魔導変移リリカルプラネット【更新停止】   作:共沈

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(;´Д`)戦闘シーンェ。頑張ったけどコレが今の限界です。レベルアップまでもうしばらくお待ち下さい。主に経験値がタリナイ。

※2話前のアリシア達に対する忍の最終判断を微妙に変えました。

H25.01.10最後の管理局会話部分大修正を行いました。ご迷惑おかけします。この部分はほぼ読みなおしになりますのでご注意ください。


Leeeeeeeeeet's Partyyyyyyy!!_2

「おらぁ!」

「はっ!」

 

 森を飛び上空へと敵を追いすがり、地上から100mほどの高さをなのはとデュアリスが激突する。腕にあらん限りの力をため全力でハンドアクス型のデバイスを振り下ろすデュアリスに対し、なのははディバインセイバーでいなし、捌く。だが、相手はただ力が強いだけではなく、虚も混じり、斧だけでなく蹴りも拳も躊躇なく使うために、なのはは劣勢を強いられていた。互いに近接戦を得意としているが、男の方には長い戦いによる経験則というアドバンテージがある。元管理局員ではあるが、彼の戦い方は実に生き汚く、そして実践的だ。大半のミッド系魔導師は近接戦が出来ないのが常識である。それはそもそもデバイスが杖であり魔法に特化しているだけでなく、杖術といった技を知らないためだろう。だからデュアリスは、近接用にデバイスをカスタマイズすることで魔法の発動そのものを阻止しながら戦う。そうすれば後は彼の独壇場だった。

 

 しかし対するなのはも御神流を身につけつつある近接戦の優。常日頃から親兄弟に鍛えられているだけあって、早々簡単に落ちはしない。それは逆にデュアリスを喜ばせる結果となっただけであったが。しかしそのデュアリスも、ディバインセイバーの底力に攻めあぐねている。あれはただの魔力刃ではない。自身の魔力刃とそれがかち合った時、まるでチェーンソーのようにゴリゴリ削られていくのだ。なのはのディバインセイバーは高密度に収束させた魔力を流動させている。つまり彼女の剣は触れる者皆傷つける恐ろしい技となっている。魔法としては実にシンプルなのだが、これは「収束」という彼女のレアスキルじみた能力があってようやくできるものなのだ。そのなのはでも常時展開させるのはちょうど小太刀ほど、大体60cm以下が限界である。一般の魔導師ではおそらくナイフサイズにするのも難しいかもしれない。

 

「っち、面倒な剣をもってやがる……」

「…………」

「だが、やりがいがあるってもんだ!楽しいだろう、少女よ!」

「そんなわけ、あるはずないでしょ!」

 

 アクセルフィンに似た高速移動魔法で突っ込んでくるデュアリス。彼から逃げるように、アタッチメントにつけられた各部のスラスターが稼働して勢い良く横向きに魔力を放つ。ガコン、という音と共にカバーが開き、薬莢が排出される。肩が外れそうになる横Gを魔法と自身を回転させることで制御しながら即座に切り返し、背後に回り込んで剣を振り下ろす。が、それをわずかなステップで回避されたのを見て取るとアクセルフィンを用いて一気に距離を取った。

 

「アクセルシューター!行って!」

 

 生み出した魔力スフィアは8。前史においてはフェイトとの戦時に生み出された、ディバインシューターを既に通り越しているこの魔法は兄妹ゲンカ(模擬戦)による賜物である。奇しくも恭也が高速戦闘のスタイルをとっているために、それを抑えるために創りだしたのだ。ディバインセイバーの収束制御によりその弾数は低めだが、実戦さながらに鍛えあげられたこの魔法はその威力もさることながら、相手をからめ捕ることに特化している。加えて今はレイジングハートもその制御に手を貸しているため、より複雑で高度な命令が可能だ。

 

 生み出した半数は命令に従い、一直線にデュアリスめがめて突っ込んでいく。残り半分は慣性を無視したような軌道を取りながらジグザクに、不規則に空を翔けた。複雑な軌道の魔力弾を視界に収めながら、直線軌道をとる魔力弾をデバイスと、手に展開したプロテクションで受け流す。1発、二発、それだけで脅威度を読み取ったこの男は、あろうことか残りの魔力弾めがけて突進する。アクセルシューターの本命は視界外から来る不規則軌道の魔力弾、その内二発。ソレ以外は威力を抑えた囮だ。更に二段構え、直撃しなくとも制御された魔力弾が視線を奪い、自らが収束剣を持って切り裂く。そのはずだった。

 

「おぉぉぉおぉおおお!!!」

 

 しかし、デュアリスはその戦術を容赦なく破壊する。彼は威力の弱いものとそうでないものをアッサリ見抜く。

 威力の高い魔力弾を砲撃によって相殺し、波状に揺れるプロテクションを展開しながら、ただ愚直に突っ込む。まるで獣のような咆哮。それにはプレッシャーと感じるだけの殺気が乗り、なのはを一歩退けるには十分な気迫だった。そのまま彼女の足が止まる。

 

「……っ!」

 

 それにより、わずかに判断が遅れたなのはにデュアリスの刃が横振りに叩きつけられる。代わりにソレを受け止めたのは、反射的にレイジングハートが紡いだプロテクション。しかしそれはとっさの展開のためもろく物理的な勢いも重なり、ガラスのような甲高い音を立ててひび割れた。その間際、気を取り直したなのはは再び回避。だが完全に間に合わなかったのか、なのはの頬にわずかな切り傷が残った。

 

(……この人、強いっ)

 

 魔力が高いのではなく、ただ、上手い。管理局に魔力ランクだけでなく魔導師ランクがあるように、あの世界では総合力も共に判断される。デュアリスは戦闘面でなら間違い無く、上位に立てる逸材であった。長きにわたる獣のような戦いから、直感にも似た経験則による戦略を編み出す男。

 

 なのははそっと、熱気を帯びた頬を撫でる。彼女の中に今あるものは、殺気全開の魔法を受けたことによるわずかな恐怖。今まで大学で模擬戦をしている時も、ジュエルシードを集めている時も、家族で訓練している時ですらも感じたことのない、ただ相手を潰すためだけの殺意。それはつまり、魔法にかかっている制限を解除していることにほかならない。そしてその個人が持つにはあり余り過ぎる威力は、自分自身が一番良く知っている。相手は容赦なくソレを叩きつけてくる。安心安全とうたわれるはずの、魔法。その秩序が崩壊した先にあるものは、純然たる凶器だ。

 

「……逃げたな?」

 

 ビクリ、と肩が震える。男の睨みが心を揺さぶる。

 

「所詮、強くとも女子供か。お前は戦士ではない……そして、獣でもない。ただ力があるだけの奴が、戦場に出てくるなっ!!」

「ぐぅぅっ!?」

『master!』

 

 再びの突貫。繰り返されるプロテクション。それは自身の心を守るカラのように見えた。わずかな恐怖がジワジワと体に広がっていく。高町なのはは、才能がある。魔法がある。剣技がある。だが、それだけだ。どれだけ一介の小学生を超越した能力を持っていても。

 

 精神は同じ年の子供よりもわずかに高いだけの、普通の少女だった。

 

 魔法を用いた模擬戦ではケガをしない。家族は手加減こそしないものの、情を持って当たってくれる。だから、自らの命を掴まれそうになる感覚は初めてだった。ジュエルシードの暴走とて、今までは自身の持ち得る高度な技能がそれを感じさせなかった。故に体の動きを鈍らせる。一撃において必要な踏み込みを、出すことが出来ない。

 

「ぐっ、あぁ!バスターぁぁぁ!!」

「――ぬぅ!」

 

 闇雲に打ち込む砲撃。そこにはなんの術もない、ただ振り払うだけの子供じみた行為。仕切り直し、なのはには一拍の猶予が必要とした。

 

「――はっ、はぁ」

 

 ほんの僅かの間に、めまぐるしく入れ替わった戦い。時間にすればさほど長くないものの、生命の危機という極限に立たされた状況はひどく体力を消耗させた。

 

――変われるなら、変わりたい。

 

 そんな思いが頭によぎり、戦いの精神を揺るがす。仲間がいる、頼れるということは、自分の重荷を誰かに背負ってもらえるということだ。一人ではない、しかし他の集団にも対応しなければならないために今は一人。

 

――怖い。

 

 だが、それではダメだと、心の底から叫ぶ声がある。今日見た夢が、心に蘇る。あの夢で見た自分は、とても弱かった。弱くて、傷だらけで、だけど、一生懸命だった。全力全開、本当の勇気。きっとそれは、今の自分が持ち得ていないものだ。果たして自分は、ジュエルシード集めにどれだけ本気だったのか。ただ出来るからやっていただけだろうか。いくらユーノのためとはいえ、心にほんの僅かにでも余裕を持っていなかっただろうか。

 

 まだ戦っている友人たちを見る。あそこには、守らなければならない大切な人達がいる。自分が敗れれば、この男はジュエルシードを求めて彼女たちも襲うだろう。それは、それだけは、やられてはならない。そして何よりも、

 

――ここで怯む自分が、一番許せない。

 

「――すぅ、はぁ。…………ああああああああぁぁぁ!!!!」

「――――……ほう」

 

 深呼吸一つ、とどめた気迫を一気に吐き出す。恐怖に怯えて誰かを頼るのは、ただの他人任せだ。信頼なんかではない。ここで必要なのは、勇気、そして覚悟。レイジングハートという名のデバイスを持っているのだ。ここで怯んでしまえば名前負けしてしまう。なのはの目に再び強い意志が宿る。デバイスの赤い宝石も一際強く輝いた。

 

「あなたには、負けません」

 

 再びニヤリと、デュアリスが笑う。

 

「いいだろう。来い」

 

 

 

 

 

 再び両者は激突する。桜色と赤褐色の閃光、両者ともに近接戦闘がメインだけあり加速を味方にしたぶつかり合いは派手に魔力を散らす。なのはは自身の魔力を全面に出したゴリ押し。時折スラスターとアクセルフィンの併用による瞬間加速も用いながら。デュアリスはヒットアンドアウェイを繰り返しながら、加速に必要なだけの距離を稼ぐ。そしてすきあらば空いた片手で掴みかかろうとする。たとえバリアジャケットがあろうとも、魔力をまとったもの同士なら素手だろうと有効打になりうる。掴まれて関節技に持ち込まれれば、それこそジャケットは無意味となるだろう。そして伸びるその手を、なのはは未熟ながらも徹をまとった拳で弾き返す。衝撃により腕が後ろに伸びたデュアリスは、再び大きく距離をとった。そこへ砲撃スタイルをとるなのはがディバインバスターを間をおきつつ連射。なのはの天賦の才とも呼べる的確な偏差射撃に、デュアリスは苦悶の声を漏らしつつも角度をつけたプロテクションで受け流す。長い間、ほとんどこの拮抗状態が続いた。

 

 魔導師同士の戦いは、実力差がない場合終始魔力の削り合いとなる。特に高い魔力持ちの場合はバリアジャケットを剥がし切るまでにダメージを与え続けなければほとんど気絶もしない。手練であるデュアリスはそれを知っているがゆえに、魔力刃をメインとし魔力の消費に非常に気を使っていた。なのはは馬鹿魔力とも呼べるものでなんとか押し返しているため、技術的優位に立っている男となんとか競る事が出来ている。だが、

 

「っは、っは、っはぁ」

 

 体力に関してはまだ男のほうが上だった。魔力が残ろうとも、消耗が早いなのはではいずれこうなるであろうことが、デュアリスにはわかっていた。汗が滝のように落ち、呼吸が乱れ始めている。

 

「……よくやった、と言いたいところだが。悪いがジュエルシードについて吐いてもらわねばな」

 

 決着は付いた、と言いたいのだろう。デュアリスは少しばかり残念そうな顔を浮かべながら、無情にもなのはに向けて手を掲げた。

 

「……っぐ!バインド!?」

 

 疲労で判断が鈍っているところを、的確に動きを止められる。空戦でトラップとして仕掛けるバインドにかけるのは容易ではないが、こうして動きが止まってしまえばアッサリと捕まえられる。四肢を、特に収束剣を警戒されたのか、腕は二重に拘束されてしまった。どれだけ力をかけようともビクともしないバインドに、なのはの焦りが浮かぶ。

 

「さて、ジュエルシードはどこにある。答えてもらおうか」

「…………っく。誰が、言うと思ってるの」

 

 魔導師であるなら集めているだろうと、あたりをつけてかデュアリスが問うた。当然、なのはが答えるわけがない。

 

「……見込みはあったのだがな。ならば、死ね」

 

 首元めがけて振りおろされる斧に抵抗することも出来ず、なのはの首は真っ二つに

 

「させません!」

「っち、邪魔立てするか!!」

 

――ならなかった。ガキン、と一鳴り。刃渡りが自分の身長並にある大きな鎌の魔力刃によって、その一撃は防がれた。なのはの目の前に現れたのは、黒いマントを纏ったフェイト・テスタロッサだった。奇しくも出会い、今日友人となったばかりの少女。その彼女が、我が身を顧みずに自分を守りに来たのだ。

 

「――フェイト、ちゃん?」

 

「初めて出来た友達を、殺させはしません」

「……下の奴らはどうした」

「全員、気絶させました。あなたにもう勝ち目はありません。投降するならそうしてください」

 

 ッチ、と軽く舌打ち。目の前には油断なくバルディッシュを構えたフェイト、そして地上からは手の空いた使い魔や魔導師が間もなく飛んでくるだろう。圧倒的不利に陥るのは時間の問題だ。

 

「悪いが、捕まるわけにはいかんな」

「なっ!?」

 

 高い音と共に赤褐色の魔力が広がった。それはただの魔力爆発だが、効果はフラッシュバンじみており、フェイトは視界を奪われる。霞む目を開きなんとかデュアリスのいた場所に斬りかかるが、男は既に距離を離し転移魔法を発動させていた。

 

「ま、待ちなさい!」

 

 気づきブリッツラッシュによって超加速、男の目の前まで出てバルディッシュを大きく振りかぶるも、ほんのわずかな差で男は転移を完了させてしまった。こうなってしまってはドコに行ったか、現状では判断することが不可能だ。

 

「そうだ、なのは!」

 

 男が消えたことで、同時になのはの拘束も解けた。だがまるで自分の体を支えきれないように、フラリと揺れて落下しそうになる。

 

「だ、大丈夫!?」

「フェ、フェイトちゃん。うん、……なんとか」

 

 再び加速してなのはをキャッチしたフェイト。焦りから慌てて問いかけるがケガらしいケガをしておらず、単純に疲れから来たものだと判断できたことで安堵の表情を浮かべた。

 

「今度は、絶対に負けない。あの人にも、自分に……も」

 

 自分の大切な人を、街を、守るために。巨大樹の時に誓った決意を更に大きく、更に強く願って、なのはは腕の中で気を失うのだった。

 

 

 

 

 

「ぐぁ!?きききき、貴様、何をする!?」

 

 次元の狭間に隠れた次元航行艦内、金属のツヤが光る壁面に不規則な反射をする部分が出来上がる。ロス・ドッグがデュアリスによって、容赦なく壁にぶん投げられたのだ。彼の顔は怒気に満ちていながら無表情という、不気味な様相を見せている。

 

「やれやれ、たしか……そう、お前は魔導師があの世界にいないといったな?管理外だと。だというのに、転移先にはアレだけの魔導師がいて、かつ俺の子分たちは全滅した。この損害を、どうやって支払う気だ?」

「ししししし知るか!?そんなの貴様の責任だろう!依頼を受けた以上は出来ると見込んだからではないのか!?」

「…………フンっ!」

「グファ!?う……うぅ」

 

 うずくまるロス・ドッグは更に蹴りを加えられ悶絶する。今のデュアリスはこう思っているのだ、はめられたと。欲はどうあれ、この男は管理局員だ。その男が手柄のために嘘の情報を教えたのだと誤解されてもある意味仕方ない。デュアリスにとっては、望外だった強い相手との巡り合いに満足しているが、子分たちがいなくなったというのは想像以上に彼にとって痛手だ。傭兵としての経営や航行艦の管理を子分たちに任せていた以上、デュアリスには手の余る問題である。互いが互いに利用していたのだ。信頼関係は無くとも、相互利益を生み出す存在として。

 

「まぁいい。この損害はお前を殺すことで支払うとしよう」

「ヒ、ヒィィィ!?」

 

 なのはの時と同じように斧を振るう。今度は邪魔するものはおらず、間違いなく首と胴体が分離するだろう。そう思って振ったのだが……、

 

「――消えた?発動の兆候すら見せずに転移しただと?」

 

 なんと、亡霊か何かのようにロス・ドッグは一瞬にしてこの場からいなくなったのである。サーチをかけても次元航行艦内には自分以外の生体反応はない。さすがに悪事の巣窟に潜りこむだけあって、切り札の一つや二つは用意していたのだろう。実に不可解な現象ではあるが、消えてしまった以上どうすることも出来ない。所詮はタダのザコと割り切った。

 

「まぁいい。こうなってしまった以上、後はせいぜい戦いを楽しむとするか」

 

 美味そうな奴が大量にいることだしな。そう考える彼の手のひらには青く輝くジュエルシードがあった。

 

 

 

 

 その晩、地球の政界は各国上から下まで大荒れであった。彼らには秘匿義務を課せられた上で管理世界の存在を認知させられていたが、その実在は半信半疑であった。G5のごく一部の者たちはこっそりとジョニーの手引きによって転移したことでそれを確かめたが、さすがに議員や代表全員を連れて行くわけには行かず、そういった者達の大半はSF映画の見過ぎだ、とうとう妄想に頼らねば国力の維持もできなくなったか。とヤジを飛ばしまくったものである。

 

 ところがどっこい。今日という日はジュエルシード求めて大量に不法入国者が突然空中に現れ、製品登録為されていない上に殺傷制限も解除出来るデバイスなんぞ持っていたからもう大変。逮捕した彼らは揃って管理世界から来たと証言し、秘匿情報が外部からもたらされることでようやく信じたらしく、半信半疑だった政治家達も、渋々ながらも管理世界への対応を考える派閥に同調を始めたようだ。さすがにユーノだけでは信頼されてなかったらしく、連続でこのような事態が起こることでようやく重い腰を上げたといえる。またこの情報に関しては本日同様に転移してきたアリシア達からの証言もあり、その情報は揺るぎない確かなものとなった。

 

 彼らが問題視するのは、転移による少人数でのテロ行為だ。もしもそれを起こされてしまえば、無意味に多くの命が奪われかねない事を危惧していた。また、アリシアからの情報により管理外世界などにデータ改竄によって不法入国する例もあり、この行為は正義を標榜する管理局員も割りと普通に行うことらしいことがわかった。これもまた、頭の痛い問題である。今後はあぶり出しも必要となるだろう。その割には、何故か管理世界側に地球の情報が伝わっていないという不可解さが残ってしまっていたが。

 

 コレに際して国連は、もしもの緊急時にジョニーから渡されていた切り札、プランAを発動することを常任理事国が全会一致で承認。彼らは管理局と対峙する可能性を視野にいれているようだ。管理局が仮想敵としたことで、一時的にではあるが地球はまとまりを見せるようになった。協調をとるには全員に共通した外敵を作ればいいとは言うが、そんなことであっさりとまとまってしまうあたり人間の性というのは不思議なものである。

 

 そして国内では、戦力の必要性を大として航空自衛隊からもホワイトバード部隊が派遣されることとなった。もしデュアリスが再びジュエルシードを求めるのであれば、海鳴市は戦場になる可能性があり、両方の捜索を可及的速やかに行うこととなった。市内の学校関係は凶悪犯罪者の出現により臨時休校となっている。

 

 ちなみにアリシア達の扱いであるが、彼女たちは日本で匿うとして一時的に戸籍が与えられることとなった。コレに関しては管理局と交渉によっては彼女たちをそのまま国民として扱うこととなるが、元々管理世界にも戸籍が残っていない上に死人扱いまでされていると言う以上、彼女らの証言をうのみにするわけではないが、管理局が文句を言ってきても恐らくは問題無いと見ている。ちなみに日本国外からの誘致の声も多数出ているが、フェイトの「初めての友達」がいるから、という理由で一蹴されてしまった。多くの問題を抱えながらもマギテクスにおいて相当のアドバンテージを確保した日本はこれからネチネチと文句を言われるのだろう。

 

 

 

 

 そして、動き出したのは彼らだけではなかった。

 

 

「アルカンシェルまで搭載するって、ちょっとやりすぎじゃないの?」

「仕方ないでしょう。最高評議会からの命令では覆す事はできません」

 

 そう愚痴をこぼしたのは、次元航行艦アースラの艦長席に座るリンディ・ハラオウン提督。返答するのはその息子、執務官のクロノ・ハラオウンだ。本来この席は彼女の夫であるクライドのものであったが、昇進に従って離れることとなり副官であったリンディが繰り上げられる事となった。そのクライドは現在、近々行われる就任式のために多忙を極めている。

 

「いやぁ、にしても評議会代理とかいう……えーっと名前なんでしたっけ?」

「ヴォーク・コングマン代理だ。エイミィ」

「そう、その代理だけど。えらそうにしてちょっとカチンとくるよねぇ?」

 

 私、怒ってますとばかりに通信主任兼執務官補佐であるエイミィ・リミエッタは声をあげた。クロノの補佐官探しは結局良い人材が見つからず、頼りとなったのは馴染みの同期生である。とはいえ情報面では圧倒的な才能を見せ、現状アースラのナンバー3に収まっている。その彼女が憤慨しているのは、コングマン代理の無茶苦茶とも思える上位命令である。

 

 つい数時間前、ある管理局員の報告によってロス・ドッグ三等陸佐が緊急逮捕された。彼は先程まで第97管理外世界近郊にいたはずで、だというのにいつの間にか本局内に転移していたらしく、それを現場にいた局員が不審に思い取り調べを行った。そしてわかったその内容はデータの隠蔽やロストロギアの強奪に関与した疑いであるが、ここから驚愕の事実が伝わった。なんとロストロギアが落ちたと言われる第97管理外世界で、魔法の存在が周知されていたからである。本人は憔悴していたが、提出されたデータに間違いはなくあちこちで魔力反応が起きていたのが確認された。何故今まで誰も気づかなった!?巡回している艦は何をしていた!?等と紛糾したが、その実態もまたとんでもないものであった。

 監視対象から第97管理外世界の除外、その申請が通っておりココ数年地球を監視していたものはいなかったということらしい。理由は地球の歴史を鑑みてロストロギアなどの危険性が無く、魔法開発も行われていないため、だそうだ。また地球にいるはずの常駐局員も全員引き払っており、わずかに地球産の物品を輸入していたはずの店舗もそれを取りやめていたとのことだ。まるで一斉に波が引いたような感覚に強い違和感を覚えた最高評議会は、地球が何らかの企みを持っているのではないかと疑い海の本局に派遣命令を出す、が。

 

「残念ながら、他の艦は全部出払って対応できるのがうちにしかいないって事なのよね」

「本当ねぇ、不思議ねー?」

「……エイミィも母さ、いや艦長も棒読みが過ぎますよ」

 

 このとおり、あちこちで一斉に反応を見せたらしいロストロギアがあるとの情報が入っており、ほとんどの航行艦が出払っていた。海の格納庫は文字通りもぬけの殻である。最高評議会としては大勢で詰め寄って管理局入りか、企みがあるなら潰そうと考えていたようだが、ソレが不可能となったことによってアルカンシェルを搭載しての出撃指示が出たのだ。無茶苦茶なのはその発射権限を評議会代理が持つということだ。一体いつの間に最高評議会はこんな過激派になってしまったのだろうか。当然リンディは上申したのだが、聞かぬ存ぜぬとばかりに相手にしてもらえなかった。

 そしてその最高評議会代理がこの1時間後に乗船して同行するというのが、エイミィはお冠らしい。当然、その他のクルーも同じ思いを持っている。最高評議会とその関係者はハラオウンと対抗する派閥を作っている。権力としてはあちらの方が上なので、余計な事をしそうなこちらが目障りらしく発射権限をもぎ取られたのだ。それは判断能力が無いと言われるようで沽券に関わることである。

 

「人手が足りないからどうしても私達に行かせなければならなかったけど、好きにさせるには癪に障る。まぁ仕方ないといえば仕方ないわね」

 

 ハラオウン一派は管理局内のパワーバランスを大きく占めている。まずクライドは局としての構成を大きく変えようとしており、現状細かい事案への対応が杜撰な事や、大きな事柄でも対応が遅れがちな事を懸念しているため、権力をいくつかに分割した新たな組織体系を目指していた。管理局はトップダウン型の指示系統であるためにどうしても判断が遅いのである。それも組織が肥大化してしまった今、上に問うのも時間が掛かりがちだ。またコレに伴いリンカーコアや才能に頼らない武装やデバイスの開発を推進しており、文官や、特に人材不足に泣ける地上部隊からの支持が多い。簡素なものでも開発に成功すれば戦力が拡充できるので期待されているようだ。

 

 逆に、魔力、魔法至上主義である最高評議会一派は自分たちが腕っ節一つでのし上がってきたために、エリート思想丸出しで弱者が武器を持つのを嫌うものが多い。つまりは組織でありながら、能力を個人の才能に求める派閥と解釈できる。魔法武装がリンカーコアの有無に関わらず持てるようになってしまうと、リンカーコア持ちを集めてきた管理局の土台が揺らぐ事などが理由にある。また一極にまとめた管理局の権力分散も気に入らないようだ。この中には過激派も存在し、リンカーコアの改造手術や違法な事に手を染めているものも多い。ジェックから受け取った、いわゆるブラックリストにはそのような局内で隠れてコソコソやっている者についても記載されている。最高評議会派閥のすべてがブラックというわけではないが、該当するものは一掃する予定だ。ただし、クライドが生存することで局内の歩みが変わることにより、前史と同じ行動をとっているとは限らないので綿密な調査の上で証拠をつきつける形となるだろう。ちなみに管理局改革を企てたハラオウン一派は最高評議会の正体を知っていて放置している。ジェックの話から今回の改革の贄とするために生かしているのだ。彼らも己と管理局の正義の為に色々試行錯誤しているようだが、既に長い時間の経過の中で傲慢に、もしくは耄碌しているのかやることが軒並み人道の見地から外れた事ばかりである。部下の過激な研究なども隠蔽を行ったりとやってることはグレーどころか、やはり真っ黒だ。

 

 そして、今回同乗するコングマンはその過激派に位置しており、多くの事件解決に奮闘したものの脳筋であったがために、行政に関わリ始めるほどの階級になった段階でダメ男になった人間である。解決方法も手荒であり、執行能力にリンカーコアは絶対不可欠という考えから人体実験でもすればいいと思うような男だ。最高評議会が誰かをアースラに同乗させる段階で正直誰が乗ってくるのか焦ったものだが、彼ならやり方次第では簡単に墓穴を掘ってくれるだろう、と考えリンディはホッとした。とはいえその研究事態はやはり評議会によって隠蔽されており、本人は真面目に局員として仕事をしているように見える。ブラックリストが無ければわからなかっただろう事だ。

 

 ハラオウン一派が行う改革は、ある意味犠牲を伴うクーデターのようなものだ。他者の多くの人生を狂わす事になる。場合によっては悪とも取られる行為だろう。しかし、自分たちは未来の為に血路を開かねばならない。大きな膿出しを行い、痴態を衆目に晒すことによって管理局の是非を問うのだ。地道な改革は権力構造上大きな妨げにあうため、まとめて様々な事案を解決するにはこの方法しか無かった。リンディはこれから陥れる男にわずかな罪悪感を抱くが、それを覚悟によって握りつぶした。

 

「ふふ、まぁ。何でも好きにできると思ったら大間違いよ。私たちの大逆襲はこれからだわ」

「露骨な打ち切りフラグを立てないでください艦長!?」

 

 軽い口調で誤魔化すリンディ。そんなこんなで今日、管理局から彼らも出発することとなる。そして、最高評議会は知らない。この艦こそが管理局改革の鍵にして、彼らを貶める最大のトラップだということに。

 




というわけで前史なのはさんとの違いを出しました。様々な趣味を持ち、普通の(?)家庭の普通の少女として成長したために、前史なのはほど精神的に強くありません。原作は追い詰められている性でああなってたので正しく勇敢とは言えない性格でしたが。この回、ツメツメにしたせいで何か書き忘れがないか非常に不安である。

次回、温泉編。しばしの癒し。

補填:バリアジャケットは剛性、衝撃カットは見事なものですが、あくまでも衣服ですので関節技などは普通に効くと思ってます。あとは魔力パンチ等も魔力させあればとりあえず有効打。デュアリスの戦い方はそういったバリアジャケットの構造的欠点を付く形での攻撃で素手で掴みかかろうとする事が多い奴です。……セクハラ?

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