神様、俺を異世界へ! 〜ふと呟いたら異世界へ送り込まれました〜 作:相楽 弥
「ど、どうしましょう......ヒロトさん......」
ここは異世界だ。
魔法の
俺が元居た日本とはまるで違う世界。
それでも、空の色に時の流れ。
人の温かさは変わらない。
......そしてこれもまた、変わらない事の一つであって。
「良いか坊主? 冒険者の世界ってのは強さが全てなのさ」
ギルドを出てすぐの路地裏で。
俺とエストは実に面倒で厄介な三馬鹿に絡まれていた。
どうやらこの世界にも人様に迷惑を掛けることが趣味のお方が居るらしい。
「お前らはまだ新入りだろ? ならまだまだ弱いってことだよなぁ」
チンピラの一人がケラケラと笑いながら俺の肩を雑に叩く。
エストは完全に怯えきって沈黙したまま俺の服の裾を握っている。
その手が震えているのは見なくても分かった。
「そこでだ。お前らが受けた依頼の報酬を半分俺達に納めれば、青等級の俺達が他の冒険者から守ってやるよ」
一向に言い返さずに黙りこくっている俺の様子を、怯えていると取ったのか後ろの二人がニタリと嫌な笑みを浮かべてこちらを見ている。
異世界物の定番にチンピラに絡まれるというものがあるが、まさか自分がそんな目にあおうとは。
(まあこの後の展開だと、主人公がチンピラを成敗する流れになるけど......)
ギルドで貰った冒険者心得のある一行が頭をよぎる。
『他の冒険者への攻撃は、違反の対象』
正当防衛が認められれば違反にはならないが、ソレを決定付けられる証拠が揃っていない。
せめてコイツらが暴力でも
どうにも口で
手を出せなければ強引に報酬の
それを理解した上でのこの手口なら、かなり悪質だ。
(...まあ、ソレが何だという話だけどな)
こういうのは早急にスルーするに限る。
この馬鹿達の被害者が居たとして、俺に関係があるかといえば......。
無い。全くもって無い。
というか、俺は正義の味方じゃない。
よってコイツらを懲らしめてやる必要も無い。
「行こうエスト。小腹空いたし、帰り道に屋台で何か奢ってあげるよ」
「え、あの......?」
震えるエストの手を握り、そのまま路地を出るために目の前のチンピラをのける。
少しの間呆然と立っていた彼等だったが、明らかにおかしいことに気がついて俺の肩を今度はガッシリと掴んだ。
「て、てめぇ! まだ話は終わってねぇぞ!」
ああもうイライラするなあ。
「うるさいよ。俺達は依頼終わりで腹が減ってるんだ。話ならまた後日ゆっくりしてくれ」
適当にあしらって、肩を掴む手を払い除ける。
これで諦めてくれれば良かったのだが、こういうタチの人間がそう簡単に見逃す訳もなく。
素早く目の前に回り込んだチンピラが俺の顔を目掛けて殴りかかってきたのだが.....。
次の瞬間には石畳の路面に額を叩きつける結果となった。
「て、てめ......ぇ」
ガクッと意識を失う男。
おかしいな。俺は飛んできた拳を掴んで躱そうとしただけなんだが......。
イライラしすぎて力の加減が出来ていなかったらしい。
仕方無い、このあとの展開も見えているのでそれっぽい台詞を吐いておくか。
「まだやるなら相手になる。......けど、それなら相応の覚悟を持って挑んで来るんだな」
キッと睨みつけ、残った二人を威嚇。
まあ仲間が目の前で戦闘不能にされたのだから、力量差は分かったはず。
流石にまだ戦おうとするほど馬鹿じゃ......。
「てめぇ、ぶっ殺してやるッ!!」
......馬鹿でした。
突進してくるチンピラ二人を軽く躱し、エストに下がるよう伝える。
戸惑った様子のエストだったが今回も直ぐに後ろへ逃げてくれた。
(殺しちゃまずいし、どうにか手加減を......)
「オラァ! ボーッとしてんじゃねぇぞ!!」
正面からの右回し蹴り。
ソレを左腕で受け止めて、そのまま右脚をホールド。
後ろから迫ってきたチンピラの左ストレートに合わせてホールドを外して放り投げた。
ゴッと鈍い音が響いて、一人が倒れる。
あとに残ったのは左手を血に染めた男一人。
「もう一度聞く......まだやる気か?」
「ヒ、ヒィ!」
この馬鹿も流石に恐怖を感じたのか、倒れた二人を放ったらかしにしてそのまま逃げていった。
ふうと溜息をついた俺は転がるチンピラを跨ぎ、震えるエストの手を取ってそのまま路地を出た。
──────────
「......あの、助けていただいてありがとうございました、ヒロトさん」
路地を出た俺達は
幸いエストに怪我はなかったらしく、震えも収まったのか今は俺のすぐ後ろをちょこちょことついて来ている。
......服の裾はまだ手離せないみたいだが。
「お礼なんて良いってさっきから言ってるだろ? 俺は攻撃されそうになったから反撃しただけだし、エストが気負う必要は無いよ」
実際、あの件にエストは深く関していない。
俺が絡まれ、勝手にその場を去ろうとして、アイツらに襲われただけだ。
そうやって何度もエストには言い聞かせているのだが、当の本人は少し納得していないらしい。
(本当に俺が勝手にやった事なんだけどなあ......)
と、そこへいつかのあの香ばしい香りが。
広場の一角であの親切な屋台の男が肉の調理に精を出していた。
何か奢ってあげると言ったし、美味い物を食べながらちゃんと話せば分かってくれるだろうか。
俺は男の屋台であの串焼きを四本買うと、広場の中央に
「はい。これ凄く美味しいから食べてみて」
スンスンと匂いを嗅いで、微かにエストの表情が明るくなる。
一口かじると目を輝かせ、すぐに一本丸々完食してしまった。
「な、美味しいだろ?」
「はい! コレ、とっても美味しいです!」
少し気が楽になったのか、こっちを向いて笑顔を見せるエスト。
白い頬にタレがついていたので持っていた布きれで拭ってやると、少し頬を赤らめて二本目をゆっくり食べだした。
「エスト。さっきの話の続きだけどさ」
「あ、あのぅ、その事なんですけど、やっぱりちゃんとお礼させてください!」
といっても貰って困るのは俺だし、少し気が引ける。
そこでいい考えを思いついた。
「エストは魔法が使えるんだろ? なら、今日のお礼として俺に魔法を教えてくれるってのはどうかな?」
せっかく異世界にやって来た訳だし、魔法は是非使えるようになっておきたい。
それに、魔力の扱いに慣れればあの剣も使えるようになるはず。
(まあ、第一の理由はエストに気負わせないためだけど......これ言ったらまた気にするだろうしな)
「勿論良いですけど......そんな事で良いんですか?」
「そんな事じゃないよ。俺はそれがいいんだ」
少し悩んだエストだったが、次の瞬間には笑顔を浮かべて。
「任せてください! 私がちゃんと、ヒロトさんに魔法を教えて差し上げます!」
いつもの元気を取り戻してくれた。
「それじゃあよろしくね、エスト先生」
「せんせ......もうっ、からかわないでくださいよっ!」
それから一頻り笑ってふうと息をついて。
俺は彼女に小指を差し出した。
「指切りげんまん。......俺の国で大事な約束を交わす時のおまじないなんだ」
俺の第二の人生が始まったこの巨木の麓。
日が落ち、街の灯りが照らす広場の中心。
点々と輝き出した星空の下で。
俺とエストは小さな約束を交わした。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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