魔導変移リリカルプラネット【更新停止】   作:共沈

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Alan wakeやってたせいで文章が凄まじくおかしなことになっている。1$セールは悪魔の香り。

現在ちまちまなのはのイラストを書いているが、下半身をショートパンツにするかどうかで悩んでいる。地球の良識ある皆さんの前でパンチラはご法度なのだ。


cofy

新暦55年 西暦1995年

 

 コフィー・アタタンは昼下がりのダウンタウンを一人でさっそうと歩いていた。その姿を常識人が見れば驚愕し、有識者が見れば卒倒するかガードマンをつけろと騒ぎ立てるだろう。国連事務総長になって間もない彼だが、そんなことは知ったことではなく必要性も感じない。何故ならこの街はコフィーのふるさとであり、庭であり、町民の全てが彼の家族だからだ。

 

 彼は生まれた時から異常だった。いや、真理を見ていたという方が正しいか。彼が生まれて間もない当時の街はひどく荒れていた。発展する街と激動の時代、そして戦争が彼らの余裕を完全にそぎ落としていたからだ。みるみるうちに人々は暴力的になっていった。その中でコフィーは子供ながらに治安維持に奮闘していた。人々が争っている姿を見るのはとても悲しかった。「暴れないでください」と声高に叫ぶのは楽だが、表層的なものでしかない安易な行動を彼は取らなかった。

 

 ここが彼の素晴らしい所で、才覚を発揮しカリスマの片鱗が見え始めた頃である。彼は一軒一軒を回り丁寧に意見を聞き、人々の心に何が影を生んでいるのか、徹底的に根っこを確認しまくっていた。ソレが終わると流通や食料関係、家庭問題とあれこれ手をだし、時間こそかかったものの少なくとも彼の街とその周囲はある程度の平穏を保つことが出来た。以来彼は町のご意見番として大人を差し置いて中心的な人物となった。彼はまごうことなく、誰にも慕われる天才だったのだ。

 

 そんな彼だからこの街で知らない人間は誰もいない。通る人々に陽気に挨拶され、日々の生活を誰もが話し、地元のローカルな話題はおおよそ浚っていた。最近の話では滅多に見ない美人がこのあたりを観光しているらしいことを知った。土地勘のない人間がこの辺りをウロウロしているのは珍しい話だ。

 

 

 一時間ほど街を練り歩き露店で食べ物を買い、空が茜色に染まる頃には我が家へと返ってきた。最近は米国の方に住んでいるためにあまり利用していないが、ハウスキーパーのおかげで庭先はキレイに片付いている。門前のポストを覗けば一通の手紙があった。それはコフィーの友人であるサンタナからのものだった。久しい友人からの頼りに嬉しくなって、彼はこの時感じた違和感を後回しにして封を切った。手紙には彼のたどたどしい文字でこう書かれている。

 

『やぁ親愛なるコフィー。○月✕日の21:00に僕が魔法を見せてあげるよ。楽しみに待っていてくれ』

 

 懐かしい彼の陽気さや唐突さを思い出しながら、✕日は確か明後日だったなと考えた時、自分の滞在予定を思い出した。滞在予定は一週間、そして2日前からここにいるので時間的にはギリギリだ。そもそも、彼は私がいつココに来るか知っていただろうか?しばらく連絡していなかったからスケジュールを知っているはずがないのだが。そう思ったものの、コフィーはまぁ彼だから仕方ないかと納得した。コフィーを振り回し続けてきた男はいつだって彼の予定を鑑みたことはなかったのだ。

 

 しかし魔法、ね。もしかして彼は手品でも習得したのだろうか?案外一人で人体切断ショーなんてやってのけるかもしれない。彼はコフィーを驚かすことが目的だろうが、単純に驚くだけでは芸がないのでこちらも何かしらの気構えを持っておいたほうがいいだろう。そう考えて歓待の準備をしながら、コフィーは当日を待った。

 

 

「……あと5分か。それにしても来る気配がないな。何かあったのか?」

 

 夜に静まる部屋の中で、コフィーは一人その時間をリビングで待っていた。しかし外から車の音が全くしない。サンタナは非常に律儀な男で、予定の10分前には来るような日本人みたいなやつだ。この年齢にもなってどうこう言うわけではないが、事故でも起こしたのではないかと不安が鎌首をもたげる。そうして不安と来ない苛立ちに両ばさみにされながら、とうとう時間が来てしまったその時。

 

「な、なんだ!?」

 

 唐突に部屋の中央が光った。光を発する何かは不可解にも空中にわずかに浮いてゆっくりと回転している。円陣、いや魔法陣だ。それはまるでコフィーが信仰するスピリチュアルな何かにも黒魔術的な何かにも見えた。どんどん強くなる光が一定に達した時、それは何事もなかったかのように消え代わりに小太りの男が立っていた。コフィーの友人サンタナ、まさか彼があんな現れ方をするとは思わなかった。少なくともリビングに隠れるような場所はない。加えて人の気配も全くなかった。一体彼はどんな手品を用いたというのか、コフィーは強く興味を惹かれた。

 

「やぁサンタナ!久しぶりじゃないか。今のはどうやったんだ?」

「ああコフィー、どうだいすごいだろう?いいかよく聞けよ、ありゃ手品じゃねえ。本物の魔法さ!」

 

 ここでコフィーがしばらく感じていた違和感が確信に変わった。まるでもやが晴れたような気分で彼は指を突きつけた。

 

「……君、サンタナじゃないな?誰だね?」

「おい?何を言ってやがる?俺がサンタナ以外の何者に見えるっていうんだ?」

 

 確かにそうだ。言っている自分もおかしいが、だが同時にサンタナの行動もおかしいのだ。

 

「サンタナという男はな、まず友人に出会ったら男女問わずキスをぶちかますんだ。彼なりの親愛表現としてな。最後にあったあたりはヨダレまでセットだったよ。最悪な気分だった」

「…………」

 

 サンタナらしき人物は黙って聞いている。不思議にも彼は微動だにせずこちらの言い分を聞いていた。

 

「そしてもう一つ。郵便はね、14時を過ぎたら来ないんだ。この辺りを配るトーマスは生真面目なうえにせっかちでな。ミスをしない上に配り終わったら早々に帰宅するんだ。だからあの時間に手紙があるなんてことはないんだよ」

「……それじゃあ、俺は誰だって言うんだ?」

 

 まぁまず間違い無く知人ではないだろう。

 

「知らん。だがな……

 

 男のくせに内股で歩くアホがどこにおる!!!」

 

 彼の怒声にサンタナの空気が凍った。見開かれた目は驚きに「そういえば」と今頃思い出したような感情が含まれている。指をさしたままコフィーはサンタナの動きを注視した。

 

「………………」

「………………フフ。確かにそうね」

 

 サンタナの姿をした者から飛び出した声はまさしく想像した通りの女性の声だった。さすがに事実を突きつけたものの、ここまであっさり声が変わるのは驚きに尽きる。今度はコフィーが目を見開いてしまった。

 

「まさか、こんなにあっさりバレるとは思わなかったわ。やっぱり初めて男に変身するのは粗があったわね」

「――っな!?」

 

 まるで早着替え、いや瞬きをしたら違うものにでも変わってしまったというくらいにサンタナの姿はあっさりと掻き消えた。代わりにその場に立っているのはくすんだ金髪の女性。しかも何故かぴっちりとした青いボディスーツをまとっている。

 

「…………変態かね?」

「やっと出てきた言葉がそれってどういうことかしら?一応理由があるのだけど、……それよりも通報の一つくらいすると思っていたのだけど、意外に冷静ね?」

 

 その言葉にコフィーはフ、と苦笑を漏らし穏やかに答えた。

 

「何、殺意や敵意には敏感でね。戦中戦後は暴力的な人間に溢れていたし、その程度判断するのはわけもないよ」

 

 自信に満ちた返答にそう、とだけ女性は答えた。ちなみに彼女はいくつかの粗をあえて残していた。普段彼女が行なっている隠密工作と違い、完全に偽装する必要がなかった。むしろ気づいてもらったうえで、魔法というものの存在を知らせ、正体を現すという手段を持って僅かに警戒心を削ぐ事も目的の一つだからだ。

 

「しかし、それが魔法というやつか。まさかサンタナが女性に変身するとは思わなかったよ」

「…………」

「冗談だ」

 

 疲れたようにソファに座り込むコフィー。内心はめんどくさいものが飛び込んできたとでも考えているのだろう。少しばかり諦観があらわれている。女性の方は勝手気ままに対面のソファーに座っていた。

 

「それで、君の名前はなんだね?良ければ教えてくれないか」

「ドゥーエよ。よろしくね、国連事務総長さん?」

「まだ名に恥じない活躍はできていない新人だ。肩書きは結構だよ」

「ではコフィーで。ふふ、いい響きね」

 

 年寄りを褒めても何も出ないがな、と苦笑して彼は話を進める。

 

「君は一体何の用があって私のもとに来たのかね?」

「魔法について、そして地球の平和のためかしら」

「随分と大きく出たものだ」

 

 もっとも、その調和を取るために私のような存在が有るからコンタクトを取ってくるのは正しい。しかし直接というのはいささかマナー違反な気がしないでもないなと彼は思った。だか不謹慎ながらも、どのようなびっくり箱か楽しみにしている一面も彼にはあった。

 

「それなんだけど、私は仲介人で本当に交渉したい人は別にいるのだけど、呼んでも構わないかしら?」

「……もうこの際だ。出涸らしになるまで尽くしてもらおうか」

「ふふ、遠慮の無い方ね」

 

 再び部屋に光が閃き、転移の扉が開いた。再び現れたのは男で見た目は整っていないが、金の瞳には強い力を宿しているように見えた。

 

「こんばんわ。サプライズはどうだったかな?」

「年寄りの心臓には良くないな。君は、科学者かね?それとも医者か?」

「どちらでもあるけど、強いて言えば科学者よりだね。ジェイル・スカリエッティだ、よろしく」

 

 互いに握手を交わして対面に再び座り合う。交渉を持ちかけたジェイルに緊張感は見当たらない。

 

「性急だが本題に入ってもらおうか」

「それもそうだね。私がしたいのは地球にとって革命的な新技術である魔法の普及、そして地球にはびこる宇宙人の退治だ」

「なんとも映画のような話だな?しかし、新技術ということはそれは科学なのか?」

 

 コフィーという男は米国でマサチューセッツ工科大学で科学修士をとれるほどの秀才だ。政治以外でも優秀なこの男には生半可な嘘やエセ科学は通用しない。下手な論文でも見せれば即座に切って捨てられるだろう。

 

「新エネルギーを用いたものだが、一応量子力学の応用といったところかな。これを見てもらえば分かる」

 

 そう言って彼が軽く手をかざすとコフィーの目の前に投影型のスクリーンが現れた。最早それは液晶の解像度の比では無いほど鮮明に写っており、書籍よりキレイなのではないかと思えてしまうほど。

 

「タッチパネル式だから触ることも可能だよ。読んでみるといい」

 

 恐る恐る触ったそれには今までに見たこともないような画期的な技術のオンパレードだった。魔力素を元にした半永久に扱えるエネルギー。魔力によって現象を書き換える魔法理論、それを扱うための演算能力を持ったデバイス、各個人における証明不可能だったESP能力などの実証など様々な分野に渡っていた。デタラメにしては出来過ぎて、しかしわからない部分も多かったがそれは間違いなく真実足るものだと彼は実感出来た。

 

 何よりも魔法の優秀なところは、術式次第で広く汎用性が得られる点だ。それこそ医学、情報処理、軍事、民間、ありとあらゆる分野に対応できる。言い換えるならば現実世界をパソコンに置き換えたようなものだろう。ありとあらゆるソフトウェアを現実で実行するようなものだ。

 

「これは……すさまじいな。明らかに現在の科学力から隔絶している。果たして何世代先になるか……。しかし、これは君の成果だろう?何故発表せずに私のところに持ち込んだんだ?」

「簡単だ。下手に一国のみに独占されると戦争が起こる可能性もあるからね。そもそもこれは別の世界で何百年も前から使われていたもので、私自身が考えだしたわけじゃない。」

 

 それをあたかも自分が発明したかのようにするというのは少しおこがましいじゃないか、とジェイルは言った。

 

「別の……世界?じゃぁ、まさか君は本当に宇宙人だとでも言うのか?」

「そう。数多の魔法技術を持った世界の集まり、管理局によって統治される管理世界からやってきた正真正銘の宇宙人さ」

 

 腕を組んで真実を告げるジェイル。ブレずにこちらを見つめ続ける瞳にはやはり嘘は見られない。ましてやここまで空想のような技術を見せられてしまっては、これからどんな話が出てきたとしても眉唾で済ますには不可能だろう。

 

「ハハハ、まさか本当に異星人との邂逅とはな。しかし、そのうえで君の目的が宇宙人の退治というのはどういう皮肉だ?まるで既に地球が食い物にされているようじゃないか」

「実際そのとおりなんだよ、困ったことにね。実例を上げるなら、彼らはこうした転移技術や魔法による変身などを用いてあちこちで活動している。主に活動しているのは貴金属や武器の密輸業者かな。私達が住む管理世界は過去に起こった末期戦争の教訓から質量兵器、つまり魔法以外の武装を禁止していてね。才能ある人間に寄る魔法至上主義を掲げているのだが、当然コレに反発する輩というのは多い。そして反魔導テロリスト達に武器需要が生まれ、都合のいい事に管理外世界と呼ばれるこの地球にはそれらの武器がある。ならばやることは一つだろう」

 

 そのせいで質量兵器を用いるテロリスト達が持つ武器の多くは地球製だった。彼らはその科学力を用いて各種偽装を行い地球に溶け込んでいるという。それはつまり、管理局と犯罪者の争いが直接関係なかったはずの地球を舞台に勝手に繰り広げられる可能性、もしくは既にあった可能性があるということ。地球側から見れば人様の庭で何勝手な事してやがる!といったところだろうか?

 

 もしも魔法という技術的優位を用いて、軍事施設等から窃盗などを行われたらタダでは済まない。コフィーは寒気を覚える気分だった。

 

「……武器はおいておくとして、貴金属はどういうことだ?こうして惑星間を移動できる技術を持っているなら、それこそ多種多様な星から資源を採取することくらいできるだろうに」

「人が移動できるような無人世界の多くは現地の動物保護だの自然保護だので渡航が制限されていてね。他惑星の開発は殆どできないんだ。次元世界そのものは高度な文明の上に成り立っているが、歴史的な関係でそれだけ暗部も多い。次元世界を監視している管理局からすれば、監視する場所を増やされるのは困るのだろう」

 

 ほうっておけば犯罪者たちの拠点を立てられる可能性がある、そういう建前もあり管理局は渡航に規制を強いている。だからこそ人間がいる管理外世界は目立ちにくく、隠れ蓑にしやすいのだろう。何より自ら採掘をするよりは楽だという面もある。

 

「なるほど。確かに地球内の資源を持ち出されるのは困るな。我々はまだ太陽系、いや月ですらまともに行き来することができん。そんな中で勝手なアドバンテージを得られるのは不愉快だな。……いや、それを覆すには我々が魔法を覚えることが必要ということか」

 

 ご明察だご老人。ジェイルは満足そうに頷く。

 

「しかし待て。君がソレを防ぐことに何のメリットがある?どうも君の言い分からは本音が見えない」

 

 交渉というからには彼にも何らかの益が無ければならない。密航者や密輸組織を抑える、コレは資源の持ち逃げを防ぐという地球側の利益であり、彼への対価は何もない。魔法の普及そのものも宗教ではあるまいし、彼自身が名誉を得ることに拒否感を持っている。ならば彼の本当の目的はどこにあるのだろうか?

 

「ああ、そういえばそうだったね。私自身の目的はさっき言った管理局の支配から抜け出すことだ」

「どういうことだ?管理局というのは政治、もしくは治安組織か何かではないのか?」

 

 煙に巻いているわけではないようだが、どうにもつじつまが合わなかった。

 

「それを話すには、まず管理局の成り立ちから話す必要があるな。少し長くなるが構わないかね?」

 

 コフィーが頷くと、ジェイルは神妙に語りはじめた。

 

「簡単に言うと、時空管理局は官僚政治による治安組織だ。その成り立ちは古く100年以上前、当時は戦争まっただ中でその組織の前身にいた3人の魔導師達を中心とした活躍により終結した。戦争を集結させ各世界の仲介を果たしたのが時空管理局だ。以来彼らはその組織を頂点において管理されるようになった世界を管理世界群と呼んでいて、治安維持とロストロギアの確保、魔法保護等をやってきたわけだ。この時そのあまりの活躍ぶりに高ランク魔導師がいさえすれば戦況をひっくり返せる、そういう認識を持ったためにまるで地球の中世のような英雄思想が生まれていてね。魔力が高いだけでもてはやされるように成り、当然のごとくその者達はエリートコースを歩んでいく。結果出来上がってしまったのが魔力至上主義と呼ばれる能力格差による分別だ。

 この2つは時代が立つにつれ偏執的になっていった。何故なら、管理世界はその名の通り惑星の集まりなので活動範囲はあまりに広く、そしてリンカーコアを持つ人間はソレに対応できるだけの数を用意できなかった。だが彼らは外装という形で魔導師不足を補おうとはしなかった。戦争を行ったことを恥とし、武器を持つことを良しとしなかったのさ」

 

 ざっと説明したスカリエッティは彼が情報を整理し切るまでしばらく待った。

 

「デバイスは武器ではないのかね?」

「あれはウェポンではなくツールなのさ。君たち風に言えばパソコンを手に持って殴っているとでも思えばいい。そして魔法を使う人間は当然ながら生命なので武器ではない、とね」

「とんだ詭弁だな」

「まったくだね。……魔導師という形に拘るあまり、治安維持という本質を忘れてしまった彼らは徐々に禁忌に手を染めていく。それがなにか分かるかね?」

 

 兵装を認めない世界で、武勇だけが治安を維持する。しかしそのためには確実に人手が足りない。ならばどうするか、そう考えた時コフィーは背筋に悪寒が走った。

 

「……まさか、人体実験か」

「その通り。もっともその結果は上手くいかなかった。リンカーコアに手を出した挙句、出来なかったら過去の叡智にすがろうと技術的な聖地と呼ばれるアルハザードにあったDNAからクローンを生み出した。……それが私、ジェイル・スカリエッティだ」

「……なんとも、独善的なことだな。虫酸が走る」

「そう思ってくれるだけでもありがたい。生み出された私は以来、籠の鳥として何十年も研究に従事させられた。DNAから再生させただけでは、所詮知識は得られるものではないというのにね。その内嫌気が差してきた私は、こうして強引に脱出を図ってきたというわけだ」

「……足はついてないだろうな?」

「そのようなヘマはしないさ。少なくとも後10年近くは見つからない予定でいるからね」

 

 コフィーは得た情報を咀嚼して自分の推測を述べる。

 

「話をまとめると、君は技術を土産に亡命してきたということか。それも地球にとって重大な情報まで持ってな……ただし面倒事のおまけつきか」

 

 技術獲得と管理局バレはまるでセットのように両立している。しかも質が悪いのはそのどちらにもメリットが有るという点。少なくとも管理局は行き過ぎた治安維持組織ではあるが明確に敵対してはいない。そちらに対する伝手と、手綱さえ得ることが出来ればむしろ有用であろう。どうしのぐかは問題になるだろうが。

 

「この技術を得ようともそうでないとしても、近いうちに地球は管理世界が関わらざるをえないような事件が起こるだろうけどね」

「それは予言か?」

「データを基に割り出した真実というやつさ。もし失敗してしまえば地球に半径数十kmを消滅させる魔導砲を撃たれてこの星は滅ぶだろうね。彼らは自らの正義のためには手段を問わないのはままあることさ。その上でどうするかはあなた次第だけどね」

 

 そのうえジェイルはこの先必ず関わらざるをえない状況が発生すると明言した。ソレが何についてかは今は分からないが、技術水準が明らかに上である相手に対して疑念を覚えるのは野暮だといえる。何せこちらにはそれを確かめる手段がない。ただし、少なくともジェイルは友好的であり、己の保身をかけて交渉に来ている。ならば一考する程度の価値はあるということだ。

 

「やれやれ、君も意地が悪いな。もはや選び用のない二択、脅迫に近いな。しかしこれだけの可能性を見せられて手を出さないでいられると、本気で思うのかね?」

「クックク、そうだね。それこそが人間の性だと思うよ私は」

 

 お互いにガッチリと握手を交わして、正式にコフィーとジェイルは協力関係となった。

 

 この後、国連事務総長の名の下に極秘の魔導プロジェクトが推進される。常任理事国といくつかの先進国を交えた話し合いは各国衝撃と戸惑いに翻弄されるも、コフィーの手管によって上手く纏められた。ジェイルはその名をジョニー・スリカエッティと改め、魔法を信じないなどという外交官に魔法を見せて説得したり、こっそり管理世界に一緒に転移してみたり、基礎理論の公開や先進外科医療の発達推進等様々な事業に関わっていった。

 

 なお、この裏でジェックはレアスキルを用いて「管理世界」と「地球」の縁を切り離す事で移動手段を交渉後に無効化した。「移動できなくなる」という結果を設定した結果、転送ポートが壊れたり転送しようとする意志が減じたり、そもそも意識に上がらないなど様々な要因によって移動が出来なくなる事態を引き起こした。管理局側はクライドの元これに同調するように地球に近い航路をこっそりと監視経路から外し報告を偽装。いつの間にか誰もが地球を気にすることも無くなった。もちろんこれによって地球にいた密輸組織は天然の牢屋に隔離されたことになる。これに乗じて地球に閉じ込められた不法入国していた管理世界人達は、試作の魔導武装した地球人たちによって捕縛。後顧の憂いは完全に断ち切ることが出来た。

 

 ジェイルは管理世界の裏側――主に管理局の、というのは皮肉――である程度有名だったために、ジョニー・スリカエッティと名乗ることにした。当人は名前に愛着があるのかどうかわからないが、多分にお茶目も含んでいるのは間違いない。何より魔法開発者として地球で有名になることに、自己の技術でない部分が関わっているのが乗り気でなかったらしく、言い訳として別名を用意したという面もある。もっとも本人はその後各種の医療技術やクローニング、IPSにとあれやこれや新規開発して名乗りを上げることになるのでその程度の不快感は時とともにあっという間に埋もれて有名になってしまうわけだが。

 

 そんなこんなでジェイルはそれから5年後、魔法による極秘医療実験のために日本の大地に立った。

 




初ドゥーエさん。そしてリアルで当時の国連事務総長の経歴が使いやすすぎた。次回八神家。

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