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突然だが、我は孔雀である。
色は、実は自分ではよく分かっていないのだが、白孔雀というらしい。
ちなみに、雄である。
うむ、今日も広げた尾羽根が見事に美しい。
住処は、人間ーー、何でも魔法使いという種類らしいが、我々の住んでいる場所(人間は『庭』とか呼んでいたが、庭とは狩り場が確保できる縄張りのことだろうか)のそばに何か妙な固まり(人間は『屋敷』と言っていた。)を作ってその中で居座っている。
たまに、けーーーん!と鳴いて、文句を言っているのだが、白金色の毛並みをした一番大きな人間は、何故か鳴くと腹が減ったと勘違いしてか、食べ物を持ってきたりする。
日々のご飯はだいたい『庭』で調達できるのだが(※マルフォイの言う『庭』は、ほぼ国有林並である。)、人間の持ってくる食べ物は美味しいので受け取ってやらんこともない。
人間は我に何かよく
「アレキサンダー」
と言ってくる。
「アレキサンダー」
とは何か最初はよく分からなかったが、白金色の髪の人間性が我にそう呼び掛けて来るので、我のことらしいと一応理解した。
だがまあ返事をしてやるかは別である。
今日も、呼ばれたので、特別に大声で返事をしてやったら耳を押さえていた、無礼な。
「アレクサンダー」以外にも、人間は個体識別をするのに、どうやら名前が必要らしい。
我がこの庭で卵から生まれたころ、白金色の人間はまだ今の大きさの半分くらいしかなかった。
人間は暑いのや寒いのが一巡りするのを一年というらしいが、その数え方で行けば、二十年ほど前ということになる。
目が開くようになった雛のころ、最初に目に入ってきたのは、あの白金色の頭だ。
「ルシウス、触っては駄目だ。
親が育児放棄するかもしれない。」
人間の言葉はいくつか分かるが、難しいものはいまだによく分からない。
ただ、白金色の似たような頭をした似たような人間がそばにいたような気がする。(作者註:父親のアブラクサスである。)
さて。
ここまで、白孔雀のアレクサンダー視点で進んだが、アレクサンダーに任せて、ここからは、人間がしゃしゃり出て記述することにしよう。
世に、作者という。
できれば、白孔雀くん視点で進めたかったのだが、彼ときた日には人間の性別も羽毛も髪の毛の区別も付いていないし、興味のあることは美しい羽根の広げ方(女の子の口説き方)なので、季節や年齢も数えていない(数えている鳥の方が少ない)ため、客観的表現を採用するためにこれは仕方がないことなのである。
あー、書きやすい。
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さて、改めてアレクサンダーくんの鳥生を語ろう。
彼に任せていると話が進まないのだが、ウィルトシャーに領地と邸宅を構えるマルフォイ家は、ノルマン人が11世紀にノルマンコンクエストでイギリスに渡って来て以来、由緒正しく荘園と領地をお持ちの貴族の家柄である。
周囲には誤解されがちだが、マルフォイ家の家訓の第一は「家族大事に」であり、他にも「名より実」とか「金は力」とかまあ実利的なものもあるが、彼らの信条(家族大事に)は、ノルマンコンクエストころには、まだ創立されて百年は経っていなかったものの、体制の安定したホグワーツのスリザリン寮と非常に相性がよろしかった。
渡って来たときには、祖先のアーマンド・マルフォイのお供に孔雀はいなかったはずなのだが、それから数世紀経つうち、おそらくマグルの貴族の間で孔雀が観賞用兼食用として流行したころにペットとして導入されたのだと思われる。
孔雀は、全ての種に対してではないがある種の毒に耐性があり、毒虫や毒蛇も餌にしてしまうので、森の多いウィルトシャーで虫害対策の側面もあったかもしれない。
ともかく、彼らはウィルトシャーの敷地(やたら広い)から勝手に出て行かないようまじないを掛けられ、さらに苦労して餌をかき集めなくても、人間(魔法使い)かハウスエルフが食べ物を持って来るので、すっかりそこに居着いて、我こそが主人と思っていた。
多分、最初に来たのは白孔雀ではなく、カラフルなインド孔雀かマクジャクだったと思われるが、マルフォイ家はゴージャスなものが大好きなので、普通の孔雀も増やしたし(率直な話をすれば食用としてたまに絞めてもいた。キジ科なので美味しいよ)、白孔雀も存在を知ってから是非とも我が家に!ということでもあった。
まあともかく現代まで話を戻そう。
孔雀の個体としての寿命は概ね20年から30年ほどである。
ただ、これはもちろん人の寿命と一緒で、個体や環境によって非常に差が出る。
そしてもちろん、ウィルトシャーは鳥舎と餌環境も含めて大変孔雀に優しい環境である。
その中で、アレクサンダーは、ルシウス・マルフォイのお気に入りであるために一等甘やかされて、こほん、丁重に扱われており、30歳などとうに過ぎたが、意気軒昂と季節になれば雌に羽根を広げる元気なおじいちゃんなのである。
アレクサンダーくんは、マルフォイ家の鳥舎で、ごくたまたまルシウス・マルフォイの10歳の誕生日に卵から孵化した。
生まれたころ、目も開かない雛のうちからルシウスが覗き込んでいたのはそのせいである。
刷り込みなどというものでもないが、ルシウスはアレクサンダーくんに強烈なインパクトを与えたことは間違いない。
そして、アレクサンダーくんは孔雀であって、所詮鳥である。
つまり、頭が悪いのである。
ルシウスを、羽毛の毛羽立ちが悪いハゲチョロけた貧弱な孔雀のメスだと思ったのかどうか、本人(本鳥)に問いただすすべはないが、確実なのは、最初の繁殖期、アレクサンダーくんはタタッと走って来てルシウスの前で自慢げに羽根を広げたことである。
なお、能天気な10歳のルシウスは目の前で羽根を広げた孔雀にテンションが上がって
「うわー、すごい!やっぱり綺麗だー!」
などとはしゃいでいた。
孔雀が尾羽を広げるのはメスに対する求愛行動であることを知らないルシウスくん10歳は非常に楽しそうだった。
ともかくルシウスくんの10歳の誕生日に生まれ、ルシウスくんに構われ、ルシウスくんに間違って求愛したり、羽根が抜けた時すごく心配されて孔雀なのに鷲掴みされて獣医に連れて行かれそうになったり(孔雀の尾羽は毎年生え変わるのにルシウスくんはそれまで気にしていなかったのである)、時々膝に乗せられたりしながら、ルシウスくんがホグワーツに行ってしまった期間はちょっと寂しかった。
アレクサンダーくんは、トリ頭なので、うっかり、羽のハゲチョロけた貧弱なトリと自分でも思っていたルシウスに求愛行動をしたことなどなかったかのように、縦横無尽にウィルトシャーの庭で駆け回り、綺麗なメスに求愛をし、他のオスを蹴散らしながら、気ままに成長した。
ルシウスがホグワーツに行っている七年の間に、ひとつ変わったことがあった。
ルシウスが似たような色合い(金髪ともいう)の少し背の低い人間を連れて来たのだ。
読者にはお分かりだろうが、ルシウスの婚約者になったナルシッサ・ブラックである。
そこでやっとアレクサンダーは悟った。
ルシウスには番がいる!と。
彼は7歳年を取って経験豊富になり(あくまでウィルトシャー孔雀界基準による。)、ルシウスが自分とは違う人間という種族であることは理解?していたが、ルシウスが番を連れて来たことには自分でも訳の分からない衝撃を受けた。
彼はまさに怪鳥の雄叫びのようなケーーーン!という大声を上げて、大きく羽ばたこうとしたが、長距離は飛べなかった。
マルフォイマナー的美食のし過ぎである。
なお、当のルシウスとナルシッサは、いきなり鳴き出した彼に驚いて
「まあどうしたのかしら。」
「なに、君の美しさに驚いたんだろう。」
「お上手ねルシウス、知らない人間に驚いたんでしょう?」
まあ、いちゃつきながら立ち去り、当然ながら、彼の葛藤は一ミリも伝わっていない。
彼の人生での驚きは、ドラコが生まれたときにも来た。
彼はそのころ生まれて十年以上経ち、ウィルトシャーにいる孔雀の中ではボスのような立ち位置を守っていた。
まあつまり、一番メスに選ばれる素敵カッコいい夜の帝王的位置である。
ずしんと重量感を伴い、ルシウスが番の金色と、ルシウスと同じ髪色をした小さいのを伴って来たとき、彼はまたしても非常に動揺した。
自分で何に動揺したのか分からないが、その勢いでまたしてもケーーーン!と鳴いたわけだが、当然、ルシウスたちには知らない人間を見たからという理由で片付けられ、鳥頭なので自分もすぐ忘れた。
ただ、その日、ナルシッサとドラコが一緒に赤ん坊のお昼寝タイムに入った後、ルシウスがいそいそとアレクサンダーくんのところへ引き返してきて、久し振りにアレクサンダーくんを膝の上に載せて、
「重っ。
アレクサンダー、太った?」
とか言いながら、脂下がった顔で
「なー、アレクサンダー。
うちの奥さんと息子、可愛いだろう?」
とかのろけていたこともさっさと忘れてしまえるなら、まあトリ頭にも利点はある。
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改めて、読者が知っているアレクサンダーくんの初登場シーンは、「炎のゴブレット」の回のクィディッチ・ワールドカップのキャンプ場のシーン、ではない。
残念ながら、彼は貴重なルシウスのお気に入りの白孔雀であって、盗まれたらいけない、という理由でお留守番であった。
かくして、ワールドカップにはごく普通のカラフルな孔雀が数羽連れ出され、連れ出された数羽にも、自分でない孔雀を連れて行ったルシウスにかりかりしたアレクサンダーくんにとってもストレスフルな期間になった。
なお、このワールドカップでルシウスは我が君の復活を知って戦々恐々だったのだが、帰ってマルフォイマナーでお気に入りの白孔雀をモフろうとしたら威嚇されてちょっと不幸せだった。
さて彼の、物語での初登場は「死の秘宝」の冒頭、ヤックスリーとスネイプがマルフォイ邸に足を踏み入れたところである。
彼は、お気に入りのウィルトシャーの土地になんだか知らないはげちょろけたつるりん(我が君のことである)が、食べられないサイズの蛇を連れてきて、しかも知らない人間たちがどやどやと誇り高き孔雀の縄張りに踏みいるのでご機嫌斜めだった。
その日も威嚇のために姿を表してやったが、短い木の枝を振り回して、訳の分からない連中だった。
なにしろ厭なのは、連中がでかい顔をするにつれて、ただでさえ頭のてっぺんにしか羽毛が生えていない、彼を膝に載せたがる羽の貧しいルシウスがなんだか元気がなくなることだった。
ルシウスはその前、短期間、アズカバンに入っていてウィルトシャーにも不在だったのだが、短期の不在はそれまでもたまにあったことだし、アレクサンダーくんがそれを理解するわけもなかった。
その後、マルフォイ家の屋敷には、ハリーたちが捕まって連れて来られたりし、アレクサンダーくんは(彼の認識では)ウィルトシャーの長としてその様子を覗いたりしたが(ハリーはその彼の姿を目撃した)、当然、彼の偵察は魔法戦争の趨勢にはなんの影響も及ぼさなかった。
事態はアレクサンダーくんとは関係のないところで進み、ある日(それはホグワーツ決戦の日であった)、アレクサンダーくんが出ていけ出ていけと念じたつるりんと蛇とその群れの人間がいなくなった。
彼はすっきりした、せいせいした、という気分で庭を闊歩していたが、彼のお気に入りの貧弱な金色の群れ(ルシウスを初めとしたマルフォイ一家のことであり、貧弱は羽毛に係る)もいなくなっていることに気付き、首を揺らしていた。
ちなみに、その日はいつも食べ物を持ってくる小さめの生き物(ハウスエルフのことで、彼らはクリーチャーと一緒にホグワーツ決戦に参加していた)までいなくなっており、仕方ないので、庭で虫や蛇を狩って食べていた。
たまには美味しい。
ルシウスたちがマルフォイマナーに戻って来たのは、ホグワーツ決戦後で、アレクサンダーくんは、ふんっ、とルシウスに飛びかかった。
単なる腹いせである。
羽毛乏しい金色がいなくて寂しかったなんてことは断じてないのである。
「うわぁっ、アレクサンダー何するんだ、髪、髪の毛引っ張ったら絡むー!」
ルシウスの情け無い悲鳴も、ナルシッサが気楽に見守っている。
なんにせよ、彼らは家族揃って戦争を生き延びたのだ。
安心感から、アレクサンダーくんはぼてっとその辺に座り込んだ。
彼の貧しい金色は無事に帰ってきたが、アレクサンダーくん自体は白孔雀的に結構な高齢者になっている。
「アレクサンダー?
アレクサンダー?」
蟄居とか言うらしいもので、最近ずっと家にいる金色は、アレクサンダーくんを抱え上げて鳥舎に戻そうとして
「重っ。」
と言って諦めた。
まあ、寿命的にアレクサンダーくんもそんなに長くは生きないだろうが、よく分からない不穏な時間は終わった。
アレクサンダーくんは文字通り重い腰をあげると、心配して側に座り込んだルシウスの膝の上に久々に乗り上げた。
「アレクサンダー、重いよーー。」
ルシウスは困惑しながらも、久々の孔雀の羽をもふっている。
とりあえず、マルフォイ家は大戦を生き延びた。
ウィルトシャーの庭には、アレクサンダーくんが夜の帝王として蒔いた種からいっぱい増えた白孔雀も闊歩していて彼らはそれぞれ、なんとなく金色が好きだが、ボス的存在のアレクサンダーくんに遠慮して(あるいは物理的に威嚇されて)、今はあまり近づいて来ないが、いつかアレクサンダーくんがお星さまになる日には、嬉々として自分のお気に入りの金色に(ルシウス派もドラコ派もいるが本人たちは気づいていない)たかりに行くことだろう。
なお、ナルシッサには何故か無体を働く孔雀はいない。
マルフォイが平穏に戻り、ウィルトシャーの森には平和が訪れた。
ルシウスは蟄居と言いながら、結構楽しそうにナルシッサといちゃいちゃし、孔雀の餌の配合を考えて平和に暮らしている。
いつの日か、また時代を揺るがすような事件が起こるとしても、ともかくウィルトシャーは平和だ。
グリンデルバルドもヴォルデモートも、未来の脅威も、まあ、庭を我が物顔に闊歩している彼らには知ったことではないのである。
了