ハーメルンバンドリ作家合同企画(テーマ交換・オリキャラ無し) 作:大里野上
テーマ「美咲とこころの百合」
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紹介作品 https://syosetu.org/novel/161738/
作者Twitte https://twitter.com/kuroppoineko_07?s=09
作家ご本人の書いた前書き
初めましての方ははじめまして、こんにちはの方はこんにちは。黒っぽい猫と申します。ガルパ作品初挑戦ということで色々とお見苦しい点があるかもしれませんが暖かいめで見てくださると幸いです。
⚠キャラ崩壊があります、ご注意下さい
「あーあ……もう、朝なのかぁ」
午前五時を告げるアラームが部屋に鳴り響いたことで朝の訪れを理解する。結局今日も一睡もできなかった。
(バンドかー……行きたくないなー……)
喉元まで溢れたそんな言葉を飲み込みいつも通り着替えていく。精神的な面で言えば正直家に閉じこもっていたいくらいだがそうも言っていられない。
奥沢美咲、それが私の名前であって、花の女子高生時代を生きる一人の人間だ。
「まー、そんなの外から見たものでしかないんですがね……」
勿論独り言なので返事は無いし、別に返事を期待していない。
こんな冴えない私ではあるが、実はつい最近まではガールズバンドに所属していたりした。
正確にはその手伝いだが今となってはどちらでも良いだろう。どちらにせよ同じことだ。
『ハロー、ハッピーワールド!』
そそっかしいメンバーの多いあのバンドで、表面上はサポートに徹していた私はそれなりに必要な存在なのだと、勝手にそう思い込んでいた。
わざわざ書面にして『お前みたいな地味女がハロハピに近寄るな』という脅迫的な手紙が届くまでは。
裏側では着ぐるみDJの『ミッシェル』として実はバンドに参加しているのだがそれはそれ。この手紙を受け取った時は『あー、また言われてるな。まあいっか』位の気持ちだった。
だが、毎日毎日届くその手紙に段々と恐怖を感じ始めたのは無理もない話だと思う。本当ならこの時点で私はさっさと誰かに──他のバンドメンバーにでも助けを求めればよかったのかもしれない。
だがそうしなかったのは、元々考えていたことだったからだ。
彼女たちが求めているのはきっと『
勿論そんなのは私の杞憂なのだろう。でも一度そう考えてしまえば後は早い。強いとは決して言えない私の心は簡単に歪んだ。
それでも、心配をかけたくはないとバンドには行っていた。笑顔も引き攣りながらも絶やさぬよう、できるだけいつも通りに振る舞うよう努力してきた。
きっと手紙もすぐに収まる。そうすればこの不安もいつの間にか消えているに決まっている。そんな風に淡い期待を──甘い期待を寄せながら数週間の時を過ごしていた。
だが、そういった期待は宛にはならない。ある日郵便受けを覗き込むと手紙の代わりにあるものが置いてあった。
それは私の顔写真が貼り付けてある藁人形だった。
それから数時間の事を私は覚えていない。ただ、気がついたらその人形は灰になっていて、私は手にハサミとライターを持っていた。
その出来事から今日で一週間。奥沢美咲としての私はバンドに顔を出していない。人前で自分の顔を晒したくなかった。寝不足できっと酷い顔をしているはずだから。
マスクとサングラスを着け、誰かに見られる前に家を出て『CiRCLE』へと向かった。
今日は学校が休みなので朝から一日練習するのだとか。ミッシェル用に作ったSNSアカウントにはそう書いてあった。
到着すると、まだ誰も来ていないようで入口にはCLOSEDの札が下がっている。仕方がないのでカフェスペースの椅子の一つに腰掛けて持ってきた朝食を摘む。
不思議なもので、どんなに精神的に弱っていても食欲はある。味は残念ながらあまり感じないものの、それでもしっかりと完食するまで手を止めることはない。
一度手を止めてしまったら多分次は食べられないだろうから。
そうやって半ば無理やり流し込んだ朝食の片付けをしていると後ろから声をかけられた。
「おっはよー……って、美咲ちゃん?今日も寝てないの?」
「ええ、ちょっとね。おはようございますまりなさん」
月島まりなさん。ライブハウスCiRCLEを切り盛りしている女性だ。気さくに話しかけてくれる彼女には私の事情は全て話してある。
「っていうか、私って分からないのに挨拶してきたんですか?今のご時世どこでセクハラ認定受けるか分からないので気を付けてくださいよ?」
「えー、ひっどいなぁ……はい、奥の部屋の鍵。みんなが来たら起こしたげるから少しでも休みなさいな」
おちゃらけた雰囲気はあるが、この人の本質を見極める目は非常に鋭い。誰よりも早く私の異変に気づいたのはこの人だった。
「……ありがとうございます。遠慮なくお借りします」
「うんうん!ハロハピもうちの常連さんだからね。そのくらいのサポートはしますとも。ライブで集客も見込めるしね!」
そんな風に打算的なフリをしてこちらの申し訳なさを払拭しようとしてくれているのだから、やはりこの人は優しい人だ。
奥の部屋にはミッシェルの着ぐるみと小さめの布団が置いてある。これもまりなさんが寝不足の私を見て用意してくれたものだ。一度聞いてみたら『家に置いといても邪魔だったから』の一言で一蹴されてしまった。
上着を脱ぎ、しっかりハンガーに掛けてから布団に潜る。生活リズムは完全に壊れているがもう今更だ。三時間ほど寝たら八時間の着ぐるみ人生が待っている。
そう考えると憂鬱なように聞こえるが実際私はミッシェルという着ぐるみに救われている。
「いつもありがとねー、ミッシェル。こんな私を守る殻になってくれて」
柄にもなくミッシェルの手を握りながらそんなことを呟いたと同時に電池が切れたかのように体が動かなくなる。
最近はいつもそうだ。ストンと手足が動かなくなり眠りに落ちる。
(目が覚めたら生身で皆の前に──なんて、夢見すぎだね)
そんな自虐を心に呟きながら私の意識は沈んでいった。
コンコン……コンコン
「んぁ?そっか、もう練習の……」
『美咲ちゃん?入ってもいいかな?』
この声は……そもそも、この部屋の中にいるのは皆ミッシェルだと思ってるから私の名前を呼ぶのは──。
「花音……さん?」
『うん……少しだけお話、いい?』
時計を見やるとまだ小一時間はある。
「……どうぞ」
部屋の鍵を開けて花音さんを招き入れるのだった。
「……あのね、美咲ちゃん。最近学校休んでるって話だけど」
「ええ、確かに休んでます」
恐る恐る聞いてくる花音さんにできるだけ声が震えないように答える。
「……理由を、聞いてもいい?」
「別に理由なんてないですよ。なんとなくです」
「私達に、話せないことなの?」
「……」
適当に誤魔化そうとしたが花音さんはどうやらそれを許すつもりは無いらしい。何時もは柔らかな雰囲気が重苦しいものになっていくのを感じる。
「話したところでどうにもなりませんよ。貴女達は今まで通りにハロハピとして活動すればいいでしょう。安心して下さい。ミッシェルはちゃんとバンドを続けますから」
「違うよ、美咲ちゃん?ミッシェルの中に居るのは紛れもなく美咲ちゃんなんだから──」
何故だろう。自分の中でドロドロとうねりを成している感情が何故この時に爆発したのだろうか。
「違うっ!!!」
「み、美咲ちゃ──」
「ミッシェルは──ミッシェルは私じゃない!!」
ミッシェルは、ミッシェルなのだ。改めて言葉に出してみればやはり自分が持っていた感情の根幹はここにあったのかと納得できる。
「ずっと私は今まで確かにミッシェルの中に入ってきました。でもいつの間にかそこに居るのは『ミッシェルの中の私』ではなく『ミッシェル』だったんですよ。その場に私としての居場所はもう無いんです」
だからこそ拠り所を私は求めた。奥沢美咲としてあの場所にいたかった。
「でもそれも叶わぬ願いでした。私には、貴女達と肩を並べていられるほどのものは何も無い」
だからあの場所から去るって決めた。それならそれでいいじゃないか。
「美咲ちゃん……?」
思考と言葉が恐らく一致していないからだろう。花音さんは困惑してこちらを見ているがもうどうでもいい。私がこのバンドに関わることなんてもうないから。
「……話す事は、もう何もありません。戻ってください。私は着替えなければならないので」
「……美咲ちゃん」
「出て行って!!私に──私に構わないでください!!」
「ごめっ……ごめんねっ!!」
走り去っていく彼女の目から透明な雫が流れていたのはきっと見間違いじゃなかったと思う。
(あーあ、何やってんのさ美咲。花音さんは心配してきてくれたのになんでそんなに冷たい態度で追い返してるの?)
頭の奥に声が響いてきた。練習が近くなるといつも出てくる声だ。
「……うっさいよ、ミッシェル。アンタには関係ないでしょ」
(これでも私は貴女なのよ?関係ないってことはないでしょ)
「ちがう、アンタはミッシェルで私は奥沢美咲。だからハロハピは私の居場所ではもうない」
何時からだろう、この声が聞こえてきたのは。あの呪いの手紙が届き始める少し前からだったろうか。
(自分の想いに蓋して、救いの手を跳ね除けて。今貴女がやってる事になんの意味があるの?
「うるさい、黙って」
(黙らないよ。今日という今日は言わせてもらう。貴女が本当にハロハピに顔を出さなくなったのはこころの事が──)
「黙れっ!!!黙れ黙れ黙れ!!!!」
(──好きだって気がついたからなんでしょ?)
「違う。私があの場所に行かなくなったのは、手紙の主が次にどう行動するのか読めなくなったからだ」
(それで寝不足になっちゃ世話ないわよ。こころの力を借りればどうとでもなることなんだからさっさと自分の気持ちを含めてぶちまけちゃえばいいでしょうに)
震える膝の動きが止まった。その言葉を聞いた瞬間ここだけは譲れないとどこかで感じたのだろう。
「そんな事したら……そんな事したら私はもうあの人達と同じ場所に立てなくなる……そんなこと、本気で出来ると思ってるの?」
意地を張ってでも助けを求め無かったのは別に自分に破滅願望が有るからじゃない。彼女達と対等な関係でありたいと思ったからだ。
(……まあいいわ、私には関係ない話だし)
諦めたような、そんな声が聞こえた。
(そろそろ体貸してくれる?私の番でしょ?臆病な美咲ちゃん)
「……言われなくても」
また動くようになった体を半ば引き摺りながら着ぐるみの中に身を投じていく。背中のチャックを上げるのも、今となっては手馴れたものだ。
「それじゃあ、後は宜しくね……ミッシェル」
そんな言葉と共に私は目を閉じて頭を付けた。
『ハッピー!ラッキー!スマイルー!イエーイ!!』
今日の練習も恙無く進んでいるように見える。私じゃない誰かが操るくぐもった視界から周囲を見る。普段はこの時間は意識を閉ざしているので練習を見るのは久しぶりだが皆いつも通りだ。
はぐみも、薫さんも、花音さん──は心配そうにチラチラ見てくるが、そしてこころも──あれ?
どこか、こころの笑顔に影がさしているような気がする。私の見間違いかもしれない、とも一瞬思ったが気の所為ではない。
間違いなく、彼女の笑顔は曇っている。歌も何処か心ここに在らずといった感じだ。
(……?何かあったのかな?)
「……」
そのまま練習は終わり休憩になった。すると直ぐにミッシェルはこころの方に歩いていく。
(一体何を……?!)
「こころ、笑顔にキレがないみたいだけどどうかした?」
「えっ?!」
突然声をかけられて驚いたのか、こころの手元からドリンクの入ったボトルが落ちる──。
「おっと、危ない。しっかり持っておくんだよ、こころ。それにしてもミッシェル、私と同じ考えだなんてやはり私達の相性は──「薫さん、少し黙ってて」……」
あ、キラキラとした笑顔のまま薫さんの動きが固まった。相変わらずミッシェルは容赦がないなぁ。
「それで?どうしてそんなに寂しそうなん?」
「……?」
花音さんが不思議そうな顔をしている。そりゃそうだ、最近はミッシェルの中でも積極的にハロハピと関わることを避けてた私が突然ハロハピのメンバーに話しかけているのだから。
「美咲が──最近居ないのよ」
(……!?なんで私の名前が出てくるの?)
「理由はわからないわ。でも、学校にも来ないしLINEを送っても既読もつかないの。何かあったんじゃないかって心配で……」
「ふーん、こころは美咲のこと大切なんだ?」
「当たり前よ!美咲は私の──私達の大切な仲間だから!!」
「ふむ、わかった。私の方から美咲に呼び掛けてみるよ」
いや、呼びかけるも何も、私今アンタの中にいるんだけど。
「ホント!!有難うミッシェル!!」
笑顔を取り戻したこころを見て、私の胸は締め付けられた。痛いのに不快ではない不思議な感触を伴いながら、私はその笑顔を眺めていた。
練習も終わり帰り道。私は憂鬱を抱えながら歩いていた。
「どうしてくれるんですかねぇ……あんな事……」
(お膳立てはしたんだから後は貴女が何とかしなよ)
「無茶言わないで。無理よそんなの」
私には何も出来ない。私は何も持っていないんだから。
「あんな手紙に言われるまでもなくわかってた、私じゃあの人達についていけるわけがないって……遅かれ早かれこうなってたのよ」
(ならせめて、きっちり終わらせなさいよ。
「そんな事わかってるよ……わかってるよ…………アンタに言われるまでもなく……さ……」
それでも、言い出せないんだ。臆病な私は、それでも何処かであの人達との繋がりを──こころとの繋がりを断ち切りたくなかった。
(それなら──って、逃げて美咲!)
「へっ──?!」
振り返った私の目に入ったのは銀色に煌めく何か。咄嗟に上体を逸らすと目の前を何かが通り過ぎていった。それが何かを認識する前に体が動いて距離をとる。
「なんで避けるんだよ……当たれよ」
「誰よ……アンタ……」
聞き覚えのない声、見覚えもない男が街頭に照らされて立っていた。
「『お前みたいな地味女がハロハピに近寄るな』」
それでも、この男の言葉には見覚えがあった。あの手紙に書いてあった文言と一字一句変わらない。
「っ!!じゃあ、アンタが──」
「忠告はしたよな?それに従わなかったアンタが悪い。わざわざ丁寧に藁人形まで届けてやったのに」
その男の目を、私は見てしまった。狂気に染まりきった恐ろしいその瞳と目が合った時、私の身体は恐怖から動かなくなってしまった。小刻みにふるえるだけの私を見て男は薄ら笑いを浮かべた。
「怖いか?なら命乞いでもしてみるか?俺の気が変われば殺さないで居てやるがどうする?」
「……」
「ハッ、だんまりか。まあいいや。死ね」
目を瞑る。もうダメなんだ、逃げられない。
(あーあ、こんな事ならあの時さっさと話していればな……)
今更後悔するのか、なんて苦笑いをする。
(いつも私は遅いんだ──「美咲!!」──え?
「なっ!ぐっ?!」
男の呻き声が聞こえた。一体何が──
「美咲、立てる?!」
「あ、え?」
無理矢理手を掴まれ立たされる。そのまま走っていくこころに引っ張られるように私も走る。目を開くとキラキラと輝く金髪が視界に入った。
「待て!!!」
「追ってきて──「振り向いちゃダメ!!前だけを見て、美咲!」─っ」
後ろからはドタドタと何かが追ってくる音が聞こえる。怖い、と心臓が早鐘を打ち続けている。細い路地を通り、公園の近くまで出た。するといきなり目の前に一台の黒い車が止まる。
「ヒッ──」
「美咲、それはうちの車だから大丈夫よ。黒服!」
「はい、お嬢様」
「向こうにいる刃物を持った男を警察に突き出して!」
「了解しました」
車から降りてきた黒服さんは何やらトランシーバーで誰かに連絡を取ったあと走り去っていった。少しの間呆けていた私だったが目の前の死の恐怖から逃れたのだと理解した瞬間、私の身体は強烈な脱力感に襲われ、目からは涙がとめどなく流れていた。膝をつき、幼い子供のようにしゃくりあげていた。
「さ、乗って美咲──「こころっ!」きゃあ!?」
そして気がつけば私はこころに縋り付いていた。
「怖かった……死ぬかって……もうダメかと…………私…」
「……ね、美咲。車に乗って?皆も待ってるから」
「……ん」
暫くそのまま泣いた後、こころにそっと背中を撫でられてどうにか立ち上がる。そうしてこころの屋敷につくまでの間、私はずっと彼女の服に縋り付いていたのだった。
「「「美咲(ちゃん)!!!」」」
屋敷に着くと、ハロハピの皆が待っていた。どうやら、事情は皆知っているらしい。
「皆……どうして……?」
涙を浮かべながら必死に伝えてくれた花音さんによれば、ミッシェルの着ぐるみを置いている場所にあの男からの例の手紙が落ちていて、それを見つけた花音さんがまりなさんを問い詰め、白状させたらしい。
それで直ぐにでも私を捕まえて話を聞こうと、こころが皆を集め、一人私を探しに出たということだ。
「私にそんな事する価値なんて無いのに……なんでよ……」
「美咲、こっち向いて」
「どうしたの、ここ──」
パン、という破裂音が部屋に響いた。突然の事に私を始めとして他のメンバーも黙り込む。そして、その沈黙を破るようにこころが私の肩を揺らしながら怒鳴り始めた。。
「練習に来てなかったのもそのせいなの!?なんで今まで私達に何も言わなかったの?!そんなに私達のことが信じられない?!」
「違う、違うよこころ──」
「違わない!!美咲は私達のこと全然信じてない!!」
違う、違うのに上手く伝えられない。感情を抑えながら自分の事を上手く伝えられない。
(感情なんて抑えつけなくていいでしょ。今更なんだし)
でも、それで迷惑をかけるわけには──
(友達なんて迷惑かけてなんぼなんだから。それとも彼女たちを信じてるなんて上っ面だけ?貴女のこころへの想いだって偽物なの?)
それは──
(本物だっていうなら、それが間に合ううちに行動しなきゃ。そうしないと伝えられなくなってしまうよ)
………………。
「──美咲?!聞いてるの!!?」
相変わらず耳元で叫んでいるこころ。ああもう、煩いな!
「こころ!こころの気持ちばっかり押し付けないでよ!!私にだって感情はあるし皆のことは信用してる!!」
「何よ!信用してるのに何も言わなかったわけ?!」
「そうだよ!こころはこの話をしたら絶対に何かしちゃうでしょ!私は皆と対等に接していたいの!!ただでさえ私には何も無いのにそこで借りを作ったら次から私はどうやって皆の前に顔を出せばいいのよ!!」
「そんなの普通でいいでしょ!美咲のバカ!!」
「うっさい!こころのわからずや!!」
「なによーーー!!」
「あれ……ねえ、薫君。これ、普通の喧嘩になってない?」
「フッ……真の友情とは、心の奥底まで曝け出して始めて成立するものなのさ……ああ、なんと儚い!!」
「かのちゃん先輩、止めなくていーの?」
「いいんじゃないかな……?しばらく放っておこ?」
「ええ……」
取り残された三人がそんな会話をしてることなんてつゆ知らず、私とこころは口喧嘩を続けたのだった。
あの後、だいたい二時間ほど口喧嘩をした末、お互いに謝ってとりあえずあの場所は終わった。今後私には『他のメンバーに意地を張るような嘘を吐かずちゃんと相談すること』という約束をするという出来事があったけどそれは別の話。
その後、皆でパジャマパーティーをして眠りについたはずだったのだが、どうしても寝付けずモヤモヤした気持ちを持ったままベランダに出て外を眺めていた。
「あんなの、あんなの絶対違う……」
(別にいいんじゃないの?最終的に仲直りできたんだから)
「そうだけど違うんだよ……」
確かに仲直りは最終的にはできたし、あれも本音だったのは間違いない。でも、私が伝えたかった本音は──
(まあまあ、それは今まで何回もチャンスがあったのに自分の気持ちに蓋してたんだからどうって事ないでしょ?)
「そうなんだよ?そうなんだけど……」
でも、だからといって今までと同じように過ごせるかと言われたらそんな事をするのは不可能だ。今までは
(おうおう、気持ちの昂りはちゃんと感じてますよ〜、青春してますねぇ)
「っさい。大体、アンタいつまで私の中にいるのよ」
いつの間にか私の中にいた
(まあまあいいじゃないの。そんな事よりほら、後ろをみてご覧なさい。どうやらチャンスは有るみたいよ?)
「後ろって……!」
振り返ってみれば、立っていたのは私が今一番二人きりで会いたくて、でも会いたくない人だった。
「こころ……」
白いワンピース風のパジャマを着たこころがこちらを向いて立っていた。綺麗な髪を風に靡かせる姿は私の気持ちを掻き乱すのに十分すぎた。
「美咲、少し聞いてもいい?」
「……隣、座ったら?」
「うん」
その気持ちを悟られぬように素知らぬ顔で隣の席を勧める。だが、こころから漂ってくるシャンプーの香りが鼻についた時、若干後悔した。
「……美咲、私に相談してくれなかったのって、私と対等で居たいからって言ってたけど」
「……」
「今の私と美咲は、対等な関係なの?私は美咲を助けてしまったわけでしょう?だから、その……」
「……」
「私と美咲は、対等な友達で──居られる?」
友達で居られるか……どうなのだろうか、とこころの言葉を噛み締めながら自分の気持ちに聞いてみる。
私は、奥沢美咲は、弦巻こころの事が好きだ。友人として、人としてではない恋愛対象として。
今すぐにでもそれを彼女に伝えてしまいたい。でも、もしかしたらそうする事で彼女を苦しめることになるのかもしれない。
「ね、こころ。その質問に答える前に、変な事を聞いてもいい?」
「なあに、美咲?」
質問に質問を返そうとした私に一瞬驚いたようだが、柔らかく笑って頷いてくれたこころに感謝しつつ尋ねてみることにした。
「恋愛感情って、異性の間にしか成立しないものなのかな?」
「そんな事は無いと思うわ」
即答だった。全く迷いが感じられず聞いた私が少し驚いてしまった程に。
「だって、私がそんな事ないって知っているもの」
「……そう」
そっか、こころにはもう決まった人がいるのか。それが誰なのか、なんて聞く必要は無い。少なくとも私じゃないのだろうから。
「こころの質問に答えるね。私達は友達だよ。対等な」
わかっていたから、声を震えさせてはいけない。今の私の顔を、こころに見せてはいけない。きっと酷い顔をしているから
「冷えてきたし戻ろっか、こころ」
「ここまで言っても……………なんて」
「え?どうしたのさ、こころ。早く戻らないと風邪ひ──」
立ち上がった私の背中に温もりが生まれた。いや違う、これは──
「離してよ、こころ。いるんでしょ?好きな人」
「居るわよ、好きな人」
「だったら「私の今目の前に、私の好きな人はいるわよ!」──はい?」
ここ数週間で一番間抜けな声が漏れてしまった。こころの好きな人が目の前にいる?でも目の前には誰も──
「だ!か!ら!私は美咲のことが好きだって言ってるの!!」
「…………?!」
思わず振り返ろうとした私の腰を、こころの細腕がギュッと強く締め上げる。
「見ちゃダメ!このままにして!!」
「えぇ…………」
「は、恥ずかしいから……顔赤いから……」
「……」
こころの手を無理矢理振りほどいて振り返ってそのまま抱き締める。互いに身長差はないのでハグしてるような格好になる。
「ちょっ、美咲──ッ!!」
「……ありがとう、こころ。私も……好き」
「────っ!!!」
こころが更に赤くなったのを体温から感じ取る。その心地良さに包まれながら私は涙を流していた。
「美咲……?泣いてるの?」
「ごめん……嬉しいの、嬉しいんだけどね……」
嬉しいけど、怖い。それは偽らざる私の本音だった。この温もりを失う事が怖くなってしまったのだった。
「大丈夫よ、美咲。私はずっと隣にいるわ。離れたりしない」
「うん……うん……ありがとう、ありがとうこころ……」
こころはずっと、私が落ち着くまでそうしてあやしてくれていた。数時間前と同じように、でも全く違う温もりを彼女は私にくれたのだった。
如何でしたでしょうか?上手くお題に添えたのか全く自信がございませんがやりきった感だけはあります()
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最後まで読んで頂きありがとうございました