魔導変移リリカルプラネット【更新停止】   作:共沈

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管理局設定は推測や他作品の二次もある程度参考にしております。

そういえばクライドさんのCVは中田譲治さんでしたね。

※名前をつけた時間を微修正。


Lyrical Planet
Prologue -Signs of Change-


時空管理局本局

 

 宇宙と書いて海と呼ばれるこの場所は次元空間に本拠地を置く、エリートたちの仕事場だ。主な仕事は各管理世界の監視に次元犯罪の阻止、ロストロギアの探索、回収、封印などである。各地を回るために次元航行艦なども配備しているのが特徴だ。管理する世界は広範囲に渡るため、いつも人が足らないブラック企業丸出しの正義の味方。

 

 そんな仕事場を二人、場にそぐわない雰囲気の少年たちが歩いていた。周りからは微笑ましい視線と、なんでこんなところに小さいこどもが、という訝しげの視線が半々で注目されている。まぁソレも仕方ないというもの。なにせ、

 

 片方があまりにはっちゃけて暴れているのだから。

 

「ハッハー!クロノくん!ここが本局というやつかい!廊下が眩しいんですけど!ていうか外に見える景色は次元空間かな!?マーブル模様が目に痛いぜ、ウェェ」

「ちょっとは静かにしろジェック!恥ずかしいだろうが!」

「そんな事気にしてたら生きていけないぞ!羞恥心というのは置き去りにしないと新たな一歩を踏むことはできないんだぜ!裸コートとかな」

「それはただの変態だろ!そうじゃなくて慎みを持てと言ってるんだ!」

「淑女のようにですね。しかしこの身は見た目はともかく……男なのだよ」

「一般常識だバカ!ていうか君の本性はそんなだったのか!?」

 

 やいのやいのと騒がしく、転移してやってきたそばからとにかく騒がしいジェックに振り回されるクロノ。その光景は子供らしく、しかし周囲からは呆れの目で見られた。片方が局員としての制服を着ているだけあって、二人して騒いでるさまは社会見学で来ている子供より質が悪い。お前は職場を何だと思っているんだと睨まれ、まるで新人のように振舞っているようで窮屈なクロノだった。

 

 

 

 

 

 

 

「すまん、茶をくれないか」

「どうぞ、あなた」

「ありがとう……ズズ、っぶ!!」

 

 本局の一室、将校が使う執務室に二人の夫婦がいた。片方はリンディ・ハラオウン。次元航行艦アースラの副艦長でありクロノの母親。もう片方はクライド・ハラオウン。アースラ艦長にして提督のクロノの父親である。彼らは本局期待の星にして、息ぴったりの熟年夫婦だ。その八面六臂の活躍はあちらこちらで噂され、またギル・グレアムの弟子であったクライドは次期本局のトップとなることが期待されている。現在本局には提督位、一佐以上の権限を持った将官がいないため暫定的にギル・グレアムがトップとなっている。期待のベテラン、クライドは何故かかたくなにそれを拒み未だ次席に甘んじている。

 

「リンディ……君またお茶に砂糖いれただろう?しかも大量に」

「あら、おいしいわよコレ?」

「抹茶ならまだわからないでもない……だがコレは玄米茶だ!普通は入れない!」

 

 そんな人間が、執務も置き去りにコントを繰り広げていた。お茶に砂糖をいれるという暴挙を成し遂げたのはリンディ。悪魔の飲料とも呼べるものを平然とすすっている。彼女は数年前に旅行に行った第97管理外世界、日本の大ファン、もといフリークになっておりお茶を趣味とするようになった。が、しかしてその実態は勘違い日本といわんばかりの様相を呈しており、アメリカ人以上のぶっ飛んだ楽しみ方をしている。対してクライドは普通に日本に理解を示しているのだが、どうして二人にこれほど差がついてしまったのかは謎だ。最近はリンディの自室には和傘や盆栽が溢れ、とうとうこの執務室にまでも侵食しようとしている。報告に来てぎょっとする部下たちは、見なかったことにしようと彼女の奇行を黙認していた。せめて誰か注意してくれる人物がいてくれたら良かったのだが、そんなマイナーな田舎世界を知っている人物はそうそうおらずこの有様である。

 

「おいしいのに……」

「それは君だけだ。……今日来るお客さんにそれを振る舞うんじゃないぞ?下手をすれば卒倒しかねん」

「あら失礼ね。まるで毒物みたいじゃない。砂糖1杯でかんべんしてあげるわ」

「普通コーヒーだろうとなんだろうと、勝手に砂糖を入れるほうが失礼だと思うがね」

 

 そんなコントを繰り広げていると、ポーンとチャイムが響く。どうやらクロノが客人をつれてきたようで、クライドは「どうぞ」と返答して中に入れた。

 

「あら……クロノ。随分と可愛い子をつれてきちゃって。もしかして光源氏でも目指しているの?」

「誰のことか知らないけど、言いたいことはわかった母さん。そんなわけあるか!大体彼は男だ!」

「クロノ……お母さん悲しいわ。そんな可愛い子が男の子なわけないじゃない!」

「僕の見る目を疑ってどうするんだよ!事実だ!」

「まさか……脱がしたの?」

「発想が飛躍し過ぎだよ!」

「……落ち着け、ふたりとも」

 

 勝手にヒートアップしていく親子に待ったを入れる。ジェックが入ってきた時にリンディは何かに気づいたようだったが、「静かに」と人差し指で合図を送られる。ごまかすためにシモネタに走るのはいささか年をとりすぎ……ゲフンゲフン。

 

「はっはっは、面白い人たちだ」

「君も随分だね。このやりとりを見て落ち着いてる君の気がしれないよ」

「そこはまぁ、慣れです。騒がしいのといつも一緒にいるので」

「ふむ、そうか」

 

 こういったやり取りには慣れているとばかりに手で振って答える。しかしどこかジェックの表情には穏やかそうな、慈しむような感情が見て取れた。

 

「それじゃあちょっとした面接をするとしよう。二人は他の部屋を使って仕事を続けてくれ」

「わかったわあなた」

「しかし父さん、危険ではないですか?」

「レポートは見た。大した攻撃手段を持っていないようだし、気にすることでもないだろう」

「しかし」

「ほら、さっさと書類持って行くわよクロノ」

「う、うわ。ちょっと待っ、引っ張らないで下さい母さん!」

 

 いきなりクライドを指名してきた、つい最近漂流してきたばかりのものしりな少年。クロノがジェックに抱いているイメージはそのようなものだ。人柄は悪くないが、食ったような戦闘スタイルに頭の回りの良さから少しばかり不信感を抱いている。だがそんなものは関係ないとばかりにリンディはすたこらさっさとクロノを連れ去っていった。

 

「なにせ、一度救ってもらった命だからな。だというのに刈り取ったら生かされる意味が無い。そうだろう?久しいね少年」

「覚えてもらって光栄です。改めて自己紹介をします。ジェック・L・高町です」

「クライド・ハラオウンだ。しかし君、八年前は名前が無いと言っていなかったか?」

「付けたのは4年くらい前かな。いい加減呼称出来ないと面倒だと言われてね、これでもそれなりにひねったほうです」

「そうか。……それにしてもあまり成長していないように見えるのは気のせいか?今ならクロノより年上くらいの大きさになっていてもいいと思ったが」

「時間が飛び飛びだからね。それは仕方ないさ」

「……どういうことだ?」

「すぐにわかることです」

「……そういえば、さっきの態度はブラフなのか?」

「見てましたか、人が悪いですね。油断させておいたほうが目立たなくていいでしょう」

「別の意味で目立っていたけどね」

 

 ほぼ初対面、だというのに彼らは互いがまるで友人のような気軽さで話している。クライドの表情にも喜びが見えた。クライドは監視カメラでクロノ達の様子を見ていたらしい。ジェックの行動自体は目立つが、小さな子供がいることで下手に他の管理局員に危険視されないようにしていた。年齢がこれだけ低いのに管理局にいる、ということはそれ相応の魔力量か実力を示していることになる。自ずと注目されるわけだ。なら社会見学にかまける子供を装った方が無難だろう。

 

「しかし、君と別れるときに「再び会うのはクロノが執務官になった頃だ」なんて言うから、何を言ってるんだと思ったが。まさか本当にクロノが執務官になって、君が現れるとは思わなかったな」

「8年も前。不思議に思うのも当たり前ですね」

 

 そうだね、とクライドは過去を回想する。あれほどの危地に陥ってしまったのだ。クロノが親を失わないために、手伝うために局員を志望してもおかしくない。

 

「八年前……闇の書事件のあの時、艦の制御を乗っ取られて私は死を覚悟していた」

「それは、目の前にアルカンシェルが撃ち込まれてきたら誰だってそうでしょう」

「そういう意味じゃないのだがな。何にしてもアレは本当にギリギリだった」

 

 立ち上がり、命の恩人となったジェックに頭を下げる。

 

「改めて礼を言おう。本当に、助かった。ありがとう、この生命は無駄にはしない」

「自己犠牲で済ませてもつながりを持った人間は皆ダメージを受ける。せいぜい、寿命まであがくといいでしょう。それに、恩返し分はこちらからの依頼でチャラにしたと思いましたが?」

「まだお釣りが残っているさ」

「そうですか、なら期待するとしましょう」

 

 肩をすくめる二人。しかし、

 

「ああ、でも一つ恨み節くらいは返させてもらおう」

「む?」

「君が言ったいくつかの世界で、特に第97管理外世界とかに旅行して政治の勉強でもして来いという依頼。これのせいでリンディが日本好きになってしまったではないか!どうしてくれる!」

 

 返ってきたのは怒涛のツッコミだった。

 

「知らないですよ。あれは元から遅かれ早かれそうなる運命です。実際そうなっていた。お茶に砂糖を入れるんでしょう?」

「……また随分、気になる発言があったが、まぁいい。さっきなんかは玄米茶に砂糖を入れられた」

「…………随分ひどくなった気がしますね」

 

 先から何かを臭わせるような話し方をするジェック。クライドから見ればまるで全てを見透かされているような気味の悪さを感じていた。

 

「それで、勉強はしてきたんでしょう。どうでした?何か掴めましたか?」

「ああ、最初は訝しげに思ったものだが、調べていくうちにはっきりと分かったよ。

――管理局が狂っていることがね」

 

 時空管理局。

 その存在はさほど古くなく、新暦開始あたりから確認されている。

 時空管理局は通称「管理局」、または「局」とも呼ばれ、軍隊・警察・裁判所の機能を統合した強大な組織だ。同時に法の施行も行われ、実質的な次元世界の支配者となっている。また階級も軍隊式を則り、事実彼らは強硬手段も辞さない法的機関だ。

 

 組織の原型は150年前、多数の次元世界のスポンサーを得て誕生した。その目的は次元航路の安定化とロストロギアの探索、回収、封印だ。前者は当時、質量兵器と大量のロストロギアを用いた次元世界間の終末戦争の最終局面にあった。この時それらを抑えるためのアンチテーゼとして魔導師を用いたかの組織が誕生した。それが時空航空管理局、我々で言うところの郵便局と同義の扱いの部署である。結局のところ、戦争の結果はロストロギアの次元震による多くの世界を巻き込んでの崩壊。人員が足りなくなり、帰るべき世界がなくなり、疲弊しきった世界群には戦う余力が残されていなかった。そのうえ各世界間を渡るための重要な航路は不安定になり、次元乱流等の発生が確認されるようになる。

 

 魔導師を多く失いつつも、なんとか体面を保っていた組織は航路の安定化を実行する。と言うよりも、次元航行技術をまともに持ち合わせている彼らしか出来る人間がいなかったというだけだ。行わなければ世界間の流通がストップしてしまい、経済崩壊を招いてしまうためだ。そんなとき、後の最高評議会になる三人が獅子奮闘してなんとか状況を立て直したのだが、やはり失った魔導師の数は多く彼らはブラック企業以上の多忙さの中にいた。それでも老齢になるまで働き続けて、組織の行き先を見守るために脳みそだけになったその挺身は実に立派な心がけである。自分たちが組織を作り上げた矜持故か、後年権力にしがみつき、管理局を私物化していたのは救いのない話である。

 

 それはさておき、航路復興に取り組みだしたもののさらなる問題が出てきた。それは世界を超えて飛び散ったロストロギアである。ロストロギア一つでも大体大事になるのに、もしもそれを集めるなどする存在が現れたらどうなるか。次元世界は再び危機に陥る。

 

 しかしやっぱり動ける人材はこの組織しかおらず、他の国家が回収すると戦力にするだの戦争の火種になるだの文句を言われかねないので、中立である組織が動くしかなった。

 

 おそらくこの時が新暦一年、組織名称を時空管理局と変更した時だ。彼らは「次元世界の平和と秩序のために」をスローガンに身を粉にして頑張り、管理局法を制定した。業務が一個増えたので、やはり魔導師の分散は避けられず一人あたりの仕事量は増大。相変わらず魔導師は足りないまま。ハードワークは更に激しさを増すことになる。この時の苦難を乗り切ったのが伝説の三提督と呼ばれるレオーネ、ラルゴ、ミゼッツの三人だ。なるほど、確かに英雄だ。ブラック組織の中で生き残っていたのだから。ちなみにこの時、戦力なるならと少年たちを雇い入れるようになる。ぶっ壊れた労働基準法の始まりだ。まさに猫の手も借りたい状態。

 

 この時の状態を簡単に説明すると、管理世界群は管理局にお金を支払うことで、世界の安定、航路維持などを任せていた。地球で例えるなら国連、管理世界軍が各国といったところか。それらがスポンサーとして支えることで、引換に平和のために奮闘してもらう。だから彼らの言うことは守りましょう、ということで管理局法が出来上がった。これは国際条約に当てはめることが出来る。ただし今までの説明は随分と大雑把で、かつ資料がそれほど多く無いので正しく該当しているかどうかはわからない。システム的には同じといったところだろう。

 

 ソレを見て、また管理局の行動理念に憧れて管理局に入局する魔導師はたしかに多くなった。しかし、内訳のほとんどが戦争を乗り切り無事だったミッドチルダ人。彼らは彼らで自国を守るための軍隊を持っていたのだが、行動理念に惹かれてミッドチルダ人が集まり、ミッドチルダ軍は弱体化した。これでは地元に抑止力がおらず、ミッドチルダの治安は悪化する。ミッドチルダは戦勝国並みに多くの人が残り、現在は経済中心地なのだ。なら軍を併合すれば地元にもいれるし問題解決じゃね?、となり、管理局にそのままスライドすることに。こうして前身であった時空航行管理局からの部隊が海、管理局に姿を変えたミッドチルダ軍が陸と呼ばれるようになる。

 

 勿論、軍部だけ切り離してスライドさせることは出来なかった政府は、ミッドチルダそのものの弱体化を防ぐために行政府も一緒にスライドしてきた。そうしてミッドチルダは管理世界の永世中立世界であり最上位、第一管理世界となる。これが管理局が警察も軍も裁判所もまとめたような組織、と表現する事になる始まりだ。

 

 さて、業務の方も年がたつごとに徐々に落ち着きを取り戻す。それでもブラックであるのは何ら変わりない。しかしその時、ある程度余裕が出てくるようになり強権を保持した管理局の腐敗は始まった。

 

 管理局の理念は相変わらず変わっていない。変わったのは局員のほうで「秩序と平和を守る」という「正義」を誤認、ねじ曲げたことにある。自分たちが正義なのだから言うことを聞くことは当たり前、私物だとしても、ちょっとでも危険性があると思ったら問答無用で回収されるロストロギア。こういった考えが古くから存在する過激派の局員や、保護観察処分で資格を得た元犯罪魔導師から生まれた。これらはごく一部であったが、声高に叫ばれたせいで上位意識というのは一般の局員にもある程度刷り込まれている。仕事仕事で余計なことに手を出せなかった政府は空いた時間を汚職や不正に使い、自分たちの利権と手柄を手に入れるために違法な研究などへの資金の横流しも行うようになった。もしくは管理局の強化のために手段を選ばなくなった、とも言うだろう。その最たる者が最高評議会であり、ジェイル・スカリエッティが生まれた一因がここにあった。

 

 クライド・ハラオウンが気づいたのは、集権されたことによる管理局の歪みである。ジェックの言に従って日本で地球の政治関係について調べていた時、ふと局の成り立ちに気づき、管理局の歴史を調べていたら案の定、ということだった。監視者がおらず、好き勝手が出来る状況で、コレ以上ほったらかしにしていたら管理局は立ち返る事ができなくなるかもしれない。いずれは暴走という形で管理局は終りを迎えるだろう。ならば、早々に芽は摘んでおかねばならない。

 

「正解。実に良い意見です」

「君はあの頃から、管理局という組織に危惧を感じていたのだろうね。だからこそ私にあのような依頼をしたのだろう。休暇と称して渡航許可を取るのは骨が折れた」

「最悪の気分になれたでしょう?」

「ああ、知らなければ、こうして組織の堕落に憂うこともなかったさ。しかし、改善をしようにも多くの局員が阻む。そのほとんどが高級将校ばかりだ」

 

 クライド・ハラオウン、という人物は根がマジメだ。だからこそ内部の改善に手を出しこそしたものの、多くの局員が徒党を組んでストップをかけた。ため息を吐くクライドの口の中は苦味でいっぱいだろう。

 

「それで、依頼した君が今更現れてどうしろと?クーデターでもしろというのか?」

「正当な権利の行使をお願いしたいだけです。それに、管理局に崩壊されても闇に紛れる有象無象にチャンスを与えるだけでメリットがありません。あなたには改革の頭目となって舵を切ってもらうつもりではありますけど。今がチャンスなんです。争いもほとんどなくなり、凶悪な犯罪者がいない今が」

「まさか、邪魔は多いというのにどうやって?上は鉄壁だぞ。お互いの傷を舐めあっている仲間なのだからな」

「問題があるのは現場に関係ない上層部がほとんど。下の人間はある程度手綱を握っていればなんとかなるでしょう」

「しかし」

「管理局にヘドロみたいな膿が溜まっていたのは、なんとなくわかったのでしょう?とは言っても、そうそうに踏ん切りがつくわけがないのが人間です。これをお釣り等で行うには到底足りない。そこで、こんなものを用意させてもらいました。レイジングハート」

『Alright,Mr』

 

 クライドの目の前にいくつものテキストパネルが投影される。その資料の頭をさっと見てクライドは驚愕した。それは汚職や献金、研究費と偽った税金の横流し、人権を無視した違法な研究などといった様々な不正が名前付きで記されていた。

 

「これは、……一体どうやってここまで」

「それは序の口です。ささっとページをスクロールしてみてください」

 

「何……いや、これは……ちょっと待て。ばかな、おかしいだろ!?」

 

 それは年度ごとにいくつもの不正や事件が書かれている。しかし今年の新暦62年、そして今日の日付までならいいものの、63、64、65年……飛んで80年後半までの不正がズラリと並んでいたのだ。

 

「何故、未来の報告書などというものがある!?」

 

 驚愕。

 そこにはJS事件や闇の書事件、管理局が襲撃されるスカリエッティ事件の詳細が書かれてあった。

 

「そうです。そこからどのような推論が成り立つか、言ってみてください」

「……君が、未来から来たということか。さっきからわざとらしく変な話し方をしていたのもそれか」

「そのとおり」

 

 ジェックはニヤリ、と口元に笑みを浮かべて頷く。

 クライドは息を呑み、次から次へと読み流していく。しかしそんな事を書かれているからといってそう簡単に信用できるだろうか。しかしそれらの報告書はまるであったことのように詳細に書かれている。

 

「バカな、こんな冗談を信じれるわけが」

「これら不正資料を作った局のコンピュータの性能はご存知でしょう。ごまかしようがない。加えて、ほとんどの不正資料は無限書庫からサルベージしたもの。調べてみれば全く同じ物が出てくるはずですよ。特に65年度までなら何の変化もなしに見つかるはずです。ソレ以後はスクライア一族の少年が管理するようになったから、あからさまに資料を投げに来る奴はいなくなりましたが。これも渡しておきます、無限書庫で使える検索魔法です。有効に使ってください」

 

 レイジングハートに促して検索魔法もコピーさせる。これらの資料はジェックが現れても関わっていない部分はそのほとんどが同じ文面のまま見つかるはずである。それはまぎれもない証拠になるだろう。

 

「そして、未来を変えるきっかけの筆頭は、あなただクライド・ハラオウン」

「君が来なければ、私が死んでいた未来。つまり、この報告書通りになった、と?」

 

 クライドは自身が死亡した後の、リンディやクロノの人生の軌跡、グレアムの復讐の末路をトンと指で示した。

 

「驚いた?」

「頭が真っ白だよ。そうか、確か君はあの時どこから転移してきたのかわからないんだったな。リンディも一瞬だけ目の前に現れたと思ったら消えて、いつの間にか私をかかえていたと言うし」

 

 未来から直接彼のもとにジェックは飛んできた、と暗に語る。ジェックは高町なのはの記憶にある縁をたどり、現在から8年前のリンディの元へ転移、その後彼女とクライドの縁を利用して即座にクライドの元に転移して救出を敢行した。おそらくはあのタイミングでなければクライドは制御のために救助すらも断っただろう。クライドの乗る艦は侵蝕され、アルカンシェルの発射体制に入っていたためだ。結果、奇跡の脱出劇が生まれた。

 

「このままの将来、放っておけばジェイル・スカリエッティがぶちきれて逆恨み同然に管理局を襲撃する。これに関しては、俺は悪だとは思っていません。体制に反発するのは当然の権利だし、実際管理局は完全に腐り果てていた。その意味では彼のとった行動は正しい。内容が間違っていましたけど。視野狭窄にでもなっていたか、レジアス・ゲイズを殺しても、頭を失ったら有象無象が散らばるだけで意味がないことはわかっていただろうに復讐と対象の研究だけに意識を傾けた」

 

 当時のジェイル・スカリエッティはAMFを持ち出すことで魔導師が全てでないことを示した。以降は局員でも使えるものが出来ていたし、80年代前半にはラプターという自律行動型ユニットといったものも登場している。完全に体制が変わらなかった故か魔力のない人間が使えるものは一向に存在しなかったが。

 

「結局、膿出しにはある程度成功したものの管理局の体制そのものは変わらなかった。その結果、自己の闘争力を向上させるために集めに集めたロストロギアが互いに励起しあい暴走。ミッドチルダ含めたいくつもの次元世界が崩壊した」

 

 管理局はロストロギアを回収し監視と研究を行なっていたが、それは暗黒の過去を掘り起こすことと同義である。それらは何度も大戦争と世界崩壊に利用され、故に封印されたものだ。危険性を軽視して一箇所に集めれば地獄を見る可能性がぐんぐん高まっていく。ガソリン等と同様、危険物は一箇所に配置しない、無闇矢鱈に触れないのが鉄則だ。だというのに管理局はそれを怠り、組織の戦力強化に用いようとしたのである。ジュエルシードが横流しされていることからもそれは明らかだった。

 

「俺はそれに後悔という感情を持ってしまった未来の「高町なのは」によって作られた人工生命だ。俺の存在意義はロストロギアの破壊を行うことにある」

 

 ジェックの目的、これが彼の存在理由の核である。本来の能力ではただただ破壊というレアスキルになるはずだったが、何の因果か、高町なのはの「今までたどってきたものを失いたくない」という無意識下の願いで縁を操るレアスキルになってしまった。そのため彼が行うのはレアスキルの「縁切り」によるロストロギアの世界からの放逐である。

 

「最も、作るために願われたロストロギアがジュエルシードだったのが問題でね。行動順位にある程度の歪みが出てくれたおかげで、多少は自由行動が出来る。だから俺としては、行動基準こそ「高町なのは」に縛られているが、できるだけ彼女が後悔しない、選択肢を多く持った世界を作るつもりだ。俺の存在意義はソレ以外に意味はなく、そしてこれはちょっとした反乱だ」

 

 でなければ、俺は高町なのはのためにひたすらレールに沿った、沿わさせるために作られた機械に成り果てていただろうなと付ける。高町なのはの基準から外れることが出来ない彼のやることは半ば、子供の抵抗みたいなものだろう。しかし、最低限縁を結べばいいだけの話なのでソレ以外は割と自由だ。何より自分ではしようもない部分は他人に動いてもらえばいい。そうすれば意にそぐわないものが勝手に生まれて外れていく。

 

 当のジェックも自分が何かおかしいのはわかっている。反抗のはずなのにやっていることは、なのはが想定していた状態より良い未来をつくり上げること。自分が目的のために生み出されたことに対して恨みを抱いていたりするなら、こういうふうにはならないだろう。それもこれも、多分にジュエルシードなんかに願ってしまったなのはのせい、ということか。

 

「まぁ、そのために管理局という存在は邪魔、とは言わないが変わってもらうくらいはしてもらいたいのです。でなければ、高町なのはは無意味に抑圧され、期待に応えるだけの人形に成り果てる。それだけは、したくない。せっかく作られたんだ。せいぜいあがいてやりたいようにさせてもらうべきでしょう?」

 

 高町なのはの本質は我慢することだ。痛みに耐え、寂しさを隠し、誰かに必要とされるまでじっと待つ。これは彼女が4歳の頃に築いてしまった処世術だ。だから彼女はNOと言わない。言えない性格になってしまった。だから彼女は無茶を命がけでやるし、一度は空から墜ちている。それから後も任務を拒否したり休暇を取るといったことが殆ど無かった。そのうえ部下の育成方針も体調管理面はあまり見ておらず、とにかく鍛えあげるだけという脳筋じみた行動には、彼女を元にしたジェックですらも呆れている。

 

「……悲しいな」

「ああ、悲しい。しかしどうにもなりません。俺にも彼女にも、主体性というものがまるで存在しない。特に俺のはタダのバグだ。せっかく生まれたから何もかも放って自分の人生を生きようにも、彼女の意志が俺を突き動かす。どのみち何もしなかったらまた数十年後、世界は破滅だ」

 

 クライドは彼を生み出したという高町なのはを恨んだ。利用されるためだけに生み出されてしまった彼は、我々には希望を与えようとも彼自身には絶望しかもたらさない。ジュエルシードの歪みに寄ってわずかにもたらされた自我で性格を維持しているに過ぎないのだ。

 

「……いいだろう。プランはあるのか?」

「乗り気になりました?」

「いい加減、こちらも状況に憂いていてね。やるなら危険性があるプランを練りなおして、いくらでも挑戦しよう。君の最優先条件は高町なのはという女性の築いてきた人生、主に出会いに関する縁の出来る限りの維持、その次にロストロギアの破壊。管理局はオマケといったところか。しかし、管理局の体制を変えることが出来ればロストロギアによる崩壊そのものは防ぐことが出来る。そして、民衆が食い物にされている状況を、わかってて見過ごせるほど私も利口ではない。話してみろジェック・L・高町。あるいはその願いが、世界を大きく変革させるかもしれん」

 

「わかった。では計画を説明する。まず――」

 

 

 

 

 

 あらかたの説明を終えたジェックは一息つき、クライドは納得したとうなずいている。その内容こそ相応にぶっ飛んだ部分もあるが、そういったものでなければ改革はならないだろう。とりあえず当初の目的は3年後のいくつかの事件までだ。綺麗に作業が分担されているので自身が背負う部分はそう多くない。あとは何人かの協力者がいれば問題無いだろう。

 

「なるほど、それならたしかに現実的だろう。そして、君のレアスキルの全容も知った。それさえあれば具体的な道のりはあらかじめ作っておけるということだな」

「そうです」

「わかった。なら私は管理局のスポンサーとなっている富豪や企業を当たっていこう。説得は大人が行うのがいい」

「そして俺は縁を結びつける裏方の調整。救われない子に偽善の手を。ああ、局内でもできる限り味方をつけておいてください。それと、闇の書に関しても大体はなんとかなるだろうから放っておいてもらいたい」

「グレアム提督に伝えておくよ。他に引きこむのは誰がいいだろうか」

「レジアス・ゲイズ当たりはオススメです。今地球はそれなりに面白いことになっている。ソレを見ればきっと食いついてくるはずだ」

 

 ざっと協力者に当たりをつけていく。幸いなことにトップにいるおおよその人物は良識ある者が多い。これは数少ない幸運だ。

 

「了解だ。それでは、互いの未来の為に。幸運を」

「幸運を。必ず巡りあわせてやります」

 

「ああ、そうだ」

 

 帰り際、クライドはふと思いついたように尋ねた。

 

「結局、ジェック・L・高町のLはどういう意味なんだ?」

 

 ソレに対してジェックは笑いとも悲しみとも取れる複雑な表情を浮かべて振り返る。

 

「――ライン、ですよ。好きに生きることを望めない、呪いのような縁です」

 

 

 

 

 

 

 少し時間が経ち、部屋にはクロノが戻ってきていた。リンディはそのまま帰宅し家事をしているらしい。

 

「父さん、彼はどうしたのですか?」

「帰ったよ。ああ、面接は不合格だ。内容は、そうだな「態度に難あり」とでもしとけばいい」

「随分と適当ですね。……彼も、何か目的があってここに来たのでしょう?」

「わかるかい?」

「やや投げやりでしたが、目に強い光を宿しているのはわかりました。だから、これから父さんが何をするのかで見させてもらいます」

「はは、そうか。なら、そのうち手伝ってもらうかもしれないな。その時はよろしく頼むよ、クロノ」

「はい、提督」

「父さんでいいさ」

 

 きっと大人数を巻き込む騒動になるだろうと考えながら、クライドはお茶をすする。勿論自分で入れなおしたものだ。

 

「さて、と。一つ連絡を入れておかないとな。…………ああ、ご無沙汰していますグレアムさん。ええ、ええ、少しお話したいことがあるのでこちらに寄ってもらえませんか?ええ、お願いします。では」

 

 事態は進む。ゆっくりと、しかし確実に。様々な人々の思惑を乗せ、今茶番は盛大に開催の幕をあげようとしていた。

 




次回から原作……原作?。

短編で「神様転生」について茶々を入れながら冗談を交わす「神様が転生前の部屋で皮肉りまくるしょうもない話」を公開しました。作品一覧からどうぞ。一話完結です。

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