神様、俺を異世界へ! 〜ふと呟いたら異世界へ送り込まれました〜   作:相楽 弥

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#7 剣と魔法とコボルトと

「うわあ......沢山依頼(クエスト)があるんですねえ......」

 

 ギルドにて冒険者としてデビューした俺とエストは、早速依頼を受けてみることにした。

 とはいえ、俺達はまだデビューしたての新人、等級は白。

 受けられる依頼の種類はかなり限られている。

 

 なんでもギルド宛てに送られる冒険者への依頼の(ほとん)どは緑以上の等級を持つ冒険者のみであるらしく、冒険者デビューしたての白の冒険者にはギルドが用意した依頼が提示されるとの事。

 

 素人も同然の白の冒険者には依頼を任せられないから、一定以上の実力がある信頼のおける冒険者の方を選ぶのが依頼者の心理だというのは納得だ。

 俺だってそうするだろう。

 

 因みに冒険者ギルドが用意する仕事は、他の依頼よりも報酬が控えめだ。

まあ、チュートリアルのようなものだと思えばいいだろう。

 

「あ! 『ワイバーン討伐』なんてのもありますよ!」

 

「うん、一旦落ち着こうか」

 

 憧れだった冒険者になれて嬉しい! と舞い上がったエストが高難易度の依頼書を取ろうとしていたので手を引いて一度下がる。

 

 エストも自分が何をしようとしていたのかに気が付いて少し大人しくなった。

 

「舞い上がるのは良いけど程々にな。......けど、そこそこ種類あるよなあ」

 

 今俺達が受けられるのは、ゴブリンやコボルトの討伐クエストや配布用のポーションの材料になる薬草の収集だ。

 どれも報酬は一律で銅貨六枚。

 

 毎日の生活に必要な物は揃えられる上に、宿もちゃんと取れる。

 初心者には有難い報酬額だ。

 

(......あれ、スライムは青等級なのか? てっきり俺達でも受けられると思ってたんだけど)

 

 雑魚モンスターの象徴であるスライムがこの世界ではどうやら強いらしい。

 報酬も銀貨二枚とかなり高額だ。

 

 案外打撃とか当たらないのかもしれないな、ゲルだし。

 

「ヒロトさん! 賞金首モンスターの白獣(はくじゅう)の討伐依頼も......もごっ!」

 

「分かった! 分かったからちょっと静かにしててね、エスト」

 

 あろう事か黒等級の依頼を剥がそうとしていたエストをまたも捕まえて備え付けのベンチに座らせた。

 ......仕方ない、俺が選ぶとしようか。

 

(コボルトかゴブリンか......。難度の低い依頼はどっちだろう?)

 

 依頼書には対象モンスターの生息地や弱点なんかも書かれているので、今の俺達が対処しやすい方を選んだ方が良さそうだ。

 

 コボルトは森林の入口付近で、ゴブリンは森林の奥地に生息している。

 移動の安易さを考えるとコボルトが圧倒的だ。

 

 一応近くを通った職員にも聞いてみると、ゴブリン狩りは初心者向けであるものの準備等に時間を要するため、慣れてからの方が良いとの事。

 

「よし、これにするか!」

 

「どれにしたんですか? ヒロトさん」

 

 エストがトコトコと歩いてきて、俺の持つ依頼書を(のぞ)き込む。

 

 ─────────────────────

 依頼内容:コボルト五体の討伐。

 報酬:銅貨六枚

 場所:街の南東 フロウラの森。

 ─────────────────────

 

「取り敢えず職員の人にアドバイスを貰おうか。こういうのって、ちゃんと準備した方が良いし」

 

 まあ今俺が持っているステータスがあれば難なくクリア出来るはずだが、折角(せっかく)なので貰える情報は貰っておきたい。

 

 それに、俺一人ならまだしも今はエストという仲間がいる。

 危険にさらさない為にも必要な判断だ。

 

 

──────────

 

 

 街の門を出て、ギルドで貰った地図を頼りに歩く事十数分。

 目的地であるフロウラの森はかなり街から近い位置に位置していた。

 

「......エスト。犬系のモンスターは嗅覚が鋭いらしいから匂いの強い物を持ってるとおびき出せる。で合ってたよな?」

 

「合ってますよ。......でも、別にこんなに強い臭い玉じゃなくてもよかったんじゃ......うぅ」

 

「俺だって鼻がひん曲がりそうなのを我慢......うっ......してるんだから、文句言うのは無しだぞ......」

 

 右の腰に獣の血肉を腐らせた臭い玉をぶら下げて、俺とエストは獣道をひた歩く。

 途中その強烈な匂いに何度も吐き気を覚えながら、少しづつ歩いていく。

 

 職員に勧められてギルドから拝借(はいしゃく)した物品なのでその効果は間違いないのだろうが、コボルトに出会う前に俺達の鼻が死んでしまわないか心配だ。

 

 というか、この匂いは服についてもちゃんと取れるようになっているのだろうか。

 買って早々お陀仏(だぶつ)なんてのはゴメンだぞ、ホントに。

 

「けど、中々出てきませんねえ......」

 

「確かに気配がしないよな。でも、気を抜いたらダメだぞ、エスト」

 

 周りの気配に気を配りながら、少しづつ森の奥の方へと進む。

 と、その時だった。

 

(足音......?)

 

 意識を研ぎ澄まし、周りの様子を探っていた俺の耳に小さな足音が聞こえてきた。

 音はまばらで、少しづつ大きくなってきている。

 

 そこで気が付いた。

 その音が臭い玉に釣られたコボルトの足音だと。

 微かにだが、獣特有の荒い息遣いも混じっている。

 

「......エスト、何時でも魔法が撃てるように準備しててくれ。足音が近付いてきてる」

 

 慌てないように(さと)しながら、エストに臨戦態勢を整えるよう告げる。

 まだ足音が聞こえていないのか少し困惑する彼女だったが、直ぐに頷いてワンドを腰から抜く。

 

(数は......五匹だな。先頭を三匹が走って、その少し後ろにもう二匹つけてる)

 

 迫る足音を聴きながら、冷静に相手の戦力を分析、把握する。

 驚く事に迫るコボルトの気配を俺は探ることが出来ている。

 

 なんとも不思議な感覚だ。

 頭の中にぼんやりと相手の姿が見えるというのは。

 

(近い! もうすぐそこか!)

 

 そして、けたたましい鳴き声を上げながら右手の木から数羽の小鳥が飛び立ち、ガサガサと更に物音が近づいてくるのを感じる。

 

「来るぞエスト! さっき教えた配置につけ!」

 

「は、はいっ!!」

 

 素早く腰の剣を抜き、体の前で構える。

 ......さて、この世界に来て初めての戦闘。

 神様が俺に与えてくれたステータスがどの程度の物なのか、やっと試せるぞ!

 

 右足をグッと後ろに引いて、一番強い力で斬撃を繰り出せるように体勢を整える。

 深呼吸をして、しっかりと前を見据える。

 力まないように、無駄な力をフッと抜く。

 

 近付く足音を鋭くなった感覚の先で掴み取り、その位置を把握する。

 

(──来るッ!)

 

 そして、数匹のコボルトが(くさむら)から次々と飛び出して来た!

 

 ほんの数秒の時が拡大されて、俺の目には敵の動きがまるでスローモーションにでもかけられたかのように遅く見える。

 

「───ハアッ!!」

 

 溜めた力を解放し、先頭に(おど)り出た二匹の腹を目掛け、一気に剣を振り抜いた!

 

 振り抜いた刹那(せつな)、柔らかな何かを裂く様な感触が手元に伝わって一瞬意識が鈍るも、直ぐに立て直し、そのまま振り抜く。

 

 放った横繋ぎの一閃(いっせん)は、美しい放物線を空に描いて先に飛び出した一体の首を()ね、あとの二体の胴体を見事に寸断した。

 

「エスト! そっちにも行ったぞ!」

 

 剣を振り抜いた俺の脇をすり抜け、もう二体のコボルトがエストへと一直線に駆けていく。

 だが、近づく魔物にエストは瞑目(めいもく)し動じず。

 

 自身の魔力によって生じた蒼い光を突き出したワンドに(まと)わせ、カッと目を見開き高らかに詠唱する。

 

「──降り注げ氷結の刃! “アイシクル・レイン”!!!」

 

 そして蒼の魔法陣より放たれる無数の氷の刃。

 降り注ぐソレを(かわ)しきれずに、二体のコボルトはあらゆる箇所を串刺しにされ、その命を散らした。

 

 エストはゆっくりと目を閉じて、大きく息を吐く。

 

 時間にして僅か一分程。

 飛びかかったコボルトの群れは、殲滅(せんめつ)された。

 

 

──────────

 

 

 依頼達成後の帰り道。

 俺はある事についてエストに聞いてみた。

 

「さっきエストが使ってたアレって魔法......って事で良いのか?」

 

「ええ、そうですよ。あれが私の十八番である水属性中級攻撃魔法“アイシクル・レイン”です!」

 

 ふふん、と胸を張って俺に自慢する。

 そのドヤり具合がなんとも可愛い。

 

「どうです? カッコ良かったでしょう!」

 

「うん、カワ......カッコ良かったよ」

 

 褒められて嬉しいのか、ルンルンと俺の前を歩くエスト。

 少しぴょんぴょんと跳ねている。

 

 ふと西の空へ目をやると、日は少し傾き始めて空は茜色に染まり始めている。

 

「さて! ギルドに報告して宿に帰るまでが依頼だ。気を抜かないようにな、エスト」

 

「はいっ、ヒロトさん!」

 

 ぴょんと一回大きく跳ねて、彼女の透き通るような金色の髪がフワリと(なび)く。

 真っ直ぐ向けられた笑顔がとても心地よくて、気付けば俺の口も思わず綻んでいた。




ここまで読んでいただきありがとうございました。
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