魔導変移リリカルプラネット【更新停止】   作:共沈

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説明しましょう!(開き直り)


Gossip_1

「バックホームにゃう」

 

 夜半過ぎ、精神的に疲れた体を引きずって新庄甚吾、もといリーゼロッテはマンションの一室へと帰還した。使い魔としての矜持か、体力的には問題なかったもののあの後の処理や引継ぎでかなりの時間を食われた。なにせ佐伯刑事が経験経験と丸投げするので休む間も無かったのだ。玄関を閉めた頃には既に変身魔法は解いており、女性の、素体となったネコじみたしなやかな肢体をソファに投げ出す。ギル・グレアム名義で購入した3LDKには女性らしい趣味のものであふれている。ファッション雑誌に化粧品、ぬいぐるみにネコの日用品、正直新庄の部屋とするなら到底他人に見せられない部屋模様。勿論今まで正体を知っている知人以外を部屋に上げたことはない。その時は仮の住居としてわかりやすいくらいのボロアパートを利用することにしている。

 

 話を戻す。今回の件は実にハードだった。管理世界前時代の重火器あふれる血みどろの抗争を抑えることと比べれば簡単だが、子供のフォローや成長、地球の経過を見守るのはクロノを育てたとはいえ、あまり自分に合っているとは言えない。皆好き勝手に動き過ぎなのだ。月村一家は何を開発してるのかわからない魔窟を形成しているし、監視対象の高町なのはは魔法を使ってドコかに飛んでいくし(それが空撮だと知ったのは随分後のこと)、管理局のグレアム派は改革のために裏でゴソゴソしているし、その使い魔のリーゼロッテはそのあおりでかなり割を食っていた。ぶっちゃけ、闇の書の監視の方がまだ楽だったのではないかと思う。そっちはリーゼアリアが担当しているし、特に変装する理由もないので闇の書の主本人の目の前に姿を晒して呑気に過ごしているらしい。双子というのにこの格差は一体ドコで生まれたのだろうか、今度姉をとっちめてやろうと心に決める。

 

「まぁ、その筆頭はジェックなんだけどねえ」

 

 根本的な原因は高町なのはによく似た少年、ジェックがあれやこれやと裏でそそのかしたせいだ。未来知識として提示された犯罪者のブラックリストや以後闇の書がどうなるかの経緯、これから起こる事件についての対応等を協議する際、クライドはグレアム達に彼が未来から来たことを話さざるを得なかった。それだけの情報を納得させるもっともな言い訳を彼は思いつかなかったのだが、彼らを信頼していたために初めから明かすことに決めていたらしい。クライドが生きている事に始まり細かな部分で明かされた情報の差異を感じ取っているが、知っている故の面倒臭さは折り紙つき。いちいちタイムラインの確認なんてやってられるか、と匙を投げそうになる。

 

 しかしクライドが死ななかったことは、グレアムにとっての最悪を回避できたことだ。もしも死んでいたらグレアムは視野狭窄に陥り、闇の書を封印するために躍起になる。そうなれば魔力でつながった使い魔の二匹も彼の恨みの感情に引きづられて、手段を選ばなくなるだろう。それは管理局員としては義に反することだ。そしてグレアムが深い恨みを抱かないことによって、ジェックの提案を受け入れる下地も整えられたことになる。それは彼が闇の書をどうにかできるという計画があったからこそだが、何もかもが手のひらの上のようでリーゼロッテはあまり面白みを感じていない。

 

「うーん、なんかむかついてきたぁ。これは間違いなくイタ電コールにゃ」

 

 管理世界謹製の携帯を操作してジェックを呼び出す。2コールもしないうちに彼は電話に出た。

 

『もしもし、ハンサムジェックだ』

「……本気で言ってるのなら質が悪いにゃ。どっちかというと君はカワイイ系に分類されるにゃ、元が元だけに」

『いや、ごめん。で、何?』

 

 しょうもない冗談を放ちながら電話にでるジェック。他人に影響されやすいのか、最近はこういったギャグがはやりのようだ。ミステリアス、というより謎めいて怪しい感じの三流少年ではあるが、一本筋が通っていないのかコロコロと性格が変わっているように見える。尤も周りに奇人変人が多い彼のことだ。そのくらいは誤差の範囲なのだろう。

 

「うんにゃぁ、今回の事件がちょーっとばかり面倒くさくてねぇ?少しばかり文句言おうかと思ってぇ」

『ああ、その件か。まさかあんなに木が強くなるとは思わなかったよ』

「え?」

『……え?』

 

 お互いの情報に齟齬があるのか、共に疑問で返す。

 

「いやいや、ちょっと待ちにゃよ。それって実はあの木は本当は大したコトなかったって言ってるようなもんじゃない?」

『まったくもってそのとおりだけど、あれ?クライド教えてないの?』

「……ちなみに元は?」

『触手一本たりとも伸ばさず高町なのはに粉微塵にされてたけど』

「おいぃ!?どうしてこうにゃったのん!?」

 

 むしろ彼の言う、前の歴史と同じだったらどんなに楽だったかと嘆くが後の祭りだ。

 

「きっとあれね!バタフライ効果とかそういう奴!」

『いや、そういうのじゃないんだけど。今回は多分こっちのせいかな』

「……どういうことぉ?要らない苦労を背負わされた私としてはさっさと白状してもらいたい気分なんだけど?」

 

 それで溜飲が下がるかと言われれば微妙だが、とりあえず納得出来るだけの材料があればヘタに疑問を抱き続けるよりはマシだろうとリーゼロッテは回答を促す。

 

『今回このイベントは撒き餌として使ったのだけど、実際はなのはにとっても重要な出来事の一つだったんだ』

 

 巨大樹の発生、これは前回の高町なのはにとっては「ジュエルシードを集めるのは自分だけ」という覚悟を促す出来事だった。そのためジェックの記録、つまり高町なのはの記憶にこの出来事は強く刻み込まれている。元々ジェックは時間を巻き戻り、崩壊の原因となったロストロギアを破壊し、記憶通りに高町なのはの人生を辿らせ監視させるという役割の元作られた。ジュエルシードの特性によってその行動基準から逸脱できているものの、大きな出来事には逆らい辛く結果としてほぼ同等の出来事を起こすように強制される。今でこそ飄々とした性格をしているが、その本質は機械的な魔導生命体なのだ。今回の場合は利用用途があったためそのまま起こしたが、例えば次の出来事として「フェイトちゃんと初めて出会った」という記録がある。もしもこれを意図的に外すようにした場合、彼自身どのようなバグが起きてしまうかは想像もつかなかった。

 

『で、だ。この出来事は必要不可欠だったために、原因となる少年少女の縁を深く結びつけてしまってね』

 

 今回の手順はこうだ。まず該当のジュエルシードを探知と「縁がない」状態にし、索敵不可能にする。これにより魔力反応は感じられず、目視以外では確認が取れない。そして少年とジュエルシードの縁を結び必ず彼が見つけるようにする。前回の歴史の記録を仮に「運命」と例えるなら、この2点を結ぶのは簡単だった。記憶にあるとおりに行えばいいのだから。あとはお昼のタイミングで高町なのはが見つけられるように「偶然」という「必然」を縁の干渉によってつなげ、世界樹を発生させる。のだが、ここで問題が起きた。

 

『今の高町なのはだと、追いつかれる可能性がそれなりにあったからね。少年少女の縁をかなり強固に結んでしまったんだ』

 

 その結果が、ジュエルシードに呆然とするなのはの不可解な停止と、少年のダッシュ、ユーノの分離とカラスによる妨害、そして見つけづらさを加えたアレである。尤も、彼がしたのは縁結びだけであって、それまでの過程はぶっちゃけランダムで何が起こるかわからない。とにかく巨大樹が発生するようになる、という結果さえ発生するなら後は「偶然」という力技でだいたい片付いてしまう。彼の最大の能力は「絶縁」することによって世界から物を弾き飛ばすことでなく、むしろ縁結びによって生まれる運命干渉にあるのかもしれない。

 

『そんなわけで、強く願われたジュエルシードは前と違って世界樹を超強化してしまったのでした。めでたしめでたし』

「全然めでたくないわよぅ……」

『いや、めでたいでしょ。あの二人、しっかり結婚まで行き着くと思うよ?』

「って、そっち!?」

 

 ハッピーウェディング。頼めばブーケの飛ぶ先から、取ろうとしてバランスを崩したら意中の男性にしっかり支えられるところまでアフターサービスは万全です。

 

「そういうことじゃにゃくて、……いや、もういいにゃ。何もかもめんどくさい」

『こっちは何が言いたかったのかさっぱりだったんだけど。ああ、撒き餌のほうはしっかり機能してたから』

「これからもっと忙しくなると、はぁ」

 

 むしろ本番はこれから。今までは部隊を整えるまでの前哨戦だったに過ぎない。遠くのジェックと近くのリーゼロッテ、その二人がかりで監視しサポートするが、不確定要素の介入には気をつけなければならない。しかし、ジェックの運命干渉によってある程度の未来は絞れるためにその辺りは心配していない。彼女の懸念は戦闘になった場合の事のほう。攻撃力に優れた高町なのはや防御のユーノがいるとはいえ、彼女ら以外は平均クラスの管理局員にすら戦闘能力が届いていない。日和った日本人では本当の兵士が相手ともなると、きっとプレッシャーの質の違いから体がすくむ。彼らを守らねばならない懸念が、頭をよぎる。しかしやるときはやらねばならないので、リーゼロッテは面倒になって考えるのをやめた。

 

「結局、噂を流したらなのはちゃんすっ飛んでいったんだけど、彼女にとって何の意味があったの?」

『……急に話が変わるね』

「ネコは気まぐれなのだよぅ少年。男ならそれくらい流して付き合いなさい」

『やれやれ、君はもう少し猫耳メイドを見習えばいいよ』

「……?私に秋葉原に行けと?」

『いや、うん、まぁいいか。で、続きだが……よく聞けよ』

「……ええ」

 

 どこか重々しい雰囲気に、緊張が喉を伝う。ジェックとなのはの関係は知っている。生み出された者と生んだ者。ジェックにとって彼女は母とも言える存在だ。しかしそれは今存在する高町なのはではない。ならば何故彼は彼女に関わろうとするのか。なのはの反応から彼女はジェックと会ったことがあるのだろう、それもかなり昔に。そして今、噂などという回りくどい方法で自身の存在を認知させる。

 

 そこまで考えたリーゼロッテに、天啓を得る。

 

「そうにゃ!思い出補正によるフラグ立てで彼女ゲッ」

『無いから』

 

 間髪入れず否定する。もしもそうなら彼はマザコンという不名誉な称号をいただくハメになる。ソレはゴメンだろう。

 

『まじめに聞く気がないなら話さないよ?』

「ああんっ、ごめんごめん!ちゃんと聞くよぅ!」

 

 やれやれ、とため息を付いて何かを一考したのか、少し間を開けて話しだす。

 

『俺が歴史を変えるために未来から来たのは、君たちも知ってのとおりだ。元々はロストロギアを破壊するだけなんだが、彼女の願いは皆が幸せでありますように、という思いから来ている。残念ながらそこに彼女自身の幸福は勘定に入っていなくて、ちょっと不憫に思ってね。関わることにしたんだ、それがエゴだとしてもね』

 

 なのはの行動理由を話す前に2つ、言っておくべきことがあると彼は話す。

 

『まずひとつはロッテも知っている管理局改革。高町なのはの献身的な、いや病的なまでのその性格は今の管理局にとって都合のいい駒だ。そして魔力至上主義の元、一人で高い殲滅力を持つことは英雄と称えられる事とイコールとなる。それによって他を必要としない孤独な兵と化すことで、多くの仕事に振り回され相対的にケガを負うリスクは増す。前の歴史では実際死にかけるほどの大怪我を、今から2年後ぐらいに負っている。まだ幼い少女を酷使する管理局は異常だ。明らかに一人が抱えられる仕事の量を超えている』

「み、耳が痛いなぁ……」

『改革はそのためのリスクを減らすためだ。それももし、高町なのはが管理局へ行く事を望んだ時のためのね。勿論改革のメリットはそれだけじゃないけど』

「普通そこは、行かせない!くらいの気概は持つべきじゃない?」

『いくら歴史を変えるとはいえ、彼女の人生は彼女自身が決めることだよ。今の彼女なら入局は防げても、関わらないとは断言できない。いい意味でも悪い意味でも、俺のレアスキルの存在もあるからね』

 

 ジェックは未来の知識によって、障害を取り除く方針こそあるものの、なのはにとっての幸福については彼女自身が考えるものだとしている。例えば過度の干渉によって彼女の将来を決めたとして、それを束縛と捉えられてしまえば果たして幸福だといえるだろうか?前の歴史でも高町なのはは割りと散々な目にあっているが、彼女自身がそれを試練として乗り越えたことで、経験として彼女の糧になっている。

 

 それは、鳥かごの中に閉じ込めるより幸福ではないか?

 

 実際、彼女は死ぬその寸前まで絶えず笑顔で暮らしていた。自身の生き方に誇りを感じ、人々を助けることに意義を持ち、多くの感謝の念に包まれていた。【幸福だった】と感じるのは今ではなく過去の統計という思い出であり、例えその道が苦難に溢れていても最終的に決めるのは自分でしか無い。ならば、どのような道のりを歩いたとしても彼女が幸福だったかどうかを決める事はジェックには出来ない。

 

 だから与えるのは不幸の原因を潰すというキッカケだけ。それは未来知識を用いてこれから関わる人々に対する基本方針である。干渉による束縛はエゴであり、高町なのはの記憶から知っている限りの人々の人生を背負いきるには手が足りず、また重すぎる。誰かの死亡原因を取り除いたとして、その後再び同じような事態にまみえてもジェックは干渉しない。歴史を変えることで不幸になる者もいる。その責任を追うこともまた傲慢というものだ。

 

 それは神ならざる力を有してしまったジェックなりのケジメの付け方。自らの足で歩かなければ人にあらず。他人の人生は客観で定められるものではない。わずかな手を差し伸べるのもまたジェックのエゴであり、魔導生命として生まれた人でない自身の生き方だ。

 

『続けよう。二つ目は彼女自身の性格を変えること。で、それを5年前に実行し、恐らくはある程度成功した。彼女はかなり、悪い意味で前向きだったからね。そこを是正するために必要だった。恐らくはその時の思い出が深く印象に残ってるのだろうね。彼女の手元にはデバイスを預けたままだし、会って返したいとか、お礼を言いたいくらいは考えてるんじゃないかな』

「ふーん。私としてはその内容を聞きたいのだけど」

『長くなるぞ?』

「いいよー。ちゃちゃっと話ちゃいなよ」

『……わかった。ならまずは前の高町なのはについて話そうか』

 

 そう言い、彼ははるか昔を謳うように語りだす。小さな少女が紡いだ、不屈の闘志に満ちたお伽話を。その裏にはびこる、心の闇の話。




 そんなわけで、ジェックの立ち位置の説明でした。縁結びである程度運命を操作出来る事、これってある意味RPGでいえばボス級のキャラです。過度の干渉はいずれ気づいたものが反感を生むような存在。そのため基本方針は書いた通り。

 それでもなのはに関わってある程度性格も変えるほど(本質はそのまま)彼が関わるのは、またエゴであり説明は次回。

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