魔導変移リリカルプラネット【更新停止】   作:共沈

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温泉回……?

それとTIPS更新しました。今回は魔法と魔力の関係について穿っております。
またこれによりいくつかの回が部分修正、加筆を喰らう予定です。前話も管理局部分は修正していますので読み直しとなります。申し訳ないです。このSSは全体の完成度を重視しており、なんかおかしいと思ったら徹底的に修正をかけていきます。その度にご苦労をかけてしまうことになりますがご容赦ください。

恐らく次回修正点は魔法やユーノの結界魔法が他には使えなかった理由、リリプラ1話部分の細かい説明などが対象になる予定です。補足が多いのでこのへんはゆっくりやりますので報告は更新ごとに行います。

では本編どうぞ。


What is healing?

 子供たちが待ちに待ったゴールデンウィークがやってきた。海鳴市では凶悪な犯罪者が現れたせいで暗雲漂う休日の始まりとなったが、子供たちは臨時休校によって長くなった休みに単純に喜んでいる。その最中、高町、バニングス、月村、テスタロッサ四家と+ユーノとその仲間たちは、かねてより予定していた温泉へと行くことになった。実際ジュエルシード関係で狙われたこともあり出かけても大丈夫かと心配されたのだが、むしろ集団でいたほうが安全であろうということと、なのはが少し傷心気味のためにここで気分転換を図ろうということで出かける算段となった。ココしばらく、傭兵なる男の出現報告は得ておらず無闇に人を襲うことはないだろうという判断をしている。温泉も市の内縁部に存在するためジュエルシード捜索に適しており、火急の際には頼れるために警察組織も調査という名目で随行することとなった。かくして本日、海鳴温泉は予想以上の来客により大きく儲けると同時に例にない忙しさに見舞われたという。

 

 

 

 

 

 ところで本日、某掲示板にこんな内容のスレが立っていた。

 

『魔法少女に出会ったと思ったら』

 

『あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!海鳴温泉で高町なのはに出会ってラッキー!と思ってたら、その後ろに金髪少女が三人と和風美少女が一人、更にメイドが二人に神官系美人が一人、そしてなぜか犬耳尻尾のコスプレをしたグラマラスな姉ちゃんがいるのを見た。な、何を言ってるのかわからねーと思うが、俺も何を見たのかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった。あれはどう見てもオモチャじゃねえ、本物の耳と尻尾だった……幻覚とか催眠術とか、そんなチャチなもんじゃぁ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……』

『なのは様と言えゲス野郎』

『なのは様prpr』

『金髪幼女についてkwsk』

『少女だっつってんだろーがこのダラズが!』

 

『まぁ、あまりにもびっくりしたんでな。コスプレ姉ちゃんが一人の時にその耳はどうしたんですか?精巧な作りですね、って声かけたんだ』

『おっwまwwwwww』

『勇気あるなオイ、ていうかそっちか』

『 (`・ω・´)ゞ無謀な>>1に敬礼!』

 

『そしたらさ、「あん?別に付け耳じゃないさ。私は狼の使い魔だからね。耳と尻尾が生えてるのは当たり前さ」だと。胸元は丸見えだし、腹は出てるしホットパンツだし、額になぜか宝石ついてるしでスゲー姉ちゃんだった。よくわかんなかったけど似合ってて綺麗ですねっつったらスゲー尻尾揺れてた』

『つかい……ま?』

『おいおい、いくら魔法時代到来したからってそれはねーだろ』

『画像も貼らずにスレ立てとな?』

『おいマロが来たじゃねーか!証拠うpはよ!』

 

『仕方ねーな。ホイ、写メだ』

『あるのかよwwwwってすげー美人wwww』

『あぁ本物っぽいな。獣人系ケモナー大歓喜モノじゃね?…うっ、ふう』

『はぇーよバカwww』

 

『なんかえらい気前よく撮らせてくれてな。そのうえ「気になるなら耳、触ってみるかい?」って言われたので触らせてもらった』

『なん……だと?』

『>>1は死罪確定だな』

 

『あの感触はガチだった。毛並み?は髪質と全く同じだったし、偽物では再現できない柔らかい肉質だった。外れそうにもないし普通に繋がってるっぽい。「どーよ?うちのフェイトが整えてくれてるんだよ?」って自慢してた。うちも犬飼ってるけど、それとほとんど同じ感じ』

『誰よソレ?』

『大企業の子息組をのぞけば、金髪二人か神官系美人のどちらかかな?画像無いからわかんねーけど、一人はバニングスの令嬢で、和風美少女が月村の令嬢だと考えるのが妥当だろ』

『もしかして→ストーカー』

『いや、意外と有名な話だぜ?海鳴の仲良しセレブリティって言えばヘタな芸能人より有名だからな』

『魔法関連事業で注目の企業だしね。俺も就職してぇ』

『頭が良くないと無理じゃね?マギテクスって一応分類上は量子力学なんだろ?』

『ところで使い魔についてはどうなったんだ?』

 

『そういえば思い出したけど、マギテクス条約に使い魔がどうのって条文があったような』

『mjd?使い魔ってどういうもんなの?』

『一般的な魔法でいえば、動物の死骸とかコウモリから作るアレだよな?』

『ていうか、条文とかそんな細かいこと読んでる奴ニュースキャスターでもいねえよ』

 

『あまりにもセンセーショナルすぎる発表にwktkして読み漁ったんだよ。ちなみに俺はリンカーコア無かった』

『無い奴が大半じゃなかったか?俺はあったけどな!』

『UZEEEEEE』

『だから話そらすなって。要はフィクションと同じようならネクロマンサーみたいなもんなんだろ?今オレも条文読んできたけど、倫理的にどうかって書いてあるから間違いないんだろうぜ』

『瀕死でもいいらしいし、延命ととるかどうかとかで揉めてるらしいな。現状では違法扱いらしいが』

『あれ?じゃぁその使い魔の女性?はガチで動物だった存在で、魔法によって生きてて、違法な魔法使ったっ存在てこと?まずくね?』

『まぁ先駆者なのは様の知り合いなら法が施行される前から存在したとしてもおかしくないな。たとえ今違法だからって殺すって発想に至るのもどうだろうかと思うが』

『リリカル☆だからなんでもアリなんだろ☆』

『あれはさすがにやらせっぽかったけど、赤みがかった顔が可愛かったので永久保存版です。あのまま成長して欲しい』

『で、結局そのグラマラス使い魔さんはどうしてるんだ?』

 

『神官系美女に殴られて連れ去られた』

『ちょwwwおまww』

『何故ww』

 

『「耳と尻尾出してこんなところで何油売ってるんですか!隠しときなさいと言ったでしょう!」とか言われてゲンコツの後に首根っこ掴まれてドナドナ……』

『オカンすぎワロタww』

『やっぱ耳尻尾はタブーなのか』

 

『んじゃぁ俺も温泉入ってくるわ。なのは様の美肌眺めてくる』

『へ、変態だー!?』

『おまわりさんコイツです!』

『通報!通報ゥゥ!!』

 

 

 散々火種を投下し、煽るだけ煽って携帯電話を折りたたんだ。いやはや、彼らをいじるとちょっとしたことで騒ぎ出すので面白い。

 

「ま、俺女なんだけどねぇ……」

 

 特に何か言われる謂れは無いってことで。耳いじらせてもらったのも性的なものでなくて、ただの興味によるものでしかない。しかしもしあれが、使い魔が公的なものになるのだとしたら、バリアジャケット含めこれからのコミケは楽しくなるだろう。そんな期待のこもった気持ちのまま、彼女は温泉へと足を向けた。

 

 これにより使い魔の存在が徐々に認知され、近い未来に、動物愛護団体やらなにやら巻き込んで使い魔論争なるものが勃発した。これを延命措置とみて騒ぐ奴らに使い魔本人たちは「私達が生きたいと思って、合意したんだから別にいいんじゃないかい?」と返し、死者を起こすのは冒涜だと言えば「それは違います。素体を依代に私達は新生したのです。魂があるとするならば、それは今まで生きていた個体とは別の存在でしょう。しかし私達は今こうして生きて、主のために行動出来る喜びを噛み締めている」と語った。もとより主従契約は互いの合意が条件であるため、離反する事は可能である事や、そもそも使い魔を維持出来るのはごくわずかな魔導師のみである事から、徐々に彼らの機運は減退していった。

 

 

 

「へぇ、これが和室ですか」

 

 温泉宿の一室に、ユーノはいたく感動していた。畳独特の落ち着く匂いや文化や風習に基づいて作られた数々の調度品や部屋の作り。管理世界には決して無いだろうオーガニックな温かみを持つ家屋というのはそれだけで珍しいものである。出来るならばこの光景を写真にして保存しておきたいところであるが、残念なことにデバイスは持っておらず、携帯電話は画質が低い旧式のためなくなく諦めることとなった。

 

「凄いっスよね。風情があるというか、わびさびというか」

 

 どこか外国人みたいに適当に言葉を並べているのは、一緒についてきた警察官ペアの一人、新庄その人。今回はやたらと大所帯となったせいで何人かで適当に部屋が割り振られており、同室の佐伯は見回り、護衛の三本は早々に温泉へと駆け込んでいた。それでいいのだろうか護衛任務。ちなみに隣室は高町士郎、恭也、国枝の三人だ。女性側は子供組と大人組に分かれている。ちなみにこの夜に酒精に駆られた大人たちから逃げるように子供組に駆け込んだユーノが、女子の尋常でないパワーにもみくちゃにされどっちにしろ地獄だったと語る姿があったという。

 

「ええ、そのナゼか風情をよく知らない、日本人であるはずのあなたに、ぜひ聞きたいことがあるのですが、ねえ?」

「んなっ!?これは?」

 

ジャラジャラと音がして、四方から鎖の顎が伸びた。チェーンバインド、ゆーのが得意とする拘束魔法により新庄はあっけなく手足を吊るされる。

 

「さあ、キリキリ吐いてもらいましょうか。一体なにを企んでるんですか、あなた達は?」

「し、し、」

「し?」

「――仕方ないにゃあ」

 

「…………は?」

 

尋問するユーノの耳に、何故か猫っぽい女性の声が響いた。

 

 

 

 

 

「こちら一班、状況を報告しろ」

『山間部より二班、先行調査隊の報告通りよーけ反応しちょる』

「玉田ぁ、報告は正確にしろ」

『わかっちょる。大國空曹の観測じゃと、距離は1500mと1800mの二つらしい。……ところで、サツの奴らはちゃんと山間部の封鎖はできちょるんかいのぅ?』

「どういうことだ?」

『一般人がおるっちゅうことじゃ。数は一人、多分川釣りじゃろうな』

「白鳩で降りたら騒ぎになるな。さっさと行ってひっ掴んで来い」

『言われんでもやりようるよ~』

 

 会話を無線で繰り広げているのは、魔法災害危険物対策処理班として編成された、自衛隊の新設部隊だ。どこか余裕を持ちながらも、キビキビと行動する様は見ていて安心感がある。ただし捜索班の男は魔導資格を所持している新入りであり、指示を出すベテランはおおいにやきもきさせられていたのだが。

 ここ数日でなのはが用いた封印砲の解析も出来、どうにかこうにか他人が使えるレベルまで落とし込んだ。これにより魔法についてはまだまだにわかとはいえ、専門的な大人へと捜査を委ねることが出来たのである。結界についてはユーノの独自構成による部分が大きいため、未だに解析が進んでいない。流れ弾などは非常に留意せねばなるまいこととして安全をとっている。これにより、なのはは完全に予備役となった。子供ばかりに任せるのは気が引けるし、国防を司る彼らの経験値にもならないのは困るのだ。

 

 だからといってなのはが何もしないわけではない。先駆者としての知識や制御能力は多いに役立つし、先日の凶悪犯との戦闘経験もある。悔しいことに、空戦に関してはなのはのほうが空自より一歩先を行っているのだ。加えて、士郎の娘というネームバリューもある。名字が変わっても御神の名は健在であり、なのはにもある種の期待は抱かれている。それが現在のなのはの立場をおおいに引き上げていた。

 

 それにより時と場合によって、彼女はフリーランスとして行動する許可を得ることができた。

 

 勿論、自衛隊も負けてはいられない。小さな少女に負荷をかけないために、彼らも日進月歩で技術を磨いているのだ。

 

 

 

 

 さて、そんななのはの様子はと言うと……、

 

「では、これからなのはを鍛え直す会を始める」

「お、お手柔らかにお願いします……」

 

 何も考えないで走り続けろ!的な体育会系スパルタトレーニングの始まりを告げられていた。兄である恭也は妙にストイックなところがあり、やや士郎に比べて厳し目である。まあ落ち着け、と長女と二人して止める姿が非常に涙ぐましい。

 冷や汗ダラダラのなのはには天使のように見えた。

 

「なのは、別に恭也は怒っているわけじゃないぞ?」

「え、そう……なの?」

 

 思い当たるのは当然、先日の恐怖を感じた一件であり、自身を情けなく思ったあの戦闘。しかし恭也は怒っていないという。これはどういうことだろうか?

 

「恐怖を感じるというのは、生き物としてのセンサーがきちんと働いてる証拠だ。誰だってそう思うことはある。俺だってある」

「お父さん、も?」

「ああ、今の俺は家族を残して逝ってしまう事の方が、自分が死ぬとおもう事よりも何より怖い。だからこうして、翠屋のマスターをやっている。御神としては、逃げかもしれない。だけど、俺は後悔してないし、それに恥じないでいいように、家族を守れるように剣を置いている。まあ、恭也はとりあえず考えなくなるまで走って直感で答えを出せとでも思っているんだろうがな」

 

 恐怖を感じなければ攻撃を避けることも出来ない、避けるのは気合と決断だ。そう恭也も付け加える。

 

「父さん……」

「恭ちゃんは頭でっかちだしねぇ、あいた!?」

「余計な一言だ……、それは」

「ははは、そっか……」

 

 別におかしなことではなかったのだ。誰もが皆、自分の守りたいもののために戦って、勇気をふりしぼっている。そう考えれば少し楽になった。

 

「それに、辞めたければ辞めたっていい。御神流を教えているのはもともと、護身のためだったからな。たくさん人もいるからな」

「え、でも、出来る人間がやらないのはダメじゃないの?」

「よくそれは義務だっていうけど、やらずに捨てる権利だって、人は持ってるんだよ、なのは。最後に必要なのは、それを後悔しないかどうか。ただそれだけ」

 

 美由希もまた、彼女らしい正論を語る。

 

「……お姉ちゃん。……うん、そうだよね。大事なこと忘れてたかも。私は、ユーノ君のために手伝ってあげたい。だから、全力全開で頑張ります!」

「よし、なら全力で走るぞ」

「け、結局やる事は変わらないんだ。にゃはは……ところで、

 

――フェイトちゃんはそこでなにしてるの?」

 

「ん?…………見学?」

 

 ぽりぽりカリカリ、岩の上にちょこんと座りながら何故かうま○棒をかじっているフェイトがいた。バックに黄色いネズミの姿が見える気がする。

 

「もぐ、……ごくり。うん、父親との付き合いって、こういうのなんだなぁと思って」

「え、と。フェイトちゃんはお父さんはいないの?」

 

 もしかしてまずいことかな?と思いつつも、フェイトの態度に卑しい感情は見られないため普通に聞いた。するととんでもない答えが返ってきたのだ。

 

「うん。だって私、姉さんのクローンだし……?」

 

 全員が硬直した。

 

「…………えええええ!?いや、え!?父親がいないかって話からどうしてそうなるの!?ていうかクローン!?」

「取り乱しすぎだ、なのは」

 

 混乱から全く立ち直れないなのは。どうもフェイトという少女はなんの気も無しに爆弾を投下してくるような、すっ飛んだボケ資質を持っているらしい。まるでそんな事は大した問題ではないとばかりに彼女は言った。食べ終わったうま○棒の袋を細く折り、くるっと回して固結び。そのままポケットに入れる。

 

「ちなみに、どうして君が生まれたのかは聞いてもいい事なのかな?」

 

 クローンを有無にはそれ相応の理由がある。これがもしまずい理由だったら?そう考えて士郎は彼女の言を待つ。

 

「うん、母さんは事情があってあまり時の庭園からでないから、誰とも付き合いがなかったんだって。そんな時に、姉さんが妹が欲しいって約束したよね!って言ったから、色々悩んだ末にクローンという手段を取ったって」

 

 実にしょうもなかった。

 

 悩んだ末がクローンって、クローンって!その母親も常軌を逸しているようにしか思えないが、フェイトはそれをただの結果としか受け取ってないように見える。戦闘用といった物騒な表現をされないで士郎はホッとした。

 

「君は、それでいいのか?」

 

 世間的に見れば、彼女はアリシアのコピーという付箋を貼られる事になる。クローンだからとなんやかんや言われたり、問題となる事態が起こるかもしれない。しかし、

 

「うん、だって私は私だから。パソコンでだって同じ名前のコピーは出来ないように、私は完全に姉さんと同一じゃない。生まれた場所も、環境も、瞳の色も、利き腕も、魔力資質も、何もかもが違う。だから私は、母さんの二人目の娘で、姉さんの妹で、フェイト・テスタロッサという一人の人間なんだ」

 

 たとえ同一でも、育つ環境が違えば形成される人間性は変わる。そうすればもはやそれは別人だ。フェイトはそう言っており、それを誇りとすら思っている。驚いた事にこの少女、この年にして既に確たる自我を形成しているのだ。ならば外野がごちゃごちゃと何か言う意味があるだろうか?

 

なのはも、「うん、フェイトちゃんはフェイトちゃんだね」と、わかりやすい納得を示した事でこの話は終了した。

 

「ところで、私も一緒に走ってもいいかな?」

「いいけど、どうして?」

「なのはの剣、すごくカッコ良かったから師匠がいるのかと思って。私のデバイス、バルディッシュは変形していろんな武器になるから、剣も知りたいんだ。鎌はリニスが教えてくれたけど、それ以外は知らないから」

 

 フェイトは戦うのが大好きな武闘派魔法少女である。ならば自分が興味を持ったものは手に入れるのが道理だ。

 

「そうなんだ、じゃあ一緒にやろ!フェイトちゃん!」

「うん!」

 

 二人は走りだした。この長い長い山道を。

 

――その後、恭也達に追い立てられて仲良くうつ伏せで倒れていたのをおかみさんに目撃されていた。

 

 

 

「いいお湯だったね。アリサちゃん」

「そうね、なのはも一緒に来ればよかったのに。訓練訓練って、どこにいるのかしら」

 

 二人は温まった体を動かし、のれんを潜る。しかしそこでふと思って、立ち止まった。

 

「…………なんか、大事なこと忘れてない?」

「そうね、私もそう思うわ。まるで過程をすっ飛ばして結果だけが残ったような」

 

 恐らく彼女たちはこう思っているのだろう。

 

――肝心のお風呂シーンはどこへ行った!?

 

 そう、気づいてみれば既に自分たちは上がっていたのだ。本来ならココで少女たちの触れ合いやらリニスや忍のボンキュッボンを肴にあれやこれや語られ、将来性豊かな期待値を秘めた少女たちとか言われて締めくくる、そんなはずだったのだ。

 

 だが、ここは既に廊下。ふと見ればアルフとアリシアでの卓球超高速ラッシュが始まってしまっている。目にも留まらぬ猛スピードでピンポン球のラインが刻まれる様は果たして人間か。――うん、見なかったことにしよう。

 

「世の中の男性諸君が困るかもね」

「どうせロリコンか何かじゃないの?」

 

 言いたい放題だった。そしてそのまま、彼女たちは食事をとるための大部屋へ行って皆を待つことに決めた。

 

 

 

 

「――なるほど、そういうことですか」

「理解してくれて何よりだねぇ。撫でていぃ?」

「ダメです。そのまま正座しててください」

 

 ニャーン!と鳴き声を上げるのは新庄、もとい姿を現したリーゼロッテだ。そりゃ大の男がそんな鳴き声をあげてたら気持ち悪いとかそういうレベルではない。なんで姿が元に戻っているかというと、魔力結合を無効化する効果をバインドに付加させていたためだ。ヒビが入るように正体が露見してしまったリーゼロッテは、細くなった腕でスルリとバインドから抜けてしまったものの、襲う気も無いのでこうして正座している模様である。しかし管理局の猫姉妹といえば、顧問官であるギル・グレアムの使い魔だ。まさかこんな場所に、名前の売れている彼女がいるとは思わず相当衝撃を受けた。

 

 そして、ここまで聞いた話でユーノはようやく管理局が何をしようとしているのか知った。簡単にいえば揚げ足取りで違法局員を吊し上げにし、ソレに連なる人物も芋づる式に引っ張り上げようという、綱紀粛正と派閥争いだったのだ。しかも、釣り上げようとしているのが管理局の大物であったため、小規模の事件ではもみ消されて終わってしまうだろうことが予見できていたらしい。司法権を握っている管理局内では高官を裁くのは非常に難しい事柄であった。そのため言い逃れできないレベルの大事件を起こし、一斉逮捕をするという方針を立てた。これにより、絶対権力に近いものを誇っていた管理局に不信感を抱かせ、各管理世界に現在の管理局の在り方に決議を求めるというものである。そのためにはシナリオの舞台となる(魔法発展途上とした)管理外世界である地球の存在が不可欠だったのである。尤も何故地球なんだ?と言われてしまえば、ジェックのせいだったりとお前が地球にジュエルシード落とすからや、と色々言えないような理由があったためにごまかしていたが。

 

 かくして不確定要素(と思われている)ユーノすらも巻き込んで、世紀の大事件へと発展しようとしている。国連は承認済みなので問題ないとのこと。ただ最近はやたらと管理世界人やロストロギアと呼ばれる研究資料にちょうどいい物が日本にばかり落ちてくるのは各国気に入らないらしい。この事実はおとなりの国々が特に不満らしく、さんざん文句を言っているのだが政府の方では首相の一喝で鳴りを潜めた。「だったらてめえらちょっとミスしたら地震以上のクラスの災害が発生する代物をアドバイザーも無しに扱えるっていうのか?あぁ?」みたいなことを言ったのだろう。日本以外のアジア圏と、ロシアの方は未だにジョニーが提供した技術資料に苦戦しており、量産の目処は立っていない。デバイスそのものは輸入すればなんとかなるが、それも戦争を引き起こしかねない国々には非常に慎重な扱いになっている。とはいえ軍事用以外で手に入れると大体の場合が非殺傷非破壊のロックがかかっているが。

 

 ちなみにジョニーが提供した基礎技術は、魔法を使用するために必要な量子力学に基づいた資料と、デバイスの精製法、魔法のプログラミングやデータベース(何が出来るかは書いてあるがソースは中抜されている)なのだが、当然これらを扱うためには生産に必要な基盤を作らねばならない。発展途上国各国ではこの時点で躓いており、安定した基盤を獲得できたのは日本やアメリカ、ヨーロッパの一部など実はまだそこまで多くない。ではジョニーが作ったモノを寄越せと言えばいいのでは?と言うかも知れないが、それは国の発展阻害をしてしまうので不可、中国や韓国はそれに関わる研究者の拉致も考えたが、魔法が使えるというのは個人戦力としては破格であり、正直工作員程度の装備では手も足も出ないことが立証されている。つまりやったけどフルボッコにあったということだ。ソレをわかっているがゆえにわざわざ管理世界からやってきたユーノ、フェイト、アリシア等は正直ハリアー持ってきても勝てないんじゃね?という恐怖感から行うことが出来ないということらしい。ジョニー擁するアメリカとて何でもかんでも彼に要請出来ないためにここは国際研究で三人引っ張り出せない?と画策しているとか。

 

 ただ、それでも国連内部で一致して管理局に対抗しようとしているのは、ジョニーのもたらしたある切り札と局内での抗争によって自滅する予定であること。そして将来性の旨味を期待しているが故である。協力させられるということはこちらに当然メリットが必要であり、それが例えば宇宙開発などに必要なものであれば火星の資源採掘なども出来るかもしれない。資本主義経済を根幹とする地球としては、わざわざ他世界に出なくともまずは近辺で必要な物資を揃えられる。勿論交易も将来性の一つとして見ている。

 

 余談ではあるが、刻一刻と騒がしくなる海鳴市というものがあるため、徐々に世間もなんかおかしいと勘付いてはいるらしい。とは言っても何がどうなっているのか、まではよくわからず。リークされる情報などを待つばかりである。

 

 

 さて、話を戻すがここまで聞いてユーノはやはり自分の手の出せることではないことを知った。日進月歩しいかに足掻くか考えていたが、この件は案の定お手上げだった。よしんば管理世界に帰れたとしても、政争で内部グチャグチャな管理局では何が起こるか正直分からない。スクライア一族も管理局の許可を得て発掘を行なっている立場なので――無許可でやっていれば管理局に預けているとしても盗掘まがいになる――しばらく仕事にならないかもしれない。

 

 そう考え、ユーノは自身の進退をどのようにするか決めた。

 

 

 

 

「ところで、どうしてなのは達はそこまで真っ黒に?」

 

 ユーノの目の前には、何故か煤で汚れているように見えるなのはとフェイトの姿があった。既にリーゼロッテは新庄へと姿を変えて現場へと行っているのでここにはいない。そろそろ食事時かなと考えて部屋を出た時、二人と鉢合わせたのだ。

 

「何でって、まぁ……」

「深い事情があるというかないというか……」

 

 聞けば大人二人組に追い立てられ、起き上がればフェイトが魔法で勝負だと言い出し、自衛隊監視の元現場と離れた場所で小規模の魔法戦を実行。大技こそ使わないものの、小技となれば剣技の引き出しが多いなのはに勝ち星が上がり、そのたびにフェイトがもう一回と突っかかるので二人して魔力が2/3以下になるまでやっちまったZEという事らしい。この時なのははフェイトが重度のバトルジャンキーと知ってしまい、性格は見た目によらないんだねとしみじみ思ったとか。

 

「はぁ……とりあえずもうすぐ食事だと思うから、早めに温泉に行ったほうがいいと思うよ?」

「う、うん。そうだね、行こうかフェイトちゃん」

「良し、5分で上がろう」

「ソレは無理だよ!?」

 

 ワイワイ言いながら温泉へと向かう二人。それを見つつユーノは、やっぱり男女と女子同士の仲ってのは違うなぁとしみじみ思うのだった。

 

 

 

 

「状況どうなった?」

『えらい目におうてしまいました』

 

 再び自衛隊。彼らがたどり着いた頃にはジュエルシードが魚に反応したらしく、川幅を超えて巨大化したらしい。ピチ、ではなくビッチビッチ、でもなくドタンバタンと跳ねまわる魚にはほとほと手を焼いた。飛び跳ねるごとに軽い振動が起きてしまい、足場がおぼつかなかった。そこでフラッシュバンを用いて魚の眼を潰した後、近辺のジュエルシードに反応しないように89式小銃でめった打ちにし、死にかけたところを封印砲で封印したということらしい。勿論もう一つのジュエルシードも封印済みである。

 

『それにしても、肝心のホシが出て来ちょらんですね』

「様子見、とでもいうことか?確かサーチャー、とやらの反応はあったそうだな?」

『ええ、先ほど吉永空曹が撃ち落としました。何を観察していたのかはわかっちょらんですけど』

「……大方、ジュエルシードの使い方でも模索していたのではないか?それよりも、サーチャーでジュエルシードの保存場所がバレるとまずい。輸送にはしっかり気を使えよ」

『了解です、通信終了』

 

 結局、肝心の犯人は出て来なかった。転移で消えたという話だが、もしもコレが聞いたとおり次元航行艦なのだとすれば手の出しようがない。文字通り穴蔵決め込んでいるということになる。アリシアからも転移先を捉えるためにはその時の反応と機材が必要であり、残念なことにその機材を彼女たちは持っていなかった。つまり出たとこ勝負であり、ジュエルシードを求めているのなら出てこざるをえないと警戒していたのだが、結局確保しきるまで男が姿を現すことはなかった。

 

 だがジュエルシードの使い方を模索しているのだとすれば、それを地球で使うなど考えていればこれは嵐の前の静けさに思える。ホシが目をつけた高町なのはや一定の戦える人物がいる以上、その性格から考えていずれは出てくるだろうと考えているからだ。その時はジュエルシードを使うことも辞さないだろう。早急にその対策を考えねばならない。自衛隊は大忙しだった。

 




もはやモブだらけ。

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