金色のコルダ 月森蓮×日野香穂子「港の見える丘公園(街EDに寄せて)」   作:二重螺旋二重

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港の見える丘公園という、有名観光地もコルダメンバーにとっては「日常」そのものなのだろうなということから書いてみたお話です。



港の見える丘公園(街EDに寄せて)

「月森君!大漁、大漁!見て、すごいでしょ?」

 

香穂子が、着ているフレアースカートの前を少し持ち上げ気味にしながら歩いてくる。

つまんだスカートの前部分にどうやら何かを貯めて帰ってきたようだ。

スカートをつまみ持ち上げているせいで、彼女の華奢な足首とそれに続くしなやかな脚が見え隠れするのに、

月森は、少しドキリとした。

どうかしている。

普段の学校指定の制服の方がもっと丈の短いミニスカートで脚はもっと上まで見えているはずなのに。

そんな動揺を隠すように、尋ねる。だが、最終結果は、もっと動揺するようなことを言われてしまうのだが。

 

「どうしたんだ?何が大量だって?」

 

ベンチに座る月森に対し、香穂子はスカートの広がりの中身を見せる。

中身は、なんと、色とりどりのバラの花弁。花弁ばかりでなく中には花の形を留めているものもある。

 

「薔薇の花弁、ほら、こんなに大量に。ふふふ。よかった、狙いがあたって、今日が剪定日で。」

 

「この公園は、毎年、この時期になると梅雨入り前に薔薇を全部剪定して

花の部分を切り落としてしまうから、その日がいつかな、ってずっと狙っていたの。」

 

確かに、このところ香穂子は、学校帰りも、必ず一度は、この港の見える丘の方に

寄り道をしたがっていたが、それがそういう理由だとは知らなかった。

 

「薔薇は梅雨前に必ず剪定しないといけないから、こうして観光客がちょうど減った時期を狙って

切り落としてしまうの。その時咲いているのも含めてね。

地元民の特権だよね、その日を狙って、こんな風にして持って帰れるのって。」

 

「確かに、綺麗だが、花も首元からそんなに短く切られたものばかりだし、

ばらばらになってしまっている花弁といい、それでは花瓶に生けて部屋に飾ったりはできないんじゃないか?」

 

そんなに薔薇が好きなら、今度俺が花束をプレゼントするから、

いや、それよりも、家の庭にも確か薔薇はあったはずだから、今度見に来ないか、

月森の中で、そんな言葉のシミュレーションが重ねられる。

 

「ううん。これは飾るためのものじゃないから。乾かしてね、ポプリにしようと思うの。」

 

「ポプリって言っても、最近、流行ってる、

木の皮を薄く剥いだみたいなのに色つけて人工的に香つけたやつじゃないよ。

ちゃんと乾かした花弁やハーブやスパイスを合せて瓶の中で熟成させてつくるやつ。

ヨーロッパなんかでは家の庭に咲いた花々やハーブで作るんだって。

でも、うちには、薔薇を植えるほどの広い庭はないから…。」

 

ポプリというものに、そんな風に偽物と本物の差があるということも知らなかったが、

香穂子に、それを自ら作る趣味があるとも知らなかった。…少し、可愛い趣味だと思う。

 

「それなら、今度はうちの庭のものを使うといい。うちにも確か薔薇は数本あったはずだから。」

 

シミュレートした言葉がやっと使えたな、と思った瞬間、それは、香穂子の次の言葉で否定されてしまった。

 

「ううん。前に、一度、月森君ちのお庭の薔薇、ちらっとみさせてもらったけれど、

つるばらの白だったでしょ。あれは駄目なの。白薔薇は綺麗に乾燥させることが難しいし、

遠目で良く分らなかったけど、あれはたぶん、香はあまりしないタイプの薔薇なんじゃないかな。」

 

…それは残念だ。園芸には今まで全く興味を持ったことはなかったし、

特に薔薇は棘が指を傷つけそうで触ったことすらなかったが、

今度、出入りの庭師に言って匂いのいいものを入れてもらおうか。

 

「あのね、その点、ここの公園の薔薇は、既に、去年、一昨年と貰って帰ってドライにしてみて、

凄くいい匂いだったっていう実績があるの。だから、きっといいポプリになるよ。」

 

「それに、ね、今年の薔薇は特に特別だと思う。」

 

香穂子は、ここで一度言葉を切って、にっこりと、それこそ花のような笑顔を月森に向けながら言った。

 

「今年は、星奏学院学内コンクールが開かれたせいで、ここ薔薇たちは、休日になる度に

皆の練習の音をたくさん聞いて育ち、花開いた薔薇なんだよ。」

 

「確かに。花などの植物に音楽を聞かせて育てると生育が良くなるという話も聞いたことがあるな。」

 

月森の答えを聞いて、香穂子はくすりと笑った。

 

「うん…。生育は、たぶん、良かったんだと思うよ。剪定をしていた業者の人も、

今年は花付きもとっても良かったって言ってたし。」

 

「でもね、それだけじゃなくて…」

 

「この薔薇の花弁一枚一枚に、きっと、音の記憶も仕舞いこまれていると思うんだ。」

 

「ほら、例えば、この端だけ濃いピンク色になっている薔薇は、あそこの茂みのだけれど。

覚えてる?あそこは、月森君と初めて合奏することが出来た場所だよ。

…曲は…G線だったかな。」

 

…それは…。それは確かに覚えている。場所がその茂みでピンクの薔薇が咲いていたかどうかは覚えていないが。

でも、自分の言ったセリフなら。

 

「『俺は、君に興味があるようだ。いや、君の音楽に、という意味だが…』だって。

ねえ、覚えてる?月森君、ねえってば。」

 

うふふふふ、と、香穂子が可笑しそうに笑う。これは、もう確実に香穂子定番の御遊びだ。

過去の、頑なだった月森のことを蒸し返して、笑う、という。

 

「君は、本当にずるい。そして、意地悪だ。」

 

香穂子は、ふふ、と、また笑ってから、はい、これが、G線の薔薇、とそのピンクの花弁を一枚くれた。

 

「乾かすと、紅茶に少しにた香りになるんだよ。ティーローズの香りって言ってね。

この種類は、特にそういう香のする薔薇なの。月森君、紅茶の香りは好きだよね。」

 

「そして、ポプリが出来たら、袋につめてサシェにして月森君にあげるね。

夜眠る時に横において使って。その他に混ぜる材料も安眠効果の高いものを配合しておくからね。

アイピローみたいにして、目の上に乗せて使ってもいいんだよ。」

 

ここで、香穂子は、また言葉を切って月森の顔を覗き込むようにして、そして言葉を続けた。

 

「コンクール練習でも、だいぶ無理をしていたみたいだし。もともと眠りの浅い方だって言ってたでしょ。

心配してるんだよ、コンクール終わってから、夜、良く寝むれているのかな、って。」

 

…ああ、それで。それを心配して、安眠効果のあるポプリを手作りしてプレゼントしてくれるというのか。

その行為自体は、とても可愛らしくて、月森にとってもとても嬉しいことなのだけれど。

 

月森を笑いからかい、そして心配をし、笑顔をみせ、と、何通りもの表情をくるくると替え、

目が離せない、離したくない、と、心の底から魅了するその少女。

…そして、根本的な部分で、分ってないのだ…。

 

「…君から、そんなものを貰ったら、かえって眠れなくなると思う。」

 

そう、分かっていない。

何故、月森が、瞳の狼狽を悟られないように視線を逸らしつつ、 何故そんな台詞を口にするのか、その理由を。

 

「あ、信用してないな。これでも小学生の時から作り続けていて何年ものキャリア持ちなんですよ、

ポプリ作りに関しては。それに、ここの薔薇で作った安眠用の配合は、

去年お姉ちゃんが大学受験の時に使ってみて、良く眠れたという確固たる実績だって…」

 

「いや、だから、君は分かってないんだ。」

 

月森は、一端は逸らしていた顔を、香穂子の顔の方に戻した。

そして視線はG線の薔薇と香穂子が名付けた、その花弁と同じ色の唇に自然と吸い寄せられる。

 

「君のお姉さんはきっとそういうことはないのだろうが、

俺の場合、君が手ずから作ったという香りの中でなんて、きっと眠れない。」

 

「多分、眠らずに、君のことばかり考えてしまうと思うから。」

 

そして、そっと触れた香穂子の唇は、予想通り、甘い薔薇のような香りがした。

 

 

Fine.




過去に自サイトに掲載していたものの再掲載です。

読んで頂き、とても嬉しいです。ありがとうございました。


コルダでは、月日、土日、柚香、他、男子学生たちがわいわいやっているコメディタッチのお話も良く書きます。かなり昔から書いているため、個人サイト→支部→ハーメルンと移行しております。支部にもコルダだけで100作品近くありますのでそちらもどうぞ。

二重螺旋・拝


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