「(俺、死ぬのかな?)」
体の全身が凍り付いていく。
徐々に体温が奪われていくことが俺に死というものを明確に意識させた。
何でこんなことになったのだろうか?
今日は高校の入学式。
少し早めに家を出たことが悪かったのかわからない。
車道に飛び出した犬を助けようとしてリムジンに激突したと思った直後、空に黒い渦のようなものが現れた。
事態を理解する暇もないまま、その黒い渦に俺と他の人達が吸い込まれた。
途中でバラバラになった後、俺はこの闇の空間に放り出される。
呼吸も出来ず、体の体温が奪われていく。
この黒い世界でぼっち一人が死んだとして、誰が気付くだろうか?
いいや、気付くわけがない。
こんな闇の中で俺の意識など、小さすぎる。
誰にも気付かれないまま死ぬのだ。
「(嫌だ)」
死にたくない。
俺がいなくなっても小町や家族以外に悲しむ奴はいない。むしろ、俺が死んだとしても覚えてくれる人などいないだろう。
だが、俺は死にたくない。
まだ、何もできていない。
何も見つけていない。
やりたいことも、
好きだといえることも、
何も見つけていないのに、こんなわけのわからないところで死にたくない。
そうだ、俺は死にたくないんだ!
「ぁ……ぁああ」
突如、目の前で赤い光が現れる。
視界一杯に広がる赤い光はこちらにやってくるとそのまま俺を包み込んだ。
「(温かい)」
赤い光の中に包まれて、俺は意識を失った。
――キミの願いは通じた。
「ブッ!」
再び意識を取り戻した時、顔いっぱいに水をかけられた。
「ベッ、べっ!」
「あ、目を覚ました」
「一体、何が……」
戸惑いながら俺が周りを見ると、白い衣服を纏った少女と目が合う。
「お兄ちゃん、目を覚ましたよう~!」
金髪の少女は笑顔を浮かべる。
近くで波の音が聞こえた。
体を起こすとどうやら海岸近くの岩場の上で寝ていたらしい。
「って、うぉぉおおおお!?」
目の前でこちらをみている巨大な生き物の姿に気付いた。
「な、なんだ、これ!?」
「ティグリスだよ?私の友達!」
少女が笑顔を浮かべて手を振ると嬉しそうな鳴き声を上げてティグリスという怪獣が応える。
見た目は獅子の姿をしていて恐怖しそうになったが、少女の言葉に目を細めて嬉しそうにしていた。
「か、怪獣!?」
「もしかして、お兄さん、旅人?怪獣を見るのはじめて?」
「そ、そんなの当たり前だろう、地球で怪獣がいたなんて、聞いたことがない」
「チーキュ?なにそれ?」
きょとんと首をかしげる少女。
その仕草で俺の頭に嫌な考えが過ぎる。
「ウソ、だろ」
何気なしに空を見上げた俺は気づいた。
太陽が二つ、宙に浮いている。
これが夢とかそういうもでないというのなら。
「ここ、地球じゃないのか?」
宙に浮かぶ二つの太陽を見ながら俺は呟いた。
「え、じゃあ、お兄ちゃん、ここがどこだか知らないんだ?」
「あぁ、気付いたらここにいた」
あの後、少女と一緒に海岸から移動して森の中を歩いていた。
何でも彼女の住む村が近くにあるのだという。
歩きながら話を聞いている。
「旅人さんにしては服装が身軽だからおかしいと思ったけど、じゃあ、お兄ちゃん、迷子?」
「うぐっ、この年で迷子とっていわれると色々とクルものがあるが、そうなるだろうな」
「ふぅん」
抱えている荷物を背負いなおしながら少女は相槌を浮く。
森に生える植物は地球に育つものと似ているが、異なるものばかりだ。
空に浮かぶ二つの太陽からして、地球ではないだろう。
何より、この少女が纏っている衣服。
ギリシャ神話の映画とかでみるような白い衣服を着ている。
確か、ヒマティオンだったか、トーガっていうものに似ていた。
「こっちだよ!」
「なぁ、さっきから歩いてばかりだが、どこへ向かっているんだ?」
「私の住まい!」
「あの怪獣は?」
「ティグリス?ティグリスは森が住まいなの」
「ふぅん」
彼女の話を聞きながらたどり着いた場所。
それは。
「円盤?」
目の前にあるのは朽ちた円盤。
何十年もそこに放置されてきたのだろうか?とこどころさび付いてボロボロである。
「ようこそ!私の住まいへ!」
笑顔を浮かべる少女を前に、俺は何も言えなかった。
「そういえば、お兄ちゃんの名前は?」
「比企谷八幡だ」
「長い名前だね!私、イエリ」
「比企谷が名字で八幡が名前だ」
「ミョージ?それ、なに?」
「家族の名前みたいなものだ」
「カゾク?それ、なぁに?」
「知らないのか?お前、育ててくれた人はいないのかよ」
「ティグリスが教えてくれた!」
「ティグリスって、あのでかい怪獣か?」
「ティグリスはこの星の守り神!私、この容器の中にいたんだけど、ティグリスが色々と教えてくれたの」
イエリが後ろにある小さなカプセルのようなものを指す。
「よくわからないけれど、カプセルの中にいた私をティグリスがみつけて、それから色々と教えてくれたんだ!」
「そうか」
あの怪獣、見た目と違って、優しいということなのだろうか。
「ヒキガヤハチマンはどうして、ここに?」
「八幡でいい。俺は、そうだな……気づいたらここにいた。元々は地球という星に住む学生だ」
「ガクセイ?」
「毎日、集団で勉強をしたり団体行動という面倒なことを強いられるところだよ」
「楽しそう!」
俺の言葉にイエリは目を輝かせる。
そういえば、ティグリスに教えられたといっていたが、他に人間はいないのだろうか?
「なぁ、イエリ」
「なに?」
「ここにお前以外の人っていないのか?」
「うーん、いるよ?いるけど、戦ってばっかり」
「戦って?」
「うん、りょうどとか、そういうものをとりあっていて、戦っているの」
「そうか」
どういう世界なのかわからないが、イエリ以外の人間と接触する時は注意した方がいいのかもしれない。
争ってばかりの野蛮人みたいなのに遭遇したら俺の身が危なくなる。
「そろそろ、寝よう?明日も早いから」
イエリは毛布みたいなものを取り出して横になる。
そのまま寝るのかと思うと小さなスペースを作ってぽんぽんと叩く。
「?」
「ほら、ハチマンも寝よう?夜は冷えるよ」
「あ、いや、俺は」
「ほら!」
腕を掴まれて毛布の中に押し込まれてしまう。
「暖かいねぇ」
小さな毛布に子供と高校生になり立ての男が二人っきり。
日本なら問題になる案件だ。
しかし。
「スゥ……スゥ……」
目の前で気持ちよさそうに寝ているイエリを前にしているとそんな考えがバカらしく思ってしまう。
それだけ、イエリが俺に心を開いてくれているからだろうか?
勘違いだと判断してそのまま眠りについた。
「まさか、早朝と同時に海へ潜ることになるなんて」
イエリは朝に漁をして食事を確保しておくらしい。
「うわぁ、カラフルな魚、食えるのか?」
「食べられるよ!おいしいんだから」
俺の横で片手に数匹のカラフルな魚を捕まえている少女がいた。
無人島でも生活できるぞ、この子。
俺は岩の上に脱いでいる服を手に取った。
「あん?」
胸ポケットから赤い何かが落ちた。
手に取るとそれは赤いメガネのようなもの。
不思議と太陽のようなポカポカした温かいものを感じる。
「これはウルトラアイ、太陽エネルギーを吸収したアイテム」
驚いた顔をして、俺は周りを見た。
頭の中にすらすらあと浮かんできた言葉に戸惑う。
何で、俺はこれを知っているのだろうか?
はじめてみた筈のものなのに。
「ハチマン~?どうしたの?」
「あぁ、いや、何でもない」
上着の胸ポケットへアイテムを仕舞う。
「何かあったの?」
「いいや、何もない」
浮かび上がった不安を消し飛ばすようにしながら俺はイエリの傍へ戻っていく。
こうした生活が数日、続けていると人間というのは慣れてしまうらしい。
イエリと一緒の毛布の中に入ることすら当たり前になっていた。
小町以外の異性とここまで触れ合う事がなかったから戸惑いもあったのだが、いつの間にか慣れていく。
慣れって怖いなぁと心から思う。
今日くらいは変な夢をみずに眠りたい。
そう考えながら俺は眠りについた。
また、夢を見ていた。
夢の中で俺は別人になっていて、昆虫の姿をした怪物や獣のような怪獣と戦っている。
ただ、ただ、流れるのは戦いの記録。
しかも、自分ではない別の人間からの視点からのものである為にまるでTVドラマをみているような気分だ。
しかも、結末は決まって同じ。
満身創痍の状態で赤い双頭の怪獣と戦って勝利する。
そこで俺の夢は終わるのだ。
一体、俺はどうしたというのだろう?
広い宇宙。
人類が住む地球以外にも多くの星系が存在し、未だ遭遇したことのない多くの知的生命体が存在する。
中に友好的な存在もいるだろう、しかし、高度な科学力で他の惑星を支配しようともくろむ者達、いわゆる“侵略者”がいた。
「文明レベルは……フン、とても低いな」
ある一隻の宇宙船が青い惑星へ近づいていた。
船の中で宇宙人はその星の文明レベルを調べて、表示された結果は彼らの文明よりもとても低いことがわかる。
自分達よりも劣る文明レベルであることに宇宙人は見下した笑いを漏らす。
「まぁ、ここならレベル上げにもってこいだろうな」
不敵な笑いを漏らしながら宇宙人の視線は机に置かれた一つのアイテムへ向けられる。
青と白の長方形のアイテム。
これから起こることを想像しながら宇宙人は笑みを浮かべながら目の前に広がる星を見下ろす。
「うん?」
いつものように海岸で漁を手伝っていた俺は奇妙な気配のようなものを感じて周りを見る。
「ハチマン、どうしたの?」
「あぁ、何でもねぇよ、多分っぅ!」
頭痛がして額を抑える。
何だ?
「大丈夫!?」
イエリが慌てた様子でこちらへやってくる。
「気分が悪いなら帰る?」
「そうだな、どちらにしても、漁は終わったし、帰る方向で」
「お?こんなところに人がいるぞ?」
森の方から武装した集団が現れる。
映画とかでみるような甲冑姿で腰に剣をぶら下げていた。
「あ、ガキかよ」
「よくみろよ。まだ幼いが育ちゃ、良い線いくんじゃねぇか」
あぁ、これはよくないパターンだ。
武装した連中は邪な目でイエリをみている。
イエリは見た目の年齢(多分だが、十歳未満?)でも美少女に分類されるだろう。
この連中がどういう考えを持っているかわからないが、少なくとも良くない事が起こりそうなことは嫌でも分かる。
「イエリ、すぐに」
「お前は邪魔だな、死ね」
え、躊躇いとかなし?
腰の剣を抜いて近付いてくる男達。
逃げようにも足が震えて動かない。
「ハチマン!」
イエリの悲鳴が後ろから聞こえる。
男が下劣な笑みを浮かべながら剣を振り下ろしてきた。
あれ?
目の前でゆっくりと振り下ろされる剣、死ぬ間際は何もかもスローモーションになると聞いたことがあるけれども、ここまで遅いものなのか?
躱すことができるぞ。
ひょいと横に避けるけれども、まだスローモーションが続いていた。
これ、殴ったら効くんじゃない?
そう考えた俺は拳を作って殴る。
喧嘩などしたことがないからへなちょこパンチだが。
「へ?」
繰り出した拳を受けた男が数メートルほど吹き飛んだ。
文字通り、吹き飛んだのだ。
「は?」
間抜けな声を漏らしたのは俺だけではなかったようだ。
吹き飛んだ仲間もぽかんとした表情で後ろを見ている。
「ぐ、ふぅ」
殴られた男の兜はどこかに吹き飛び、鼻からドバドバとおびただしい量の血が流れていた。鼻、折れていませんよね?
拳を突き出した状態で呆然としていた俺の前で他の仲間達は恐れをなしたのか、倒れている仲間を連れて森の中へ消えていく。
「えっとぉ」
「ハチマン!大丈夫!?」
呆然としていた俺の腰にイエリが抱き着いてくる。
衝撃で倒れた俺の上にのしかかるようにしてイエリが頬や鼻をぺたぺたと触ってきた。
「おい、大丈夫だって、てか、重たい、離れろって」
「心配した!ハチマンが死ぬんじゃないかって!」
「いや、俺も死ぬかなぁって思ったんだが……どうなっているんだ?」
驚きながら自分の手に触れる。
見た目は何ら変わらない、普通の手だった。
「おい、いつまで泣いているんだ?」
服の上で泣きじゃくるイエリへ問いかける。
俺の服、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってんだけど。
「だって、だって、ハチマンが死んじゃったら、死んだら……」
「死にたくねぇよ、俺だってやりたいことがあるからな」
「本当?」
涙で目を腫らしているイエリの頭を俺は撫でる。
小町にしていたように優しく撫で続けた。
泣きじゃくっていたイエリだが、落ち着いたのか俺から離れる。
「帰るか」
「うん」
歩き出そうとした俺の手をイエリは掴む。
とても小さな手、まだ、さっきのショックが抜けていないようだ。
小町にしていたように俺はイエリを抱きかかえる。
最初は驚いていたがいつものように無邪気な笑顔のイエリをみて、俺は安堵の表情を浮かべた。
「くそっ、何なんだよう!これはぁ!」
その日の夜。
森の中で八幡達を襲撃した鎧の集団達は逃げていた。
彼らは戦場から逃げ出した脱走兵で、山賊として活動しようと拠点を探して、ここまで訪れたのである。
八幡のパンチを受けて一人がダウンしたことで逃げてしまった彼らは森の中で復讐の機会を狙うため、打ち合わせをしていた。
そんな彼らを信じられないものが襲い掛かる。
「ぎゃあああああああ」
後ろから聞こえる悲鳴に男達は恐怖する。
振り返れば、闇夜から伸びる赤い舌のようなものが最後尾にいた仲間を包み込む。
ベキバキバキィ。
最後尾の仲間の骨という骨の砕ける音が木霊する。
「ひいぃぃぃぃ、何だよ、なんなんだよ!」
「知るか!走れ!」
そう言っている間に伸びてくる舌が次々と仲間達を捕食していく。
「くそう!くそう!くそぉぉぉおおおおお!」
やがて最後の一人が長い舌に包まれる。
涙、鼻水を垂らしながら腰の剣を舌へ振るうも音を立てて折れる。
悔し涙を流しながら男は全身の骨を砕かれ、そして舌の先、涎を垂らしている怪獣の口の中へ放り込まれた。
「うーん、これ、なんだろうな」
岩場で俺は胸ポケットの中から例のアイテムを取り出す。
本来なら冷たいもののはずなのに、まるで太陽へ手を向けたような温もりを感じる。
「これ、本当に何なんだろうなぁ」
疑問が浮かぶけれども答えるものはいない。
いや、想像はできるのだ。
けれども、確証がない。
「はぁ、どうするか」
「ハチマーン!」
聞こえた声に顔を上げる。
海水から顔を出して元気に手を振って来るイエリ。
手にはカラフルな魚が二匹だ。
「あれ、今日は少ないな」
「結構、もぐってみたんだけど……なんか、少なかったんだよねぇ」
「少ない?」
「うん、大きな魚でもきたのかなぁ」
首をかしげるイエリ。
俺はそろそろ気になっていたことを告げる。
「おい、そろそろ服を着なさい」
「なんで?」
不思議そうに首をかしげるイエリ。
さっきから黙っていたんだが、お前、裸なんだよ?男の前で裸をさらしているってこと理解している?俺は気にしないけれど、人によってはビーストへトランスフォームする危険性だってあるんだからね?
ため息を零しながら用意しているタオルみたいな布でイエリの頭を拭く。
嬉しそうにきゃーきゃー騒いでいるイエリを着替えさせる。
「うん!?」
その時、視界の片隅で変なものを見た気がした。
慌てて、海面をみる。
「気のせいか?」
海水の表面にでっかい目玉のようなものがあったような?
疑問を浮かべながらイエリを着替えさせる。
最初は苦戦していた白い布なども慣れれば造作もないことだった。
イエリを着替えさせた俺は家?へ戻ろうとする。
嫌な予感が体中を駆け巡る。
ゾクゾクと体が震えた。
「ハチマン、どうしたの?」
「いや、何でも……走るぞ、イエリ!」
俺はイエリを抱えて走り出す。
少し遅れて、俺達のいた場所を赤い舌のようなものが通り過ぎた。
標的を失った赤い舌は少し離れたところにあった木を引っこ抜く。
「きゃああ!」
悲鳴を上げるイエリを抱えながら俺は振り返る。
海水から音を立てて現れるのは青色?の体皮をした怪獣だ。
頭部と口らしき部分の先端に角を生やしている。
怪獣は舌で捉えた木を投げ捨てるとこちらをみた。
ボタボタと口の端から大量の涎が零れていく。
うへぇ、気持ち悪い。
俺の気持ちが伝わったのか怪獣は唸り声を上げながらこちらへ迫って来る。
「逃げるぞ!イエリ!」
「う、うん」
イエリを抱えながら俺は走り出す。
怪獣はボタボタと涎を垂らして追いかけてくる。
逃げようとするが相手は数十メートルのある怪獣。
どれだけ走っても距離が縮まっている気がしない。
怒りに染まった怪獣が長い舌を地面へ叩きつけた。
「うぉっ!?」
衝撃で俺とイエリは宙を舞う。
「あぁ、くそぉ!」
悲鳴を上げるイエリを守るようにしながら傍にある瓦礫を踏み台にして跳ぶ。
不思議と体が軽い。
まるで超人になったみたいに体が軽くて、やろうと思っていることができてしまう。
俺は一体、どうしたというのだろうか?
無事に地面へ降り立った俺はイエリを抱えて逃走をしようとするも、怪獣が手を伸ばしてくる。
「くそっ!」
イエリだけでも守ろうとした時、地面が揺れる。
雄叫びを上げながら森林の中からティグリスが姿を見せた。
「ティグリス!」
ティグリスの姿を見てイエリが喜びの声を上げる。
怪獣は現れたティグリスに驚きながらも長い舌を伸ばそうとしてきた。
ティグリスは前足で舌を地面へ叩きつける。
悲鳴を漏らす怪獣の隙をついて、ティグリスが体当たりをした。
体当たりを受けて海面へ倒れる怪獣。
ティグリスは雄叫びをあげて怪獣を睨む。
「へぇ、やるじゃん、あの怪獣」
俺とイエリがティグリスと怪獣の戦いを見ていた後ろから声が聞こえた。
振り返ると宇宙人がいた。
「何だ、お前」
「俺はゴドラ星人のレイオニクスだ」
「ゴドラ星人?レイオニクス?」
向こうの告げた言葉に困惑する俺の前でゴドラ星人は怪獣とティグリスの戦いを見ていた。
「この星の文明レベルは低いと思っていたのだが、まさか、あそこまで強い怪獣を発見できるとは思わなかった。これは良い収穫とレベルあげになりそうだ」
ゴドラ星人と名乗る存在の目的はわからないが、気になる言葉があった。
「レベルあげ?」
「その通り、俺達レイオニクスは戦えば戦うほど強くなる。怪獣のスペックというのもあるが、成長すればするほど、より強い怪獣になる……あの怪獣は強そうだなぁ」
興味深そうにティグリスを見上げるゴドラ星人。
イエリは怯えた様子で俺の服にしがみついている。
その間に怪獣とティグリスの戦いに進展があった。
ティグリスの角が怪獣によってへし折られてしまう。
悲鳴を上げるティグリスへ攻撃の手を緩めない怪獣。
「フン、見込みがあると思ったが俺のコスモリキッドの敵ではないらしい。さて、お前達はコスモリキッドの餌にでもなってもらおうか」
ゴドラ星人が右腕をこちらへ向けた。
――避けろ!
頭の中に響いた声。
俺は咄嗟に横へずれる。
一発目の光弾は回避したが二つ目が地面へ着弾して、イエリと一緒に後ろへ倒れた。
その際に胸ポケットに入れていたウルトラアイが地面へ落ちた。
「フン……ん!?」
右腕の銃口を向けながらこちらをみていたゴドラ星人は俺が落としたウルトラアイをみて、驚きの声を漏らす。
「そのアイテム、まさか、お前は!?」
信じられない表情でこちらをみてくるゴドラ星人。
ウルトラアイのことを知っている?
「何故、貴様がこんなところにいるのかは知らん、だが、我々の邪魔になることは明白だ。ここで貴様を排除させてもらう!」
「ハチマン!」
倒れている俺を守ろうとイエリが前へ出た。
「イエリ!寄せ!」
「愚かな小娘だ」
ゴドラ星人が腕の光弾を撃とうとした時、背後から眩い光が降り注ぐ。
「ぐはぁ!?」
背後から蹴りを受けて地面へ倒れるゴドラ星人。
「な、なんだぁ!?」
「ゴドラ星人、俺が相手だ」
起き上がったゴドラ星人が振り返ると、人が立っていた。
金髪で特殊な繊維で出来たスーツを纏った人。
背中に【ASUKA】と記されている。
ゴドラ星人が腕の光弾を放つも回避して、近距離の拳のぶつけあい、拳を払いのけて、蹴りをいれた。
がら空きになった胴体へとどめを刺すようにハイキックを繰り出す。
攻撃を受けたゴドラ星人は地面を転がりながら森の中へ逃げる。
「みたか!俺の超ファインプレー!」
ビシッとポーズをとる男性に俺は呆然とするしかない。
「ハチマン!大丈夫!?」
「バカ!」
気付けば俺はイエリに叫んでいた。
「お前、一歩間違えたら死んでいたんだぞ!?」
「ひう!」
「頼むから、あんな無謀なことはもうしないでくれ」
自分の無力感を覚えながら泣きそうになるイエリの頭を撫でる。
最低だ。
命を張って守ろうとしてくれたイエリを俺は叱った。
大事な命を無駄にしないでくれと叫ぶことで守られたという事実を有耶無耶にしようとしている。
「ごめん、なさい」
「助けようとしてくれて、ありがとうな……」
「いやぁ、良い場面だなぁ」
「あの……貴方は?」
この人がこなければ、イエリは最悪、命を落としていたかもしれない。
見たところ、人間のようだが?
「俺はアスカ・シン、地球人じゃあ、ウルトラマンダイナっていう方がいいかな?」
「地球人だけど、ウルトラマンダイナって、知らない」
「え、そうなの!?」
ドンと地震が起こる。
倒れそうになる俺達だが、視線を向けるとティグリスが怪獣コスモリキッドによって地面へ投げ飛ばされていた。
「まずはあっちを何とかした方がよさそうだな!本当の戦いはこれからだぜ!」
アスカという人は懐から顔を模した奇妙なアイテムを取り出すと空へ掲げる。
「ダイナァァ!」
眩い光がアスカを包み込み、大地に光の巨人が降り立つ。
赤、青、銀の三色、胸部に青く輝いているクリスタルのようなものがあるけれども、俺が夢でみた巨人の姿とどことなく雰囲気が似ていた。
あれが、ウルトラマンダイナなのだろう。
ウルトラマンダイナはティグリスへとどめを刺そうとしていたコスモリキッドへハイキックを放つ。
コスモリキッドは唸りながら長い尾をダイナへ伸ばす。
ダイナは長い尾を払いのけながらパンチを放った。
パンチを受けたコスモリキッドは悲鳴を上げる。
ウルトラマンダイナが優位だったが、背後から光弾がダイナを襲う。
「このままでは終わらんぞ!」
巨大化したゴドラ星人が腕の光弾をウルトラマンダイナに放ったのか。
二対一になりながらもダイナは戦う。
「イエリ、ここにいるんだ」
「え、ハチマンは?」
「……行ってくる」
「ハチマン!」
イエリが後ろで叫ぶ中で俺は拾っておいたウルトラアイを取り出す。
あの夢と関係があるのかわからない。
だが、このままみているだけでいられない。
自分の中の何かが訴えてくる。
――戦えと。
ウルトラアイを構えて装着する。
眩い閃光と全身を包み込む膨大なエネルギー。
全身を切り裂かれるような痛みを感じながら体が巨大化していく。
比企谷八幡だった存在が形を変えていく。
赤く、肩と胸部に銀色のプロテクター、銀の兜のような顔、そして頭頂に装着されているアイスラッガーというアイテム。
額の緑色に輝くビームランプ。
俺はウルトラマンダイナと同じくらいの巨人に変身していた。
「ウルトラセブン!」
ゴドラ星人が俺を見て驚きの声を上げる。
俺は自分の体を見る。
四十メートルくらいはある体、一歩踏み出すだけで大地が揺れていると錯覚しそうになった。
ぺたぺたと自分の体や腕に触れる。
超人。
夢の中でみていた存在に俺は変身していた。
ゴドラ星人がこちらへ光弾を放つ体制になっていることに気付いて、俺は駆け出す。
よくよく考えれば、こいつはイエリを殺そうとしていた。
その事実を思い出した俺は怒りを感じながら赤く染まった拳を振るう。
拳はゴドラ星人へ直撃して相手はのけ反る。
戦い方がわからない俺だが、ゴドラ星人の武器は腕についている武器。
それを使わせないように近距離で戦えばいい。
喧嘩なんてしたことのない俺だが、そういう知恵くらいはまわる。
「グッ!」
ゴドラ星人ばかりに意識を向けたことが原因だろう、背後から伸びてきたコスモリキッドの舌に気付かなかった。
首に巻き付いた舌はものすごい力で締め付けてくる。
ゴドラ星人から距離が開いたことで、光弾を撃たれてしまう。
「ぐぅ、ハァ!」
体を襲う痛み。
痛みに膝をついたところで背後のコスモリキッドが顔を近づけてくる。
食われる!
恐怖にかられた俺は頭部についていた武器、アイスラッガーを手に取った。
アイスラッガーをそのままコスモリキッドの首へ突き立てる。
悲鳴を上げるコスモリキッドを前にそのまま深くアイスラッガーを刺す。
首を絞めつける力から解放されたことで呼吸を整えようとしたが背後からゴドラ星人が次々と光弾を撃ってくる。
「俺を忘れるんじゃねぇ!」
ゴドラ星人にウルトラマンダイナがタックルを仕掛ける。
ウルトラマンダイナがゴドラ星人の相手をしているので俺は後ろを見た。
首からどくどくと緑色の液体を垂れ流しながらこちらをみてくるコスモリキッド。
血走った瞳がこちらをみている。
気付けば、俺は両腕をL字に構えていた。
夢の通りならワイドショットという技が撃てるはず。
俺の思った通り、腕から光線が発射される。
「っ!」
衝撃と威力に後ろへ倒れてしまうが光線はコスモリキッドへ直撃した。
コスモリキッドは大爆発を起こした。
べちゃべちゃと海へ落ちていくコスモリキッドだった肉片。
「なぁ!俺のコスモリキッドが!」
驚きを隠せない声を上げるゴドラ星人。
ゴドラ星人は拳を握り締めながら姿を消した。
敵がいなくなったことで緊張の糸が切れた俺はそのまま倒れる。
ウルトラセブンの姿から比企谷八幡の姿へ戻り、死んだように眠りについた。
小さなネタバレ。
ゴールド星人 イエリ(I-erI)
ある惑星で八幡が出会った少女。
本人は自覚がないが、別の星系の宇宙人であり、不時着した宇宙船の冷凍カプセルの中で眠りについていた。
自身が別の星系の宇宙人だと知らず、そこに住むティグリスに色々と教えてもらいながら生活している。
八幡と出会って彼のことを家族と思うようになった。
外見の見た目は十歳程度だが、実年齢は驚くことに100歳である。
ゴドラ星人
ウルトラセブンで登場した宇宙人と同種族。
レイオニクスでレベル上げの為、八幡のいる惑星へやって来た。
所持しているバトルナイザーにはコスモリキッドがいる。
些細な裏設定ですが、マックス号の生き残り、そのため、ウルトラセブンのアイテムのことを知っていた。
後にウルトラマンダイナによって倒される。
コスモリキッド
ウルトラマンタロウに登場した怪獣と同種族。
かなりの暴食で、初登場した際にに人間を三人ほど長い舌で捕まえて食べている。
どっちの作品が好き?
-
怪奇大作戦
-
ウルトラQシリーズ