魔導変移リリカルプラネット【更新停止】   作:共沈

38 / 47
Vividのジークリンデ・エレミアが強すぎる……!
衝撃吸収、魔力防御があるバリアジャケットに対してサブミッションを使用するのは前にも言ったと思いますが、タイマンでの魔導師潰しはまさしく理想形ですね。

今回はジェイル過去編。ちょこちょこ地の文にウーノ視点が混ざっているので呼び名がジェイルだったりドクターだったりしてます。申し訳ない。


Future drag

新暦54年ー西暦1994年

 

 ジェイル・スカリエッティは無感動を持て余している。

 

 「無限の欲望」ジェイル・スカリエッティ。後に広域次元犯罪者として名を広める事になる科学者である。彼の生まれは実在するかどうかわからないとされるアルハザードに端を発するものであり、そして当時生きていたオリジナルとはまた違う人物だ。

 

 クローン。彼は最高評議会によって生み出された新たな個体であり、オリジナルの知識は継いでいない。彼を生み出した理由はその叡智にこそあったはずであり、しかしそれは成されなかった。アルハザードにおいて生き延びるために若い体を培養して取り替えることは、衣替えをする程度に簡単であり当たり前のシステムだった。だがこのシステムはクローンが生まれると同時に、取り替える本人が「死んだ」状態で初めて成立する。

 

 人間が、自分が「死んだ」という認識を持てるかどうかによってクローンの自意識は決定する。オリジナルか、それとも新しいクローンの意識か。それは非常にシビアなタイミングで行われる。人に宿る魂は情報、記憶を持ったエネルギーであり、死亡時にそれは昇華される。だが、同じ構成の体があれば不思議な事に、自意識はクローン体に魂、情報エネルギーごと転移するのだ。これによりアルハザードでは完璧な肉体の取り換えに成功する。では、そのタイミングが違えるとどうなるか。

 

 クローンを転移より先に目覚めさせてしまうと、その時点でクローンは自身が生まれたという情報を記憶する。そうなってしまえば最早知識を持っただけの別の個体として新生するのだ。それはクローンが新たな魂を形成してしまうことにほかならない。それ故新生クローンが生まれてしまった場合、「知識」と「自己」の乖離に苦しむことになる。それはクローン特有の現象であり、また客観的に他者がお前は「オリジナル」だ!と押し付けて本当を知ってしまった場合はより顕著になる。経験が、魂が新たに生まれたのだから、当然以後の行動もオリジナルとは変わってしまう。それはクローンが新たに学んだ人生、経験であり、その影響で微細な動作や利き手、リンカーコアなどにオリジナルと差異が出てしまうのは当たり前のことだ。

 

 

 そして、そのシステムを最高評議会は知らなかった。

 オリジナルはなんらかの事情で存在せず、記憶のバックアップも成されていない状態でDNAから再生させたとしても、当人とおなじになるわけがない。勿論アルハザードの叡智を完全に解析しきれなかった最高評議会の手落ちでもある。結果、ジェイルは何も持たない新生児として誕生した。苦し紛れに最低限の知識こそ刷り込まれたものの、即席で役に立たないのであれば閉じ込めて延々と開発のみに従事させるほかなかった。それは紛れもない彼の生まれながらの不幸だった。

 

 そうして生まれた彼は生命操作技術の完遂と、そのための空間づくりという夢へ動き始める。それが最高評議会に刷り込まれたものだと薄々わかっていたものの、彼にはそれ以外にすることがなかった。

 

「…………やれやれ、いい加減老害どもに付き合うのにも飽きてきたね……」

 

 開発資料をデスクに散らばらせながら彼は愚痴る。それも仕方ない、一体何年ココに閉じ込められて開発を続けていただろう。スカリエッティが認識できる世界は拠点を置いた人里離れた洞窟しかなく、ひどく狭い。そして彼が手に入れられる情報は客観的でしか無く、感動を抱くには遠いただの記録でしか無い。美しい光景も、本当に美味しい食事も、己の身で何も体験したことのない彼は徐々に精神をすり減らし無気力になっていく。それはいかに興味を持った物を調べ開発を続けようとも、限られた世界でしか生きられない彼の気が狂うに十分だった。そして開発はほんのわずかな慰め程度にしかならない。ああ、もうたくさんだ!作れと言われたから作り続けてきたがそれが何になる!本当に自分が欲するものもわからず!自分が生まれた意味すら知らず!成果は全て老害に搾り取られどうあがいても己のものには成り得ない!

 

 最早瞳は胡乱げに揺れ、ガリガリと引っ掻いた頭皮は血に濡れ髪はボサボサになった。もう心は限界だった。

 

「ああ、そうだ。だったら壊してやればいい。こんなくだらない世界なんて……!」

 

 そして彼は静かに狂い、その頭脳を持って予定を練ろうとして、

 

 

「それ、少し待ってくれない?」

 

 

「――――――っ」

 

 自分しかいなかったはずの室内にいた誰かに声をかけられた。急激に膨らみかけてはじけようとしていた熱がゆっくりとしぼんでいく。驚くよりもまず彼は期待した。予定外のイレギュラー、奇跡、なんでもいい。現状を変えられるなら、彼は藁にも縋りたい気持ちだった。

 

 ゆっくりと背後を向く。そこには子供がいた。茶髪でくりっとした目をした可愛げのある、性別不詳の誰か。それが伽藍堂の視線でジェイルを射抜いている。およそ見た目は5歳くらいか、しかしその予測に違えて、先の言はしっかりと理性的な響きを持っていた。

 

 いつ入ってきたのだろう。扉は開いていない、アラートもなっていない。警備を任せていたウーノもこちらに来る様子はない。全くもって謎、そんな人物がただの子供であろうはずがない。

 

 だから聞く。

 

「君は、なんだ」

 

「なんだ、とは失敬だな。だが的を射ている質問でもある。答えるならば、そうだね……ただの現象、もしくは神といったところかな?」

 

 ずいぶん大きく出たものだ。鈴のように高い声色で話す子供の――喋り方からすれば男の子だろう――彼の口調は抑揚がなくその審議を見定めることが出来ない。現象、それは物理的霊的なんらかの要因によって起こりうるシステムに属するものであり、神、彼はシステム自身ということか。

 

「なるほど、人間の形を採った神か。となると、おおよそこの部屋にもシステムを濫用した反則でも使って忍び込んだということかね?」

 

 口元だけでにこりと少年は笑う。実に胡散臭い。対人経験が絶望的に少ないジェイルですらわかる、あんな貼りつけただけの笑顔なんて見たことがない。

 

「そうだね。ところで、僕も質問があるんだけどいいかな?」

「構わないさ。君との会話は中々に楽しくなりそうだからね」

 

 相対する者にも大胆不敵。しかしジェイルは決して油断しない。彼の一言一句が己の人生すら左右する可能性があるのだから。

 

「なら、あなたの欲しい物をいくつか聞いてくよ」

 

 そんなもの、どうせ全てイエスで答えるに決まっている。何せ自分は「無限の欲望」なのだから。

 

「金は?」

「欲しい」

 

「名声は?」

「欲しい」

 

「自由は?」

「欲しい」

 

「平和は?」

「欲しい」

 

「友人は?」

「欲しい」

 

「家族は?」

「欲しい」

 

「穏やかな生活は?」

「欲し……ふむ?」

 

 スタンダードな欲求から徐々に変化していく質問に、ジェイルは不思議な感覚を覚えた。たしかソレはいつか手に入らないと知って、いや違う。そもそもそんなものがあると知らなかったから望んですらいなかったものではないか?

 

「無限の欲望って、随分と大胆な二つ名だよね。いや、元は開発コードだったっけ。でもそんなのはごく普通の、当たり前の事だよね」

「……何が言いたい」

 

 聞けば帰れなくなってしまう予感を覚えた。今までのジェイル・スカリエッティを構築してきたアイデンティティをガラガラと崩しかねない危険な未来。一寸先は闇、だがその一歩を踏まずして何がジェイル・スカリエッティか。

 

 

「そもそもね。欲、なんてのは死ぬ時まで皆当たり前のように持っていることだ。それは負の感情だろうと、そこに「したい」という願望が有るならほら、生きている限り無限なのと何が違う?死にたいと思うのも、生きたいと思うのも、なにか大切な物を守りたいと思うことも、奪いたいと思うことも全て欲だ。人は常に何かを欲していて、欲そのものには何の貴賎もない。そうは思わない?」

 

 

「――――――――」

 

 衝撃的すぎて、言葉が出なかった。誰もが持っている普遍的な感情。己の際限なきソレが特別なものだと思っていたのが間違いだと、彼は言った。つまり、自分は、そこら中にいる凡人たちと何一つ変わらないただの人間であると思い知らされてしまったのだ。彼の言ったとおり、「無限の欲望」はコード名であり正しく己を指す記号ではない。籠の中の鳥である己が手に入れられるものが制限されていたから情報に過敏になっていただけで、いつかコード名でそのまま揶揄されるようになったからそれが自分自身だと思い込んでしまっていただけだ。

 

「……ちなみにだが聞かせてくれたまえ。2つの欲求がかち合ってどちらかしか得られぬ場合、それは我慢をしているということではないのかね?」

「わかっていないね。そもそも天秤にかけてしまう時点で、あなたは「最善策を用いたい」と欲を出しているじゃない。もしくは「どちらかを犠牲にしてでも成したい」事があるかな?欲求というのは二極論で語れるものではないでしょう?それこそメリットデメリットを判断の材料に用いている時点で、あなたは既に凡人だよ」

 

「…………ククク」

「うん?」

「ッハハハハハ!アッハハハハハハ!そうか!そうだったか!私は凡人か!なるほど、理解はしたよ!」

 

 腹の底からの笑いを生み、しかしジェイルはその激情を怒りという形で少年にたたきつけた。

 

「だが、納得は行かない!!何故私のことをそこまで知っているのか!私ですら知らない私の事を理解していたのか!そして……!

 

――どうして私を説き伏せた君自身の言葉にそこまで説得力がない!?」

 

 まるでタブーを初めて触れられたみたいに、ジェイルはぶちキレた。己を暴かれるという行為は誰だって逆鱗に触れること。

 

――お前に言われたくはない。

 

 彼が抱いたのは至極当たり前の感情だった。

 それもそうだろう、いきなり現れた少年は人の心にズケズケと侵入し、あまつさえその本人の説得は理路整然としていたもののおそらくは彼の経験則そのものではなかった。まるで機械が淡々と音声を垂れ流しにしているようなイメージしか抱けない。少年は変わらず無表情で、説得するならもう少し言葉に力がにじみ出る事くらいジェイルは知っている。ただネタがあるから述べてみただけ。それを勝手に理解してしまったジェイルの一人相撲のなんという悲しいことか。二人で会話しているというのに何も感動を得られない。ジェイルの初めての行動はとてもさみしいものになった。

 

 そして、それだけの事をしでかす理由が一体少年のどこに有るというのか。おおよそ、自身と接触しなければならないような目的があるのだろう。だとしたらそれは打算で、謎で、ジェイルは裏付けを、解明をせずにはいられない。彼の行動の発端、ルーツを知る必要がある。でなければ、説得されてしまった自分は……!そこまで考えて、熱くなりすぎた感情は言葉を発するのすら止めてしまった。

 

「…………まぁ、それは仕方ないね。何せ、こちとら生まれたばかりだ」

「何?」

 

 5歳台のナリをして生まれたばかり、それは辻褄が合わない。普通ならば。

 しかしここには培養槽があって、その手の研究を己がしていることからあっさりと彼は回答を得る。つまりこの少年は、人工的に生まれたのだと。とすれば少年は自分の技術を使って他所で作られた研究体か何かだろうか。そうであれば最高評議会の手にかかっている可能性が高い。それはひどく落胆する事実だ。

 

「生まれたのはいつだ?」

「およそ新暦86年ごろ、かな?」

「…………何?」

 

 おかしなことを聞いた。現在は新暦54年、およそ32年も先のことだ。それはつまり

 

「君は未来から来たということか。それを証明できるのか?」

「そうだね、こんなのはどうだろう」

 

 そう言って提示されたのはいくつかの資料。これからの管理世界における為替の動向や社会情勢等のある程度は予測が現在からでも立てられるもの、ナンバーズの娘たちの詳細なデータと未来での運命、そしてジェイル自身が行った数々の悪行、最高評議会の死、己を生み出した高町なのはというキーになる人物や夜天の書、論文を出そうとしたプロジェクトFに関することまで様々にあった。

 それら全てを流し読む勢いで、しかし穴が開きそうなほど強い視線でジェイルはそれらの情報を吸収していく。ジェイルはこのデータが未来のものであるという確信があった。少なくとも自身のことや娘のことは具体的な部分で合っている。未来でのこととはいえ最高評議会の面々が死んだことは驚きとともに、自分の計画の実行力を自画自賛した。

 

 だが何より驚いたのは、罪を犯した事で逮捕された自身の顔がどこか満たされたものだったことだ。

 牢獄に入れられ研究もできず、無人世界故にほとんど人がいない。こんなところに閉じ込められるのはおおよそ知性の感じられない者達ばかりで、話し相手もいない彼にとってはどう考えても苦痛でしか無いはずだった。それでありながら、彼はドゥーエが死んでしまったことにわずかな後悔を抱きつつも、家族全員のある程度の安全が保証されたことに満足していた。そう、満足。決してスカリエッティが得られるはずのない感情を未来で持っていることに、今の彼は憧憬を抱いていた。

 そして、前回の彼には無かった即効性のある人物が、階が見えている。これはまたとないチャンスであることを彼は知った。

 

 確かな背景を知ったことによりジェイルは徐々に冷静さを取り戻していった。そして同様に、彼がどこにも所属していないことに再び希望を見出した。

 

「ふむ、少し長話になりそうだね。そちらに座りたまえ、今飲み物を用意させる。ウーノ、紅茶を持ってきてくれ。二人分だ、頼むよ。いや?客人のだよ。私たちの将来を決めるかもしれない人間だ、丁重に扱ってくれたまえ。……待たせたね、始めようか」

 

 そうして彼らは、ようやく話し合いの席に着くことになった。

 

 

 ウーノの初見での感想は、「誰だこいつは」という邪推まみれのものだった。紅茶を二人分、と言われ自分とドクターの和やかな、そしてレアなティータイムが始まるのかと思えば片方のカップに口をつけるのは年端もいかない少女(?)である。目がくりくりして可愛らしくてとても憎たらしい。こんな素晴らしいボディをドクターにもらったというのに、まさか彼がロリコン趣味だとは決して思いたくはない。加えて、自分の監視網をかいくぐってあっさりとドクターの前にいるのも気に入らない。嫉妬まみれのウーノがまずしたことは、素性の知らぬ子供を問い詰めることだった。

 

「何者ですか、あなたは」

「そういえば、まだ名前を持ってないね」

「…………は?」

 

 そして早速躓いた。彼女のプレッシャーはまるで意に介さないというか気づいてすらおらず、少女は名前すら持ってないというマイペースぶりを発揮している。

 

「そういえば君は、転移後ハラオウン氏を救出した後ですぐにココに来たのだったね。奇跡の脱出劇として大騒ぎされていたよ」

「ハラオウン……、闇の書の件ですか」

「そう、アレに関わっていたのはそこにいる彼だよ」

 

 なるほど、話からすると彼は転移に関するなんらかのレアスキルを持っていると……うん、彼?

 

「ウーノも勘違いしていたか。あんなナリでも男の子だそうだ。まぁ元にした人物が人物なのだから仕方ないようだが」

 

 むしろそれは今年一番のサプライズではないだろうか。こんな可愛い子が男の子なわけが……!いや、見た目がああだからといってドクターに危害を加えない可能性が無いわけではない。一体何を話すのか知らないが、しばらくここで聞かせてもらうことにしようと隅で立っていることにした。

 

「へぇ、これは美味しいな。紅茶ってこんな味なのか」

「そういうことは君も知らないようだな。ウーノは家事が万能だからね、この程度は造作も無い」

 

 そこは家事より実務能力の方を褒めてほしい、とウーノは微妙な顔をしている。

 

「知識としてはあってもね。……そういう意味では、あなたと大差がないか」

「クク、お互い知らないことが多いもの同士、仲良くしようじゃないか」

 

 そして驚きで再び表情が変わる。まさかドクターの口から仲良く、などという言葉が出ようとは。一体どんな心境の変化があったのか、今までのいきさつを知らないウーノにはわからない。だがジェイルも、今は少年に心惹かれているが先までのやり取りはしっかりと内面にまで響いていた。少しずつ、ではあるが彼も何かがかわろうとしているらしい。

 

 

「まずは確認からさせてもらうとしよう。君は新暦86年頃、時代の英雄と称される魔導師高町なのはの執念によってレリックとジュエルシードを用いて生み出された。現在はそれらを核にレアスキルの状態維持に務めているため基本的に魔力は無いに等しい」

「そう、そして滅亡する管理世界から時間を遡ってこの時代にやってきた」

 

 時の魔法は現在全く手がかりがなく、管理局においては「不可能」とまで言われ研究されていない魔法の一つだ。この少年はソレを使えるという。だがおどろくべき点はそこではなく、その魔法ですらシングルアクションで行えるレアスキルの範疇にすぎないということである。

 

「君のレアスキルは「縁」を操作する能力、か。時間を渡ったのは他者が結び合う縁を渡ってきた結果によるものということか。転移とセットということだね?ちなみに縁、いや運命と言い換えてもいいか。時間を渡る場合未だ出会ってない者同士の縁というのもあるのだろう?その場合はどうなるんだい?」

「縁があるというのはなかなかやっかいでね。これがある程度どのような行動をとっても収束するようになっていて、会うべき人間はどうしても会うんだ。僕の能力は基本的に結果が先に来るから、渡っているのはどちらかというと因果の流れみたいなものだね。もっとも、これから人為的に介入を行なっていけば弱い縁程度ならあっさりと切れてしまう。だから僕の転移は未来に向かうほど状況に左右されやすいんだ。といっても、自分自身が世界とつないだ縁を使えばある程度は自由に行き来ができるけどね」

「なるほど、ミクロの部分では応用が効きづらいということだね。

 ……そうだ、思いついたよ。君の名前だ。ジュエルシードとレリックでジェック。そして君を生み出した縁を込めてライン・高町。そう、ジェック・L・高町なんていうのはどうだい?」

 

 へぇ、と少年の顔がわずかに動いた。そこには感心が浮かんでいる。

 

「驚いた。娘たちに番号で名前をつけるあなたにそんなセンスがあったなんて」

「何、これでもそれなりの愛着はあるからいいのさ。で、どうだ?気に入っていただけたかな?」

「ああ、いいね。ソレで行こう。今日から僕はジェックだ」

 

 こうして予想もしない人物から命名されることによって彼はようやく確かな存在として地に足をつけた。言うなれば今までの彼はこの世界と大した繋がりのない、ふけば消える程度の存在であった。それは後にも先にも、個と個を認識するためのタグとして名前をつけるという行為は非常に重要なファクターとなるだろう。

 

「ちなみに他にどんなことができる?」

「さっきも言ったとおり、この能力にはまず結果が先に決定される場合が多い。例えば「僕と銃弾は縁がない」としておけば、どのような過程を得たとしても銃弾が当たることはなくなる、といった具合かな。意図的に避けるにしても、偶然しゃがんで当たらなかったとしても、必ずそういう風になるように収束する。これによって誰かと会いやすくなるような「縁結び」やさっき言ったとおりの「絶縁」などが可能、かな」

 

 聞けば聞くほどとんでもない能力だ。だがその汎用性故に結果をピンポイントで持ってくることができるが、ソレ以外には意味が無いという弱点も存在している。銃弾に縁がない、とすれば殴りに行くことだって魔法を使って当てることも可能だ。そこに付け入る隙がある。だが、例えばの話だが「個人」が「世界」と縁を切られてしまった場合は果たしてどうなってしまうのだろう?と不意にウーノは考えてしまった。もしもソレが出来るのであれば、邪魔な相手を尽く消し尽くす事が出来てしまうのではないか。もしもドクターが彼の不興を買ってしまったら、一巻の終わりだ。シングルアクションで発動できる以上、その場にいる全員に対抗策がない。それはとてつもない恐怖だ。

 

「……といっても、人間は自分の意志で行き先を決めるものだからね。強固な意志に基づいてるものなら効きづらいと思う。まだ試したことはないけど」

「なるほど。それで、それを用いて君は何をしたい。いや、何をするようになっているのかな?」

「何故言い直す?」

「君はまだ、高町なのはの願いを基盤にしたプロットに従って動いているだけだ。言うなればまだ生命でなく、魔導プログラムでしかない。そんな君が自発的な願いを持っているとは思えないね」

 

 自我というものが一体何に由来するものなのか。それはまだ人生経験が少ないジェックにはわからない。なるほど、とだけ納得した時再びジェイルは話しだす。

 

「それでだ、私と契約をかわさないか?」

「契約?」

「そう、契約だ。私としても、君の目的のために使役されるだけというのはゴメンだ。最高評議会の老害どもと頭をすげ替えただけでしかない。だから私がしたい事に君が手を貸し、君がしたい事を私が手伝う。それならば対等だ」

 

 特に考える様子もなく、ジェックはその要求に賛成する。

 

「わかった。要求は何?」

「そうだな、まずは最高評議会の監視を逸らし脱出を図ること。あとはそうだな、さっき君が私に質問したものをくれるならそれでいい」

 

 ジェイルにしては随分と低い要求のように見える。しかし彼の自由というのは言葉以上に重要な響きだ。おそらくは、それだけを得られたなら後は彼自身の手によって勝手に邁進していくだろう、という確信がジェックにはあった。

 

「そう、じゃぁこちらの要求は……ちょっと煩雑だ。まずは高町なのはが魔法に傾倒しすぎない環境を地球に作りたい。そのために地球に魔法というものがあることを公表したい」

「ならまずはアポイントメントをとるべきかな。ならば――」

 

 そうしてジェイルとジェックの作戦はジェイルの立案能力によってポンポンと決まっていった。第一目標は高町なのはが魔法に縛られない選択肢を自由に持てるようにすること。そして管理局のむやみなスカウトを止めるための組織体制を作り上げるための改革を促すか、高町なのはが管理局入りする場合でも不当に扱われないようにすること。これらは全て高町なのはを理由にしたものであるが、それを為すための大規模な変革による地球と管理世界の亀裂を生まないようにするためという理由もある。決定的にこじれる可能性があるならば地球が揚げ足取りが出来る状況にしてしまえば、善良精神の塊をうたう組織であれば反論は不可能になるだろうという目論見だ。

 

そして決まった内容は以下、

・ジェイルの脱出は準備を考慮し1年後を目標とする。

・その後、地球でコネを作り自身の身の保証を確約してもらうため国連総長に接触する。

・各国上層部に秘密裏に管理世界というものがあるのを教え、魔法を教える条件として足踏みを揃えさせる。

・戦争理由を抑えるための草案の提供、平和利用へ向けたアプローチ。

・聖王の鎧を解析し、衛星型起動装置を静止軌道上に撒いておく。

・ジュエルシード事件は形を変え起こす。

・闇の書を確保し安全な解体を行う。

 

管理局側

・クライド・ハラオウンを筆頭に管理局を纏めてもらう。

・英雄思想的な体制を見直し、文官も戦えるように装備を拡充する。

・未来情報を元にブラックリストを作成し、最高評議会派を更迭する。

・上記を一挙に行い、管理局の暗部を世間に晒すことで局の信頼性を下げ各世界の政府が介入出来る余地を作る。

・それによる局の再構築を目指す。

・最高評議会はジェイルの希望によりどのような形であれ三途の川をわたってもらおう。

 

ジェックの行動

・高町なのはに関わった人物の知る限りでの不幸の排除。

・当初通りの目的であるロストロギアの追放による未来での安全確保。

 

 このような具合であった。

 

「契約成立だねジェック。これからよろしく頼むよ」

「こちらこそ。僕達の目指す未来の為に」

 

 それからは時が来るまでお互いはやるべきことに走った。ジェイルは己の自由のために、ジェックは未来の安全と高町なのはのために。その傍らで長い付き合いになるのだろうとため息を吐くウーノの姿もあったが、彼女は彼女でドクターにべったりなので彼が嬉しそうにしているのであればただそれでいい。そう思いながら手伝いを行うのであった。




条件付けはアバウトですがだいたいこんなかんじで、という初期案。まぁネタとしては1st部分でやりきったので別に書いても書かなくても皆さんお分かりいただけるのでしょうけど。局再構築に関してはまたいずれ書きます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。