当二次小説は、MHWに準拠した背景設定等を含めたネルギガンテではなく、あの体躯で悠々と空を飛んだり時に外敵と激しく戦う古龍という存在へのリスペクトから生まれたものです。
自浄作用といったわりかし複雑な設定を背負っているネルギガンテさんですが、拙作では遠くへほっぽりだしたものです。(何となく、主人公がそういう思想に引っ張られるのはあります)
結論。
「拙作はネルギガンテがカッコよくて書きました」
第1話
——個性の発現がいつだったのかは覚えていない。
それが目覚めたとき、あたりは隕石が落ちたかのように更地で、周囲の人間は砂嵐に巻き込まれたかのように擦り切れていた。
事の始まりは十年前、個性が発現したばかりの子供を狙った大規模組織による誘拐事件。日本の警察もすぐに捜査にあたり、ヒーローと連携をしながら犯人の追及を進めた。しかし、ヴィランは海外のヴィランとも繋がりを持ち、犯人の名前や出生を突き止めても逃走に特化した個性から中々捕まえられないでいた。
そして、かくいう俺もその誘拐事件の被害者であった。
犯人たちは大胆にも、個性を判別する病院に待機しており、出てきたところを家まで付け狙い尾行する。家の場所を把握すれば深夜にでも二、三人で誘拐を実行する。
俺が目覚めたとき、そこはまるで無理やり洞窟を掘った牢屋のようだった。錆び付いた金属の棒が縦に嵌め込まれ、小さな子供であれば抜け出せそうではあるがそれをする子供はいない。なぜなら、外には小さい頃、母親に読み聞かせてもらった絵本に出てくる怖い存在がいるのだ。今思えば、その見張り役の個性は『個性を持つ者の恐怖を感じるものに変化する』といったものだったのだろうか。小さいながら泣くことも恐れ多いと悟った子供たちは背を向けて壁によるばかりでなにもできなかった。
まずそれが、一つ目の変化。
俺には見張り役と思わしき存在が、普通の人間に見えてしかたなかった。どこにでもいるような、平凡なサラリーマン。あるいは休日に盆栽を弄る柔和なお爺さん。老若男女姿形が捕われず、まるで
錆びた棒を握りながらそちらを凝視する俺に気付いた見張り役は、馬鹿にしたような、哀れんだような表情をしながらこちらへ歩いてくる。
『なんだ……お前は——無個性か』
無個性。
それは現代世間においてなによりも下に見られる状態。個性が当たり前になり、日常生活で使えるものからヒーローとして人を助けられるものまである中、なにも持たないもの。それが、無個性。
個性はある。
病院でそう言われた。
しかし、発現がわからないと。
分析と解析。その個性を持った医者が自分を診断したわけだが、普通両親の個性から派生できそうな個性に目安をつけ、自身の個性を調べるのだが俺にはそれが当てはまらなかった。
男はどうやら、俺が反応しないことに勘違いしたようだった。
『なぁ、役立たず。今の世の中、能無しがどれだけ生き辛いかわかってるか』
母親の個性は『手のひらから花を咲かせる』もの。父親の個性は『歩いたところに一定時間植物が生える』個性。そのため俺の個性はそれに派生した植物に関連したもの、もしくは複合型。
『だから——ここでオレ様がその痛みを消してやろう』
ニヤニヤと笑いながらこちらに銃を向けてくる
どういうものか、存在は知っている。数瞬後、火薬が噴いて鉛玉が飛んでくる。しかし、心の深い奥底、なにかの魂が恐れるなと慟哭を響かせる。
『じゃあな、能無し』
破裂音、そして薬莢。
背を向けていた子供たちはその事実に目蓋がちぎれるほどに目を瞑り、震えている。
しかし——。
なおも晩鐘のように低く分厚い声は俺の身体から外に、まるで殻を破ろうとするかのように鳴る。
窮屈だった。
解放感と……、
無情に感じる空腹——飢餓。
身体が、浮いていく。
ああ、なにもかも。
「——
そして、記憶は最初に戻る。
一、
「——ジン!
そろそろ起きなさい、早くしないと試験に間に合わないわよ!」
朝、日差しが心地良い時間に最悪の目覚ましが鳴る。
「……」
欠伸をすれば骨が軋むように鳴り、変な体勢で寝ていたのかと首に手を持っていく。幸い寝違えてはいないようで、ベッドから立ち上がると春前であるならか未だ冷たい木の床が俺を歓迎した。
「
眠たい目蓋を擦りながら下へ降りる。
リビングに着くと朝食は出来ており、温かいご飯が、かなり、大量に、置いている。
「いただきます」
ご飯を中心に焼き魚や味噌汁。これは良いだろう、それ以外に目を見張るのは朝からステーキや麻婆豆腐、唐揚げなど……明らかに重たいものも並んでいる。しかし、それをさも当然に片付けていくのが俺である。
あぁ、美味美味。
「今日は実技試験があるんでしょ? 大丈夫だと思うけど、あんまやり過ぎないように注意しなさいよ」
「了解」
短くそう答えると、計一キロはあったんじゃないかという朝食をすべて食べ終える。
適当に茶を飲んで、テレビを見やるとちょうどその話題があった。
『——雄英高校、本日入学試験』
と。
第一話「 入学試験 」
『今日は俺のライブへようこそぉ!!』
絶対違う。
学力試験を何とか終え、実技試験へと案内された俺、ひいては競争相手である受験生たちを待っていたのは『ボイスヒーロー』プレゼントマイクであった。痺れるような黄色の髪と、サングラスが特徴的で自身の声量を増幅させる個性によって会場全体に声が響いている。
緊張をしている受験生を和ませようと考えたのだろうか、それは失敗に終わっていた。
『実技試験の説明だ!』
正面に出されたスクリーンと、配られたプリントを照らし合わせて解説していく。
雄英高校の実技試験は毎年同じ形式で行われ、やはり今年もロボットを仮想ヴィランとしたポイント制。1ptや少し大きなものは3ptと、種類は多岐にわたる。しかし、プリントにはポイントが加算されるロボットと別に、注釈に0ptとの文字が見える。
気になっていたのは周りも同じで、真面目そうな受験生が手を挙げて質問をする。
『こちらには0ptの記載があります! もしこれが記載ミスなどであれば雄英の失態といえますがどういうことなのでしょうか!』
雄英への指摘と、そして近くでぶつぶつと呟いていた受験生を叱責した彼はプレゼントマイクからの答えを待っている。
『ハッハッー! 落ち着きな真面目ボーイ! この0ptは別に誤って載せたわけじゃないぜ!
こいつは——0ptの仮想ヴィラン。
つまり、倒してもポイントにはならない』
なるほど、簡単にポイント稼ぎをしている時間はないということだ。
テレビや雄英の試験情報を持ってきた教師は、実技試験では個人の強さ、判断力、応用力などを見るものだと言っていた。この0ptもそれを見るためのいわば妨害仮想ヴィラン。どんなものかはわからないが、それらを一気に判断できるギミックの可能性が高い。
『じゃあ、最後に金の卵たちへ俺から校訓のプレゼントだ!
かのナポレオン・ボナパルトは言った……真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていくものだと。
——Plus Ultra、さらに向こうへ。
もっと先を目指しなァ!!』
二、
何体のロボットを破壊しただろうか。
幸いロボットは関節が見えて柔らかいものから、明らかに防御特化なものまであったため
「ふ——んっ!」
跳躍し、動きの鈍い腕を逆上がりの要領で壊す。地面へ着地し、バランスの崩れた車ほどのロボットへと駆け上がる。
指先を表面部分のみ
「時間は……あと十分か」
街をモチーフに作り出された大規模なジオラマ。中心にある広場にあった制限時間を示した時計を見ると針はあと少しを表している。
最後まで稼いでおくか、と足を進めようとすれば地震が起きたかのように地面が揺れた。そちらの方に視線をやれば、フィールドに鎮座していた幅の広い国体道路が割れ、というよりは分かれていき、地割れのような現象が起きている。やがて完全に穴が広がると、静かな暗闇から不朽の鋼鉄魔人が現れた。
「あれが0pt!」
「やべぇぞ!」
「逃げろ、巻き込まれるな!」
高さにして、五〇メートルはあるだろう。
一番高かったビルをとうに越し、機械的な瞳は逃げ惑う受験生を寡黙に睥睨している。
仮想ヴィラン、実技試験。すべてがフェイクでありながらも、受験生を震え上がらせた巨大ロボットはまさに絶滅必須の強敵だった——!
「——まさかこうなるとは……私もまだまだね」
そんな阿鼻叫喚とまではいかないものの、受験生たちの叫びを聞いていた俺は悲嘆した声を拾った。
巨大ロボットがキャタピラーを動かし始め、砂煙を巻き起こす景色に写ったのは登場時に崩れた街の瓦礫に巻き起こまれた、体操着であろうものを着た黒緑色長髪を持つ受験生だった。どうやら彼女は巨大ロボットの進攻先一〇〇メートルほどで足を瓦礫に挟まれたようで、なんとか引っ張っているが抜け出せないでいる。周囲は我先と走り去るばかりで、一人も膝をつく彼女に目はくれない。
昔見た、テレビの特集を思い出した。
『ヒーローは飽和している』
今の時代、本当の意味でヒーローはいるだろうか。憧れているから、かっこいいから、高給だから、人気者になれるから——ヒーローは世間に認められるすべてを兼ね備えている。しかし、そんな者たちの一体何人が、自己犠牲を賭して人を救えるだろうか。小さい頃、俺が見ていたライダーや戦隊モノは、悪を倒すことで金をもらっていたか? ——否。
すべては、人に対する無償奉仕。
ヒーローだから人を助けるのではなく、人を助けるのだからヒーロー。
そういう存在が真のヒーローなのだ。
「————!」
走り出す。
人の身では間違いなく間に合わない。
すれ違った受験生たちは、己と真逆に走る俺を見て一瞬振り返る。「どこにいく」「なにをする気だ」、声をかけ腕を取る者もいる。それはきっと、たとえ0ptだとしてもなにかあれば、なにかあるのではないかという恐れから。できれば、そういう者とは同じ学び舎で席を隣にしたくないものだ。
なぜなら、俺はポイントなどどうでも良く、ただ女の子を助けるために走っているのだから。
二足歩行で走っていた姿勢は四足歩行へと変わる。
人間サイズの四肢には白い刺が生え始める。黒曜石のような鱗が浮かび上がり——。
俺は『渇望の黒創』へと変貌する。
一歩跳躍、容易く巨大ロボットの背を超える。踏み出した瞬間、身動きの取れない女の子がこちらを見ていたのを黄色の瞳で捉えた。
捻れ唸る大角。
痛々しいほど刺に覆われた巨腕と剛脚。
その体躯より大きい一対の翼は広げるだけで絶対強者の風格を滲み出す。
山なりに巨大ロボットの頭上へ来た俺は、翼で空を掴み身を反転させる。
狙うは、完全破壊。
元凶を根本的に破壊し、尚且つ女の子を助けることである。
宙を蹴ったかのような勢いで落ちていく。衝突まであと刹那、柔らかい鉄は角で溶けていく。腕を広げ、さらに接地面積を増やすとひしゃげながら地面へと吸い込まれていった。
隕石が落ちたかのような音に、背を見せていた受験生は振り返った。そこには先ほどまでいた巨大ロボットの姿はなく、下を見れば無残にひしゃげた残骸と、転がってきた部品から身を挺して女の子を護る——黒き存在だった。