魔導変移リリカルプラネット【更新停止】   作:共沈

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修正:マギテクス捜査本部→ジュエルシード捜査本部
この文章内での上層への連絡を取ることを決定。

海鳴大学以外の大学状況を追加。:志願倍率~以降の文章
ジュエルシードの取り扱いの判断を若干修正:忍に対する佐伯のセリフを変更


Uminari University_1

 とんだ騒ぎがあった翌朝。高町なのはの一日は軽い走り込みから始まる。朝が弱いなのはは姉、美由希に起こされ、寝ぼけたままの頭で海鳴の住宅街を走っていた。今やなのはにとってそこを周回するのは、始めた当初に比べて体力がついたため圧倒的に楽になっていた。

 

 しかし、それはなのはの主観的な話。

 

 実際走っている距離は4km、一介の小学生が軽いと言いながら走る距離にしては明らかに長い。その光景を眺める散歩に来ている人たちは「やりすぎでは?」と心配するが、このあとの素振りに模擬戦の方が実はハードなのだ。それと比較すれば、彼女にとっては十分軽いと言える。

 

 高町一家は人間最強だの、化物一家だのと揶揄される。

 

 御神流は魔法も使わない、純粋な人間本来の肉体・能力のみを用いた実力派の剣術である。要人警護などを主な仕事とし、銃弾を斬りさばいたり、高速で動きまわったりとまるで超人のような動きを可能とする。現在では廃業しているが、現役当時の高町士郎は名を馳せるほどの屈指の剣士だったそうだ。その息子である恭也も同様に強者である。

 

 そして、それは例に漏れず高町なのはにも見事に適用されている。

 

 加えて彼女は魔法という特殊な力も持っており、それらの運用も兼ねて少々御神流をアレンジして覚えている。特に先日に見せた魔力収束剣、密度を高めることによって物理的な行使も兼ねたあの魔法は高町なのはが大学における研究で編み出したメイン武器の一つである。なのは自身の特性では遠距離射撃がメインになるのだが、近づかれたらどうにもならないことを考慮して生み出されたのだ。とりあえずは距離を取るためのアクセルフィンなども備えているが、それでも、そう、それでも高町一家にかかると無意味と化す。

 

 一度、魔法のみで士郎や恭也とやりあったことがあるのだが、アレはなのはにとってトラウマになりかねない出来事だった。空に飛び上がろうとすれば飛針が頭をかすめ飛行を中断させられ、それでも飛ぼうとすれば鋼糸に絡め取られる。それを中断して砲撃を撃てば直射砲は軽々避けられ誘導弾は切り払われる。近づかれて距離を取ろうと思ったら、相手の動きが急に早くなったように見え、いつの間にか距離を潰されている。そしてバリアジャケットは徹で衝撃を貫通させられてノックダウン。

 

 まだまだ御神流弟子レベルでしかないなのはは、そのあまりの強さに戦慄した。ちょっとは自信のあった魔法も高町父兄にかかればこのとおり。化物クラスを垣間見た瞬間である。そしていずれは自分もこんなふうになって、周りを呆れさせるようになるのだろうか、と考えるとちょっとだけ落ち込む。色々チャレンジとばかりに御神流にも手を出してみたが、自分の将来像を考えるといささか不安になる少女だった。

 

 それをカバーするために料理や女の子らしい事も精一杯頑張っているのだが、それが後に、全てにおける完璧超人を形成してしまう事を高町なのははまだ知らなかった。

 

 

 帰ってきて息を整えたら、休む間もなく剣術の練習だ。まずは基本技である斬の素振り。目標はドラム缶を木刀で切ることらしい。一体この流派は何を相手に戦っているのだろうか。疑問に思いつつもそこには触れない。

 

 次は姉を相手取った模擬戦。常時魔力によるフィジカルブーストがかかっているなのはは、まだまだ未熟である美由希とある程度拮抗できている。なのはが天賦のパワー派なら、美由希は今までの努力による技術派である。美由希は最近はなのはのパワーを流すように受けており、技術的な成長が著しい。御神流の訓練のなのはの参戦は、互いに良い影響を与えているようだ。最も、なのははレンジが足りないために負け越しているのだが。

 

 それが終わればシャワーと朝食、そして小学校へと行くのがいつもの流れだ。今日からはそこにレイジングハートも加わった。高町なのはに合わせて最適化されたレイジングハートは、まだ初期段階であるために構成がほとんどまっさらである。そのため、術式をあまり必要としないソードモードや、祈祷型トリガーによって感性で組まれた封印砲はあるものの、ソレ以外をいくつも入力しなければならない。特に大学でなのはが生み出した魔法は数多く、それを夕方までにやりきっておかないと十全に力を発揮できない。故になのははマルチタスクを全力で行使し、授業態度はそこそこにレイジングハートにかかりっきりであった。ちなみに地球においてマルチタスクはマギテクスを習う上での必修項目となっており、魔法を使わない人間にもそれなりの有用性があるために覚えたい人間は覚えているといった状況だ。アリサやすずかも覚えており、この三人の頭の良さは更に拍車がかかってると言ってもいい。だから二人はこう思う。

 

(なのはのやつ、さぼってるわね)

(なのはちゃん、さぼってるね)

 

 一見普通に勉強しているように見えるなのはだが、仲良し二人には何を考えているのかバレバレだった。

 

 

 

 

 一方、ユーノは早々設立されたマギテクス捜査本部において自分が知りうる限りの事を話していた。内容は主に佐伯刑事に語った部分とかぶっているが、加えて管理世界について、管理世界の常識や社会構成、問題点に次元漂流者、異世界の魔法等話題に尽きない。小説みたいな話に皆半信半疑であったが、全員が真面目にそれを聞いており、特に気になったのは今回の件を押し付けるような形になってしまった管理局の体制についてだった。

 

 ロストロギアや魔法災害があればあちらこちらへと出張する管理局。それは管理外世界にも及んでいることに、自分たちの星で現在起こっていることへの対処はどうなるか、といった話だ。

 

 本来なら、管理外世界の人間にバラさないようにコッソリ転移で侵入し、結界を展開しつつ事態を解決していくのだが、長期に渡ると戸籍等をどうにかして取り、社会に溶けこむのだそうだ。異人がいつの間にか紛れ込んでいるという、そういった映画をよく扱っている地球にとっては今やそれが現実になった、もしくはなっていたらしいことを初めて知る。相手が善良であれなんであれ、そういった異物的な感覚は慣れるものではない。

 

 現在の地球は管理外世界においては例外で、マギテクス、もとい魔導技術を新興した特殊な世界だ。管理外世界に対して秘匿を重ねる組織がそれを知ったらどう動くか、彼らには考えもつかない。

 

 とりあえずここまで聞いて、ジュエルシードを集めることは元より、それが原因で事が大きくなる可能性を案じた警察は上層へと連絡を取ることに決定。なのはが戦闘時に記録した映像も添付しての報告となるが、ただの石ころが起こす奇跡と、宇宙人の与太話を果たしてどれほどの危険度として認識されるか、それによっては動員される規模も日数も変わってくるだろう。ボディーガードをしていた関係上、個人的に高官と付き合いのある士郎も連絡を入れてくれるらしい。それにより早く人員が整うことを願うばかりである。

 

 とはいえ、今はどうしようもないことだ。専念すべきはジュエルシードへの対策、海鳴を魔境に陥れないことである。

 

 

 

 

 

「おまたせユーノ君!ケガは大丈夫?」

「うん、問題なく動けるよ。そっちこそ疲れてないかい?」

「任せて!体力には自信があるんだよ!」

 

 昨日の話題もそこそこに昼食をとり、つつがなく午後の授業も終わらせて放課後。なのはは警察署に寄りユーノと合流した。

 

「あ、そうだ佐伯さん!大学の方に休む連絡もしたいので寄ってもいいですか?」

「構わねえ。そこはまだ捜索してない範囲だから、ついでにやっちまおう」

「ええ、了解です」

 

 佐伯刑事に合わせ、二人は車に乗り込んだ。使い古されたパトカーはやや男臭い。ユーノは特に何も思わず、なのはは入った瞬間にんぐっと鼻を詰まらせる。対照的な二人に苦笑しながら佐伯刑事は車を発進させた。

 

「そういえば、進展はどんな感じですか?」

「もう3つほど見つけたよ。魔力容量を見る機械、キャパディテクターだっけ。思った以上に便利だったよアレ」

「へぇ~」

 

 本来、魔力容量を見るための機械は管理局では大型の設備に頼る。いわゆる人間ドックみたいなものだ。次元航行艦にも似たようなものはあるが、それとて出力された魔力を検知する程度のスペックでしかない。ところがこのキャパディテクター、これは魔力の高い部分を数値化と同時に、サーモグラフィーのように色分けによる可視化、アクティブソナーのような周辺探知機能などが備わっている。何故そんなものが身体検査ように、と思うのだが、元々は何か別の運用法があったそれをそのまま流用したのだろう。底面を見るとMade in America、そして何故か誇るように開発者ジョニー・スリカエッティの名があった。

 

 ともあれ、それのおかげで捜査は初日といえど滞り無く進んでいる。最初は危険性を考え、人の密集地帯、特にデパート、レジャー施設など周辺をメインに捜索を始めた。人の思念に感応する、デバイスの祈祷型トリガーみたいなものがジュエルシードには備わっている。つまり、あまりにも人の雑念が多いと何が起こるかわからないから、ということだ。幸いにして発動したのは回収した3つのうち1つ、神社で犬が凶暴化したものだけであり、近辺にいた新人巡査とユーノの手により制圧、回収された。

 

 ちなみにこの新人巡査、名を新庄甚吾と言い、勤務3年にもなりながら、名前を省略して新人と呼ばれる不憫な方である。普段は佐伯刑事とペアを組み、魔力容量はAとそこそこ、地方から出てきてスカウトされた若手のホープだ。これからの時代の変容についていくためのスタートランナーと言える。

 

 そんな彼が獲得した1つと、ほかはプールに落ちていたものと公立の小学校に落ちていたものだ。前者はなぜか、プールで不貞を働いた変態もセットで逮捕されていたのだがどういうことなのだろうか。とりあえず現在数はなのはのも含めて合計6個、極めていい滑り出しだと言える。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで車内で子供らしい会話と魔法やユーノ自身の事など、雑談と捜索の話をごちゃ混ぜにしていたら、

 

「おら、ついたぞ。さっさと降りな」

 

の佐伯刑事の一言でようやく車が止まっていたことを悟り、なのはは顔を真赤にしていた。どうやら話に夢中になりすぎたらしい。ユーノは苦笑して頭をかいていた。

 

 

 魔導都市の中枢、国立海鳴大学。

 

 

 なのはたちの小学校とは離れた位置に存在し、元からなのか最近作ったのか、土地を生かした広大なグラウンドや設備を持った県外にもその名を轟かせる大学である。大学付属病院もあり、その近辺は学園都市のような成り立ちをしている。比較的文系に重きを置いた学校だったはずなのだが、3年前のマギテクス発表と同時に豊富な財力を生かして理系重視へと鞍替えしたようだ。現在では魔導の最先端といっても過言ではない程度には優秀な研究者と学生を揃えている。それもこれも、鞍替えした当初から攻撃魔法、バリアジャケットが使える普遍的なストレージデバイスを導入していたらしく、それが早々に体験できるとわかってか、誘蛾灯のように釣られた人々が集まってきたらしい。かなり科学的、実用的とはいえ漫画の世界が現実に降り立ったのだから。そのため定員割れも多く久しい大学連中を余所に、海鳴大学は受験者を大量に集め、その志願倍率50倍という、東大もビックリの数値を叩きだした。あまりの多さに魔力容量まで試験対象に入っていた、とはまことしやかに囁かれる噂だ。現在では基礎研究や魔導学科の開設も各校で焦るように始まり、そこそこに分散が始まっている。時代のニーズに取り残されては後は廃れるのみだ。

 

 なのはの立ち位置はそこのアドバイザー兼魔法開発員だ。発表前から先行してデバイスを持っていたこと、高い魔力容量を持っていたこと、時折空を飛んでいるのを見かけたことから大学の目に止まり、この立場に収まったのである。その後はすごいことすごいこと、特性こそあり砲撃に偏っていたものの、多くの魔法を生み出し、事実彼女は周囲に実力を認められていた。戦闘機動も大人にヒケをとらないどころか圧倒的で、もしも大学に入学するならばフリーパスでいいよともぶっちゃけられている。その場合は聖祥大学と取り合いになるだろう。最近では魔法を、もといマギテクスを利用した大会なるものを開催するための企画が動いており、ソレに関するルール制定やステータス、点数表示の魔法等の開発も行なっていた。

 

 後者を横切りグラウンドへ入ろうとすれば、

 

「あ、なのはちゃーん!防御フィールドのプログラミング出来たからデバッグしてくれないかなー!?」

「ごめんなさい蘭さん、今忙しいからまた今度ねー!」

 

調整のあてに声をかけられたり、

 

「イィヤッホゥゥゥ!高町さん付き合って下さい!」

「わかった!後でおうちに行くね!」

 

ロリコンに告白されたり、

 

「……!?本当に、本当にかい!?」

「お兄ちゃんがね!」

「まさかの死刑宣告!?」

「てめぇ俺らの神聖なるなのは様に告るとは何事だぁぁ!!ロリコンは死ねぇ!」

「ひでぶっ!」

 

それを軽くあしらえば他の人の鉄拳制裁にあったり。

 

 ああカオス。着いて間もなくあちこちから声がかかる。初めこそなのはもこのテンションに四苦八苦していたが、付き合いが長いと次第に慣れてしまっていた。今ではあっさり流せる程度には鍛えられている。ユーノは異様な雰囲気に呑まれて固まっていた。

 

「忍さ~ん、こんにちはー!」

「あら、なのはちゃん。久しぶり、何日ぶりかしら」

「にゃはは、そんなに経ってないですよぅ」

「それくらい待ちどおしかったってことよ」

 

 月村忍、月村すずかの姉であり、月村重工の重役である。現在は大学における外部研究員としての立ち位置を持っており、機械いじりの趣味がこうじて開発、設計指導などを行なっている。なのはとあわせてこの二人は海鳴二大巨塔と呼ばれており、ソフトのなのは、ハードの忍と愛称が付けられている。まるで仮面○イダーか何かのようだ。

 

 彼女は容姿とボン・キュッ・ボンな体型が非常に魅力的な女性であり、おしとやかな性格も相成って大学連中に人気が高い。だが敢えて言おう!彼女は彼氏持ちである!彼氏持ちである!恭也持ちである!その甘さと過激なラブ臭から口から砂糖を吐く人多数。彼氏持ちと知って絶望する人茶飯事。加えて彼女に関わるなら一度は見たことある恭也のバケモノじみた無双っぷり。もはや伺う隙もないパーフェクトカップルだった。誰もかかわろうとしやしない。やったら海鳴の街は地獄に変わるだろう。

 

 そんな悲歌慷慨はともかく、残念ながらなのはは伝えなければいけないことがあった。それは警察の、もといユーノの手伝いをするためにしばらく大学に来るのを止めないといけないことだった。未だ小学生であるなのははそう遅い時間まで活動することは許されておらず、限られた時間しか活動することが出来ない。だというのにまで大学に行っていてはとてもではないが時間が足りないのだ。

 

「と、いうわけなんです。それでしばらくは来れないと思います」

「そっか、そうだよね。すずかから話聞いてたけど、結構面倒な事になってるわね」

 

 おおよその内容をすずかから聞いていた忍はあっさりと承諾した。後に、その内容を聞いた時の姉の様相が「お姉ちゃん目コワッ!」と言いたくなるくらいギラギラしてたらしい事をすずかから聞いた時苦笑するしかなかった。妹がマッドなら例外なく姉もマッドなのだった。これが後にあんなことを引き起こすとは誰も……いや、余計なフラグを立てるのはやめよう。ほんとうに何かしそうで怖い。

 

「それと、君がユーノ君と、佐伯さんですね。はじめまして、お話は伺っております」

「あ、はじめまして。ユーノ・スクライアです」

「海鳴署の刑事だ。今回の事件を担当することになる」

 

 互いに挨拶を交わし、忍は佐伯からは仕事だといわんばかりの淡々とした印象を、ユーノからはかわいげのある小動物な印象を受けた。フェレットだったし大体間違ってない。

 

「ところで、そのジュエルシードでしたっけ。もしよろしければ後学のためにも研究させて欲しいのですが」

「回収が完了したらその所有権は今のところは坊主にある。検査しねえとなんとも言えんし、上がどう判断するのかもまだわからんからな。難しいだろうが、研究したいのなら上と交渉してくれ。とは言っても、相手は相当な危険物らしいからな。正直に言えば然るべき場所で管理するか、破棄、もしくは破壊してほしいところだ」

「あら、それは残念」

「管理世界にいる適切な対応が取れる研究者がいれば、僕も安心して預けることができるんですけどね。さすがにそういう人に知り合いはいないですし」

「うーん、降って湧いてくれるような事があればいいんだけどね」

 

 後のジュエルシードの扱いに噛もうとする忍。一応ロストロギアといえども、安全マージンが取れるのであれば問答無用で封印、というわけではない。そのため「1個でいいから!」「いや、そういうわけには……」「じゃぁ自分で拾ったらいいの?」「そりゃもっとダメだろ」と喧々囂々の議論が交わされる。この話し合いは結論がつかなかったが、ユーノがつかれるまで行われてしまう事となった。

 

 

 

 

「ねぇねぇ、ユーノ君」

「……ん、どうしたのなのは?」

 

 クイクイ、とユーノの袖をひっぱるなのはは視線をやや遠くに投げていた。何かあったのか、と思えばいつの間にやらキャパディテクターを抱えていじり倒しており、画面に表示された数値を眺めている。

 

「もしかして、この反応ってそうじゃない?」

「高魔力反応……、いろんな反応に紛れてわかりづらいけど、確かにジュエルシードみたいだね。えっとここから……200m先?」

「え、ちょっと待って。そっちは確か訓練してる人たちが」

 

 そう言った瞬間、ズボァッと巻き上がった粉塵と共に立ち上る光と悲鳴が聞こえた。

 

「え、えぇ~!?またこんなオチなの~!?」

 


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