映画版Asの魔法の補正が地味にやばい。ザッフィー強くね?伸びるとは知ってたけどフェイトのザンバー伸びすぎじゃね?なのはチートにしてもチートにした気がしない。バニシングシフトって……!あと書いててマジでとらは3が欲しくなりました。説得力がたらんー。
ゴパッ!などという音ではまるで物足りない空気を押しつぶす音を上げながら、少女二人が衝突した。飛び際に一閃、アサルトフォームのバルディッシュを上段から叩き割るように打ち下ろす。対するなのはは桜色の咆哮をスラスターからまき散らしながら、それに対処すべくレイジングハートのフォームを変える。
「――――!?」
バチリと押し合った魔力刃がはじけ飛ぶ。しかしフェイトに僅かな動揺が浮かんだ。いつも見ているはずの収束剣、ディバインセイバーが
――もう1本増えていたとしたら。
御神流は2本の小太刀を持って行うものであり、いずれはなのはもこのようになるのは当然だった。斧を防がれたX字に交差した刃から急遽武器を弾く。「どう!?」と自慢げな表情を浮かべるなのはの顔に、「やってくれた!」と無言で返す。だが驚くばかりではない。引いたバルディッシュの勢いそのままにバチリと半回転、そのままハーケンフォームにチェンジしてステップをフムようにギュルリと加速をかけてさらに半回転。鎌状の伸びた魔力刃がなのはの首を狙う。斬るための武器と違い鎌は横から突きが飛んでくる。そのため非常に避けづらく、これを避けるには前に倒れこむか後ろに引くかくらいしか選択肢が存在しない。ただし後ろには突きが来るし、刃のない柄の間合いに入ったとしてもわずかにうでを引けば首を刈り取る事になる。
なのはが選択したのは前、さらなるインファイト。しかし定形通りにフェイトもわずかに手首を曲げて、ギロチンのように手首を引き落とす。だが残念かな、ここは地上ではなく空中。避ける範囲に限界など無く、前かがみに倒れこんだなのははそのまま地面に頭が向くように回転。背面を水平に鎌が過ぎていく。そのままぐるりと大勢を戻すなのは、しかしその足裏に
(シューター!?)
かかと落としの如く加速づいた魔力スフィアが蹴り足に合わせてフェイトに反撃。必死で避けたそれが顔筋をかすめ、間を置かずにフェイトはソニックムーヴで距離をとった。完全に仕切り直し。今の流れを上手く切り抜けられたことに異様な熱が体をゾワゾワと伝わった。再び今すぐに飛び出したい衝動にかられる。だが戦いはまだこれから、こんなに楽しいことを終わらせたくない。フェイトは再び呼吸を整えることでクールになった。
『………………っす、』
『すごい!すごすぎる!私こんなの初めて見ました!解説のテスタロッサさん、あれは!』
『まぁ落ち着きなさい。ちょっと切り結んだだけじゃない』
――ワァァッ!!
わずかな沈黙からボリュームバーをひねりきったようにマックスになった会場の歓声。今の一連の流れをに高揚し、しかし内容をどれだけ理解できているか。それほどのアクロバティックさを秘めていながら、しかりリアルに行われているマンガのような空戦に囚われた観客は気づかない。時間にしてものの数秒のやり取りでしかないがだからこそ。気づいたのは観客の中にいる魔導師となった者や、生粋の格闘者、そして研究者くらいのものだろう。
「派手だな。父さんはどう思う?」
「ああ、もう少しコンパクトに行えばダメージを与えることが出来たかもな。まだまだ甘い」
「…………あんたら割りと容赦無いね」
「余計なことは言っちゃダメですよアルフ。あの人達人外なんですから常識は通用しません」
「リニスも大概なこと言ってる気がするけど?」
ソレも仕方ない。高度さえ取られなければこの二人は平然と魔導師に勝てる人外なのだ。
(少し様子を見る必要がある)
二本になった収束剣を両手に、大きく開いた構えを取るなのは。一見スキだらけに見えるが、彼女の振りは0から一気に最高速まで到達するためにあれでも十分に余裕がある。ならばあの剣とかち合ってしまった際にどの程度で押し切ることができるか試してみる必要があるだろう。ならば、
「ハーケンセイバー!!」
高速回転する魔力刃を打ち出し間を僅かにおいて自身も突貫。上空を旋回しながらなのはの後ろに回り込む。その両方のタイミングはほぼ同時。
「甘いよフェイトちゃん!」
『Protection』
レイジングハートが自動的にプロテクションをハーケンセイバーに向けて張り、なのはは後ろに回ったフェイトを迎撃する。再び繰り返すように収束剣に叩きつけられるアサルトフォームの魔力刃。そこにカートリッジを装填する音が二発鳴り、魔力刃はさらに密度を上げた。
「きゃぁ!?」
フェイトの目論見通り、収束剣に削りきられる前に徹した刃がなのはにダメージを与える。しかしそれだけでは終わらせない。
「エクスプロード!」
離れ際にプロテクションによって防がれていたハーケンセイバーを起爆し、炸裂させる。立ち込める煙を見て成功したことに歓喜する。よし、これなら通ると。
「――射抜」
「ッ!?ぐはっ……」
ほんの僅かな油断、そこを突くように煙の中から桜色の細い魔力が伸びてきた。さながら閃光、晴れた煙の向こうには片腕を伸ばしたなのはの姿がある。そう、フェイトが切り抜いたのは反撃で叩きつけられた一本だけ。もう一本はまだ猶予を残していた。御神流が奥義の一つ、射抜。それは御神流でも最長の射程を誇る超高速の突き技。これが魔法を使うなのはがアレンジすれば、収束するまで存在しない刃は鞘があるのと変わらない状態であり、つまり振りぬき際に瞬間的に魔力を集めそれを打ち出したのだ。実際のところ、チャージする魔力量を考えなければスターライトブレイカーの発動時間はディバインバスターより速い。なのはの持つレアスキルである収束により、自分から魔力を引き出すより散在する魔力をかき集めたほうが効率的なのだ。しかし試合はほぼ始まったばかりであり、魔力が散っているはずがない。それを不可解に思ったフェイトは、とある一点に気がついた。
なのはが装着している各部のスラスター、それが常時桜色の魔力を吐き出していることを。つまるところ、この新たなスラスターは今までのようなカートリッジ型ではなく、MGドライヴのような永続的に魔力を吐き出す炉を搭載しているに等しいと推測できる。ようは試合開始直後から既に布石として魔力をばらまいていたわけだ。ということは、実質回避能力に制限がなくなったと同時に最悪の顛末が浮上する。
――早期決戦をかけないと、莫大な魔力を集めたスターライトブレイカーが飛んでくる。
それはまずい。なのはの二刀による激しい近接攻撃に対してアサルトフォームとディフェンサーを片手に展開して切り抜けながら、なのはの攻撃の切れ目を待つ。連撃が途切れた瞬間を見計らってディフェンサーを解除、サンダーアームを展開。
「いたっ!?」
いかなバリアジャケットといえども雷撃による痛みは通る。電撃を帯びた殴りによって怯んだなのはを置き去りにフェイトは再び大きく距離をとりバルディッシュをグレイヴフォームに。さらにバルディッシュに付属するようにアウトフレーム:ストライクパッケージを量子展開し、出現した二本の持ち手を掴み、パッケージに足をかける。
バルディッシュ・ライディングフォーム。
バルディッシュのサイズに見合わないほどの大きさのパッケージに乗り込んだ姿はまるでライダー。これによりバルディッシュはエアバイクと化すのである!加えて正面には凸型のディフェンサーを展開、マントの両端に付いていた補助アームを左右に伸ばしこれらからは長大な魔力刃を形成する。何も改良を施したのはなのはだけではない。フェイトとバルディッシュとてさらなる進歩を遂げていたのだ。
ストライクパッケージから吐き出される魔力ブーストによってフェイトの機動力は圧倒的になる。なのはに向かって突貫しながら、同時にプラズマバレットをまき散らし相手をけん制する。さすがのなのはもこれには驚くが、動揺を抑えつつマシンガンのような弾幕をスラスターを吹かしながらかわし、ショートバスターを連射した。だが直射砲程度では!と言わんばかりにバレルロールを用いながら突撃、かすめたバスターはディフェンサーによって防がれ展開された翼のような魔力刃がなのはを切り裂いた。あまりの速度にプロテクションの展開も間に合わない。
まさに攻防一体の技といえよう。正面から当たればピアッシングランサーの餌食になる。慣性をものともしない鋭角な機動でターンをしたフェイトは再突撃を開始した。
『おーっと、これはすごい!テスタロッサ選手、怒涛の連撃で高町選手を圧倒しているぅぅぅう!』
『なのはちゃんも少しずつ対応してきているわね。クイックブーストの反応がよくなりつつあるわ』
『ターンに多少のインターバルがあるからでしょうか、プロテクション展開も間に合い出しました!しかし未だ不利なのは高町選手、どうやって挽回していくのか気になるところぉ!』
「ふふ、どうすずかちゃん!私の発明品は!」
「あ、アリシアさん。戻ってきたんですね。録画大丈夫でした?」
「もちもち。まぁテレビ局との兼ね合いもあったからちょちょっといじってきたけど概ね問題なかったよ。……で、どうなの?スルーしないで教えてほしいなぁ」
「うーん、確かにすごいですけど私の発明品のほうが上です!」
「フェイトのがすごいよ!」
「アンタ達何の争いしてるのよ」
アリシアとすずかの謎の争いにアリサがツッコミを入れる。見るべきは技術ではなく技量だと思うのだが、二人共技術者なだけあってどこかピントがずれている。そもそもがお互いの長所を取り入れる形で開発を進めていたので比べるようなものではない。フェイトが高速機動であるならなのははその場での旋回力を重視している。特になのはの場合は円軌道を取ることで瞬間瞬間の剣撃を強化するためのもので、実際ほとんどその場から動いていない。フェイトの速度についていけないということもあるのだろう、彼女が離れた場合は二本のグリップを繋げて素直に射撃に移行しているようだ。
完全に勢いに乗ったフェイトはジリジリとなのはのバリアジャケットを削っている。なんとかスラスターを吹かしギリギリでかわしつつも、バスターをチャージする時間も与えられなければ反撃の手立ても思いつかない。
(どうしよう……!とにかく動きを止めないとやりようがない!)
自身に出来る事を脳裏に描きながら、どれで対応できるかを考える。だが今出来る魔法には無く、ならば土壇場であるが新たに生み出すしか無い。
しかしそこでひとつの天啓が降りる。何も使える技術は魔法だけじゃない。
「レイジングハート、ぶっつけ本番だけどいけそう!?」
『Depends on your image,master(あなたのイメージ次第ですマスター)』
よし、と気合を入れてレイジングハートを背部マウントに格納。両手を広げてフェイトを待つ。使用する技術はいつも使っている暗器の一つ。イメージするのは小さな時に見た恩人の緻密な手捌き。それらを融合させることで高町なのはの魔法は新たなステージに立つ。十本の指先には桜色の魔力を貯めこんだ。視線の先にはターンを終えて再び突撃するフェイトの姿がある。交差するまで僅か2秒!
一秒経過する間にスラスターを吹かしフェイトの頭上を通り過ぎるように位置取りをする。そのまま視線を海に向けて反転し広げた腕を振りかぶる。
「――うわっ!?いったい何!?」
零秒、不安定にギシギシと揺れるパッケージにトラブルが生じたか!そう思って後ろを見ると己の補助アームやパッケージに絡みつく魔力糸。なのはが指先から伸ばしたそれらをたぐるようにして暴風の中をフェイトにしがみついている。それはスカリエッティが士郎を治す際に用いた魔力糸と太さは違うもののそっくりだった。加えて御神流では鋼糸を扱うのでおそらくはそれを魔法にアレンジしたのだろう。ともすればちぎれる、ないしは引っ掛けた瞬間の勢いに負けて大事故でも起こしそうなところをなのはは己の絶技でもって制御したのである。
捕まえた!と挑発的な笑顔のなのはの脇下からガチャコンという音が聞こえ、補助アームによってスライドしたレイジングハートが伸びる。まさか、とフェイトは顔を真っ青にした。
「いっけぇー!」
「いや、ちょっとまっ」
鼓膜に響く爆破音。ド至近距離で放たれたディバインバスターは二人もろとも盛大に巻き込んだのだった。
「フェイトーー!?」
「無茶苦茶しますねあの子……」
ガガーンと衝撃的な効果音が頭のなかで鳴り響くアルフ。もとより戦闘不能が勝利条件であるゆえ魔力切れか気絶するかはどのみち有ることだが、心配なことに変わりない。ディフェンサーを常時前面に展開しているライディングフォームの性質故、背後からの攻撃に対する防御はまず間違い無く遅れている。
『道連れまがいのだいばくはつ!二人は無事なのかぁー!?』
『一応厚めのバリアジャケットを着るようにはさせていたから、耐えれているとは思うのだけど』
プレシアも大丈夫とはわかっていても不安はよぎる。実はバリアジャケットを厚めにしたのは衆目にレオタードまがいのバリアジャケットを晒すことを防ぐためだったのだが、意図に反して、というより元々の役目をその衣装は果たしていた。事実、両者がバリアジャケットをズタボロにしつつもその爆煙から飛び出して再び何もなかったかのように戦闘を始めたのだから。
その後は先までの蹂躙とは打って変わり、フェイトを追い射撃を実行するなのはとのドッグファイトと化していた。ストライクパッケージを破損させたバルディッシュは元の形状に戻ってしまったため減速、とうとうその速度域に慣れたなのはが今度は己の才覚を持ってフェイトを追い込んでいく。雨あられと飛んでくるバスターや誘導されるシューターをよけながら、フェイトもカウンター気味にサンダーレイジを叩き込んでいく。互いが互いに微量な削り合いの、しかし拮抗する試合。およそ3分にも及ぶ拮抗は、なのはによって崩された。
「――これは!」
「かかったねフェイトちゃん!」
全天に覆われたプロテクション。その内部に二人はいた。大量のプロテクションで囲むそれは正しく檻。なのはが射撃によってフェイトを追い込んでいたのは、隠蔽していたここに追い込むためだ。おおよそ半径が5m程度しかないであろうその空間はフェイトの高速機動を完全に封じたのだ。片やなのははそのプロテクションに足をつけて立っている。
ズダン!という不自然なまでに高い足踏みの音とともに、再び分割されたレイジングハートの収束剣がフェイトを切り裂こうとする。間一髪で体を振って躱すが、通り過ぎたなのはは壁面を蹴って再び突撃。その通り際に、彼女の口から虎乱、という声が聞こえた。すなわち彼女は再び御神流を以って戦い始めたということ。武術で最も重要なのは足腰の動きであり、それは空中戦においては決して得られるものではない。そのためなのはは閉所たる檻を作り、自らはそれを自由自在に行き来する足場とすることで圧倒的アドバンテージを生み出したのである!常とは違うなのはの地上戦特有の足腰のバネを用いた加速にフェイトは毒づいた。ディフェンサーを展開しつつバルディッシュを振りぬくも、不慣れなフェイトには厳しいものがあるのか一方的に攻撃を受ける。その上防御の隙間をするりと潜りこむように攻撃が通される!奥義も使えるようになったなのはは当然基本技である斬・徹・貫の3つを使える。その内の貫は見切りによって相手の防御と防御の隙間を貫くいわゆるフェイント技であり、直線機動をメインとする不慣れなフェイトを追い立てる。そしてとうとう焦れてしまったフェイトは、
「――ッ!ジャケットパージ!!」
己のバリアジャケットたる上着を破棄、爆破させて目眩ましにし、ソニックフォームとなったフェイトはバルディッシュでシールドを切り裂いて脱出。それによって出来た時間を使いフェイトは詠唱を開始する。
「囲まれてる!?」
プロテクションを解いたなのはを待っていたのは周囲に大量に浮かぶスフィアだった。つまり罠にかけようとしたのは自分だけではなかったということ。ストライクパッケージで外周も回りながら、フェイトは隠蔽したスフィアを設置し続けていたのである。奇しくも同じ場所に設置してしまったせいでなのはのほうが先に発動することとなったが、再び形成は逆転する。
「フォトンランサー・ファランクスシフト!!」
なのはを中心に外周が38基の金色のスフィアで埋め尽くされる。それらから放たれるのは秒間7発を4秒、合計1064発のマシンガンじみた必殺の攻撃。カートリッジによって強化されたそれらを防ぐのはいかななのはといえどほぼ不可能。
巻き起こるは魔力弾の嵐。どこにも逃げ場のない密集させた包囲殲滅。
――これで終い。
アレだけの量を躱すすべはない。誰もがそう思った、それはなのはですら例外ではない。巻き起こる煙は今までの比ではなく、膨らむ度に激しい魔力流によって散らかされていく。勝った、陸や限定されたフィールド内ではスペック、特訓量ともになのはに劣り勝てない自分が――!完全フリーな空戦で!高揚感から頬を赤らめゾワゾワと快感が体を昇っていく。ゆっくりと晴れていく煙。もしもなのはが気絶してしまっているのであれば、落ちても安全ではあるが手をとろう。そう思って、
――煙の中には誰もいない。
「――――――――え?」
血の気が引いた。なのはが落ちる姿をフェイトは見ていない。自分が気づかないうちに落ちた?という思いとまさか、まさかとは思うが回避された?という思考が混濁して完全に思考が止まった。観客も司会も、勝利を確信した握りこぶしを作ったプレシアとアリシアも、両者をただ純粋に応援していたアリサとすずか、桃子も、客観的に状況分析をしていたリニスやアルフ、ユーノですら例外ではない。
「…………まさか、使ったのか?」
「どうやら、その片鱗だけは見せたようだね」
例外、それは恭也と士郎の高町家の二人組。美由希も動揺していたが、彼女は「うそぉ……?」という一言から何が起こったかはわかっているらしい。
「ちょっとちょっと、なんだってのさ!なのはは一体どこへ行ったんだい!?」
何事かを知っているらしい二人に、アルフは即座に我に返り聞いた。すると士郎は投影されたディスプレイを見ながら人差し指を上へ向ける。
「使った……、いやこの場合は入った、とでも言うべきかな?御神流の極致にね」
何かに気づいたようにサーチャーが上を向いた。その先には、バリアジャケットのほとんどを引剥がされながらも、荒く息を吐くなのはの無事な姿があった。
「あ、危なかった~……いったい何が、いたっ…!」
なのはですらいったい何が起こったのか、全く見当が付かなかった。あの魔力弾の豪雨にさらされた瞬間、視界に映るもの全てが色褪せスローになり、直感的に動いたからだがその隙間を縫うようにスルスルと魔力弾を避けていった。そのスピードは身体を魔力ブーストしていたとはいえ、反射的な動きといえど明らかに人間では出せない速度だった。これがたとえアクセルフィンだったとしたら、おおよそ直線的な加速をするだけで詰んでいただろう。しかしそうでないのは、魔力弾に合わせて体を捻り伸ばし、たたみ、まるで複雑に入り組んだジャングルジムをゆっくりと登るような感覚で避けたからだ。
神速。
御神の奥義の歩法であり、これを使えるものは御神の剣士として一流として扱われる。一般的にはゾーンやピークエクスペリエンスと呼ばれるもので、知覚力が増し視界はシロクロ、見えるもの全てがスローになるというもの。御神流においてはこの感覚に合わせて通常時間と同様の体の動きをしてしまうために傍から見れば気味の悪い速度と滑らかさで動いているようにみえる。当然身体にかかる負担が非常に大きく、そう何度も使えるようなものではない。そのうえ歩法というだけあり元来は陸地で行うものでありながら、なのはは偶然にも空中でソレを発動させた。それだけでも賞賛に値するもの。
結果として生き残ったものの、体を痛めたなのはは既にその場から動けるほどの余力を残していない。それは大魔法を放ったフェイトとして大差がなかった。最早小技で競い合う時間は過ぎてしまっている。ならば後は最後の、全力全開の大技を狙うしか無い!
「いくよフェイトちゃん!これが最後の技くらべ!!」
レイジングハートを天に構える。自身が、フェイトが散らかした魔力をかき集めて巨大な球体を作り極限まで貯めこむ。その姿はまるで生まれ出んとする赤子が宿る母体のように、魔力の波動がドクンドクンと発動の時を待っている。そして、フェイトも合わせるようにバルディッシュを構える。その姿は広大な魔力刃を形成した大剣、今まで見たことのない新たな形態、ザンバーフォームに変形した。刀身に紫電を纏い空中に飛散する。
「全力全開!スターライトォ――」
「雷光一閃!プラズマザンバー――」
『ブレイカー!!!』
超射程の魔力砲と超巨大な魔力刃が激突する。荒れる濁流を耐えるように切り裂く刃の側面を分割された魔力が飛び散っていく。ここに至って、不利なのはフェイトの方だった。次から次へと供給される相手側の魔力にカートリッジを足しても抜くことが出来ない。このままではジリ貧だと感じたフェイトは無茶を承知で賭けに出た。刀身を短くし密度を上げ、正面から対抗せずに下側に抜ける。一度発射されてしまえばその場から動くことは出来まい、ならば残りの力を振り絞って近づき叩き斬ればいい。なんとかSLBから抜け出たがしかし、本日何度目かわからない驚愕の行動をなのはは採った。
「――なっ……」
ズォォ、と重いものを持ち上げるような音。自分が抜け出たSLBがその射線を上へと起こしていく。頂点で止められたそれはレイジングハートを柄としてフルスイングでもするかのように両手持ちに構える。それは、まるで自分の技みたいじゃないかと思う間もなく、
「ブレイクッ・ライザーァァ!!」
気を失う間際、見えたのは自分に叩きつけられる桜色の壁だけだった。
そうしてこの日、なのはは勝利と同時に「海を割った女」と呼ばれるようになる。ついでに結界もサーチャーもまとめてぶった斬る凄まじさに人々は「魔砲少女」とたたえたらしい。とにもかくにも派手に、そして大盛況に終わった大会は無事世界中で行われる競技として組み込まれ、マギテクススポーツとして様々なジャンルが流行ることになる。
――アメリカ某所
とある敷地内の一角に建てられた施設で、テレビを前に座り込む3人の姿があった。見ている番組は日本で行われたエキシビジョンマッチの最終戦である。その中の一人である白衣の男はコーヒーを啜りながらこう言った。
「フフ、フェイト君がやられたか」
その問いに小さな少女はこう返した。
「せやけど彼女は我ら四天王の中でも最弱……。彼女がやられようとも第二第三の刺客が……」
それを聞いて一人、ピンク色の髪をした女性がガタリと席をたった。
「ん?シグナムどうしたん?」
「少し、外に出てきます」
「ほか、何しに行くか知らへんけど気ぃつけてなぁ」
「ええ、わかっています主。ちょっと高町なのはを斬ってくるだけですので」
それだけ言い残した彼女は静かにドアを開け出て行った。悠然と、まるでその後姿はボクシングの挑戦者のように……。
「ってそうやないやろ!?シグナム何言うとるん!?ちょっ、待ちぃシグナァァァム!!勝手に国を出たらあかぁぁん!」
慌てて後を追い車椅子を走らせ小さな少女も飛び出していった。廊下からは『刺客と言っていたではないですか!なら私がそれを努め彼女を試しま……』『あんたそれ戦いたいだけやろ!?迷惑かけたらあか……』と喧々囂々の言い争いが暴走した女性と繰り広げられている。部屋の中に残ったのは一人、白衣の男はこらえきれない笑いで肺を揺らす。
「くく、クックック。いや、今日も平和なことだ」
こうして、ジュエルシードを巡り管理局のいざこざに巻き込まれ、大変な目にあった海鳴での物語は一旦幕を閉じる。そして舞台はココ、アメリカへと移るのであった。
第一部・Lyrical Planet 完
Next/A's is no longer needed
おい、おい。誰だライザーを予想したのは。黙って手をあげるんだ。
悪乗りしすぎたかもしれないが、こうする以外近接なのはのSLBが強くなる方法が思い浮かばんかった。うーむ、イデオン。
はい、時間かかって申し訳なかったですがやっと1部終了しました。いやー長かった。満足行く文面にできたかと言うと全然そんなことはないですが。SS処女作としては順当に行けたと思っとります。
以後の予定は今回の話の中で出て来なかったなのはの新型スラスター、もといレイジングライザー(仮)の話題などを小話で取り上げたりしてみようかなと思ってます。それをまとめて他3部くらいを1話で済ませようかな、と。
ソレが終わればA'sという名の過去編に突入します。いわゆるフラグ回収回。過去編→流れで現代まで綴ってその後夜天組がどうなっているか、という感じで。書き出しは現代での回想、みたいな感じにします。あ、後でキャラTIPS纏めますね。
さて、よくある逆行、転生SSとは違う角度から突っ込んでみたSS、いかがでしたでしょうか。文面に性格が現れるというか、ややディスり気味な面がポロポロ出てしまうせいで果たしてこれでよかったのか、という部分があっちゃこっちゃにありますので((((;゚Д゚))))ガクガクブルブルしながら感想見てました。
あとは出来るだけ整合性とれるように魔法独自解釈してみたりね。
前に説明したことを簡潔に言うと、型月のFateみたいな魔術が魔導の原型で、それを機械化効率化したものがリリカルな魔法だと思っとります。アレもそれぞれ詠唱違っても似たようなことできるし、個人の性質依存な部分って結構ありますし。なんとなーくで納得共感出来たらいいなぁと思ってます。さすがに多々ある技術を魔法と魔力一本では説明できないほど様々な技術が関わってるとは思ってるのでそこまで万能じゃあないでしょうけど。
話し戻して、こういう妙なSSを作ってしまったのはStsドラマCDで海鳴にてスバルのトンデモ発言が原因だったりする。お前さんちょっと地球なめすぎじゃないかオイ!?、というような。発端は怒りから生まれたのだ。
で、地球チート、地球魔導化しようぜイソノ!と謎の脳内電波を受信したので書き始めて見ることに。しかしチートにするにしても二次元転生とかは読むのは好きだが書くのは好みではないので、なんとかリリカル世界内でどうにか出来る手管を持ってこようということで逆行、という感じになりました。
だが逆行チートするにしても、リリカル世界は思った以上にチートキャラが多い。火力バカにしても知力バカにしても、どこかに適役は必ずいるのでオリキャラいれても薄まるだけじゃない?となり裏方役へ。果たしてジェックについて語ってる部分はこのSS内で何割あるのだろうか。
あとはスカさんだったらきっとなんでもやってくれる!ついでだから救済しようぜ!となりこのような形へ。Stsまで全編通すと違うタイトルになりそうなんだが、魔導変移リリカルプラネットというタイトルはその段階での名残そのままを持ってきている。とはいえコレ以外にわかりやすいタイトルというのも思いつかなかったが。略せるし「リリプラ」って。
そういうわけで裏話を除けば第一部でとりあえずの完結は見れたことに。A's編は蛇足感が強くなりそうだから出来るだけスカさん重点のギャグ押しにしたい。一部の辛かったところはボケツッコミを確り出来るキャラがいなかったところだよな……。
TIPS
[御神流]
何やら色々使い出した。3ヶ月での成長力は異常……いやなのはなら不可能ではない……か?Stsではまさしくチートなのはになるだろう。
[新型スラスター]
次回ネタバレ。中にあるものが入っている。
[バルディッシュ]
名前はそのままだが中身はジェック由来により立派にアサルト。フェイト自身も家族の愛によるサポートでファランクスシフトを詠唱なしでいけるようになっている。とはいえスフィアをばらまく必要はある。
[ライディングフォーム]
デュェ!!ではない。ただし見た目は先端に突起物を添えた事故前提のバイクである。翼となる補助アームを展開することで彼女は鳥になった。
[すずか]
魔改造より楽しいことはない。
[鋼糸]
魔法でやってのけるなのはさん。4歳からデバイスを扱っていたのは伊達ではない。子供の吸収力は早いのだ。
[ブレイクライザー]
振り回せSLB。結界を切り海を割り、ついでに魔導師に叩きつけろ。別にトランザムは必要ない。
[アメリカ三人組]
魔導師としての強さも、知識も、国籍も、全く関連性のない3人が集まった自称四天王(ネタ)。ボケを本気にしたシグシグの暴走が始まる。ニゲロタカマチ。彼女の標的は君だ。