魔導変移リリカルプラネット【更新停止】   作:共沈

18 / 47
11/8誤字修正、傭兵団の名前が抜けてた部分を修正。


World tree_3

「発動した!?」

 

 進んできた方向とは反対側、丁度なのはがいる方からビリビリと強い感情を伴った魔力波が肌に当たる。予想以上に強力な発動を直感で理解したユーノは、間髪入れず街を一つ覆うほどの広域結界を展開した。

 

 しかし、彼は一つミスをした。結界は自身を中心に展開する。そのため反対側のジュエルシードを覆い切るまで、相応の時間を要してしまうのだ。もちろんそれは結果論に過ぎず、別れて捜索する事自体は間違った判断ではなかった。しかし、結界が展開しきるまでに出る被害。それを考えることに、ユーノはうすら寒い感覚を覚えた。

 

 

 

 

 

「なに、これ」

 

 閃光弾ばりのまばゆさから覚め、なのはの視界は回復する。しかし、覆っていた手をのけたその目に映ったのは、いつもの光景ではない。視界いっぱいに広がる樹皮。あまりに巨大、あまりに長大。離れて見てやっとわかるスケールの木。ジュエルシードは、世界樹と呼ばれるクラスの不思議百景と化していた。重量で地面は陥没し、伸びた根はビルに穴を開けて蹂躙する。その範囲は街一つをまるまる飲み込んでおり、被害規模は様として知れない。周りを見回せば、事前の打ち合わせ通り結界が展開されている。広がり切るまでのラグで果たしてどれほど被害が生じたのだろう、今のなのはに外の事はわからなかった。

 

「どうして、こんな……」

 

 油断も、慢心もしていなかった。しかし過信はあったのかもしれない。ジュエルシードはすべからく反応するもので、近所にあれば当たり前のように見つけられるものだと。そして、あるはずのない場所にジュエルシードを見てあり得ないと思ったことで体が硬直した。その一瞬で少年は走り去った。結果がコレ。見逃した手痛い代価はなのはの心に直撃した。

 

 だが、どこにでも例外や予想外というものは存在する。危機管理において様々な予測を立てておくのは普通ではあるが、出自不明正体不明のジュエルシードに対してなら大人ですら酷と言うものだ。街中にあって誰もが見つけられなかったソレを、一体誰がなのはを責めることが出来るだろうか。

 

『大丈夫、なのは?』

「……ユーノ君?……あはは、ちょっと、きついかな」

『……ここからでも木は見えてる。すぐにつくから、待ってて』

「うん」

 

 プツリという切断の感覚を味わって、再び視線は木へと戻る。何も問わないユーノの心遣いが今はありがたい。とにかくこれをどうにかしなければ。結界に閉じ込めたために時間こそあるものの、ジュエルシードを持っていた二人の安否も気になる。それに、なのははさっさと外に出て現場を確かめたかった。もしもけが人がいるなら、自分もその救助の手伝いに参加したいのだ。こうなってしまった、せめてもの贖罪として。

 

「いやぁ、参ったっすね」

「きゃあ!?」

 

 いきなり後ろから現れた人影。普段なら気づくはずの他人の気配がちっとも感じられなくて驚く。思ったより自分は憔悴しているらしい、それを感じながらなのはは後ろに振り向いた。

 

「え、えーと。……新人さん?」

「ひどいっすねぇ、自分ちゃんと名前ありますよ?新庄甚吾っす」

「ご、ごめんなさい」

 

 名前をちゃんと覚えていなかったことにしゅんとする。今は何を言っても落ち込みそうな雰囲気だ。反して新庄は警察らしく落ち着いた穏やかな雰囲気であったが、中身のリーゼロッテは心中で怪訝な感情をあらわにしていた。

 

(いやぁ、まさかここまでとは思ってなかったにゃぁ。もしかしてジェック君こうなるって知ってたのかな?だとしたらちょーっとばかり後でお話聞かせて貰わないといけないんだけど)

 

 諸々の事情から彼の計画に賛同したギル・グレアムの使い魔である彼女たちにも、その内容は行き渡っている。そのためどういうふうにするかは聞いていたが、どうなるかまでは聞いておらず、ここまで大きな被害になるとは予想していなかったらしい。尤も、相手がロストロギアで有ることを考えればむしろ予想の範疇であり、これだけ人が密集している中で被害が出ないほうがおかしいのだ。

 

(とは言っても、殴って終わるのかなぁ?脳筋だからあまりこういうことわからないんだよねぇ。助けてアリア~!)

「その、どうしてここに?」

「……ん?」

 

 そこそこな体格の男が女性の内心で唸って遊んでいると、タイミング良く新庄がいたことが不思議だったのか訪ねてくる。

 

「ああ、そろそろ街中の捜索も切り上げたいっすからね。こまめに探してたところっす」

「そうですか……」

(本当は、初めからここで待機してろって言われたからいただけなんだけどねぇ)

 

 今回の騒動の原因は、ジェックが能力で少年少女とジュエルシードの縁を固く結びつけたことにあった。それによりジュエルシードの発動はほぼ決定事項となる。なのはが一瞬不自然なくらい呆然としたり、カラスに邪魔されたりした理由はこれにあった。このレアスキルは結果を作り出すために、過程に障害となる行為が行われる可能性があれば他の要因が邪魔をする。それは思考であったり、トラブルであったりと様々だが、ある意味このレアスキルは運命干渉に近い。元より他人との縁さえあれば時間遡行までやってのけてしまう能力だ。制御範囲が漠然としているだけあって、応用や詳細設定はかなり細かく効くようになっている。今回もその一端と言うわけだ。

 

(ここまで大げさになるとは思ってなかったけど。ジェックめ、あとでとっちめてやる)

 

 そのせいで、なのはの心にちょっとした影を落としたことを見て取ったロッテ。さすがにこのままというのは後味が悪い、とカバーを入れることにする。

 

「まぁ、大丈夫っスよ。結界は即座に広がったようだし、被害を受けたのはこの中の見た目ほどじゃない。それに、外で一緒にいた大学生とか、警察のすごい人とかが救援活動を手伝っていることだろうからね。とりあえず今は、目の前のことに集中しようか」

「……わかりました。そうします!」

 

 何らかの決意をしたのか、巨大樹を前に半身をレイジングハートを構えるなのは。その瞳には光が満ちている。

 

(……立ち直りが早い。目的を絞ることで覚悟を促した、か。とてもじゃないね、この子本当に小学生かにゃぁ?)

 

「なのはぁー!」

「ユーノ君!」

 

 そこにユーノも合流して結界内の人間は揃う。しかし、既に新庄がいたことに彼も疑問をいだき、なのはと同じ回答をもらった。

 

「近くにいたなら、すぐに結界をかけれたのでは?」

「あいにく苦手で覚えてなくって。ユーノ君の結界ってちょっと特殊じゃないっすか。自分用のコンバートがまだ間に合ってないんすよ」

「そうですか、なら仕方ないですね」

 

 不思議な事に、デバイスを持ちながらも新庄は拳一つで事をやってのける武力派だ。そのため結界や複雑な構成の魔法が苦手、という設定をしている。中身の正体を気にさせないのであれば強固なモノを張れるのだが。ではユーノから教えてもらったら?と思うかもしれないが、魔法の発動処理は個人個人で特性が違うので、相性が悪ければそのまま発動しないのだ。これはなのはも同様である。

 

「それで、ユーノ君。前のようにジュエルシードを狙えばいいのかな」

「それがわかれば、だけどね」

 

 この木のでかさでは、豆粒を探しだすのと同じレベルだ。そのうえ先と同じように魔力反応が無ければ意味が……そう思ったところでユーノは首を傾げた。

 

(そういえば、あの時は常識をなぞって話をしたけど。……魔力感知出来ないならジュエルシードの発動だって同じ事では?)

 

 さっきは確か、発動を感知したのだから自分は結界を発動したんだよな?と考える。つまり今は、

 

「ディテクターで見ると、木の中心部あたりっすね」

「ええ!?反応出てるんですか!……レイジングハート壊れてたり?」

「遺跡から発掘したものだから、案外ポンコツなのかもしれないね」

 

 自分も管理者登録できなかったくらいだし、そう思いながらユーノも新庄もレイジングハートを見やる。

 

『Please don't say rude things』

 

 失礼なと言い、続けて私、怒ってますとばかりにペカペカと明滅する。ここまで感情表現を顕に出来るデバイスを珍しいと思いながらも、ユーノは「ごめん」と謝罪を入れた。更に、今はレイジングハートも反応をキャッチできているらしい。先ほどの不思議現象はあの時限定だったということか。

 

「はは……まぁわかったなら、後は撃てばいいってことだよね!」

「ジュエルシードを持っていた子には当てないようにね」

「勿論!」

 

 気合は十分エンジン全開。リンカーコアをフルに回転させるイメージで魔力を収束させていく。

 穿つは幹の中心、ジュエルシード。魔力の高なりを声に乗せて魔法を紡ぐ。

 

「ディバインバスター!」

 

 叫びとともに桃色の閃光が疾走る。その一撃は木へとつなぐ直線を一瞬でつなぎ、相手へと強烈なダメージを叩きつける。が、しかし、

 

「……え?」

「そんな」

 

 自慢の技は幹の表面を多少削るだけに終わった。比喩的な表現をするまでもなく、とにかく硬い。魔力で編まれたそれは木ではなく、木のように見える何かということなのだろう。

 

「あっちゃぁ。やっこさん、えらく硬いっすね。しかも……」

 

 枝が蠢き……、

 

「とてもお怒りのようで!!」

「――っ!」

 

 3人めがけて数本、木製の槍が飛来する。元からあった縮尺をまるで無視するように伸びるソレは、煙が後を引く追尾ミサイルだ。とにかく、避ける。ディバインバスターとは劣るが、高速でこちらをめがけて飛ぶ精度は高く、余裕を持って避けたなのはですら冷や汗をかく。ユーノにいたっては慌てたように大きく距離を取っている。新庄は軽くステップをとるだけで、枝を横目に躱し、体を中心に回転を生み殴りかかった。フックの形で魔力を纏わせたパンチは、伸びて細くなった枝を容易く抉り、折る。どうやら枝はそこまで硬くないらしい。

 

 しかし、折らなかった枝の方、ユーノとなのはを襲ったそれらは変化を開始した。太い部分から大量に枝分かれを始め、先とは反対に空間を埋めるように鋭い針が伸びる。

 

――今度はスナイパーライフルじゃなくてショットガン!?

 

 即座になのははレイジングハートをソードモードへと変形させ、魔力刃を振り上げる。バラバラに切り刻み、空いた上空に引っ張り上げられるように上昇して再び距離をとった。ユーノも攻撃を受けないように全周をプロテクションで固めながら退避を開始する。元より反撃手段を持ち合わせていないユーノには苦しい展開だろう。

 

「これじゃぁ、ジリ貧だね」

「何か手は無いっすか?ユーノ君」

 

 問いに、ん、とユーノは思考する。その間もシュルシュルと枝が伸びてきているので、露払いはガチンコ体質の二人が引き受ける。

 

「……そうですね、ジュエルシードまで幹を削り取る。

――それか、ディバインバスターを超える威力の砲撃を撃つか、どちらかですね」

 

 どうです?とユーノは新庄に語りかける。枝をなぎ払いつつも、彼はお手上げとニコリと笑う。

 

「カンナがけはかんべんして欲しいっすね」

 

 あの枝だらけの中に突撃するのはリスクが伴う事も付け加える。

 

「じゃあ、なのはは?」

「……えっと、出来るかも」

「さっきのがマックスじゃないの!?」

 

 わずかに間をおいた回答に、何故さっきやらなかったのかと問いかける。なのはは「うっ」と言葉を詰まらせ、

 

「今までそんな長い事貯めるような事が無かったから……」

 

 と言った。その答えにユーノは空中にいるのに器用にずっこける。一端の剣士の精神を持つなのはは、全力でもどこか余裕をもたせている。つまり知らず知らずセーブしていたようだ。加えて、チャージを長く取らないのは彼女の戦闘スタイルにも関係している。近接高速戦を挑む以上、チャージにかまけて足が止まるのは愚の骨頂だ。そのため模擬戦などではチャージの時間はわずかに、手数を優先させていた。ところが、それでいてもディバインバスターが当たってしまえば相手は倒れてしまうのである。それは今までのジュエルシードも同じであり、大技の必要性を感じなかった。管理世界での魔導師のセオリーは大技を用いる場合、バインドで相手を固定させてからのコンボになる。しかし今ココにいるなのはは、バインドを見たことがないし、ユーノも見せたことがなかった。

 

「まぁ、そういう失敗もあるっすよ。子供だし、判断が甘い時があるのは仕方ない仕方ない。後悔するよりも反省して次に繋ぐっす。ほら、今からでもなんとかなるっすよ?」

「そういうこと、だね。僕と新庄さんは守りに徹するから、後は頼むよ」

「うん!今度の今度こそ、本当の全力です!」

 

 気合を入れて再びチャージに入る。それに危機感を覚えたのか、再び伸びて襲い掛かる枝の群衆。しかしそこを通す理由は二人にはない。

 

「邪魔を、するな!」

 

 自身をプロテクションで守りながらも、ユーノはチェーンバインドを展開して枝をからめ捕る。抵抗して枝も更に伸びようとするが、魔力で編まれた鎖がギチギチと軋むもちぎれることはない。

 

「ついでにそらよっと!」

 

 即席の相方は華麗な空中機動で枝を翻弄しつつ、殺人パンチをがむしゃらにふるいながら折さばいていく。彼が高速で駆け抜けた後は無残にも焦げたような跡が残る枝の断面のみ。ついでとばかりにユーノが捕縛した枝も崩していき、手があくように連携を図る。意外なことにこの二人、チームワークの相性がいいようだ。

 

 一方、なのはの方は普段の限界点を超えてチャージを続けている。足元に広がる魔法陣はその処理の量に、更に直径を拡大させていた。しかしなのは自身も驚いている。チャージの容量に、底が見えないのだ。やったことがなかったために気づかなかったが、もしこれを最大限までタメたらどうなるか。現段階でもかなり余力を残しているというのに。

 

 そして枝が伸び縮み、繰り返すこと都度3回。一撃必殺の砲となる魔法のチャージが、完了する。

 

「ユーノ君、射線上から退避っす!」

「了解!」

 

 バチリ、と跳ねるように両者が反対側に逃げる。目下の敵を二人に定めていた枝は彼らの動きに迷い、若干進行が止まった。

 

「ディバインバスター・フル、バァースト!!」

 

 その瞬間、先の直射砲以上の巨大な半径を持って閃光が突き進む。それはさながら超巨大なプレス機の様に迫る面であり、逃げ場を失った枝は接触するたびにメキメキと軋み、瞬間チリとなって消滅を開始した。更に枝を伸ばして抵抗しようとするも、そんなものは無駄とばかりに物ともせず進む。そして、巨大樹の表面に達した時、

 

 直射砲の魔力が()()()()()()した。

 

「「「…………は?」」」

 

 ドガガガガ、と連続で爆音をかき鳴らしながら、幹を猛烈な勢いでゴリゴリ削っていく砲撃。もちろん撃ったのはただの直射砲であり、何も爆弾を複数個投げ込んだわけではない。だというのになのはの魔法は性質を変化させ、一切の容赦なく木にダメージを与えた。砲撃が拡散したのち、残ったのはいくつものくぼみを残しながら、幹の中央を丸くくりぬかれた無残な姿。

 

「……収束させすぎた魔力が圧縮に耐え切れずに炸裂した?……非殺傷でも食らいたくないな、あれ」

「……人間兵器っすねもはや」

「は、はは。撃った私もビックリなの……芸術?」

『Exploded, is magic power.master』

 

 レイジングハートに無慈悲なツッコミをされて、ガックリと項垂れる。どうやら冗談ではすませられないらしく、自分の持つ妙な特性に「何なのぉこれ」と天を仰いだ。その間にも巨大樹は頂点から枯れるように崩れ去り、最後には二人の子供と封印されたジュエルシードだけが残ることとなった。

 

 

 

 

 結界が解かれた後に見た中心部の光景は、凄惨たるものだった。ビルのそこかしこに穴があき、道路は掘り返されたように盛り上がり、車は引っくり返る。最早これは、自然災害の光景と大差がなかった。しかし被害があったのはほとんどその中心部周りだけで、結界自体は間に合ったのかそれ以上の拡大は防げていた。落ち込む間もなく、早々になのはも救助活動に加わる事となった。

 

 後から聞いた話だが、この事件があった直後に自衛隊が急きょ派遣されたらしい。警察のほうではずいぶんともたついていたようだが、政府判断だけは異常に早かったことに、話を聞かされていたユーノは首をかしげていた。だがそれでも人手が多いことは良いことであり、作業はつつがなく進んだ。だが、不思議なことはまだ続く。

 

「けが人がいない!?」

 

 新庄の報告に、なのはとユーノは驚きの声を上げた。あれだけの破壊の末に、被害者0とはミラクル以外の何物でもない。いないことを喜ぶより、常識のほうが先に根を上げる。確かに、自分たちが崩壊したビルを探索した時も崩れている部分はあれど、それに当たったとか、下敷きになったという人は一切いなかった。それどころか、幸運にも目の前でがれきが崩れ間一髪で避けることができた人、枝が突っ込んできたにもかかわらず、幸運にも目の前で不自然に曲がり逸れていったのを見た人、車が引っくり返ったが、幸運にも一時停車して外に出ていた人。

 

「しかも、中心部に残っていた人物は食事に出ていたとかで、そんなに多くなかったそうっす。ビジネス街だから、休憩時に人数が減るのはわかるっすけど、これはちょっと異常っすね」

 

 一体どれほどの幸運があったのだというのだろう。まるで超常的な何かが関与したとしか思えない災害だった。

 

 思えば、今日はずっと変なことばかりだった。

 傍にいるのに全く反応しないジュエルシード。一回見まわしたはずなのに、まるでタイミングが悪かったからもう一回!とばかりに再び振り向いたなのは。そして偶然にも視界に入れたジュエルシード。少年はとんでもない速度で走りだし、間をおいたのに空を飛んでも見つからず、挙句の果てにはカラスに邪魔される。結界を使えるユーノは捜索に分断され被害が出て、なのに被害者は誰一人としていない。

 

 まったくもって、意味がわからないとしか言いようがない。

 

 そんなちょっとしたパニックに陥っているうえで、新庄はこう続けた。

 

「そういえば、こんな報告も入ってたっす。巨大樹による破壊があった頃、ビルの路地裏あたりを駆け抜けるなのはちゃんに似た少年を見たとか。なのはちゃんなら丁度結界の中だから、見間違いだと思うんすけどねえ」

「そ、それはどこで!?」

 

 情報に異様な食い付きを示すなのは。その表情には驚きと、どこか焦りのようなものも浮かんでいる。

 

「確かあっちのほう、ってあら?行っちゃったっす……」

 

 新庄が指をさした方向に、なのはは旋風のようにすっ飛んで行った。遠くを眺める新庄、それを後ろから訝しげに見つめるユーノの視線に、終ぞ彼は気づかなかった。

 

 

 

 

――あの子はどこにいるのだろう。

 過去、4歳の時に会ったあの子。まるで私が少し大きくなったような姿で現れて、デバイスを貸してくれた子。

 

――どうしてもお礼を言いたくて。

 でも気がついた時には、まるで夢だったかのようにあの子は消えていて。探してもちっとも見つからなかった。

 

――あの子との繋がりは手の中に残ったただひとつのデバイス。

 名前がわからなくて、きちんと返せた時に名前を聞こうと思って仕方なくネームレスと呼んだ。

 

――あの時会ったお医者さんは何かを知っているようで。

 でも病院で聞いたらそんな人はいないって言われた。数年後に魔法を発明したあの人と同じ名前ということを知った。正体を隠してのお忍びだったのかもしれない。だけど、私には彼に会う術も伝手もなかった。

 

――結局、私に似た私に会うことは5年経っても出来なかった。

 今頃慌てるのは何様かと思うかもしれないが、出来れば会ってお礼をしたい。ただ、それだけなのに。

 

 

 

 

 複雑に入り組んだ路地裏になのはは入っていった。そこで生命探知までかけて探したが、それらしき人はおらず何も見つからなかった。

 結果に落ち込みはしない。それは見つからなかった昔と変わらないから。むしろ、少しだけも影がつかめただけでも僥倖というものだろう。あの子は湖の街にいるのだ。

 手の中にある、一つのデバイスを見つめる。それはレイジングハートを手に入れてから使わなくなった、しかし大切な宝物。自分とよく似た子から授かった、「何も出来ない」自分の背中を押してくれたあの子との縁。

 

 「ネームレス」、その繋がりだけがあの子との間に残った僅かな希望。

 

「きっと、見つけ出してみせる」

 

 一体どんな偶然か、巨大樹が生える場にあの子はいたらしい。なのはは何故か、しかし直感的にあの子がジュエルシードの件に関わっていると感じた。自分には出せない、何かとミステリアスな雰囲気を漂わせていた子だ。それくらいはあっても、いや、そうならば再び会う運命のようで。

 

――ちょっとだけ、嬉しいかなと感じた。

 

 少しだけ深呼吸、色々な事をすっぽかしてユーノも置いてきてしまった自分に反省。どれだけかかっても見つけよう、それだけを心に彼女は踵を返すことにした。

 

「……あれ?なんで新庄さんは少年なんて言ったんだろう?」

 

 

 

 

 とある次元航路を進む一つの次元航行艦。ペンキやスプレーで塗りたくったようなパンクなデザインはあまりに奇抜で、しかし無形のそれは乗員の性格を表しているのだろう、見事なまでに無秩序である。そんなファンキーな艦に一人、全く場にそぐわないスーツを着た堅物の中年が椅子に座ったまま、苛立たしげに革靴でタップを繰り返している。それを喧しいと怒鳴る者はいない。むしろ周囲の方が騒がしすぎて、彼の立てる音はちょっと音の小さいドラムのようでしかない。むしろ苛立っているのは本人であり、しかしそれを注意しようにも臆病な性格の彼の立場は低かった。

 

 次元傭兵集団「ダークアイズ」

 

 痛々しい名前に正しく従う、次元世界の傭兵ギルドの一つ。その体は犯罪者集団と言ってもよく、活動内容の大半が違法の危険な集団だ。そんな彼らの所有する船に、何故男はいるのか?それは彼がギルドの雇い主であるからであり、依頼した捜索物を確実に自身の手に入れるためだ。

 

 それが落ちた場所は、地球。名前はジュエルシード、人の願いを叶えると噂のロストロギアだ。

 

 地球に近づくにつれ、どうやら大きな魔力反応があったらしく、彼に荒野のギャングみたいな男から話しかけられる。

 

「おぉい!どうやら見つかったみてぇだぜ!てめぇの言ったとおりなら願いを叶えるとかいうロストロギアが21個あるんだったなぁ!そいつを山分けで依頼しようなんざ気前がいいじゃねえか!ギャハハハハ!」

「あ、あぁそうだ。私は一つあればいいからな。それさえあれば他は君たちに譲るよ」

 

 多少キョドりながら中年男性は答えた。多分にビビり要素が含まれているが、それを彼らが気にすることはない。

 

「しかもあの星の人間は魔法を覚えてねえ!管理局だって早々こねえような僻地だ!殺したい放題やれるってわけだ!」

「バッカ女だろ女!攫って犯してポポイのポイだ!原始人だってオ○ホの代わりにはなるだろうよ!」

 

 ゲラゲラと平気で危険なことを抜かす集団に、彼は更に肩を縮こませる。本来なら彼はこの集団を取り締まる側なのだが、力のない非力な腕、そしてリンカーコアのない自分には難しいことだった。そもそも自分から不正なルートを用いて依頼をしたのだ。バレてしまえば自身も立派な犯罪者。同じ穴の狢というやつだ。しかし力があったからといって、恐らく彼はそれをしないだろう。何故なら彼は自身の出世にはなんでも使うような野心家なのだから。

 

「落ち着けお前ら。騒ぐのは後からでも出来るだろう。さっさとポイントを割り出せ」

 

 深く低い声が彼らの行為をたしなめる。無秩序でありながらしかし、彼らは集団でありリーダーが存在する。それを聞いた男たちは一瞬にしてモニタへと視線を戻した。一喝で彼らを従えた男、ガラナは魔導師とは思えないようなはち切れんばかりの筋肉質の男だ。魔力はそこまで高くないものの、腕っ節一本で彼らをまとめあげる実力は相当なものである。一体何故そのような男が悪党などをやっているのか、それは彼だけが知っていることだ。

 

 ガラナは依頼主を一瞥し、フンと鼻息を鳴らしながら視線を戻す。先からずっとキョドっている姿は気に食わないが、しかし依頼そのものには自身に帰ってくる利益が高いと感じてそれを受諾した。金も出て拾い物は高い能力を持つロストロギアだ。これがあればこの集団は更に敵無しになれるだろう。

 

 地球まではまだ少し時間がかかる。あと――、一週間。それが絶望を告げるまでのタイムリミットだった。

 




 在宅でのんびり仕事が出来るはずなのに二徹とか、どうなんでしょうね。おかげで忙殺されてたので週二更新はできませんでした。文章も荒っぽいかもで申し訳ない。
 にじファンでの内容はココまで。しかし改訂でゴッソリ内容変わっててほとんどタイトル以外が変化してる当SSに「移転してきました」をつけるべきだったのかは今でも謎。むしろそろそろ取っていいんじゃないかな、時間も大分経つことだし。今更あるないでどうこう言うこと無いでしょう。……というかにじファンでこの作品を目にした人はほとんどいないはず……っ!(泣
 次回はやっと待望の金髪しょ……とはいかないんだなぁこれが!(泣
内容は閑話的なものになります。「なんで木がこんな強いんじゃオラァ!出てこんかジェックゥゥゥ!」、「衝撃!ドッペルゲンガー事件!」、「ユーノ君首相と会う!」の三本です。


一家に一台CLAPTRAPが欲しい。ウザ可愛い。エェェーンドオープゥゥン!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。