それは正しく寸胴であった。上からスリーサイズを述べれば全て同じと答えられるほどに。その円柱は銀の光沢が輝かんばかりに眩しく強い(確信。なぜなら胴の太ましさと反する細い腕には漢のロマン、ドリルがついているからだ。しかしそのドリル、全く土がついていない。地面から出てきたにも関わらず細い足元に広がるそれは一切の穴も、倒木も見られずドリルのくせに環境保護という涙ぐましい配慮を持っているようだ。すごいぞドリルやったぞドリル! でも付いてる意味あるのそのドリル!? まぁグリフィスパークを破壊してしまったらそれはもう非難轟々だろうから、ありがたいことに変わりはない。ついでとばかりにご丁寧に異相結界まで張って破壊対策は万全である。それはつまり、これから暴れてしまっても構わんのだろう? とばかりの予防線をも張っているということなのだろうが。
さてそのロボット、もはや形がどこぞのキ○ガイ博士の乗り物だったり某国民的パンアニメの敵キャラが乗るようなアレのようだったり、非情に形容しやすいナリをしているが。とてつもなくアメリカらしくないジャパナイズされたシンプルなロボットの乱入に、もはやなのはのアドリブ精神はポイントゼロであった。だってあれこれ続きすぎてどれにツッコミを入れればいいかわからないから。シグナムとの剣舞はまぁ、いい。それはいいとしてもアドリブにノリノリな司会だったり元の進行が形すら無いまま構わず進んでいたり、そして誰もそれを気にしていないあたりここには、きっと常人がいない。比較して良心回路を持ち合わせているのは多分同行しているカメラマンの二人くらいだろう。引っ掻き回されたこの芝居を一体どう終わらせればいいのか。その答えは誰も教えてくれない……かと思えた。
「ほう、なるほど。ライバルとの戦いの後に巨大な悪役との対決か、筋としては悪くない」
「(いつの間にかライバルにされてる……)あ、そっか。これアメコミヒーローのノリなんだね」
ウムウムとうなずくシグナムを見てようやく納得するなのは。会場のほうを確認しても(結界構築していても回線は維持している様子)そのテンションは落ちるどころか高まる一方である。筋肉むきむきヒーローと魔法少女ではかなりの差がある気がするが。
「だとすれば高町、貴様に求められている役割はわかるか?」
「えっと、スーパーマンのごとく華麗に回避して一撃で終了、でいいのかな?」
「そのとおりだ。中で操縦している人間は気にしなくて構わん、思い切り破壊しろ」
「え、いや、それって大丈夫なの?」
「あの高笑いからして、私の予想が正しければ乗っているのは知人だ。奴なら何度ぶちこまれても問題はない、人格的に」
「それってどんな人!? 人格的に問題あるってことだよねそれ!?」
「こんなところに乱入してくるやつだ。倒されても文句は言えんだろう」
「(それってきっとブーメラン……)はぁ、でも確かにどうにかしないとショーも終わらないもんね。先に謝っておくね! ごめんなさい!」
その時ゲスト席にいるフェイト・テスタロッサは思った。嫌な予感しかしない……と。そっと両手を合わせて拝む姿は同情の意を込めたとても理解のある姿だったという。
「おーほっほっほっほ! とうとうこの私、クアットロの時代がやってきたわ!」
「えぇー。オチ担当の未来しか見えないよクア姉~……」
動くキテレツドラム缶の中、そのコクピットに乗っているのは二人の少女だ。片方は投影モニタに映るキーボードを忙しなく叩くメガネ少女、クアットロ。もう片方はバイクのようなコクピットに載せられているセインという少女。
セインは調整ポッドからつい最近出てきた一人であり、その中でも一番年長の人間。彼女の弟妹達も時期を早めて出てきており、しかし戦闘に使う目的でないために皆かなり幼く中にはほとんど赤子のような子もいる。そんな子たちの育て役だったり社では活気の良さを活かして広報をしていたりとかなりアクティブに動く子だ。そんな子ではあるがやはりまだ子供、テンションの上下が激しく無理やりロボに連れ込まれただけありご立腹。
「何を言ってるのセインちゃん! ここでアースガジェット26号~あ、あの白鳥は湖を飛び出して堕ちた~があの憎い魔法少女を倒す活躍をして箔を付けるの!」
「嫌な予感しかしないよ何その名前!? ……ていうか高町さんに何の恨みがあるのさ」
「それは無論! あのちびっ子はドクターに目をつけてもらって輝かしいばかりの功績を得ているというのに……私といえば毎日毎日帳簿とにらめっこして計算計算計算計算計算計算計算計算菓子計算計算計算菓子計算計算のつっまらない日々! そりゃ腹立って立ちますわ!」
「ちゃんと休憩入れてるからいいじゃん~? ていうかただの妬みと逆恨みだよそれ」
「知ったことではありません~。あそこにいるのはただ私の糧となるためだけの踏み台にすぎないわぁ。だとしたら踏んであげるのが淑女のマナーってものでしょ?」
クァットロは社の経理として才気を放っている。のだが、初期に作られただけあってスカリエッティ因子が残っているのか真面目に働くという行為に苛立ちを覚えているようだ。結果我慢の限界を超えて爆発しこのような行為に至ったらしい。何分我欲が強いだけになのはが一人勝ちしているような現状が気に食わないとか。
「そんなことに私を巻き込まないでよ~。確かに地中からドッキリをやるのにディープダイバーが必要だったのはわかるけどさー」
「さぁ行くわよアースガジェット以下略! 尽く蹴散らしなさい!」
「ダメだこの姉聞いてない……。ところで一ついいかなクア姉」
「何かしらセインちゃん」
「このロボット超ださい」
「ぐはっ!? ……いいからさっさと動かしなさい!」
「はーい」
セインのISによって地中を泳いできたドラム缶が、彼女の手によってぐぃんと動きはいポーズ。某国民的パンアニメの悪役のごとくコロンビアを決め、颯爽と足を踏み出した。最初の配慮は何だったのかという勢いで木を踏み荒らしながら進んでくるが、結界があるので問題はない。唸るエンジンが世界を揺らし、雄叫び上げるドリルの刃が空中にいる少女達を狙う。
「わわ、当たらないとは思うけどさすがにドリルは怖いかな」
「む? 奴は私も狙うのか。とすると、これは主人公を助けるために玉砕するライバルフラグでも立っているのか? わざと負けるのは柄ではないのだが」
「普通に行動不能に追い込めばいいんじゃないかな……って撃ってきた!」
ぶん回したドリルが避けられると見るや、頭部からニョキニョキ飛び出した十ものガトリングタレットが魔力弾をはき出し始めた。空一面が魔導師では展開できないほどの大量の魔力弾に溢れ狙いも適当に無造作に飛び交う。ように見えて、内数機のタレットは逃げ道を塞ぐように展開しているのか避けながらにして二人は追い込まれていく。これほどまでに緻密な手口はクァットロの仕業だな、とシグナムは確信を持つ。そこに、デッドスペースに誘い込まれ再びドリルパンチが打ち込まれる。シグナムはレヴァンティンによってそれを弾き火花を散らしながら、なのはは持ち前の防御力でプロテクションを張ったままドリルにあたり、自ら弾き飛ばされて距離を取る。
「ととっ、危なかったぁ。……そろそろ魔力も撒けたし、今度はこっちの番!」
「やれる! やれてるわよぉ私! あの小娘を地に叩き落として名声を手にするのよぉ!」
「いやぁ、それはどうかと思うなぁ」
コクピットで騒ぐクァットロを尻目に、ハンドルを握りながらセインは冷静に観察を続ける。確かに反撃を受けてないこちらの状況は有利にも見えるが、実際には有効打を一打も与えられていないのが分かる通り当初から何も変わっていない。むしろこちらが情けをかけられているとセインは思った。何せ高町なのはが本気でスターライトブレイカーを撃ちこめば、動きの鈍いロボでは直撃を免れたとしても避けきれない。解析したところその魔法の爆発半径は核爆発の数倍に匹敵するらしい。仮にこれを、完全にアウトレンジから放たれたらこんなマヌケなロボでは対応するすべがないだろう。つまり今は戦えてるのではなく、あちらの戦術的不利にも関わらずあえて近距離で戦ってもらっているのだ。これでどうやったら勝てるというのだろう。クァットロは自分に酔っているのかその頭脳を持っているにも関わらず気づいていない。まさしく慢心。負けは秒読みだった。セインは逃げる準備を始めた。
そして時は動く。
飛び乱れる弾幕と容赦なくぶん回されるドリル。格ゲー初心者のガチャプレイ並みに法則性のないめんどくさい動きを繰り出すロボに四苦八苦しながらバスターで外装を削り落とす。しかしその時、変化が起こった。ロボはまるで足をつってしまったようにビタリと止まってしまったのだ。
「な、ちょっと何を止まってるのセインちゃぁん!?」
「わ、私のせいじゃないって!なんか急にぎちぎちって!はっ!」
セインの脳裏にあることが唐突に思い出される。それは今から少し前、ロボットのパーツのコンテナを運ばせていたザフィーラが最後の荷物を前にバックレたのだ。とはいえ彼からすれば中身のわからないものを延々とパシ――運ばされ続けていたのだからそうなっても仕方ない。ついでにセインも嫌々作業に従事していたので彼を責めることはせず、とりあえず動くからこれでいっかぁと放棄していた。勿論クァットロは力作業なんて面倒だわぁとやるわけもなく。
「わ、わた――じゃなくてザッフィーのせい! だいたいザッフィーのせい!」
「な、なんですってぇあのクソ犬! ってきゃあ!?」
「わわわわわっ……!」
盛大に責任を押し付けるだけ押し付けているところにGがかかり、まるで落ちるような衝撃を受けた。動きを止めた事をチャンスと見たなのはがズンバラリと足の根っこをセイバーでぶった切ったのだ。いくら内部が魔法的な安全性を保たれているとはいえ、衝撃は衝撃。怯んでいるところドリルを、続けてバスターの斉射でタレットを潰されたロボは、哀れ本物のだるま、もといドラム缶と化してしまった。
そして上空から向けられる杖先。銃口にも似たそれは拡散した魔力を集め桜色が急激に肥大する。そう、あれが、アレが来る! 向けられた人間は皆恐怖せずにはいられないあの大魔法が!
「な、ななっ」
「おぉっと、ガジェットの底部が地面に接してる! これはチャンス! ばいばいクァ姉オタッシャデー!」
「あ!? ちょ、何逃げてるのセインちゃぁん!? ま、まちなさ……ひぃ!?」
ISディープダイバーを発動させて何もかもを水のようにドボンと潜る。その早業に為す術も無く見送ってしまったクァットロは、再び視線をディスプレイに向けて顔をひきつらせた。見事に画面が桜色に染まっている。
「こ、こんな終わり方い――」
爆発音を、聞いた気がした。哀れクァットロ、以降散り際の捨て台詞を吐き切ることも出来ず彼女の意識は闇に堕ちた。
こうして、アドリブだらけのお祭は熱気を帯びたまま無事(?)終了した。スタジオは商魂たくましく映像を即売で売り飛ばし、大利益を得たという。ちなみにそれには特典としてリハーサル時に撮影した映像も添付されていた。リハとはいえとりあえず見せられる内容であったので、なのは的に十分と言えずとも見せるはずだったものが見せられた事にホッとしている。
それから数日は、熱気と狂乱から醒めた子どもたちの時間であった。新しく出来た友人、八神はやてなりのアメリカでの遊び方を教わり、お気に入りの店をまわり、会話を楽しんだ。なのはに盾にされたフェイトがシグナムにロックオンされ彼女もライバル認定されたり。すずか、忍とシャマルのあらあらうふふな会話が繰り広げられたり。アリサとヴィータが謎の取っ組み合いを始めアギトが野次を入れたり。アリシアはナンバーズ社を単独で見学していたり。ホテルではなくはやて宅に泊まりもした。優しい母と剽軽な父は、大家族に慣れているだけあってその大人数相手でも気軽に相手をしていた。
ちなみに男勢は終始一貫してのんびりしていた様子だった。時折顔中に引っかき傷やら手のひらの跡があったザフィーラは恭也と何やら視線を交差させていたようだが、その心中は彼らだけが知っている。どうせ「こいつ、やるな――!」的な思考なんだろうけども。
しかしその場に、なのはが求めたジョニーの姿は無かった。撮影後にもスタジオに居らず、やはり彼は忙しいのかなかなか会う機会に恵まれなかった。しかしそれをはやてを通して間接的に聞くことは無かった。何か知っていないか、と聞くくらいは出来たかもしれないが、それでもなのはは当時関わった本人に聞くのが筋だろうと頑なに話題に上げることはなかった。
そうして、しばしの別れの時が来た。
「やぁ、よう遊んだなぁ。やっぱ日本流のボケが通じるのはおもろいわ」
「そう言って散々私をダシにして……ほんとツッコミが耐えなかったわ」
「アリサちゃんがいきのええ反応するからやん。フェイトちゃんのど天然スルーにはたじたじやったけどな。まるで氷の上を滑っとる気分やったで」
「……え? 何かおかしかったかな?」
「ふふ、フェイトちゃんはそのままでいてね?」
「え……え?」
何が何だかわからないと目を点にするフェイトを見ながら、はやて達は噛み締めたような笑いを浮かべた。その笑いは空港の雑踏に消されるほど小さいものであったが、色とりどりの小さな花の咲くような光景であった。
「……あの、スリカエッティさん」
「ジョニーで構わないよ。あの時のことを聞きたいのだろう?」
「はい、ジョニーさん」
そして、なのははとうとう果たすべき目的を、その人物と話をすることが出来た。空港への見送りにはジョニーも来ていたのだ。期待と緊張で胸が弾けるような思いで、なのはは聞いた。一体あの子は誰だったのか、それとも何だったのか。だがそれよりも何よりも、会って感謝を告げたかった。私はあの時、あなたのおかげで大事なモノを得られたよ、と。
「そうだね、確かに気になるだろう。とはいえ、今は言えることは少ないんだ」
「……どういうことですか?」
訝しげにジョニーを見る目を細めるなのは。それはそうだろう、ここまで機会を待ったのだ。これで骨折り損は許せるわけがない。ジョニーは間違いなく知っているのだと、直感が告げているのだ。
「教えるのは簡単だ。彼が君の言っているようなドッペルゲンガー等ではなくちゃんと実在していること。春には確かに日本にもいた。だが、それだけだ。彼が君に会わないのはそれなりの理由がある」
「教えられない理由も同じなんですか?」
「そう、これは私の推測だが……少なくとも今は君と繋げる訳にはいかない。済まないが、あと2年はまってほしい」
2年、長すぎる時間だ。手がかりを前にこれではあまりにも辛すぎる。何故それほど、何故2年なのか、なのはの脳はどうしてという思考でぐるぐると渦巻いたまま視線を下げた。ただお礼を言いたいだけなのに、ここまできて遠回りをしなければならないのだろう。なのはも聞き分けのない子供ではない、相手も譲歩しているからわがままも言いづらい。しかし魔法という理を扱うだけの頭脳を持つ彼女はそれを駆使して自力で解決策を求めようとした。しかし、どうしてもピースが足りないのだ。会わないに足る理由が。もしかして私が、あの場で「彼」と会ってしまった出来事が彼にとって何か不都合なものであったのかもしれないとネガティブな推測で埋めてしまいそうになるほどに。そこにポンと、肩を叩く存在がいた。
「別に、あいつがなのはちゃんを嫌ってるわけじゃないよ」
「……アリシア、さん?」
声をかけたのはアリシア・テスタロッサだった。思えば彼女も、もしくはフェイトも何かを知っているような素振りを見せていた。なのはを通して誰かを見る目、それを不思議に思った事はある。だが地球にいた彼と、次元世界から来た彼女達は直接的につながることがなかった。
「あいつはある意味理屈の権化だからね。会えないって言うなら、多分梃子でも動かないというか、意見を変えないと思うよ?むしろ、春に姿を見れただけでもあなたとの繋がりの強さを示してるようなものだよ。必要なときは、いつかきっと会える。だから、さ、待ってあげてくれないかな?」
「…………」
「まぁ、待った時間分会った時に思いっきり利子つけて返せばいいんじゃないかな?殴るなり斬るなり撃つなり」
「……それはどうかと思うんだけど」
それはお礼参りではなかろうか。ちょっと言葉尻に付け足しただけでえらく意味が変わってしまうような言い草に、あるいは呆れからかクスっと笑いがこぼれた。
「……わかりました。それじゃあ2年後、また必ず聞きにきますから! 約束です!」
「ああ、約束だ。破った時は撃たれても構わないよ」
「なんでそんなに二人共私に撃たせようとするのー!?」
ククク、と笑う二人。遊ばれていると感じたなのははぷーと頬を膨らませてフェイト達の元へずかずかと移動していった。それを見届けて二人は真顔で話し始める。
「……で、実際のところどうなの? あいつの様子は。私のところにも1年くらい来てないんだけど」
「そろそろ限界だね。ジュエルシードの一件以降、彼女との外見の乖離が著しい。成長が早まっていると言っていいかな。もう君と背丈が大差ないほどにね」
「そう、それじゃあ……」
「ああ、闇の書については作業段階を繰り上げる事になるだろう。12月を待っていることは恐らく無理だ。――そして、そこが決定打になる」
やれやれ、難しいことだ。とジョニーは唸った。ジェックが抱えているある問題、それは彼を含め3人共が知る――しかし何が起こるかは推測でしか無くジョニーをもってしても解決できない難題であった。
「『高町なのは』と離れれば離れるほど運命は強硬になり、高町なのはと繋がりを失えば存在が揺らぐ、か。全く、面倒な仕様だね彼も」
「だからこそ海鳴市で1回だけ姿を見せた、ってことね。ほとんど知る限りの歴史と相似したあの状況で。……字面だけ取れば合ってるけど、『今』はもう材料は同じだけの混ぜ方の違うスープみたいなものだし、あまり効果は無かったのかな」
「だろうね。……おっと、もしかしたら既に他にも影響は出ているのかもしれないな」
「え?……なるほど、そっちはまかせるね。私はもう行くから」
「ああ、またいずれ」
ジョニーはとある方向を見てカツカツと歩き出す。その方向は先ほどなのはが向かっていった方向だった。
なのは達が飛行機へ向かうゲートを潜ろうとし始めていた頃、はやては彼女達に手を振りながらもとてつもない居心地の悪さを感じていた。それはジェックの数々の行いを知っているからだ。およそ未来から過去への遡行というのは、考えてみなくともとんでもない大事だとわかる。未来への筋、いわゆる運命と呼ばれるべきものを本人の承諾も無く捻じ曲げる。それは果たしてあってもいいことなのだろうか? 未来の高町なのはからすれば、大事だったはずのものが知らぬ間に変わっていくことになって、そして今のなのはは得られたはずのものが得られなくなる。かつて己は、前史において亡くなるはずだった両親の命を救ってもらった経緯がある。だが生きている以上、死んだかどうかなんて今となってはわからない。勿論死なずに越したことはない。無いが、仮に両親が死んだ後生きている自分は、きっと何か大切なモノを手に入れながら未来へと進んでいったはずだ。それは自分にとっても必要なものだったのではないか?じゃぁ救うとは何だ。経験が、試練が、喪失が、乗り越えた先に何かがあるのなら、救済は偽善ですら無い、独善ではないか。そもそも一つ一つの出来事に善悪だの存在するのか?物事がプラスだったかマイナスだったかなんて、そんなものその時になってみなければわからな――そもそも自分の歴史が変えられているという重大ごとをなのはに伝えないということは、ジョニーに黙っていろと言われていたが本当にそれでいいのか?タイムパラドックスは?歴史が変わったらいわゆる未来のなのはの存在は?
とりとめのない、そして理解の追いつかない思考が脳裏を駆け抜け、ただただ伝えなければならないという脅迫的な罪悪感に襲われ、はやては待ってと大声を上げそうになりながら手を伸ばし――
「そこまでだ。考えすぎてはいけない」
それを遮るように掴まれた感触にハッとなり、はやての意識は浮上した。今、私は何をしようとして……わけがわからない熱に促された行動はジョニーの手に止められていた。気がつけばなのは達は既に声をかけるには遠いほどの距離を離れている。
「スカさん……」
「運命に惹きこまれたね、はやて。今君はジェックの事を口に出そうとして、自分から滅びの入り口へ踏みだそうとしていたよ」
「惹きこまれたって、よう意味が……」
「気づけ無いのも無理は無い。あれは回避不能なサブリミナルみたいなものでね。意志を、歴史を、理解していないと無意識に誘導させられる」
「そうなったら、どうなるん?」
「推測だが、君の場合は闇の書による暴走に繋がりやすくなる、かな。それも何らかの理由を持ってして海鳴市で起こす可能性が高いだろう。そうなってしまっては、私の計画も水の泡だ。そうならないだけの措置はとっているがね。私が彼のことを頑なに高町なのはに伝えないでいるのは、そのためでもある」
「んなっ、なんでそうなるん……これはジェックがやったことなん?」
「そうでもあるし、そうでもないとも言える」
ジェックの事を伝えるだけで何故そこへつながるのか、関係性が思い浮かばない。しかし運命という単語で彼を連想した少女は少なくとも原因にだけは気づいた。そのはずなのだが、ジョニーは言葉を濁している。
「故意やないいうこと?闇の書も魔力を貯めなそないな自体にはならへんやろ」
「そう、起こりうる可能性を知っていて意識的に反する行動をとれているなら、さほど問題ではない。だが、闇の書の修正を行うに至ってジェックが何らかの要因で参加できなくなる可能性はある。リスクマネジメントは行っているから彼がいなくてもなんとかなるが……それでも成功率が高いに越したことはない。……はやて、修正作業は9月に行うことにする」
「……そうせざるを得ない事態が起こってるちゅうことやな」
何か、目に見えない重たい空気が漂っている。何も知らないのんきな乗客達の行き交う狭間で中洲のようにポッカリと空いた場所に立ちそれを知覚するはやて達は、自分達が彼らとはどこか違う場所にいるような気がしてならなかった。
そういうわけで、はやてちゃんSANチェックです(ヒィァー
さてさてジェックの抱える問題とは果たして何か。闇の書解決編を通してそろそろネタバレが出来る。やったね作者!明確な伏線って難しいですわ。
アースガジェット(以下略
スペック
全長:15m
重量:乙女の秘密☆
兵装:
5連大型MGドライブ
なんだか大きい漢のドリル
10連頭部タレット
特殊能力:巨大化には強化が付き物よ♡
シスターズが持つIS能力を拡大してガジェットに付与する性質。その演算にはクァットロ自身が必要不可欠。今回はディープダイバーを拡大して大型のガジェットを地中潜行するために運用された。本来のディープダイバーは2,3人程度までが限度。本編読んでアレ? ッて思った人は正解。仮にこれがチンクのランブルデトネイターであった場合、ロボそのものが自爆できるほど能力が拡大解釈されるが、シナジー的には全く意味が無い。実はなにげにすごい技術なのだがやられてしまった以上天丼は無粋、とかで以後全く作られていない。
クァットロのガジェットシリーズ:
ナンバリングこそされてるものの番号が飛んだり英字だったりでイマイチ順序がはっきりしない。彼女が作るもの、計画するものはTRPGで常にファンブルするかのごとく致命的にダサい形状、名称を賜ってしまう。その割にはスカリエッティ因子を色濃く受け継いだせいで(現在は教育により多少道徳的に修正されたが)、作るものは大体高機能を持っている。但しどれだけ高機能かつ運用するだけの頭脳を持っていようと自身が戦闘者ではない分戦術眼はナンバーズ内でも圧倒的に劣っている。つまり宝の持ち腐れ。ちなみに毎回巨大ロボを作ってるわけではなく、普段は小型のものが多い。今回は奮発して今まで作ったガジェットの総開発費を上回る資金を持って開発された。一体どれだけつぎ込んだのか、誰にも気付かれずにこっそりやりきってるあたりさすが経理担当である。結末はショーの後は真っ黒になってガタガタ震えながら他のナンバーズ一家に怒鳴られている姿があったらしいが。