方針:裏方演劇補助。設定穴埋め補完計画。しあわせ家族計画。暴走する無限の欲求。
(H25.01.31)大規模加筆修正。
(H25.10.31) 懲りずにごっそり大改訂。事件内容改訂。+4000字。
Prologue of the end(改訂済)
黒い雨が頬を打っている。
始まりは突然……否、自分たちが気づくのに遅れただけだ。それは過去から引きずられた小さな罅で、溜まりに溜まった歪みが大きな亀裂を伴って決壊した。ただそれだけの話。そして、取り返しのつかなくなったお話。
原因は単純明快、ロストロギアの暴走という管理局からすれば珍しくもなんともない事例だった。対応できるなら回収して、出来ないのなら危険度に応じた対応を行う。その場合他世界を巻き込む可能性があるのならば現地惑星においての破壊行為すらもやむ無し。いつもどおりに行えばいい。
それが管理局員がしでかしたことで、ミッドチルダで引き起こされたことでなければ。
事の起こりは現在新暦8X年より昔、75年まで遡る。そう、当時ジェイル・スカリエッティと呼ばれる次元犯罪者を逮捕した前代未聞の事件が解決した頃からだ。当時の管理局は最高評議会と呼ばれる上位決定機関と陸のトップ、レジアス・ゲイズの逝去、また彼らの犯罪組織との癒着と内通によりひどく揺れていた。世界の守護者たる管理局が犯罪を手引きしていたという事実は、管理局内外全てに衝撃を齎した。信頼を失った一部局員は自ずと管理局を去り、外野――特に反管理局体制派――は執拗に管理局を責め立てた。まさに失墜という他無い。ロストロギアの性質などから情報の極度の隠蔽体質をとっていたためか、屋台骨がぐらついたことでボロボロとメッキが剥がれていく様は見てて気持ちのいいものではなかった。
それらをどうにかしようとして図った手段は、今回の事件に貢献した機動六課を「奇跡の部隊」と祭り上げることで矛先を逸らしまだ管理局も捨てたものではないと信頼の低下を防ぐことだった。何時の世も英雄と呼ばれる存在は誇らしく、輝かしい。特に広報課はそれらの面々を押せ押せで民衆の前に立たせるのが大の得意で、マスメディアに踊らされた彼らは見事に視線をずらされた。誰だって暗い部分は目をそらしたいのだ。管理局がそんなにひどい組織ではないと。その後も広報は信頼度を上昇させるために時の英雄である高町なのは達エースにスポットを当てたノンフィクション映画を展開していく。実際にこれらは大当たりし、それらを囮にしている間に管理局は見事に清浄化を図ったように見られた。
ここまでは特におかしくはない。組織を保守したい面々にとっては当然の帰結であり、そしてその中には再犯予防も当然含まれる。つまり、対AMF措置を取ることである。AMFやISと呼ばれる技術により、魔法に決定的な信頼感を抱けなくなった以上、それらの技術を取り込む事は急務だった。ジェイル・スカリエッティが生み出したものを解析し、恩赦を提示することで戦闘機人達にも協力を仰ぎ、AEC武装、もしくはアーマーダインといった非魔導装備を拡充させていった。ソレは後に徐々に小型化、継戦能力の強化により魔導師でない人間にも扱えるようになる。
これによって巻き起こったのが「魔導師不要論」という極論だった。魔導を持たぬ人間が力を持てるように成り、圧倒的であった魔導師対非魔導師の戦力バランスが拮抗するようになったのだ。力を持てるようになると傲慢になるのは人間の業だ。これらの装備によって確かに陸は安定し、奇しくもレジアス・ゲイズの宿願を叶える形になっていたのは皮肉である。しかしだからと言ってそのような論調になるのは当然今まで働いてきた魔導師たちにとっては侮辱と取られ、憤慨冷めやらぬものだった。魔導師達はこぞって魔法の安全性を説き、彼らの持つ武装の危険性を矢面に上げ罵った。
高町なのは達はこの状況において中立、いや両立派であった。どちらにも良いところはあるし、それらの武装を使った身としては必要であることも理解している。実際現場に出ていた人間としては両立派の方が多かったという意見もある。しかし魔導師派を声高に叫び強硬、後押ししていたのが旧来から存在する管理局の高官であり、今回の事件の元凶となった者達、英雄派と呼ばれる派閥であった。
管理局を長く蝕む問題として、魔力至上主義、もしくは魔法至上主義と呼ばれるものがある。コレの原点は最高評議会の3人が過去の次元間戦争末期において圧倒的能力を発揮して戦争を集結させたというものだ。人一人が出せる限界を超えたマンパワーによるワンマンアーミー、そして当時環境破壊により空気汚染等がひどいなか、化学的に物質に依存しないエネルギー媒体である魔力はクリーンで安全という性質の良さから魔法はある種神聖視された。その実体は転移等を利用した戦艦内への奇襲といったゲリラ戦法であったのだが、歴史は勝者が作るものであり百数十年以上前のことなので捏造により詳しくは知られていない。ともあれそれにより脚光を浴びた魔導師は当時より以前から技術的には存在していたものの、他の大規模破壊兵器や終末戦争の様相を呈していた中ではさして目立った存在でなかったはずだった。元より「人間にしては」という言葉が付帯する以上、魔法というのは核やミサイルと比べると圧倒的にローパワーであるのが通常で、役割としてはアサルトライフルやロケットランチャーなどを所持する歩兵程度でしかない。普通であれば紙くずのように吹き飛ばされるのが当たり前の存在だ。
それらを覆したのは彼らが立てた作戦や、3人の才能に寄るところが大きい。この勝利に託けて、また過去への戒めとして大量破壊兵器やロストロギア、質量兵器の不当所持を禁止にした。この裏には再び魔導師に対抗するための力を保持させないという目論見もあったという。
これらがいくらかの誤解を生み、魔導師は質量兵器より強い奇跡の存在と呼ばれ、魔導師の英雄という先導者がいたためか、魔導師という存在はある種の特権階級として扱われた。そして魔導師として働くことは名誉であり、力あるものが無きものを守るのは義務、というような高度な技術を保持するような時代でありながらまるで貴族のような階級制度的思想が生まれるようになった。これが魔力至上主義の起こりである。
とはいえ所詮力に寄る思想。そのあり方は時が過ぎるごとに徐々にその形を変えていった。庇護は抑圧に、名誉に応じた報酬は強欲な者達の私腹を肥やすだけの悪銭と変わる。魔法が使えることを特権と思い込みまず給与等に圧倒的差が出始めた。さらに非魔導師が抵抗するための手段を奪い、生み出させないように様々な誘導で思考停止をもたらす。魔法こそが正義、それ以外は悪。タブー視された技術に誰も手を付けることがなくなった。こうして技術的、武力的優位となりそれらを囲い込み、誰も魔導師に対して抵抗できないようにした。
この中で英雄派と呼ばれる人物たちはさらに過激だった。高官で老齢ともなれば、考えが凝り固まり新たなものが生み出せずに保身に走る。いわゆる老害である。いつまでも昔は良かったと嘆き、ソレにすがり、現代でも当たり前のようにそれを強要するようになる。さて、保身となれば部下の失態、撃墜などが起き続ければ責任は上官の自身が取らねばならないだろう。また組織に貢献するために成果も上げなければならない。しかし老齢になればなるほど思考が鈍り続け細々とした成果しか出ないか、もしくは崖から転がり落ちていくだけだ。そうすると大体の人間が過激な発想を用いるようになる。
元々人類全体で見て少ない魔力持ち、ロストロギアや犯罪といった脅威に対抗するためには世界は広すぎて、人の手では明らかにカバー出来る許容を超えていた。当然次から次へと被害が出て殉職者も絶えず、魔導師は減り続ける。
ならば必要なのは何か?と考えて老害達は考えた。「英雄」だ!英雄が必要なのだ!今の時代には英雄がいないから人類は弱いのだ!
圧倒的な魔力を持った人間さえいればどうにか出来る。取らぬ狸の皮算用、当て水量によって生まれた計画は人工的に魔導師を生み出す計画だった。後にプロジェクトF、戦闘機人と呼ばれる計画。これらによって自分たちの言うことを聞き、高い魔力を持った者を生み出し戦力として使おうというものだった。最早彼らには倫理観など投げ捨てるもの程度の扱いだったようだ。
結果的にこれらの計画は成功した。フェイトという人工魔導師が活躍し、生み出せることを確信した彼らはさらにそれらを確かなものとした。あちらこちらで何度も実験が行われ、無垢な少年少女たちが生み出されては捨てられるといった悲劇はフェイトの心を際限なく傷めつけた。
が、これらの考えはジェイル・スカリエッティの叛逆によって衰退へと辿ることとなる。元より生命倫理の問題からタブー視されていたこと、バックとしてついていた最高評議会やレジアスがいなくなったことにより金銭供与が途絶え計画そのものが泡沫と消えた。そして事件を教訓とすることで外付けの武装に頼る風潮も生まれた。有り体に言って、彼ら英雄派は最早瀬戸際だった。
たとえ己の犯した行為がバレずとも、席に座ったままでいられようとも彼らの心中は穏やかでない。欲が生まれれば次から次へと良い物が欲しくなっていく。彼らはもう、止まれなかった。
新しい手段でどうにかできなくなった彼らは有り物で補うしかない。ならば頼るのは、残っていたのはロストロギアただひとつのみ。
数多あるロストロギアをどうにか集め、それにより派閥の人員を強化するという、もはや危険性など目もくれない馬鹿げた計画だった。残っていた伝手、コネ、人脈を使いこっそりと、誰にもバレないように様々な名目でロストロギアをかき集めた。計画自体は突拍子もなかったが、蜂起そのものは成功した。広域に広がり過ぎた管理局という組織は全体を通した内部事情がわかりづらい性質がある。特に次元世界をあちこち跨いでいるのだからそれはしかたのないことであり、そして彼らにとって格好のスキであった。
もちろん、それを指を加えて見ている管理局ではない。
内部に不穏な気配を感じた八神はやては過去ロストロギアに携わり続けた経験から再び特務六課を結成。捜査に出るもその動きが判明するには遅すぎ、しかもロストロギアが集約していたのはなんとミッドチルダ市内という、まさに目と鼻の先、獅子身中の虫であった。
止めようとする頃には実験は既に発動段階に至っていた。外部から破壊工作を幾度と無く仕掛けるも、数多くのロストロギアの相乗効果により効果不明ではあるが堅牢な防御を敷かれたプロテクトを貫くことは出来ず、
――最終的に、暴走して全てを巻き込んだ。
この時、ロストロギアに関わっていた老害達は誰もが衝撃を受けていた。
「そんなバカな、理論上は完璧だったはずだ!奴らだって出来ると言っていたんだぞ!」
そう叫ばざるを経ないほど彼らは事態に困窮していた。いくつものロストロギアによる複合作用を生み出しながらも、それでも安全マージンを取り――果たしてそれら危険物を扱う時点でマージンがどうもこうもないのだが――出来る事を確信していた。だがそれは予想外の方向からもたらされた邪魔によって一気にバランスを崩した。
超微小次元震。
本来なら刹那に掻き消えるような小さなものでしかないのだが、ほんの少し開いた次元の隙間が計画を奈落に追いやった。何故そんなものが起きたのか、これは奇しくも同時刻、地球で行われていたとある実験によるものだった。欧州のとある研究機関、そこではマイクロブラックホール実験等を行っており、幾多の成功と十数年の月日を経て彼らはとうとう次元に穴を開けるまでに至った。目指す先はおそらく、ワープに関する事象の観測といったところだろう。結論として、この実験は成功しナノ秒単位ではあるが開けることが出来た。だが次元に穴を開けることで何が起きるかまでは、理解できていなかったのであろう。大規模なエネルギーの奔流が実験施設を破壊した。
もともと、地球とミッドチルダの関係は遠いようで近い。次元漂流者達は大体の確率で相互に行き来してしまうし、特にイギリスと日本は「妖精のイタズラ」、あるいは「神かくし」という言葉があるほどに漂流者が頻発していた(ただし次元世界側の人間はこっそりと回収されている)。この二国は特に次元境界面が不安定でつながりやすく、かつ惑星の形状や言語系に至るまで比較的近似値を示すことが多い。そもそも次元世界というのは「次元」の名の通り3次元4次元のくくりではなく、3次元上に広がるいくつもの宇宙の事を指している。仮説としてさながらビッグバンによって特定方向に広がりを見せた宇宙は実は複数あり、3次元上に宇宙の風船が詰め物のようになっているのではないか?という話だそうだ。距離的に見れば非常に遠いのだが、その宇宙の隙間、あるいは3次元そのものを渡る次元航行艦にとっては宇宙の端に行くより3次元空間を基準に重ねあわせた同座標の別宇宙(次元世界)にわたったほうがはるかに生命体が住む惑星を見つけるのが簡単らしい。ビッグバンという同一起源を持つ次元世界群は、宇宙の構造が脳内のニューロン構造と似ているように惑星の位置も比較的ズレが無いものになるとのことである。次元世界を同一宇宙のものでなく、また並行世界とも呼ばないのはこういう理由があるとのことだ。
話がそれたが、座標的には比較的近い地球で次元震が起きてしまったため、はたまたどんな偶然か、あるいは故意かミッドチルダとつながってしまったようだ。そして引き寄せられたようにロストロギア付近で穴が空き、過剰に反応したそれらが暴走。局員たちは一瞬にして消し炭となり、わずかなラグの後、施設に突入しようとしていた特務六課もその煽りを受けて全滅した。
…………
……
――街は火の海に染まり、空高く貫くビルはバベルのように崩れ落ちた。破壊の衝撃で人類の英知は何もかもが粉々に成り、人々は灰になった。そして止めようとした特務六課も、遠距離に位置し奇跡的に生き残った高町なのはを残して皆欠片も残らなかった。
その高町なのはとて最早満身創痍の有様だ。肺は焼け、裂傷が身を刻み、支えるべき骨はバッキリと折れていた。何本も、何本も。
どれだけレイジングハートが叫ぼうともそれに答える余力すら無い。何をするまでもなく失われた全てに対し、彼女が考えられるのはどうしてこなってしまったんだろうという無念しか思いつかなかった。まるで無力感に苛まれていた過去の自分のようだ。魔法という全能感に浸り、人々の役に立てるという役割<ロール>を手に入れた時、彼女は奇跡を起こせると、なんでも出来ると思った。不屈という諦めない心さえ持てばどんな状況だって覆してみせる。それだけの実力が彼女にはあった。だが事態はそんな彼女を余所に勝手に進み、もはやマンパワーではどうしようもできない領域にまで踏み込んでいた。
ポツリ、と倒れ伏すなのはの頬を雨が打った。もうもうと立ち上る煙が、雲を刺激して局地的な雨を降らせたのだ。しかしそれでも、あたりを蝕む火の手は止まない。あまりに強すぎる火力が次から次へと可燃物を巻き込み、ただの水だけでは収まりきれない状態にまでなっていた。恵みの雨ではない。これは人の灰によって生まれた涙、だからこれは死の雨だ。再び何も生み出すことのない絶望のカーテンコール。私たちの戦いは、もうこれでおしまい。守るべきものがなにもないのであれば、自分が存在していことに意味なんて無い。
雨の重さで、近場の瓦礫が音を立てて崩れた。興味はない、でもそれに潰れてしまえばどれだけ早く楽になれただろう。そんなふうに考える。カラカラコロコロ、削れたコンクリとともに何かがなのはの前に転がってきた。
一体これは何の冗談だろう。運命か、あるいは神の采配か。自分の元に導かれるようにして転がり込んできたのは二つのロストロギアだった。
ジュエルシード、自分を魔法の世界に導く変化を齎した石。
レリック、養子となった娘と大きな事件に関わった魔力結晶。
まるで何かをしろと自分に訴えかけているよう。サービス(依怙贔屓)でゴザいますお客様。少なくとも神は賽を投げられました、あなたはどうします?なんて。
やること、なんてあっただろうか。ぼーっとした頭ではろくに考えることも出来ない。盛大な魔力災害が起きて被害を受けたのはここだけではないだろう。見渡すほどに燃えさかる世界、そう世界だ。それだけ巻き込んで無事な知人がいるとは思えない。ここで再び自らがたちあがったとして、一体何ができるのか。起き上がっても再び絶望を感じるだけでは?ひび割れたレイジングハートが『master……!ma――』と何度も呼びかけているが、まるで聞こえていないように耳を素通りした。
一人でいることの限界を感じた気がした。
「世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりだ」とよく親友の義兄が口癖のように言っていたのを覚えている。今の状況がまさしくそう。どん詰まり、私の人生は確かにここで終わりだろう。
だが足掻くかどうかは別の話だ。
手に取れる手段がまだ目の前にある。たとえそれが禁忌に値するとしても、納得が出来ないならすがるしかない。
今なら、わかる気がする。きっとプレシアもこんな気持ちだったのだろう。ただ失いたくなかっただけなのだ。曲がりなりにも科学者であったがゆえに、そして他を知らないがゆえに彼女は狭窄的ではあるが生体クローンなどという技術に頼ってしまったのだ。そして、この私も同様に所詮は現場で戦うだけの脳筋職であるがゆえに物事を知らない。一体何をどうすればこの事態を解決、あるいは無かったことに出来るのかなんてわかりはしない。
「う、あ……あ、ああぁぁぁあああ!」
それでも、とかろうじて動く腕を伸ばしてロストロギアを手にとった。なのはの残りの命の脈動を預かるように、明滅する光の量が増えていく。
――私は願う。
こんな世界になってしまわないようななんらかの手段を。
――わたしは望む。
誰かが泣かなくてもいい世界を。
――それでも自分は、ここで死ぬ事を選ぶ。
例え過去へ戻ることができたとしても、私はそれを選ばないだろう。なぜならそれは過去で起こる様々な出来事をこれから経験するいつかの自分に対する冒涜だと思うから。
――だから、これから生まれる何かに託そう。
友人達を蘇生させようなどとは考えない。少なくともプレシアの時にそんなこと出来はしないというのはよくわかっている。だからその手段は選択肢にすら入らない。
――ただせめて、これによって世界が、歴史が変わるとしても己の思い出が変わらないでほしい。
そう願いながら私は、力尽きる最後の瞬間に顕現した何かを見て、
「……お願いね」
とだけつぶやいて永遠に意識を失ったのだった。
「悪いけど、それは承諾しかねるな」
魔導生命として生み出された裸の少年、あるいは少女に見える姿の子供はいきなり主目的を反故にするようなことをのたまった。高町なのはに出来ないことを行う、という目的で奇跡的にもマトモに生まれることが出来てしまった少年は、故に高町なのはと全く違う思考ロジックを持って生まれてしまった。良く言えば彼女は全力全開、起きた物事に体当りするような思考であるが、少年は起きる前に潰してしまうような思考を持っている。当てはめるならば、前者は直感思考で場当たり的、後者は論理思考で計画的ということ。互いの意図がかち合ってしまうのは必至とも言える。そもそも世界の歴史が変わるという大仰なものにぶち当たってしまった場合、大きな波にさらわれるようなものであり何も変わらないでいるには不可能だ。ましてや少年が考えている計画は恐ろしく遠大で世界のありようそのものをひっくり返すようなものである。高町なのはの主観から見てある程度同じ出来事は起こるのであろうが、そもそもの基盤から違うのであれば変わらずにはいられない。不可抗力というやつだ。
つまり、彼女の願いは端から破綻している。
とはいえ、少年は目的を持って生み出されてしまった以上行動せざるを経ない。
高町なのはの知識もあるからか、生誕して早速働きに出されるのはいささか不本意に感じられる、というのはわかる。だが知識として知っていても感情の発生プロセスをまだ得ていない少年は特に大した感慨を持たない。であるならば、建てた計画通りに物事をすすめるのみである。幸いにして、彼が賜ったレアスキルは常軌を、時間を超える事が能力の一部として扱うことが出来る。しかし一度過去へと遡れば以降は軸からズレないように時間移動をすることはないだろう。
少年は己の体を確認した。小さな手に神経を這わせるために握ってみたり、足元の灰をこすってみたり、胸の内を確認すれば炉心としてのレリック、レアスキルの状態維持のためにジュエルシードが格納されている。だがそれだけの魔力容量を持ってしても、彼自身から発さられる魔力はごく僅かなものだ。おそらく能力制御のためにほとんどを割いてしまっているのだろう。コレではレアスキル以外の通常の魔法は使うことすら出来まい。しかし特に問題はないだろうと彼は認識した。
肌に当たる雨はやまない。冷たい肌を打つ感触が億劫になりそろそろ移動しようかと考える。何よりも二次災害に巻き込まれるのは避けたい。そして能力を使用しようとして、おやと何かに気づき視線を下に向けた。
『Please wait……』
「これは、レイジングハート。まだ壊れてないようだね」
足元には赤い宝石が転がっていた。それの機能はまだ生きており、主を失った今でも懸命に稼働を続けている。
『Please take me too』
「本気?確かに君の主は逝ってしまったけど、ともに逝く事もできるはずだ」
『I also want to look at the results of the master hope』
「……まぁいいけど、当然僕には君を扱うことは出来ない。過去には君が知っているように君がいる。再び高町なのはの首にすがることはできないと思う」
『Does not matter』
「そう。なら残ってるデータとか使えそうだし、ついてきてもらおうかな」
これで少しだけ計画が楽になる、といい拾い物をした彼は表情だけ取り繕ったようなほほ笑みを浮かべた。拾い上げて適当に手の中に持ち、己のレアスキルを発動させる。目標は過去、高町なのはが生まれるはるか前。その時代からこれまでにおける世界の歪みの根っこを引き抜くのだ。目標設定、魔力炉心安定、力場固定、転送フィールドを外界と隔離。繋がるはずのない今と昔を限定的にひと繋ぎにする。彼の目には過去が見える。最初の目標は、今にも死に瀕すとある少年の父親のもと。その妻である女性を中継点にして実行した。
はじめから何もなかったように、少年は消えた。彼は過去に戻ったが、少なくともこの時間を主観としている人々にとっては変わらず流れる現在のままであることに変わりはないだろう。辛い先へ進むことを放棄してしまったが、せめて願わくば生存者達の、あるいはこの災害に関わりのない人々がこれから訪れる過酷な時代を懸命に生きてくれることを、レイジングハートは願わずにいられなかった。
――I'll see you again sometime in the distant future.
もう一度いつか、遠くない将来に会いましょう。
文章が臭い