やはり俺がウルトラセブンなのはまちがっている。   作:断空我

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新章を書くといったが予定を変えました。

唐突に思いついた話をのせます。

何より、今更ながら気付いたことにいち特撮ファンとして酷く情けない気持ちです。

コロナウィルスで皆さん、暗い気持ちになってばかりでしょうですけれど、楽しんでいただけると幸いです。

話は明るいものではないですけど……

そういえば、新ウルトラマン発表されましたねぇ。

何か、あのウルトラマンの目をなぜか、自分はメガヌロンだと思ってしまった。


第二十五話:2020年の挑戦者

 その日、地球防衛軍の二機の戦闘機は哨戒中、正体不明の存在を発見した。

 

「こちらクーガ1!地球防衛軍極東基地!応答せよ!応答せよ!!

 

『こちら地球防衛軍極東基地、どうした?』

 

「日本海で正体不明の発光体を確認!クーガ2と共に目標を追尾中」

 

『こちらも高感度レーダーで確認している……姿形はわかるか?』

 

「駄目です!光が強すぎて、姿形がわかりません!」

 

『向こうに通信で呼びかけは?』

 

「行っています。ですが、応答ありません、そのため、迎撃の――」

 

 それがパイロットが告げた最後の言葉だった。

 

 通信が途絶えた直後、レーダーから戦闘機、そして未確認発光体が消える。

 

 消失の事態に極東基地の偽装滝からウルトラホーク3号が緊急発進するも、戦闘機、そして正体不明の存在は影も形もない。

 

 真相は不明のまま事件は終わった。

 

 はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 川崎沙希は弟達と一緒に小さな遊園地へ来ていた。

 

 ゴーカートに乗っている弟と妹に向かって嬉しそうに手を振る。

 

 キリエル人事件の際に家族に迷惑をかけてしまったお詫び。

 

 そういう形で貯金していたバイト代の一部を崩して、小さくて安い遊園地へ来ていた。

 

 弟達の乗るゴーカートを後からきた女性の乗るゴーカートが通過していく。

 

「危ないな」

 

「遊園地でテンションあげあげなんだろうねぇ」

 

 川崎の傍には付き添いでやってきている楠木涼がいる。

 

 両親は急な仕事で参加できず、泣きながら謝罪しているところを偶然、目撃していた彼女が保護者代理として同行を申し出たのだ。

 

「涼さん、すいません」

 

「いいの!いいの!川崎家にはご飯のお世話とかなっているからこれくらいお安い御用!」

 

 笑顔を浮かべながら楠木は写真を撮る。

 

「あのぉ、その写真、後で……」

 

「いいよ!本当に沙希ちゃんは家族が大好きなんだねぇ」

 

 そういいながらカメラを構える楠木。

 

 ただ、彼女達のいる場所がゴール地点であったことから先を走る女性のゴーカートがどうしてもカメラの中に入ってしまう。

 

「まぁ、仕方ないか」

 

 カメラを構える。

 

「え?」

 

 ゴール地点にゴーカートがやってきた。

 

 だが、そこに乗っていた筈の女性は影も形もない。

 

「消えた……?」

 

 後ろから走っていた大志達も信じられないものをみたという表情をしている。

 

 その日、楠木涼と川崎沙希は人間消失事件を目撃するも警察も信じず、見間違いということで処理されてしまう。

 

 しかし、彼女達は気づいていなかった。

 

 事件に巻き込まれてしまっていることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――休み明けの学校というのは酷く面倒だ。

 

 比企谷八幡は妹の小町を中学校まで送り届けた時にそんなことを思っていた。

 

 自転車を総武高校の駐輪場へ置いて教室に向かう。

 

 休み明けというのは酷くだるい。

 

 自分のペースで土日を過ごしてしまうと、規則正しい生活ということに酷く抵抗感がある。

 

 特に、ここ数日のおかしなことを調べていた時など。

 

「遅かったね」

 

 教室に向かうために校舎へ入ったところで出迎える人物が一人。

 

 髪をポニーテールにして、制服を少しばかり着崩している少女。

 

「川崎?どうしたんだ」

 

「ちょっと、相談したいことがあって」

 

「相談?」

 

「昼休みの時でいいからさ」

 

「……わかった」

 

 戸惑いと必死さが伝わってきたので八幡は了承する。

 

 何かが起こった。

 

 そう八幡は感じ取る。

 

「(さようなら普通の平日、ようこそ奇妙奇天烈の世界へ)」

 

 心の中でふざけながら八幡はそんなことを思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み、誰もいない校舎裏にやってきた八幡と川崎の二人。

 

 傍から見れば不良女子が目が腐った男子生徒へカツアゲをしようとしていると勘違いされるかもしれないが実際は違う。

 

「それで、休みの間に何かあったのか」

 

 小町お手製の弁当の蓋を開けて問いかける。

 

 川崎も弁当を取り出しながら数枚の写真を取り出す。

 

「これは……」

 

 受け取った写真を八幡は覗き込む。

 

 一枚目はゴーカートに乗っている女性の写真。

 

 二枚目、上半身が消えている状態で走るゴーカート。

 

 三枚目をみた八幡は表情が険しくなる。

 

「アンタなら、こういうこと詳しいかなって思って……」

 

 三枚目の写真には地面へ落ちていく不気味な液体のようなものがあった。

 

「これ、消えた人は?」

 

「行方不明ってことになっている……一緒にいたカメラマンの人が撮影した写真をみせても信じなかったから」

 

「そうだろうな、警察は合成写真とか悪戯だって考えるかもしれない」

 

「アンタはどうみるの?」

 

「今はまだ、これが悪戯かそうでないのか判断は難しいな……」

 

「だよねぇ……」

 

「でも、川崎の話がウソや悪戯のものでないことはわかる。まずは調べてみてからだな、学生だからできることは限られるけど」

 

 八幡は立ち上がって振り返る。

 

 ほんの一瞬だが、彼は視線を感じた。

 

 まるで自分達をみているようなねっとりとした視線。

 

「(誰かが俺達を見ている。けれど、これは地球人のものじゃない。ウルトラセブンのような姿を隠してひっそりと活動をしている宇宙人の視線)」

 

「どうしたの?」

 

「川崎!」

 

 八幡は壁にもたれていた川崎をその場から引き離す。

 

 突然のことに動揺を隠せない川崎。

 

 しかし、彼女は知らない。

 

 八幡の目は壁から垂れていく常人に捉えることのできない液体をみていた。

 

 その液体は元から存在しないかのように消えていく。

 

 周囲を探るも襲撃者の姿はどこにもない。

 

 警鐘が八幡の中で鳴っている。

 

 それは彼の経験からくるものなのか、ウルトラセブンが発している物なのかわからない。

 

 だが、確実に異変は起きていることだけはわかった。

 

 狙われているのが川崎沙希であることも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて、よくできているかなぁ?」

 

 その頃、楠木涼は仕事を引き受けた新聞社で写真の現像をしようとしていた。

 

 ついでに先日の遊園地の残りの写真の現像もしてしまおうと考えていたのだ。あの時はドタバタして他の遊園地の写真を忘れていることを思い出す。

 

 道具を片手にはじめようとしていた彼女の机の傍に不気味な液体が近づいていく。

 

 しかし、涼は気づかない。

 

「失礼!」

 

「うわっ!」

 

 後ろから手が伸びて、楠木が後ろへ追いやられる。

 

「ごめんね、こっちが緊急なのさ」

 

「もう!乱暴だなぁ」

 

 文句を言いながら楠木は部屋の外に出ようとした時、小さな悲鳴が聞こえた。

 

「え?」

 

 振り返った先、室内にいた男が消えている。

 

 奥の部屋にいるのか、どこにいるのか。

 

 元から存在していないように誰もいない室内が怖くなって楠木は大慌てで外へ飛び出す。

 

 そして、彼女は携帯で坂本剛一へ連絡したのである。

 

 こういう時は一応、頼りになるであろう男に話をしよう。

 

 不思議な事件ばかりに遭遇する彼女の経験則だった。

 

「人が消えたぁ?おいおい、SF小説じゃあるまいし」

 

「……だってぇ!本当に消えたんだよ!それに二人目!」

 

「あぁ、遊園地の消失?そんなの目を離したすきにパパッとだろう?」

 

「もう!」

 

 相手にしてくれない坂本に苛立ちを感じながら楠木は尋ねる。

 

「ところで、何を読んでいるの?」

 

「ん?あぁ、昔に出版された本だよ……知らないか?“2020年の呪縛”」

 

「何それ?SF小説か何か」

 

 顔をしかめる楠木に坂本は話をする。

 

「昔、神田っていう科学者が書いたSF小説を宇田川っていう人が書いた話だよ……2020年の挑戦っていう話の後に起こったかもしれない出来事をベースにしているらしい」

 

「らしい?」

 

 意味深な発言に首を傾げる楠木に坂本は本を閉じる。

 

「この本の時代背景、今なんだよ」

 

「え?でも、まだ2020年じゃないじゃん」

 

「そうなんだけどなぁ、ほら、ここ」

 

 坂本はあるページを開けて内容を楠木へみせる。

 

 それはゴーカートに乗っていた女性が消失するという内容、主人公の少女がクラスメイトに相談したところで危機に陥るという内容。

 

「お前の話をしているところと少し似ているだろうって、どうした?顔真っ青だぞ」

 

「大変!沙希ちゃんが大変!」

 

「あ、おい!」

 

 突然、走り出した楠木に坂本は驚きながらも荷物をまとめて、大慌てで追いかける。

 

 楠木が向かう先は川崎沙希が通っている総武高校。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に良いの?」

 

「非常事態だから大丈夫だ」

 

 放課後、部活を休む旨の内容を由比ヶ浜に伝えて八幡は川崎と一緒に帰宅する。

 

 由比ヶ浜に伝えた時に頬を膨らませていたが、その理由はわからない。

 

 ボッチ同士で帰宅することは滅多にない。だが、川崎は何かに狙われている。

 

 守るためということで八幡は川崎を家まで送り届けることにしていた。尤も、それで防げるかと言われると怪しい。

 

 しかし、何もしないというわけにいかなかった。

 

「いた!沙希ちゃん!」

 

「ん?」

 

 大きな声に八幡が視線を向けると校門から物凄い速度で走って来る女性がいる。

 

 あまりの勢いに八幡は後ろへ下がった。

 

「大丈夫!?何もされていない!まだ綺麗!?」

 

「え、あの、涼さん……何が……」

 

 ぺたぺたと川崎の体を触って心配している様子の女性。

 

 敵意は感じない。

 

 必死さに周りの生徒達も何事かという視線を向けている。

 

「あのぉ、ここだと騒ぎに」

 

「キミは誰!」

 

 ぐるんと凄まじい眼力で睨まれて八幡は後ろへ下がってしまう。

 

「ひ、比企谷八幡でしゅ」

 

 あまりの気迫にカミカミで答えてしまった。

 

「おい、落ち着けって周りから視線を集めているぞ。どうも、すいません~」

 

 周りに何でもないという風に言いながらやってきた男が女性を引き剥がす。

 

 突然のことに呆然としている川崎。

 

「場所を変えよう」

 

「(あれ、俺も?)」

 

 気付けば八幡も含めた四人は高校から少し離れたところにある喫茶店へ来ていた。

 

 いつの間にか連れてこられたことに驚きを隠せない。

 

「まずは自己紹介からしとこうか、俺は坂本剛一、雑誌の記者で隣のコイツとは腐れ縁」

 

「腐れ縁って何ですか!二人で色々な怪事件を解決したでしょう」

 

「正確には巻き込まれたが正しい」

 

「もう!あ、楠木涼です。フリーのカメラマン、沙希ちゃんと近所で仲良くしています!」

 

「川崎沙希です。涼さんには色々お世話になっています。総武高校の二年生です」

 

「ひ、比企谷八幡。か、川崎さんとは同じクラスです」

 

 一通り自己紹介が終わったところで川崎が八幡を指さす。

 

「コイツ、人見知り激しく見えますけれど、こういう怪しい事件とかによく遭遇しているので頼りになると思います」

 

「おぉい、何でそういうこというのぉ」

 

 八幡は川崎の言葉にあたふたしてしまう。

 

 いきなり何を言いだすのだろうかと、戸惑う中で坂本が手を叩く。

 

「ま、これも何かの縁だ、情報交換しておこうか……念のため」

 

 坂本の言葉と共に情報の交換がはじまった。

 

 楠木は写真を現像しようとした部屋で人が消失したということを聞いてもしかしたら川崎が狙われるかもしれないと駆けつけてきたらしい。

 

 本気で川崎を心配していることが伝わってくる。

 

「(それにしても、既に消失事件が既に起こっているのか)」

 

「あの、これだけ起こっているのに警察はどうして動かないんですか?」

 

「それは」

 

「はっきりと関係性があるとわかっていないからだよ」

 

 説明しようとした坂本の声を遮る形にはなるが八幡が説明を始める。

 

「この時代、行方不明なんていうものは当たり前だ。借金、人との関係、犯罪、様々な理由で人は今ある生活を投げ出して逃げ出してしまうことがある。そんな人たちすべてを捜せるほど警察は万能じゃない。この事件も普通じゃないものが紛れている可能性があるだけではっきりとわからない……警察が対応するには材料が足らない」

 

「そ、そういうことだよ」

 

「カッコつけようとして失敗している」

 

「うるさいなぁ……ところで、キミ、比企谷君だよね?前にどこかで会ったことない?」

 

「え、男をナンパ?」

 

「違うわ!」

 

 揶揄う楠木に坂本は叫ぶ。

 

 二人のやり取りに呆れた表情を浮かべていた八幡だが、ある冊子に目が行く。

 

「坂本さん、その本は?」

 

「あぁ、これか」

 

「うわ、持ってきていたの?」

 

 坂本が取り出したのは“2020年の呪縛”と書かれている本。

 

 拍子に描かれているのは観覧車を壊している巨大な怪物。

 

「2020年の挑戦の続編って言われている奴ですよね?」

 

「お、知っているのか?」

 

「前に知り合いが読んでいたので」

 

 八幡へ本を差し出す坂本。

 

 本のページをめくる。

 

「そこまで興味を持ったか?」

 

「違います。そうか、これか……」

 

 本を一通り読んで八幡は納得した表情を浮かべる。

 

「何か、わかったの?」

 

「坂本さん、この本の作者さんって、どこにいるかわかりますか?」

 

「あー、調べることはできるけど」

 

「お願いします」

 

「一体、どうしたの?」

 

 戸惑う楠木に八幡は本を閉じる。

 

「2020年の挑戦は続いている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、頼みますよ!え、部署が違う?前の事件で手助けしたじゃないですか!知らない?惚けないでください!魚人事件!あれで俺、危うく殺されかけたんですよ!?そのお礼ということで、え?違いますよ!悪用はしませんよ!絶対!ウソなら逮捕してくれたって構いません!え、あ、はい!」

 

 少し離れた所で電話をしている坂本を置いて、楠木と川崎、八幡の三人はベンチに腰かけている。

 

 八幡は2020年の呪縛という本を読んでいた。

 

「比企谷、本当にその本が事件の糸口になるの?」

 

「そうだよ、ただのSF小説でしょ?」

 

「話の展開はSF小説ですよ。でも、これはあくまでそうみえるだけで未来予知に近い話のようなものです」

 

 普通の人が読めばただの空想科学小説と思うだろう。

 

 だが、八幡は違う。

 

 彼の中のウルトラセブンの人格が疑えと、これが鍵だと伝えている。

 

 小説を読んでいた所で坂本がやって来た。

 

「わかったぞ。作家宇田川さんの住所、意外と近くだ」

 

「じゃあ、すぐに」

 

 ピロロと不気味な音が聞こえた。

 

 しかし、常人に聞こえない特殊な音。

 

 八幡は周りを見る。

 

 楠木と川崎のいる木の上からドロドロと垂れている液体。

 

「川崎!」

 

 八幡が気付いて駆け出すも間に合わない。

 

 目の前で楠木と川崎の二人が消えた。

 

「ウソ、だろ!?」

 

 驚いてベンチへ手を伸ばそうとする坂本の腕を掴む。

 

「あれ……」

 

 八幡の視線はベンチに垂れている液体。

 

 液体は生き物のようにうねりながら近くの木の上へあがっていく。

 

「あ!」

 

 木の上をみた坂本が声を上げる。

 

 枝の上にしがみつくような形で立っている人のような者がいた。

 

 ギラギラしている丸い瞳、不気味な笑い声。

 

 頭部に生えている触覚。

 

 アンバランスな瞳、黒い体はふさふさした体毛のようなものがある。

 

 人の形をしているが明らかに人ではない。

 

「ケムール人」

 

 八幡が正体を明かす。

 

「フォッフォッフォッ」

 

 不気味な笑い声をあげて走り出すケムール人。

 

 追いかけるよりも早くその姿は消えてしまう。

 

「な、何が、もしかして、本の通りに!?」

 

「宇田川さんのところへ行きましょう。手がかりがあるはずです」

 

「よし」

 

 八幡は坂本と共に宇田川の自宅へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、一足遅かったか!」

 

 宇田川家は離れにある閑静な住宅だった。

 

 中へ入った坂本と八幡だが、室内は荒らされた後のように家具や様々なものが散在している。

 

 坂本は荒れた家具などを退かしながら室内の電気を点けようと手を伸ばす。

 

「動くな!」

 

 暗闇の中、坂本は背中に固い何かを突き付けられたことに気付く。

 

 両手を挙げて抵抗の意思がないことをアピールする。

 

「坂本さん!」

 

「来ちゃダメだ!」

 

 暗闇の中、聞こえた八幡の声に坂本は叫ぶ。

 

「仲間がいるな?動けば容赦なく撃つぞ」

 

 やってきた八幡に声の主は低い声で固いものを坂本へ強く押し付けた。

 

「ショットガンを構えるのは良いですけれど、弾が装填されていなかったら撃てないんじゃないですか?」

 

「なに!?」

 

 八幡の言葉に声の主が慌てて動き出した隙をついて、振り返った坂本が相手を殴り飛ばす。

 

 上から覆いかぶさる形でショットガンを奪い取った。

 

「コイツぅ!一体、何のつもりで」

 

 坂本が電気を点ける。

 

 室内が明るくなり、白衣を纏った初老の男性が床に倒れていた。

 

「お前ら、人間なのか?」

 

 殴られた男が目を細めながら尋ねる。

 

「見た目でわかるだろう、俺は人間だよ」

 

「このご時世、見た目ですべてがわかるなんてありえないことだよ。人の皮を被った怪物なんてザラだ!」

 

 ショットガンを触って坂本は呆れた声を上げる。

 

「これ、モデルガンじゃないか!くそっ、ふざけやがって!」

 

 怒りながらショットガンを放り投げる。

 

「貴方……宇田川さんですか?2020年の呪縛を執筆した」

 

「そうだったら?」

 

 八幡の言葉に坂本は目を剥く。

 

「教えてくれ!アンタの執筆したこの話は本当なんだよな」

 

「だったらなんだ?」

 

「消失した人達を元に戻す方法はあるんですか」

 

 八幡の問いかけに宇田川は興味なさげに座り込む。

 

 置いてあるペットボトルの茶を飲んだ。

 

「そんなことをしてどうする?」

 

「え?」

 

「助ける方法があったとして、それが何だ?所詮、焼け石に水の行為だ。連中は日本だけじゃない世界中から多くの人間を消失させている。ほんの一握りでも助けた所で何の意味がある?」

 

「そんなこと……ただ、消失されるのを待てっていうんですか?」

 

「もう手遅れだ。連中は時が来るのを待っていたんだよ」

 

「時?」

 

「連中は2020年の挑戦で諦めたわけじゃない、ただ、時が来るのを待っていたのさ……人が消えても誰が気にしない時代。人同士の繋がりが薄れた瞬間を待っていたのさ」

 

 置いてある書類を放り投げる。

 

「辛抱強く待っていた連中の勝利。何の対策もしてこなかった愚かな人類の敗北さ」

 

「な、なに諦めているんだよ!」

 

 彼だけが希望と考えていた坂本だが、何もかも諦めたような態度に動揺を隠せない。

 

「アンタだけが頼りなんだよ!唯一、連中のことを知っているアンタだけが助ける方法を知っているかもしれないって、俺達は」

 

「他に方法があるか?今、この段階で連中は多くの肉体を確保している。今更、助け出したところでどうこうなるわけが」

 

「少なくとも!」

 

 床を叩いて坂本は叫ぶ。

 

「今、何かできるならやるべきだ。やらなくて後悔するよりはマシだと俺は思っている」

 

「そんなこと」

 

「貴方だって」

 

 坂本は置かれている冊子を手に取る。

 

「貴方だって、何とかしたいからこの本を出したんじゃないんですか!警告だって、俺達に、地球はまだ狙われているってことを発するために」

 

「だとしても、手遅れだ」

 

「まだだ」

 

 本を強く握りしめて首を振る。

 

「まだ、人類は完全に敗北したわけじゃない。それに、諦めない限り、助けてくれる奴らだっている。知っているだろう!アンタだって」

 

 宇田川は坂本の真剣な言葉に何も言わない。

 

 目を閉じると飲んでいたペットボトルの蓋を閉じて机へ置いて立ち上がる。

 

「宇田川さん!」

 

「俺の親父は刑事だった」

 

 顔を見られたくないのか坂本達へ振り返らずに話始める。

 

「親父は優秀だったが、ヨボヨボでボロボロ、定年間際っていうところで2020年の挑戦事件に関わった。形はどうあれ、親父は事件解決に貢献した。けれど、最後に消えた」

 

「……消えた?」

 

「連中の液体を不用意に浴びてしまい、帰ってこなかった。事件は解決したと世間は言うが俺は違う!まだ終わっていないのさ!奴らはまだ地球を狙っている。そのために俺は連中と交信した博士のところで徹底的に勉強した、同じように実験装置を使って奴らと交信も試みた!そして警告の意味を込めて本を書いた。しかし、結果はどうだ?ただの空想科学小説?ふざけるな!お前達は終わったと安心したいだけだろう!俺は違う!俺はまだ、終わっていない!奴らを」

 

「宇田川さん、貴方は2020年の時間に囚われているんですね」

 

 八幡の言葉に宇田川は座り込む。

 

「囚われているなら終わらせるべきだ。すべてに決着をつけるべきだと私は思う」

 

「……比企谷君」

 

「これを持っていけ」

 

 金庫を解錠して宇田川はケースを取り出す。

 

 受け取った坂本はケースを眺める。

 

「これは……」

 

「Kミニオードの改造版……連中は一回目の失敗から対策を施している可能性がある。これを防衛軍が管理している光波装置へ搭載すれば、奴の脳神経を狂わせて消失した人達を取り戻せる」

 

「本当ですか!」

 

「さぁな、だが、これで終わらせてくれ」

 

「だったら、貴方が」

 

「坂本さん!」

 

 八幡が坂本の腕を掴んで下がらせる。

 

「無理だ」

 

 宇田川の頭上にケムール人がいた。

 

 ケムール人の頭部から消去エネルギー源のゼリーが落とされる。

 

「頼む」

 

 ゼリーが落ちて消失していく宇田川は坂本へ言う。

 

「俺の代わりに終わらせてくれ」

 

 その言葉を最後に宇田川の姿は消失する。

 

「フォフォフォフォフォ」

 

 不気味に笑いながらケムール人は坂本の持っているケースへ手を伸ばそうとした。

 

 坂本の後ろから八幡が念動力を放つ。

 

 念動力を受けて壁にぶつかるケムール人。

 

「フォフォフォフォフォ」

 

 笑いながらケムール人は外へ飛び出す。

 

「比企谷君!」

 

「俺は奴を追いかけます!坂本さんはその装置をウルトラ警備隊に!」

 

「でも」

 

「貴方は託されたんです!宇田川さんから……2020年の呪縛を終わらせるために」

 

「っ、くそっ!」

 

 逃げ出したケムール人は夜闇の中へ溶け込もうとするように走り出していく。

 

 坂本の姿がみえなくなったことを確認する。

 

 八幡は胸ポケットからウルトラアイを取り出す。

 

「デュワ!」

 

 ウルトラアイを装着した八幡はウルトラセブンに変身する。

 

 眩い光と共に人サイズのウルトラセブンは空を飛んで逃走するケムール人を追跡する。

 

 ケムール人は誰もいない廃墟へ疾走していく。

 

 飛行していたウルトラセブンは空中でビームランプの前で構える。

 

 エメリウム光線がケムール人の体を直撃した。

 

 光線を受けたケムール人は膝をつくが、両手の前で体を構えるとその体がみるみる巨大化していく。

 

 あっという間に巨大化してウルトラセブンを見下ろすケムール人。

 

「デュワ!」

 

 胸の前で腕を交差させて巨大化する。

 

 ウルトラセブンはケムール人と対峙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、ケムール人が巨大化したことで事態を把握した防衛軍。

 

 ウルトラ警備隊の東郷隊員へ坂本が通報したことでケムール人を撃退、消失した人々を救出するための光波装置が用意される。

 

「本当に確かなんだな?」

 

 用意された光波装置をウルトラホーク1号へ搭載しながら東郷は確認するように尋ねる。

 

「間違いないです!この装置にKミニオードを搭載して起動させれば、奴の脳神経を狂わせることができる……と、奴を調べた科学者の見解です」

 

 2020年の呪縛と書かれた本をみせながら坂本は訴える。

 

 東郷は頷くとウルトラホーク1号へ搭乗した。

 

 上昇するウルトラホークの姿を見ながら坂本は離れた所で戦うウルトラセブンとケムール人の戦いを見る。

 

 ウルトラセブンは光線技を使わず肉弾戦でケムール人と戦っていた。

 

 光線技を使わずということになるとケムール人は中々の実力者である。

 

 肉体を改造していることだけあってその身体能力は高い。

 

 能力を制限していることからケムール人が終始、圧倒しているように見えた。

 

 ウルトラセブンは待っていた。

 

 ケムール人が笑いながら両手の拳をウルトラセブンへ振り下ろす。

 

 両手でガードしながら拳を防ぐ。

 

 ウルトラホークのエンジン音をセブンは捉える。

 

「デュワ!」

 

「フォフォフォフォ!」

 

 ケムール人の足を掴んで動きを封じ込める。

 

 必死にセブンの拘束から逃れようと暴れた。

 

 ウルトラホーク1号から強化されたXチャンネル光波が発射される。

 

 光波を受けたケムール人は苦悶の声をあげた。

 

「フォフォフォフォフォ!」

 

 頭を抑えながら地面へ倒れこむケムール人。

 

 光波を受けて脳神経が狂っているのだろう。

 

 頭部からゴボゴボと消去エネルギー源のゼリーが噴き出していく。

 

 ウルトラセブンが腕から光線を放つ。

 

 螺旋状の光線を受けたケムール人は体から白い煙に包まれて炎上を起こす。

 

 ブクブクと泡状の崩壊を起こしてケムール人は倒された。

 

 ウルトラセブンは空へ視線を向ける。

 

 両目から光線が発射されて宇宙に眩い発光体が現れた。

 

 L字に組んでワイドショットを発光体へ放つ。

 

 光線を受けた発光体が大爆発を起こす。

 

 発光体が爆発を起こした真下に広がっていく白い煙。

 

 煙が地面へ広がって消えると、消失した人達が地面へ倒れている。

 

 消失した人たちが戻ってきたことを確認してウルトラセブンは夜空の中へ消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は遠慮って言葉を知らないのか?」

 

 ファミレスの中で坂本はハンバーガーを食べながら呆れている。

 

「だってぇ、何も覚えていないし、気付いたら腹減っちゃったんだよねぇ。それにこんな特ダネを引っ張り出したんだからボーナスくらい出ているでしょう?」

 

「あまり嬉しくはねぇけどな」

 

 坂本の手の中には一連の事件を記した雑誌。

 

 他のマスメディアを出し抜いたことで発行部数はトップだという。

 

「まぁ、唯一、許せるというのは一人の男が2020年の呪縛から解き放たれたってことかな」

 

「どういうこと?」

 

「さぁね」

 

 坂本はそういいながらハンバーガーを食べる。

 

 机には今回の事件が記された雑誌ともう一つ2020年の呪縛の本が入っていた。

 

 どこからか風が吹いて本のページが捲れていく。

 

 

 

 最後のページにある言葉が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

―【今回ですべての事件が解決したかはわからない。我々は狙われている。人類が団結しない限りケムール人は隙あらば人の肉体を得ようとするだろう。もしかしたら、既に貴方の身近の人が消えているかもしれない】

 

 

 

 

 




今回の解説

2020年の挑戦

ウルトラQの話の一つ。
ホラーテイストでありながら、ところどころにギャグみたいな話もあるお話。
最後の結末については、ホラーと捉えるかギャグとみるかは人それぞれ、ちなみに自分はホラーだと感じました。

ケムール人
同じくウルトラQに登場した宇宙人。
2020年からきた宇宙人ということらしいが、一説では地球人の未来の姿かもと語られている。
最近だと、ウルトラマンギンガの人を追いかけるケムール人ですかねぇ?


この話を書こうと思いついたのは2020年の挑戦を偶然にも視聴したということと、今年が2020年であることを今更ながらに気付いたんですよねぇ。

果たして自分達の2020年はどうなるのか、今回の話みたいなことが起こり得るのかと考えながら書きました。

次回からは新章の予定です。

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