高垣さんにフられました。   作:バナハロ

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楓さんの休日(最終)

 数日後、海に行く日の当日となった。参加可能となったメンバーは楓、美優、瑞樹、樹、そしてプロデューサーの5人だ。

 自己紹介は既に終えて、海まで来れたので女性陣は車の中で着替えていた。今回はプロデューサーの運転で事務所の六人乗りの車を使って来た。常務にバレたら怒られるので、皆さんはやめましょう。

 

「しかし……まさかプロデューサーくんまで来るとはねぇ」

「そうですね。……すみません、うちの人が『男1:女3は流石に死ぬ』なんて抜かすから……」

「いやいや、普通そうよ。楓ちゃんならどう? 女1:男3って」

「お酒があるなら問題ありませんよ?」

「あなたは本当に私やプロデューサーくんが見張っていないとダメね……」

 

 呆れ気味にそう呟く瑞樹は、近くで着替えている美優にも声をかけてみる。

 

「美優ちゃんはどう思う?」

「うえっ?」

「女1:男3で海は厳しいわよね?」

「あ、そ、そうですね……。なるべくなら……行きたくないですね、それは……」

 

 そう言って目を逸らしてしまう。女性でも目を奪われる輝かしいうなじが目に入ったが、やはりその態度を見る限りだと楓とは目を合わせづらくしているようだ。

 今回、海に来た主旨を楓から聞いていた瑞樹は、一応「いつも通りで結構です」とは言われていたものの、やはり聞いてしまうと気になってしまう。

 何より、当事者の楓も微妙に意識してしまっているようだ。普段の楓なら、美優のうなじを見ていじりに行かない、なんてことは無い。

 仕方ない……ここは一つ、自分が二人の間を取り持つことにした。

 

「それにしても……美優ちゃん、あなたのうなじとても綺麗ね?」

「ふえっ⁉︎ み、瑞樹さん⁉︎」

「なんかとても良い匂いしそうだなぁ」

「瑞樹さん、オッサンみたいですよ?」

 

 楓の両頬を瑞樹が全力で抓り始め、慌てて美優が間に入った。三人とも、半裸のまま車の中で揉み合っていた。

 

 ×××

 

 着替えが終わり、三人は男性陣が準備をしていたパラソルの元に歩いて来た。

 

「お待たせ〜……」

「お待たせしました」

「す、すみません……」

 

 歩いて来た三人にプロデューサーと樹が顔を向けた時だ。三人とも泳ぐ前から髪型が崩れている。

 

「……何かありました?」

「「「いえ、何でも」」」

 

 プロデューサーの確認に、三人とも揃って首を横に振った。仲が良さそうで何よりである。

 あまり気を使いたくないし、実際、使わないように言われていたが、肝心の楓がいつも通りでない所を見ると、瑞樹も何かアシストした方が良い気もしてしまう。

 と思って、まずはプロデューサーに顔を向ける。

 

「いやーにしてもやっぱ、三人とも水着お似合いですねー」

「ふふ、ありがとう。……プロデューサーくんも意外と筋肉あるのね」

「バスケやってましたからね(ロウキューブに憧れてとは言えない)」

「あら、そうなの」

 

 おそらく、ロウキューブに憧れてのことだろう。事務所内で、このプロデューサーが隠れオタクで隠れロリコンである事は全然、隠れられていない周知の事実である。

 どういうわけか、オタク文化が流行している346事務所にいる瑞樹も、ロウキューブの名前だけは知っていた。

 さて、当事者の樹は? と思って顔を向けると。

 

「……」

 

 美優の胸の谷間をガン見していた。ボーッとしているように見えて、ガン見していた。楓の水着よりも美優の谷間である。それに気付いている楓の額に青筋が浮かんでいるのも見逃さなかった。

 

「ちょーっと、良いかしら加賀山くん⁉︎」

「ちょっ、うおっ……!」

 

 大慌てで樹の首の後ろに手を回して少し三人から距離を置く瑞樹。首に回した腕に力をギリギリと入れる。

 

「何してんのよあんた……! そこは楓ちゃんの水着を褒める所でしょう……!」

「あの、胸が俺の胸に当たっていますが」

「良いから聞きなさい!」

 

 普通に考えて良くない所だが、瑞樹は説教を続ける。

 

「あなたねぇ……何のためにここに来たのか覚えてないのかしら? 率先してあなたがまた楓ちゃんと喧嘩するようなことしてどうするのよ」

「でも、楓の水着なら俺、昨日バカみたいに見た後なんですよ」

「は?」

「昨日、昼に川島さんと一緒にあいつ水着買いに行ったでしょ。それから帰って来てから、あいつずっと水着来てたんですよ。飯食う時も飲んでる時も寝る時も」

「あのバカ……」

「その時にアホほど褒めたんで、今更褒める所って言われても……」

 

 まぁ、気持ちは分からないでもなかった。というか、三割は楓が悪かった。

 それでも、ガン見して良いかは別の話である。

 

「それでも、ガン見はやめなさい! せめて……せめて、見るなら私の方にしなさい。楓ちゃんの嫉妬が美優ちゃんに向くのだけはダメ!」

「……川島さんのなら見ても良いんですか?」

「せめて、の話よ? ここにプロデューサーくんがいるのも忘れないでね?」

「分かりました」

 

 瑞樹だって楓と喧嘩したいわけではない。やはりなるべくなら見て欲しくないものだが、女性だって男性の筋肉に目がいってしまうのだ。……正直、樹もゲーム三昧の割に良い筋肉をしてたし。

 なので、瑞樹の中での良い妥協点を提示した。

 それに樹もOKしてくれたので、とりあえず解放しようとした時だった。その前に楓が二人の間に割り込んだ。

 

「瑞樹さん? この男はこれでも私のものなのですが」

「……」

「……」

 

 既に少し、亀裂が入りつつあった。

 一人、何も知らず、関与もしていないプロデューサーは、海に入る前から冷たさを感じていた。

 

 ×××

 

 さて、せっかくの海である。水着に着替えたのだから、水に浸からなければならない。

 そんなわけで、女性陣は波打ち際に突撃した。少ししょっぱい水に、まずは膝あたりまで浸かって冷たさを堪能する。

 

「ふふ、やっぱり冷たくて気持ち良いわね」

「えーい!」

 

 開幕、甲標的だった。しかも足である。楓から大量の海水を頭からぶっかけられた瑞樹は、ただでさえ少しぼさぼさになっていた髪型を一気に流されてしまった。

 

「ふふふ、人の彼氏を取ろうとする人にはお仕置きです」

「……上等よ、この!」

 

 やり返す瑞樹。お互いに水の掛け合いが始まってしまった。そうなれば当然、一緒にいる美優も巻き込まれるわけで。流れ弾が美優に直撃した。

 

「きゃっ……も、もう、お二人とも……!」

「あら、反撃なさらないんですか? 美優さん」

「美優ちゃん、ここは戦場なのよ? やらなければやられるだけよ?」

「……わ、分かりました……! では、えいっ!」

「「遅い」」

「かわしたあ⁉︎」

「「そこ!」」

「きゃあ、息ぴったり!」

 

 と、もう年甲斐もなく遊んでしまっていた。そんな楽しそうな三人を眺めながら、ビーチパラソルの下でのんびりしている樹はポツリと呟いた。

 

「……なんだ、本当にこんな簡単に仲直りしちゃったよ」

「やっぱ喧嘩してたんですか? 楓さんと美優さん」

 

 声をかけて来たのは、プロデューサーだった。

 

「喧嘩って程のものじゃないですけどね」

「まぁ、最近一緒に飲みに行ってないご様子でしたので、なんとなく気づいてはいましたが」

「なるほど……流石ですね」

 

 アイドルの様子をよく見ている。多分、自分と楓が付き合っていることもすぐにバレるだろう。

 

「でも、俺が手を出すまでもなく仲直りしてくれるなら、それはそれで良かったですよ」

「……そうすか」

「美優さんの事、ずっと心配してましたから」

「……好きなんですか?」

 

 思わず聞くと、プロデューサーはブフッと吹き出してしまう。

 

「な、なんすかいきなり⁉︎」

「や、何となく思っただけで」

「プロデューサーが自分の所のアイドルと付き合えるわけないでしょう。常務にクビにされるか生首にされるかのどちらかですよ」

「ふーん……そうすか。……え、じゃあ俺もバレたらヤバい?」

「平気でしょう。アイドルだって、女の子ですから」

「そうですか……良かった。楓の足を引っ張るのだけはゴメンですからね」

 

 そんな話をしつつ、樹はふと楓達の方を見た。いつの間にか水かけっこは終わっていたようで、楓が手招きしているのが見えた。

 

「すんません、呼ばれたんで行ってきます」

「加賀山さん」

「?」

 

 不意に名前を呼ばれ、振り返るとプロデューサーはやけに真剣な顔で言った。

 

「楓さんの事、お願いします」

「なんすか急に」

「楓さん、事務所じゃ加賀山さんの話ばかりしてますから」

「……そうすか」

 

 適当な相槌を返しながら、のんびりと楓達の元に向かった。

 

 ×××

 

 あの後、ビーチバレーやってバナナボートに乗って砂でクッパ城作って昼では運転手のプロデューサーと気を使った樹以外、全員が呑んで……と、とにかく遊び尽くした。

 で、今は帰りの車内。プロデューサーの代わりに樹が運転して帰宅していた。

 後ろの席では、美優も瑞樹もプロデューサーも寝息を立てている。

 

「あら、いつのまにか皆さん眠ってしまいましたね」

「あん? ……あ、本当だ。や、それより良かったじゃん。結局、三船さんと仲直り? できて」

「はい。私の作戦、大成功ですね」

「はいはい。すごいすごい」

「むー……テキトーではないですか?」

 

 実際、テキトーではなかった。と、いうのも、途中で美優のことなんかすっかり忘れていつものノリに戻るものだと思っていたから。

 どこまで覚えていたのか知らないが、結局はちゃんと今までの二人に戻れていたようだ。

 

「本当にたいしたもんだと思うよ。俺は他人と疎遠になったら、元に戻れるような人種じゃないから」

「私とは、戻ったじゃないですか」

「……それはー……そうだな」

「結局、自分次第なんですよ?」

 

 その通りだ。しかし、楓から飛んできたとは思えないような言葉だった。いつから、そんな深い言葉を言えるようになったのか。

 

「楓……成長したな」

「なんで親目線なんですか?」

「実際、親レベルのお世話もしてるからな」

「むー……い、いえ、親レベルのお世話と仰るのなら、私のおしめを変えた事もあると?」

「……」

「え」

「お前が悪いんだぞ。学生時代に一回だけ宅飲みで漏らしたから……」

「そこは顔に出さないで下さいよ!」

「まず漏らすほど飲むなや!」

 

 とりあえず、全員が寝息を立ててくれている事で今の会話が聞かれていなかったのが救いだ。

 

「まぁ……とにかく、世話されんのが嫌なら、もう少ししっかりする事だな」

 

 そう言いつつ、赤信号になったので車を止めた。とはいえ、今日の様子を見た限りだと、学生時代ほどのお世話をすることは無さそうだが。

 そんな事を思っている時だった。隣から、グイッと上腕部の袖を引っ張られた。反射的に顔を向けると、唇に唇を重ねられた。

 

「ーっ、か、楓……?」

「ふふ、お世話されるのは嫌ではないので、しっかりしません」

「……なんでキスするの」

「好きだからです」

「みんないるんだけど」

「寝てるので大丈夫ですよ」

「……あっそ、運転中はやめろよ」

「今は良いんですね?」

 

 なんて話をしながら、再びキスをし始め……る二人を、寝たフリをしていた三人はしっかりと見ていた。

 

 

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