「お嬢様、ご無事ですか!?」
「な、なによあれ!?あれがそうなの!?」
「そうです!あれがジュエルシードによって変化した魔法生物です。何を媒介にしたのかわかりませんが……気をつけて!」
警告のために急いで部屋に入った執事の鮫島と合流する。危険を感知したのか、アリサとすずかのデバイスはオートでプロテクションを発動しており、ソレに包まれた全員もケガはない。怪物は襲いかかったエモノが無事であったのを見て警戒心を顕にして唸り声を上げている。
全員の肩がすくむ。いや、一人だけ冷静に回りをキョロキョロと見回しているのがいた。
「院長さん!何か長い棒みたいなのありますか!」
「えっと、そこにモップがあるけど」
「あれ、借ります!」
「ちょっと、何をする気なの!?」
プロテクションから飛び出して走る高町なのはを、横合いから怪物の触手が刺すように襲いかかる。しかしそれを軽くスウェーしながらかわしつつ、怪物との間に挟まる机をカバー材に前に戻す反動をそのままに前転。目標であったモップまでたどり着いた。そのまま手にとったモップを取り外して柄だけ残して長刀サイズにし、再び飛んできた触手に対し反撃する。この時ユーノは驚いた。
それは高町なのはという小さな少女が両手で棒を目にも留まらぬ速度で逆袈裟に振り上げ、プロテクションでもやぶられかねないそれを何の苦もなく弾き飛ばしたからだ。
高町なのはが修練している剣術の御神流、詳しくは永全不動八門一派・御神真刀流・小太刀二刀術は驚異的な加速と特殊な動作によりスピードによる破壊を得意とする剣術である。体力づくりに2年かけ、家族のスパルタ訓練によって、いかな未熟ななのはといえど基本技である「斬」と他いくつかの技くらいは習得している。引きつけるように切り、乗じて鋭さを増すこの剣技は極めれば鋼鉄すらも切り飛ばす。シンプルにして最強。故に彼女が振りきった棒ですら武器となる。
加えて、なのはは全身に魔力による単純なフィジカルブースト(身体強化)をかけているのでその勢いと行動力は圧倒的に増す。元々高町なのはが運動音痴であったのはココに原因があった。無駄に保持した魔力を発散できなかった彼女は、溜まりに溜まった魔力が動作のたびに吹きだし、身体バランスをおかしくしてこけたりしていたのだ。魔法を始めてから魔力操作を覚えた彼女はすでにそれをカバーし、運動音痴であった彼女はもういない。おそらくはもう2、3本同時に飛んできても余裕で跳ね返せるだろう。今ここにいるのは少女の高町なのはではなく、剣士の高町なのはなのだ。
怪物の警戒心は更に高まる。アレをどうやって潰せばいいのか、思考を巡らせる。しかしなのははそんなことはお構いなしとばかりに速攻を仕掛けた。
「っせぇぇいいい!」
近づいて、肩口から再び振りぬいた棒は怪物の頭蓋を直撃する。悲鳴を上げながらふらつくも、彼女の攻撃はまだ終わらない。返す刀でぐるりとカラダを回転させ、棒を一気に怪物に向けて突いた。その勢いは凄まじく、怪物は開けた穴を轟音を上げながら再び通って外に飛び出していた。デバイスを特に使っていないのにコレだ。ユーノは唖然として口を大きく開いたままだった。
「んー、やっぱりこんなんじゃその場凌ぎにしかならないや。どうしよう」
しかしそれに耐え切れなかったのか、スチールで出来た棒はぐんにゃりと曲がっている。なのはの身体能力についていくことは出来なかった。
「あれは攻撃魔法でないと確かなダメージを与えることができません!それに封印もしないといけませんし!何か手段はないんですか!?」
「あー、ダメよユーノ。私達のデバイスには攻撃魔法は入ってないわ」
「どうして!?」
「言ったでしょ。防犯用よ、自身を守るための機能しか持ってないわ」
彼女たちが持っている防犯デバイスは精々がプロテクションとバリアジャケット生成、短距離転移しかはいっていない。加えてストレージも新たな魔法の書き込みを防ぐために容量の削減を行なっているため、単一個人で行える攻撃魔法行使はほぼ不可能。特注である彼女たちのデバイスにはオートシューターもついているが、自身と対象の距離が恐ろしく近くないと発動しない。加えてただのシューターでは威力不足だ。取る選択肢としては正しくない。
「だったらこれを、あなたなら使えるかもしれません!」
「…………これは!?」
「インテリジェントデバイスです!詠唱によるマスター登録が必要となりますが、攻撃力の高い魔法が使えるはずです!」
「ちょ、ちょっと!詠唱が必要ってそんな時間かけてられる暇なんて無いよ!?」
これだけ人数がいるのだ。守りながら戦うには少し厳しい。
「なら、私が時間を稼ぎましょう」
「ちょ、鮫島!?そんな事言って大丈夫なの!?」
「お任せ下さいお嬢様。この鮫島、こんなこともあろうかとコレを用意してきております」
手に取り出したのは拳銃のガバメントモデルを彷彿とさせる形状の魔力拳銃だった。それのカラーは実銃と間違えられないように白色に塗られている。非破壊非殺傷設定のみのこの拳銃なら、一定の資格者ならば所持することが可能なのだ。弾数は7発ほどしか入らないが、圧縮された魔法弾は実に痛い。リンカーコアが無い人間ならば抵抗値が小さいので死ぬことはなくても気絶するくらいは余裕だ。
「一体あんた何を想定してたのよ!?まぁ役に立つからいいけど、大丈夫なのね!?」
「勿論ですお嬢様、全身全霊をかけて生き残って見せますとも!」
「わかったわ、必ずよ!お願い!」
「アイマム!」
豹のような勢いで颯爽と飛び出していく執事。バニングス家の万能執事。果たして彼は執事の枠中に入るのだろうか。わずかに間をおいて瓦礫が飛び散るような戦闘音が聞こえ出した。きっちりと彼は囮を果たしている。
「なのはちゃん、今のうちに!」
「わかってる!」
「管理権限、新規使用者設定機能、フルオープン!繰り返して、風は空に、星は天に」
「風は空に、星は天に」
『不屈の心はこの胸に、この手に魔法を!』
「レイジングハート!セーットアップ!」
桃色の光があふれ出す。コレは後に伝説を作り上げる高町なのはの第一歩。
「うひゃぁ!?」
「きゃぁー!まぶしい!」
「ちょっとぉ!部屋の中で何やってんのよぉー!」
ペッカーと単色の光あふれる物々しいピンク。狭い場所で契約したら当然こうなる、眩しい。
ガバメントから撃ち出された魔弾が空気を裂いて飛んでいく。カートリッジには雷管も無く、実弾もなく、トリガーを引いた後の反動が来ない魔力拳銃はまさしくオモチャと呼ぶにふさわしい。白く光沢が塗り施されたカラーリングが銃本来の凶悪で無骨なイメージを薄め、また完全な殺傷性能の排除が出来ている。しかし撃ちだした後のスライドが前後に動き、カシュッと音を立てて魔力カートリッジを排出する様は従来の拳銃そのままだ。
撃ちだした魔弾は怪物の目らしき部分に当たり身悶える。軟体生物のような姿をしていて、明確な急所が無さそうなこの敵には実にわかりやすい狙い目だった。カシュ、とスライドする音が響き、2発目、3発目も同様に目に飛んでいく。例え殺傷性能がなくても、このサイレンサー無しで実現した静音性は素晴らしい。これだけ撃ってるのに近所の住民は出てこないのだから。
実はユーノが結界を作っておいたからだが。でなければ轟音が鳴った病院前には既に大勢の見学者ができてるはずだ。
そんなこととは露知らず、鮫島は的確な射撃と挑発により、見事に囮をなしていた。執事らしからぬ動きによって、知性の乏しい怪物は確実にその場に縛り付ける。その仕事はエクセレント!と叫びたくなるほどの出来栄え。
故に、高町なのはの契約は無事完了する。
あふれだすビビッドピンクの、目にどぎつい閃光が室内から漏れる。自身の主がきちんと目を閉じているか不安だが、とりあえずの任は果たすことが出来た。
その光の中から高町なのはが、柄の短い杖を持って飛び出す。さぁ、選手は交代だ。これからは牽制ではなく、蹂躙である。
上半身は肌に張り付くようにぴっしりとしまり、下半身はスカートとショートパンツが組み合わさった、重装甲でありながら動きやすいバリアジャケットを着こむ。見た目は小学校の制服そのままに、動きやすさをある程度重視したのだろう。
飛び出した勢いをそのままに、先の光景を再現する。今度は飛行魔法による加速付きだ。加えて自身の手にあるレイジングハート――能力に最適化されたそれ――を、半身に構え振りぬく。レイジングハートの先、それは魔力が収束された剣となっていた。レイジングハート自体は変形によりやや短くなっており、両手で握れる程度の長さの柄となっている。
レイジングハートソードモード
世界が一度時間を巻き戻し、変化した彼女の行動で新たに増えた高町なのはの戦闘方法だ。御神流が起因となっているが、現在のなのは自身が刀一本を扱うのが精々のためにレイジングハートの変化も一本のみ。
それを振りぬいた部分がごっそりと削れる。怪物は痛みに悶え、しかし果敢にも反撃をするが空を舞う白い天使にはかすりもしない。空と地を行き来し、繰り返すこと四度。獣のカラダは縦横に切り崩され地面に骸を晒そうとしている。
そのまま上空に遷移して地面に向く。距離をとったためか、いつの間にかレイジングハートも形状を変化させており、砲撃を行うための杖となっていた。
「いくよ!レイジングハート!」
『All right,master.seeling mode』
伸びた杖のサイドに出てきたトリガーに指を回し、先端を直線上にいる怪物に向ける。そこから飛び出すのはノータイムの砲撃魔法。
「ショート…」
『Buster!』
僅かな貯めとは反比例して高い威力を持つ砲撃で怪物を貫く。直撃したそれは逃げる間もなく、ピンク色の光に完全に埋もれた。魔力で構成されたカラダが分解されて散り散りになり、構成された事によって出来たわずかな意志が薄れていく。そうして、わずかな間で完全に怪物は消滅した。
カツン、と3個のジュエルシードが力を失って地面に落ちる。それらは封印されたことによって青い輝きを失った。それをレイジングハートが一旦格納。とりあえず一連の事件は終わりを見て、地面に降りたなのははふぅ、と安堵の息を漏らす。
「って何やってくれんのよなのははぁ!」
「あいたぁ!?」
ベッチーンっと背中に張り手を喰らい悶絶する。とはいえバリアジャケットなのだからそこまで痛みはないが、ソレを見越して思い切り振りぬくアリサもアリサだった。全く容赦がない。
「え、え!?何、何なの!?」
「全く、めちゃくちゃ眩しかったじゃない!目が痛いわ!ユーノもユーノよ!あんなに光るんだったら初めから言いなさいよ!」
「あ、あれはなのはの魔力量が多すぎたせいで、僕もああなるとは知らなかったんですよ!」
「もう名前呼びか!このぉ、振り回してやるぅ!」
「ああああぁぁぁぁあぁぁぁっ!?」
「ストップストーップ!しっぽがちぎれるよアリサちゃん、落ち着いて-!」
安全を確保したが、少女たちは混乱した様子から立ち直っていなかった。ややテンションがおかしい。ブンブンと遠心力によって伸びきったユーノはすずかに抱えられている。クルクルと目を回す姿は愛らしいが、正直今日一連の出来事は不憫と言う他無い。ここは「やったぜイェーイ」とばかりに喜ぶところではないのか。せっかく綺麗に終わらせたはずなのにと、なのははため息をこぼした。
「あ、そうだ鮫島!ケガはない?」
「このとおりですお嬢様。あいにく車の方はあの有様ですが」
「っげ、凹んでるわね。あれ保険下りるの?」
「私の病院も穴ぼこだらけになってるわねえ。どうあつかわれるのかしら」
結界を解き、周囲の状況を確認した一部は事後の相談をしていた。魔法生物による災害などという、眉唾ものの事件により潰された車と、半壊した病院。これがまだ脱走した動物なら訴える先が有るものの、果たして保険会社はキチンと対応してくれるのであろうか不安がよぎる。
「こりゃぁ、ひでえもんだな」
「なのはちゃんが戦ってくれなければ私達死んでたかも」
やや時間をおいて、佐伯刑事がやってきた。ある程度の情報を伝えていたが、その真偽に眉を曲げていたものの、アレコレ壊れた現場を見て、更にレイジングハートの記録映像も見たことにより正しく理解した。時刻はすでに遅かったが、現場を保留して全員は一旦警察署の方で話をすることにした。
「高町の野郎も呼んで話し合いだなこりゃ。魔法生物なんてトンデモ、海鳴で使える奴全員かき集めないと面倒この上ない」
落ちてきたジュエルシード、海鳴における戦いはまだはじまったばかりだった。
「そういえばユーノって人間だったのよね。動物病院につれてきてよかったのかしら」
「それ、すごい今更だと思うのアリサちゃん」
戦闘シーン()に頭からダバダバ醤油を流す。目の前が真っ黒だよばーにぃ。