「それで、ああいうことになったって事か」
夜過ぎの海鳴警察署、そこの一部屋を借りた手狭な会議所で少年少女、大人に加えて老人まであらゆる年齢をラインナップしたかのような人たちが揃っている。
佐伯刑事は眉間をもみながらうつむいた。何よりも先に呆れのほうが来てしまったらしい。それはそうだろう、謎の器物損壊に始まり、唐突な宇宙人(?)の来訪、ジュエルシード、ロストロギア、海鳴危機一髪。一連の流れを追っていた少女たちにはロマンあふれる物語性を発揮しているが、唐突に情報が押し寄せたコチラとしては二の句を継ぐことが出来ない。
それはこの場に呼び寄せられた高町士郎も同様だった。なのはの帰りがやたらと遅いと思えばいつの間にか事件に巻き込まれているのだ。御神流の手ほどきをしている以上、無闇に心配することはないとはいえ親であり、心穏やかでいられるはずがない。巻き込んだ張本人であるユーノですらも偶発的な事故みたいなものなのだ。大人だからこそ冷静であるが、恨むべき対象がドコにもないのは意外とつらいものである。
当のユーノは未だ署に残っていた人間に魔力を供給してもらい、人の姿に戻っていた。その姿は淡い光沢の髪が映える美少年といったところか。つい先程まで、小型魔力炉から自動生成される魔力を受け取るときにケーブルにつながっている姿は、なんというかフェレットのオモチャのようで滑稽だったが。
「それじゃあ坊主、もう一回確認するぞ」
「はい」
「まずは今回の件について、お前さんは管理局傘下の管理世界とやらの出身で、世界……惑星を回りながら遺跡の発掘などを行なっていた」
「そうです。主な目的は先史文明の解明とロストロギアの回収、調査になります」
ユーノはスクライア一族で、発掘責任者をこの若さで任じられている。またそのスクライア一族は管理局を母体とした一組織みたいなもので、ロストロギアの移譲先をそちらに指定していた。
「で、そのロストロギアは次元震という次元災害を引き起こす可能性がある。下手な代物だと世界一つが崩壊する、と。この世界一つってのがよくわからんな。国を指してるのか惑星そのものを指しているのか、定義が曖昧すぎる」
「うーん、次元世界は自然保護区等もあって、人の住める場所が割と限定されているんです。戦争の後遺症もありますから、人も密集しています。そんな場所で国一つなくなったら、人がいなくなるので世界が一つ、という表現でもおおよそ間違いではありません。ですが、ある意味ブラックホール的な崩壊を起こす場合もあるので惑星単位でも間違いないんです」
事実、管理局体制が出来上がるまでは国と国、星と星が入り乱れる次元世界間での混沌とした戦争が繰り広げられていた。例えクリーンで環境を汚さない魔法、といいつつも破壊設定がついた魔法の威力は尋常ではなく、約70年近い時がたった今でも植生や動物が回復していない土地が多い。そのため管理世界群の人口はそこまで多くなく、また住む場所も限定的なためコミュニティとしての範囲が非常に狭く「世界」の定義も曖昧だった。そのため「ロストロギアで世界がヤバイ!」と言ってもその幅は上から下までかなり差がある。
「無茶苦茶だなおい。で、ジュエルシードはロストロギアに該当して、全部で21個海鳴に落ちた、と。具体的な被害の規模はわかるか?」
「それは少し……そうですね、願いを叶えるという特性があるらしいんですが、具体的なことはわかりません。ただ、今回のようにジュエルシードを刺激して何かに変化や、動物に取り憑いた場合はそこまで大げさな被害が出ることはないと思います。最も、暴走した場合はその限りではないと思いますが」
「暴走する原因は?」
「魔力が集中する原因を作ったり、励起しているのに放置していたりするとまずいというのが定説です」
「つまり密閉空間に垂れたガソリンみたいなもんってことだな」
魔力に反応するといった点では、ガソリンと違いどこにあっても危ないが。
「で、何でそれを落とすようなことになったんだ」
「わかりません。突然揺れたと思ったら、ドアが空いて荷物が飛び出していったんです。それで、ジュエルシードを落としてしまった僕に責任があるから」
「わざわざ地球にやってきて探し、ケガをしていたと」
「はい……、その、ごめんなさい」
ユーノは悔しげな顔をしながらうつむいて謝った。
「あん?」
「その、現地の人にご迷惑をかけてしまって。僕さえきちんと管理できていれば、こんなことには」
ソレを聞いて佐伯刑事はハァーと大げさにため息をつく。
「いいか、坊主。お前は仕事をして、その過程で事故にあった。これ自体には責任は存在しねぇ。管理責任の甘さがどうのっていうのを問うのは坊主にじゃねえ。その、管理局とかいうやつらだ」
「……どういうことですか?」
言っている意味がわからないとばかりに首を傾げた。
「コレも確認しておこう。まず一つ目、管理局はロストロギアを危険視し、それらを回収する義務を持っている。そうだな?」
「そ、そうです」
「そのうえで、坊主は護送依頼を出している。当然だな、危険視しているほどのものだったら対処能力のある自分たちでどうにかするのが筋だ。ところがその護送依頼をしたにもかかわらず管理局とやらは数日経っても来なかった」
「はい、それで滞在期間が過ぎてしまって」
「自分で運ぶ羽目になったと。まぁこれもどうしようもないことだ。そしてこれは、その義務を管理局は放棄したと判断できる。民間の保護、危険物の管理、全てだ。だったら誰が悪いか、という話になったら当然悪いのは管理局だろ」
それは責任転嫁ではないのだろうか、とユーノは慌てて否定を入れる。
「そ、それは管理局が人材不足だから手を回せなかっただけじゃ」
「そんなのは理由にならん。魔導師っていうのがRPGでいういわゆる魔法使い的な職業が成立しているのはわかる。だが、リンカーコアが無いとまともに働けねえってのが論外だ。坊主の供述によると、そこは三権を持った警察みたいなとこって話だな。しかし、やってることは軍みたいなものだ。軍だっつんなら兵隊は全員標準以上に使えるようにしねえと話になんねえ。才能いかんでステータスがきまっちまうような不安定な兵士はいらねえんだよ。だから地球ではこうして魔力拳銃みたいなのだって作られてるし、管理局とやらを擁護する理由にはならん」
足りないならソレ以外から何かを持ってくる。これは地球に住む人なら何気なく実行していることだ。とどのつまり、彼が言いたいことは「兵士の量産性」についてだ。そこが何かを為すための組織だというのなら、すべての人員が一定以上の技量、つまり汎用性がなければならない。能力に差があれば運用にも育成にも手間が掛かるし、何より一個人ごとを見ていられる時間はない。管理局もおそらくはそれを実行しているのだろうが、そこに遺伝的、もしくは体質的な魔力という要素が入る。リンカーコアは定義づけられた魔力容量のランクで差が放物曲線並にひどい。DやCならまだそこまでではないが、Bから、特にA+以上になってくると覆せない差が産まれる。そんな不確定要素を集団に入れられるか。答えはノー。
しかし管理局が求める人材はこういった魔力が高いワンマンアーミーだ。人材不足がどうのこうの言ってるのは結局自分たちのワガママであり、自業自得だ。そんな組織に期待するほうが馬鹿げていると言っていい。ならば外部魔力機器を開発したほうがより有意義というものだ。
「…………」
「坊主の立場はわからんでもない。その若年で発掘責任者なんていう重役についてんだ。何かあったら首をきらにゃあいかん立場にあるんだから、そりゃ責任重大だろうよ。だがな、おめえさんは抱えなくてもいい部分まで抱えちまってる。そのロストロギアとやらが海鳴に入った以上、それに対処するのは俺達の仕事だ。自分の街の安全は自分たちの手で守る。常識だぜ」
次元世界は魔力さえアレば社会に貢献できる。そういった風潮もあり、魔法に主体を置いた講義により頭脳面では大きく地球と差がついている。つまり、一定レベルまで来ると独り立ちできるのだ。これは管理局の英雄を期待する性質のせいもある。次元世界の人間は総じて早熟だ。若すぎて背負いきれない社会的責任のプレッシャーがある。頭脳面ではそれでいいとしても、精神的に未熟な人間は多いのだ。だからこそユーノも自分の責任として個人で回収をしようとしたのだろう。
「それに、まだジュエルシードを落とした原因が、事故なのか事件なのかわかってねえ」
断定は出来ない、と佐伯刑事はつぶやく。
「え?」
「そのロストロギアってのは使い方によっちゃぁ相当力になるもんなんだろ?だったら発掘してる噂を聞きつけて襲ってきた、なんていう奴がいたっておかしくはない。罪を問うんだったらそいつらが出てきた後でもかまわねえだろ」
管理局がいないと知られれば、なおさら手を出さない人間がいないわけがない。強奪は十分に考えられる話だ。
「と、いうわけだ。俺達が自衛の意味でも手を出す理由はいくらでもあるし、なんでもてめぇがやる必要はねえ。俺達が協力する」
「……ありがとう、ございます」
「良かったねユーノ君。それに私も手伝うよ!」
「うん、……なのはも……ありがとうっ」
ユーノは涙をこぼした。自分の責任をこうしてカバーしてくれる人がいることに。それも見も知らぬ異世界人をだ。一人孤独で、責任に駆られるユーノの精神はもういっぱいいっぱいだったのだ。だからこそ嬉しくて、涙が止まらない。隣にいたなのはが優しく背中を撫でていた。
「それはそれでいいとして、どうやって探すのよそれ」
ある程度場が落ち着いたと見て、アリサは話を切り出した。ジュエルシードは粒状の宝石だ。そんなものを市内から見つけ出す。そんな手間隙をかけるのは砂漠から何かを探すにも等しいとでも考えたのだろう。
「……魔力反応があればいいんですけど、ジュエルシードが発動しないとわからないんです」
涙を止めたユーノは解決案、というよりもどのみち行き当たりばったりになると話した。発動する前に止めることができればやんごとないと言えるのだが、どうも21個全てにおいて世界の危機だ!と言わなければならないようである。
「後手後手になるってか。……ああ、そういや身体測定とかに使うアレあったろ。あれ持って来い」
「ああ、あれですか。了解っす」
佐伯は近くにいた巡査に、あるものを持ってくるよう指示した。巡査はそれで通じるのかさっさと行動に移る。
「あれ?」
「魔力容量を検査する機械だ。嬢ちゃんたちも使った覚えあるだろ。あれの小型のやつがうちにはいくつか転がってる」
「何でそんなものが?」
「海鳴は魔導都市だからな。魔導犯罪がいずれ起こる可能性を見越して署にも色々な資材や設備があるんだ。ある程度の幅のある権限もあるし、結構特殊なんだよこの街は」
「私達の会社が幅を利かせてるからしょうがないとはいえ、犯罪が起こると言い切られるとやるせないね」
「お茶の間を騒がす面倒な話になりそうだわ」
年がたつにつれて増える可能性のある魔導犯罪に、テレビ局あたりが「魔法の危険性」と銘打ってさんざん批判してきそうなイメージが浮かぶ。釣られて声高に魔法反対と叫ぶ民衆、出てこられたら非常にめんどくさい。事前準備はばっちりとしておくべきだろう。
「持ってきたっすよ」
「おう、おつかれ新人」
「もう3年になるのに未だに新人なんすか……恥ずかしいのできちんと名前で呼んでくださいよ」
「名前を略したらそうなるんだから仕方ねぇだろ。いいじゃねえかわかりやすくて」
「そんなわけないっす!?」
気の合う仲なのか、漫才を交わしながらキャリーで持ってきた機材を机においていく。その形は前面に小さなパラボラアンテナが計測器だ。
「全部で4台か、あまり多くねえな。高町嬢が言ってた封印魔法が使えそうな魔導師は何人だ」
「自分含めて3人ですね。ちょっと心もとないです」
「なのはとユーノも含めて5人ね。学校行ってる間はどうしようもないけど」
「ま、それでちょうどいい数だな。高町嬢は放課後手伝いたいなら来るといい。で、さっきから黙ってるが高町、お前はなんか意見あるか?」
黙して語らず、といった士郎に不思議がって佐伯は声をかけた。年長者の意見も期待していたのかもしれない。しかし、魔法事となってくると士郎が関われる範囲は非常に狭くなる。魔法生物とかしたジュエルシードを叩きのめすことが出来たとしても、彼に封印は出来ない。何より翠屋のマスターでもある彼が動けるわけがないと初めから理解していたのか、自分の出る幕では無いだろうと話に混ざっていなかった。
「いや、なのはがやりたいなら構わない。うちの方針は自主性を重んじるからね。それで、答えは決まってると思うがどうするなのは?」
「勿論やります!」
「と、いうことだ」
片目でウィンクしたイケメンスタイルで「どうだうちの娘は」と自慢している。親ばかはどうでもいいと佐伯は華麗にスルー。
「わかった。前にも言ったが、探すときは空飛んでも構わねえが私有地とかには入るんじゃねえぞ?」
「はーい、了解です」
なのはは小さい頃からあっちこっち空を飛んでいた。もとより空飛ぶ個人など、どうやって航空法で縛れというのか。今ではそこそこ飛行魔法が使える人材が出つつあるが、勝手にヒュンヒュン飛んでるのはなのはだけであり、その一人だけに法を作るのもなんだといった状態である。例えるならバイクや車に乗れるがヘルメットやシートベルトをしなくても良かった時代みたいなものだ。魔法も未だ黎明期なのである。法律も出来ればそのうち制限がかかるだろう。魔法少女的知識がベースとなっている日本は結構寛容だった。となると、あとは常識的観念にまかせるしかないので注意にとどまる程度となるだけだった。
「よし。それじゃ新人。俺達は捜査本部をここに立てて手が空いてる奴集めろ。それからありったけの魔導装備かきあつめとけ」
「了解。メインは魔力拳銃と、……魔導砲も持ちだしていいっすか?」
「非破壊非殺傷なら構わん。下手すりゃ手が足りなくなるだろうからな」
「わかりました。準備しときます」
話も一段落して、ユーノは気になっていたことを質問した。
「あの、ところで気になったんですけど。地球には魔導師がいないんですよね?」
「ん、ああ。俗称でリンカーコア持ちを魔法使いだの呼ぶ時はあるがな。高町嬢は魔法少女リリカルなのはって呼ばれてるっけか」
「誰が呼び始めたんだろうアレ……おとなになったら恥ずかしい気がする」
「なのはがテレビでわかりやすいようになんか呪文唱えて下さいとか言われたせいじゃない?」
「ま、間違いなく黒歴史……!」
主に小さい少女に恋してしまう某掲示板の人たちだろう。なのはの存在を知った時には二次元から飛び出した聖女とまで言われていた……らしい。加えて魔法少女的なノリを強要されて行ったソレが組み合わさって「魔法少女リリカルなのは」が爆誕したのである。事が終わって冷静に考えてみれば、実に恥ずかしい行為だったと言わざるをえなく、なのははやたらと落ち込んだ。頑張れ高町なのは、君の未来は真っ暗だ。18歳を超えたあたりから。
「話がそれてるよ皆」
「……とりあえず、職業そのものじゃねえってことだ。別にリンカーコアがなくてもエーテルサーキット(小型魔力炉)や魔力拳銃があるからな。誰もが使える汎用性あるもんにそんな名称はつかねえよ。……ま、競技化してプロ選手にでもなるような事があればそう呼ばれるかもしれんがな」
「便利なんですね。僕は防御魔法ばかりに特性が傾いてるので、攻撃魔法が簡単に使えるのには憧れます」
「使えるっても当然許可がいるがな。ああ、そうだ高町嬢」
「なんですか?」
「そのインテリジェントデバイス、攻撃魔法入ってるなら許可とらねえと使えんぞ」
「にゃ!?そ、そういうのは刑事さんがどうにかしてくれないかなーって」
「異世界製をどうやって登録しろっつーんだ。とりあえずやっといてはやるからそれまでは動くなよ」
「うぐ……お手伝いがいきなりつまずいたの」
「気持ちは嬉しいから、無茶なことはしないでねなのは」
「うん、わかってるよユーノ君」
笑顔で頷き合う二人。なんだかすでに以心伝心といったように見える。
「なんだろう、そこはかとなく不愉快だわ」
「私もインテリジェントデバイス作りたかったのにレイジングハートに席とられちゃったからなあ。どうしようかな?」
仲が良かったのにイキナリかっさらわれた気になって目がとんがるアリサ。この年頃の少女は複雑だ。すずかもすずかでインテリジェントデバイスを作ると息巻いてただけに、レイジングハートが現れたことは割とショックが大きいらしい。彼女なら何かあたらしい発明を生み出しそうだが。
「それと、坊主はこれからしばらくは署で預かることになる。他所の知識を存分に使ってもらわなくちゃならねえ。居心地はあまりよくねえだろうが、我慢してくれや」
「それぐらいは平気です。野宿だって多かったですから」
ベッドがあるだけマシと言ったユーノは妙なところでポジティブだった。
「それじゃあ今日は解散だ。さっさと帰ってさっさと寝ちまいな。あ、ちなみにユーノ」
「はい、なんでしょう」
「変身魔法は犯罪だから以後使うんじゃねえぞ」
「なん……ですって?」
「え、そうなの?初めて知ったよ?」
「そういえば、使い方もわからないのに禁止されている魔法っていくつかあったよね」
「それってどうなの?」
ユーノの変身魔法は狭いところに入ったりと便利なのだが、覗きや縄抜けなど、ちょっとした犯罪に使えそうな、というかそれしか用途が無いよね地球では。といった感じで禁止されている。ユーノではないが、別の人間に変身して成り済ます、という事もできるので扱いが非常にデリケートなのだ。
「ご飯食べてないからお腹すいたね」
「そうね、鮫島。まだ食事は大丈夫かしら?」
「勿論ご用意させて頂きますお嬢様。すずか様も送らせて頂きます。なのは様方はどうなさいますか?」
「俺はもう少し佐伯と話をしてから帰るよ。なのはだけ送ってくれないか?」
「かしこまりました」
「お願いしまーす。それじゃユーノ君、また明日ね」
「うん、また明日。今日はありがとう」
「にゃはは、気にしないで。頑張るのはこれからだよ!」
「うん!」
「しかし、事実は小説より奇なりってか。どう思う高町」
「魔導対策を取ってるこの街に、大事件になりかねないものがやってきた。偶然にしては出来過ぎてるとは思うかな」
署内の自販機を前に二人、佐伯刑事と高町士郎の大人組が缶コーヒー片手に話しあっている。内容は勘でなんとなく来た、程度のものだが。
「そうだな。公式発表から3年、その間にこの街は大きく変わった。急進的すぎるとも言っていい。魔導二大企業に、様々な魔法を研究している大学、海鳴の警察には魔導に関してある程度の拡大された権利を行使することができる。上から許可を取らず自己の判断に委ねる部分があるんだ。ある意味放逐されてるように見えるがな。まるで、この事件を迎え入れるために街を作り替えたようにしか見えない」
「被害妄想だと思いたいね。でなければ、コレを裏で仕組んでる人間がいることになる。でも、悪いことだとは思わないよ俺は」
「何故だ?」
佐伯刑事が問い返す。それに士郎は自信ありげに答えた。
「魔導技術がこうして表に出なければ、なのはとユーノだけがジュエルシードの探索に出る可能性があったからさ。彼の言うとおり管理外の人間には魔法が秘匿されて、誰にも協力を求めることが出来ず、たまたま出会ったなのはだけがそれを出来る。物語としてはアリかもしれないが、俺は今ホッとしているよ。こうして関与できるんだからね」
「……それもそうか」
「それに多分、急進的というわけでもないと思う。現に5年前には、たまたま来ていたらしいジョニー・スリカエッティが俺のケガを治していったんだ。元からこうなることは、決まってたんだろう」
「そういやお前は魔力発見者の事を知っているんだったな」
5年前、当時なのはが4歳だった頃、唐突に病室に彼は現れた。その時恭也は随分と警戒心あらわにしていたが、スリカエッティなる人物は臨床試験だと称して士郎をさっくり治した後いつの間にか消えていたらしい。
「ああ、俺は見たことがないけど家族がね。紫の髪に金の目をした自信家みたいな顔立ちだったらしい。その時なのはは自分のドッペルゲンガーを見てデバイスをもらったとか、よくわからない事を言ってたけど」
「……なんだそりゃ。嬢ちゃんもたまには不思議な事言うんだな」
「普通、オバケや脳障害みたいな存在からデバイスを貰うなんておかしな話だけどね。かといって現実的に見ても、桃子にも俺にも隠し子なんていないし」
その言からは妻への信頼が伺える。
佐伯刑事は、少し間を開けてポツリとギャグのようなことを呟いた。
「……案外、ジョニー・スリカエッティも魔法をもたらした宇宙人だったりしてな」
「ははは、だとしたら面白いな!大スキャンダルじゃないか!」
笑われ、恥ずかしいことを言ったとばかりにコーヒーを煽る。そのコーヒーは甘いはずなのに、やけに苦い気がした。
ところでリリプラはジャンルで言ったらどういうのに該当するんでしょう……