やはり俺がウルトラセブンなのはまちがっている。   作:断空我

28 / 39
書きあがりました。

色々やっていて遅くなり申し訳ありません。

友達と旅行して、千葉でマッカンを飲んだり、ウルトラセブンを見直したり、色々と嫌なことがあったり、とりあえずこの話が書きあがったので投稿します。





第二十三話:明日の行方

 

「そっち、行かない方がいいよ」

 

 放課後、一色いろはが学校の廊下を歩いていると、呼び止められる。

 

 振り返ると女子生徒が立っていた。

 

 片手にスケッチブックを持っている。

 

「え?」

 

 ぽかんとする一色だが、女子生徒は行こうとしていた先を指さす。

 

「その先、スプリンクラーが壊れるから行くと濡れちゃうよ」

 

「へ?」

 

 女子生徒の言葉の意味がわからずに反応が遅れる一色。

 

 表情を変えずに一色の先にあるスプリンクラーを指さす。

 

「そのまま行ったらずぶ濡れになるよ」

 

「えっとぉ……」

 

「伝えたから」

 

 そういうと少女はスケッチブックを片手に持ったまま、反対側の通路へ去っていく。

 

 去っていく際に一枚の絵がはらりと落ちた。

 

 少女は気づかないまま、歩き去っていった。

 

 残された一色は首を傾げたまま目的地へ行こうとしたが、足元に落ちてきた一枚の絵に気付く。

 

 手に取って、絵をみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の奉仕部。

 

「東京都内にある倉庫が爆発か……原因は不明、物騒な話だな」

 

「ニュースによれば、廃倉庫ということらしいわ」

 

「へー、物騒だなぁ」

 

 新聞を見る八幡。

 

 小説を読む雪乃。

 

 ごくごくと紅茶を味わう結衣。

 

 いつものように三人でだらだらとした時間を過ごしていく。

 

 そこにやってくる者がいた。

 

「先輩!先輩!大事件です!」

 

 ガララ!とドアを乱暴に開けてやってきたのは一色いろは。

 

 一色の姿を見ると八幡は目を細めた。

 

「一色さん、入室する時はノックをしなさい。マナー違反よ」

 

「あ、ごめんなさぁい、雪ノ下先輩」

 

「よし、わかったら帰れ」

 

「酷いですよ!先輩!」

 

 頬を膨らませながら一色は隅に置かれている椅子を手に取って八幡の傍へ置く。

 

 触れ合えそうな距離に置かれたことで離れる。

 

 すぐに椅子を動かして近づく。

 

 離れる、近づく、を数分ほど繰り返して、八幡は折れた。

 

「何なんだ」

 

「照れ屋ですねぇ、先輩~」

 

「はいはい、あざとい、あざとい」

 

 からかう一色に八幡は呆れた息を吐く。

 

「あ、そうそう、いろはちゃん、何か用事があったんじゃないの?ヒッキーに」

 

「(こいつぅ、逃げようとした時に話題を戻しやがってぇ)」

 

 八幡が心の中で悪態をつく中で一色が思い出したように手を叩く。

 

「そうなんですよ!私!超能力者に出会ったんです!!」

 

「は?」

 

「ちょーのうりょくしゃ?」

 

「なぜ、そこで伸ばしたのかしら……超常現象といえるような力を操る者の事ね。例えば、手を触れずに物を動かす。人の心読み取るといったことがあるわね。超能力を題材としたSF映画が多いように、人々の関心が寄せられている分野でもある。ただ、実際に超能力者と呼ばれているものがいるけれど、本当にそうなのかどうか、はっきりとわかっていないわ」

 

 こういう時に役立つ雪ノ下辞書の説明に由比ヶ浜や一色は「へぇー」と感嘆とした声をだしている。

 

 一色はともかく、由比ヶ浜は別宇宙でサイコキノ星人に出会っているだろうに、と八幡は心の中で呟く。

 

「それで、お前のいう超能力者っていうのはなんだ?」

 

「予知能力です!」

 

 力説する一色に三人はなんともいえない表情を浮かべる。

 

 一色の話は昨日、一年生の女子からここから先へ行かない方がいいと言われた。

 

 最初は気にせずに向かおうとした一色だったが、やめたところ、数分後にスプリンクラーが誤作動を起こして廊下を水浸しにしたという。

 

 もし、一色が気にせずに歩いていたら全身ずぶ濡れになっていた所だった。

 

「それだけで、予知夢というのはどうかと思うわ。偶然という可能性もあるし」

 

 雪ノ下の言葉も尤もであり、八幡も心の内で同意した。

 

「後、これをみてください!」

 

 一色はポケットの中から一枚の絵を取り出す。

 

 絵はスケッチされたものだろう。

 

 どことなくリアリティのようなものが感じられた。

 

「これ、セブン?」

 

「そのようね、もう片方は……怪獣ね」

 

 八幡は絵を見て、一瞬、目を見開く。

 

 だが、そのことに雪乃や由比ヶ浜は気づかない。

 

「先輩?」

 

「あ、なんだ?」

 

「どうかしたんですか」

 

 一色だけは八幡の一瞬の変化に気付いた。

 

 不思議そうに尋ねてくる一色に八幡は首を振る。

 

「別に、絵が上手いなぁと思っただけだ」

 

「そうだね!」

 

「一色さん、この絵を描いた人が超能力者だというの?」

 

「多分、ですけれど、えっと、確かぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は夢を見る。

 

 都会の中で暴れる怪獣。

 

 水の中で漂うような感覚の中で少女は街が壊れる光景をみている。

 

 人々は逃げ惑い、ウルトラホークが出動して戦うも、怪獣に効果はない。

 

 一人の少年が眩い光と共に巨人、ウルトラセブンへ変身。

 

 戦いを始める。

 

 必殺技を放つ。

 

 その瞬間、怪獣の光線とぶつかり、大爆発が起こった。

 

 眩い光の中に少女は消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、か」

 

 壁にもたれて寝ていた少女は目を覚ます。

 

 額から流れる汗を拭いながらスケッチブックを開く。

 

 スケッチブックに絵を描く。

 

 描くのはウルトラセブンと怪獣。

 

 ウルトラセブンと怪獣が互いに光線を放つところを描き切る。

 

「安井さん」

 

 呼ばれて顔を上げる。

 

 クラスメイトの一人が声をかけてきた。

 

 名前は、知らない。

 

 自己紹介の時に名乗っていたかもしれないが、安井は覚えていなかった。

 

「なに?」

 

「えっと、外で呼んでいる子がいるよ?キミに用事があるって、友達じゃない」

 

「そ、ありがとう」

 

 友達なんていない。

 

 少なくともそう呼べる関係の人間は生まれてから一度もいないという自負がある。

 

 “こんなもの”さえなければ。

 

『こんな変わり者にあんな可愛い子がどんな用事なんだろう?』

 

 聞こえてきた声に安井は顔を歪めた。

 

「え、なに?」

 

「別に、どうも」

 

 気持ちの籠っていない感謝をして安井は教室の外へ出る。

 

 外に出て、待っていた人物を見て、舌打ちしそうになった。

 

 昨日の余計なお節介のツケが回って来たらしい。

 

「えっと、安井ハルカさんだよね?」

 

「そうだけど、貴方は?」

 

 誰かはわかる。

 

 しかし、そこはちゃんと口で名乗ってほしかった。

 

「私は一色いろは、同じ一年生だよ」

 

「そう、それで、一色いろはさんは私に何の用事?」

 

「昨日のお礼!あと、聞きたいことがあって」

 

「お礼ならいらない。あれは、偶然、聞きたいことに関しては私、興味ないから、これでいい?」

 

「駄目」

 

 ばっさりと拒絶しようとしたが相手も引き下がるつもりはないらしい。

 

 苛立ちを隠さずに睨んだのだが、相手は平然としている。

 

 

 どうやら意外とタフらしい。

 

 ここで話をして、余計な注目を浴び続けるのもよくはないだろう。

 

「場所を変えるからついてきて」

 

 主導権を握っておく。

 

 安井の言葉に一色は頷いて、彼女に続いた。

 

 やってきた場所は人気の少ない部室棟。

 

 昼休み時間帯ならば、余計な騒動も起きないだろう。

 

「それで、脅迫でもするの?」

 

「え?」

 

 先手を取ったのは安井だ。

 

 警戒するように一色へ尋ねる。

 

「何のこと?」

 

「惚けないでよ。考えていることなんてわかるんだから」

 

「あ、本当に超能力者なんだ!」

 

 驚いたような表情を浮かべる一色。

 

 心を読んでいた安井はため息を吐いた。

 

「そうやって、素直に認めたの、貴方がはじめてかな?大体は、何かトリックがあるんじゃないかと疑うから」

 

「多分、少し前なら疑ったかもしれないですね」

 

「そう、宇宙人に誘拐されて、不思議なことがあると思うようになったわけだ」

 

「凄い!」

 

「話は終わり?帰るよ」

 

「あ、待って!言いたいことがあるの」

 

 目を見開いて笑顔を浮かべる一色。

 

 だが、それもここまでだ。

 

 次からいよいよ、来るぞ。

 

 これから来る言葉に内心、身構える。

 

「昨日はスプリンクラーのこと、教えてくれてありがとう!」

 

「え?」

 

 驚いたように目を瞬く安井。

 

「何で」

 

「だって、安井さんが教えてくれなかったら私、ずぶ濡れになっていたんだよ?流石にずぶ濡れで帰るって最悪だもん!」

 

「まぁ、そうだけど」

 

「だから、ありがとうって感謝の気持ちを伝えるのは当然でしょ?」

 

「そうだけど……え、本当にそれだけ?」

 

「うん」

 

 笑みを浮かべた一色の心を咄嗟に読み込むがウソの類はない。

 

 本当にその気持ちだけ?何か利用しようとしているのではないか?

 

 疑いの目を向けられていることに気付いたのだろう。

 

「えっと、本当はその、色々と助けてもらえたら嬉しいなぁって思ったのですが、先輩に怒られちゃって」

 

「先輩?」

 

 ここで、安井の頭の中にあるイメージが浮かぶ。

 

 一色いろはが安井ハルカの超能力を羨ましいと呟いていたところで空き教室らしき場所で話している他の三人の人間が映った。

 

「二年の先輩!超能力を隠しているのは理由があるはずだから、自分勝手な都合で振り回すのやめろって、釘を刺されちゃいました」

 

「そう」

 

 どちらにしろ、誰かに言われなければ、自分の都合の良い風に利用を考えたわけだ。

 

 ならば、あまり深入りしない方がいいだろう。

 

 何の切欠で企みを起こすかわかったものではない。

 

 距離を取ろうと考えていた時。

 

「あ、危ない!」

 

 一色が手を伸ばして安井を引き寄せる。

 

 驚いてバランスを崩しながら居た場所から離れた安井。

 

 直後、椅子が落ちてきた。

 

 落下の衝撃で形が歪んだ椅子。

 

「だ、大丈夫?安井さん」

 

「えぇ」

 

 安井は上をみる。

 

 一瞬、こちらをみていた黒い影と目が合う。

 

 脳裏に人ではない存在の姿が映る。

 

「宇宙人……」

 

「え?」

 

 その呟きは偶然にも一色の耳へ届いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こりゃ、酷いな」

 

 都内の工場。

 

 原因不明の爆発を起こしたとして周囲は防衛軍の手によって封鎖されており、誰も立ち入ることができない。

 

 その施設内にウルトラ警備隊がいた。

 

 彼らは破壊されて工場として見る影もない施設を調査している。

 

「東郷隊員、どう?」

 

「駄目だな、火薬の反応がない。地球外の物質による襲撃だ」

 

 調査器具を手にしている東郷が首を振る。

 

「設置されているカメラは何者の姿も映していない。敵はどうやって攻撃を」

 

「……それもそうだが、問題はこの場所を防衛軍の秘密施設であることを知っての襲撃かどうかってことも問題だな」

 

 渋川の言葉に全員が同意する。

 

 破壊された工場。

 

 ここは地球防衛軍の秘密施設の一つである。

 

 侵略者がいつ、どのような攻撃を仕掛けてくるか、そういった対策の為に日本の各地にこういった秘密施設が存在していた。

 

 そして、この施設は過去に星人が引き連れてきた怪獣等の研究を目的とした施設である。

 

「滅茶苦茶に施設が破壊されているために、保管されていたデータのほとんどが消失しているらしい」

 

 やってきた梶が端末を片手にやってきた。

 

 瓦礫の残骸を調べていたユキが立ち上がる。

 

「この事件、シャドー星人の仕業じゃないだろうか?」

 

「シャドー星人?」

 

「そういや、過去のデータベースでみたことがあるなぁ、姿を隠す力を持っていて、その力で防衛軍の秘密倉庫を破壊した星人だ」

 

「今回もその、シャドー星人の仕業だって、ユキ隊員は考えるの?」

 

「あくまで類似性による話だが、過去も秘匿されていた秘密施設を連中は突き止めて爆破した……」

 

「否定はできないな。それも視野に入れて調査すべきだろう」

 

 渋川の言葉に全員が頷いた。

 

「そういえば、この施設って何の研究をしていたのかな?」

 

「極秘だってさ。上層部が独自に何かを調査していたらしいが、今回の事件でデータのすべてがおじゃんってわけさ」

 

 リサの言葉に東郷が話す。

 

「極秘、か」

 

 ぽつりとユキが漏らした言葉は誰も気づかなかった。

 

 地球防衛軍の地下に広がる一室。

 

 真鍋参謀の部屋で古橋隊長はある録音を聞いていた。

 

『今日の十時、〇〇工場が爆破されるよ』

 

『爆破?キミ、それはどういうことだい?』

 

『伝えたからね、どうなっても後は知らないから』

 

『キミ!おい!キミ!』

 

 真鍋参謀は録音のスイッチを切る。

 

「倉庫が破壊される三十分前にこの通報が防衛軍に届いていた」

 

「参謀、これは」

 

「そう、これと似たような話を我々は過去に体験している」

 

「ですが、安井君は予知能力を失っています。それにこれは……」

 

「女の子の声だ。計算機によれば、年齢は十代後半くらいだろうと推測されている。通報が送られてきた場所も特定できたが、残念なことに監視カメラの類がなくみつけられはしなかった」

 

「参謀は安井君のような超能力者の可能性を考えているのですか?」

 

「前例がある以上、否定はできない。何より星人の動きを我々は把握することができていなかった以上、この声の主しか、我々は手がかりがない」

 

 真鍋参謀の言葉に古橋は否定することができない。

 

「そこで、ウルトラ警備隊は倉庫の調査と共にこの声の主の行方を追ってもらう」

 

「わかりました」

 

 古橋は頷いて参謀室を後にする。

 

 部屋の中で真鍋参謀は小さく声を漏らす。

 

「キリヤマ君がいれば、またこういうだろうな。明日を探すと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 安井ハルカは一色いろはと共に事情を聴かれた。

 

 しかし、いきなり椅子が落ちてきたことを伝えても教師たちは信じられないという表情をするだけだ。

 

 実際、事件の後に屋上へ向かったが、誰もいなかったらしい。

 

 自作自演ではないかと彼らは疑っているのだ。

 

 何も言わない自分と比べて一色が真剣に訴えたことで一応、解放はされる。

 

「ありがとう」

 

「え?」

 

「貴方のおかげで解放されたから」

 

「別に、だって、本当のことだったし」

 

 感謝の言葉を告げると一色は笑みを浮かべる。

 

 男受けしそうな笑みだ。

 

 同性は嫌悪してしまいそう。

 

 通学路、偶然にも同じ方向だったので二人は歩いていた。

 

「でも、あの椅子、何だったんだろう」

 

「知らない」

 

――ウソだ。

 

 本当は知っている。

 

 あれは自分を狙ったもので、一色いろはは巻き込まれただけに過ぎない。

 

 遠ざけるつもりで悪い態度をとっているのに、離れない。

 

「はぁ」

 

「どうしたの?」

 

「貴方、何で普通に私と接するの?怖くないの?」

 

「怖い?どうして」

 

「普通の人にはない力があるんだよ。そんなの、恐れるでしょ」

 

「そうかな?私は嬉しいけどなぁ」

 

 一色の言葉に安井は目を丸くした。

 

「だって、他人にないってことは自慢できることでしょ?私はそういうのがあるって誇れると思う」

 

「……それは」

 

――持っていないから言えることだ。

 

 冷たくあしらおうと思えば、この言葉を投げればいい。

 

 しかし、安井ハルカという少女は不思議と二の句がでなかった。

 

 戸惑っていた安井へ迫って来る一台の車。

 

「危ない!」

 

 慌てて隅へ寄る二人。

 

 猛スピードで去っていく車は路上に転がっていた空缶をすりつぶすようにして消えた。

 

「この!危ないじゃないかぁ!」

 

 一色が車の方へ叫ぶ中。

 

 安井は腕を抱きしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜から安井の身の回りで異変が起こった。

 

 異変といっても、物が宙に浮かんだり、ケタケタ笑う桃色の猿のような怪物が現れたとかそういう話ではない。

 

 視線を感じる。

 

 それも、一つや二つではない。

 

 数多くの視線が自分へ向けられている。

 

 だけど、周りに人影はない。

 

 こちらをみている気配だけが感じていた。

 

 そして、正体を彼女は知っている。

 

「(侵略者が私を見張っている)」

 

 侵略者たちは過去に予知能力を持つ人間によって計画が失敗したらしい。

 

 そのために似たような人間によって再び計画が邪魔されないように監視をしている。

 

 考えを読める安井はウルトラ警備隊へ通報することも考えたけれど、信じてもらえないとやめた。

 

 例の倉庫襲撃も事前に伝えていたというのに対策がされていない。

 

 つまるところ、悪戯と判断されてしまったのである。

 

 故に自分が助けを求めたところで門前払いされてしまうのだ。

 

 そのためにできることは。

 

「仕方ない、か」

 

 明日から早速、行動に移そう。

 

「あの人なら知っているかな?奉仕部って噂のこと」

 

 そんな期待を抱きながら安井は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後。

 

 安井は一色いろはを呼び止める。

 

「一色さん」

 

「あれ、安井さん?どうしたの」

 

「実は」

 

「どうしたんだい?」

 

 話を切り出そうとしタイミングで嫌な奴がきた。

 

 安井が振り返ると葉山隼人がやってくる。

 

 部活の途中なのだろう、スポーツウェアを着ていた。

 

「葉山先輩!あれ、部活中じゃ?」

 

「休憩時間なんだ。その間に飲み物を買ってこようとね、そっちは」

 

「行こう」

 

「え、あ、また後で!」

 

 一色の腕を引きながら安井ハルカはその場から離れる。

 

 はっきりって安井は葉山隼人が嫌いだ。

 

 彼の心の中を偶然にも読み込んで酷く嫌悪の感情を抱いた。

 

 あの男は自分で何かを切り開くことはしない。

 

 ほとんどが現状維持、もしくは場の流れに任せているばかり。

 

 正直言って、この話を彼に聞かれることは避けたかった。

 

 だから、見落としていたのだろう。

 

 彼の心を読まなかったからこそ、本人かどうか見抜けなかった。

 

 ニヤリと不気味な笑顔を浮かべている葉山隼人の姿に安井は気づけなかったのだ。

 

 手を引かれて廊下を歩く一色はおそるおそる、尋ねた。

 

「えっと、安井さんは葉山先輩と何かあった?」

 

「別に、ただ、嫌いなだけ」

 

 ぽつりと呟きながら安井は立ち止まる。

 

「話がずれたけれど、一色さん、奉仕部の部室ってどこにあるか知っている?」

 

「奉仕部?え、何で」

 

「相談したいことがあるの……奉仕部の人に」

 

「えっと、どんな」

 

「それは困るな」

 

 聞こえた声に安井は振り返る。

 

 そこにいたのは、葉山隼人。

 

 しかし、葉山隼人の表情は今まで一色いろはがみたことのない邪悪な表情を浮かべている。

 

「違う、葉山隼人じゃない」

 

 安井は自身の超能力で相手が葉山隼人ではないことを見抜く。

 

 目の前にいるのは。

 

「シャドー星人」

 

「あぁ、やはり見抜かれてしまうか」

 

 葉山隼人は笑みを浮かべながら手で顔を隠す。

 

 手を退けた時、彼の顔はシャドー星人の顔である金色で白い瞳の姿へ変わっている。

 

「安井の血というものは恐ろしいものだ。どこまでも我々の計画を読み取るか」

 

 カツカツと近づいてくるシャドー星人。

 

 一色は悲鳴を上げるけれど、誰かがやってくる気配がない。

 

「無駄だ、このあたりは誰もやってこられないように特殊フィールドに包んである。普通の人間が気付くことはない」

 

 シャドー星人は懐から光線銃を取り出す。

 

 光線銃を突きつけられて怯える一色。

 

 安井は平然としている。

 

「なぜ、怯えない?」

 

 彼女の様子が気になったのだろう。

 

 シャドー星人が疑問の声をぶつける。

 

 その時になって一色もようやく安井が平然としていることに気付いた。

 

 なぜ?

 

 その疑問をぶつけようとした瞬間。

 

 空気の塊がシャドー星人に直撃する。

 

 事態を理解する暇もないまま体を壁に打ち付けて、光線銃を地面へ落としてしまう。

 

「そこまでよ」

 

 落とした光線銃を拾い上げて雪ノ下雪乃がシャドー星人へ向ける。

 

「一色、大丈夫か?」

 

「先輩ぃぃぃぃぃ!」

 

 いつの間にか一色いろはの傍に比企谷八幡が来ていた。

 

 彼の登場に破顔して、喜びを表す一色いろは。

 

 シャドー星人は自らが不利であることを察すると窓を壊して外に飛び出していく。

 

「逃げたわね」

 

「追いかけない方がいい。おそらく仲間がいるはずだ」

 

「そのようね」

 

 雪ノ下は持っていた光線銃をそのまま懐へ仕舞う。

 

 これは昨日、“みた”光景だ。

 

 だが、次の言葉は流石に予想外だった。

 

「安井与太郎さんの孫娘の安井ハルカさんだな?」

 

 比企谷八幡から告げられた言葉に安井ハルカは目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奉仕部の部室。

 

 残りの部員、由比ヶ浜結衣が出迎える。

 

 椅子を用意されて一色と安井は座った。

 

 雪ノ下が紅茶を入れて二人へ差し出す。

 

「リラックスできるわよ?」

 

「ありがとうございます!」

 

「どーも」

 

 感謝する一色、

 

 安井は短く会釈して紅茶を飲む。

 

 紅茶を飲んで安井は目を見開く。

 

「おいしい」

 

「超能力で紅茶を飲むことは予知できても、味は予知できないでしょう?」

 

 雪ノ下の言葉に安井は目を見開く。

 

「どうして……」

 

「前に超能力で人の心や未来がわかる人と出会ったことがあるのよ」

 

 驚く安井へ雪ノ下が優しく話す。

 

「(人ではなくて、宇宙人だけれど)」

 

 安井が心を読もうとしていたが、雪ノ下の考えていることはわからなかった。

 

「いやぁ、先輩達が来てくれて助かりました!あ、でもでも、これで惚れるとかは絶対ないので勘違いしないでくださいね。吊り橋効果みたいなことで堕ちるほど、私は軽い女ではないのでごめんなさい」

 

「感謝されて告白していないのにふられるって、どういうことだよ」

 

 興奮が冷めきっていない中で一色が感謝して、それから振ってくることに八幡はぽつりと言葉を漏らしながら机に置かれているマックスコーヒーを飲む。

 

 安井ハルカから向けられる視線に八幡は気づく。

 

「(きっと、すぐに聞きたいんだろうなぁ……安井与太郎さんのこと)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――安井与太郎。

 

 その名前は俺と融合しているウルトラセブン、モロボシ・ダンがM78ワールドのウルトラ警備隊に属していた時の事件に出会った人物だ。

 

 彼は超能力を有しており、侵略者の計画をことごとく当てた。

 

 しかし、それは未来の話で、当時のウルトラ警備隊は腫れものを扱うような対応をしていた。唯一、キリヤマ隊長だけが彼を気にかけてはいたのだ。

 

 

――明日を捜せ。

 

 

 明日を捜せばいい。

 

 その言葉を信じて、キリヤマ隊長は街へ繰り出した。

 

 おそらく目の前の安井ハルカという少女は安井与太郎の親族、もしくは関係者だろう。

 

 彼が最後に失った超能力をどうして、彼女が発揮したのかわからない。

 

 だが、その能力をシャドー星人は警戒して、手を出してきたのはわかる。

 

 もしかしたら、彼女は俺達のことをなんとなく予知できているかもしれない。

 

「何で」

 

 安井ハルカは紅茶の入った紙コップを机へ置いて尋ねる。

 

「どうして、私を助けてくれたんですか?こんな怪物」

 

「怪物なんて」

 

「自分を卑下することないわ」

 

「そうだよ!」

 

 雪ノ下と由比ヶ浜の言葉は安井へ届かない。

 

「それは、貴方達が正当な評価を受けているからじゃないですか?雪ノ下先輩、由比ヶ浜先輩」

 

 それから安井は俺をみてくる。

 

「比企谷先輩はどうなんですか?いや、こういえばいいですか……赤い巨人、ウルトラセブン」

 

 成程。

 

「気付いているわけか」

 

「驚かないんですね」

 

「まぁ」

 

 態度を見ていれば、なんとなく予想できる。

 

「じゃあ、私の能力も本物だって」

 

「信じる」

 

 言い切ると安井は驚いた表情からすぐに冷めた表情になった。

 

「流石は宇宙人ってところですか」

 

「そんなんじゃねぇよ。第一、宇宙人だからって、万能ってわけじゃないぞ」

 

 彼女はどう思っているかわからないが宇宙人だからって神様のように万能というわけでも、ましてや全知全能というわけでもないのだ。

 

 彼らの技術がただ地球人よりも上だったというわけで、その技術が地球人からみれば神がかっているようにみえているだけに過ぎない。

 

 最も、彼らからすれば自分達よりも下の筈の人類に計画を次々と看破されていれば、警戒されるのは当然だろう。

 

 あと、宇宙人と融合しているが俺は地球人だ。

 

「だから、シャドー星人はアンタを狙った」

 

「こんな能力に恐怖しているなんて、随分と慎重な宇宙人だね」

 

「それほど、キミの力が強いということだ」

 

「どうかな?こんな根拠も何もない力をおそれるなんてどうかしている。人と変わらないじゃない」

 

「何を言っているんだ?宇宙人だって、地球人と変わらない。何より地球人も他の惑星に住む者達からすれば宇宙人と言われても仕方ない。誰もが同じようなものなんだよ」

 

「屁理屈だね」

 

 安井は俺を睨む。

 

「先輩は知らないから言えるんだ。こんな欲しくもない、望んでもいない力なんかあって辛いか、苦しいか……アンタは英雄扱いだから!」

 

 そういう風に俺のことを見ているわけか。

 

 こりゃ、俺の言葉が通じるかどうかわからないなぁ。

 

「もし、私が他と変わらないというのなら、明日、街中に怪獣が現れる。その怪獣を貴方がちゃんと倒したら信じてあげる……どうせ無理だと思うけど」

 

 試すような言葉を残して安井は出ていく。

 

「あ、安井さん、えっと、先輩、その」

 

「一色」

 

 俺は一色へ尋ねる。

 

「お前はどう思っているんだ?あの子の超能力」

 

「よくわからないです。まー、私からすれば便利だろうなぁと思いますけど。先輩達の姿を見ていると、それだけじゃないんだろうなぁと」

 

 流石、一色。

 

 一度、宇宙人の事件に巻き込まれているから色々と考える視野が広がっているようだ。

 

 俺達と比べるとまだまだだけどな。

 

「それだけ気付いているなら、後は一色がどうしたいかだな」

 

「私が?」

 

「一色さん、貴方は安井さんとどうありたいの?ただ同じ学年の生徒?それとも、彼女の能力を恐れず寄り添ってあげられる友達かしら」

 

 横から試すように雪ノ下が問いかける。

 

「私……」

 

「決められるのはいろはちゃんだけだよ?」

 

 踏ん切りがつかないのか、悩んでいる一色へ由比ヶ浜が優しく後押しする。

 

 考える様に目を閉じる事、数分。

 

 目を開けた時の一色の決意は固まっていた。

 

「いってきます!」

 

 奉仕部の部室を出ていく一色。

 

「お節介だな」

 

「それは貴方もでしょう?」

 

「ヒッキーが一番、お節介だよ」

 

 からかわれるように二人へ言われて俺は無言でマッカンを飲む。

 

 その日、安井と一色が戻ってくることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行方不明だって?」

 

 古橋が私服で街に繰り出して安井与太郎の孫娘、安井ハルカについての除法を発見した時、彼女は行方不明という事で警察に通報が届いていることをリサ隊員から告げられる。

 

 通報者は同じ学校に通う女子高生で「宇宙人に誘拐された」という内容だったのだが、

悪戯と判断されてしまったらしい。

 

 その通報者の少女の行方不明になり、親が警察へ連絡したことで発覚する。

 

「警戒態勢でホークの発進準備を進めてくれ!俺もすぐに本部へ戻る」

 

『り、了解です』

 

「星人の攻撃が始まるぞ」

 

 古橋は車に乗り込んで極東基地へ戻るためのシークレットハイウェイを目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、古橋の予想していた通り、街中に怪獣が出現した。

 

 現れたのはかつてシャドー星人が操っていた猛毒怪獣 ガブラではなく、青い体皮、鋭い爪を持つガブラとは異なる怪獣だった。

 

 その姿はシャチや甲殻類などの水生生物が融合したような姿をしている。

 

 背中には魚の鱗のようなもの形状の翼があり、水生生物だった生物に手を加えた可能性が考えられた。

 

 怪獣出現を察知した地球防衛軍極東基地からウルトラホーク1号が発進する。

 

 ウルトラホーク1号はミサイルや光線で怪獣へ攻撃を仕掛けていた。

 

 攻撃を受けながらも怪獣は都市の破壊を止めない。

 

 地上ではシークレットハイウェイを通ってポインターが現場へ先行していた。

 

 ポインターから降りた東郷とリサの二人はかつてシャドー星人を探索するために使われた放射線透視装置の改良型を使ってシャドー星人の円盤を探していた。

 

 何の前触れもなく怪獣が出現することはありえない。

 

 近くに姿を消した円盤が存在しているはず。

 

「発見したぞ」

 

「円盤ですか?」

 

「あぁ!」

 

 東郷の持つ放射線透視装置は当時の機材よりも改良を重ねていたことからシャドー星人の円盤を発見することは問題なかった。

 

 円盤は街のはずれに着陸していた。

 

 ポインターを離れたところへ停車させて、二人は円盤へ近づいていく。

 

 円盤に安井ハルカが囚われている可能性があり、救出するためである。

 

 怪獣の操作で人員を割けないのか、円盤の周囲にシャドー星人の姿がなかった。

 

 東郷からの連絡を受けて増援としてユキと渋川の二人と合流する。

 

 ウルトラガンをホルダーから抜いて殺傷モードの確認をして円盤へ侵入した。

 

 円盤内には当然というべきかシャドー星人達がおりウルトラ警備隊を発見すると光線銃で攻撃してくる。

 

 光線を回避しながら渋川やユキが東郷とリサの二人を支援するようにウルトラガンで応戦していく。

 

 リサは一人のシャドー星人の腕を掴むとそのまま投げ飛ばす。

 

 頭から地面へ崩れ落ちたシャドー星人の体が消滅する。

 

 東郷は振るわれる拳を躱しながら腹部に一撃を入れた。

 

 倒れたシャドー星人がしがみつこうとしてくるのを避けて顔を蹴り飛ばして気絶させる。

 

 奥に近づいた時、少女の悲鳴が聞こえた。

 

 動きを止めて、ゆっくりと入口の方へユキが向かう。

 

 ユキの後に続いて渋川が反対側に立つ。

 

 中の様子を伺うと、薄暗い室内の中央、鉄の椅子のようなものに拘束されて何かの装置を頭に着けられている少女の姿がある。

 

 少女の様子を伺っているシャドー星人達の姿があった。

 

 ユキが懐から催涙ガスが詰まった容器を取り出す。

 

 渋川が頷いて「カウント3で突入」とハンドサインで後ろの東郷とリサに指示を伝える。

 

 二人が頷いたことを確認してリサが容器を投げた。

 

「突入!」

 

 室内に充満する催涙ガスがシャドー星人に効果があるのかわからない。

 

 だが、相手の気を逸らすことは成功しており、突入してきたウルトラ警備隊の対応が遅れて瞬く間に制圧される。

 

「キミ!大丈夫か!」

 

 装置を外して呼吸の荒い少女へ問いかける。

 

 せき込みながら少女が頷いたことを確認して、リサが尋ねた。

 

「貴方は安井ハルカさん?」

 

「ち、違います!安井さんはか、怪獣の中に」

 

「何だってぇ!?」

 

「貴方の名前は?」

 

「い、一色いろはです」

 

 囚われていた一色いろはの言葉に渋川が驚きの声を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見たことのない怪獣だな」

 

 その頃、暴れているゼガンの様子を比企谷八幡はみていた。

 

 八幡と融合しているウルトラセブンの記憶では全身が金色で猛毒を持った怪獣と戦っている。

 

 同じタイプを連れてきたと思っていたのだが、どうやら今回は異なる侵略兵器を用意したと考えるべきだろう。

 

「さて、約束をしたからな」

 

 安井ハルカがみた未来というものがどういうものかわからない。

 

 しかし、地球を守るためにウルトラセブンは戦わないといけないのだ。

 

 八幡はポケットからウルトラアイを取り出す。

 

「デュワ!」

 

 ウルトラアイを装着。

 

 眩い閃光と共に登場するウルトラセブン。

 

 対峙するゼガンはハサミを構えてセブンを睨む。

 

 駆け出すウルトラセブンへゼガンはハサミから赤い稲妻状の光線を撃ってくる。

 

 地面を転がるように回転しながらセブンは光線を回避してゼガンの懐へ入り込み、拳を叩き込む。

 

 痛みを感じるのか悲鳴のような叫びを上げながらゼガンがハサミを繰り出してきた。

 

 ハサミを躱して、下がるウルトラセブンをゼガンが追いかけてくる。

 

 振るわれるハサミを躱しながらパンチやキックでゼガンを攻めていく。

 

 その光景をウルトラホーク1号の中で梶と古橋はみていた。

 

「セブンが優位みたいですね」

 

「どうも、妙だ」

 

「え?」

 

 シートに座りながら古橋はウルトラセブンとゼガンの戦いを見ていた。

 

「何が妙なんです?」

 

「敵の動きだ。連中は前に痛い目をみている。だというのに、それらしい対策が全く見られない。それどころか前と同じといってもいい」

 

「何か、裏があると?」

 

 梶の疑問に古橋は沈黙で肯定する。

 

『大変です!隊長!』

 

 ウルトラホーク1号に設置されている通信機から渋川の焦った声が響く。

 

『保護した少女からの情報で怪獣の中に安井ハルカちゃんが囚われている模様!』

 

「なんだとぉ!?」

 

「も、もし、ウルトラセブンが怪獣を倒すために光線を撃ったら……囚われている少女が!」

 

 渋川からの報告に梶達が驚きを隠せていない中、ゼガンと対峙しているウルトラセブンが光線を放つ体勢に入っていた。

 

 

 ゼガンの胸部にエネルギーが集まっていく。

 

 相手が必殺の光線を放つ体勢であることに気付いたウルトラセブンも静かに構えを取る。

 

 ウルトラ警備隊に保護された一色が円盤の外へでると今まさにウルトラセブンが光線を撃つ体勢に入っていた。

 

「ダメ!」

 

 リサに支えられていた一色がウルトラセブンへ叫ぶ。

 

――先輩。

 

「撃たない、で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼガンの胸部の水晶、その中に安井ハルカはいた。

 

 ゆらゆらと景色が揺れているような感覚の中で、彼女は夢に見たとおりに流れる光景に諦めの表情を浮かべている。

 

 このままいけば、ゼガンの光線とウルトラセブンの光線がぶつかってこの都市は消滅する。

 

 そう、全て、安井ハルカが予知夢としてみてきた通り。

 

 ゼガンが光線を放つ体勢になっている。

 

 ウルトラセブンも光線を撃って全てが終わる。

 

 そう、全て。

 

 安井ハルカの命もここで燃え尽きるのだ。

 

 これで、みたくもないものを見ないで済む。

 

 終わると思っていた時、ウルトラセブンが信じられない行動をとった。

 

 光線を撃たずにゼガンの間合いへ入り込むと同時にエネルギーが集まっている光線を突破して、安井ハルカが閉じ込められている水晶を掴んだ。

 

 無理矢理、ゼガンから引きはがしたウルトラセブンへハサミを振り上げようとする。

 

 頭頂のアイスラッガーをウルトラセブンは掴んで振り抜く。

 

 ゼガンの首をアイスラッガーが切り裂いた。

 

 悲鳴を上げるゼガンは執念のように水晶を取り戻そうとする。

 

 ウルトラセブンは片手に水晶を握り締めたまま、アイスラッガーをゼガンへ深く突き立てた。

 

 断末魔と鮮血をまき散らしながらゼガンは後ろへ大きな音を立てて倒れる。

 

 ウルトラセブンはアイスラッガーを戻しながら手の中の水晶をみた。

 

 

――なんで。

 

 

 意識が朦朧としている中で戸惑う安井ハルカ。

 

 そんな彼女の脳裏に優しそうな男の声が響く。

 

『明日を諦めないでくれ、私はキミの明日を掴んだ』

 

 その声の主がウルトラセブンであると安井ハルカは理解するのにさほどの時間を要しなかった。

 

 

――どうして?

 

 

 疑問の言葉がぐるぐると頭の中で沸き上がっていく。

 

『キミの祖父が明日を求めたように、明日を見つけてほしい』

 

 温もりに包まれているからか段々と意識が薄れていた。

 

 視界が段々と閉じていく中で安井ハルカは真っ直ぐに見つめているウルトラセブンをみる。

 

 不思議と、今まで感じていたドロドロしていた感情が洗い流されていくような気分だ。

 

 

――あぁ、もしかしたら。

 

 

 ふと、安井ハルカは昔を思い出す。

 

 超能力で悩んでいた自分に優しそうな笑顔を浮かべて祖父が話した言葉。

 

「明日をさがしなさい」

 

 

――そういうこと、なのかなぁ?

 

 

 優しかった祖父の顔を思い出しながら安井ハルカは意識を手放す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷、先輩」

 

 翌日、俺はいつものように奉仕部の部室に向かっていた時に後ろから声をかけられる。

 

 振り返ると安井が立っていた。

 

「安井か」

 

「はい」

 

 昨日のつんけんとした態度はどこにいったのか、目の前の少女はどこか大人しい。

 

「一つ、聞きたいことがあって」

 

「なんだ?」

 

「どうして、撃たなかったの?」

 

 質問は昨日の怪獣との戦いのことを言っているのだろう。

 

「私はみた。光線同士がぶつかって街が消滅するところを……でも、貴方は撃たなかった。どうして?」

 

 まぁ、この質問はくるだろうと思っていたし、丁度いいのかもしれないなぁ。

 

「答えは簡単だ。お前と似たようなことをしようとした奴がいたんだよ」

 

「私、と?」

 

 ギャラクシークライシスで超能力を持つ宇宙人と出会い、その宇宙人は最悪の未来をみて、その通りに行動した。

 

 その時の出来事を俺は覚えていただけ、

 

 覚えていただけなんだ。

 

「お前とあの宇宙人は同じ目をしていた。未来は変わらない、決して変えることはできないって諦めた目だ。怪獣の中にいたお前の目を察して、撃たなかった。それだけだ」

 

 十分か?

 

 目で問いかけると安井は頷いた。

 

「ありがとう」

 

「お礼を言われるようなことはしていないぞ?」

 

 俺がやったのは侵略者と戦っただけ。

 

 いつものことをしただけだ。

 

 まぁ、あの人は何か話していたようだけれど。

 

「ううん、貴方のおかげで、私は変われるかもって、思えたから、その感謝……」

 

 微笑みながら安井ハルカは手を振って去っていく。

 

 残された俺はぽつりと呟く。

 

「どこまでもお節介な宇宙人だな、アンタは」

 

 聞こえることはないだろうけれど、俺の中にいる宇宙人へ呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫、きっとあの人達なら」

 

 八幡と別れた後、安井ハルカは少しの不安を感じながらも廊下を歩いていた。

 

「安井さん!」

 

「一色さん、もう大丈夫なんだ」

 

「まぁねぇ~、ウルトラ警備隊に助けてもらうって貴重な体験でもできたしぃ、自慢になるかも」

 

「なるだろうけれど、変な噂がでるかもよ?」

 

「あ、そっかぁ、残念~」

 

 あの事件の後、一色いろはと安井ハルカは友人のような関係を築いている。

 

 果たして友人かと言われると答えるのが難しい距離感。

 

 だが、今はそれでいい。

 

 自身が持つ、この能力とちゃんと向き合えるようになってから、関係に決着をつけよう。

 

「(きっと、彼らなら大丈夫)」

 

 最後にみえた映像。

 

 あれがどういうことを意味しているのか、安井ハルカはわからない。

 

 だが、彼らなら立ち向かえるだろう。

 

 自分の見てきた未来を塗り替えたあの人なら、きっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこまで広がる闇。

 

 闇は何もかも飲み込んでいく。

 

 広がる闇の中でウルトラセブンと対峙するのは黒い巨人。

 

 光を拒絶して、世界を滅ぼそうとする邪悪な巨人たち。

 

 そして、最後は――。

 




今回の話、ウルトラセブンのエピソードをモデルにしています。

安井ハルカというキャラもそのエピソードに出てきた人物の孫娘という設定で登場させたオリキャラです。

安井与太郎と比べて、能力を嫌悪しており、誰も信じていないところはウルトラマンティガの超能力者であったキリノマキオのような人物になっています。違いがあるとすれば、一色が歩み寄り、超能力を失っていないという事でしょう。

最後にアンケートに協力ありがとうございます。アンケートの結果、ぶっちぎりの一位でウルトラマンティガになりました。
自分もそうですけれど、平成世代はティガが大好きですよねぇ。

その次でジードでした。まぁ、ペガが出ているからというのもありますけれど。

ティガの絡むエピソードはこれからはじまっていく予定です。

次回も楽しみにしていてください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。