魔導変移リリカルプラネット【更新停止】   作:共沈

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本編よりgdgdの外伝の方が長くなってしまった。外伝は魔法に対する超独自解釈なのでこのSSにおけるスパイス程度に思って頂ければ。

H25.01.31プロローグを大幅加筆修正しました。タイミング悪く読んでない方がいらっしゃったらそこだけバックお願いします。こんな調子でちょくちょく修正を入れる可能性があるので謝っておきます。ごめんなさい!

H25.02.15
大幅修正。
ジャケットの防御力について→大体マグナム弾レベルに対応できるか出来ないかくらいの防御力。
上記に合わせ魔導師の現在の兵装に対するアドバンテージ変更。高速性能とプロテクションを用いることで相当の優位性を誇る、とした。
PMC二人組を自衛隊派遣者に変更。
戦闘状況を追記。初手に偵察ヘリをけしかけたが撃墜。アパッチ投入段階考察時に結界を張られ魔法関係者のみしか入れない状態に。


Battlefield of the sea_1+α

「……!転移反応来ました!ホシです!」

「何人いる?」

「一人のようですね。取り調べで聞いた人数は確かなようです」

「一応念のためだ。新しく反応ねえか気をつけとけ」

「了解!」

 

 温泉から数日。ジュエルシードも残り一個という段階になって、緊急の報告がもたらされた。重要指名手配犯、デュアリス。彼が転移魔法を使い再び地球の空に足を踏み入れたのだ。アリシアからの情報提供により転移時の観測は可能となったため即座に対応に入る。彼が現れた理由、それは残り一個が怪鳥となって空を飛び回っていたのを見つけたからだろう。その怪鳥は尽く居場所を変え反応に引っかからなかったのだが、飛行ルートを絞り網を張る事でようやく追従することがかなったのである。追う側はホワイトバード4機、通称白鳩隊と呼ばれる空自から派遣された腕利き達だ。その二組が、海上に向けて逃げる怪鳥を捉える。自衛隊は追う側、片やデュアリスは挟み込む形で待ち構えている。まるで天下を取る王のごとく仁王立ちしている。

 

「……しかしありゃぁ、アパッチあたりで落とせんのかねえ?」

「無理言わんでくださいよ。アレだけ的が小さいと早々当たりません。機動性は空戦魔導師の方が圧倒的に上です」

 

 管理世界では次元航行艦のような大型艦が存在し、その死角、または内部に転移して潰すのがセオリーとされる。そうなればサイズの小さい魔導師を狙うことは殆どできないからだ。しかし魔導師の長所は何も魔法にかまけた奇襲戦法ばかりではない。魔力次第ではあるが魔導師が着用するバリアジャケットは衝撃軽減能力を持つことが出来、その硬度はマグナム弾レベル以上の銃弾でないとダメージを与えるのは難しい。まさに脅威の防御力、といったところか。しかしおかしくはないであろうか?着用しているのは、服、布。繊維質ものであり硬度と表現するには無縁の存在だ。純粋に硬度と呼ぶのならば、鋼板を仕込むかアーマーと呼ぶようなものになるだろう。では何故バリアジャケットで銃弾が防げるか?

 

 その正体は魔法にある。

 

 いや、それは当然だろと思うかもしれないが内容はそんな単純なものではない。魔法のシステムは、魔力によって作られたフィールドにプログラムを入力することで成立する。魔力フィールドは量子的に不確定な状態であり、「何もない」はずであったフィールド内に「現象」を強制観測することで火種もなく炎が出たり、通常温度がいきなり絶対零度になったりするのである。つまり存在確率0%であったはずの「何か」を無理やり100%にして出現させるという、可能性の変転を行うことが魔法なのだ。これは非破壊非殺傷設定も同様であり、衝突した魔力フィールド内でエミュレートされた現象が物体を破壊する確率を0%にしていることで成せる設定である。しかしそれをしていても魔力は相手の魔力を削る事になる。それがリンカーコア無いし体に響き、スタンダメージとして現れるのだ。

 

 話を戻して、バリアジャケットは先の非破壊を逆説的に見ればいい。破壊させないように確率をいじれるなら、バリアジャケットを破壊できないようにしたらいいじゃない、と。それにより限界こそあるものの、動きやすい布地に相当な防御力をもたせることが出来た。衝撃等をカットされるのだから、衣服ではあるが傷つきもしないという摩訶不思議な現象を見ることになる。まさに魔法であり、その基本だ。

 

 加えて、更に高い防御力を持ったプロテクションを状況に合わせて展開すればいいのだから、その鉄壁ぶりは破格と言っていい。空戦魔導師は更に高速で移動を続けるのだから、そんじょそこらの兵器では太刀打ちできなくなる。

 

 

 これがあることで、百数十年前頃まで続いて戦乱期の管理世界では大いに力を振るった。質量兵器は環境破壊につながるだけでなく、そもそも魔導師相手だとほとんど意味をなさなくなったのだ。結果、今の魔導師優遇の時代が出来上がったというわけだ。

 

 ではどうすればダメージを与えられるのか?通常の方法であれば、プロテクションも張れないほどの距離や間を突いて大口径銃で攻撃、つまりガンカタ。魔法無しで言えば関節技などがあげられる。ミッド系魔導師等はそもそも近づかれて組み付かれる、という事を想定していないのでそれに対する防護機能はほとんど設定していない場合が多い。そもそもサブミッションは衝撃でも何でもない。折り曲げれない方向に腕をかためればそりゃ痛いし折れる。もしくは御神流”徹”のように内部に衝撃を持ってくる、という手段があるが、コレはある意味規格外の人たちが使う技なので割愛させてもらう。

 

 最後に、尤もセオリーであるのが魔法をぶつけることだ。人それぞれに魔力が有り、それには魔力光がある。これには個人個人で特性等が違うといった理由から色が変わるのだが、それはつまり波長を持っており、違うベクトルの波長をぶつけると安定した状態が崩れるのだ。例えばそれは逆波長の音波を当てることで音を打ち消す、ノイズキャンセリングのようなものと同様だ(魔力波長が光と同等と考えただけでも3軸以上あるために完全に同位する魔力は無いと思われるが、この辺りはまだ研究中らしい。ちなみに魔力炉の魔力光は無色であるが、外部機器や魔法種によってその色を適したものに変えるようである)。だからバリアジャケットは魔力で構成されているのだから、魔力を着弾させることで削ることができる。たとえ使う魔法が炎だろうが雷だろうが、それぞれに効果はあるものの最終的に魔導師同士の戦いはこれに帰結する。

 

 自衛隊が持ちうる各種通常の装備は対魔導師戦となれば使いものにならなくなるものが多い。魔力炉を搭載していない兵装は防御力に明らかに不足しており、さらにヘリなどであっても速度で引けをとらない空戦魔導師相手には無粋。30mmガトリング等は当たれば効くだろうが、着弾するまでに魔法で長距離避難されるのは予測できる。

 

 しかも現在は夜ということもあり、なんらかの活動をしていれば魔力光や損音が非常に目立つ。加えて犯罪者一人に対し大型の兵器を持ち出すのは、相手がどうあれ世間から見れば風聞の悪いものとみなされるだろう。後々の世間体を気にしなければいけないのは厄介なことだ。何より現在、この作戦は秘密裏に行われているものなのだからばれるなり発表なりした際の事は考慮に入れなければならない。初手で近隣にいた偵察ヘリをけしかけてみたもののあっさり撃墜され、アパッチを投入すべきかと考察したところで結界を敷かれてしまった。これではリンカーコア持ち、もしくは魔力コーティングが行えるホワイトバード以外いない。

 

「そうか……状況は?」

「現在、ジュエルシードによって変化した怪鳥を魔力砲撃しつつ、陽動をかけながら海上へと誘導しています。その後は鉢合わせする容疑者に牽制をかけつつ封印、合流後に全員で容疑者を包囲する予定です」

「分けるとしたら、エレメントになるかな?……ちなみにそれで、足りると思う?」

「……難しいでしょうね。戦闘ログは確認しましたが、アレの空戦能力に対処するには我々はまだ未熟、と言わざるを得ません。いくら戦闘機乗りの熟練とはいっても、飛行魔法による不可解な機動を取る空戦魔導師には手間取るでしょう。町の安全確保もありますし、配備数もまだ多くはありませんから」

 

 そう言う自衛隊員の表情に苦渋が見える。ホワイトバードは未だ開発されてからさほど時間が経っておらず、月村重工等開発企業もPMCにまでもテストを依頼している状態だ。新造の兵器というのはどんな致命的欠陥を抱えているかわからず、コンバットプルーフ、つまり実戦証明済みでないと配備には非常に慎重になる。仮にも使用者の人命が関わることになるのだから、どんな欠陥であろうと逃す訳にはいかない。そういう意味ではホワイトバードは数機程度であるが、異例の速さで納入されたと見てもいいだろう。勿論テスト段階で正式なものではない。最近巷で噂のオスプレイとて、初飛行は1989年と言われているのだからさほど新しいものでもないのだ。

 

「誠に遺憾ながら、彼女たちに支援してもらわざるを得ないでしょう」

「そう、……先方は?」

「既に待機してもらっています。彼女らが加わると、空戦魔導師が5人、PMC所属の白鳩が二機の計7名の追加になりますね」

「ん、ならなんとかなりそうだね。彼女たちを二班にわけて、彼らの指揮下に加えてくれ。配置は任せても?」

「は、問題ありません。必ずや敵を落として見せます」

 

 即座に踵を返して隊員はなのは達に連絡を入れる。彼女たちは海鳴公園の外にある、仮設置された待機所にいた。連絡を受けて立ち上がるのは戦場に入る前の熟練の戦士のような瞳を宿した、それに似合わぬ少年少女たちと護衛の自衛隊派遣二人組。なのは、ユーノ、フェイト、アルフ、リニス、三本と国枝の7人だ。

 

「やーっと来たね。俺はどっちを狙い撃てばいいんだ?」

「話聞いてたでしょ?ウゼー先輩は俺とユーノと一緒にヒカリモノ大好きな鳥さんの相手です」

「ウゼー先輩ってそれ……名称になってない?ねえ?俺の名前三本なんだけど?」

 

 自衛隊の二人は場慣れしているのか、リラックスして会話をこなしている。対してなのはは気合十分、いつでも飛び立ちそうな雰囲気だ。

 

「なのはは、もう大丈夫?頼んだ僕が言うのもなんだけど、引いたっていいんだよ?」

「うん、大丈夫。それに、今引いちゃうときっと、いろんな人に顔向けできないよ?きちんとやりきるってことだけは誓ったんだもん」

「そっか、……うん。ならそっちは任せるよ。お互いケガしないようにね?」

「にゃはは!勿論!」

 

 パシっとハイタッチを交わす。それを少しだけ羨ましそうに眺めるフェイトがいる。

 

「フェーイト!私達もやるかい?」

「あ、うん。なんかいいよね、こういうの」

「向かう先は紛れもない戦地なのですが……。終わった後に再び交わすためにやっておくのも悪くはありませんか……」

 

 テスタロッサ組もそれに追従した。彼女たちとて高い戦闘能力を誇っているが、実戦という意味ではさほど回数をこなしているわけではない。しかし緊張はあったものの、あまり意識していないのかフェイト達は穏やかにちゃんと帰ってこようと約束を交わす。指令所ではアリシアも状況確認をしながら待ってくれているのだ。

 

「……よし!それじゃあ行こう、皆!」

 

『『ええ!!』』

 

 少女の一喝で、全員は駆けるように空へと飛び出した。向かうはただ我武者羅に強さを求める、凶悪な男のもとへと。

 

 

 

 

------外伝「うららか(?)な授業風景」------

 

「3・2・1!」

 

ドカーン!!!

 

「何故何ッ、マギテクス!」

「うわぁ……」

 

「…………」

 

 一同ドン引き。

 昼休みも終わり、イマイチ授業モードに切り替え切れない気分のままの生徒たちが午後の授業をうけるために各自教室に入る。しかしその一角、そこで待っていたのはシエスタ貪るうららかな日差し、などではなくやけにテンションが高揚してキャラも崩壊した月村忍と、顔に青線引いたユーノの二人だった。ここは海鳴大学、魔導学に力を入れる先進的な学校の一つである。

 

 授業も始まっていないのにやりきったどや顔をして腕を天に振り上げている忍、彼女は今日たまたま学科の先生が休みだったらしく、ついでに自分の大学でも授業が入ってないので駆けつけた。その途中でユーノも見つけ、どうせマスコットキャラがいるなら何かやってみたいと考えた結果がコレである。かつての彼女を知るものなら、おしとやかだったあの人が何故こんな事にと悲しみ嘆くほどの珍事だ。

 

「えーっと、カンペカンペ…………この外伝で用いる設定はこのSS独自のものであり、公式とは一切関係もなく、リアルで実証可能かと言われても無理としか答えられませんのでご了承ください。ついでに日時も不明です!アッチコッチでコレを基準に設定見直しで改稿することもあるのでお気をつけください!」

「ちょっと待って、ソレ誰宛の解説なの!?……いや解説なんですか!?」

「まぁまぁ、それはおいといていいじゃない」

 

 そして意味のわからないことを口走る忍。少なくともこの授業にきた生徒にむけたものではないだろう。

 

「さぁ、それじゃ授業を始めるわね。えーと、前回は魔力素の性質までやっているみたいだから、今回は魔力と魔法の関係、それからデバイスについての授業をしましょうか。あなた達はまず真っ先に魔法を扱えるように実技やプログラムの方から入ってきたけど、しばらくは基礎概要をやっていくってのは聞いてるわよね?うん、なら始めましょう。サポートはユーノ君よ、よろしくね?」

「え、はぁ、まぁ……いいですけど。なんかどうもこのギャグ時空から抜け出せる気がしませんし」

 

 ユーノはとっくにさじを投げていた。この教室には結界でも張っているのだろうか。

 

「まぁまぁ。授業自体は割と真面目よ、……多分」

「そこはかとなく不安です」

 

 夢も希望も無いのだろう。

 

「オホン。さて、それじゃあまずマギテクス、魔導学がどういうものかを改めて説明しましょうか。マギテクスは有り体に言えば量子力学の一種よ。シュレーディンガーや不確定性原理が有名かしら?魔法はその確定されていない位置や状態を強制的に観測することで、特定の現象を引き起こすことを言うわ。ただし、魔法は魔力を用いて、ソレひとつで出来る事が多く、万能性に富んでいることから一つのジャンルとして分けて考えられているわ」

「その、具体的にどういう?」

 

 一年生には少しむずかしい話題だったか。そも量子力学をまともにやってないのでは無理があるといったところだろう。忍は頷いて説明を再開する。

 

「そうね、じゃぁ君。ちょっと手を挙げてみて?」

「……?はい」

 

 生徒Aは左手を上げた。

 

「うん、君は今左手を上げた。でももしかしたら、右手を上げたかもしれないし、両手を上げたかもしれない。案外、反抗して上げなかったりするかもしれないわね。今あなたには無限の選択肢が存在していたわ。そして私はその確率分布を測定することは出来ないし、最終的にどうするのかもわからない。これが不確定性原理、でいいのかしら」

「まぁ、適当な説明とするなら妥当かと」

「ならよし。そして、魔法はその「手を上げた」という状態を強制的に観測することで現象として表してるの。つまり、手を挙げる確率100%、というやつね。ここにあなたがどのようにして手を上げたか、というのは含まれないわ。過程をすっ飛ばして結果だけが残る。ソレが魔法よ」

 

 どこかで聞いた話だ。

 

「ま、それだけだとわからないわよね。魔法で現すなら……」

 

 わずかに忍の身体が発光した後、手のひらに小さな炎が生まれた。

 

「今私は炎を出したわ。でもここには可燃物もなければ、自然発火物だって無い。魔法によって「火が燃えている」という純然たる結果のみを引き出したの」

「……ていうか、リンカーコアあったんですね」

「ほんの僅かに、だけどね。バッテリーでもなければ普遍的なものは維持できないわ」

 

 そう言って彼女は火を消す。もみ消すような動作はそのまま魔力を霧散させた。先の話を炎に当てはめれば、燃える過程がガス爆発だろうがガソリンだろうが、ただの木材に雷があたったせいだろうがなんでもいいということになる。

 

「この結果を引き出すために必要なのが、魔力と魔法に使うプログラム。魔力を使用し、結合させた一定の空間は魔力フィールドを形成するわ。このフィールドは量子的に不確定の状態になって、何があるのかわからない状態になるの。ここにプログラムを実行することで、擬似的に現象を引き起こすことが出来るってことね。さっきのは「何もない」状態と「火が燃えている」状態を重ねあわせて、すり替えた事で突然火が出たように見えたってわけ」

 

 ある程度理解を示したのか、生徒たちはノートに書き込んでいく。だが一人の青年が疑問の声を上げた。

 

「えーっとその、なんでプログラムで炎が出るんです?」

 

 彼の言いたいことは要領を得ないが、なんとなく忍には理解できた。つまりこういうことだ。

 

「君が言いたいのは、そのプログラムは一体何に働きかけてるかってことでいい?」

「はい。その、結果を持ってくるのはわかりましたけど、どうしてプログラムでそんなことができるのかわからなくって」

 

 その疑問は尤も。プログラムというのはデジタル上のものであり、決して現実に何らかの現象を及ぼすものではない。プログラムなんぞで現実を書き換えられる等と、思いたくはないのだろう。

 

「まぁ、そうね。PCで例えるなら、OSというベースがあって、その上で対応するプログラミング言語を用いてEXEを走らせることで、ゲームだったり、ソフトだったり動くわね。じゃぁこのOSが、現実の世界そのものと置き換えたらどう?」

 

 現実世界にも一定の法則は存在する。それは例えば物理法則だったり自然法則だったり色々ある。PC上でのプログラミングとて予め作られた一定法則上で必要な物をワードによって引き出しているだけであり、要は魔法に使われているプログラムはその特定の現実法則に介入しているものなので同じ、ということ。

 

「マンガやアニメ風に解説するなら、世界そのもの、根源的な何かに魔力を用いてアクセスすることで、その一部分だけを引き出して書き換えるようなものかな。だから魔力が霧散したりすれば、それは状態を維持できなくなって破綻するわ。魔法にかかれば現実も、デジタルと実はそこまで大差がないの」

 

 続けて彼女は言う。

 

「魔力は粒子でもありながら、現実を歪める演算素子としての役割も持っているわ。この素子の結合量が増すことによって演算能力が上昇して、事象に介入するだけの範囲やエネルギー量が比例して上がる事になる。っと、まぁここは後で魔力の説明の時にしましょう。これによって座標を書き換えることで転移が出来たり、空間投影スクリーン等が作れちゃうってわけ。あとは物体をデータ化することで存在を出し入れできる量子格納とか。纏めると、現実に干渉して確率を操作するのが魔法の真髄ってことね」

「結構人知を超えた例外は多いですけどね」

 

 ユーノが言うには、その介入するためのプログラムを誰が見つけたかは不明らしい。もう管理世界でも何百年以上、ヘタすればソレよりも更に前から確立されていたのだという。先人的な立場にたったのは恐らく、何らかのレアスキル持ちだと推測されるが当然定かではない。だがこのプログラミング言語であるが、実はコレはひとつの言語に限らず現実干渉さえ出来るならどんな言葉でもよかったりするらしい。管理世界ではいわゆるミッド式魔法とベルカ式魔法という二つが確立されているが、これは言語の違いによるものであって結果を同じにするなら別にどちらを使っても本来は大差ないのだ。単純にどちらに向き不向きがあるか、というのと近接向きかそうでないかという特性の違いがある程度。地球で言うならJavaだろうがC言語だろうが、どっち使っても同じ結果が出るならどっちでもいいじゃん?使いやすい方選べよ、とまぁ、そういうことである。ただこの世界に干渉するための言語だけあって、一度損失すると復元が非常に難しい。そのため古代ベルカ式等は命令系統の言語等を失伝しまった状態にある。発祥元というか、先天的にその言語を確立した人物でも持ってこないことにはどうにもならんということだ。

 

 ちなみに地球のものはジョニー謹製であるため、ミッド式のアレンジ、いわゆる(英訳版)となっている。まるでネクロノミコンの機械翻訳版とかラテン語版みたいだ。ちなみにこれはミッド語と英語が奇跡的に近かったものであり、本来翻訳はそううまくは行かない。

 

「それじゃあ魔力について説明する前に、近い話題なのでレアスキルについて説明するわね。これは魔法を知る前から先天的に知っている魔法のプログラムの事を言うわ。最もポピュラーなのは、炎熱変換や雷変換といったいわゆる魔力をエネルギーと置換するものね。さっき私がやったのは、そのプログラムを解析して汎用性をつけたもの。後天的だからレアスキルではないわ。地球でもその存在はパイロキネシスとか、ESPといった形で知られてはいたの。でも魔法として確立するための方法をきちんと持ち合わせていなかったから、出来たとしてもごくわずかだったり、安定させることが出来なかったと最近わかったわ。いくら魔法を知ってても、半ば直感的に持ち合わせたものだから言語化するのもなかなか難しいものでもあるからってことね。」

 

 付け加えればこの地球にはHGS患者とか陰陽道だとか、解析して言語化すれば魔法のいち分野として加えられそうなモノがいくつもあるが、その辺はおいておく。

 

「解析しづらいだけあって、レアスキルは非常に特殊なものが多い、らしいのだけどあまり私も見たことないからどんなものがあるかは知らない。あ、そういえばユーノ君もそれっぽいもの持ってたわね。変身魔法だったかしら?」

「あれはまぁ、ぶっちゃけ分類できるかと言われれば微妙なんですけど」

 

 一応スクライア秘伝と言われている。が、ユーノ自身がスクライア一族に育てられたと言っているが、それが養子を指すのか両親不在の血縁を指すのかはわからない。レアスキルは血縁で遺伝する場合が多いのでもしそうであるならユーノは養子ではないということになるのだが。ともかくその魔法自体他に使える人物がいないのなら十分にレアスキルに値する魔法といっても良いだろう。実際魔力が霧散すれば状態は元へと戻る、はずがユーノは魔力消費を抑えるためとして自身の存在を動物へと置換したまま維持できてしまっているのだ。この辺りが例外や摩訶不思議といわれる所以であろう。

 

「そんなわけで、レアスキル自体は幅は広いけど色々あるってことね。いい?……うん、それじゃあ次。さっきは炎を出したけど、あのままだとただ出しただけで使い道が無いわ。あれを攻撃魔法にするためには速度や射出方向、威力等の幾つもの数値を代入しなければならない。魔法によって生み出した現象そのものは世界が演算をしてくれる。でもココを決めるのは私達自身、そのためにあなた達にはマルチタスクを必修とさせてもらったわ。個人差はあると思うけど、これが出来るか出来ないかで大型の魔法や儀式魔法といったものが使えるかどうか分かれてくるから、しっかり増やしてね?」

 

 魔法によって生み出した現象はベクトルや数値が入力されていないため、自身でそれを補わなければならない。そのため魔法には変数を入力するための抜けが予め用意されており、入力でどのように動くかが決まる。しかしこの入力部分は複雑な魔法ほど多く、簡単な物で誘導弾を発射するスフィアに始まり、広範囲攻撃が可能となる儀式魔法等が最も多くなる。この時プログラムにディレイがかかるため、長いものであれば処理を優先させるために空間に魔法陣として取り置く。発動待機状態やリアルタイムで入力するための措置と言っていい。空戦魔導師が才能が必須と呼ばれる所以はここにもある。常に飛行魔法を使用していないといけないため、リソースの多くがそこに消費されがちになっているからだ。コレに加えて戦闘魔法を使っていくのだからその負担は計り知れない。大型魔法を使うと足が止まるのも飛行に維持するだけのリソースを確保できないからだろう。ちなみにマルチタスクは努力次第で増やすことは可能であるし、それが出来る分だけ魔導師としての質が上がる。つまり非常に機敏だったり、多くの誘導弾を操ったり出来るといったものだ。

 

「そんなわけで、魔法のプロセスはこうなるわ。

魔力素→魔力に変換

魔力を使用して魔法を発動する(現象を確立させる)

変数入力を行う

実行することで入力された行動を行う

 

……という感じね。フィジカルブーストにしたって、筋力そのものが強くなっているのではなくて脚力の反発係数を上げてたり、ちょっと視点を変えないといけないわ。本人の体力そのものも上がるわけじゃないから、マギテクススポーツで活躍したい人はしっかり運動しておくことね」

 

 ホワイトボードにキュッキュとペンで纏められたものを全員が書き写す。手が落ち着いたのを見て忍は話を続ける。

 

「それじゃあ次は魔力ね。魔力はさっきも話したとおり、魔法をエミュレートするための演算素子としての役割を果たす粒子よ。魔力は結合によってその演算能力や、魔法を展開するために必要な空間を広くすることが出来るわ。コレが拡散すると魔法が維持できずに消失してしまうわ。現実を歪めるに足る量が不足するってことね。だからマギテクススポーツや魔導師同士の戦いとなると、この魔力を削る事が勝利に不可欠となる。バリアジャケットも魔力で構成を維持しているのだから、削れば削るほどこちらが有利になるわ。ま、その辺は魔法抜きの戦いにしたって似たようなものだけどね」

「だからバリアジャケットのみでの特攻ってのは結構危ないんです。防御力を重視したプロテクションは重要なので、しっかり覚えておいてください。バリアジャケットは構成が維持できなくなった場合、パージすることで他の部位の損傷を抑えることができます。この時防御力は減りますが、バリアジャケットに割くだけの演算帯域は余分が出ますから、大体の場合攻撃能力が高くなりますね。削ったからと言って安心しないほうがいいでしょう」

 

 あっちこっちに話が飛び火しまくっているが、ソレに構わず学生たちは吸収していく。やはり真新しい技術というのはどんな話でもヨダレが出るものなのだろう。

 

「魔力で重要な部分は、特性や質といった部分が魔力光で現れることね。リンカーコアを持っている人間は基本的にこの色で才覚を判断できるわ。例えば赤や黄、青は先天的にエネルギー変換系のレアスキルを持っている場合が多いわね。緑は補助、白は防御力や硬度に優れているっていうのが定説よ。これはデバイスなども例外じゃなくて、外的要因からその色を変化させる場合があるわ」

「あとは同質の魔力同士の戦闘は魔力が融和してしまうので完全に無効化されますね。ただし魔力が光に当てはめただけでも色相、彩度、明度の3軸があるので被ることは非常に稀です。コレ以外の要因もあると思いますが魔力自体はよくわかってない部分も多いので、そのような事態になることは無いでしょう」

「魔法は結果だけを演算して過程はすっ飛ばすって言ったけど、魔力特性によって同じ結果にたどり着くまでの過程のプログラムは違いが出るわ。例えば私がユーノ君が開発したオリジナルの魔法を使おうとしてもロクに反応すらしないでしょうね」

 

 結果のみ同じで過程は違う。それは個人個人で魔法が発動するまでのプロセス、つまり法則が違うということである。火を出すのにガスを用いるか油を用いるか。ユーノが攻撃魔法を使えないのもここにある。とはいえストレージデバイスを持てば話は違うのだろうが。

 

「だいたいこんなトコロかしら?最後はデバイスについて。デバイスはストレージとインテリジェントの2種類。皆が手にするのはストレージか、もしくは魔力炉かバッテリーを内蔵したMGウェポンが主になるかな?ここではMGウェポンはストレージと似たようなものだから省くわね。2種類の違いは簡単にいえば……そう、車のATかMTの違いね」

 

 その二種には明確に違いがある。まずインテリジェントは即席の魔法構築ができるが、ストレージは不可。逆にストレージは各種魔法を確実に発動できるが、インテリジェントは失敗することがあるという。インテリジェントが何故失敗するか、それは使用者本人の特性とデバイスの特性、つまり両者の魔力特性が合致しないとプログラムを組んだ所で処理方法の違いによりミスが出るらしい。インテリジェントは基本的に使用者の魔力を検査してから合致するよう作られる。よくAIとの相性を取り沙汰されるデバイスであるが、むしろこちらのほうが重要なのだ。でないと作った所で無駄になる。ただの金食い虫だ。

 

 かといってストレージはストレージで問題がある。どんな特性を持っていようと誰でも発動できる利便性があるが、特性に関わらない汎用性のある魔法を机上で開発しなければならない。誘導系魔法もマニュアル操作というよりかはコマンドトリガー型であり、細かい操作は効かない。量産品には量産品なりの苦労がある。手に入れた後は個人的にカスタムしていく必要があるだろう。

 

 そしてこれに魔力炉を取り付けたタイプがMGウェポンになる。こちらは更に使用出来る魔法が少なくなり、直射砲等エネルギーをそのまま用いるものがメインとなる。あまり複雑なものを使えないが、リンカーコア無しで使えるのが強い点だ。加えて魔力炉型であれば出力限界はあるものの魔力自体はほぼ無制限である。

 

「……となるわ。インテリジェントを持てるのは個人開発の打診を受けたものだけ、よほどの才能があるか、なんらかの研究でなければそうそう持つ機会はないでしょうね。ただAI技術そのものは有用だから、お喋りをするくらいは出来るかも」

 

 そんなわけで、なのはがレイジングハートを使えたのはとんでもない偶然の一致による部分が大きいのである。ユーノに反応しなかったのは単純に合致していなかっただけであり、レイジングハートが彼を嫌っていたとかそういう理由ではなかった。

 

 

 

 

 キリが良い所でチャイムが鳴り、授業が終了した。生徒たちは各々の次の目的のためにまばらに教室を出て行った。中には残って質問したりもしていたが、まぁ余談である。ソレを見た忍達は満足気に頷き、お互い目的の人に合うために翠屋へと洒落こむことにした。

 

 

外伝・了

 


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