魔導変移リリカルプラネット【更新停止】   作:共沈

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第二部、はじまるよ!?


A's is no longer needed
remembrance


――西暦2005年8月某日 エキシビジョンマッチ終了後

 

「ようニック、うちの娘の調子はどうだい?」

「調子も何も、元気に魔力を吹かしてるぜ!今にも飛んでいっちまいそうなくらいだ!」

「へィ、そりゃ最高だな!一体どんなオシャレしてめかしこんでるんだ!?」

「まずはエンジンを魔力炉型に変えたな!ケツがくさかったお嬢ちゃんも今やミントの香りさ!航続距離だってバッチリ伸びてるはずだぜ!

 次にM61A1 20mmバルカン砲の給弾装置に魔法のアクセサリーをプレゼントしてやった!」

「そうするとどうなるんだ!?」

「わからねぇのかい?つまりだな、魔力を糧にして無限に弾丸を精製出来るってことだよ!しかも弾種変更も自由自在だ!」

「……ワォ。とうとうプログラマー班の奴ら……やりきったんだな!ソレって確かゴスロリ嬢ちゃんが使ってた魔法だろ?」

「その通り!……だがな、ゴテゴテにめかしこんだお嬢ちゃんはちょっとだけクレイジーな性格になっちまったんだ」

「あぁ?いったい何が問題なんだ?それだけ美人にしたてあげたんだ。多少の問題くらい目をつぶるぜ?」

「ああ、よく聞け……実はな……。

 

 ――着飾り過ぎてうごけねえんだ!!」

 

「アホかてめぇは!?」

 

 アメリカ合衆国ネバダ州南部に位置する場所にあるとある軍施設、グレーム・レイク空軍基地と呼ばれる場所でノリノリで会話する二人。彼らは現在航空機魔導化計画の一つとしてF-16の改良を行なっていた。彼らの目指す目標点は無限の航続力に、無限弾装、そして慣性制御や重力制御も加えた新たな機動力の確保と研究する題材は山のように有る。それらがようやく形になりつつあるために大喜びしていたのだが、現在の魔力炉ではまだまだ魔力生成量が非効率であるため合致するサイズのものでは少しばかり足りない事態に陥っているらしい。そんな彼らを余所に、実はこっそりと月村家がとんでもないダウンサイジングを計り成功したのだが彼らはそれを知らない。それが幸か不幸かわからないが、まだまだ新たに生まれた鳥が空を舞うには難しいといったところだろう。

 

「おー、いてぇ……ところでケイン。お前さんメシまだだろ?これから一緒にどうだい?」

「お、いいねぇ。最近はちび狸のおかげでメニューに照り焼きバーガーとかが入ってたな。アレ食おうぜ」

「相変わらずお前さんはバーガーが好きだな。ちっとは他の物を食おうって気にもならねえのか?」

「勿論食ってるぜ。ポテトをな」

「そりゃただのセットメニューだろ!?」

 

 荒野と山々に囲まれたこの基地は天然の要塞であり、また後方であるこの場所を攻めるような輩はいない。そんな場所だから彼らの纏う空気は非常に和やかだ。最も今の時代はどこも大した差は無いが、昼時もあって相当に彼らは緩んでいる。

 

 しかし、まさにそんな油断を突くかのように基地は混沌に陥ることになる!

 

Woooooo~ Woooooo~

 

 突然けたたましく鳴り出す警報。耳をつんざく高音は明らかな異常事態を告げている。ソレを聞いて数瞬、ゆるんだ考えを振り払うようにして彼らは、彼らの周りの人員も警戒態勢に入った。いったい何が起きたのだ、と。

 

『屋外に出ている総員に警告します!Code:8810発生!繰り返します、Code:8810発生!屋外のスタッフはバリアジャケット換装後、直ちに魔力銃を装備し襲撃に備えてください!なおこれは模擬戦です!繰り返します、模擬戦です!スタッフは非破壊非殺傷設定であることを確認してください!』

 

 ざわざわと慌てふためいていたスタッフたちはそれを聞いて、ビタッとその動きを止めた。彼らの思いはひとつ。そう、

 

――またあいつか、という諦念である。

 

「ファック!メシを食わせろよあの狸!またいらん事しやがって!」

「そうは言ってもよぉ、もはや恒例行事になっちまってるんだから仕方ねぇだろ。やれやれ、今日の付き人は誰なのやら。オッパイマムだけは御免被りたいね……マムがいるといっつも戦闘が長くなるんだ」

 

 これは基地にとある人物が来るようになり始めてからのいつ起こるか、いやいつ起こすかわからないイベント。そう、つまり極めて真面目で苛烈な

 

「お遊び」である。

 

 その遊びはいずれ来る可能性のある魔導テロ対策の一環でも有り、スタッフの息抜きでもあるのだが。仕掛ける側の周到なタイミングは彼らのいらだちを加速させられることによって冷静でないところを狙い打たれ、ケガこそしないものの阿鼻叫喚の地獄絵図と化すのである。問題は仕掛ける側のメンツなのだが、とある一人は決まっているがペアを組んで攻めてくるもう一人が常に変わる。そのため即座に判断して対策を練らねばならず、この警報が鳴ってしまえば彼らの油断なんてものはゴミ箱に早々にポイしなければならない。

 

――ガガガガガガガガッ!

 

 さぁ聞こえてきたぞあの音が!コンクリート上を疾走するタイヤの叫び声が!それを吐き出すのは魔改造された「車椅子」の猛々しい回転音によるものである!車椅子とは思えないほどの速度で駆け抜けるソレはまるでジェットエンジンでも積んだかのような勢いで突進する!後方に吐き出すMGドライブの魔力流の残滓が彼女の通った道筋をキラキラと輝かせる!それはまさしく流星、彗星と呼ぶにふさわしい姿だった。走ることに特化しいかつく尖った黒い装甲を張り巡らせた車椅子を操るのは赤いスリットラインの入ったバイザーをつけた茶髪の少女。彼女が巧みに操る二本のスティックは戦闘機用の予備部品からちゃっかりぱくったフライトスティックに換装されている。それらから命令される各種武装、GAU-17 M134 ミニガンにも似た魔導ガトリングが目でもついているかのようにクリクリとあたりを見回し標的を探る。最早その姿は車椅子ではない!小さな戦車だ!

 

 その後ろを追従するのは同様にありえない速度で疾走する犬、いや狼!額の宝石、足に纏う装甲、特徴的な青の毛と白いたてがみをなびかせ、大型の獣が唸りを上げる。その姿にスタッフたちは気を引き締めつつも、少しだけ安堵した。

 

――ああ、よかった。今日はオッパイマムじゃない!

 

 あの人が出てくると大体大変なことになるのだ。地は砕けうっかり戦闘機を真っ二つにし、有り余る戦闘力で道行く道を遮る者たちごとバッタバッタと切り倒していく。そうなると最早彼らには手に負えない。幕が下りるのは9割9分の確率でコチラが全滅した時なのだ。だがあの狼、常識あるイログロのイケメンの彼ならばまだ手はある!彼はあえて弱点を露呈させ、上級者として正しく手加減をしてくれるのである。そうなればなんとかこちらにも勝ちの目を持たせてくれるのだ。

 

 ならば、今こそ戦おうではないか。我らの憩いの時のために!未だ腹に収まらぬ昼飯のために!

 

「総員、とつげきぃぃぃ!!!」

「今日の私は黒い王子様やでぇぇぇ!!!」

 

 そして中央で一人と一匹、その他大勢が激突した。飛び交う魔力弾、ドリフトする車椅子、地面から突き出る白い針にわんこの鳴き声。その場に残るのは実力ある襲撃者か、果たして運のいいスタッフか。その結果を知るものはこの場におらず、ただただ倒れ伏す真っ白に枯れた男たちの屍ばかりが残ったという。

 

 

 

 

 

「いやぁ~、今日もようやったわぁ。アリア~、私の成績どんなやった?」

「18人撃破ねぇ~。皆巧みに動くようになってきたから上等じゃないかしら?」

「そかそか。まぁ前よりかは減っとるけど、楽しいからそれでええわ」

 

 呑気に会話するのは先の襲撃者、八神はやてに審判を務めていたリーゼアリアである。彼女らはとある事情から度々この基地を訪れており、その度に少女は無茶をやらかす。彼女たちがこの基地へ訪れる理由は、用事のある人物がだいたいこの基地に引きこもっているせいだ。その人物は最近は割と外に出る機会は増えているが、管理世界と関わりを持つようになってからは逆に彼女たちの正体は秘匿しなければならない状態になっていた。

 

 闇の書の主とその守護騎士達。それが彼女たちが管理局に対し秘匿しなければならない正体である。

 闇の書とは古代ベルカに端を発するロストロギアである。本来は旅をする機能と復元機能を備えたデータ収集型のただの巨大ストレージデバイスであったのだが、過去に複数人の主達の手によって改造を施された末に暴走するようになってしまった。魔法の蒐集は他者のリンカーコアごと奪い取るようになり、強欲な主に隷属する形で守護騎士達が魔導師を襲う。そして闇の書が666ページを埋めて完成すると惑星を巻き込むほどの暴走を引き起こして転移するという、被害者を大量に生み出すはた迷惑な代物に成り下がっていた。その上外部からの操作による停止や改変は不可能となっており、無理に行おうとすると持ち主を巻き込んで転移する。要するに、災害に対処する管理局では全く手が出せない一過性の悪夢みたいなものだということだ。

 

 話は変わるが、ここグレーム・レイク基地にはある噂が存在する。ミステリーものが好きな、そうでないものも大体の人間が知っているまことしやかな噂。

 

 それはここに宇宙人、もしくは宇宙船が存在するというものだ。

 

 エリア51。当基地がある地区名だが、恐らく一般的な知識ではオカルトの代名詞として扱われている名前だ。実際ひどくバカバカしい話ではあるが、当地は無断侵入者は射殺される、撮影禁止といった看板があり、秘密裏な研究などもここで行われているのだからある意味では仕方ないことかもしれない。

 

 が、その裏付けをするまでもなく、つい先日衝撃的なニュースが地球全土を駆け巡った。

 

 国連により発表された管理世界の存在と次元航行艦アースラの地球来訪である。

 これにより明らかに人類と同種の宇宙人の存在が公式に確認され、いくつかの平和条約を結ぶまでに至った。それによりエリア51の宇宙人グレイという妄想上の存在は彼方へとかき消され、円盤型の宇宙船も無いという確かな結論が出されることになった。

 

 ところがどっこい、実際のところはホンマモンの宇宙人が数年前から基地内を闊歩していたのだが。

 

「ところで、君は何でここで料理をしているのかな?」

「ええやんスカさん。美少女の作ったおいしいもん食べたいやろ?」

 

 何かが焼ける効果音を背景に、一人の男が声をかけた。白衣に紫がかった髪、そして金の瞳を持つ地球の魔導開拓者。我らがジョニー・スリカエッティ。いや、あえてここでは元の名前、ジェイル・スカリエッティと呼ばせてもらおう。彼、ジェイルは諸般の事情からここで引きこもって魔法開発に従事していた。ジェイルは数年前、日本へと降り立った際八神家へアクションをかけていた。それは彼が教えられた前史に基づく行動であり、自身の興味とある契約に基づいた歴史の変化を生み出すためである。

 

 これにより闇の書は歴代で最も早く、しかも起動前のものを確保することが出来た。それにより八神家はジェイルの活動拠点であるアメリカに引越しせざるを得なくなり、現在ではラスベガスのウィンチェスター郊外に居を構えている。リーゼアリアがここにいるのは地球の魔導改革の一環であり、ギル・グレアムからの命令による監視任務となっている。守護騎士達に対し少しばかり壁はあるものの、温和なはやてに対しては垣根を超えて非常にフレンドリーに接している。前史においてはグレアムの心境が影響してか使い魔故に復讐心にとらわれていたが、今回はさほどひどいものではなかったためにこうして同行することができていた。

 

 以上が彼らの現在までの簡単な馴れ初めである。詳しくはもうしばらく後に語ることにしよう。ソレを詳しく語るにはさらに前の時期より語らねばなるからだ。本日はやて達がここに来ているのもそのためであり、時折訪れる友人ジェックとスカリエッティ達の変遷を聞くためであった。これらについて一番気にかけているのはむしろ守護騎士達のほうであり、彼女らからすれば管理局との接触はひどく危険を誘う要因の一つであるためだ。早期に闇の書を確保できた理由、ソレを知っててあえてジェイル達が魔法を公開し地球を危険に晒したこと、付き従うリーゼアリア等。一つ問題が起これば争いは免れないか細い糸の上に立っているようなもので気にならないわけがないのだ。そのため落ち着かないザフィーラはテレビを前に何故かシャドーを繰り返している。はやてに関してはほとんど興味本位であるため危機感らしいものは大して感じていないようである。

 

「あ、スカさんヤカンとって」

「もしもし、おたくのはやてがあなたの言付を破ってこちらに勝手に来ているのだが――」

「ちょいまちぃ、それはオカンや。……って何で電話しとるん!?」

「君がアポ無しで来るからだろう?帰ったら後でしっかり叱られるといい」

「ぐぉぉ、なんてことぉぉ……」

 

 彼女は情報と引き換えに帰宅後の怒号を手にしました、まる。

 

「それより、その目玉焼き焦げてるのだがいいのかい?」

「っは!しもたぁ……スカさんが話しかけるからやでぇ……」

「それは偏見というものだろう」

 

 飄々としたジェイルを尻目に、出来上がった目玉焼きを皿に移す。その出来栄えはあまりいいとは言えない。

 

「……なんや、今私何か大切な特技とか尊厳とか、そういうんを失った気がするで」

「失ったというより、元々手にしていないのではないかな?前史における君はこの年齢で非常に料理が得意だったと聞いているが」

「まぁたわけのわからんこと言うて混乱させようとしてもダメやで。……それもジェック君が関わりあることなん?」

「だいたい彼のせいと言えばいいかな?」

「おk把握したわ」

 

 とりあえずよくわからないまま納得する。今の自分が料理があまり得意でないのは彼のせいらしい。さもありなん、得るものもあれば失うものもあるということか。うん、さっぱりわからんけど、と適当にうなずいて再びアリア指導のもと料理を始める。

 

「やれやれ、母さんから時たま教えてもろうとるけど、いつになったらプロ級になれるんやろなぁ」

「努力とテクニックと愛情があればなんとかなるものよ。私が作ったの食べてみる?」

「アリアが作っとるのはねこまんまやないかい!人が食べるもんちゃうで!」

「失礼ね、他のもちゃんと作ってるわよぅ」

 

 やいのやいのと会話しながら時間はすぎる。ソレを見てジェイルは嘆息しつつも現状を変えることはしない。おおよそ自分も強欲であることを理解しつつ、この平和の多幸感に満足しているからだろう。思えば随分と自分もぬるくなったものだと感じながら彼は再び研究資料に目を向けた。

 

「ただいま戻りました主」

「食いもん買ってきたぜはやてー」

「おやつもありますよ~」

 

 そうしていると、バタンと扉が開いて再びの来客の音を告げる。今までここにいなかった守護騎士達の面々。シグナム、ヴィータ、そしてシャマルの女性陣3人だ。

 

「お、ありがとなぁ皆。……ん?ヴィータ、その後ろに隠してるもんなんや?」

「んげっ!な……なんでもない!気にしなくていいぞ!」

「んなわけないやろ!そんな大きいモン隠しきれると思うて……あーっ!?まぁたそんなバケツサイズのアイス買うて!いくらアメリカやからって限度があるやろ!?その量に慣れてしもたら日本で高級アイスなんて食えへんで!」

「フンッフンッフンッフッ!」

「げ、それは困る!」

 

 とかく小さな少女、ヴィータはアイスに目がない。うっかりスーパーで目にしてしまったアメリカンサイズのアイスを買ってきてしまっていた。味はともかくサイズはとにかくデカイ。いずれ日本に帰るつもりでいるが、量に慣れてしまったら日本のアイスでは物足りなくなるだろう。

 

「まぁまぁ、皆で食べればいいじゃないですか。これだけ人数がいればきっと食べ切れますよ」

「しゃあないなぁ。今回だけやで?」

「フッハッフンハッ!」

「わか……ってうっせぇよザフィーラ!何やってんだ!?」

「ム、すまん。ボクシングを見ててつい、な」

「こら!こっち向き!」

 

 人数が増えてさらに騒がしくなる一室。こういう雰囲気を生み出せるようになったのはつい最近の話だ。はやての足は前史と変わらず、しかし進行は遅いものの不自由になっていくのは変わりない。それまではジェイルによって治る、とは明言されていたものの、ある時期を待たなければならない点から本当に治るのかと疑っていたこともある。その時までこの部屋は正しく医務室のような状態だった。医者と患者、保護者が対面して向かい合うそれだけの寂しい部屋。時折部屋にナンバーズの誰かがいることもあったが、彼女らのコミュニティ能力を考えれば想像するまでもなく察することが出来る。つまり、間が持たない。この中で一番はやてと仲が良かったのが世話焼きのチンクだけであり、他の面々は早々に仕事に逃げた。クァットロに至っては会う前から逃げ出している。最近はマシになりつつあるが、彼女の教育はジェイルの中で上位に位置していた。

 

「あ、はやてちゃん。私も料理手伝いますね!」

「おいやめろ!はやてははやての母さんみてーにギガウマに作れるようになるんだから同じレベルに巻き込むんじゃねえ!」

「ムカッ!私だってちゃんと作れますぅー!」

「フォーク持っておいかけてくんじゃねえよ!」

「お、エルンガーがおるで」

「……主、エルンガーとは一体……」

 

 紆余曲折しまくったが準備が終わり全員がようやく席についた。テーブルには色とりどりの料理が並んでいる。ヴィータは最早喰い気が優先してこちらを向いておらず、シャマルはニコニコはやての世話係。せいぜい聞く体制を整えているのは若干ピリピリしているシグナムと、黙しているザフィーラくらいか。内容を知っているリーゼアリアは蚊帳の外。はやてはまぁ、時折事情を匂わせる発言を繰り返していたためか聞き耳立てつつも随分とリラックスしている。それでいいのかベルカ一同。

 

「さて、それでは話してもらおうかスカリエッティ博士。何故あなたが早期に闇の書を確保出来たのか。私たちの出現タイミングをつかめたのか、……そして、私達ですら覚えていない闇の書の正体を知っているのか」

 

 シグナムの発言を皮切りに他のメンツも視線を揃える。一応気になることは気になるか、とスカリエッティは微笑みを崩さない。

 

「そういえば、ジェック君はどうしたん?最近姿見せへんけど」

「主、その人物はどのような?」

「うーん、適当で放浪者で……変人かな?あとはちょっとだけテレビに映っとった高町なのはちゃんと似とるわ」

「……その者は、我らにとって障害となりえますか?」

 

 守護騎士としては当たり前の疑問に返したのはジェイルのほうだ。

 

「それについてはありえないね。むしろ、君たちの保護に尽力を尽くしているくらいさ」

「それは我らの力を悪用したいからなのでは?」

「彼自身が君たち以上の力を持っているから、必要がないね」

 

 シグナムはムッとした表情を作るが、何かを察したのか肝心な部分を切り返した。

 

「つまり、そのジェックという者が核なのだな?むしろ、あなたもその協力者でしかないということか」

「――ハッハッハ!」

 

 核心を突いた言葉にジェイルは笑う。いやはや素晴らしい。たかだか今の会話程度のヒントでそこまで考えつくとは、思いの外ヴォルケンリッターのリーダーというのは聡明ということか。

 

「クク、その通りさ。私自身も彼に救われた……いや違うな。この場合は天運を得たというべきか。もっとも、感謝はしてるからこそこうしてここにいるのだがね。はやてへの答えだが、ここしばらくは忙しかったし、最近はロストロギア狩りにでも出かけているのだろう。私自身も少々、彼に頼み事をしているのでね。ああ、彼が帰ってくれば施術を始めることが出来るな」

「ちゅぅことは、まだ中におる子も解放できてようやくまた自分の足で立てるようになるってことやな!」

「ああ、そのとおりさ」

「よっしゃー!燃えてきたでー!」

 

 やる気に満ち溢れるはやて。笑顔が心から溢れ出ている。

 

「で、結局どうしてこういう状態になってるんだ?話すんだったらさっさと聞かせてくれよ」

 

 焦れたヴィータが催促しだした。うむ、とジェイルは返事をして両肘をテーブルに置いた。その姿を見てはやてはイ○リ指令っぽいなとつぶやいている。

 

「いいだろう、あれは今から36万……いや、1万4000年前だったか、まぁいい、私にとっ」

「いいから早く言えー!!」

 

 もはやグダグダだった。だが、彼を語るにはこれくらい適当であるほうがいいだろう。彼が行った事自体はさして大したものではないのだから。

 




というわけで語り出しです。

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