魔導変移リリカルプラネット【更新停止】   作:共沈

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(´・ω・`)セリフ回しが厳しい。そして地味に忙しい。
やっとここまで来ました、管理局振り回し編。

H25.4.3大幅修正しますた。展開こそ大差ないですが既読の方は読み直しした方がいいでしょう。


Roundabout_1

 地球、その月軌道上に今まであるはずのないものが存在していた。

 次元航行艦L級艦船8番艦アースラ。球形の面の多くで形成された艦橋は見る人が見ればUFOだと言うかもしれない。地球からすればまごうことなき未確認飛行物体なのは間違いないだろう。先端に向かって伸びる2本の突起が無ければ誰も戦艦だとは思うまい。

 

 静寂な宇宙の中を地球を見守るようにゆっくりとたたずむ巨大物。しかしその中では猿のように喚く一人の男がいた。

 

「だから言っておるだろう!さっさと奴らには管理世界入させるべきだと!ソレが何故わからぬ!!」

 

 普段の搭乗員、いわゆるアースラチームとは違う外様の男ヴォーク・コングマンだ。

 改めて彼を紹介しよう。ヴォークは現在戦線から外れた老人で、最も忙しい管理局の中間期に才能を買われて入局した少年兵出身の人間である。戦闘そのものは強かったために当時の管理局の屋台骨を支えていたと当人は言っている。しかしその実態は浅学から来る非常識さが目立つ人間であり、老成した後も脳筋バカ一代と言われる程他人に迷惑をかけている。そのため「使える無能」と揶揄されており、命令に従っていれば使い道があるものの自身に判断させると途端に醜態を顕にする、そんな男だ。その傾向は0か1の極端思考で直情傾向、愚蒙なまでの猪突猛進ぶりを発揮される。実に鬱陶しいくらいに。

 

 そんな彼が何故評議会代理などという名誉な職についているのか。本来なら彼は単純に違法な研究所への橋渡し、つまり癒着や横領の隠れ蓑でありただの囮であっただけのはず。それはジェックがハラオウンに渡したブラックリストにも載っているとおりだ。この理由は極秘裏にではあるがとある人物が関わっていたらしい事にある。

 

 曰く、何年か前に最高評議会の肝入が死んだせいであらゆる技術開発が止まったという噂。

 

 眉唾でありだからどうしたという話であるが、ハラオウン一家はこの事実を詳しく知っている。

 ジェイル・スカリエッティの死。生体技術の第一人者であり、過去にプロジェクトFという論文を流したことから話題になった人物。とはいえソレ以降はコレといった発表はなく、姿を見たことがある人もいないので実在も怪しいとされていた。しかし彼は管理局の技術のいくらかを担っていたという。

 

 その男の死因は実験の失敗で生まれた爆発による焼死。どういう失敗をしたのか笑えるくらいに盛大に爆発したらしく、男がいたとされる研究所は欠片も物的証拠が残らないほど木端微塵になっていたと調査した人物は記録している。その割にはわざと残されたように被害を受けていない部分に「死ぬときは科学者らしく爆発オチで」という文章が刻まれており、果たしてこれがジョークの域だったのかどうかで意見が割れる。域内だったらそれはそれで頭のイッてる科学者としか思えないが。

 

 とはいえ、彼が本当にいたかどうかはわからない。なにせジェイル・スカリエッティという男は戸籍も無く素性の分からない人物だったために、足取りも裏もとりようがなかった。捜査はそこで中断されており、ただの爆発事故として処理されている。今ではその詳細が伏せられていることから、調査に関わった者は何らかの裏があったと見ている。そのせいか憶測が憶測を呼び、彼はプロジェクトFで生まれ管理局に籠の鳥として開発を強いられていたんだ!だの、自身が死ぬことで何かを訴えようとした、プロジェクトFを流したのは彼の救援の叫びだった、などなど何故か好意的な推理をされていた。なにげに当たっている部分があるのが恐ろしい。

 

 スカリエッティがこれといった犯罪を行なっていないのが大きかったのだろう。前史ではあれだけやらかした男とハラオウン一家は未来を知っているために認知しているが、そうでなければ結構境遇としてはかわいそうな人だった。それがこの反応を呼んだようだ。

 

 それにより損害を受けたのは最高評議会だ。彼らが長い間その高い地位を維持していられたのは、偏に彼の技術提供によるものが大きい。たとえ過去の功績があったとしても今ではソレを知るものはおらず、評議会が本人そのものということも隠しているため当然誰かわからない。ならば絶えずエサを与え続けなければバックボーンとして信頼されないのは道理だろう。所詮は表に出てこれない口だけの人間だ。スカリエッティという開発者を失ったことで、彼らの手元に残ったのはせいぜいがプロジェクトFや戦闘機人関係の技術のみ。今から再び「無限の欲望」というアルハザードで拾い上げた遺伝子から生み出したとしても、記憶が無いのでは相応の開発力をつけるには十数年の月日がかかる。その間に失墜の憂き目に遭うのは目に見えた。加えて最近は資金源のパイプをハラオウン子飼いの執務官や捜査官達によって尽く潰されていた。ジェックによって齎されたブラックリストの成果である。

 

 ならば現状の強化を図ることで体裁を整えるしかない。兎にも角にも焦っていた最高評議会はヴォーク・コングマンに目をつけた。彼なら自分たちの言う通りに指示をこなすだろうという打算によって。もはやこの時点で最高評議会はただの老害と化していた。何せ管理局幹部のレオーネ達すら「もはや人も世界も動かせない」と見下していたくらいだ。管理局のためと言いながらも独善的な思想を持って突っ走る道化。彼らとヴォークの奇跡のコラボレーションによってSL超特急が見事に完成した。後はただ突っ走るのみ、行く先はきっと崖か何かだ。

 

 そんなわけで、抜擢されたヴォーク・コングマンはひどく増長していた。アルカンシェルの発射権限が与えられていることも大きいだろう。「第97管理外世界を従属させること、言う事を聞かないならつぶせ」と命令されている。これで従属なりさせれば、もしくは反旗を翻そうとした地球を潰せば自分には高い地位が約束されているも同然だった。そしてたかだか魔法が生まれたばかりの発展途上世界など赤子の手をひねるように簡単だと楽観視すらしていた。

 

 しかし事態はサーチャーを地球に放ったことで傾く。

 

 既にデバイスを用い非常に発達したように見える魔法を使い、ニアSランクと思えるほどの砲撃を打ち、全てのジュエルシードを集め、挙句の果てに次元航行艦まで回収された。

 

 これにより彼の脳内の危機感は増大。加えてサーチャーまで破壊されたとくれば管理外世界の奴らは管理局に対して牙を剥いている!!等と思っても……彼ならば仕方ない。奴らは簒奪した力を用いて攻めてくるのだと声高に叫んだ。

 

「バカな事を言わないでください。私たちの代わりにジュエルシードを集めてくれたことは感謝こそすれど、疑ってかかるのは不義にあたるでしょう」

「ッハ!これだからハラオウンは軟弱者なのだ!いいか、所詮未だ質量兵器に頼る奴らなど野蛮に違いないのだ!私が戦ってきた質量兵器持ちは皆野蛮だったぞ!ならば叩くか植民地化させて抵抗力を削ぐしか無いだろう!」

 

 いや、その理屈はおかしい。

 

 クルー全員の思考が一致する。地球で例えるなら暴力的な人間が暴力を振るうゲームをしたのではなく、ゲームをしているから暴力的な人間になったと言っているようなものだ。銃があるから野蛮なのではない。逆説的に考えれば答えが翻ってしまうのでは成立しないではないか。

 

 その後も喧々囂々の言い争いがリンディとの間で飛び交うものの、暖簾に腕押しというより彼は岩か何かのようで意見がテコでも動かない。さすがの温和なリンディさんも血管が切れそうである。隣で扱いに苦しむクロノも内心ため息をついていた。

 

 とはいえ、コングマンには手段が少ない。彼の望みどおり抵抗せずに植民地化出来れば良しだが、そうでない場合は自身が地球に降りて暴れるか、アルカンシェルを発射するかの二通りのみ。だが自身は既に老体の身であり、堕落して横に増した体ではとてもではないが暴れることは出来ない。アースラ搭乗員はリンディ・ハラオウンの配下なので管轄の違いにより彼に動かせるわけもなく。結局残るはアルカンシェルのみというわけだ。

 

「いいか、もしこれから何かあったとしても貴様は口答えをす」

「あ、艦長」

「何、エイミィ?」

 

 ヴォークの長々しい話をぶった切ってエイミィが動きがあったことを伝えようとする。嬉々としてリンディもソレに飛びついた。

 

「おい!人の話を」

「通信が入っています。場所は……え、地球からです!!」

「なんですって!?つないで!」

「貴様ら話を聞かんか!」

 

 遮られたヴォークは怒り心頭だ。しかしそんなことはお構いなしにエイミィは通信を繋ぐ。笑顔の黒人らしき中年の男がスクリーンに映った。

 

『やぁ、こんにちは諸君。それともこんばんわかな?地球を眺めながら騒ぐのは少々マナーがなっていないのではないかな?』

「あら?まるで見られていたようなことを言うのですね」

『おや、ほんとうに騒いでたのかい?出来ればその内容は地球侵略などであってほしくはないものだね』

 

 いきなりテンプレートのような宇宙人の当てはめ方をされたことにクルーは苦笑した。一人を除いてそんな事する気は毛頭ない。その様子を一瞥すると黒人の男性は姿勢を正して一礼した。

 

『第7代国連事務総長、コフィー・アタタンだ。よろしく頼むよ、来訪者の諸君』

 

-------------------------

「……ヴォーク・コングマンだ。評議会代理を務めている」

「初めましてミスター。次元航行艦アースラ、提督のリンディ・ハラオウンです」

 

 先手を取られた。そう考えてしかめっ面を隠さないコングマン。これではまず相手の言い分から聞かねばならない。一体どうやって探知することが出来たのか、それほどに技術力が上がっているのか疑問は尽きない。

 

『ふむ、我々は公式には……宇宙人と呼ぶのは失礼だな。どう呼べばいいかな?』

「そうですね、私たちは次元の壁を超えて『世界』を渡って来ました。そして私達の所属する時空管理局は、それら複数の世界に存在する惑星によって構成された組織です。ですので、あなた方からすれば次元世界人、もしくは管理世界人と呼ぶのがわかりやすいでしょう」

 

 返答はリンディが行った。殊交渉事に関することはコングマンが、説明はリンディがすることになっている。それもこれも面倒事を嫌ったコングマンが投げたためだ。彼からすれば今から隷属させる相手と仲良くする気がないからかもしれない。

 

『なるほど、では管理世界人と呼ばせてもらいましょう。ところで、我々は公式には管理世界人との交流は初めてでしてな。宜しければ友好の印に地球に降りてみませんかな?』

「それはいいかんが」

 

「いや、悪いがあまり時間もなければ不用意に混乱させることもあるまい。このまま話を続けさせてもらおう」

 

 こいつ、切りやがった。コングマンは地球の現状の技術レベルが不透明なために、降りることによって生じる危険性を重視したといったところだろう。クルーはため息を吐きそうになる。せっかく穏便に事が済みそうだというのに何てことをといった心境か、と。そう考えるのが普通だが、実はクルー総員その内心は反対。むしろ予定通りだった。

 

『ソレは残念です。またの機会にいたしましょう。しかし、地球に近づいた要件は聞かせてほしいところですな』

「あなた達第97管理外世界は不当な手段で魔法を取得したと聞いている。加えて管理世界人のユーノ・スクライア、並びにロストロギアとそれを回収しにきた人間を拘束しているらしいではないか。現に彼らは今もコチラに帰ってきていない。さらにそのロストロギアを使って次元震まで起こす始末。これは我々の存在を知ったうえで、管理世界を攻めるための口実を作っているのではないか?」

 

 とんでもない言いがかりである。

 

『ふむ、どうやらお互いの認識に齟齬が発生しているようですな』

「事実だろう。現に次元航行艦までかすめとっているではないか!」

『これは異なことを。でしたらこちらのデータを見ていただきたい』

 

「地球からユーノ・スクライアとジュエルシードの所在。加えて調査報告等の資料が届きました。展開します」

 

 エイミィの操作で開示されたデータはこれまでの経緯を説明したものだ。当然ながらユーノの扱いは非常に慎重であり、むしろ好待遇であること。ジュエルシードは現地の警察組織、また政府によって厳重に保管されていること。回収に来た人間は盗賊であり、拘束していることは地球側に一切の非はなく、次元震が起こったのもその手の者によるもので意図的に行ったものではないことなどが記載されている。

 

 もちろんユーノの希望があれば彼は管理局に引き渡すつもりであり、ジュエルシードなどというトンデモ危険物を地球に置いているわけにもいかないので返還の予定はある。実際はその裏でリニス・アリシア両名によって完全にデータ取りが済んでしまっているので地球側にとっても問題はない。また次元航行艦ももともと盗品であったことは判明しているので、調査の終了次第変換する旨を伝えた。

 

「っく、だが貴様らは暫定的にだが次元世界を渡る術を得たことに変わるまい」

『それで攻める、というのはいささか早計ではないかな?むしろ我々は次元を渡るよりも前にしなければならないことが多い。第一に周辺惑星の調査、加えて出来るなら資源採掘をしなければならない。これは10カ年計画になる予定であり、とてもではないが他国を攻める時間もなければ利益もないのですよ。個人的に言えば、あなた方と貿易を行うことでより経済活動を活発にしたいところです』

 

 戦争より経済、そして資源確保が一番大事と唱える。ここまで言っているのに不穏な気配を隠さないコングマンを見て、相手はタカ派か、と勘付いたコフィー・アタタンの言葉もわずかに鋭くなる。

 

「フン、なればこそ。なおのことあなた達は管理世界入りをすべきだな。その義務がある」

『フム。その条件は一体?』

「……ハラオウン提督」

「はい。まず管理世界入りとは……」

 

 管理世界入りするための条件を述べる。管理世界に番号を連ねるには、魔法が使えかつ次元航行技術を得ること。地球は次元航行艦を入手したことで暫定的にその条件を達成したこととなっている。研究次第でいずれその技術は取得されることは明らかだ。

 これにより制定されるのはまず法の最上位に管理局法を置くこと。さらに三権は管理局に集約され、市民の安全は管理局員が担うことになる。だがこれには地球側にデメリットが大きい。まず管理世界と違い国の枠があり、地球内でもまとまりがない。彼らは戦争によって疲弊し人類が少なくなることで国同士が消極的融合を果たしたが、こちらはそうではない。そうなった場合「地区」扱いとなるだろうが、未だ足並み揃わぬ国があるのに国枠を外してしまっては大変なことになる。また管理局員が安全を担うということは、現在各国が持つ軍、刑事組織が解体されるということだ。防衛力をそがれるわ職にあぶれるわいいこと無し。ついでに質量兵器が禁止されるので、それらを持つことも出来ないのでは犯罪への対処が難しくなるだろう。主だったものはこれくらいだが、まだまだ地球にとって不利な条件があるのは目に見えていた。

 

『なるほど、しかし地球の現状を鑑みてもそれは非常に難しい』

「こちらは義務であると言っている。拒否権はない」

『管理世界に属してない以上、地球はあなた方からすれば治外法権も同然だ。従う義務があるはずがない』

 

 互いが互いに強硬姿勢をとる以上、平行線のまま話は進まない。それに焦れたコングマンはとうとう切り札を出すことにした。

 

「……なるほど、貴様らはそう言うのだな。ならば最終手段を使うしかあるまい」

『……脅しでもするのかね?』

「いいや交渉だ。私には半径百数十kmを根絶やしにする魔導砲の発射権限が与えられている。この宇宙からでもゆうに地表に着弾する、それがどうなるか想像できないわけではあるまい」

 

 ククク、と喉奥から笑うコングマン。そのニヤケ面は悪意に満ちている。

 

『それを撃つ、というリスクと責任を君は考えたことがあるのかね?』

「何、貴様らの世界が滅びるなら問題ない。我々管理局に歯向かうおろかな世界を打ち倒すことで私は称賛を得るだろう」

 

 わずかに目を細めたアタタンは怯まない。

 

『我々はそのような脅しには決して屈しない。あなたにそのような無謀とも取れる勇気があるとは思えないがな。もう少し、よく考えて発言し給え』

「待て、ドコへ行く!?」

 

 カメラ前の席を立とうとしたアタタンをコングマンは止める。が、彼は再び席に戻るような事はせず発言する。

 

『あなたの考えがもう少しまともになった時に話をきこう。それまでは私が席につくほどの意味があるとは思えない。では失礼する』

 

 

――プチン、と映像は途切れた。

 

「…………!!!」

 

 リンディはコングマンを横目でチラッと見る。その顔はバカにされたとでも思っているのか、真っ赤に膨れている。

 

「あんの未開人めがっ!!調子に乗りおって!!」

「(あなたにも問題があると思うのだけど)……とりあえず少し時間を置いたらどうです?気が変わるかもしれないでしょう?」

 

 嫌味は言わずリンディは嗜めるようにコングマンの気を散らす。床をガンガン踏み鳴らす老人というのは見ていていい気分ではない。

 

「……フン!まぁいい……いずれどちらが上かわかるだろう」

 

 言うだけ言って彼はブリッジから去っていった。果たしてあの気の短い御仁がいつまで持つか、楽しみではある。

 

「ホント、面倒な人ね……」

「現在の評議会派は似たり寄ったりの人間ばかりです。イスにあぐらをかいて怠慢ばかりではああなっても仕方ないでしょう」

 

 未来においてレジアス・ゲイズをつかいはじめたのが何となく分かる。恐らくはソレ以外に選択肢がなかったのだ。いくら本局の人間がエリート揃いだからと言っても戦場上がりが多く、軍人気質ではあるが頭の中がお花畑の人間が多い。それもこれも長い間同じイスに座り続けているからだろう。停滞していれば腐るのは人間も組織も同じ事。かと言って今回の件は地上部隊の人間は使うことが出来ず、優秀な人間はハラオウン派寄りになっている。手元に残るのが有象無象の野心しか無い人間ばかりともなれば、せめて言う事を聞く人間を使うのが精々というものだ。

 

 

 

 

 結論から言えば、コングマンの我慢は一日程度しか持たなかった。

 再三あちらからの返答は無いか、と聞いては同様の回答に苛立ちをつのらせ、自身の要求を変えることもない。所詮は未開人と侮っているのか柔軟な対応をすることもなく、昨日の同時刻に彼は決断することとなった。

 

「アルカンシェルを発射する」

「もう少し待ってみるべきでは?」

「通告も無しに発射するなんて、局員のやることではありません!」

「ええぃ黙れ!お前たちには口をだす権利など無い!ましてや頑なに態度を変えない奴らにこそ問題がある!」

 

 クロノとリンディの忠告も無視してアルカンシェルの火器管制装置を立ち上げる。後は宙に浮いたソレに持ち込んだキーを差し込むだけで発射が可能だ。

 

「充填率はどうなっている!」

「に、20%ほどです」

「いつでも完全に撃てるようにしておけと言っただろう馬鹿者が!」

 

 エイミィに怒鳴りつつ、彼は最早待てないとばかりにキーを差し込む。脅迫として適当な地点に撃ったとしても、二次災害による被害は決して少なくはない。要は相手が屈せばいいのである。

 

 ガチリ、とコングマンはキーを回した。

 

 これで引き返すことは出来ない。間も無くアルカンシェルは地表を砕くことになるだろう。

 

「管理局の永久の栄光のために!!」

 

 周囲を飲み込む光を発しながら、渦を巻く魔弾が宇宙を翔ける。

 

 そして、地球は破壊の光に飲み込まれた。

 

 

 

「ふ、ふふ、ふふふ!やったか!?」

 

 見ろ。これが天罰だ。生意気にも管理局に、私に逆らったがためにこのような顛末になってしまったのだ。ああ、なんと悲しい。なんと愚かしい。だが私たちは管理局を狙う不届き者を蹴散らしたのだ。ソレを以ってさらなる躍進を私達はするだろう。

 

「ふ、ふふ…………なんだ?」

 

 

 だがしかし残念かな。相手がせめて地球でなければ、いや。

 

『ク、ククク、ハハハ。アーハッハッハッハッハ!!!』

 

 

 ジョニー・スリカエッティ、もとい

 

「ば、ばかな!貴様は死んだはず!」

 

 彼でなければ救いがあっただろうに。

 

「……ジェ、ジェイル・スカリエッティ!?!?」

 

 画面に映る高笑いする科学者。紫の髪、黄金の眼。彼こそが過去から蘇った天才科学者。その彼に無理という言葉があるだろうか。いや、あるはずがない。再び映る青い地球。その地表には一切の傷はなく。

 

 

 

――代わりに、虹色に輝くシャボンのような膜が地球全土を覆っていた。

 


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