龍(仮題)   作:神の筍

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二期(職場体験——)
第12話


 ——雨が降っていた。

 

 道には水溜りを生み、人々を写し出している。時折車が通れば、歩いていた小学生が楽しそうに声を上げてはしゃいでいた。

 

『——雄英体育祭、皆さまどうでしたか!

 今年のベスト4はこちらのメンバーになっております!』

 

 途中にあったオーロラビジョンは、一位から順番に簡単な説明書きとともに入賞者たちを表示しては流れていく。

 過去にあったというオリンピックは廃れ、日本ではそれに代わる競技大会として雄英高校の体育祭が注目されていた。将来のトップヒーロー候補ともあればその人気は一時期はプロヒーローも凌ぐほどで、登下校中は声を掛けられるかも知れないと教えてもらった。

 

「なぁ、あの服装……」

 

「あれ、本当だ」

 

「もしかして体育祭出てた子かも」

 

 傘を深く差し、早足で雄英に向かう。僅かに残念そうな声が聞こえるが、このまま相手をしていればホームルームに間に合わなくなる。たとえ理由を説明しても、相澤先生は「それもヒーローの仕事だ」と言って容赦なく放課後掃除を命じるだろう。

 

「——おや、その後ろ姿は龍滅木君だね!」

 

「む、飯田か」

 

「ああ、俺だ。その様子だと龍滅木君も遅刻か?」

 

「いや、このまま行っても間に合うだろうが……」

 

 緑色の合羽を着て走っていた飯田と合流し、市街を抜ける。雄英に続く道は途中から林に入るのでそこまで行けば問題ないはず。

 

「ははっ、さすが一位(・・)だな! やはり雄英体育祭優勝ともなれば一気に人気が出るらしい!」

 

「人の目が増えるのは苦手だよ」

 

「たしかにそうかもしれないな。特に龍滅木君は豪快な個性だから。でも、これはヒーローの宿命でもある! さぁ、注目に恥じぬよう急ごうじゃないか!」

 

 結局、人気を逃れても飯田と走り抜けることになった。

 雄英までもう少しといった道のりに緑谷が歩いている姿が見えたので、飯田に巻き込まれたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

 雄英体育祭——。

 

 先週行われた雄英行事の一つだ。体育祭はヒーロー科からサポート科、ヒーロー科への編入を狙う普通科のすべてが参加して、優勝を目指して競い合う。世間の下馬評としてはやはりヒーロー科が有利と思われたのだが、普通科が最終競技まで奮闘するなど最近では一番盛り上がった年になった。

 かくいう俺も、もちろん出場———— 優勝(・・)をした。

 最初の競技は障害物競走だった。

 初手、轟が地表を全て凍らせて足止めしたわけだが、ヒーロー科の多くは個性を駆使して脱出。先手をしかけた轟を追いかける形になるかと思われたがそうはならなかった。予め、形態変化のために最後列にいた俺は氷に触れるよりも早く飛翔した。障害物は殆どが地面にあり、強いて言うならば超巨大ロボットが邪魔だったのだがそれよりも高度を上げてやり過ごした。結果、何も問題なく優勝。後方では緑谷・爆豪・轟の争いがあったようだが、大きく距離を取っていた俺には追い付けなかった。

 次戦は四人一組による騎馬戦だ。

 障害物競走で一位を取った俺は、最初のポイントとして1,000万ポイントを与えられて開始早々狙われることとなった。俺と組んでいたのは確実に本戦に進めるだろうと打算を含みに含んだ笑顔でやってきた発目明。コスチューム関連でもお世話になっている知り合いである。彼女と他に、彼女の知り合いを誘って貰ったのだが、体重によるバランスの関係で俺が騎馬に乗るのは微妙と話し合い、発目が1,000万ポイントを頭に巻くことになった。残念なことに1,000万ポイントは機転を利かした……というか、油断していた発目の隙を付いた緑谷が掻っ攫っていった。

 

「みんな、おはよう!」

 

「おはよう」

 

「お、おはよう!」

 

 飯田、俺、緑谷で教室へ入る。

 俺は入ってすぐのところなので別れて鞄を横にかけた。

 

「おはよ、ジンちゃん」

 

「おはよう。梅雨ちゃん」

 

「あ、おーっす龍滅木! お前すげー声かけられたんじゃねえのか?」

 

 上鳴と話していた切島が俺に気付き、手をあげながら寄ってきた。

 

「かけられる前に飯田と走ってきた」

 

「ケロ、だから制服が濡れてるのね」

 

「切島もあんな戦いをしていたら目立ったんじゃないか?」

 

「電車待ってたら小さい子に声かけられてよ、『お兄ちゃんみたいに強くなりたい』って、何だか恥ずかしくなっちまって……まぁ、漢の誉だけど」

 

 相変わらずの熱血漢に半ば呆れながら話していると、教室の扉が開く。一瞬相澤先生かとクラスが静かになったが、入ってきたのは不機嫌そうな顔をする爆豪だった。

 

「爆豪、おはよう!」

 

「うっせぇ! …………ッチ」

 

 切島にいつものような当たりを返すが、俺の顔を見ると舌打ちをする。

 嫌われてしまったかもしれないな。

 

「今日も相変わらずの愛想だな。

 ちょっと行ってくるわ」

 

 気にした様子もなく切島は爆豪の下へと向かった。

 

「心なしか前より酷くなってる気がするわね」

 

「……あぁ」

 

「ジンちゃんが気にすることじゃないわ。あれは爆豪ちゃん自身が乗り越えることだもの」

 

 梅雨ちゃんはそう言ってくれるが、あそこまで敵愾心を向けられると考えてしまう。

 ただ、数ヶ月の付き合いとはいえ俺から歩み寄ろうとすれば余計に煽ることになるので放置しているのが良いのだろう。

 

「難しいな」

 

 最終戦トーナメント……俺は常闇を、爆豪は轟を、準決勝を乗り越えて決勝に進んだ。正直、爆豪対轟の試合は個性の相性により轟が勝つと思っていたのだが、爆豪はその不利を見事覆して勝ってみせた。轟は父であるエンデヴァーの個性も受け継いでおり、炎を一瞬使いかけたのだが使わず、それが両者の彼我を埋める時間になり敗北。類稀なるバトルセンスを見せた戦いだった。

 そして、最終試合——決勝。

 体格や空を飛べることから長期戦は不利だと悟ったのか、爆豪は開始の合図とともに俺が龍形態になるよりも先に空へ跳んだ。手首を固定し、最大の発汗で繰り出されたのは本来コスチューム補助を前提とした『 榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)』。光線の如き一撃が観客の視界を覆った。実況のミッドナイトは『これで終わりか!?』と言っていたが、人間形態でも異形型と同等の硬さを持つために攻撃を受けながら変化をした。その後は手首に負担がかかった爆豪を追い詰め、決め手は尾の一撃による場外判定となった。

 これまで正面から突破している俺と、派手な戦いの爆豪の試合は思いの外呆気なく終わってしまい会場に沈黙が降りた。

 その状況を気絶後に聞いた爆豪が、『まるで龍滅木の実力に唖然とした』と間違った解釈をしてしまい、爆豪が俺を嫌うに拍車をかけたのだ。

 

「はぁ……やれやれ、だ」

 

「時間による解決を待つしかないわね、ケロ」

 

 

 

 

 

ニ、

 

 

 

 

 

「さて、先週は体育祭だったが気持ちを切り替えて行け。負けた者はなぜ負けたのかを、勝った者も負けた者以上に自分を見つめ直して研究しろ」

 

 一時限目はホームルームだ。何をやるかは知らされていない。

 

「早速だが、君たちに重要なことが迫っている」

 

 重要なこと、か……。

 鋭敏な聴覚が息を飲むクラスメイトたちを捉えた。

 

「その名も——職場体験。

 仮免許を取ってインターンに参加する前に、プロヒーローがどんなことをしているか体験してもらう」

 

 なるほど、たしかにそれは重要だ。というか、体育祭より重要ではないか。

 

「差し当たり、君たちには『コードネーム』を決めてもらう。ヒーロー名とも言うが、要するに現場で呼び合う名前だ」

 

「マジか!」

 

「面白そうなの来たァ!」

 

「可愛いの付けちゃおーっと!」

 

「——うるさい」

 

『……』

 

 相澤先生は騒々しくなった教室を一瞬で沈める。

 

「そして、残念なことに俺はヒーロー名を考えることもアドバイスをすることも苦手だ。

 そのため、本日の授業はプロヒ——」

 

「——このミッドナイトが授業をします!」

 

 言葉を遮って、おそらくタイミングを見計らったであろうミッドナイト先生は勢いよく入ってきた。

 先生によると、学生の時期に付けた名前が基本的にプロヒーローになっても呼ばれるため、この時期からしっかりしたものを付けなければならないらしい。変なものを付ければ一生呼ばれることになるので後悔しても遅いとのこと。

 

「というわけで、パネルを回すからみんなマーカーで書いてね!」

 

 貰ったパネルを後ろの芦戸に回す。

 マーカーの蓋を開けるが、いまいち思いつかない。身の回りにいる、龍子さんなんかを参考に考えてみても良いだろう。

 

 『ドラグーンヒーロー・リューキュウ』

 

 名は身体を表すとはこのことで、分かりやすいものだ。ドラグーンヒーローはもちろんのこと、リューキュウは沖縄出身だからそことかけているのだろう。

 ふむ……一応、かつて龍子さんが既存のドラゴン像に当て嵌まらない俺の種類を『ネルギガンテ』とメソポタミアのネルガル神とギガンテスを文字って名付けてくれた。

 しかし、妙に言い難い。

 覚えやすい名前かもしれないが、咄嗟の判断をするときに「ネギ!」と不甲斐ない略され方をするかもしれない。出来れば避けたい。

 となれば、名前の尽をとるのが無難だ。

 初めて個性が覚醒した日に抱いた感情は、およそヒーローとは思えぬ破壊的感情。自身の個性の凶悪性を忘れぬよう、組み込んだ方が良いだろう。

 マーカーを手早く動かして、登壇していた障子のあとに立つ。

 

「おっと、ここで体育祭優勝の龍滅木君よ!」

 

 ミッドナイト先生に囃し立てられると注目が集まる。

 大した名前じゃなく申し訳ない。

 パネルを教壇に設置すると口を開く。

 

「『滅尽ヒーロー・ジン』」

 

「名前をヒーロー名にしたのね。前二つがちょっと物騒だけどどういう意味なの?」

 

「尽にはつくす、奉仕すると言った意味があります。その前に付けた滅は打ち消しの接頭語としてさらに強い意味を持たせました」

 

 つまり、ヒーローに頼ることがない世の中を創る。ヒーローがヒーローをしないでも良いくらいヴィランを打ち倒すという意味を込めた。

 

「それに、自分の個性はカッコいいって言われるか怖いって叫ばれるかのどっちかのため、どうせならばそっち方面で行こうかと……」

 

「なるほど! ギャングオルカさんみたいに割り切っちゃうタイプね。良いんじゃない、見た目と合ってるし、何よりそういうヒーローは強ければ目立つ!」

 

 右手を掲げて言ったミッドナイト先生に拍手が起こった。

 適当に目礼をして自分の席に戻る。

 もう少し良い名前もあったのではないかと思うが、そのうちに慣れていくだろう。

 俺が終わったあとにもお披露目会は続いて行き、遂に最後は爆豪ということで物騒な名前はミッドナイト先生によって却下された。ヒーロー名に『殺』を入れるのは駄目だろうに……。

 

「では、コードネームを決めた君たちに待っているのはいよいよ職場体験先だ。ここに示してある通り、事務所から逆指名の来ている者もいる」

 

 黒板スクリーンにグラフと数字が現れる。

 

「やっぱ上位三人は多いな……」

 

「というか、一位の龍滅木より轟が多いって凄いな」

 

「とまあ、例年ここまで偏ることはないんだがこのような数になった。

 轟が龍滅木より多いのは個性の幅だな。『半冷半熱』の個性は応用が効きやすい。つまり、別に体育祭の順位ばかりが反映したわけではないということだ。今回の職場体験でしっかり自身の個性を見極めて、出来ることを増やしてこい。

 提出は今週末。相談があるなら俺を含む各教員方にするように。以上」

 

 

 

 

 

第一話「 コードネーム 」

 

 

 

 

 






 体育祭編はストーリーの進行上、盛り上がりに欠けるため端折らせていただきました。


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