龍(仮題)   作:神の筍

2 / 12
第2話

 実技試験を見ていたプローヒーロー、教師たちは数種の会場の結果を見て様々な意見を出していた。ある会場では強力な個性を生まれ持った才能で使用し、確実にポイントを稼ぐ姿を。ある会場では巨大ロボットを一撃で粉砕する自己犠牲の精神を。そして、ある会場では容易く巨大ロボットを踏み潰し、それでいて倒れていた女の子を護る黒い龍の姿を。

 

「なかなか強力な個性だな」

 

「ええ。単純な硬さと攻撃力……」

 

「身体に纏う刺がそれをさらに加速させている」

 

「ふむ……刺には色がありますね。生えたときは白く、柔軟さが目立ちますが時間が経てば少し黒くなっているようです」

 

 映像には巨大ロボットが出てきてからの全体像と、そしてある受験生によって潰されるシーンが繰り返し流れている。受験生は巨大ロボットを斃すとすぐに動けない受験生の元に行き転がってくる残骸から身を挺して護っている。

 

「この判断はどちらなのかしら。

 巨大ロボットを斃してからその被害を予測して女の子を護ったのか、それともただ巨大ロボットを斃すために突っ込んだのか」

 

「たしかに、それを踏まえると判断は変わってくるな。ただ個性が強力なだけでヒーローになれるとは限らない。ここで見られるのは、自身が傷つくことを加味しながらも巨大な悪に立ち向かえるかどうか……」

 

「その心配は大丈夫でしょう」

 

 鼠姿でありながら、二足歩行でスーツを着た人物がそう言った。

 

「彼は、逃げ惑う受験生の中一人立ち向かっています。人間は普通、年齢のことも考えれば大衆と逆の行動を取ることは難しい。それだけで怯えずに巨大な悪と対峙できる度胸があると判断できる」

 

「それがただの慢心としても?」

 

「ええ、可能性はあるでしょう。

 彼の個性はおそらく、プロヒーロー『リューキュウ』に似た……彼女曰く、「私よりも凶悪なもの」だと言っていました」

 

「む、リューキュウ本人が? なぜ……」

 

「彼は十年前、日本各地で個性が発現したばかりの子供たちを狙い誘拐していた組織の被害者なのです。中国の方で発見されたのですが、どうやら彼の個性によって組織はほとんど壊滅。五年前、似たような事件の誘発を防ぐために彼の個性と比較的類似した姿をとれるリューキュウが現場検証と、彼の個性の確認作業を行なったのです」

 

 本来ならば洞窟と、それを隠すようにあった森林。しかし、その異変に気付いたヒーローが見たのはなにもない、正確には彼が囚われていた牢屋部屋を除き、すべてが更地と化していた。

 

「ヴィランの被害者である彼は、もしかすると命を落としていたかもしれない。それに、彼はヒーローに助けられたわけではない。それが原因でヒーローを恨み、社会に何らかの負の感情を抱いていてもおかしくはない」

 

 ヒーローという光があれば、ヴィランという影が生まれる。正しくはヴィランがいるからこそヒーローが在るのだが、今は良いだろう。

 この場で言うべきは「誰もがヴィランになる可能性がある」ということ。それはトップヒーローにすらもいえることであり、一般人であればその可能性は跳ね上がる。事件に巻き込まれ、ヒーローに助けられなかったという事実は彼の心奥に深く刺さり、ヴィランへと堕ちる可能性もあった。

 「でもね」と鼠姿の——根津校長は続けた。

 

「ここを見たまえ」

 

 再びリピート再生されていた映像が止まる。それは上空ドローンによって撮影された映像で、黒龍と化した彼が跳躍する瞬間だった。

 

「彼の瞳は——この子の姿をきちんと認識している」

 

 小さな身体に持った教鞭で、黄色の瞳と、彼を見上げた受験生を線で繋ぐように指した。

 

「——ヒーローの根幹にあるのはいつだって『誰かのために行動ができる』ということ、ただ一つ。それが自分の命を賭けるのか、片手間にこなせることなのかはそのときにならなければわからない。

 この状況を見れば、きっと誰しもが彼女のために行動した結果だということがわかる。ならば、彼もまた間違いなくヒーローに相応しい!」

 

 今まで一言も発することがなかった今代最高のヒーロー『オールマイト』が言うと、同調するように何人かのプロヒーローが息を漏らした。

 

「では——決まりですね。

 彼を雄英高校の生徒として歓迎いたしましょう。どんな境遇の子であれ、ヒーローの資質があれば最高のヒーローとして育てるのが私たち教師、そしてプロヒーローとして成すべきことです。

 彼を、彼らを、最高のヒーローとして導いていこうじゃないですか」

 

 かくして彼の入学は、そういう風に決まったのであった。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

「……はい。なんとか合格することができました」

 

『良かった。ジン君、実力はともかく学力試験の方に心配があったから……入学しても油断はしないようにね』

 

「周りに置いていかれないように頑張ります」

 

『ん、頑張って。

 ……それで、部分変化のほうはできた?』

 

「あまり変わりませんね。目を瞑って部分変化のイメージをしているんですが、なんとなく出来たような感覚はあっても、結局肌質だけだったり果ては何も変わらなかったりと……」

 

『うーん……やっぱり難しいかしらね。私の個性と似てるけど、根本的な性質は異なる。ジン君の場合は私の発動型と異形型の複合型とは違って、人間の形を保っているけれど本質は異形型に近い』

 

 つまり、人間の姿が仮初である。

 

『元々個性のおかげか身体能力は一般のそれと比べてずば抜けてある。部分変化もどこかで役に立つかもしれないからっていうところだから、無理はしないようにね』

 

「わかりました。龍子さんも怪我などないように気を付けてください」

 

『もちろんよ。良かったらまた事務所のほうに寄ってね? これからだとはいえ入学祝いはしてあげたいし……最近は会えてないから……』

 

「ええ、では自分も時間を見つけてそちらに伺います。

 そのときはまた、よろしくお願いします」

 

『うん。頑張ってね』

 

 電話を切る。

 今話していたのはプロヒーローとして活躍するドラグーンヒーローことリューキュウである。本名はヴィランに私生活が狙われないように公開されていないが、 竜間龍子(たつまりゅうこ)。今年初めのヒーローランキングではクールな雰囲気と、必要以上のことを語らない口調から十位という数字を出している。もちろんヴィジュアルや容姿からではなく、強力な個性である『ドラゴン』は異形型の巨漢を容易く止めてしまうほどの力、背に生えた翼は空中を滑空することを可能にする。

 龍子さんとの出会いは五年前。

 雄英高校体育祭の活躍などで一方的に知っていたが、実際にあったのは俺が誘拐されたあの事件を再び整理、把握しようと似た個性を持つ龍子さんがやってきたのである。無理強いをしないことは前提に、龍子さんと現地である中国に行って欲しいと頼まれた俺は、今も昔も変わらないが美しい容姿の龍子さんを見て秒で頷いてしまったのだ。一週間ほど滞在し、未だ土が滅茶苦茶に掘り起こされた弊害か木々が生えぬ現地の確認と、その場で状況と照らし合わせながら個性の把握をおこなった。

 似た個性からシンパシーを感じたのか、目をかけてもらって定例会のようなお話をしている。無論、今日もそのお誘いだ。

 

「む、もう寝るか」

 

 合格通知はもらった。

 もうすぐ始まるヒーローアカデミアでの日々。今までどこか渇いた日常を過ごしていた俺に、その時間はきっと満足したものを与えてくれるはずである。

 どうか——。

 

 

 

 

 

第二話「 雄英高校 」

 

 

 

 

 

 さすがに個性を発現しているときは無理だが、人間時の姿ではあと五人いても大丈夫だと思わせるほど教室の扉は広かった。まだ糊の効いた学生服は少し動きにくいが、普段感じない緊張感を味わいながら中に入る。どうやらほとんどいるようで、初日から仲良く話しているグループも見える。

 黒板に張り出されていた座席表をチェックし、自身の机へと移動する。

 

「——ねぇ」

 

 時間まで生徒手帳でも読んで潰しておくかと考えたとき、制服の肘の部分が突(つつ)かれた。

 振り返ると、そこには見たことのある顔——実技試験のとき、瓦礫に挟まって動けない女の子がいた。

 

「あなた、実技試験のとき私を助けてくれたわよね……?」

 

「結果的にはそうだったかもしれないな」

 

「謙虚なのね。でも、あのままいけば怪我をしていたのは事実だもの。助かったわ、ありがとう」

 

 くりくりとした瞳は随分と可愛いらしい。彼女が小さく頭を下げると、俺も「気にしなくていい」と返した。

 

「私の名前は蛙吹梅雨。梅雨ちゃんで良いわ、ケロ」

 

「俺の名前は龍滅木尽(りゅうめつぎじん)。ジンで良い」

 

 握手でもしようかと思ったが、同い年でそれもおかしいだろう。龍子さんと会ったときは自然と手が出たのだが……。

 それはともかく、「怪我をしていた」とのことで瓦礫に挟まっていた足はどうなったのかを聞く。

 

「挟まる程度で少し圧迫されただけだったの。試験の後見てもらったのだけれど、なにも問題なかったわ」

 

 たしかに足首を見てみると白い靴下があるばかりで、ギプスなどはされていなかった。状態的に見ても骨折はしていそうだったが、運が良かったらしい。

 

「……ジンちゃんの個性は随分とカッコいい個性だったわね」

 

 ジンちゃんに突っ込みを入れたかったが、彼女なりの親愛の証だと受け止めて返す。

 

「そうか? たまに怖いといわれるが……」

 

「そんなことないわ。刺々しい容姿だったけど、目とかつぶらで可愛かったもの。けろけろ」

 

「可愛いか……嬉しいようななんというか」

 

「ヒーローになるなら怖いだけよりもマシだと思うわ」

 

 そういえば、龍子さんにも言われたことがある。あのときは俺の耐久力テストで、リューキュウ事務所に隣接する訓練所でドラゴンへ変化した龍子さんが少しずつ威力を上げて叩くといったものだったか。一通り終わったあと、鎌首を擡げた龍子さんは間近でこちらの顔貌を覗き『意外と可愛い目をしているね』と言ったのだった。

 

「——席に着け」

 

 地元や出身校の話をしているといつの間か担任が来たようで、騒いでいたクラスメイトを注意して寝巻きを脱いだ。

 そして、

 

「今すぐ体操着に着替えてグラウンドに集合しろ。個性把握テストを行う」

 

「入学式は!?」

 

「自己紹介も!」

 

「雄英は自由な校風が売り、それは教師にも当てはまる。ヒーローを目指すなら合理的な行動を心掛けろ。

 それじゃ、待ってるぞ」

 

 唖然とするクラスメイトを尻目に担任は我知らずと出て行った。

 

「すごい学校ね」

 

「ああ」

 

 ともかく、早く着替えよう。

 





 なぜ五年前?
 ⇨オールマイトの負傷からヴィランが活性化する可能性があるため、改めて事件の確認をすることで再発をさらに防ぐため。
 当時、リューキュウは21歳(⇦重要

 龍滅木尽 りゅうめつぎ じん

 龍を滅ぼす。
 ぎじん=擬人=龍が本来の姿、という意味も込めている。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。