てなわけで後編です。
「いい加減にしてよ!」
昼休み、昼寝を満喫しようと考えていた八幡は大きな怒鳴り声にびっくりする。
室内の喧騒は静まり返り、大勢の視線が一点へ向けられていた。
拳を握り締めて怒った表情をしている由比ヶ浜結衣の目は葉山グループへ向けられている。
「戸塚、これはどういう状況だ?」
「え、あぁ……その、彼らがウルトラマンオーブについて、話をしていて、その、前のウルトラセブンの悪口になったところで、由比ヶ浜さんが怒りだしたんだ」
「そういうことか」
戸塚の説明で状況は理解できた。
先日、街中でウルトラセブンが街を破壊するというとんでもない事件が起こった、ウルトラ警備隊が苦戦する中で破壊の限りを尽くす巨人から人類を守ったのはウルトラマンオーブ。
ネットでもその姿は拡散されて、今やウルトラマンオーブは地球人にとっての新たなヒーローとしてたたえられている。
片やウルトラセブンは人類の敵という触れ込みが広まりつつあった。
八幡の推測でしかないが、由比ヶ浜はウルトラセブンの悪口を言う彼らのことに我慢ができなかったのだろう。
「なんだよ、悪い奴を悪く言って何がいけないんだよ」
「それをいい加減にしてって言っているの!」
「わけわかんないって、ウルトラマンオーブがいるから今の俺らの生活あるんだぜ?ウルトラセブンが何をしてくれたよ?怪獣が暴れる前に颯爽と倒してくれるわけじゃない。俺らが困った時にしか来てくれない、結局、街を壊してウルトラマンに倒されている。そんな奴を悪くいう事の何が悪いっていうんだよ」
ほとんどの者が同意する。
ウルトラマンオーブの実績は今までの戦いで証明されてきた。
怪獣出現と同時にどこからか現れて聖剣を振るい、時に光線を撃って怪獣を倒す。
「それにこの前なんか女の子が飛ばした風船を取って渡したってニュースもあったじゃん!」
「そーそー!あれ、カッコイイし、ヤベーッショ!」
誰もがウルトラマンオーブ良い者説に傾いている。
ほとんどは傍観している者ばかり。
どちらにも味方する気はないというものだろう。
ウルトラセブン側についているのは由比ヶ浜だけだ。
「それだけのことで皆はアレをヒーローっていうの?」
「あぁ、あれはマズイ」
拳を握り締めてぶるぶると震えている姿を見て八幡は察する。
宇宙で共に旅をしてきたことで由比ヶ浜のことは多少、理解しているつもりだ。
今の彼女は本気で怒っている。
「確かに街を壊される前に怪獣を倒してくれるのは助かるかもしれない。そもそも、怪獣が現れるのはなんで?あたし達が色々やって来たことのツケが回ってきているからじゃん!怪獣出現を招いているのはあたし達人間なんだよ?そのツケを他人に払ってもらって満足するの!?」
「それは……」
「話が違うだろ!?」
「違わないよ!怪獣を倒してくれるからって、わかっていないのかもしれないけれど、オーブが戦った後の惨状は怪獣が暴れた時よりもひどいことってわかっている!?」
「それは怪獣と戦うために仕方なく」
「仕方ない?それを本気で言っているんだったら間違いだよ!ウルトラセブンだって、セブンの方は街を壊されないように注意しながら戦っているんだよ!あたし達が傷つかないように……今まであたし達に手を貸してくれたウルトラセブンにこんなこといったら、掌を返されても文句なんかいえないよ!」
「何の騒ぎかね?」
教室内に平塚先生や他の教師たちが入ってくる。
「行こうぜ」
「すいません、何でもないでーす」
逃げる様に去っていく葉山グループの男子達。
残った葉山が教師たちへ頭を下げる。
由比ヶ浜は三浦に付き添われる形で平塚先生と話をしていた。
「何か、嫌だね」
「……戸塚?」
「僕はどっちが正しいとか、そういうのはわからないけれど……少し前まで、僕達の為に戦ってくれていたウルトラセブンの悪口を言われるのは嫌だな……でも、あんなことがあったからさ」
「ウルトラセブンが街を破壊した、か」
静まり返っていた教室に再び喧騒が戻ってくる中、八幡はぽつりと呟く。
「話し合うか……」
「どうやら順調のようだな」
愛染誠のいる薄暗い部屋。
踏み入れた黒衣の男の姿を見ると愛染誠は笑みを浮かべる。
「キミかぁ!いやぁ、あの提案は素晴らしいね!一気にウルトラセブンが悪者!そして、私のウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツこそが正義の味方という展開になったよう!これ、お礼の品」
男の手を取って愛染誠が渡したのはウルトラマンオーブダークノワールブラッスシュバルツのソフビ人形(愛染お手製)である。
「しかしぃ、まさか、このクリスタルの力を使って偽物を用意してそれを私が倒す作戦とは、キミはどうして、私に協力してくれたのかな?」
「利害の一致だ」
愛染のテンションに対して男は淡々と話す。
「ウルトラセブンは私にとって邪魔だ。お前にとってもお前の活躍を阻む可能性がある。お前はより人間達から支持を、私の目的の為に邪魔者の排除、地球人は奴が訴えたところで耳を貸すことがない。噂のウルトラ警備隊も次からはウルトラセブンを攻撃してくれるだろう、ほら、利害の一致だ」
「そういうことかぁ!利害の一致とはすばらしいねぇ!それで、キミはこれから何を?」
「我らの主を蘇らせること」
「……主?」
「お前も名前は聞いたことがないか?宇宙で悪魔と恐れられる存在のことを」
「悪魔?あぁ、ゴーデスのことか」
愛染は思い出したように手を叩く。
「だが、その存在は遠い昔に宇宙の正義の手によって滅ぼされたと聞くが?」
「確かに肉体は滅ぼされた、だが、完全に消滅させられる瞬間、自らの肉体を細胞レベルまで分解して宇宙へ逃げた」
「そのゴーデスが地球にいると?」
「復活の苗床として地球を選ばれた」
「ふーん(待てよ、つまりはそのゴーデスとやらを復活させたところで、私事ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツが華麗に倒せば、地球上で私を崇拝しない者は誰もいないという事だ……おぉ、これは良い展開だぞぉ)」
「(コイツのことだ、ゴーデス様を利用して自分の地位をより確固たるものにしようと企むだろう……それでいい、闇が混ざっているとはいえ、光の力で倒されれば倒されるほど、ゴーデス様の力はより強くなっていく。今回の騒動でかなりの細胞が集まってきている。もう少しすれば、ゴーデス様は完全復活させることができる)だが、今のままではダメだろうな」
「なぬ?」
男の言葉に愛染が驚きの声を漏らす。
「気付いていないのか?未だにウルトラセブンを信じる者がいる。そいつらを完全になくさない限り、お前の地位は揺らぐ危険があるぞ」
「しかし、ウルトラセブンをこれ以上、貶すことはあまりなぁ」
ウルトラマンを尊敬している愛染誠としてはこれ以上、ウルトラセブンを貶すような真似はしたくなかった。
いくら、自分の地位を確固たるものにするとはいえ、流石にやりすぎちゃったかなぁ?と心配になってきたのである。
「―――ウルトラマンオーブになりたいのだろう?」
そこで悪魔が囁く。
悪魔の配下である男にとって、愛染誠が何を求めているのか調べることくらい造作もないことだった。それこそ、ミュー粒子を介する必要もない。
「お前は憧れだったウルトラマンになりたい、いや、なるのだろう?お前の気持ちはその程度のものだったのか?」
「なにをう!?バカにするんじゃない!私はウルトラマンになる!いや、必ず、なるんだ」
愛染の脳裏をよぎるのは輝きの聖剣から放つ光で巨大な怪獣を倒した光の巨人。
彼の尊敬するウルトラマンオーブ。
幼かった彼は心の底から誓った。
ウルトラマンになりたい。
ウルトラマンになるのだ、とその為にここまで頑張ってきたのだ。
邪魔する存在は許さない。
敵対するものはどんなことをしても倒すのだ。
愛染は悪人のような黒い笑みを浮かべる。
「グググ!よぉし、ならば、もう一つ、手を打ってやろうじゃああありませんかぁ!」
両手を叩く愛染。
彼の手の中に二つのクリスタルが握られていた。
悪魔はにやりとほほ笑んだ。
「怪獣出現の兆候がない?」
その頃、ウルトラ警備隊の司令室では最近、多発している怪獣騒動について議論がされていた。
「はい」
全員の視線が集まる中でユキ隊員が頷く。
「あの黒いウルトラマンが姿を現した時から、今日まで、各部署のデータを調べたのですが、怪獣出現の兆しが全くありませんでした」
「ま、全く?」
驚きの声を漏らす渋川にユキは頷く。
「しかし、そんなことを調べて何になるというんだ?」
「おかしいとは思わないのか?」
質問を質問へ返す形になっているがユキは梶へ問いかける。
「いくら少し前の怪獣頻出期といわれるような状態になりつつあるからといって、一週間に一回、テレビ番組のように怪獣が何の前触れもなく現れるというのはおかしい。何か切欠がなければ怪獣が現れるなんて考えられない」
「待ってくれ、ユキ隊員は今回の怪獣騒動に何か裏があるとみているのか?」
「えぇ」
「待ってよ!裏があるって、まさか宇宙人の企みか何かってこと?」
「そこまでははっきりとはいえないが……だが、考えてみてほしい」
戸惑う東郷やリサにユキは問いかける。
「怪獣が出現する場合、何か異変が起こる、それか侵略者が連れてきた怪獣兵器の可能性がある……今回のケースはそのどれにも該当しない、いや、一つだけ、可能性はある」
「あの黒いウルトラマンのことだな?」
腕を組んで目を閉じていた古橋の言葉にユキは頷いた。
「そうです。最近の怪獣は現れるとすべてが黒いウルトラマンに倒されています。偶然と片付けるには回数が多すぎると思いませんか?」
「しかし、あのセブンについてはどう説明する」
「まだ、わかりません、ですが、あのウルトラセブンに生命反応が感知されていません。そこに謎を解くカギがあると私は思います」
「調査をしたいということだな?」
目を開けて古橋は手を叩く。
「よし、ユキ、満足するまで調べろ。そして、はっきりとした結果を報告するように、梶、お前もついていけ」
「隊長!?」
「お前、前の任務でホークを墜落させていたな?始末書は免除してやるから、代わりにユキに付き合え」
「そりゃないっすょ!?」
「ハハッ、まぁ、レディをエスコートしてやるんだな!優男さんよ」
渋川の言葉に梶は嫌そうな顔をして、ユキは小さなため息を吐いた。
「綺麗な場所だな」
俺はどこまでも澄み切った青空、キラキラと輝く湖、そして風を受けて揺れる緑。
天辺に輝く太陽。
自然の中を八幡は歩いていき、やがて、一人の人物を見つける。
バラ色の頬を持つ美青年。
纏っている衣服がウルトラ警備隊の隊員服でなければ、街中で女性を虜にさせていただろう。
彼こそが、恒点観測員として地球に訪れて、地球人を愛し、身を犠牲しながら戦い続けた。
ウルトラセブン本人だ。
今は地球人の姿をコピーしたモロボシ・ダンとしての姿で俺の前にいる。
「珍しいね。キミがこちら側に踏み込んでくるなんて」
にこりとほほ笑む青年の横へ俺は腰かける。
ここは地球のどこかにある自然、というわけではない。
「アンタに話があったんだよ。ウルトラセブン、いや、モロボシ・ダン」
俺と一心同体になっているウルトラセブンの心象風景が具現化した場所。
大自然の一角をくりぬいたような素敵な場所で俺とダンさんは大きな岩へ腰かける。
「綺麗な場所だな」
「私が訪れた地球の緑豊かな場所だ。不思議とこの景色を見ていると心が現れるような気分になる……こういう美しいものを私は、私達は守りたいと思っている」
「ダンさん、貴方に相談があります」
ちらりとダンさんが俺を見た。
融合はしているものの、俺の心の中に彼が踏み込んでくることはない、まして、干渉することなく。どうしても必要な時に俺の人格は沈んで、彼が表に出てくる。
だが、絶対というわけではない。
こうやって俺が望めば話しかけてくるし、警告なども飛ばしてくる。
どこまでもこの人は優しいのだ。
この人だけじゃない、あの星に住まう人たちは。
「いいとも、教えてくれ」
俺はダンさんにできる限りのことを話す。
多発する怪獣、それを倒すウルトラマンオーブという存在。
少し前に現れたニセウルトラセブン。
そして、由比ヶ浜の訴え。
全てを話し終えて一息ついたところで、ダンさんは静かに告げる。
「キミは私にどうしてほしいんだい?」
「え?」
予想外の返しに俺は固まってしまう。
「あの黒いウルトラマンがどういう意図で怪獣と戦っているのか知らない。もしかしたら地球平和のためかもしれない。それと偽物の私と繋がりがあるのかどうかもわかっていない」
「だけど、あの偽物のせいでウルトラセブンは悪者だって」
「私は私の信じた者達の為に戦う。私の決意は揺るがない、たとえ、愛する地球人から石を投げられたとしてもね」
「それは……いや、アンタは本当に地球人を愛しているんだな」
「勿論」
彼は頷いた。
どこまでも澄み切った、ウソ偽りのない笑顔を浮かべられ、俺は言葉を詰まらせる。
この人や他のウルトラマン達と話していると心の中のすべてをさらけだされそうになる。そんな気分になってしまう。
「正直、黒いウルトラマンがどういう意図で戦っているのか、偽セブンが現れたことに関係があるのかもわからない。けれど、俺は許せないんだと思う、ウルトラセブンを……俺の命を助けてくれた恩人を侮辱するようなことを」
「八幡君、キミはとても優しく、そして、誰かが傷つくくらいなら自分が傷ついてでも解決しようとする子だ。もし、キミが大切な者の為に力を使うというのなら躊躇わないことだ」
「俺は……」
「キミは正しいことに力を使える。少なくとも私はそう信じている」
段々と景色が白くなっていく。
目の前にいたはずのダンさんがどんどん遠のいていた。
「待ってくれ!」
まだ、話したいことが、聞きたいことが沢山、あるのに!
「これ以上の接触はキミの精神へ良くない影響を与えてしまうだろう。八幡君、戦う決意を決めたのなら、迷うな。キミは大切なものの為に戦える」
「セブン!」
ガバッと俺は体を起こす。
「俺の部屋……」
周りを見ると、俺の部屋だ。
「大丈夫?魘されていたけど」
俺が目を覚ましたことに気付いてペガがダークゾーンから顔を出す。
「あぁ、大丈夫だ」
「汗がびっしょりだ、もう一度、風呂に入ってきたら?」
「……そうする」
ペガに言われて八幡は浴室へ入る。
服のポケットから隠しているウルトラアイを取り出す。
ウルトラアイを覗き込みながら八幡は、ため息を吐いた。
「過大評価しすぎなんだよ……はぁ」
そういって八幡はウルトラアイを置いた。
「何で街中に出るんだよ?」
「調べたいことがある」
梶とユキの両隊員は私服姿で街中へ来ていた。
「どこもかしこも、例のウルトラマンオーブの話題ばかりだな」
「新たな人類の守護者といっている連中もいるようね」
淡々と答えるユキに梶は前から気になっていたことを尋ねる。
「なぁ、ユキはウルトラマンやウルトラセブンについて、どう思っているんだ?」
「別に」
ユキは静かに答える。
「地球は人類の手で守るべきだと私は考えている。ただ、手を貸してくれるウルトラセブンはともかく、怪獣を颯爽と倒すあの黒いウルトラマンとやらはあまり好きになれないな」
「ふーん」
彼女の話を横で聞きながら歩いていた梶はある少女に気付いた。
「おい、あの子じゃないか?黒いウルトラマンに風船を取ってもらったっていう少女」
梶の言葉にユキは視線を向ける。
公園で遊んでいる少女は梶の言うとおり、少し前にウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツに風船をとってもらった人物だろう。
何気なしにみていたユキはある一点に気付くと真剣な表情を浮かべて駆け出す。
「おい!?」
慌てて追いかける梶。
ユキは少女へ話しかけていた。
「ねぇ、その人形、どうしたの?」
「もらったの!」
少女は笑顔でユキにある人形を見せる。
「これって……」
手の中にあったのはウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツの人形だった。
小さいながらも精巧にできている人形をみたユキは尋ねる。
「誰からもらえたの?お姉さんも欲しいな」
「あそこのビルの社長さん!大人の人に、私がウルトラマンオー、えっとぉ?なんとかに風船を取ってもらったってことを伝えてほしいって」
「そうなんだぁ、ありがとうね」
手を振りながら去っていく少女。
ユキは少女の指さした建物をみる。
「やはり、アイゼンテック社か」
「どういうことだよ?人形がどうかしたのか?」
「早すぎないか?いくら、ヒーローと言われているとはいえ、あの黒い奴の商品が出ているなんて」
「どこかの企業が売れると見込んで投資したという可能性もあるだろう?」
「それだけじゃない、この街中、やけに黒いウルトラマンの広告宣伝が多いと思わないか?」
「言われて、みれば……」
指摘されて梶はようやく気付く。
黒いウルトラマンが出現して、一カ月が経っているが、彼がヒーローと言われだしたのは街を破壊したウルトラセブンを倒した時だ。その日から考えると流石に流布されているものが早いという疑問が生まれる。
「じゃあ、アイゼンテックが怪しいと思うのか?」
「そこはわからない、だが、何かを知っている可能性は高いと私は思っている」
「……調べるか?」
「あぁ」
頷いたユキと梶はアイゼンテックのタワーをみる。
「さてさて、そろそろ、次の段階へ進むとしようか」
愛染誠はタワーの屋上で街中を見渡していた。
アイゼンテックのおかげで繁栄した街をこれから破壊することになるが、愛染自身、否、彼の変身するウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツの栄光の一歩と思えば、多少の破壊など必要経費と思えばいい。
「そう、私はなるんだ……ウルトラマンオーブに」
昔を思いだしている愛染誠、否、彼に寄生している宇宙人は手の中のウルトラマンオーブが描かれているクリスタルを握り締める。
「まずは、彼から、出番です!」
AZジャイロにクリスタルをはめ込んで、左右のレバーを引っ張る。
眩い光と共に街中にウルトラセブンが現れた。
「では、続けて」
ジャイロに怪獣のクリスタルをはめ込もうとした時、まばゆい光と共にグルジオキングが出現する。
「え?」
呆然としている愛染の前で現れたグルジオキングは雄叫びを上げながらニセウルトラセブンへタックルした。
攻撃を受けて派手に吹き飛ぶニセウルトラセブン。
背部の砲塔から砲撃を行う。
攻撃を受けて仰け反るニセウルトラセブンを終始、グルジオキングが圧倒していた。
「えぇい!なんてタイミングで邪魔をぉ!」
呆然としていた愛染誠だが、すぐにカッ!と目を見開くと怪獣クリスタルを放り投げて彼が開発したオーブリングNEOをジャイロにはめ込む。
レバーを左右に広げながら愛染は叫ぶ。
「絆の力ぁ!お借りします!」
叫びと共に光の中からハートのポーズをとりながらウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツが姿を現す。
「銀河の光が我も呼ぶ!」
現れた姿こそ愛染誠の変身したウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ。
「と、同時に攻撃ぃぃぃぃ!」
現れるとともにオーブダークカリバーを振るってグルジオキングの背中を切り裂く。
『あぐぅ!』
背中にダメージを受けてグルジオキングに変身している由比ヶ浜が苦悶の声を上げる。
『ほう、キミかぁ!』
『愛染社長!?貴方が真っ黒マンの正体だったの!?』
『誰が真っ黒マンだぁあああああ!私の姿はウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ!』
『えっと、オダブ?』
『変な略し方をするなぁ!』
首をかしげた由比ヶ浜に激昂した愛染はオーブダークカリバーを操作して【オーブダークロックカリバー】を放つ。
怒りと共に放たれる技だが、グルジオキングは自慢の装甲で防ぎきり、口からネオボーンブレスターを撃った。
火炎を受けたオーブダークは焼けている箇所を手で払う。
『どうして、どうしてこんなことをするの!?』
『決まっているだろう!私の夢のためだ!私はウルトラマンになる!ただのウルトラマンじゃない!惑星O-50、そこにある戦士の頂に触れて光の巨人になったウルトラマンオーブ!』
『戦士の頂……それって』
『そう、お前も触れて資格を得たはず、しかぁし!お前はウルトラマンになるどころか怪獣の姿でストォップ!加えて、ヒーローとしての自覚もまるでなし!だからこそ、私がなるんだ!人々に危機が迫った時、銀河の光と共に現れる巨人、それこそがウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ!』
『だったら、何でセブンを悪者にするの!こんな偽物なんか使って』
『いやぁ、本当はそういうことするつもりなかったんだけどねぇ、ほら、違うとはいえ、一応、ウルトラマンだしさぁ、でも、私の邪魔になるなら仕方ない!正義のヒーローと見せかけて実は悪でした計画は成功したということだよ!なっはっはっ!』
笑う愛染の姿に由比ヶ浜のぶるぶるとジャイロを握り締めている手が震えていた。
『最っ低!』
『なぬぅ!?』
叫びと共に放たれた雷撃がオーブダークを捉える。
ビリビリと痺れて剣を手放してしまう。
瞳に涙を溜めながら由比ヶ浜は攻撃を続ける。
『貴方に……』
ボーンショッキングを続けながら由比ヶ浜は叫ぶ。
『貴方にウルトラマンを名乗る資格はないよ!』
別宇宙、M78星雲、光の国。
「由比ヶ浜結衣君、ウルトラマンという名前がどうして付けられたか知っているかな?」
由比ヶ浜結衣は茶色いベストに黒いシャツにズボンという姿の青年、ハヤタ・シンの言葉に首をかしげる。
「え、それが名前じゃないの?」
由比ヶ浜の言葉にハヤタは苦笑する。
「ウルトラマンという名前は、私が一体化していた地球人がつけてくれた名前なのさ。ウルトラ作戦第一号の協力者、ウルトラマンと……最初はただの呼称だったけれど、いつからか、この名前を私は愛するようになった地球人がくれた大事な名前だと」
「へぇ」
「だが、いつからか、地球人にとってウルトラマンという名前は別の意味をもつようになった」
「別の意味?」
「私の後に弟達が地球を守ってきた。地球人と共に怪獣や侵略者と戦う私達をいつからか、地球人は友と、大事な仲間として迎えてくれる。ウルトラマンとは地球に、地球人にとって大切な存在になっている。それが嬉しくもあり、彼らの成長を見守る理由なのだと、私は思うようになった」
昔を懐かしむハヤタの姿を見ながら由比ヶ浜は感嘆の声を漏らす。
O-50の戦士の頂に触れて力を手にした為に宇宙を旅することになった由比ヶ浜はウルトラマンという名前を耳にすることがあった。
M78星雲、光の国に存在する宇宙警備隊の一人の名前。
侵略者を許さず、正義の為に戦う者の名前。
地球のことを愛する者の名前。
侵略者が恐れる正義の味方。
名前の意味を由比ヶ浜ははじめて、知った。
「私は、どうすればいいのかな?」
由比ヶ浜は自身の手の中にあるジャイロをみる。
O-50の指示でミッションをいくつもこなしてきた彼女はいつか、光の巨人の力を手にすることができるかもしれない。
その時、自分は目の前の人達のような強い存在になれるだろうか?
「由比ヶ浜君、我々、ウルトラマンは神ではない。どんなに頑張っても届かない思いもあれば、救えない命もあるということを忘れないでほしい」
「神じゃない……か」
「大きな力を使う事はおおいなる責任が伴う。それを忘れないでほしい」
ハヤタとの言葉を思い出しながら由比ヶ浜――グルジオキングは唸り声を上げながらオーブダークへ爪を振り上げようとした時。
背後からニセウルトラセブンがキックを放つ。
不意打ちにグルジオキングの動きが鈍る。
その隙を突くようにウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツが全身に炎を纏った必殺技【ダークストビュームダイナマイト】を繰り出す。
繰り出された攻撃をグルジオキングは防ぐ暇もないまま受けてしまい、近くのビルにその巨体を倒してしまう。
『ふん!所詮はウルトラマンになりきれない小娘だったということだ!とっとと倒して、私の壮大な計画を実行に……』
『負けない……』
傷だらけになりながら起き上がるグルジオキング。
由比ヶ浜はダメージと疲労で倒れそうになる体を必死に起こしながらオーブダークをまっすぐにみる。
握り締めているジャイロを構えた。
『貴方をウルトラマンなんてあたしは認めない!ヒッキー……ウルトラセブンを侮辱した……許さないから!』
ギラリとグルジオキングの瞳が輝く。
『生意気なぁ!大人しくしていたら優しく倒してあげようと思っていたものをぉ……まぁいい、貴様はこいつに倒されるがいい!いけぇ!ニセウルトラセブン、いや、ウルトラセブンよ!』
ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツがニセウルトラセブンへ指示を飛ばす。
ニセウルトラセブンは起動すると満身創痍のグルジオキングの頭部を掴むと腹部へパンチを叩き込む。
攻撃を受けて仰け反ったグルジオキングへキックを放ち、地面へ押し倒す。
グルジオキングは反撃しようとするがその腕を掴んでニセウルトラセブンが額のビームランプから光線を放つ。
『こんな、こんな奴に』
近距離から光線を受けて苦しみの声を上げるグルジオキング。
当然、変身している由比ヶ浜自身もダメージを受けている。
起き上がることのできないグルジオキングの上にのしかかり、一方的な暴力を振るう。
あまりの光景だというのにウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツは満足しているような態度をとっていた。
そして、比企谷八幡は。
「由比ヶ浜……」
グルジオキングに変身している由比ヶ浜が偽物とはいえウルトラセブンによって一方的になぶり倒されている姿を見ているのはとても気分が悪かった。
気付けば強く拳を握り締めている。
握り締めた個所からポタポタと血が零れていた。
かつての自分ならどう思っていただろうか?
疑って何もしなかった?
見て見ぬふりをしていただろうか?
少なくとも今は。
八幡は胸ポケットの奥からウルトラアイを取り出す。
彼はウルトラアイを見つめる。
「俺が由比ヶ浜を助けるために力を使うことがエゴだと言われても、俺が本物だと、失いたくない者を守るためにこの、力を使う」
八幡は覚悟を決めてウルトラアイを装着する。
眩い閃光と共に八幡の体がウルトラセブンへ変身した。
ニセウルトラセブンへウルトラセブンはアイスラッガーを投擲する。
光に包まれたアイスラッガーがニセウルトラセブンの胴体へ直撃。その体を吹き飛ばす。
『なぬぅ!?本物をぉ!?』
倒れたニセウルトラセブンをみて、現れたウルトラセブンに気付いたウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツは驚く。
ウルトラセブンは倒れているグルジオキングへ手を差し伸べる。
『由比ヶ浜、大丈夫か?』
テレパシーを使ってグルジオキングへ問いかけるウルトラセブン。
『ヒッキー、なの?』
『あぁ、俺だ』
『ごめん、あたし……あの偽物がヒッキーじゃないってわかっていたんだけど、、我慢できなくて、ヒッキーがバカにされていると思って、悔しくて、だから、こんなこと、きっと、間違っていると思っていたんだけど、だけど』
『大丈夫だ』
彼女が必死に涙をこらえている姿をミュー粒子が教えてくれる。
ウルトラセブンはグルジオキングを起こしながらその頭を撫でた。
『お前が俺の為に怒って、泣いてくれていることはわかった。だから』
振り返るウルトラセブン。
迸るエネルギーは怒りで体中からあふれ出している。
まるでウルトラセブンが燃えていると錯覚するほどに怒っていた。
『ここからは俺が身の潔白を証明する』
本来、比企谷八幡が変身する時、彼の人格は精神の奥深くに沈み、ウルトラセブンの人格が表に現れて戦闘をする。
しかし、今は比企谷八幡がウルトラセブンとして戦っていた。
冷静な戦い方をするウルトラセブンと異なって比企谷八幡の戦い方は若くも荒々しい戦い方をする。
それは遠く離れた宇宙、独りぼっちで生き残るために戦ってきたゆえのスタイル。
ニセウルトラセブンはウルトラセブンの攻撃を冷静に対処しようとする。
しかし、次々と繰り出されるウルトラセブンの猛攻に圧倒されていた。
『えぇい、本物が出てきたことは驚いたが、邪魔はさせんぞぉ!』
ウルトラセブンとニセウルトラセブンの戦い。
横から乱入してくるオーブダーク。
振るわれるオーブダークカリバーをウルトラセブンはアイスラッガーを逆手に構えて受け止める。
『お前、ウルトラマンじゃないな!』
『いいや!私こそがウルトラマン!真のウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツなのだ!』
『略してオダブだな』
『やめんかぁあああああああああああああああああ!』
激昂したオーブダークが袈裟切りに振り下ろしたカリバーを躱しながら後ろへ回り込んだウルトラセブン。
蹴り飛ばされたオーブダークは頭から地面に倒れる。
『ヒッキー!』
グルジオキングが背後から光線を撃とうとしていたニセウルトラセブンへタックルする。
光線技を放つことに失敗したニセウルトラセブンは倒れて、オーブダークの近くの地面へ倒れた。
『由比ヶ浜……』
『あたしだって、いるから、ヒッキーは一人じゃないよ!』
頷いたウルトラセブン。
横に並ぶグルジオキング。
ふらふらになりながらオーブダークは叫ぶ。
『なぁに、アツアツカップルみたいなことをやってんだよ!お前ら、ウルトラマンとしての自覚を』
『『うるさい!お前がウルトラマンを語るな!』』
ウルトラセブンは【ワイドショット】を、グルジオキングは【ギガキングキャノン】を。
二つの必殺技がウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ、ニセウルトラセブンへ直撃。
大爆発を起こす。
ウルトラセブンは横にいたグルジオキングをみて、空へ飛び去る。
グルジオキングは光の粒子に包まれてその姿が消えた。
翌日、いつもの奉仕部。
「街の人達はどちらを信じたのかしらね」
一定の距離を開けながら読書をしていた八幡へ雪ノ下が話しかける。
「いきなりなんだ?」
「今朝のニュース、街を破壊したのは偽物のウルトラセブンではないかという報道がされていたわ」
「そうか……」
「ウルトラセブンは正義の味方っていうことかしら?」
「ハッ、人の主観はそれぞれ異なる。片方が正義と言ったところで、相手も正義という、人の数だけ語る正義があるんだよ。ウルトラセブンは正義の味方っていうわけじゃない」
「じゃあ、何かしら?」
微笑みながら問いかけてくる雪ノ下の言葉に八幡が告げようとした時。
「ヒッキー!」
部室のドアが開いて笑顔の由比ヶ浜が八幡の腕を掴む。
「ほら、行くよ!」
「え?どこにだよ」
「ハニトー!」
「は?」
頬を膨らませながら由比ヶ浜は八幡を引っ張る。
グルジオキングになり二対一という不利な戦いをしていた少女とは思えないタフさだ。
「食べに行くって、約束!」
「そんな約束したか?」
「ほら、行こう!」
「わかった、わかったから引っ張るなって!」
「今日の部活はここまでにしましょうか」
二人の姿を見て雪ノ下は部活終了を告げる。
「じゃあ、ゆきのんも行こうよ!」
「え、私も?」
「うん!ほら、三人で食べるって約束していたし!」
そこでようやく八幡は思い出す。
「あぁ、惑星ボリスで約束していたことか」
「ほら!」
由比ヶ浜に引っ張られながら八幡は部室を出る。
少し遅れて雪ノ下も部室を出て鍵を閉めた。
いつもと少し違う光景だが、これも悪くないと三人は思っていた。
「えぇい!これで終わりだと思うなよぉぉぉぉ!私にはまだこれがあるのだからなぁ!」
薄暗い部屋の中、ボロボロの愛染誠は怒りで顔を染めながら手の中にあるAZジャイロとオーブリングNEOを握り締める。
「これにはまだ、奥の手があるのだ……それに」
愛染の視線は壁に設置されている計測器へ向けられる。
計測器は上昇していく数値が表示されていた。
「最大の悪魔、そこに恐怖する人類を救う事こそ、ウルトラマンの意味……悪魔、お前を利用させてもらうぞぉぉぉぉぉぉぉ」
雄叫びを上げる愛染誠だが、彼は知らない。
自身の力が悪魔によって利用されていることを。
彼の体からうっすらと緑色の粒子のようなものがちらついていたことを。
本編開始前のスペースサーガ、ダイジェストでも必要?
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必要
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必要ない
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本編はよ