる。
尚も不安そうな彼女にかけてあげられる言葉が見つからず、逃げるように部屋を飛び出した。