サバイバルゲーム、略してサバゲ―。
だが、今回やるのはBB弾を使ったものではなくペイント弾を使ってやるらしい。
ペイント弾は圧搾空気の力で発射される塗料入りの弾で、BB弾を使うより比較的安全なため採用された。
敵味方に分かれてお互いを撃ち合い、弾に当たったら失格となるのが基本的なルールとなる。
しかし、これまた特殊なルールがある。
「今回のサバゲーはナイフも使用可能。今、みんなが着てる迷彩服には衝撃観測用の特殊な装置が入っている。それで判定をするわけだ」
「夏先生、何処にそんなの入ってるの?」
リーバさんの疑問は僕も思った。
僕たちが着ている迷彩服は着ていても特に違和感らしいものはないし、何処にそんなものが入ってるのか気になる。
その質問を聞いた祖母は、子供のような笑顔で意気揚々に答えていく。
「それはね、服の数ヵ所にチップがあって、衝撃を受けたらそれを私が今持ってるこのパソコンに送るんだよ」
えっへん!とでも言いたげな表情でパソコンを見せてくる祖母に若干イラつきながらも、話を進めるためにもう一つの疑問を口にする。
「……で?それは分かったけど、何処でやるの?ここの校庭は広いけど遮蔽物がいっぱいあるわけじゃないでしょ」
「大丈夫、安心して!」
そう力強く言う祖母だが、流石にこれはどうにも出来ないだろう。
校庭の広さはそこそこ、マラソンに使われるトラックは約一キロ。
敷地がやけにデカいのが、この学校の特徴である。
なにやらポケットからリモコンを取り出したと思ったら、祖母はいきなりこう言った。
「みんな~揺れるから注意してね~」
緩い声とは裏腹に、祖母は容赦なくボタンを押した。
その次の瞬間、地面が浮き始めたのだ。
目の前に広がる光景に絶句するクラスメイト達……そりゃそうだよな。
浮いた校庭の地面は、数メートル浮いたところでひっくり返る。
……大きいオセロかな?
ひっくり返って出てきた光景は……ジャングル。
アマゾンのジャングルとそう大差ない光景が広がっていた。
こういうことにどんだけ金掛けてるんだよ!
「場所も用意できたし、ルールを簡単に説明するよ~。取りあえず武器から、女子に渡すのはアサルトライフルとナイフで、男子に渡すのはハンドガンとナイフね。銃の攻撃は三発当たったら退場で、ナイフの場合は力にもよるけど二回くらいかな?……あっ!そうだそうだ、陸ちゃんにはナイフの代わりにこれあげる」
銃の種類は良く分からないが、男子が圧倒的に不利と言うことが何となく理解できた。
しかも、陸原さんにはゴム製の刀擬き渡してるし。
因みにナイフもゴム製である。
「おばあちゃん、この銃弾は何発入れられるの?」
「ええ~っと、十発かな。女の子たちの銃は三十発までだった気がする……。今回はフラッグを取りに行く、陣取り合戦がメイン。勝敗は、チーム全員が退場するか、旗を取れば勝ち。それじゃあチームは決めてあるから分かれて~」
さらっと大事な事言ったな!
……でも、旗取で良かったかも。
実際に、陸原さんと戦うとなると勝率は相当低い。
僕が居るチームは、春凪君・町博君・成山さん・リーバさん。
対する相手チームは、勇人・神明君・佐藤さん・陸原さん・柿沢さん。
パワーバランスは取れてる……?
だけど、こうなった以上は負ける気はない。
僕は負けず嫌いな所もあるので、今回は勝ちに行きたいと思う!
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祖母が言うには、この銃は電動銃で
交換用のマガジンは二個、女子も二個。
無くなったら、補給のために一度エリア外に居る祖母の所に向かうシステム。
今は、作戦会議の時間で作戦立案中。
みんなはサバゲーをやるのは初めてのため、中々良い作戦は出てこない。
よしっ!
ここは僕が作戦を出していこう。
さっきからしっかり作戦は練っていた、みんなが何か作戦を出したらそれに+αで少し加える程度にしようと思ったが……
流石にそう上手くは行かないみたいだ。
「僕に作戦があるんだけどいいかな?まぁ、作戦と言えるものでもないけど」
「イイよイイよ!そういうのジャンジャン言ってかないと」
リーバさんはノリがいいので、こういう時はしっかりノッてくれる。
そういう所に惹かれる人も居るんだろうな……違う違う。
作戦を話さないと。
「作戦はこうだ。まず、旗を取りに攻めるのは僕と春凪君で、他のみんなは守りに徹して欲しい」
「なるほど……その心は?」
「僕の読みだと、あちらで旗を守るのは陸原さんと神明君だ。理由としては、まず陸原さんが居る限り防衛で負けることはない。仮に負けたとしても、相当消耗するはず。後はそこを神明君が狙う。それに、神明君は運動が得意そうに見えない、僕の見た感じだと」
「そうかもしれませんね。ですが、私たちだけで攻撃に来る人たちを抑えられるのでしょうか?」
成山さんの言う通り、この作戦には運任せな部分が一つある。
それは……
「……成山さんの意見はもっともだよね……でも、僕を信じて欲しい。勇人たちは必ず正面から来ないで、迂回して後ろから来る」
『どうしてそう言い切れる?』
町博君も、メモ帳を使って僕に質問を投げかける。
その質問には、こう返すしかない。
「勘……かな。三年も友達やってれば、その人の行動パターン位大体は読めるようになるよ」
そう、勘だ。
今回の作戦は勘と運で、勝ちを目指す。
この作戦を笑う人もいるだろうが、僕はこの作戦が一番だと信じる。
違うな、僕は自分の作戦ではなく勇人を信じているのだ。
「その作戦に乗った」
「私も私も~!」
「私も賛成です」
『僕も構わない』
「ありがとね、みんな……。それでさ、相談なんだけど陸原さんは僕に任せてくれない?」
僕の発言にみんなが凍り付く。
動揺するよね、僕だってこんなこと言われたら動揺するもん。
みんなが凍り付く中、春凪君が最初に口を開いた。
「漢だな英人、俺のことは春凪じゃなくて神谷で良い」
「了解!」
僕は神谷君と拳を交わす。
さぁて、勝たせてもらうよ、陸原さん!
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十分以上歩いただろうか、そろそろ敵の陣地に入る頃あいだ。
一緒に来ていた神谷君とも、ここからは別行動。
神谷君には少しだけ遠回りしてもらい、陸原さんを避ける形で行く。
何で陸原さんの話が今出てくるかって?
そりゃあ勿論、十メートル程先に既にスタンバイしてるからさ。
多分、あのもう少し後ろに旗があるはず。
予想だけど、もし迂回して敵が来たら神明君が即座に発砲。
その音を聞いた陸原さんが即座に駆け付けて、敵を一網打尽にするためなのかも。
本当の所は良く分からないけど……
僕は、徐々に距離を詰めていく。
よく見ると、陸原さんは眼を瞑っていた。
けど、僕の気配は分かったようでゆっくりと眼を開ける。
「驚いたな、春凪が来ると思っていたのだがな……。これも作戦の内か?」
「そんな所かな?それより銃は?」
陸原さんは渡された筈のアサルトライフルを持っておらず、ゴム刀だけ。
舐められている……訳ではなさそうだ。
彼女にとっては、それが礼儀にも似たものなのだろう。
「要らん、これが一本あれば十分だ。しかし、異種格闘技戦?と言うのは久しぶりでな、腕が鳴る」
「異種格闘技戦ね……、俺もこれ一本でいいよ」
僕は持ってきたハンドガンを数メートル後ろに投げ飛ばす。
木に当たったのか少し音が響いたが、どうと言う問題ではない。
陸原さんが少し顔を顰めた。
あれ、僕何かしたか?
「僕なんかしちゃった?」
「銃は使わないのか?」
「銃?ああ、使わないよ。だって、陸原さんにこんなの意味ないもん」
どうせ、避けられるのがオチ。
何せ、陸原流剣術は速さに重きを置いた剣術。
連続攻撃が売りの流派。
速いだけではなく重さもあり、流派を極めたものなら十秒間に五回の連続した斬撃を行える。
正直言って、ナイフ一本でどうにかなる相手じゃない。
それでも、諦めるのはまっぴらだ。
最初から勝つ気で行く‼
「では……行くぞ‼」
陸原さんが言葉を発した瞬間、攻撃は始まった。
構えたと思ったら既に刀は振り下ろされていて、反射神経だよりに受け流す。
攻撃は止まらず、すぐに二回目の斬撃が来る。
切り上げる攻撃は躱して間合いを取るが、そんな行為は意味を為さない。
取った間合いも何のその、瞬時に詰め寄り横薙ぎに一閃。
ナイフで受け止めるが衝撃は押し殺し切れず、後ろに転がってしまう。
「まさか、まだ三連撃とは言え私の攻撃を防ぐとは」
「褒められてるって解釈で良い?」
「良いぞ、お前のような奴だったら本気で言っても問題ないだろう」
おいおい、冗談がキツイぞ!
今ので全力じゃないのかよ、こっちは死ぬ気で防いだのに……
「少し質問だけど。力のレベルを十段階で表すとさっきまでは何くらい?」
「三か四と言った所だが、それがどうかしたか?」
「――、大丈夫。気にしないでくれ」
神谷君、出来れば早くしてくれ。
そうしないと、僕が死ぬ‼‼
会話が終わったと認識したのか、陸原さんが構える。
僕もナイフの切っ先を陸原さんに向けて、次の攻撃を待つ。
一秒、二秒、三秒、四秒、一向に攻めてこない。
可笑しい、速攻で攻めてくると思ったのに……
こんな僕の考えは、瞬く間に消し去られた。
何故なら、目の前に居た筈の陸原さんが消えていたのだから。
「何処に……」
「ここだ‼」
消えたと思ったら、また現れた。
ご丁寧に真正面から。
だが、僕の身体は一歩後ろに下がっていた。
……なにが起きたのか、全くわからなかったのだ。
でも、その疑問の答えを僕は身を持って体感する。
僕の前髪が数本、宙に散った。
また、次の瞬間には何故かナイフを両手で持って構える。
今度は先程と同じく横に薙ぐ斬撃で弾き飛ばされた。
さっきとは比べ物にならない強さ。
何がどうなったか分からない。
反射神経に全集中力を注いでいなかったら、今頃自分の腹の骨は確実に折れていただろう。
弾き飛ばされた体は数メートル後方の木に当たり倒れる。
衝撃観測装置は祖母が弄ったのか、こういう衝撃では意味がないらしい。
僕の身体にゴム刀で一撃お見舞いしないと、退場扱いにはされないようだ。
まぁ、もう勝負は決まったんだけど。
「悪いがここまでのようだな。信濃川……いや、英人お前はよくやった。ここで、潔く負けろ!」
陸原さんが勝ちを確信したような顔をする。
待ってたんだ、君がその顔をするのを!
僕は戦う前に投げ捨てた銃を拾う。
あそこからしっかりと布石は打っておいた。
ここに追い込ませるために、必死に攻撃を受け続けたのだ。
僕がニヤリと笑った顔を陸原さんが視認した時には、もう遅い。
既に、僕の左手は銃を拾い銃口を陸原さんに向けている。
「僕の勝ちだよ‼」
フルオートにしていたので、十発の弾が数秒の差で全弾発射されていく。
陸原さんはもう構えに入っていた為、避けることが出来ない。
銃弾の殆どが陸原さんに当たり、辺りを劈くような祖母の声が響いてくる。
「陸ちゃん退場~!もう戦闘行為はしちゃダメだよ~」
相変わらずの緩い声と同時に、僕も緊張の糸が切れて腕を降ろす。
さっきから寝転がってはいたが、あれも作戦の為。
ようやくゆっくりできる。
「……最初から全部読んでいたのか?」
「そうかもね?ぶっちゃけると、これが通じるのは初見の相手だけだからね。次はないよ」
僕は疲れた体を起こして、陸原さんに向き合う。
彼女の顔は清々しいもので、今回の勝負に悔いが無いように見えた。
「結構アウトに近い感じだったと思うけど、そこら辺はいいの?」
「ああ、こうやって誰かに負けるのは久しぶりだからな。……一つ聞きたいのだが、英人は武術の心得があるのか?動きはそういう感じはしなかったが」
「武術?ないない、やってないよ。強いて言えば、おばあちゃんに護身術を習ったぐらいかな」
「そうか。お前は自分のことをどう思う?……私は武術の心得のない者に勝つのに、今まで一分も掛からなかった。だが、今回は逆にお前に一分で負けた」
「自分のことをどう思うか?」
そんなの決まっている。
僕は普通――と言いたい所だが、異常なことなんてとっくの昔に気付いてるのだ。
ただ、普通になりたいだけ。
それだけだ。
「普通になって普通の学校生活が送りたい、そんな夢を持ってる異常な高校生かな?」
「異常か……あながち間違ってないな」
「出来るなら否定して欲しかったな~」
実際の所、しょうがないっちゃしょうがない。
この後は、神谷君が無事に旗を取り僕たちのチームが勝利した。
だけど、僕は流石に見学。
人数が合わなくなったことから陸原さんも見学に。
結局、その次の試合は長引いて引き分けに終わった。
三時間目からはまともな授業が行われて、僕も疲れた頭でノートを取り授業を聞いた。
こんなのが毎日続くかと思うと、心が折れそうになる。
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翌日、いつも通りの時間に登校をしていると佐藤さんに出会った。
小走りをして、近付き声を掛ける。
「おはよう佐藤さん、朝早いんだね」
「そ、そんなことないですよ。こちらこそおはようございます」
佐藤さんに歩調を合わせて、昨日のことを喋りながら通学路を歩く。
だが、佐藤さんは何か違うことを考えているようだった。
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朝の通学路で信濃川さんに会った私は、不意に昨日の帰りに話していたことを思い出す。
最初は話しかけやすい男子は誰かって話だったのに、何故か途中から信濃川さんの話になっていたのだ。
「英人は普通ではない」
最初は蓮ちゃんがそんなことを言いだした。
あっ、蓮ちゃっていうのは、仲を深めるために名前呼びにしようとルエルちゃんに言われたから。
少し恥ずかしかったが、すぐに慣れるだろう。
そうじゃなかった!
なんで蓮ちゃんは、信濃川さんは普通じゃないって言ったのか。
今は、そっちの方が優先!
「蓮ちゃん?いきなりどうしたの」
「あ~、蓮の言う通りかも」
「蓮さんの言う通りかもしれませんね」
「んん~、私は朝日っちと同じ意見だよ。蓮っち」
ルエルちゃんと美海ちゃんは何か知ってるみたいだけど、私や百合ちゃんは何も知らないからよく分からない。
それでも、私からしたら信濃川さんは普通だと思うんだけど……
みんなの方がもっと濃い気がする。
「で、でも、私からしたらみんなの方が普通じゃない気がするよ……」
「私もかな~、英人っちは面白そうだけど普通じゃないって言い方は違くない?」
「……二人とも、私はあのサバイバルゲームの時誰に倒されたと思う?」
ああ、体育の時間か。
最初の試合で蓮ちゃんは退場した。
私が思っているのは、春凪さんと信濃川さんの二人に負けたと思っていたんだけど……もしかして違うのかな?
「春凪さんと信濃川さんに負けたんじゃ――」
「嘘、まさか……」
「そのまさか、私は英人一人に負けた」
正直、私は蓮ちゃんの言葉が信じられなかった。
そして、今。
私は、信濃川さんと一緒に居る。
これはチャンス。
今聞いてしまえばスッキリする。
けれども、私にそんな勇気はなく。
いつの間にか学校に着き、校舎の中に入っていた。
勇気が出ない自分を恨んだが、仕方ない。
この際、諦めて自分の目で確かめよう。
そうだ、そっちの方がずっといい!
そんな事を考えていたら、前を歩いていた信濃川さんが止まって、私はぶつかってしまう。
「ど、どうしたんですか?信濃川さん」
「……これ見て」
信濃川さんが指を指す先は、D組の教室の中。
そこには――
「スゴロク……?」
「ザッツライト!よく分かったね佐藤さん」
床にスゴロクのマスのようなものがある、異様な空間でした。
マスは大きくて人が二、三人入っても大丈夫そうです。
私が困惑してる中、他のD組の生徒も登校してきたらしく教室の前で私や信濃川さんのように立ち止まります。
みなさんも私と同じように、困惑してる人が大半な様子。
「今日は一日スゴロクやるよ!覚悟してね♪」
理事長先生の言葉に、我慢が効かなくなった信濃川さんが大きく息を吸い込んで叫びました。
「普通に授業してくれよーー‼‼」
……私たちの学校生活は、不思議なことや可笑しいことに満ちています。
これから、どうなるのでしょうか?
次回もお楽しみに!
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