次元世界を単身であっさり飛んでくること朝めし前。
消費魔力量は0と非常識なまでにリーズナブル、もといプライスレス。必要なのは処理を実行する無表情。特に大した苦労もなく管理世界、ミッドチルダに姿を表した。
そんな吾輩はネコ……ではなく魔力構成体である。
名前は4年くらい前に決めたらしい。時間を飛び飛びしているので主観時間ではソレくらいという話だ。
ジェック・L・高町。
ジュエル+レリックで生まれた構成体なのでジェック、実に単純な話だ。
未来において死に際の高町なのはによって生まれたこの身は、彼女の望みをただただ叶えるだけの願望機である。
彼女の願い、それは未来の絶望を回避するという救済だ。
根本の原因は破壊され尽くした後に生まれたジェックにもわかっている。
当然だろう、彼は彼女の望みを受けて生まれたのだ。それを知らないはずがない。その行動方針は極めてシンプル、未来を崩壊させたであろう危険性の高いロストロギアの破壊だ。破壊させた原因が無ければ物事は起こらない。当たり前の話。
しかしここでひとつ、問題が出てくる。
それをやってしまうと、優先目標となるのは未来において存在箇所がわかっているロストロギアだ。
つまり、ジュエルシード。
ユーノが掘り出したということはつまり、掘り出した先の記録等も当然有る。それはレイジングハートにも記録されており間違いはない。
しかし、それを破壊すると過去のなのはは魔法に関わることが出来ない。そうなれば今まで関わってきた人物や事件、何もかもが無かった事になる。高町なのはは無意識にそれを良しとしなかった。破壊の願いに失いたくないという願い。相反する両方の願いは絡み合い、反発し合い、しかし歪んだ願いを叶えてしまう願望機はその歪みを受け入れて一人の少年を生み出した。
それがジェック、「縁を操る」というレアスキルを持った少年である。
人同士、もしくは何かのつながりを自在に操るというものだ。具体的に言えば誰かと誰かの縁を繋げる「縁結び」、縁を切って対象と出会う可能性を断絶する「縁切り」、そして縁を手繰り時間や場所を移動する「巡り」。要するに彼は誰かと会ったり会わなかったり、ぶっちゃけるとフラグを立てる能力に特化しているのである。彼が使えるスキルはその3つ。否、その3つのみ。
元来、巡り合わせというまるで奇跡や運命のように扱われる概念を自己の力のみで操ることは不可能だ。それは時間を逆行したとしても同じような状態にならないと言われるように、過去に飛んだ自身の存在そのものがパラドックスになる場合もある。それを強引に捻じ曲げるというのだから、ソレに使う出力もバカにならない。
だからか、彼はそのレアスキル以外を行使できないのだ。
魔力反応はEと極小。魔導師になるには全く足りない。
つまり彼自身には敵を害するための攻撃手段がないことにほかならない。最も、それを差し置いて強力すぎるのがこのレアスキルであるのだからこれはデメリットにすらならない。
道具は使いよう、というようにレアスキルの使い方を工夫すればいいだけだ。
例えば、世界そのものと対象の縁を切って何処とも知らぬ、虚数空間に追放したりとか。
危険な場所への縁を結んであげてそこに運命のごとく突っ込ませる、とか。
どちらにしろ自身が手を下すより悲惨なことになるのは間違いない。
話を戻して、彼がそういう能力になってしまったのは前述の通りなのはが求めてしまったためだ。もとよりジェックは自我の構成などが無意識であるが高町なのはによって行われている。つまり彼の存在意義と行動方針は「高町なのは」の縁と記憶を優先して処理しなければならない。
そのため、彼は高町なのはがユーノと、管理世界という存在を知りフェイト、そしてリンディやクロノと出会うためにはジュエルシードという存在は必須なのだ。破壊、もとい絶縁が最優先であるのにこれを破壊できないという矛盾。重要なファクターとなってしまう存在は一時的にそれをスルーしなければならないという彼に課せられたルール。
だがしかし、そもそもからして歪んでいるジュエルシードから生まれた彼も一筋縄ではいかなかった。
「高町なのは」がロストロギアの絶縁以外は元通りの記憶のまま、を望んだのに対して、彼「ジェック」は「高町なのはが知った疑念や後悔、不幸」をも絶縁することを望んだのだ。
なんというか、言ってみれば相手の願いを叶えてあげたいツンデレ少年みたいに見えて非常にちっちゃいのだが。それもまた「高町なのは」と「ジュエルシード」のせいでだいたい片付いてしまう。高町なのはの性格は「不屈」という文字に表されるように我慢や耐えることを前提にしている。しかしジェックは高町なのはを元にジュエルシードで歪んで構築されたものだ。そのために性格は反転し、「耐えるような状態になる前にどうにかしてしまう」性格になっている。
故に彼は、何かが起こる事を知っているならばそれが起こらぬように行動する。
例えば、アリシア・テスタロッサの救済とか。
これはまたどういう奇跡なのか、運が良かったのか悪かったのか、偶然にも構築された彼の性格はそれなりにいい方向に向かうこととなった。
この力によって色々とフラグをばらまいている気もしないでもないが、それも必要によって行なっているものであって、無秩序に行なっていることではない。しかしその力を行使する彼は紛れもなく「縁結びの神様」であった。高町なのはもとんでもないモノを生み出してしまったものである。
長々と話してしまったが、ジェックは数日前、縁をたどってミッドチルダ郊外の森の中に転移してきた。時間は転移後約10分と経っておらぬ。おらぬのだが……
何故かロシアの荒ぐ……ゲフンゲフン、ランドル・バルクレアというオッサンに担がれてしまっていた。まぁ顔はいかつい熊のようにおっかないとだけ追加しておこう。そんな彼に表現は正しくないが、誘拐されてしまっていた。
なにせジェックの見た目は9歳(笑)である。生まれた時から幼年であり、時間転移をくり返しているために身体から年齢を判断するしか無い。
彼からしてみれば素性のわからぬ少年が時空漂流でウッカリ転移してきてしまったようにしか見えず。発見されてからはあれよあれよというまに管理局管轄の訓練校で保護されてしまうことになってしまった。どう見ても魔力量は微妙なのだが、心優しい中年はそれを是としていた。
もしかして彼、訓練校を孤児院か何かと勘違いしているのではなかろうか。
そんな疑問で首をもたげつつも、彼の良心を無碍にするのもいかがなものかと思い、とりあえずそのまま誘拐されるがままにした。
さらわれて数日。グラウンドで訓練していたら多数の訓練生にメンチ切られた。中には可愛いからお人形になってくださいとか鼻血だしてる女子もいる。どういうことだおい。メンチ切り筆頭である眉根を寄せた少年はこう言ってきた。
「何で魔力ランクEのやつがこんなとこで訓練してんだよ」
時代に毒された典型的な魔力至上主義者だった。相対する少年の魔力量はA+。成長期ともなれば相応の実力をつけて部隊をひとつくらいは任せられるようになるだろう。生まれながらにしてエリートというやつである。かくいう自分はランクE。「ほぼ無い」と同義であった。そりゃぁそんなのが訓練してたら唾吐きたくなるのは仕方ない。これも時代だ、文官にでもなってろと言われるのが普通だろう。
が、しかし一緒くたに教官までばかにするのはどうであろうか。やれ管理局の面汚しだの、魔法に自信がないから手数に頼った弱者だの。これでは訓練を課す教官が報われないではないか。そういう彼は果たしてランドル教官に勝利したことがあるのだろうか。
「なら、君らがご立派に高説垂れてる魔力が何の役にも立たないことを教えてあげようか」
そう言って、懐から取り出した対閃光ゴーグルをかけ、手に持った筒状の何かのピンを抜き、彼らの目の前の地面に放り投げてさっと耳を抑えて後ろを向く。
瞬間、塞いでても響く爆音が運動場の一角を揺らした。
M84スタングレネード、地球においてはWikiにも載ってる有名な非殺傷手榴弾だ。爆発時の閃光と爆音によって相手の一時的な失明や目眩、難聴、耳鳴りを誘うものである。アメリカに行った際にちょろまかして来たものだが、これが存外管理世界では役に立つ。なにせバリアジャケットというものは対魔法、対物理という点に置いて優れているが音や閃光に対する防御は全くといっていいほどしていない。一応透過魔力壁みたいなものはバリアジャケットとともに展開されているが、身体に比べればノーガードと言っていいほどで特にこういう搦手はよく効く。ぶっちゃけ頭部保護は人体の弱点として必須だと思われるのだが。せめてヘルメットとゴーグル、それからヘッドセットくらいはほしいものだ。
案の定、こちらをいじめようと画策していた少年Aは真正面にいたためかものの見事に目をひん剥いて気絶した。情けない事この上ない。集団にいた、ジェックの可愛さに鼻血を吹いていた少女たちは完全に巻き込まれ損なわけだが、すまんな。恨むならそこの少年を恨むがいい。彼が坊やだから悪いのだ。別にレアスキルで片付けることも出来るのだが、それでは何の意味もないのでこうすることにしたのだ。「縁切り」したら行方不明どころか世界そのものからすっ飛ばされるのでろくに使えやしない。
ニタニタしていた少年たちをついでとばかりに一発ずつ拳を入れて戦闘不能にしながら、数珠つなぎに結び円が出来たら段々に重ねていく。見た目はまるでウェディングケーキのようで、キモい顔した少年たちの連なった姿は全くムードにそぐわない。ちょっとしたイタズラだが、しかし良い感じに重なったな、コレ。組体操でもまともに見れるとは思えない。写真をとっておこう。とばかりにまたしてもどこからか取り出したカメラでパシャパシャと撮影する。いつの間にかスタングレネードの残骸は消えていた。
そうしていると「そこで何をやっているんだ!?」と怒号が飛んで慌てた人が飛んできていた。