龍(仮題)   作:神の筍

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第10話

 

 どんな人間——いや、生き物であれど突然の出来事には身体が固まるものである。

 たとえば、道を歩いているボクシング選手にいきなり殴りかかったとしよう。それくらいならば、ボクシング選手は鍛え上げた動体視力で対応してしまう。気を抜いたサッカー選手にサッカーボールを投げた場合も、容易く足で受け止めてしまうはずだ。

 だが、予想外のことならばどうか。

 背後から、足元から……真上から。

 

 

 

 たとえば——天井が降ってくる、など。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

 降ってきたのは一本の螺子。

 思いも寄らぬそれに、死柄木の目線は下に行く。それは黒霧も同じで、訝しげに螺子を凝視した。

 そして、

 

 

 

『———GuRaaa◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎aッ!!!』

 

 

 

 紙を破るように天井がひしゃげ、琥珀の瞳が死柄木と黒霧を捉える。

 その腕には締め付けられる脳無が存在し、今に出ようと表情を変えず踠いていた。

 

「……!」

 

「クソッ」

 

 悪態を吐いた死柄木の頭上に、寸分も許さぬ勢いで黒い靄がかかる。最大限まで自身の個性を拡大させた黒霧は落ちてくるパイプや鉄板を吸収する。

 

「——今だ!」

 

 個性によって碧雷が迸る。

 

「イレイザーヘッドか……!」

 

 黒霧は思惑に気付くが、今は死柄木を守るのが先だった。

 いつものように余裕があればワープ先をそちらに移し替えただろう。だが、安全設備を最大限配慮した雄英の建物の天井は想定を超えて分厚い。咄嗟に展開した入り口に放出し続けるのが限界だった。

 緑谷が提案した作戦は非常に簡単な——予想にしない箇所、タイミングでの攻撃。

 一触即発と思われた状況で龍滅木だけが背中を見せたのも、翼があることを死柄木たちに印象付けられていることが前提の行動だった。脳無という最強の戦力に匹敵ないし正面から戦えるのは龍滅木のみで、その存在を易々と外に出すかという当たり前の疑問は死柄木の嬉々としていた心情と、いざその予想外の行動を取られた現実の落差から消え失せた。

 

 

 

 

 

第十話「 平和の象徴 」

 

 

 

 

 

『龍滅木君はまず、背中を見せて後ろから外に出て欲しい。

 そうなれば、あいつは絶対に龍滅木君を逃さないように追いかけさせるはず』

 

『それで?』

 

『外に出たらとりあえず、空に飛んで、すぐ天井に上がって欲しい。あとは外側から天井を崩してくれたら良いんだけど……』

 

『大丈夫だ。

 場所は……換気扇のところか。外にもファンか穴が空いているはずだな』

 

『あの死柄木と呼ばれたヴィランは、他の二人と違って落ちてくる瓦礫を防ぐ手はないと思う。もし上から大きい瓦礫が落ちてきたら、どちらかの手を借りて助かろうとする。

 それは——ワープ個性の方。

 逃走手段でもある個性を、わざわざ外に出して遠ざけることはしないはず』

 

 理解はした。だが博打過ぎる。

 俺を追ってくる可能性は高いとして、すれ違い様に脳無が三人を襲わない保証を出来るだろうか?

 

『緑谷——』

 

『——今。今僕が考えられるのはこれくらいしかないんだッ』

 

 化合繊維の手袋が強く握られていた。素肌であればきっと血が流れていただろう。

 分かっている。

 今出来ることは、即席で為せることはそんなことしかない。俺には一瞬で姿を消すことも、心を読む術も使えないのだから。ただ正面からぶつかることしか出来ない。

 恥だと思うことはない。 

 現に、今もこうしてその力を頼りに人を救おうとしてくれているのだから。

 

「龍滅木君!……相澤先生は確保した!」

 

 身体にモギモギを付けた緑谷と、くっ付いた相澤先生。梅雨ちゃんは警戒しながら、許容量を超えたモギモギを取ったことにより痛みに号泣する峰田を宥めている。

 

「だから——」

 

 

 

「脳無! 何をやってるんだ! 早くそいつを嬲り殺しにしろ!」

 

 

 

「……ッ!」

 

 動き止めていた脳無が今まで以上の怪力を発揮する。

 内側から無理やり押され、地面に叩きつけながら飛翔した。

 

『Guッ◼︎◼︎◼︎ォォォ!!!!!』

 

 その咆哮は殲滅の意思。

 負けることはない。

 死柄木は、脳無はこのまま俺を見逃さないだろう。そうであるならば、ここで決着を付ける。先ほどは油断から力負けしたが、今度はない。

 久しい人型相手に、殺さないように手加減が生じてしまった。

 圧倒的な怪力、急速な回復力、痛覚のない——非人間的怪人。

 

 まったく、ヒーローが日頃こんなモノを相手にしてるとは夢にも思わなかった。

 こんなの給金と名声だけじゃあ、割りに合わないぞ。

 

 再び、脳無と正面から掴み合いになる。

 

「——ッ」

 

『◼︎◼︎u!』

 

 少しずつ脳無が地面に押されていく。コンクリートが割れ、踝まで埋まった。

 痛みで止まらないのであれば意識を絶つしかない。

 掴みあった腕を掬うように離して再び上空に戻る。どれだけの怪力があろうとも、ほんの少しの間無防備に止まってくれれば良い。

 

「——デク! どういう状況だ!」

 

 倒壊ゾーンからやって来た爆豪は火花を散らしながら、意識のない相澤先生を抱えた緑谷に尋ねる。

 どうやら他のゾーンに飛ばされたクラスメイトも集まって来ているようだ。素早く周囲を窺うと、見知った顔が階段の方へ走っている。せめて、こいつだけでも行動不能にしなければならない。

 根元から大きく翼をはためかせると突風が突き抜ける。

 

「——ッ」

 

 その瞬間——場を覆うように氷壁が脳無を包んだ。

 

「かっちゃん、轟君!」

 

「凍らした。これで一先ず動きは——」

 

 氷壁は埋まっていた脳無と、瓦礫に囲まれたヴィラン二人を纏めて凍らした。防寒対策をしていない者ならば時間が経つにつれて行動を停止させるだろうが、

 

『◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!』

 

 円錐螺旋状で優先的に脳無に突出する。

 

「おい待て、龍滅木! やりすぎじゃねえか!」

 

 爆豪の隣にいた切島が叫んでくるが構いはしない。

 側から見れば氷漬けのヴィランに、巨体を持つ俺の突進。オーバーキルと思うのも仕方ないだろう。

 だが、これで止まっているならば苦労はしない。

 

「罅、まさか……」

 

 自身の放った氷が割れたのを確認した轟が何かを言うよりも早く身体をぶつける。

 

『……!』

 

「——」

 

 たとえ痛覚遮断を持っていようが、神経にダメージがあれば行動停止するはずだ。痛覚とは身体からの限界シグナルであり、痛覚がないからといって神経が通っていないことはないはず。どれだけ規格外の生物とはいえ、根本的な部分にダメージを負えば耐えられないだろう。

 角を先から接地、激しく凍りが割れる音が響く。

 

『g U◼︎ooouッ』

 

「……!」

 

 ああ、だろうな。お前は動く。そんなことは分かっていた。あれだけの猛攻を受けて、まったく聞いていない素振りなんてものは無いはずだ。

 怪力、再生、痛覚遮断……。

 それだけじゃない。こいつは恐らく、土嚢のような衝撃吸収の個性を持っている。再生があるにも関わらず衝撃吸収など、インチキにも程度ってものがあるだろう。

 

まったく(Gra)……』

 

 地面に二本の線を作りながら押していく。

 倒せないならば、せめて動けなくする。それだけの威力を持つ技を出せば間違いなくクラスメイトへ被害がいく。せめて轟が囲むような氷壁を生み出してくれれば良いが、残念なことに話せない。

 

『……!』

 

「……」

 

 数百メートルの距離を途中から脳無を掴んで持っていく。山岳ゾーンにぶつかった俺は人工岩壁に脳無を撃ちつけた。

 

「ッ◼︎◼︎!」

 

 その瞬間、発光したかと見間違うほど前身が揺らめくと、幾本もの鋭棘が脳無を無慈悲に縫い付けた。

 

『——GrauuuuuuO O O O O!!!!!』

 

 生者の魂を揺さぶる咆哮が哭く。

 奇しくもそれは、平和の象徴たるオールマイトが現れた同時であり、この戦いの終わりを告げることとなったのは余談である。

 

 

 

 

 

二、

 

 

 

 

 

『Gru……ッ、◼︎r U……ッ』

 

 オールマイトが現れて直ぐ、轟の氷壁からワープ個性を用いて脱出していた死柄木たちだったが、呼んでも現れない脳無がいない状況では不利だと悟ったのか退いていったようだ。なぜいったようだ、なのかというと、死柄木たちと対峙するクラスメイトを助けに行くよりも、棘の拘束を解いて脳無が解放される方が危険だと感じたからだ。

 最強と名高いオールマイトがいようと、相手にはワープ個性がいたのでたまさかな状況を避けるために監視していた。

 数分もすると、先行していたオールマイトに続くようにプロヒーローたちが続々と現れて事態の収拾へ計っていった。

 クラスメイトがのしていたヴィランたちも順次お縄についている。森林ゾーンはここ海難ゾーンを含め特に荒れ具合が酷いとプロヒーローが言っていたが、ヴィランの中に地形破壊の個性がいたと適当を言っておいた。

 まあ、ほら……あれだな、身体を木材にする個性を持つヴィランがいたので、そいつを投げ飛ばして樹木など倒れたので実質的にそうに違いない。

 

「わー、楽しそうだね龍滅木君!」

 

 と、海難ゾーンの浅瀬で水浴びをしていた俺に話しかけるのは葉隠である。隣には梅雨ちゃんと、もう少し先にはプロヒーローが残党に警戒しながら護衛をされているクラスメイトがいた。

 

「私も蛙の個性だから、水浴びの気持ち良さはわかるわね。

 ……峰田ちゃんが漏らしていたことは言わない方が良さそうね」

 

「ん? 何か言った、梅雨ちゃん?」

 

「何もないわ、けろけろ」

 

 人間形態に戻らないのは別に戻れないというわけではなく、このまま戻れば全身筋肉痛に苛まれるからである。この個性の本質がどういうものか、未だに把握し切れていない部分は多いが、今日のように激しく動いたあとはストレッチというべきか、時間を置いて戻らなければならないのだ。

 ただこの形態でする水浴びは気持ち良いという理由もあるが。

 いわゆる変形型の個性持ちは、こうして変形後のケアも欠かしてはいけないとは龍子さんの教えだ。一度、龍形態の運動能力を見ようと山奥に連れて行ってくれた際、湖でやる水浴びは最高だった。以来、月一ほどで目を盗んで悠々と満喫している。

 

「そろそろ時間だゼ!

 龍滅木もバスに乗れるように個性を解除しろォ、イェア!」

 

 プレゼントマイク——山田先生に言われると、一度飛んで水を落とす。着地際に外套を広げると人間形態に戻った。

 

「おし、色々あったけどとりあえず雄英に戻るぞォ!」

 

『……』

 

「戻るぞ、オー!」

 

『お、おー……』

 

「ノリの悪い奴らだぜ。バスの中でとびきりオレのライブを届けてやるから期待しておきな、ハッ!」

 

 周りを見れば、その荒れ具合からどれほどの激戦だったのかがわかる。雄英に入ってからそれほど経たない時期での悪意との衝突。その出来事は、ヒーローの卵たちにとって最悪か、それとも——。

 陰鬱な雰囲気を吹き飛ばそうとテンションを上げてくれるプロヒーローはやはり優しかった。

 

 

 






 ネルギガンテの''棘''あるじゃないですか。
 攻撃の役割もあるんですが、生殖的役割があるんじゃないかって仮説があるんですよ……つまり脳無に……。
 リューキュウにぶっ刺しまくらなきゃ(鋼の意思
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