前後編なので、次回はしばらく待ってください。
その日、温かく、とても昼寝に適した素敵な日。
突如、街中に怪獣が出現した。
地底怪獣デットンは叫び声を上げながら建物を破壊する。
昼間、怪獣の出現という事で街の人達は悲鳴を上げて逃げ惑う。
他人を助ける余裕もなく、自分が助かろうと先に、先へ逃げていく。
混沌が広まる中で突如、上空から眩い光が降り注ぐ。
突然の光に人間はおろか現れた地底怪獣デットンすら歩みを止める。
光は地面へ降り立ち、衝撃を放ちながらゆらりと姿を見せた。
漆黒と銀の体、胸の中心はOを象った赤いクリスタル。
赤く光る瞳、片手に巨大な剣を握り締めた巨人は低い体勢をとりながら聖剣を構える。
地底怪獣デットンは涎を垂らしながら巨人へ襲い掛かった。
突進を回避しながらがら空きのデットンの背中へ剣を振るう。
悲鳴を上げるデットン、巨人はそのまま足蹴にしてビルへ叩きつけた。
剣を振り下ろしてデットンへダメージを与え続ける。
デットンは巨人から逃げようとした。
直後、体が緑色の発光と共に不気味な触手を生やす。
巨人は驚きのそぶりを見せたと同時に攻撃を避ける。標的を失った触手は次々とビルを破壊していく。
隙を突いて逃れた巨人は構えている剣の側面を回す。
すると剣の中心にある四つの丸い部分の一つが赤く輝いた。
炎を纏いながら巨人はデットンへ突撃する。
デットンは逃げる暇も抵抗できずに炎に包まれてその体を焼かれてしまう。
爆発が起こった直後、光と共に巨人が現れた。
巨人が姿を見せたことで人間達は驚き、歓声をあげる。
腰に手を当てて胸を張る巨人の姿に誰もが興奮した。
通報を受けてウルトラ警備隊が駆け付けた時には巨人も怪獣の姿もまるでなかったという。
比企谷八幡は盛大に欠伸をしながら教室へ入る。
教室へ入るとボッチとしての経験から室内の雰囲気が何かおかしいことに気付いた。
いつもより遅れた時間に来た八幡はみんながざわついている空気に疑問を抱きながらも自分の席へ向かう。
そして、机に突っ伏して眠りにつく。
HRがはじまって、授業があり、昼休み。
「やっぱ、カッコイイっしょ!ウルトラマンオーブ!」
昼休みに大きな声が聞こえたのは葉山グループだ。
由比ヶ浜や三浦達は混ざっておらず、視線を向けるだけだ。
普段なら気にしない八幡なのだが、聞こえた『ウルトラマン』という単語に視線を向けてしまう。
「やべーし!葉山君もそう思うっしょ!颯爽と現れて苦戦しながらも怪獣と戦う剣を持つ巨人!」
「そうだね……俺も、そう思うよ?」
「でもさぁ、真っ黒だし、赤い目なんだから不気味だろ?」
「なーにいってんべ!颯爽と現れて怪獣と戦ってくれんだべ?ウルトラセブンと違って、俺らの為に戦ってくれるんだから悪い奴じゃねーって!」
「まぁ、ウルトラセブンと比べたらなぁ、ウルトラマンオーブは怪獣が現れてすぐ来て戦ってくれるから助かるよなぁ……ウルトラセブンなんか、街が壊れてヤバイってなった時にしかきてくれねぇし」
「そうだよなぁ!これからもウルトラマンオーブなら安心じゃね?」
「あのさぁ、あんまり、ウルトラセブンのことを悪く言うのは」
「あれぇ、もしかして、葉山君はウルトラセブン派?」
「そういうわけじゃ、ただ、何でもウルトラマンに任せるっていうのは」
「えぇ~~、怪獣と戦ってくれるんだし、いいじゃん」
「そーそー、困った時はウルトラマンオーブって感じでいいだろうし!ウルトラセブンより頼りになるって」
彼らの中でウルトラマンオーブは自分達の為に戦ってくれる最高のヒーローというイメージ図になっているらしい。
八幡は興味ないという様子でマッカンを買いに外へ出る。
「ヒッキー……」
購入を終えて教室へ戻ろうとしたところで、由比ヶ浜に声をかけられた。
何か言いたそうに手を合わせながら視線をさ迷わせる彼女の姿に八幡は何かを感じて、自販機に戻って紅茶を購入する。
「ほらよ」
「え、ありがと」
「何か話したいことあるんだろ?」
「うん」
二人でベンチに座る。
由比ヶ浜が距離を詰めようとしたところで横へずれるが、すぐに端へ追いやられてしまう。
諦めた八幡はマッカンを飲む。
「あの巨人のこと、ヒッキーはどうするの?」
「別に、なにも」
「え?」
「あれがどういう意図で怪獣と戦っているのか知らないが、こちらへ特に悪意を振りまいていないというのなら今は放っておく」
「え、でも、あのウルトラマンが賞賛されているんだよ?ウルトラセブンなんか、悪口まで」
「由比ヶ浜」
八幡は飲みかけのマッカンを地面へ置いて彼女をみる。
「“ウルトラマン”は賞賛されるために戦っているわけじゃない。俺が知る“ウルトラマン”はどこまでもお人好しで賞賛が欲しくて戦っているわけじゃない。どこまでも善意の心に応えようとする……あの黒いウルトラマンがそういう気持ちでやっているのかはわからないが、俺は自分から進んで賞賛欲しさに動くなんてことしない」
「ヒッキー……」
「何より、面倒だし」
「最後ので台無しだしぃ!」
叫ぶ由比ヶ浜を置いて、八幡はマッカンを手に取って立ち上がる。
「眠たいから教室戻るわ」
「うん……ヒッキー、ありがとう」
笑みを浮かべる由比ヶ浜を直視するのが恥ずかしくて視線をそらす。
「お礼言われるようなことはしてねぇし」
八幡は通路を歩きながらあることを考えていた。
「ウルトラマンオーブっていう名前は誰がつけたのかしらね」
「さぁな」
「ネットで誰かがそう呼んだらしいよ?」
放課後の奉仕部。
いつものような時間を満喫していたところで、雪ノ下が漏らした疑問に由比ヶ浜が答える。
「あれは、この世界のウルトラマンなのかしら?」
「さぁな、そもそも、この世界にウルトラマンがいるかどうかはわかっていねぇからな」
「もし、この世界のウルトラマンだとしたら、彼はどうして、このタイミングで現れたのかしらね」
「ゆきのん、どういう意味?」
首をかしげる由比ヶ浜。
雪ノ下は読んでいた小説を閉じる。
「今までに人類は数多くの怪獣や侵略者に狙われてきたわ。その脅威から戦ってきたのは誰?ウルトラマン?違うわ、人類自らの手で守ってきている。今になって、人間が大好きな別宇宙のM78星雲の宇宙人さんが助けてくれるけれど、もし、そういう侵略行為を許せない者達がいるというのなら」
「地球へ現れていてもおかしくはない、か」
「じゃあ、あれは演技?」
「なんともいえないわ、そもそも、あの黒い奴が何の意図をもって地球へ現れたなんてわからないのだから」
「……そう、だよね」
「?」
由比ヶ浜の様子がおかしいことに気付いて首をかしげる雪ノ下。
フォローする形で八幡が説明する。
「オーブとやらの登場でセブンの悪口をいわれることが我慢できないみたいだぞ」
「そういうことね。仕方ないわ。人というものは自分にとって都合の良いものを信じてしまう傾向にある……怪獣出現に颯爽と現れたウルトラマンオーブ、人類が限界まで努力した時に現れるウルトラセブン。これだけで新たに出現した巨人へ好意を向けるなんて愚かに思えるわ……もし」
雪ノ下は先の言葉を飲み込む。
続きを予想できた八幡は何も言わずに手にしている新聞へ意識を向ける。
静かになった奉仕部。
それからいつものように彼らは家へ帰る。
それから一週間に一回、どこぞの特撮番組のように怪獣が姿を現す。
怪獣が現れて人が逃げ惑う時に颯爽と現れるのはウルトラマンオーブ。
輝く剣を振るい、時に光線技を使いながら怪獣を次々と倒していく。
その姿を人々はヒーローへ向ける羨望の眼差しとなっていく。
ニュースにおいても、ウルトラマンオーブは地球の味方!と大々的に騒ぐ人間も出てきている。
子供たちの話題も主にウルトラマンオーブになっていた。
薄暗い部屋の中、愛染誠は空間に投影されているニュースへ向けられている。
「いいぞぉ、いいぞぉ!私の望む展開になってきたじゃないかぁ!これから、私、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツの活躍は続いていくのだぁ」
ニュースはウルトラマンオーブが怪獣を撃退したということで戦闘の一部映像が映されている。
聖剣を振るうウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツと倒されるデマーガの姿が表示されていた。
「あん?」
映像が切り替わって別の戦いが流れる。
そう、ウルトラセブンとキリエロイドの戦いだ。
ある評論家がウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツについて好評する中で一部の人間がウルトラセブンについて話をしているのである。
ウルトラセブンこそが地球の守護神であると語っている姿に愛染は歪んだ笑みを浮かべた。
「これは、まだ、修正が必要なようですなぁ」
机に置かれている一つのクリスタルを愛染誠は手に取る。
クリスタルの表面にはウルトラセブンと酷似した存在が描かれていた。
「何か、嫌だなぁ」
比企谷家の食卓。
小町お手製の料理を味わっていた八幡は妹の言葉に顔を上げる。
「何が?」
「街の雰囲気……どこもかしこも、新しく出てきたウルトラマンのことばっかり」
「まぁ、怪獣被害がほとんどないからな」
「代わりに怪獣の出現頻度が増えたでしょう?」
「まぁ、な」
ひょこっとダークゾーンからペガが顔を出す。
「地球人は楽な方を望むんだね。自分達だけで努力して、限界を超えた時に助けてくれるウルトラセブンよりも怪獣と戦ってくれるウルトラマンオーブを望むんだからねぇ」
「楽な方を望んでしまうのは仕方のないことだよ。苦しむことを進んでやりたがる人間はいないからねぇ。でも、ペガちゃん、人間が楽な道ばかりを選ぶバカな生き物じゃないって、小町は思いたいんだよねぇ」
「小町は強いねぇ」
「そりゃ、兄や居候の子達の分の食生活などをも考えていますから!」
えっへんと胸を張る小町の姿に八幡とペガは癒されつつも、もう少し家事を手伝おうと心の中で誓い合うのだった。
「バカな生き物じゃない、か」
食事を食べ終えた八幡は自室のベッドへ横になる。
手の中にあるウルトラアイを天井へ掲げた。
別宇宙で八幡が出会ったウルトラマン達は誰もが地球人を愛して、地球人の善性を信じている。
ウルトラマンオーブとやらは怪獣が出ると颯爽と現れて倒すことは人々にとって良いことでもあるのだろう。だが、ウルトラマンという存在に甘えて頼り切るという事はまた違うのだと八幡は感じていた。
「この世界の地球人を見て、M78星雲のお人好し達はそれでも守ろうとするのだろうか?」
八幡の呟きに応えてくれる者はいない。
一番に応えてほしい相手は八幡の精神に干渉することなく自らの意識を奥深くに閉じ込めている。
「こんなことで迷うことになるとはなぁ……本当に、人生ってハードゲームだ」
ウルトラアイを仕舞って八幡は眠りにつく。
その日、街の中心地に突如、ウルトラセブンが出現した。
怪獣や宇宙人が出現していないのに突然、現れたことに住民は戸惑いの表情を浮かべる。
誰もが困惑している中、ウルトラセブンは信じられない行動を起こす。
拳を振り上げて、ビルの一角を壊した。
自らの力を誇示するように両手を広げながら次々と破壊活動を行うウルトラセブン。
突然の事態に誰もが悲鳴を上げて逃げ惑う。
ウルトラセブンが街を破壊しているという連絡はすぐにウルトラ警備隊へ届いていた。
二子山のゲートを展開して緊急出動するウルトラホーク1号。
ウルトラホーク1号が現場へ急行すると悠然と進むウルトラセブンの姿があった。
「隊長!」
「こりゃひでぇ……攻撃準備!」
「でも、隊長!ウルトラセブンは」
「バカ!俺達が悩んでいる間に次々と街は壊されて住民に被害が出るんだ!攻撃開始!」
納得していないリサは席へ戻る。
操縦桿を握る梶は照準をウルトラセブンへ向けた。
放たれる大量のミサイル弾。
ミサイル弾を体に受けたウルトラセブンだが、その動きは止まることがない。
それどころか、ウルトラホークへ瓦礫の一部を掴んで投擲する。
間一髪のところでウルトラホーク1号は上昇して回避した。
ウルトラセブンは両手を広げながら再び街の破壊活動を開始しようとする。
「くそっ、こっちのことはお構いなしかよ!」
「仕方ない、ホルバスターミサイル!発射準備!」
「了解!」
ウルトラホーク1号の下部から特殊ミサイル、ホルバスターミサイルが発射態勢に入った。
「よく、狙え……発射!」
古橋の合図でウルトラホーク1号からホルバスターミサイルが発射。
ミサイルはウルトラセブンへ直撃して大爆発を起こす。
直撃を受けて地面に倒れるウルトラセブン。
しかし、すぐに起き上がって光線を放つ。
光線はウルトラホーク1号に右翼に直撃、黒煙をあげながら安全な場所へ緊急着陸をとる。
ウルトラセブンは避難誘導をしている東郷とユキ隊員の方へ視線を向けた。
「マズイ、急げ!」
「!」
東郷が避難を急がせる中、ユキ隊員がホルダーからウルトラガンを取り出して構えた時。
上空から眩い光を放ちながらウルトラマンオーブが姿を現す。
横薙ぎに聖剣の一撃を受けたウルトラセブンは近くのビルへ倒れこむ。
「ジュワァッ」
ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツは聖剣オーブダークカリバーの刃から光輪を放つ。
カリバースラッシャーを受けたウルトラセブンはのけ反りながらも額から光線を繰り出す。
「フン!」
ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツはひらりと光線を回避する。
光線は後ろのビルに直撃して火災が起こった。
オーブダークカリバーを手に駆け出すウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツはオーブダークカリバーの岩と記されている紋章を起動。
カリバーを地面へ突き立てて衝撃で生じた岩石を放つ。
次々と飛来する岩石は周囲のビルや建物、地面に大きな穴を作りながらウルトラセブンにダメージを与える。
ふらふらになっているウルトラセブンの姿を見て、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツはカリバーを地面に突き立てて、両手を十字に構えた。
必殺の【ダークオリジウム光線】がウルトラセブンに直撃。
大爆発を起こしてウルトラセブンが消失する。
胸を張っているウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツの姿はまるで大笑いをしている風にみえた。
地面に突き刺さっている聖剣を引き抜いてウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツはそのまま大空の中へ消えていく。
翌日、新聞の一面にはこの一言が大きく記されていた。
【ウルトラセブンは人類の敵だった!?】
本編開始前のスペースサーガ、ダイジェストでも必要?
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必要
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必要ない
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本編はよ