【連載版】BARナザリックへようこそ in 異世界カルテット 作:taisa01
夜の十時をとうにすぎている。
ナツキ・スバルは困っていた。
二度の異世界転移。二度目の学生生活にも慣れてきたある日。ふと小腹が空いたのだ。
学園の近くにある学生寮のような場所で暮らしており、小さな冷蔵庫を開けてみるも、食べれそうなものはない。
「いや、ないわけじゃないけど、たくあんと秋刀魚に、カット野菜が少々。米は朝飯用にタイマーセットしちまってるしな」
もともと冷蔵庫の中身がほとんどないのはわかっていたが、明日の休日にでもまとめて買いにいこうかと考えていたのだから、本当に朝飯分ぐらいしか残っていなかったのだ。
「買い置きしてたお菓子類もレムが来た時にいっしょに食っちまったしな」
こんなとき、茶と煎餅の一枚でもあれば腹も落ち着くのだが、それすら見当たらない。
そんなことを考えながら空に近い冷蔵庫の前で唸っていると、ふとあることに気が付いた。
「ああ、コンビニにいけばいいんだ」
けして実質的に長い期間ではないが、主観的に長い異世界生活が祟って、スバルの中でコンビニというものが思い出されるのには、相応の時間がかかった。
「まあ、明日も休みだし、すこしぐらいいいか」
まるで自分に言い訳をするように、スバルは独り言をいうと、財布をつかんで夜の街にでるのだった。
***
この町は不思議だ。
一応町として住民が住んでいるらしき家はある。商店街も少々大きめなスーパーもある。
探せばカラオケやゲーセン。書店などもある。
しかし、学園に転移したばかりの時は、それらを認識することができなかったのだ。
ーーまるで、少しずつ町が広がっている。いや、迷い込む人が増えるたびに役割があたえられている
そんな、不思議な雰囲気がただよっているのだ。
ナツキ・スバルはそんなことを考えながらコンビニに向かって歩いている、ふと人影が見えた。
だれだ? といぶかしんだが、すぐにクラスメイトの一人、ダークエルフのアウラ・ベラ・フィオーラであることがわかった。
「あれ? スバルこんな時間どうしたの?」
「お前こそ、こんな遅い時間に」
「いや~。ちょっと小腹が空いて」
アウラは若干恥ずかしそうに頭をかきながら答える。そんな年相応の姿にスバルは純粋にかわいいと考えるも、同時に恋慕の対象であるエミリアや、逆に慕ってくれているレムの顔が浮かび、その考えを頭の隅へと追いやる。
「なんだ、俺と同じか。成長期だからしょうがないよな」
「うんうん。そうだよね。しょうがないよね」
アウラは大げさにうなずく。もっともダークエルフとして76歳のアウラが、スバルのいう成長期なのかは、神のみぞ知ることだが。
そんな二人がいざコンビニにと考えて、動こうとしたとき、目の前に一軒の店があることに気が付いたのだった。
ーーBARナザリック
二人とも一度は足を運んだことがある店だ。
その店を見た後にでた言葉は二人とも一緒だった。
「この店でいいか」
「この店にしようかな」
二人は、顔を見合わせると軽く笑い、扉を開けるのだった。
***
時計を見れば十一時を回ったところ。カランカランと扉が開く音とともに訪れたのは若い男女。
「いらっしゃいませ。アウラ様。スバル様」
「こんばんわ。バーテンダー」
元気な声をかけられたアウラ様。そしてその場で静かに会釈をするスバル様は中にはいると、自然とカウンター席につかれました。
若い男女が夜の遅い時間に……。一瞬デート? という単語が浮かびますが、二人の間に流れるのは自然な空気。どちらにしろ、無粋な言葉を避け質問をなげかけさせていただきます。
「そちらでも遅い時間かと思いますが、いかがなさいましたか?」
「いや~小腹が空いてコンビニでもっておもって外にでたら、ばったり店の前でアウラに会ってさ。ここで良くね? って」
「うん」
スバル様は、軽い口調で状況を説明されました。
対するアウラ様は、すこし恥ずかしそうにされているあたり、乙女としての羞恥心を多少は刺激されているのでしょう。
「わかりました。何になさいますか?」
「待った!」
メニューを手渡しながら質問すると、スバル様は手の平を私のほうに向け待ったと声をかけられました。
「一回やってみたかったのがあるんだ」
「どのようなものでしょうか? スバル様」
そうすると、スバル様は座りなおすと、何かの映画のワンシーンのようにカウンターに手をつき、少年が無理に格好つけた表情でいわれました。
「バーテンダー。おまかせで」
「ぷっ」
そのしぐさにアウラ様は盛大に噴出され、顔をカウンターにつっぷされました。
「あ~おまかせと申されましても、まだスバル様の趣味嗜好を把握しておりませんので」
「あっ、やっぱダメ?」
「常連となるくらい通っていただければ、可能ですが今では厳しいですね」
「映画みたいにはいかないか」
「なにそれ」
スバル様盛大に笑っておられてますが、アウラ様も若干涙を浮かべるほど笑っておられます。
「アウラ様の趣向は把握しておりますが、スバル様は、苦手なものはありますか?」
「たいていのものは美味しくたべられるかな。あ、でも酒はなしで」
「人間種の見た目通りの年齢ということでよろしいですか?」
「人間種って言われると、違和感あるが」
スバル様は頬をかきながら、感想をのべられます。
「昔のアウラ様なら、お腹すいた~とこの時間からのワイン片手にステーキとかガッツリ系の注文をされておられましたが」
「ちょ。そっちの私ってそうだったの?」
「俺も嫌いじゃないけど、さすがに重すぎだろ」
アウラ様は頭を抱えながら小さくなっておられますね。まあ、ナザリックは二十四時間運営。食事の時間の睡眠の時間も、職務によってバラバラなので、夜中だからとはいえ、その人にとっては普通の夕飯の時間だったりするこのもあるんですよね。
「では、小腹を満たす程度のおつまみと、軽い飲み物をご用意いたしましょうか」
そういうと、私はウィスキー、レモンジュース、ライムジュースを取り出します。そしてシェイカーに氷とウィスキー、レモンジュース、ライムジュースを入れ、さらにグレナデンシロップと砂糖を1tsp。通常のレシピならウィスキー45ml、レモンジュース20mlですが、量を逆転させているとことが特徴でしょうか。
そして軽くシェイクしてグラスに注ぎ、氷を加え、炭酸水で満たします。
「カルフォルニア・レモネードのアレンジにございます」
琥珀色と光を反射する泡が美しいカクテルをアウラ様の前に置かせていただきます。
「すっきり口当たりがジュースみたい。でもほのかな香り。お酒?」
「はい。ウィスキーが少々はいっております。度数が低めですので、後には引かないかと」
「すっごくおいしい」
続いてジンジャーエールにフレッシュライムの四分の一カットを二つ。氷を入れたグラスにライムを一つを絞ります。そしてジンジャーエールを注ぎ、もう一つをカットして飲み口に飾ります。
「ノンアルコール・モスコミュールにございます」
「あ、お酒はいってないのね」
「学生の方には、こちらのほうがよろしいかと。雰囲気の楽しめますので」
スバル様はグラスを傾けられます。
「うん。ジンジャーエールだけど、ひと手間がすごくいい」
スバル様も少し大人の雰囲気を楽しまれたようでなにより。
さて、続いておつまみにいきましょう。
まず時間停止の保存庫から、すりおろしたニンニクを溶かしたバター、そしてオリーブオイルを混ぜ合わせたものを取り出します。そしてフランスパンをカットしたものに、それを乗せ上からドライパセリを振りかけてオーブンに放り込みます。
つづいて用意するのはエリンギとベーコン。エリンギは半分に裂いて、ベーコンで巻きます。そしてくずれないように楊枝で刺します。そして油を引いたフライパンにバターを溶かし、軽くあぶりながら塩を振り、ベーコンに火が通ればさらに盛り付け、ドライパセリと黒コショウを少々。
こちらの火が通ることには、オーブンも焼き上がります。
「キノコのベーコン巻きと、ガーリックトーストにございます」
「すげえいい匂いだなアウラ」
「うん」
見れば二人の顔はまるで示し合わせたようによだれがでそうなほどの満面の笑顔を浮かべておいでです。
二人が手をのばすと、ご満足いただけたのでしょう。すごい勢いで二つの料理がなくなっていきました。
しばらく無言でたべられ、ひと心地ついたのでしょう。二人から満足された雰囲気がただよいだします。
「もうちょっと食べたいとおもうけど」
「おいおい、これ以上食うとふとっちまうぞ」
「こう見えても、どんなに食べても太ったことない体質なんだよね」
「世の女性にナチュラルに喧嘩を売ってますがいいんですかね」
そんな風に飲み物を傾けながら楽しそうに会話されておいででした。そんなお二人に私はちょっとした質問をさせていただきました。
「お二人はクラスメイトとお聞きしておりましたが、仲がよろしいようで」
「あ~飼育委員でいっしょだし、なにかと話す機会もおおいからな」
「だね。スバルはよくハムスケに齧られてるけど」
「あれは野生的な盛り上がった結果らしいが、毎回血だらけになるのも困るんだよね」
なるほど。アウラ様が飼育委員と。魔導国ではテイマーや狩人の能力で貢献されておいででしたが、学園生活でもその能力で貢献されておいでなのですね。
なにより、こちらの魔導国では守護者やナザリック所属の者以外と、このように楽し気に会話される姿はありませんでした。これはこれで、よい縁だったのかもしれませんね。
そんな風におしゃべりをされていると、気が付けば0時をまわっていました。
同時に扉が開く鐘の音が響きます。
「いらっしゃいませ」
入ってこられたのは妙齢の美しいダークエルフの女性。ダークエルフ特有の浅黒い肌に映える金髪の外はねのショートボブ。スバル様とアウラ様の二人が見ていればその美貌に目を止められたことでしょう。しかし二人は扉の音で我に返ったのでしょう。
「あ、こんな時間だ。もう帰ってねないと」
「そうだね」
「じゃあバーテンダー。ごちそうさま」
「ごちそうさま~」
そういうと慌ただしく出ていかれました。
そんな姿を見送ったダークエルフの方は小さく微笑みながら、カウンターに座られます。
「いつものをもらえるかな」
「はい」
私はウィスキー、レモンジュース、ライムジュースを取り出します。そしてシェイカーに氷とウィスキー、レモンジュース、ライムジュースを入れ、さらにグレナデンシロップと砂糖を1tsp。ただし通常のレシピと違いレモンジュースの比率を多めにします。
「カルフォルニア・レモネードのアレンジにございます」
「ありがと」
そういうと、静かにグラスを傾けられます。
カクテルの味をゆっくりと楽しむその表情は穏やかで、そしてどこか懐かしいものを見たといわんばかりに哀愁のようなものを漂わせておいででした。
きっと任務から帰られたタイミングなのでしょうか。それとも先ほどの男女の光景を思い出されているのでしょうか。
そんなことを考えながら私はいつものように声をかけさせていただきます。
「本日いかがいたしましょうか」
「うん。おまかせで」
「かしこまりました」
ほぼ一週間出張なので、次の投稿は来週の終末予定です。