魔導変移リリカルプラネット【更新停止】   作:共沈

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(10/22)小型魔導戦闘機「メビウス」→デバイス型魔導戦闘機「ホワイトバード」
大学主導で行われているスポーツ→行われる予定のスポーツ


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 学校は希望に満ちた入学生達を迎え、新社会人は迫り来る荒波に飲まれようとしている季節。

 

 春、しかしそのラッシュも落ち着きを見せ始め桜も散り始めた頃。

 

 ここ、海鳴市は異様な活気に満ちている。

 

 3年前、国連から衝撃の発表があった。

 魔導技術、簡潔に言えば魔力媒体を用いた科学技術である。この技術は通常のエネルギーと違い、空気中の魔力素を使い魔力を精製、それを動力源と用いたとしても空気中に発散してふたたび魔力素へと帰る、というクリーンで完全なループ構造を持ったエネルギー体を利用したものである。

 

 この発表は眉唾ものであったものの、世界が湧いた。なにせ魔力素は空気中にいくらでも含まれるのだ。将来のエネルギーの枯渇による奪い合いを懸念していた各国は即時の導入を宣言。あちこちで巻き起こる魔導センセーションによって世界を新たな一歩、革新へと導いたのである。

 

 また、このエネルギーの特徴は人体にも存在し、リンカーコアという内燃機関を持った人間がデバイスという、処理能力に長けた機械を用いることで個人が魔法を使える事が判明。これには日本の、特にオタクと呼ばれる人種が盛り上がった。ジャパニメーションで有名な魔法少女、それがリアルで実現できるとなるのだからそれはもう二次元から飛び出したファンタジーで。変身と同等のバリアジャケット、攻撃に用いられる魔力砲、プロテクションに転移、と資料が開示されてからはリアル魔法少女ktkrと凄まじいレスの勢いで某掲示板が落ちるほどのものだったという。

 

 俺達にも使えるの!?と期待して、しかしリンカーコアの有無は生まれた時から決められており、それが自身は持たないと知った人たちの絶望感は半端無かったが。地球では高魔力を保持するか、もしくは持っていないか、1か0の極端な分別がほとんどという土地柄であったので仕方のないことだ。

 

 とはいえ、技術というものは誰もが使えてこそ。デバイスには魔力タンク――高位のリンカーコアには及ばない程度――が接続され、トリガーやボイスコントロール等を用いることで人を選ぶ事はなくなった。かといって一般がそうそう攻撃魔法を使用されても困るのでそちら向けに発売されているのは主に防犯用のものとなる。

 

 それらは主に国連による発表前から研究をしていた日本の海鳴大学、アメリカの軍部の研究施設で開発された。前者は平和利用目的、後者は主に軍事目的でのベクトルという違いはあるが。

 

 とはいえ日本の、それも何故海鳴で開発が行われたのか、と言われれば巨万の富を持つ資産家がいたためだ。各国に支社を持つバニングス・インダストリー、そして各種先進技術を持ち大手企業を束ねる月村家。この二大資産家による魔法存在のリークにより早々の技術獲得により、日本は秘密裏に研究を行なっていたのだ。故にこの都市はこう呼ばれる。

 

 魔導都市海鳴。

 

 日本の一都市にして、技術力が突出した不思議土地。海あり山あり温泉あり、なんでもござれという神にでも愛されたか?と思えるほど恵まれた場所。そんな場所で魔導技術が研究される、もはやこれは開発チートだ!と叫ばれんばかりの国内では最も足並みが揃わない突出した有名な市だ。一部ではミステリーとしても扱われたり宇宙人がいるのでは?とも噂される。その僻地っぷりは条例等にも現れており、魔法でなんかあったら捜査権限拡大しとくから、そっちで責任とってノウハウ貯めてね?という投げやり模様。

 

 公式名称マギテクスと呼ばれる魔導技術は後にスポーツとしても台頭するのではとみなされており、その分野でも研究が盛んなのか海鳴大学で音頭を取っている。そのためか攻撃魔法の使えるデバイスが使いたいとばかりに入学希望者が殺到。大学は一時の混乱に陥り、その盛況具合は東大をも凌ぐと大騒ぎになった。

 

 兎にも角にも人外魔境となりかけてる海鳴ではあるが、3年もすればそれなりに魔法も普及して落ち着きを取り戻していた。そして物語の主役であるのは、そんな場所に住む小学三年生。

 

 私立聖祥大学付属小学校。一部ではブルジョアとも呼ばれるエスカレーター式の学校だ。入学金こそ高いものの、学力の高さは異例とも思えるレベルだ。具体的にはデバイス持てば高速演算を脳内でこなしてしまう少女がいる程度の。

 

 高町なのは、理系チートとも揶揄される小動物のような少女。その周りを囲むアリサ・バニングスと月村すずかの3人は揃って屋上のベンチで昼食を取っていた。名前だけ見ればその集まりは誰もが驚くことだろう。しかし今現在、彼女たちが悩んでいるのは将来の夢という、実に子供らしい題材だ。

 

「それで、なのははどうするの?」

「うーん、航空写真家ってのも面白そうなんだけど、やっぱり今やってるマギテクシングも外せないかなぁ。面白いんだ、アレ」

 

 なのはは地球で初めて外部でデバイスを持った人間として有名だ。それもこれも、地方都市の一角で度々空を飛んで魔法少女っぷりを発揮しているのが原因だった。どのような事情でか、公式発表がなされた3年前よりも更に2年前、4才の頃からデバイスを持っていたらしく研究者から譲り受けた特殊な人間として認知されている。最も、そのデバイスにプリインストールされていた魔法は飛行にプロテクション、治癒魔法の3つだけで、以降も新しいものを入れることが出来ないものであったが。デバイスは公式発表前でそもそも名前が無かったのか、ネームレスと呼ばれる防犯デバイスの先駆けともなったものだ。

 

 アリサの問いに答えたなのはの趣味(?)は機械オタである。そのためかマニアと呼べるほどの知識を持ち、型番を聞くだけであれこれ語るさまはちょっと引くレベルだ。中でもカメラが一番の趣味らしく、手持ちの一眼レフであちこち空を飛びながら撮影するのだという。加えてネット上にアップされたそれらの写真、動画は新たなアングルで撮られた新次元の作品と名を馳せており、時々オファーも来るほどらしい。ただ当人はお茶の間で有名になることが恥ずかしいのか避けたいのか、カメラに関しては趣味と割りきっており取材などを受けることは少ない。魔法のとあるインタビューで既に世界中で有名になりかけているので遅い話ではあるが。

 

 そして現在は大学主導で行われる予定スポーツ、仮名マギテクシングの調整にも参加し、その才を発揮している。魔法のインストール制限を解除されたデバイスを持たせればあれやこれやと魔法を開発してしまうので、大学でも非常に重宝されていた。

 

「すずかちゃんは何がしたいんだっけ?」

「私はやっぱりなのはちゃんのデバイスを作ることかな。とびっきりの高級機を作ってあげるよ!」

「にゃはは、お手柔らかにね……」

 

 月村すずかは各工業団体を束ねる月村家のご令嬢だ。故に魔導技術だけでなく通常の機械関係にも強いらしく、本人も高い開発力を持つ。最近では友だちの趣味を応援したいのかインテリジェントデバイスの作成に励んでおり、目下勉強中とのことだ。周囲には知らされていないが、彼女の家が持つ秘伝のAI技術はその他追随を許さないものであり、ロボットまで作り出す技術力を備えている。そんなものでデバイスまで創りだされたら、果たしてどうなるのか想像もつかない。

 

「じゃぁ最後はアリサちゃんだね」

「ふふん、聞いて驚きなさい!私は皆が幸せになれる魔法を扱うのよ!」

「あれ?それじゃ今とあんまり変わらないんじゃ?」

「……ぬぐ。そ、それはまだ足がかりよ足がかり!防犯用デバイスをプロデュースしただけじゃ成功したとは言えないわ!」

 

 アリサ・バニングスもバニングス家のご令嬢である。そのせいかちょくちょく誘拐されそうな事件が発生しており、身の危険度はかなり高い。その観点からデバイスは渡りに船、とばかりに防犯デバイスの開発を会社に提言。親馬鹿である父がそれを承認。そして作り上げられたのが少量の魔力タンクを保持した防犯デバイスだ。

 

 防犯デバイスはいくつかのクラスにわかれており、最もクラスが低いものでもプロテクション、GPS、ブザーなどを装備している。中クラスでオートトリガーによる簡易シューター、高クラスで大容量魔力タンクとバリアジャケット展開機能が追加される。

 

 これらのデバイスは基本がオートになっており、リンカーコアを所持しない人間でも魔法を発動できるようになっている。デバイスはその真新しさと「トラックに突っ込まれても安全」との広告により爆発的人気を誇り、提言したアリサはバニングス・インダストリーの名誉アドバイザーとして席をもらっていた。ちなみにアリサのデバイスは親馬鹿により短距離転移機能まで付いていたりする。

 

「あ、それと魔導技術の開発者にも会ってみたいわね。えーっとなんて言ったっけそいつ?」

「あ、私もー」

「ジョニー・スリカエッティだね」

「随分とふざけた名前よね、おちょくってるのかしら。なのはは一度会ったことあるんだっけ?」

「にゃ?えーっと、多分?」

「はっきりしないわねえ。ま、写真も公開されてないんじゃ仕方ないか」

 

 ジョニー・スリカエッティ。一般には魔導技術開発者と知られているが、その容貌は噂レベルでしか流れていない。なんでも随分と偏屈な科学者と噂されており、アメリカの軍の研究所にこもりっきりらしい。とんでもない出不精で、しかも当然ながら研究所内は写真撮影禁止。そのため顔を見たものはわずかに限られており、他の研究者に突撃したものの解ったのは紫がかった髪に金色の目という、冗談のような人物像だけだった。名前の何がふざけているのかは二通りの意味で見ての通りである。主に英語と日本語で。

 ちなみになぜか日本人の、それも車椅子に乗った少女が研究所を出入りしており、その少女にも突撃インタビューをしたところ、

 

「ああ、おもろい人やで?たまに気が狂ったように笑うけどなぁ」

 

と関西弁で返された。むしろその少女が誰だと聞きたいが当然のようにはぐらかされている。日本語で答えたところにもツッコミを入れるべきだろうか。

 

 要するにまとめると、不思議な容姿をした変人ということである。科学者のありきたりなイメージとはそういうものなのだろうか。大勢が何となしに自分の想像に当てはめることとなった。

 

「あ、そーだ。見て見てコレ!じゃーん、マギテックマガジンの最新号!」

「ちょ、なのは!?それあと二週間は待たないといけないものじゃない!?どうして持ってるのよ!」

「ふふふ、なんとインタビューを受けてから懇意にしてくれてる編集部の人にもらったのでしたー!」

「わぁ〜、表紙が新型のインテリジェントデバイスのムスタングだよそれ。実戦でも使えるタイプだって聞いたことある!」

「っく、私もコネがあれば……!今度取材でも受けようかしら。それよりもなのは!早くページを開きなさい!ハリーハリー!」

「わかったからアリサちゃんゆすらないで~!?」

 

 最新の雑誌が気になります、と前後に揺すられる。そんな彼女たちは乙女である。……乙女のはずである。

 

「あ、これもうすぐロールアウトだったっけ」

「これって何よ……あら、確かデバイス型魔導戦闘機ホワイトバードだったかしら」

「戦闘機って言うより強化装備っぽい見た目だよねコレ?大部分のパーツを量子変換で格納できる変形型のデバイスって書いてあるね。もしかしてこれすずかちゃんのところで研究してたアレ?」

「そうそう。小型魔力炉を搭載したリンカーコアの無い人でも魔法が使えるセレクトトリガータイプだよ。祈祷型じゃないから魔力を引っ張られることもないの」

「もともと祈祷型なんてのがいきなり出てきたのがおかしいのよ。欠点だらけじゃない、あれ。魔法発動におけるタイムラグが少ないのはいいけど、リンカーコア持ちの少数しか使えないのなら全く意味ないわ」

「うーん、確かに私みたいに魔力が高いと自由意志で空が飛べたりするから、ありがたいといえばありがたいけど」

 

 デバイスが魔法を発動させるための祈祷型トリガーは、考えるだけでイメージした魔法が使える便利さがある。その代わり、魔力を個人のリンカーコアから引っ張るために汎用性がなく、また制御も曖昧でプログラムが整理されていないため、同じ魔法を他人に渡しても扱いやすさに難がある。このあたりは特性という片づけ方をされていた。セレクトトリガータイプは現代の銃のようにトリガーを外側に配置し、魔力を魔力炉や外部から供給するタイプのものだ。思考に左右されず、常に一定の能力を発揮する安定性がある。デメリットは祈祷型と違い反射的に魔法が使えないので、タイムラグが出るといったところだろう。

 

「どちらかと言うと代用できるモノを持った人間が使うサポートツールみたいな印象だったもんね。これからは多少扱いが楽になると思うよ」

「でもコレを見てると、なんか昔見たロボットアニメを思い出すわ。飛行形態に変身する奴」

「ぶっちゃけるとまんまそれだね。お姉ちゃんが張り切っちゃってて」

「えー!?そうだったの!?」

「誰もがイメージしやすくて、夢があるとか言ってたから。でも実際翼があるとメリットが多いの。上昇気流を使えば魔力消費は少なくできるし、魔力機動になればAMBACも取れるからイイトコどりみたいな感じだね」

「にゃー、確かに空中変形は夢なの」

「論点がずれてるわよなのは。っま、なのはから聞いた通り飛行魔法は重力制御でモリモリ魔力を削られるから、確かに巡航状態なら利便性が高いわね、航行距離も伸びるし。何より環境に優しくて使うのが魔力素だけっていうのが優れてるわ」

 

パラリパラリとページをめくりながらアレコレと難しい会話をする小学生3人。周囲で見ているちょっと背伸びして彼女たちとおしゃべりしたい少年たちは、あまりの高度さについていけず膝をつくのであった。

 

 

 

 

 

 高町なのはには夢がある。

 しかし将来なりたいものは何か、と聞かれると答えづらい。それは今現在やっていることがあまりにも多く指針を定められていないためだ。それらを整理するためにも1つずつあげていこう。

 

 まずは空撮。

 「ネームレス」という(登録上)防犯用デバイスを所持してからは、それを利用してちょくちょく空を飛んでいた。ついでに家電製品、特にカメラ好きな彼女は一眼レフを持ちだして空撮を敢行。出来の良さから沢山の人にも見てもらいたいと動画サイトにアップロードした。するとどうだ。人が空を飛ぶという独特な機動で撮影された映像、CGでしか表現できなかった森の中を高速で駆け抜ける映像、空と地面を交互に見ながらクルクルと回る映像と中々にセンスあふれる動画が出回った。結果、噂が噂を呼び、あっという間に世界でも人気のコンテンツとなってしまったのだ。勿論、その撮影に時々写る撮影者の高町なのはの可愛さも秘訣のワンポイントだ。

 

 付随して魔導テスター。

 現在海鳴大学では様々な魔法の開発を行なっている。通常は時間をかけてプログラミングしていくのだが、インスピレーションと感覚だけで組んでしまうなのはの存在は貴重だった。特に魔力検査で高い能力がひっかかり、人材を確保したかった大学としてはなおのこと。その速度と正確さは一体何処の人間演算機なのかと思われる程になのはは数字に強い。

 メインで開発されているのはシューターなどの攻撃系だ。近いうちにマギテクスはスポーツ導入を予定しているのでソレに合わせての徴用だろう。彼女がいればプログラマー100人力である。

 

 家庭では料理だ。

 喫茶店の翠屋を経営し、かつパティシエでもある高町桃子のスキルはそこらの主婦と一線を角している。ならば当然、学ばなければ損というものだろう。時々なのはが作るケーキは美味しい美味いと甘味好きの美由希に消費されている。もっぱら自分が作ってしまうと珍味を生み出してしまう故のストレス発散なのだろう。苦笑するしか無い妹である。

 

 そして資本づくりと御神流も学んでいた。

 世界的にも、魔導界隈でもあまりに名が売れてしまったなのはは自身の身を自分で守らなければならない程には周囲の危険性が上がっていた。そのため一年生になる頃から高町士郎がやるか?と問うたところ、是と返事が返ってきた。当初こそ走るのにも数十歩でバテるという有様だったが、現在は4km以上を平然と走れる体力を付けた。彼女の最も特筆すべき部分は魔力などの高いステータスではなく、その成長力の高さなのかもしれない。最近特に伸びが凄まじい。

 

 そんなわけで、挙げ連ねるだけでも4つはあった。勿論これだけアレコレと手を出しているのにもわけがあり、それはなのはが大切にしている過去の思い出「恐怖のドッペルゲンガー」が影響している結果なのだが、またおいおい話す機会があるだろうから置いておく。

 兎にも角にも、彼女の現在は順風満帆といった様子だ。未来の時間軸における「高町なのは」は、我慢という抑圧された中で「魔法」という真新しさと、自分が頼られる事のみに目を向けていたためにそのほとんどを管理局に束縛されることになった。それを考えれば随分と今のなのはは楽しんでいるといえる。果たして今と未来軸のなのは、そのどちらかが幸福だったのかというのは個人の主観で決まるものなので答えようがない。

 

 それでも、笑顔でいられる今は少なくとも悪いことではないのだろう。

 

「なのはー、帰るわよー!」

「なのはちゃーん」

「あ、まって~。アリサちゃん、すずかちゃん!」

 


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