魔導変移リリカルプラネット【更新停止】   作:共沈

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ま、まままま待たせたな(震え声
た、ただいまー。帰ってきましたよー? だ、大丈夫かな。大遅刻だけど。
Diablo3のレジェンダリー堀が面白すぎてな……ついのめり込んでしまった。あれは艦これと同じく麻薬だ……実は艦これやったことないんだけど。

せぇーの、ユニバァース!!(ごまかし


Movie Fes!

「おらぁ!さっさと金持ってこい! このガキがどうなってもいいのか!?」

 

 天井に向けた銃口がけたたましい音を鳴り響かせると同時に周囲の人々が一斉に悲鳴を上げた。原因たる本人はその銃口を非道にもアームロックしたままの銀髪の少女に向けた。それを見た座り込んだ人々はまるで自分が向けられているかのようにすぼんだ声が漏れる。

 

 8月下旬、アメリカ。そろそろこの国では学校も始まろうかという時期にそれは起きた。とある大手銀行への数人の集団による人質をとった悪質な強盗事件。その日銀行にたまたまいただけの哀れな少女を盾とし、強盗犯達は怒声で銀行員を脅す。怯えながらも言われたとおり行動する銀行員は悔しげに歯噛みするが、人質がいる以上こちらから強く出ることは出来ない。とはいえさすがの大手であるからして通報システムがしっかりとした現代、モノの数分で外は警察だらけになっている。無責任ではあるが、銀行員は外側の人間によって少女が助けだされるだろうという予測を希望として行動を続けた。

 

 しかしそんな願いは予想外の方向から齎された。

 

 しゃがみこむ人々とは別に、店内にいた女性が遠巻きから、堂々とヒールを鳴らしながら犯人に向かって歩いてきたのだ。カツカツと小気味よく鳴り響く音はまるで覇者の凱旋であるかのように大きく響く。客はその様相に唖然とし、強盗犯の一部はわずかに後退しながら銃口を女性に向ける。最後にひときわ大きな靴音を鳴らしその場で仁王立ちする女性。見た目はワイシャツにパンツルックと普遍的であるが、紫の髪と全てを見通すような金色の瞳は人智を超えた異形にも見える。だからだろうか、彼女の一挙一動に全ての人の目が惹かれてしまう。そしてその次に彼女がとった行動は、

 

「おい、よそ見をしていると危ないぞ」

 

 危ないのはお前だ、その時その場にいた全員が思った。態度と発言のギャップに虚を突かれてしまったが、実際彼女も普通の人間と変わらないのだろうと当たり前のことを思い出す。客は再び怯えを見せはじめ、強盗犯は余裕を取り戻した。その時、コツンと何かがアームロックしていた強盗犯の顎先にあたり、瞬間――

 

 ズゴンッ!!! という爆発音とともに、男は重力を無視するかのように後ろへのけぞった顔に引っ張られるように浮き上がった。男はまるで首から上がもげるかのような衝撃を感じていた。地上へと落ちる引き伸ばされた時間の中で、彼はその原因を突き止めようとした時、今度は腹部に強烈な痛みを感じ3m後方へ吹き飛ばされる。見えたのは、人質にしていたはずの、身体的ハンデを背負っていると思っていた「眼帯をつけた」銀髪少女が見事なまでの後ろ回し蹴りを披露していたこと。地面に数度バウンドをするようにたたきつけられ、彼の意志は虚しく閉ざされることとなった。その時、彼はか細く「嘘、だろ……」とつぶやいた言葉は誰にも聞こえなかった。

 

 この光景に、周りで見ていた人間たちからすれば更に一つの事実が加えられる。強盗犯が吹き飛ばされた時、件の銀髪少女は空いていた片手をすっと伸ばし、閉じた拳の先の人差し指、そこについた指輪をコツンと顎先にぶつけただけだった事だ。まるで発勁かと思うようなそれだが、続いて繰り出された見事な回し蹴りに東洋の格闘術に詳しい一部の客は疑問を持たず「グレイツ……!」と感極まった声を上げたという。まぁそんなことはどうでもいいとして実際のところ、それをなした正体は指輪の形をした魔導具である。ショートワード、あるいは指輪の先をぶつけることによって魔力を媒介に衝撃波を放つナンバーズ社製の防犯用新グッズ予定「撃退ちゃん(仮)」。名前は上級社員達による壮絶な闘いで目下のところ決まっていない。しかしいつのまにやらこっそり商標登録されかかっていたあたり仮名を誰がつけたかはお察しである。

 

 それをやらかした少女、チンク。ナンバーズ社の開発担当にして社内マスコット「年を取らないエターナルロリ」の異名を持つ彼女がふぅっとため息を付く。その姿は安堵によったものだと考えた客を虜にし、またロリコンを増やしてしまった。実際は少女自身が強く、わざわざそんなものを使わなくてもできることをやらなければならない面倒臭さから来たものだがそれを知る由はない。

 

 そして、全員がそれに注目している間に事は終わっていた。なんと仁王立ちしていた女性の足元に、点在していた犯人たちが全て積み倒されていたのだ。当人、いや果たしてそれをなしたのが異形たる彼女がどうかはわからないが、「だからよそ見をするなと言っただろうに」と呆れている姿を見て、理解は出来ずとも半ば確信していた。その女性、トーレはよそ見されているのをいいことにIS「ライドインパルス」を発動させ高速機動によって強盗犯を潰しきった。超高速による腹部へのワンパンはまさに一撃必殺で、しかも強盗犯達の体の芯を固定軸とし、拳をわずかに振り下ろす角度で攻撃したために下手に吹き飛ぶこともなかったため周囲が荒れることもない見事な配慮でそれを成した。

 

 当然チンクは「おい……」と呆れた面持ちで睨みつけるが、トーレはドコ吹く風でまるで相手にしていない。そうこうする間に警察隊が突入し、強盗犯達はあっさりとお縄になった。彼女らを知る警察は賞賛したが、そんなことはどうでもいいとばかりに手をひらひら振りさっさと帰ろうとするトーレ。が「あ」と思い出したように客達に視線を向け、

 

「殺さずに強盗犯を鎮圧できるナンバーズ社の防犯グッズをよろしく!」

 

と拳をあげて自社アピールをし、颯爽と立ち去っていった。当初、なんのことだったかわからなかった客達は首を傾げたが、新発売された指輪を見て合点がいった人々は我先にと買い求め、ナンバーズ社始まって以来の民間への大ヒットとなったという。

 

 

「やれやれ、入金しにきただけだというのに面倒な目にあったな」

「面倒な目にあったのはむしろトーレにやられた強盗犯達だと思うのだが……」

「面倒な目だよ。元来犯罪者のようなものであった私達が、所変わればまるでヒーローのような扱いだ。どうにもむず痒くてな」

「それにしては、随分とうまく立ちまわっているように思えるが?」

「これくらいはドクターに作られた者にとっては当たり前に出来る芸当だ。……いや、亡命後に完成した後期型のお前たちはそうでもないか。上の二人の姉と比べれば私もさほど犯罪には関わってはいないが……強いて言えば、そうだな」

「?」

「私も少し、ドクターが興味をもった世界を見たいと思っただけだ」

「――。なら、過去に恥じぬ今の自分を身に付ければな。……そういえば、今日ドクターはUSHのイベントに参加する予定だったな。サプライズがどうとか言っていたが……」

「ドクターの場合は何をしてもサプライズのような気がするが……」

「……違いないな。巻き込まれるのも面倒だし、今日は社に引きこもっていよう」

「チンクは忠誠心が足らん。大体――」

 

 やいのやいのと騒ぎながら高層ビルに囲まれたアメリカの街道を歩く二人。色々あったが、今日もとりあえずは平和な一日を満喫しているナンバーズの一幕であった。

 

 

 

 

 

 同日、アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルス市、ハリウッド。この地区を斜めにぶった切るようにして渡るフリーウェイに面した場所、ユニバーススタジオハリウッド。開業1915年という古き映画スタジオは、1964年以降テーマパークとして利用されつつも未だにスタジオとして使われている場所である。そこに高町家御一行とその他大勢の姿があった。日本から離れたそんな場所で一体彼らは何をしているのか?それはただの旅行?いや、仮にも一国の首相からわざわざ連れてこられるような扱いでさすがにそれはないだろう。つまりこれは日本アメリカ両国で、そしてユニバースから熱烈に要望されて立ち上がった本日限定のイベントなのだ。そしてこのイベントのまごうことなき主役は、未だ少女の域を脱していない高町なのはその人である。空を飛びアクロバティックに映像を撮りかつてない光景を届ける、今や時の人である高町なのは。そしてそれを現場で学びつつカメラを持って追従する、新たにユニバースがスカウトした空適性を持った新人魔導師2名、計3名による実況生中継。

 

「それにしても暑いわね……、加えて人も沢山いるから余計に。今更だけど、なのはが世界中で人気っていうのもよくわかる光景ね」

「そうだねぇ。でも日本の夏よりはまだマシだと思うよ? 湿気がないから汗が乾くし」

 

 なのはについてきた友人その1、アリサ・バニングス。関係者ということで準備中のスタジオ裏、その影から覗き込んだ表側は騒ぎ立てる人間の密度にややげんなりしている。イベントであるからして観客が多いのは当然であり、しかし比例して上昇する熱気を迎合できずちょっとした場違い感を味わっている。それもそうだろう、ファンの心理と友人の心情、立場が違うのだから盛り上がる理由こそわかっても同意はできない。その違いは見る人からすればある種の特権であろう。

 

 そして友人その2、月村すずか。何を考えているのかわからないような、しかし心からの笑顔をニコニコと向ける姿はどこか母親を連想させる。さしずめ愚痴るアリサを、あるいはなのはの門出を祝うような。前までは自分の趣味に没頭しつつも、どこか儚げな読書少女であるというイメージが抜けない彼女であったが、最近は心の余裕も持つようになった。それは多分、次元世界という存在を知り世界の広さを知った事によるものだという推測をアリサはしていたが、その心は本人のみ知るものである。

 

「アリサちゃんもなのはちゃんみたいに、ジャケット着ればいいんじゃないかな?そうすれば涼しいし、新型渡されたんでしょ?」

「嫌よ。だってあれ、見た目がおもいっきり派手な格闘魔法少女みたいだもの。さすがに衆人環視の中で着る気にはなれないわ」

「そうかなぁ?今この場所なら全然違和感ないと思うんだけど」

「私が恥ずかしいのよ!ほんと何考えて作ったのかしらうちのスタッフは。そういうすずかもどうして着ないのよ?」

「アリサちゃんが着たら私も着るよ?」

「うぐっ、その言い方はずるいわ」

「折角のイベントなんだし、楽しまなければ損だと思わない?」

「せやでせやで、こういう時はその場のノリに任せといたら大抵なんとかなるもんやで」

「うぅ、わかったわ。……って、今のセリフ誰よ」

 

 ちくわ大明神のごとくスルっと入ってきた声に驚き振り返る。そこにいたのは空中に浮かぶ車イス(?)に座った同年代の少女だ。その背後には金髪の柔和な笑みを浮かべた女性がハンドルを握っていた。

 

「誰かしらあなた、ここは関係者以外立ち入り禁止なんだけど」

 

 日本人関係者は自分たちだけだと思っていたところにいた日本人に訝しみ、事情はありそうだと思ったが少しキツイ物言いをしてみる。対する少女は鼻歌を歌うかのように軽やかに、一枚のカードを取り出した。

 

「ほい、スタッフカードや。八神はやて言うんよ、よろしゅうな!」

 

 アリサはそれをしげしげと見つめた。色々自分たちも大概だが、こうして同年代の他人が普通はありえない位置にいるというのにはやはり驚く。後ろの金髪女性は八神シャマルというそうだ。今日は家族揃ってここで働いている、という名目で実質はただのゲストのような扱いらしい。

 

「ごめんなさいね、疑って。でもすごいのね、その年でこんなところで働けるなんて」

「ええってええって。そないに気にせんでもようあることや。ていうか、それはお互い様やろ?あ、アリサちゃんとすずかちゃんって呼ぶけどええ? ――うん、ありがとな。二人も結構有名さかい、よう知っとるよ?バニングス社に月村重工ていえば魔導具最大手やん。ちなみに私はリノ校で研究員やっとるから、引けはとらんと思うで?」

「え、ネバダ州の大学? 私達より全然すごいじゃない!」

「そうだね。もしかして魔力研究でもしてるのかな? あそこはエネルギー学で有名なんだよね?」

 

 アドバイザーとして仕事をしつつも、なんとなく社のお飾り的立ち位置にいると思い込んでいるアリサにとってドヤ顔で言うはやての立場、実力で勝ち取ったのであろうそれは眩しく見えた。だがそれに僻みを感じるアリサではなく、自身の鼓舞に利用する。

 

「せや。魔力学に魔導、魔導工学とプログラミングやな。適性で言えば私は広域殲滅特化やから、こないだのエキシビジョンみたいな戦い方は出来へんのやけどね。ま、今は諸事情で魔法が使えんからどっちみち無理やけど……」

 

 ポンポン、と自分の膝をたたく姿に二人は足が不自由なのを悟る。

 

「ああ、そないな顔せんでも大丈夫やで。いずれ治るもんやってわかっとるさかい、それに私も海鳴出身やからこの足治したら日本に帰る予定にしとるんよ。そん時にはきちんと歩いとる姿お見せするけん、向こうで期待して待っといてな」

「そうなんだ。それじゃぁ、その時は皆で遊びましょ。なのはやフェイト、ユーノ達も混ぜてね!」

「フフ、楽しみにしてるね。私には洋書のオススメを教えてくれたら嬉しいかな」

 

 本人が落ち込んだ様子もなく気にするな、と言ってるのだから必要以上の同情はいらないだろうと即座に切り替えた。

 

「うん、約束や!」

 

 日本に帰ってからの友達をゲットしたはやて。一応前史において知った人物、ということもあるがやはり生で相対するのは感動の度合いが違うのだろう。とはいえ二人も同じ人物とはいえ立場などは相当違っている。改めて知り得た情報に惑わされずに二人を見ていこう、と決めたはやてであった。

 

 

「その節は、どうもありがとうございます。おかげさまで主人ともども幸せに暮らせています」

「私からも改めて礼をさせて頂きます。あの時の御恩は一生忘れません」

 

 少し離れた場所で高町夫妻は挨拶を交わしていた。その相手はジョニー・スリカエッティ。かつて高町士郎の重傷を新興技術である魔法によってほぼ完璧に治療した人間だ。退院時に改めて礼をしようとしたのだが当人は既に病院に存在せず、加えて彼が姿をテレビ越しに見せるようになってからは「あ、あの時の!」とばかりに驚いて食事を喉につまらせかけた。なのでようやく礼を言える機会を得たことで彼ら夫妻は深々と頭を下げていた。その後ろで恭也と美由希も二人のじゃまをしないようにしながら一礼する。

 

「何、気にする必要はない。自分の利益になる状況と、あなた方の行動が噛み合っただけのことさ」

「ふふ、科学者らしい言い方ですけど、それなら私達は勝手に感謝するだけです。また日本にいらした時は翠屋にお寄りください。精一杯サービス致しますから」

「……そうか、なるほどそれも人か。わかった、確かにアメリカの菓子は甘党にしか受けないような極彩色のものばかりだからな。娘たちも飽き飽きしていたところだ。いずれ寄らせてもらうとしよう」

 

 

「……ところで、どうして僕たちはここにいるんだろうな?」

「あれ、クロノ君忘れちゃった?せっかくのご招待を無碍にするわけにもいかないでしょ?」

「そういう意味じゃない。アメリカに利益のない招待なんてしないってことさ。新しく国交を開いたんだから理由はいくらでもあるんだろうけど……」

「相変わらずクロノくんは真面目だねぇ。休日みたいなものなんだからゆっくりすればいいのに」

「そういうわけにいくか。制服を着てこの場にいる以上立派な公務だ。気を抜くなよ、エイミィ」

「はーい」

 

 遠くのゲスト席からスタッフ一同を眺める影。それは移動型の大使館として赴任したアースラ乗員のリンディ、クロノ、エイミィの3名だ。彼らはアメリカとの会談の後この場所に招かれ、イベントの開催を待っている。そのアメリカ側は現在は日本との会談に当っている事だろう。

 

「そうねぇ……まずひとつは地球国家のどこよりも次元世界の仲介である私達を取り込みたいというところかしら。2つ目は裏の目的として魔法を正しく扱えていることをアピールしていることね。一応各国首脳陣はこの魔法の出自が次元世界に基づいていると知っているから、私達から見て発展途上である魔法の安全性に危惧を抱かせないように注意を払ってるのよ。後は、兵器以外の利用法として娯楽にも用いてるのを見せておきたいのじゃないかしら」

「あぁ、そういえば艦長日本びいきですもんねぇ。それなら他国が焦っても仕方ないのかな?」

「それは仕方ないことよエイミィ。中型航行艦を日本が鹵獲したことや、落ちてしまったジュエルシードの責任問題や事後処理で深い付き合いにならざるを得なかったもの。……まあ、日本の雰囲気も緑茶も好きなことは否定しませんけど」

 

 以前こっそり旅行に行って以来、リンディはかなりの日本フリークとなっている。加えてジェックの鎖国じみたレアスキルの発現により、こっそり輸入されていた食料品なども完全に打ち止めされていたリンディは飢えていた。……とまぁ、都合のいいことにこの仕事にありついたことで艦内から転移できるにもかかわらず日本近海にいるのである。

 

「何よりそれが一番の問題でもある。少なくとも航行艦については技術解析を済ませているだろうし、ジュエルシードについて何か知っていてもおかしくないと思うのは普通だろう。これから地球は宇宙の調査と宙域開拓を進める上で、それらの技術情報は大きなアドバンテージになるんだ。日本が現状秘匿している以上、こちら側から引き出そうとするのは道理だ」

「今日の会談はその案件について匂わせていたものね。予測ではあるけど、日本との会談ではそれら技術と引き換えに常任理事国入りを支援しようという目論見があるらしいわ。初期目標である月、あるいは火星において国土争いになるのは避けられない。アメリカは日本に国連の……いえ、アメリカの一員として共同で当たらせることで抑えにしたい。日本はそもそも土地的優位を持たないために、できるだけ早めに確保しておきたい。どちらも主張があるだけに、どう譲歩していくかが鍵となってるということね」

「そういうことですか……。でも支援はするけど確実に入れるとは言ってないあたり、アメリカもあくどいですねぇ。そのうえ常任理事国入りが必ずしも日本の有利になるわけではない、というのもまた……」

「それもまた交渉というものさ。ついでに僕らは困ったことに、そのダシにされかかっている。こちらの賠償もあるから仕方ないが……出来るだけ上手いこと立ち回らないと損しかしないからな。エイミィもよく覚えておくといい」

「うへぇ……なんだか怖いなぁ。あ、私飲み物もらってきまーす」

 

 考えるのを放棄したエイミィはすたこらさっさと席から逃げ出した。オペレーターらしく俯瞰的な状況を読み面倒な事態を避けたようだ。確かに彼女が考えることではないが、生真面目なクロノは溜息を付くしか無い。

 

「あら、逃げられたわねクロノ君。逃げた女を捕まえるのは大変よ?」

「一体何の話を……まぁいいです。まだ時間もあるようですし、少し僕も周ってきます。個人的に高町恭也の能力には興味がありますし、面白い話が聞けそうだ」

 

 そう言うとクロノもゲスト席から舞台裏を通って去っていった。一人残されたリンディは再び思考の海に沈む。さて、現状地球において国連として次元世界との付き合いは一貫しているものの、地球内各国それぞれの足並みは揃っているとは言わず互いの足を踏み合っているようにみえる。先進国のみで見れば、ロシア、アメリカ、日本、EUはある程度宇宙開発競争に目を向けているので穏やかである。アジアの一部地域は技術発展に遅れを取り始めているため旧来の体制と大して変わっていない。これは地球で土地資源争いをするのではなく、外部に目を向けた国とそうでないものの差だろう。国連としての方針がまとまっているのは極端な言い方をすれば、距離的に次元的に離れすぎているためそもそも争うことが無駄だからだ。次元世界側としても地球近郊の惑星には大して興味が無い様子。と、なれば各国の初期目標は月、あるいは火星となる。果たしてこれが将来において自分たちとどのように関わりを持ってくるのか。リンディは更にその予測を進めていくのであった。

 

 

 舞台裏を歩き続けるクロノは不意に睨みつけるような視線を感じた。が、このような場所で自分でそんな目を向ける人間は非常にごくわずか。発信源を見つけたクロノの行動は、しかしあっさりとそれをスルーして再び歩き始めた。なぜなら彼らの顔はデータ上で既に知り、父からは手を出さなくても良いと言われた案件だからである。

 

(もし父さんが死んでいたら、躍起になっていたかもな。だがこの場ではお互い、ただの他人ということにしておいたほうが望ましい。ジェックも解決策はあると言っていたしな)

 

 去っていく背中を見ていたのは、睨んでいたヴィータと、守護獣形態のザフィーラの二人。彼女は管理局制服を着ているクロノを見て、今までの経緯から警戒の姿勢をとっていた。

 

「よしておけ。余計なことをして気づかれる必要はない」

「でもよぉ」

「どうやらあちらも、わかっていて見逃しているようだ。記録の通り、彼らと敵対すると決まっているわけでもないからな」

「……そうだけど、その情報を出したのはジェックのやつだろ?あたしはあいつを信用してねぇ。やってることは確かに未来の破滅を救う救世に見える……けど、あいつの行動には芯がねぇ。オリジナルのいない魔導プログラムだからかは知んねーが将来の展望が自分にねぇやつが、未来を語れるわけがねぇ。そんなやつを信用できるか?」

「ほぼ自動的に行動しているが故の意志薄弱に見える、ということか。しかしそれは以前の……主はやて以前の我らとどう違いがあるのだろうな?」

「……」

 

 ヴィータの持った感情は自己嫌悪と同義だった。ジェックの行動は未来のなのはの願いによって――ただしバグった末の――自動的に行われているようにしか見えなかった。確かに受け答え、人間と同じように行動こそしているものの、ドコか無機質さを感じさせる少年は機械的。未来に至る根幹を潰していけばいい、という考えのみで地球がこのようになっているのはただの結果でしか無い。道具としてしか見ない主に従いつつも誇りを支えにして今まで騎士を全うしていた自分達。一方は自由に見えても芯がなく、命令に束縛されている彼。果たしてそれは魔導生命体としてどちらが幸せなのだろうか。だが今の自分達には、救いの未来がある可能性が残っている。安全確実に、そしてより最良の未来を引き出すためにスカリエッティが(好奇心込で)尽力している。私達には希望がある――だったら、彼も

 

「――救うんだったら、救われなくちゃむくわれねぇだろ……」

 

 ポツリと呟いたヴィータの言葉。これを聞いたザフィーラはふ、と笑みをこぼした。

 

「……なんだよ」

「いや、ヴィータは信じたいから疑っているんだな、と思ってな」

「……は?」

「相手を信じるには、それに相応するだけの情報がいる。そしてそれを手に入れるためには、相手を傷つけてでも踏み込む勇気がいる。その勇気を示そうとしているお前をのらりくらりと躱す奴が気に入らない。簡単にいえば、お前は奴を心配しているということだ」

 

 ザフィーラの解答を聞いたヴィータの顔は、今まで気づいていなかったことに気づいてしまった恥ずかしさでゆっくりと真っ赤に染まった。

 

「ううう、うるせーよ! なんだよ、たまに饒舌になったと思ったらそんなこと言いやがって! 恥ずかしいの禁止!」

「ふ、人それを『友情』と言う」

「お前絶対何かのアニメに影響されただろ!? またはやてのロボットアニメコレクションに手を出したな!?」

「そう言うヴィータこそ、ゴンドラに心動かされているのではないか?熱いロボットものはいいぞ?」

「……面白いじゃんアレ。たまにはお前も……いややめよう、この論争は不毛すぎる。ていうかザフィーラ、なんでこんなところにいるんだよ?さっきは人型で機材運びしてなかったか?」

「…………何、主はやてを見守るためにここにいるだけで他意はない。決して人型だと無茶な重量の荷運びをさせられそうになるというわけでは――」

「さぼってるだけじゃねーか!! てかシグナムもドコ行ったんだよ!」

 

 ピッコーン☆とジョニー製ピコピコハンマーで会心のツッコミを入れるヴィータ。しかし彼女は気づかない。ザフィーラですら滝の汗を流しながら匙を投げる「何か」を運ばせようとしていた人物が誰だったのか。そして明らかに必要でない大きさの資材の正体とは。この場にいないシグナムの行方は? 誰もが気づくことすら無く不穏な影は迫りつつあった。

 

 

「それではMs.高町には先ほどのリハーサル通り、ここから飛び立ちロスエンジェルス川沿いに大きく周回しつつ、グリフィスパーク上空を旋回して戻ってきてください。その途中で低空飛行や森の中の低速移動、アクロバティックな動作パターンを混ぜて撮影を行います。アドリブは自由に入れてもらって結構です。何か質問は?」

「いえ、大丈夫です! 任せて下さい!」

「グッド、良い返事だMs.高町。さっきまでとは大違いだな」

「にゃはは、それは言わないでください」

 

 舞台のメインとなる人間が集まる場所でなのはは恥ずかしがりながら頬をかく。総理に突拍子もなく告げられた旅行の知らせからしばらくして実際にアメリカに行き、あれよあれよと言う間に作り上げられたステージはまさしく自分のためだけのそれだった。アイドルもびっくりの己の処遇とひと目の多さにつくことにわたわたと焦るなのはであったが、リハーサルを終える頃にはようやく元通りの自分を取り戻していた。やっぱり、空はいいものだと彼女は思う。そこには何の縛りもなく、遠慮もいらず、ただただ自由だけがある場所。

 

 そして今回は特別仕様ということで、なんと開発途中のカメラ(将来的にREDONEと呼ばれるそれ)を使えるということに、なのはのテンションは天井を突き破った。本来このカメラの登場は2008年後半から2009年頃に販売されるもので、当時までハリウッドで主流であった35mmフィルムカメラのシェアを完全に奪う革命的なデジタルカメラである。だが魔導革命によりその他の技術水準も上がったために、開発が圧倒的に早まったものの一つだ。今までのデジタルカメラといえばせいぜいがHD画質が限界であったが、これはなんと4Kもの解像度を誇り35mmフィルムカメラとほぼ同等の高画質を実現するに至っている。未だにアナログテレビが主流の時代でこの機種は完全にオーバーテクノロジーであった(2013年時には6Kほどらしい)革命児を触れるのだからなのはが興奮するのも無理は無いだろう。ついでに35mmまで触らさせてもらったなのはにとって、ここははたして宇宙か天国か。自分にかけられた期待や重圧なんぞ蹴飛ばしてなんのそのとばかりにむちゃくちゃに張り切っている。「うわ、うわぁ~~」と目をキラキラさせながら。それを見たユーノはもしかして歴史を語る自分はこんな感じだろうか、とちょっと引いた目で眺めていたのは余談である。

 

 もちろん、撮影はデバイスを使ったほうがより高画質であることは間違いない。しかし世間一般のほとんどはテレビも、録画機材もあまり対応していない。魔導の技術が飛び急ぎすぎて他が追従しきれていないのだ。今や様々な魔導製品が発売されつつあるとはいえども、ジャンルの違う機器との互換性というのはまだまだ十分な域にはない。そのためなのははこのカメラをバックパックに接続して撮影を行うのだ。レイジングハートには悪いが、何より撮影の実感を味わえるという点は大きい。

 

 撮影した映像はスタジオ上の巨大投影型スクリーンに表示されるようになっている。追従する魔導カメラマン2名も加えた3つの視点からによる生中継だ。このスクリーン提供はジョニー含めちゃっかりプレシアも混じっており、家族総出で設営の手伝いを行っている。舞台の幕開けもあと少しを残すところとなった。今、アメリカいや世界において最大のショーが始まろうとしている。

 




序破急の序、脅威の11000字。小さくまとめられなくてすまんな、恨んでくれても構わん。多分全部合わせて30000字超えるから。

さて、実名企業はなしでの方向で勿論ハリウッドなんたらももじってるわけですが、ユニバー○ルスタ○オハリウッドなんてほとんど直球なネーミングのどこを変えたらいいかわっかんねー、と結局……ね?。国を飛び越えて宇宙へ、どうしてこうなったし。ハリー・オードもびっくり。

以下トリビア。
ナンバーズな人たち→
相変わらず平和のようで平和でない一般的な(?)生活を謳歌している。ただ最近経理ばっかりでつまんなぁーい。とか宣っている誰かがいるとかいないとか。

八神はやて→
イノセント設定を改変流用。ちなみに筆者は具体的な試験の難度は知らないのでメリケン大学ランキングでそれなりに高いとこで辻褄の合いそうな、所在地に近そうな場所を採用。

ジョニー製ピコハン→
ピコッと音がなる。相手は気絶する(プリン
ほんとなんでシャルティエが使えるのか謎である。リオンのセリフも気合が入っている。

ヴィータ→
ツンデレ感染中。

ザフィーラ→
はやて秘蔵のロボットアニメコレクションにはまる。時々何かうなずいているシグナムが隣にいるらしい。

管理局員一同→
クロノくんが年齢制限により現場に出動しづらくなった事もありそのまま大使館扱いに。地球各国に振り回されないように舵取りを続けるがどこにいても胃が痛みそうな役回りは変わってない様子。逆にリンディは大好きなお茶(危険物)でほっこり。ちなみに海外に行けば砂糖入りおーい○茶とか売ってある模様。やはり苦いものを楽しむというのは難しいのだろうか。


次回更新は寝て待て(明日来ることはまず無い。


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