やはり俺がウルトラセブンなのはまちがっている。   作:断空我

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ゴーデス編は書きあがりました。

訂正は入れていくかもしれませんが、近いうちにのせます。




第十五話:囚われの八幡

「いっつぅ……くそっ、気分が悪い」

 

 意識が覚醒すると同時に後頭部が痛みを訴えてくる。

 

「(手足を縛られているな。顔に何かで固定されている。調べることができるのは目がみえる範囲、だが、周りが真っ暗じゃなぁ)」

 

 顔をしかめながら八幡は自身の状況を確認した。

 

 体を動かそうとするが特殊な拘束具を使われているのか目だけしか動かせない。

 

 余計な情報を与えない為だろう、目の見える範囲の全てが暗闇に包まれていた。

 

「(ご丁寧にチルソナイトの素材を用いているのか、これじゃあ、セブンの透視能力も使えそうにないなぁ)」

 

 どこまでも徹底した措置。

 

 ただの誘拐犯ではないことはわかった。

 

 問題は。

 

「目が覚めたかな?」

 

 コツコツと靴音が響く。

 

 いきなり現れたかのように男が八幡の前に立っていた。

 

 黒いスーツと手袋。

 

 柔和な笑みを浮かべているがその目はとても冷たい。

 

 人形のように感情が読み取れない。

 

 不気味な男だと八幡は思った。

 

 

 そして、コイツこそが。

 

 

「その通り、私がゴーデスの使者だ。はじめまして、私はスタンレー・ハガードだ」

 

「あっさりばらすんだな」

 

「隠す必要がもうないからな」

 

 スタンレーの言葉に八幡の表情が険しくなる。

 

「大分、ゴーデスのことを調べたようだな。比企谷八幡、いや、ウルトラセブン」

 

「俺の正体についても当然のことながら知っているわけか」

 

「キミが一番、危険な存在だ。故にこうして手元に捕えておけばいい」

 

 見せびらかすようにスタンレーの手の中にあるウルトラアイをみせる。

 

 奪われたことに八幡は内心、舌打ちを零す。

 

 ウルトラアイはウルトラセブンに変身するためのアイテムであり、ウルトラセブンにとって命よりも大事な秘密だ。

 

 それを奪われてしまった時は何としても取り戻さなければならない。

 

 アナザースペースにおいて、一度、ウルトラアイを盗まれた事のある八幡は奪われないように気を付けている。

 

 ウルトラアイがなければ、八幡はウルトラセブンに変身できない。

 

「おい、一つ、聞かせろ」

 

「何かな?」

 

「俺の妹はどうした?」

 

 ウルトラアイが奪われたことはとても悔しいが、八幡が一番に心配したのは妹の小町の安否だ。

 

「もし、小町に何かあれば、俺はてめぇを許さない。傷つけてみろ……ぶっ殺すぞ?」

 

「ぶっ殺す……か、ウルトラ戦士の発言とは思えないな」

 

「千葉の兄妹を舐めるなよ?妹を傷つける奴は許さねぇからな」

 

 苦笑しながらスタンレーは置かれているパイプ椅子へ腰かける。

 

「キミはウルトラマンというよりかは我々よりの思考らしい、少し、興味が出てきたよ。どうだい?こちら側につくというのは」

 

「冗談、細胞に犯されて怪物になる未来なんて御免だね」

 

「そこまで調べていたのか、成程、意外と地球人、いや、キミ達は侮れないらしい」

 

 情報を引き出すための誘導だったことを八幡は見抜いていた。

 

 相手の反応を見るため、あえてのったのである。

 

「(しっかし、小町を利用したことは許せん。ま、今の反応で、おそらくだが、小町は捕まっていない。ペガと一緒にどっかへ避難しているのだろう……後は小町がどこへ駆け込むかってところだが、雪ノ下の方へいってくれれば、安全、かなぁ?)」

 

「しかし、それのどこがいけないのだ?」

 

「あ?」

 

 スタンレーの言葉に八幡は怪訝な声を漏らした。

 

「ゴーデス細胞に犯された者は確かに本来の姿から変異する。だが、それは進化であり、ゴーデスがもたらす祝福と考えられるのではないか?」

 

「仮に祝福だとして、進化の代償が星を滅ぼすというのは酷すぎるだろう」

 

「それは進化に至るために必要なことだと考えればいい。進化とはその姿から一段階あがることを意味する。その時に何か犠牲が起こり得るのは仕方のないことだ。地球においても、哺乳類が進化する代償として恐竜が滅びたように」

 

「極論過ぎるだろ」

 

「だが、それも一つの道だ」

 

 自らの言葉を信じて疑わないスタンレーの目をみて、八幡はため息を零す。

 

「お前みたいなタイプをよく知っているよ。力に溺れて、最終的に自分を見失う奴だ」

 

「ほう?なら、キミの推測は外れだ。私は力に溺れない。ゴーデスの為に進化するのだから」

 

 酔いしれたような表情のスタンレーを八幡は冷めた目でみる。

 

 

――いやいや、俺の見立ては当たっているよ。アンタ、ゴーデスっていう大きな力に酔っているじゃないか。

 

 

 己の推測が当たっていることを理解しながら八幡は小町の身を案じつつ、これからのことについて考えを練っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

 

 ペガと一緒に逃走した比企谷小町は助けを求めるために公衆電話を使って雪ノ下雪乃へSOSを発信。

 

 自身の携帯電話を使わなかったのは逆探知される危険性を考慮したのである。

 

「小町さんやペガが無事でよかったわ」

 

「雪ノ下さん、お兄ちゃんが」

 

「大丈夫よ。彼はしぶといから大丈夫よ。それより、公衆電話から電話してきたから驚いたわ」

 

「えへへへ、前にドラマで公衆電話なら安全みたいなことを言っていたので……」

 

「そ、そう」

 

 ドラマからの知識ということに雪ノ下は若干、口の端をひきつらせながら彼女と一緒にファミレスへ来ていた。

 

 人の多い場所なら身を隠せるだろうという判断である。

 

「さて、あの男を拉致したのは誰なのかしら?」

 

 帽子とサングラスで変装した小町と合流した雪ノ下は話を聞いて、疑問を漏らす。

 

「わかりません、小町とペガは逃げるのに必死だったから、お兄ちゃんが逃がしてくれたんだけど」

 

「……代わりに比企谷君が捕まってしまったというわけね」

 

「あの、これ……」

 

 小町はポケットから小さなピルケースを取り出す。

 

 それはウルトラセブンの頼りになる相棒、カプセル怪獣が入っているケース。

 

 力を悪用されることを考えていた八幡は小町へ預けていたのである。

 

「咄嗟のこととはいえ、そこまでやるなんて、相変わらずね」

 

「ごめん!遅くなった!」

 

 店のドアが開いて、息を切らせた由比ヶ浜がやってくる。

 

 慌ててやってきた彼女は席に座ると雪ノ下が差し出した水を一気に飲み干す。

 

「小町ちゃん、大丈夫?」

 

「由比ヶ浜さん、はい、大丈夫、です」

 

「良かったぁ!」

 

「(できれば、ペガの心配もしてほしいなぁ)」

 

 小町の影の中でペガがしくしく泣いていることに誰も気づかない。

 

「それで、ヒッキーが誘拐されたってホント?」

 

「由比ヶ浜さん、声を小さく、事実よ……この状況で誰がと考えると推測はできるけれど」

 

「え!?ホント!」

 

 驚く由比ヶ浜の姿に雪ノ下はため息を零す。

 

「由比ヶ浜さん、今度、勉強会ね」

 

「ゆきのん、ほら、その話を置いておくとして、続き、続き!」

 

 今時のギャルという見た目をしている由比ヶ浜、アナザースペースにおける冒険をして、成長をしているが勉強は苦手なのは変らない。

 

 いつもギリギリの成績を維持している。

 

 知っている雪ノ下は定期的に勉強会を開いて、彼女の手助けをしていた。

 

 ただし、スパルタ式のため、終わると由比ヶ浜はいつもヘロヘロになっている。

 

「(勉強会は必ず行うことにしましょう)おそらく犯人はゴーデスの配下、もしくは一部の可能性が高いわね」

 

「ゴーデス……それって、ヒッキーを」

 

「少なくともウルトラセブンの力を警戒しているってことはあると考えられる。だとすれば、どうやって彼を助けるか、助けようにも、彼の居場所がわからないといけないわ。小町さん、比企谷君は携帯とか、所持しているのかしら?」

 

「多分、持っているとは思います」

 

「それなら携帯の電波を探知すればいけるかもしれないわね、でも、方法が」

 

「あ、それならなんとかなるかも」

 

 由比ヶ浜の言葉に全員の視線が集まった。

 

 ポケットから彼女は携帯を取り出す。

 

「前に、ヒッキーの携帯に追跡アプリを入れたの。ほら、ヒッキーって、何かと単独行動して無茶ばかりするじゃん?だから、何かあった時に駆けつけられるようにって……あれ?」

 

 話をしていたところで由比ヶ浜は周りを見る。

 

 雪ノ下も小町も、そしてダークゾーンで話を聞いていたペガも信じられないものをみるような目を由比ヶ浜へ向けていた。

 

 不思議そうに彼女は首をかしげる。

 

「どうしたの?」

 

「え、もしかして本当にわかっていないんですか?由比ヶ浜さん」

 

「反応からして、そうみたいね……これは何と言えばいいかわからないわ」

 

「八幡、大丈夫か、心配だよ」

 

 由比ヶ浜は三人の不安を気にせずに端末のアプリを起動する。

 

 幸いにも八幡の携帯の電源は落ちていなかったのか追跡アプリはすぐに場所を表示した。

 

「あ、ここみたいだね」

 

「少し離れてはいるけれど、いけない距離ではないわね」

 

「でも、あたし達で大丈夫?一応、護身術はできるにしても、相手は男で宇宙人の可能性もあるし」

 

「仕方ないわね……頼りたくはないけれど、非常時だから」

 

 雪ノ下はため息を吐きながら携帯の電話ボタンを押す。

 

 しばらくして、相手が電話に出たことを確認して雪ノ下はすぐに言葉を紡ぐ。

 

「非常事態よ。奥底で寝転がっていないですぐに起き上がって目を覚ましなさい。そうでないと、超高温度の火球をくらわせるわよ?」

 

『物騒な女だ』

 

 電話の向こうから聞こえた低い声に雪ノ下はにこりと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?ゴーデスとやらは何をしたいんだ?」

 

「さらなる進化さ」

 

 囚われている間に情報を収集することを考えた八幡はスタンレーへ自らの疑問をぶつけることにした。

 

「ゴーデスは自らを進化させている。今よりもさらなる進化。誰も到達したことのない先さ」

 

「そのためなら、いくつもの星を滅ぼしても構わないと?」

 

「誰もが自分を大事にするだろう?他人のことを気にする奴というのはメリットがあるから、もしくは自身に余裕があるから気に掛ける。そういうものだろう?人間というのは」

 

「そういう人間もいる。だが、そうでない人間もいるぞ」

 

「しばらく、キミという人間を観察していたのだが、そういう前向きな思考ではないと思っていたんだがね?」

 

 スタンレーは不思議そうに首をかしげる。

 

 彼の目は何も映さない。

 

 違う、映すことができないほどに黒く濁っていたのだ。

 

「人の過去を調べることが前職だったんだが、比企谷八幡君、キミの過去は非常に興味深い、あれだけのことがあったのならよりねじれて犯罪に走ってもおかしくはないだろう。だが、キミは堕ちなかった。それどころか、光の側にいる。何故かな?キミは何が原因で堕ちなかったのだろうか?」

 

「そういうアンタはどうして“堕ちた”んだ?」

 

 八幡とスタンレーの視線が交差する。

 

「スタンレー・ハガード、貴方は人間だ。どうして貴方は悪魔であるゴーデスの細胞をその身に宿した?どうして、貴方は人類の敵になった?」

 

「フフッ、ハハッ」

 

 スタンレーが笑い出す。

 

 笑いながら体が痙攣を始める。

 

『ここから出たいのさ!』

 

 雰囲気が突然変わる。

 

 まるで別人のように顔から表情が抜け落ち、激しい苦悶と苛立ちに満ちた感情へ染まった。

 

『このちっぽけな体からでたい。より大きな存在になりたいのだ!』

 

 変貌は一瞬ですぐにスタンレーは笑顔を浮かべる。

 

「楽しい談笑を続けたいところだが、予定が詰まっていてね、キミにはここで消えてもらうよ」

 

 拳銃を取り出して弾丸を装填する。

 

 動作が緩慢にみえるのはじわじわと恐怖を与えるつもりなのだろう。

 

 超能力は使用できないように封じ込まれている。

 

 銃口が八幡の額へ押し付けられた。

 

「じゃあ、さようなら」

 

 スタンレーがトリガーに指をかけた瞬間。

 

 外から銃声が聞こえた。

 

「なん――」

 

 事態を理解する暇もないまま、壁の向こうから武装した男が室内に転がってきた。

 

「フン、歯応えのない相手ばかりだ」

 

 土煙が舞い上がる中からゆっくりと現れる小太りの少年。

 

 材木座義輝がメガネを外して眉間へ皺を寄せながら中に入って来る。

 

「何者かな?といっても既に死んでいるかな?」

 

 隠れていたスタンレーの部下たちが一斉に発砲する。

 

「宇宙剣豪を愚弄するのもほどほどにしてもらおうか」

 

 両断された弾丸がパラパラと地面へ落ちていく。

 

 材木座の手の中には包丁が握られている。

 

「星斬丸ではないのがとても歯がゆい」

 

 さらに眉間へ皺を寄せながら材木座ことザムシャーが歩いていく。

 

 スタンレーが拳銃を向けるが材木座の方が速い。

 

 振るわれた刃がスタンレーの右腕と左腕を切り落とす。

 

「フッ」

 

「っ!」

 

 材木座が後ろへ跳ぶ。

 

 斬られた箇所から赤いガスが噴き出す。

 

 赤いガスに全身が包まれて姿が消える。

 

「ヒッキー!」

 

「お兄ちゃん!」

 

 穴が開いたところから由比ヶ浜と小町がやってくる。

 

「えっと、これ、どうやって」

 

「ちょっと剣豪さん!早くお兄ちゃんを助けてよ!」

 

「煩い奴らだ。全く」

 

 ため息を吐きながらザムシャーは包丁で八幡の拘束を壊す。

 

「悪いな、助かった」

 

「ならば、これも貸しだな」

 

 手足を動かしながら感謝の言葉を告げる八幡。

 

 ザムシャーは鼻音を鳴らしながら回収しておいたウルトラアイを八幡へ渡す。

 

「悪いな」

 

「すまんが限界だ。帰るぞ」

 

 材木座義輝の中にいる宇宙剣豪ザムシャー。

 

 彼は材木座義輝の体を借りており、表面へ出るためには材木座本人の人格を眠らせる必要がある。

 

 材木座の意識が表に出ようとしている為にザムシャーはこの場を早々に離れた。

 

「小町、行ってくる。由比ヶ浜、小町を頼む」

 

「任せて!」

 

「お兄ちゃん!」

 

 小町が八幡をみる。

 

「いってらっしゃい!」

 

「おう」

 

 頷いた八幡は取り戻したウルトラアイを装着する。

 

 眩い閃光と共に彼はウルトラセブンへ変身した。

 

 怪獣 バランガスへその姿を変えたスタンレーと対峙するウルトラセブン。

 

 地面を蹴りぶつかりあうウルトラセブンとバランガス。

 

 何度か対峙したバランガスだが、今までと姿が異なり四足歩行から二足歩行へ、体に様々な突起物を生やしている。

 

 ぶつかりあい互いに後ろへ倒れるもすぐに起き上がったウルトラセブンがウェッジ光線を放つ。

 

 光線を受けたバランガスだが、口から赤いガスを吐き出す。

 

『スタンレー、キミにまだ人間の意識があるのなら聞くんだ!ゴーデスに抗え、戦うんだ』

 

 ガスから離れながらウルトラセブンはテレパシーでスタンレーへ呼びかける。

 

 ゴーデス細胞に犯されているスタンレーにまだ人間としての自我が残っているかもしれないと思っているのだ。

 

 しかし、バランガスは唸り声をあげてウルトラセブンへタックルした。

 

『スタンレー!』

 

『無駄だ、ウルトラセブン』

 

 聞こえてきたのはスタンレーではない。別の者の声。

 

『スタンレー・ハガードはどこにも存在しない。俺と一つになったのだ』

 

 タックルを受けて地面に倒れたウルトラセブンの顔へ赤いガスを吹きかける。

 

 ガスを浴びたウルトラセブンが苦悶の声を上げる中、バランガスは笑い声のようなものをあげながらウルトラセブンの首を絞めた。

 

 バランガスの腕を掴んで払いのけようとするがあまりの力に拘束から逃れられない。

 

 セブンの首をへし折ろうとするバランガス。

 

 首を絞められていたウルトラセブンは咄嗟にアイビームを放つ。

 

 目から撃たれた光線がバランガスの両目を貫いた。

 

 セブンの上から退きながら地面を転がるバランガス。

 

 起き上がったウルトラセブンはウルトラショットを放つ。

 

 光線がバランガスを撃ちぬいた。

 

 さらに攻撃を続けようとしたところでバランガスの体からガスが噴き出す。

 

 体の至る所から噴き出したガスに身構えるウルトラセブン。

 

 ガスでバランガスの体が包まれていく中、何者かの不気味な笑い声が夜空に響いていく。

 

 警戒しているウルトラセブンの前でガスが消えていき、対峙していたバランガスの姿はどこにもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!」

 

 ウルトラセブンから比企谷八幡の姿へ戻ると小町が嬉しそうに抱き着いてきた。

 

「小町、無事でよかった」

 

「心配したんだよ。もう!お兄ちゃんを心配する小町ってポイント高くない?」

 

「高い高い、できれば、もう少し再会を喜んでから言ってくれたらよかったなぁ」

 

「ヒッキー!無視すんなし!」

 

 ぷんぷんと怒りながら由比ヶ浜がポカポカと叩いてくる。

 

「あぁ、はいはい、感謝しているよ」

 

「扱いが雑!」

 

 怒る由比ヶ浜。

 

 八幡は小町をゆっくりと離すと真剣な表情になる。

 

「小町、悪いが兄ちゃんは行かなければならない」

 

「え?」

 

「ヒッキー?」

 

「この星を滅ぼそうとする悪魔が本格的に動き出そうとしている。私は奴を止めなければならない」

 

 突然のことに戸惑う小町。

 

 由比ヶ浜はゴーデスとの決戦のことだと察して、沈黙していた。

 

「すぐに、帰って、くるよね?」

 

「約束する」

 

「じゃあ、お兄ちゃんの大好きなご飯を用意して帰りを待っているね!」

 

 笑顔を浮かべている小町だが、その肩が僅かに震えていることを八幡は見逃さない。

 

 千葉の兄妹の絆は深い。

 

 何より癖のある八幡を今まで支えてきた妹だ。

 

 不安はあるものの兄が帰って来ると約束したのだから信じて待つ。

 

 そういう約束は絶対に破らないのが比企谷八幡である。

 

「いってくる」

 

 八幡はそういって歩き出す。

 

「大丈夫だよ!」

 

 由比ヶ浜が心配そうにみている小町の肩を叩く。

 

「ヒッキーは必ず連れて帰るから!あたしが守る……から」

 

「よろしくお願いします」

 

 ぺこりと頭を下げる小町に微笑みながら由比ヶ浜は後を追いかけていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、オーストラリアの砂漠地帯。

 

 異変はそこで起こっていた。

 

 砂漠地帯で盛り上がるように出現した火山は地中のエネルギーを全て吸収するように活動を始める。

 

 火山の中で悪魔が復活しようとしていることを知る者はごくわずかだった。

 

 

 

――悪魔の復活は近い。

 

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