【連載版】BARナザリックへようこそ in 異世界カルテット   作:taisa01

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第二話(デミウルゴス、ターニャ、カズマ)

 この店が異世界のアインズ様によって七日に一度異世界につながるようになってから、しばらくの時が経ちました。

 

 七日に一度。

 

 魔導国の暦は三六五日。うるう年は二年に一度。魔導国が建国されて二百五十年。暦自体は過去のプレイヤーの残した影響の一つとして存在していたが、公転周期の差まで取り込んだものは存在していなかったというのが実情のようです。しかし観測技術の革新により、魔法的手法であるものの科学的事実が判明し、この星が地球と違うということも証明されたのですから、いやはや。

 

 話がそれましたが、七日に一度というのは、噂というものが広がるには十二分な時間であったらしく、多くの方がご来店されました。

 

 例えば、アクア様にカズマ様。エミリア様にスバル様。珍しい組み合わせとしてはアクア様、ターニャ様、エミリア様、そしてアルベド様。最後は女子会といったところでしょうか?

 

 そんなことを考えながら、様々な料理の仕込みを進めていると扉の開く鐘の音に意識が引き戻されました。

 

 ちょうど十二時過ぎ。ランチの時間といったところでしょうか。

 

 扉を潜られたのは二人。いえ、一人遅れてついてきておりますね。

 

「いらっしゃいませ。デミウルゴス様。ターニャ様。カズマ様」

「お邪魔するよバーテンダー。本日は風紀委員のランチミーティングでもと思ってね」

「ではテーブル席をどうぞ」

 

 三名が席につかれると、おしぼりとお冷。そしてメニューをお渡しします。

 

「ここってBARって割には、ランチメニューのようなものもあるんだな」

 

 半ば引きずられるように来店されたカズマ様が、手に取ったメニューを見ながらポツリと述べられる。

 

「BARであることは変わることはございません。しかし二百五十年もの間、ここをレストランのようにランチ、ディナー、そしてBARとフル活用される至高の御方や守護者の方々がおられまして」

 

 最初こそ、そんなものもなかったのですが、次第に考えるのが面倒になったのと、知らない料理を食べてみたいということで、定期的に中身がいれかえられるメニューとなったのでした。 

 

「ほほう。その物言い。至高の御方の不敬にあたると考えましたが、ここではソレがルールということですか?」

「はいデミウルゴス様。こちらには二五〇年という時を重ねたルール。BARの中に限り無礼講。外に持ち出さないかぎり……と」

「それは興味深い」

「チーズ入りハンバーグにライスのセットで」

「かしこまりました」

 

 デミウルゴス様との会話の合間に挟み込むようにカズマ様が注文をされました。空気を読まない、というよりも気にもしていない。それこそ、いきなれた食事所で注文をするような感覚なのでしょうね。

 

「私もそれにしようか。量は控えめにしてくれ。あと食前にアイスコーヒーを。みんなにもドリンクをもらえるかな?」

「では、私も同じものを」

「かしこまりました」

 

 私はアイスコーヒーを人数分お出しさせていただくと、カウンターに戻り料理にとりかかります。

 

 まずボウルを取り出し、しめじに舞茸、エリンギ、椎茸など400gほどのキノコを入れ、塩をまぶします。

 

 次に時間停止の保存庫から、挽き肉にみじん切りの玉ねぎ、パン粉、卵黄、塩、コショウ、パルメザンチーズを入れよく混ぜて寝かせたものを取り出します。

 

 そしてサラダ油を手につけ、ハンバーグのタネを四等分に分けて中央をくぼませます。そこにチーズを入れ、サンドしてチーズ入りハンバーグを三個作ります。

 

 フライパンにはニンニクとオイルを引き、ハンバーグを中火で焼きます。

 

 肉を焼く独特の香り、肉の油が爆ぜる音が店に広がります。小さな店だからこそしょうがないところでもあり、また食欲をそそる場面でもあります。もっとも夜のBARとしての時間帯であれば、においが広がらないように魔法のアイテムを起動するのです、その時々の演出といったところでしょう。

 

「風紀委員として定める規則。総則としての七十二条までまとめましたが、やはり細目や総則でカバーできない領域を論じたものも必要かと」

「そもそも、数が多くて全部守るの厳しいんじゃ」

「なにぬるいことを言っている。健全な組織には規則! その遵守の先に自由がある」

「どうみても風紀委員の規則を通り越して刑法っぽいのも含まれてるんですが……っと、いい匂い」

 

 私がカウンターから様子をうかがうと、ランチミーティングが進んでいるようですね。しかし一学園の規則が七十二条とは、どこの国家の刑法なのでしょう。風紀委員のカバーする風紀とは組織を通り越して国家クラスのものなのでしょうか?

 

 

 さて思考を戻し、火が片面に通ったら、余分な脂を捨て裏に返します。そして弱火に落とし、キノコ類を入れ、フタをして焼きます。

 

 肉を焼いている間に、別のフライパンでグラニュー糖を入れ火にかけます。しばらくするとあめ色になったら火を止め、酢を混ぜ合わせます。さらに水、固形スープの素入れ、煮詰めます。最後にバターに片栗粉をまぶしてから入れ溶かします。最後にひと煮立ちしたらパルメザンチーズを混ぜ合わせてソースの出来上がりです。

 

 皿には、先ほど焼きあがったハンバーグに上からスライスチーズをふりかけ、ソースをかけます。付け合わせは肉汁を吸ったキノコのソテー。そして白いライス。

 

  

「お待たせいたしました。チーズ入りハンバーグのセットにございます」

「もうできたのか。では食べるとしようか」

「ですね」

 

 そういうとターニャ様とデミウルゴス様は手元のプリントの束を脇に置かれます。カズマ様はどうやら束はすでに横に置き、準備万端のようですね。

 

「しかし。毎度思うが、この店がBARというのが信じられないのだが。いや見た目はBARなのだがな」

 

 ターニャ様はカウンターのほうに目を向けられます。カウンターには大量の酒類の瓶に各種グラス。みるからにBARカウンターなのだが、出てくるものは普通のランチ。

 

「アルコールがご所望でしたら、お出しいたしますが?」

「いや、やめておこう。では頂きます」

 

 デミウルゴス様とターニャ様はナイフとフォークで、カズマ様は箸で食べ始められました。

 

「うん。やはりここの食事はうまい。酒が飲めない年齢なのが残念でならない」

「肉もなかなかですが、ソースが素晴らしいアクセントになっている。数種類のキノコの付け合わせも、このソースと合わせるならきっと素晴らしい酒のつまみとなるのでしょう」

「ありがとうございます」

 

 そういうと私はカウンターに戻り、片付けをはじめます。

 

「そういえばカズマはなぜこれを選んだのだ? 他のメニューもあっただろうに」

 

 食を進めながらターニャ様はカズマ様に質問をされました。

 

「ん? 学食でも異世界でも食えなかった、日本のご飯を食べたかったからかな?」

 

 カズマ様は若干行儀が悪く咥え箸をしながら、さらりとこたえられます。

 

「たしかに学食にはうどんや蕎麦、丼もの、洋食系だとオムライスとかはあったが、ハンバーグはなかったな。見たときなんとなく食べたくなった」

「たしかに普段たべられない日本での食事というのは貴重なものだな」

「日本の食事とは?」

 

 ターニャ様とカズマ様の言葉を聞いていたデミウルゴス様が、ナイフとフォークを置かれ若干真剣な顔をされて質問をされました。

 

 日本。

 

 聞けば、ターニャ様、カズマ様、そしてここにいないスバル様はほぼ同時代の日本。そしてアインズ様はそれよりも未来の日本から転移・転生されたとこと。

 

 私たちの主であるアインズ様は、二五〇年前にリアルのことを守護者各位に打ち明けられております。

 

 しかし、こちらの世界のアインズ様はその事情をごく一部の方以外に伝えられていない。いまの会話でデミウルゴス様はなんらかの推測をたてたのでしょう。

 

 カズマ様は、デミウルゴス様の質問の意味を理解されておられないようで、何を言っているといった表情をされておりますが

 

「あ~。日本という国の食事だ。私も縁があってな、たまに食べたくなったということだ」

 

 対するターニャ様はデミウルゴス様の質問の意味に気が付かれたのでしょう、若干言葉を濁されながら答えられました。きっと内心うかつな事を言ったと、考えられておられるのではないでしょうか?

 

「なるほど。そのような国の料理も食べられると」

 

 デミウルゴス様は意味ありげにカウンターに立つ私の方に目を向けられます。

 

 ナザリック最高の知恵者

 

 言葉や表情の端々から情報をかき集め、ほぼ未来予測に近い策略にまで落とし込むことができる存在。もっともその生まれの因果によりアインズ様を含め至高の存在に対する妄信的な評価が抜けぬ方。

 

「たとえこの場の自由が認められていようとも、お客様のプライベートを本人のいないところで明かすほど無粋ではございませんか?」

「なるほど。確かに無粋ですね」

 

 どうやらご理解いただけたようで。

 

「楽しい会話もよいが食べてしまおう。そろそろ戻る時間だ。風紀委員としても、授業に遅れるわけにはいかんからな」

「それもそうだ」

「もっともな意見ですね」

 

 ターニャ様の言葉にカズマ様が同意されました。デミウルゴス様も食事を再開されました。

 

 それにしても風紀委員のランチミーティングはわかるのですが、横に置かれた紙束。よく見ればコミケのカタログのような厚さなんですが、それだけ規則案をつくったんでしょうか?

 

 

 これからも、いろいろな方がこのお店に訪れることでしょう。

 




次回はBAR要素が出るはず!

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