深い闇の空間、そこでカミーラは優しく葉山隼人の頭をなでていた。
「ハヤト、貴方は素晴らしい闇の力を秘めている」
優しく頭をなでる姿は慈愛の女神を連想させるだろう。
そこが幸せな楽園ならば、という前置きがつく。
二人がいるのは大量の屍が並ぶ場所。
葉山は意識がもうろうとしているのか周りの屍に気付かない。
「だからこそ、貴方の力を私達へ見せてほしいの」
「あぁ、もちろん……だけど、いつも邪魔が入るんだ」
朦朧としている葉山はいつもの葉山と思えないほど、無防備で瞳がトロンとしている。
「いつも、いつも、これを使おうとすると白い手が伸びてきて止めてしまう」
葉山は手の中にあるクリスタルのデバイスをみせる。
一瞬、カミーラのなでる手が止まりながらも優しく声をかけた。
「大丈夫よ、貴方の邪魔をするものは私が排除してあげる。いずれ、貴方の闇の戦士としての力をみせて」
葉山は静かに瞼を閉じる。
彼が寝たことを確認したカミーラは笑みを消す。
冷たい瞳の中では激しい感情の炎が渦巻いていた。
「いつまで私達の邪魔をすれば、気が済むの……本当に嫌な女」
嫉妬という感情をカミーラは燃やしながらゆっくりと立ち上がる。
「そして、アイツ」
カミーラの目は先日、遭遇した雪ノ下を思い出す。
彼や自分へ敵意を向けてきた目。
“あの女”と違うということはわかっていても、激しい怒りと憎しみの感情がカミーラの中で湧き上がってしまう。
「不愉快だわ」
「どうするつもりだ?」
岩に座って待機していた巨漢の男、ダーラムは静かに問いかける。
「彼の心が闇に染まるのを待つ」
「ヒヒッ、本当にそうなるのか?アイツも同じかもしれないぜぇ?」
カミーラの言葉に沈黙したダーラムだが、ヒュドラがいらぬ茶々をいれてきた。
「わかっているはずよ?」
ヒュドラと一応の納得を見せたダーラムへカミーラは告げる。
「私達が本当の意味でここから外へ出るために彼が、彼の強力な闇の力が必要であるということ……そのためには彼の心を本当の意味で闇へ染める必要があるのよ」
――もう、二度と裏切らないように。
「けれどよぉ、あんな手段で大丈夫なのかぁ?いっそ、この俺が」
尚も言葉を発しようとしたヒュドラはそこでやめる。
カミーラから膨大な闇の力が迸っていた。
それは殺気となってヒュドラへ降り注ぐ。
「わ、わかったって、俺らだって外に出て人間たちの悲鳴を体いっぱいに浴びたい、従うって」
超古代の文明を滅ぼしたナンバー2の殺意に己の命が惜しいヒュドラは首を振る。
去っていくカミーラ。
面白くなさそうに舌打ちするヒュドラを横目に再びダーラムは目を閉じて沈黙を保つ。
地球防衛軍参謀室。
先の人事再編によりウルトラ警備隊隊長から防衛軍参謀に昇格した古橋の部屋に一人の男が入る。
「失礼します」
部屋に入ると古橋参謀は笑みを浮かべる。
「やぁ、白銀君。待っていたよ!」
「古橋参謀、どうされましたか?」
白銀は地球防衛軍の人事再編によって新たにウルトラ警備隊隊長へ就任した人物だ。
人望も厚く、冷静な判断で部下を率いることができる。元ウルトラ警備隊隊長である古橋もそうだが稲垣参謀も彼のことを認めている。
もっとも、白銀本人は突然の大任に目を白黒させ、妻に家で笑われてしまったことは秘密だ。
「実はウルトラ警備隊にある調査を引き受けてもらいたい」
「調査……といいますと?」
古橋は極秘と書かれたファイルを白銀へ差し出す。
「ルルイエの調査?」
ファイルを開いた白銀は内容に目を通す。
「あぁ、一部の参謀達によって主導されていた計画なのだが、どうも数日前から調査隊と連絡がとれないらしい。一つ、原因究明のために向かってもらえないか?」
白銀は少し考えてファイルを閉じて敬礼する。
「了解しました。これよりウルトラ警備隊はルルイエ調査隊の行方を捜索します」
微笑みながら古橋も敬礼をとる。
「すまんねぇ、頼むよ!」
参謀室から出る際、白銀は古橋の後ろに立てかけられている制服を見る。
彼がウルトラ警備隊隊長として着ていた隊員服がかけられていた。
白銀がファイルを片手にウルトラ警備隊作戦指令室へ入ると他の隊員達が敬礼して出迎える。
「楽にしてくれ」
白銀の言葉で敬礼を解く隊員達。
「早速だが、任務だ」
「よっし!やる気がでるぜ」
「こらこら、まだ任務の内容を説明していないよ?」
やる気を出す梶隊員に対して渋川隊員が落ち着かせる。
その様子を東郷隊員は苦笑していた。
「これよりウルトラ警備隊はルルイエに調査へ向かい消息を絶ったチームの捜索を行う」
「なんだよ。人探しですか」
「これも立派な任務だ」
呆れる梶隊員にユキ隊員が冷静に告げる。
「これが調査隊のリストだ」
隊員達がリストをみる。
「しかし、これだけの人数を動かして何の調査をしていたんですか?」
「細かいことは極秘ということでわからない。だが、これだけの人数が行方不明ということで何かが起こったということで我々に調査命令が下されたということだ」
「じゃあ、早速、ルルイエの調査へいきますか!」
手をたたく梶がヘルメットを手に取るが白銀が待ったをかける。
「梶隊員は基地で待機だ」
「えぇ!?隊長!なんで」
「この始末書の山を片付けろ」
白銀が指をさすのは机に置かれている始末書。
始末書の山を見て梶はしまったという表情を浮かべる。
「そういや、この前ホーク3号を緊急着陸させたときに建設途中のビルに突っ込んだんだっけ?」
「乱暴な操縦をするからだ」
「その時の始末書、まだ片付けていなかったのね」
上から渋川、ユキ、リサの順番に投げられる言葉に梶は力なく椅子に座り込む。
「ルルイエの調査は渋川、ユキ、東郷の三人でいってもらう」
白銀の前で三人が敬礼する。
「ウルトラホーク、出動!」
「「「了解!」」」
地球防衛軍極東基地の二子山が左右に割れてウルトラホーク1号が出動する。
「あ、いっててぇ、え、どこだここ?」
ルルイエの地下。
薄暗い洞窟の中で坂本は目を覚ます。
体を起こそうとすると背中に痛みが走り、顔を歪める。
坂本は気絶する直前の記憶をたどる。
「そうだった」
朧気だった記憶を取り戻す。
佐伯を説得しようとしていたところで復活した三体の巨人。
その中の一体に踏みつぶされるというところで運よく岩の裂け目に落ちた。
「あそこから一気に落ちたのか……運がよかった……いや、悪いのか?」
持っていた通信機などは失っており、外に連絡する方法がない。
そして、食事もないことからこのままでは餓死してしまうこともありえる。
「……どうするかな、おや?」
立ち上がって周囲を見ていた坂本はあるものを発見する。
彼は崖の方へゆっくりと向かう。
「なんだ、これ」
崖の先から広がる光景に息を飲む。
眼下に広がるのは崩壊した街。
もともとは繁栄を築いたであろう街。そのすべてが燃え尽きた廃墟。
「これはかつて繁栄したルルイエの都市」
「誰だ!」
坂本が振り返ると白を基調とした着物姿の女性が立っていた。
「貴方は……」
「私は記録者……超古代の出来事を記録した者です」
「……超古代?」
「貴方は今の人類ですね」
笑顔を浮かべる女性に坂本は小さく頷いた。
「渋川隊員、ルルイエの島の奥から強力なエネルギー反応です」
「エネルギー反応?」
ウルトラホーク1号を操縦する渋川に東郷が報告する。
「この島に何かある……まさか、調査隊もそのことをしっていて?」
「そこの判断は後だ。まずは輸送船の方へ着陸する」
「了解」
「輸送船のハッチをこちらからの通信でオープンします」
ユキがホークの受信装置を使って輸送船のハッチを開ける。
ウルトラホーク1号が輸送船の中へ着陸した。
ホーク1号に渋川が待機して、東郷とユキの二人が船内の調査をはじめる。
ウルトラガンと懐中電灯を手にした東郷はゆっくりと貨物エリアへ立ち入る。貨物エリアは防衛軍が用意した調査に必要な物資が置かれていた。
「ここにいた連中は本当に……調査をしているのか?」
置かれている物は銃器。
弾薬や爆薬の数も調査で使用する量を超えていた。
「ユキ隊員、こちら東郷……」
VCを起動した東郷だがユキから応答はなく激しいノイズが響くだけだった。
「電波状況は最悪……か」
「本当に最悪なところですよ」
聞こえた声に東郷はウルトラガンを構える。
懐中電灯の光に照らされてゆっくりと現れるのは防衛軍の隊員服をまとった男だった。
「生存者か!一体、ここで何が――」
「貴方もなりませんか」
「え?」
「この、私みたいにぃぃぃぃぃ」
男の体が変化し翼竜の怪獣へ姿を変える。
一瞬のことに驚きながらも東郷はウルトラガンを発砲。
ウルトラガンを躱して怪獣 シビトゾイガーが東郷へ飛び掛かる。
「だぁぁぁ、くそっ!」
振るわれる嘴を咄嗟にウルトラガンで防ぐ。
ガチガチと格闘をしながらシビトゾイガーの喉元を殴る。
バキィ!という音がして東郷は右手をみた。
ウルトラガンのグリップから先がシビトゾイガーによって食いちぎられる。
目を見開いている東郷へシビトゾイガーが再び迫った。
懐中電灯を武器代わりにして戦おうとするもあっさりとシビトゾイガーによって破壊される。
武器がなくなった東郷を今度こそ食らおうと迫るゾイガー。
悲鳴を上げる東郷だが、シビトゾイガーが奇声を上げて地面に崩れる。
「大丈夫か?」
スペースレーザーガンを構えたユキが東郷へ声をかけた。
「す、すまない。大丈夫だ」
壊れたウルトラガンを投げ捨てて東郷は立ち上がる。
ユキは武器を構えたままゆっくりとシビトゾイガーへ近づく。
シビトゾイガーは急所を撃ち抜かれて死ぬ寸前だった。
「コイツ……」
ユキと東郷が覗き込んでいるとシビトゾイガーの胸部に人の顔が浮き上がる。
「滅亡の闇が………すべてを終わらせる」
「食べたのか……調査隊を」
息を飲んでいる東郷の前でユキは傍に置かれているブルーシートでシビトゾイガーを覆い隠した。
「どうやら、ここは危険な場所らしい、すぐにホーク1号へ戻ろう」
「あぁ」
頷いた東郷へユキは腰のホルダーからウルトラガンを渡す。
「丸腰だと厳しいだろう」
「すまない」
ウルトラガンを受け取った東郷とユキはホークが待機している発着エリアを目指す。
ホークのあるエリアを通るために外に出た二人だが、上空はたくさんのシビトゾイガーが飛び交っている。
「こいつら、こんなたくさん、どこから」
「ホークを目指そう」
「危ない!」
東郷がユキを突き飛ばして横に隠れる。
背後からシビトゾイガーの一匹が襲い掛かろうとした。
襲い掛かった一匹へ武器を構えるユキだが、東郷が止める。
「一匹殺したら、他の奴らが襲ってくる!それよりもホークに」
『遅いから様子をみにきたぞ!』
シビトゾイガーを蹴散らしながらウルトラホーク1号が二人の方へ接近してくる。
ホークのコクピット内で必死に操縦桿を握りしめてシビトゾイガー達を睨んでいる渋川は通信機で二人へ呼びかけた。
「ここは危険だ。本部へ戻るぞ」
『『了解』』
「おい、そいつ、どうするんだよ?」
地下空洞で暇をしているヒュドラの前でダーラムが手に入れた“人形”へダークダミースパークを持たせていた。
「悲鳴を集める。そうすれば、マイフレンドも力を使うだろう」
「お前はアイツに納得しているのかぁ?」
「……マイフレンドはマイフレンドだ。俺達以上に闇の力を持っている」
「お前もカミーラと同意見ということかよ」
面白くないという風に傍の石を蹴り飛ばすヒュドラ。
ふと、ヒュドラは人形が持っているダークダミースパークとスパークドールズをみて、疑問を漏らす。
「そういや、アレについては、どう思う?」
「信用、信頼はなし」
「だよなぁ、俺ら以上にぶっこわれている」
自分達を目覚めさせたアレを思い出してヒュドラは笑みを深めた。
闇の巨人と言える自分達以上に恐ろしく、対峙した時に逃げるべきと検討した存在が今後、どのように絡んでくるのかわからない。
「だからこそ、マイフレンドの力は必要だ」
「……ちっ」
ダーラムの言葉にヒュドラは顔を歪める。
「さぁ、暴れてこい」
指示を受けて人形が動きだす。
「これは、ゾイガーなのか?」
地球防衛軍極東基地。
参謀達が集まっている円卓会議。
壁に設置されているスクリーンにウルトラ警備隊が撮影したシビトゾイガーが映っている。
「ルルイエは今やゾイガーの巣窟となっています」
報告のために参加している白銀が竹中長官へ答える。
「今は島で大人しくしています」
参謀達が集って、息苦しい空気の中で気を張り詰めながら白銀が報告を続けた。
「調査隊の安否については――」
ダン!と机をたたく音が響いた。
沈黙に包まれて一人の男が立ち上がる。
「これは人類の危機だということを皆さんは理解されているんですか?」
立ち上がったのは鷲山と呼ばれる参謀だ。
「このままでは人類が滅んでしまう。直ちに防衛軍の全戦力を用いてこの遺跡の殲滅を」
「待ってください」
鷲山参謀の話を遮るのは古橋参謀だ。
「確かにゾイガーは危険です。だが、防衛軍の全戦力を投入するべきではない」
「ならば、古橋参謀、貴方はどうするつもりですか?歴戦の英雄といわれたウルトラ警備隊も撤退するしかない事態……よもや、ウルトラセブンや黒い怪獣達に頼るなんていいだしませんよね?あんな得体のしれない存在に頼るなんてことはあってはならない!」
「この話は慎重に事を進めなければならない」
熱が入り始めた鷲山を竹中が止める。
「きっかけが何であれ、ゾイガーが危険であることは変わらない。慎重に会議を重ねたうえで結果を出そうと思う」
他の参謀達も頷いていたが鷲山は鋭い目でまわりをみていた。
「今の人類……それって」
「すべては三千万年前から続いています」
「は?」
いきなり三千万年前といわれて面食らう坂本。
助かったと思いきやいきなりそんな話を振られれば誰だって戸惑ってしまう。
「それは一体」
「ここはルルイエの超古代遺跡。そして、滅んでしまった場所」