龍(仮題)   作:神の筍

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第4話

 個性には三種類ある。

 撃鉄を下ろし、発動という形で個性を出す、発動型。

 肉体の性質や大きさが変形していく、変形型。

 生まれたときからその形質や特徴を持つ、異形型。

 そして、極めて少数ではあるがその二種類以上を兼ね備えた複合型と呼ばれる強力な個性。これを持つプロヒーローは総じて学生の頃から名を挙げており、ヒーローになってからもトップ10に君臨するほどの力を持つ。

 しかし、複合型よりも極稀に、遺伝子レベルで変革が起きて影響を及ぼす個性を—— 突然変異(ミューテーション)という。

 むろん、これも上記三つ、複合型も併せれば四つに分類されるわけだが、ミューテーションという言葉を知っている者は世間には少ない。なぜならこのミューテーションという個性が、通常の個性を持つ両親から生まれてきたとは思えないほどに強力であるからだ。世間一般にその言葉が出されないのは一重に悪質な個性婚、もしくは人造個性の研究などに拍車をかけないため。個性が生まれた黎明期、社会の裏ともいえる存在たちはいち早くその存在に気付き、実験や研究を繰り返した。今ではそんな組織も全て解体され、後継団体は公安によって監視状態に置かれているのだが、それでも浮き彫りになっていない組織はある。最近ではミューテーションに目をつけた組織は自ら研究を進めるのではなく、ミューテーションの子供を拐うことで教育し、優秀な兵に仕上げようとするのだ。かつて俺が誘拐された組織も、あとから聞けばそういうところだった。

 

『——それは仕方ないね。

 ジン君の個性は服まで再生してくれないし……良ければ前にこっちで取った似たようなテストの記録を雄英に渡しておこうか?』

 

「いや、それについては大丈夫です。相澤先生が今回は多めに見ると言ってくれたので。どうやら近々ヒーローコスチュームがもらえるらしく、そこから頑張っていこうかと」

 

『そっか、アレ(・・)も入学してすぐだったか。わかったよ……でも一応渡しておくから、なにかあったら参考にしてね』

 

「わざわざありがとうございます」

 

『うん——どう、雄英は?』

 

「良いところです。個性を使用しての授業もあるみたいなので、楽しみです』

 

『今年はたしかエンデヴァーさんのご子息もいたはずだから、競争相手には欠かないのよね。

 無理しないように、頑張って』

 

「ええ、リューキュウさんも頑張ってください」

 

『リューキュウ……?』

 

「先日相澤先生の前で龍子さんの名前を出したら『外で活躍するヒーローの本名は出すな』と言われたので、龍子さんに迷惑をかけてもあれなのでヒーローネームで呼ぼうかと……」

 

『そう——でも、構わないよ。

 外のときは……たぶんジン君が気にしちゃうだろうからヒーローネームで良いけど、こうやって二人で話してるときは、ね?』

 

「わかりました。では、いつも通り龍子さんと」

 

『ん、それで良い』

 

 名前の訂正をされ、一時間ほど電話をした。最近、どうやらリューキュウ事務所では春初めに他の事務所と連携するほど大きな窃盗団の解体に当たったらしく、個人は強くないが数が多かったのでその身辺把握のため事務処理が主な内容であったらしい。少しずつ処理しているのだが、やはり身体を動かせない状況は煩わしく感じると愚痴を零していた。その中でも一つ、興味深い言葉が出てきた。

 

 ——ヒーロー殺し

 

 最近少しずつ判明してきたヴィランであり、名の通りヒーローを殺すヴィラン。数多くいるヴィランは、大前提として自分の目的の妨げとなるものとしてヒーローと対峙する。しかし、テレビで凶悪かつ巨大な事件として扱われるヴィランの犯行には時の支配者であり黒幕(フィクサー)が存在し、そういった者は金や権力ではなく、ただ世の混沌を愉しみたいがためにヒーローと敵対する。いくつかあるヴィラン傾向として、ヒーローにとって最も天敵なのが「ヒーローに害を成すためにあるヴィラン」である。ヒーロー殺しによるヒーローの殺害は全国規模、被害者は十人以上であり負傷者も含めれば三十人は越す。ニュース番組でもヒーローの負傷報道がたびたびあるが、どうやら原因はこのヴィランであると。

 龍子さんは「ヒーローに敵対するなら、金の卵である雄英生徒に被害を及ぼす可能性がある。放課後とか、制服を着て歩くときは気をつけて」と注意してくれた。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

 数学、現文、英語と通常授業を受けた。中学の延長線か、なんとかついていけたがこの先が危ぶまれること間違いない。これは早急に飯田にでも勉強を教わっていた方が良いだろう。

 プロヒーローによる授業が終わり、次の授業はクラスメイトが話題にしていた『ヒーロー基礎学』。この授業が個性把握テスト以来のヒーローになるための授業で、一体誰が来るのかと梅雨ちゃんたちと話していた。いよいよチャイムが鳴り、同時に入ってきたのは——。

 

 

 

「私が——」

 

 扉が勢いよく開かれる。

 

「……——ドアから普通に来た!」

 

 

 

「おおっ、オールマイト!」

 

「一人だけ画風が違い過ぎて鳥肌が」

 

「銀時代(シルバーエイジ)のコスチュームね」

 

「ここで教師をしてるっていうのは本当だったのか……」

 

 No.1。実力、人気ともにまごうことなきヒーローたちのトップである『オールマイト』だった。V字に張った二つの金髪、内側から盛り上がった頑強な肉体、今朝もヴィランを倒して来たと緑谷が話していたのを耳にした。

 オールマイトが登壇すると、教室が一気に湧いた。

 

「HAHAHA! おはよう、金の卵たち! 元気そうでなによりだ! そして、今日からいよいよヒーロー基礎学だっ!」

 

 ハスキーな声で告げられ、クラスメイトも「やっとか」と声を漏らした。やはり通常授業ばかりではなく、直接実力が上がるような訓練をしたいのは皆同じ。個性把握テストを受け、A組専用の訓練カリキュラムがようやく今週から始動するのだ。

 

「今日やるのは『ヒーロー基礎学』。この授業ではみんなにヒーローとはなんたるかを学んでもらう」

 

 ヒーローとはなにか。

 何のためになるか、どういう風なヒーローになるのか。ヒーローといってもヴィランを倒すヒーロー、災害時に個性を活用して人を助けるヒーローなど千差万別で、将来のヒーロー像を具体的に思い描く。

 

「本日、君たちには己の長所や短所を把握してもらうべく、個性を使用した訓練をしてもらう。それに加え、入学前に出してもらった『コスチューム要望書』! 君たちが望んだコスチュームはサポート科によって満足いくように再現されているだろう!

 コスチュームはすでに、君たちの更衣室ロッカーに入っている。それを着て順次、グラウンドβ(ベーター)に——集合だ!」

 

 

 

 

 

二、

 

 

 

 

 

 ロッカーの中に入っていた俺のコスチュームは、間違いなく『リューキュウ』と似たものだった。当然男用で、ズボンと上半身に着るもの。しかし色は俺の変身時に合わせてくれたようで、燻ったような黒地に、首元と足元まで垂れたところに三本爪の傷が白く入っている。

 しかし、もう一つ外套が付いていた。

 コスチュームの上へ添えられていた説明書を読むと——現場に応じて救援が寄せられるヒーローは選別されるが、時として不利な場面で戦うときがある。個性の影響で人間時の運動能力も上がっているため、俺もおそらくその可能性は高い。もし、変身ができないほど狭い部屋ならばそのままで良い。しかし、変身後に少しでも露出を減らすために考慮した、とある。

 要するに、服型の中華服も伸縮性に特化し、変身時は首飾りのように小さくなる。しかし、龍化しているときから人間へと成る中途半端な時間で外套ほうは暗幕のように覆ってくれるから安心して良い、ということだ。仮にヒーローになって露出などしていれば猥褻罪で捕まり、ヒーローへの不信が広がる。

 この機能は非常にありがたい。

 実技試験のとき、俺は龍化したわけだがそのまま保健室に駆け込んで予備の体操服を貸してもらったのだ。

 外套は別に今いらないので、首飾りの状態を維持し、中華服で更衣室を出た。

 

「デクくんのコスチューム、リスペクトがすごい!」

 

「えっ、そ、そうかな……あはは」

 

 グラウンドβに到着すると、麗日が緑谷のコスチュームを褒めていた。緑谷のコスチュームは作業服のような動きやすさに、環境に応じて行動できるようにマスクやゴーグルが付いている。なにより目立つのは、オールマイトのような緑色のV字だ。

 

「ジン君のコスチュームカッコいいね!」

 

 外から眺めていると、なにやら手袋と靴が話しかけてきた。

 

「えっと……靴王子手袋だったか……」

 

「——ちっがうよ私だよ! 葉隠透っ!」

 

 知っていた。先週からこうやって葉隠を弄るのがマイブームなのだ。

 

「そのコスチューム、動きやすそうだね。中国拳法とかやるの?」

 

「いや、これはただ俺と似た個性を持つ人のコスチュームを真似ただけだ」

 

「へぇー。そういうのもアリだったかぁ」

 

 む、となれば俺も龍子さんをリスペクトした形になるのだろうか? 再び緑谷のほうを見ると、俺たちを、正確には俺を輝いた目で見ていた。

 

「——り、龍滅木君! そのコスチュームはたぶん、ドラグーンヒーロー『リューキュウ』を参考にしたものだよね!?」

 

 迫り来る緑谷の肩を掴み勢いを止める。

 上鳴や切島から聞いていたが、ヒーローのこととなれば歯止めが効かなくなるようで、ようやくそれを理解した。何とか落ち着かせ、緑谷にも葉隠と同じような説明をする。

 

「そうなんだ——! ……ということは龍滅木君の『龍に変化する』個性はリューキュウと似た形になるのかな? もしリューキュウと同じであれば力は巨漢ヴィランを簡単に止めるほど力は強い、翼があるなら空も飛べるかもしれない。リューキュウ自身は長距離移動はできないと言ってたけど、その場合龍滅木君はどれくらい飛べるんだろう……もし長距離移動ができるなら離島の救援活動も……」

 

 ぶつぶつと呟きながら緑谷は戻っていく。忙しない奴である。

 やがて全員が揃うと、オールマイトが上から飛んできた。

 

「——みんな揃ったようだね。では、授業の説明をする!」

 

 今回行う内容は、二人一組のペアを組み、ヒーローとヴィランに別れる。核を盗んだヴィランがとあるビルに立て籠り、それをヒーローが核の無力化及びヴィランの逮捕を目指す。互いに課せられるのは、核が誘爆する可能性があるので大規模破壊はやめておくこと。核の模型に傷、ビルに階層が一気に崩れるような損傷があれば評価点は下がるとのことだ。

 また変身できないのか? と考えたがビルを見ると繁華街にある電気屋のように広く、その心配は無さそうだ。

 

「これを引いてペアを決めてくれ!」

 

 出されたのは古典的な割り箸籤。

 それを見た飯田が手を挙げて発言した。

 

「ここはそれぞれが話し合ってペアを決めるべきではないのでしょうか?」

 

「ノンノン! プロになれば現地で即席のチームを組む可能性もある。そのときになれば、多少の不利有利には文句をつけられない。その臨機応変さを見る授業でもあるのさ!」

 

「なるほど……ありがとうございます!」

 

 クラスは二〇人なので、十ペア。できれば知り合いと組みたいのだが……適当に引いた割り箸には E と書かれていた。

 

「龍滅木、Eだよね? よろしく!」

 

 相手はピンク色の肌が特徴的な芦戸だった。何度か話したが、気難しい相手ではないので良かった。

 

「ああ、よろしく頼むぞ芦戸」

 

「おっしゃ、どっちになるかわからんけど頑張ろー!」

 

 

 

 

 

第四話「 コスチューム 」

 

 

 

 

 

 一回戦目はAチーム「麗日・緑谷」ペア対Dチーム「爆豪・飯田」ペア。

 ヒーローはAチームで、ヴィランはDチームだ。序盤、飯田は爆豪に時間制限などを考えて作戦を立案したが爆豪はそれを無視、 突起して階下へ降りてしまった。これにより飯田は宙に受ける個性を持つ麗日を全方向から注意する必要があり、未だ変化はないといえ不利な状況だ。

 

「緑谷ちゃん。個性を使ったら負傷するのだけれど、どのタイミングで使うのかしら……」

 

「体育の時間では悪くない身体の動かし方だった。必然的に決められるときになるが」

 

「オールマイトに似た山を砕く一撃、しかし負傷する。まるで主人公のような男だな」

 

 モニター室に移動した俺たちは、AチームとDチームの試合を見ていた。隣には芦戸、梅雨ちゃんとペアである常闇がいる。

 専攻する爆豪を知らず、緑谷と麗日は話し合っている。二人の目的はわからないが、普段からヒーローノートを作っている緑谷だ、自チームと相手チームの個性に対応した作戦をとっているはず。

 しかし爆豪はそんな二人を待ってくれず、曲がった先にいる二人に逡巡することなく爆破を喰らわした。

 

『デクぅ! 避けてんじゃねえよ!』

 

『かっちゃん! ——麗日さん、作戦は今伝えた通り!』

 

『わかった! デクくんも頑張って!』

 

 緑谷はそのまま爆豪と相対し、麗日はすぐに走り出すと作戦を遂行する。

 爆豪と対峙する緑谷。強力で、確かな実力を持つ爆豪と、使用すれば負傷するが破壊力はクラス一の可能性がある緑谷。一方的に緑谷を怨んだ爆豪の一撃は、緑谷の背負い投げによって回避された。

 

「うまっ」

 

「よく見てるわね」

 

 周囲の被害を無視した爆豪の一撃を寸でのところで見極める。コスチュームが破れることも顧みず優先すべきは作戦の成功だが、どこか焦ったような気配を緑谷からは感じる。それだけに爆豪は高い壁なのだが、個性把握テストの結果が彼の尾を引いているのかもしれない。

 爆豪を投げ、そのたびに緑谷は距離を取る。時に曲がり角に隠れて爆豪を撹乱している。

 

「時間稼ぎだな」

 

 常闇が言った言葉に頷く。

 制限時間がある限り、時間が訪れるとヴィランの勝ちとなる。一応、形的には爆豪が緑谷を抑えているように見えるが、気掛かりは別れた麗日の存在だ。彼女の個性は『無重力(グラビティ)』。触れたものを自由に宙を浮かせる。時間が経てば経つほど彼女に適したフィールドが出来上がるわけだ。

 

「緑谷が仕掛けた!」

 

「お、決着付くんじゃねえかっ」

 

「お茶子ちゃんも飯田君にバレた!」

 

 中央モニターでは振りかぶって決着を付けようとしている緑谷と爆豪。上部モニターには核を守っていた飯田に見つかった麗日の姿。

 

『DETROIT(デトロイト)……』

 

『クソ——ナードがぁぁぁぁぁああ!』

 

 尋常じゃない迫力に、切島は止めなくて良いのかオールマイトに聞く。しかし、オールマイトは二人を尊重しているのかマイクを持ったままに動かず、モニターを注視している。

 本当に直撃するのか——と思われたとき、緑谷が寸前で口を動かした。

 

『—— SMASH(スマッシュ)!』

 

 衝撃は伝わってこない。

 なにを言っているのかはわからない。

 しかし、緑谷の一撃は爆豪に当たることなく真上へと上がる。最上階にいた麗日と飯田を割るように穴が空くと、無重力にした石柱をバットの要領で振りかぶった麗日と、そして————。

 

 

 

「ヒーローチームッ、WIーーーN!!!」

 

 

 

 核に触れ、確保した緑谷・麗日ペアが勝利した。

 






『U.A.FILE』
Class number19
名前:龍滅木 尽 Zin Ryumetsugi.
個性:『ドラゴン(?)』
   突然変異と言われる特殊な個性。幼少の頃、大規模誘拐組織に攫われたときに覚醒した。
   黒い肌、角、翼、爪、ガラスのような刺など御伽噺のモンスターに似ている。一見怖いと思われがちだが、意外と瞳がつぶらだったりと可愛いところがある。リューキュウの個性と似ているため、仮称で『ドラゴン(?)』となっている。
   ''ネルギガンテ''とは、リューキュウが西洋などの神々の名前をモチーフに名付けた種族名に属す。ただ、遊び心に富んだものなので日常で使われることはない。
容姿:成長が早かったようで、中学生のときには180を超えていた。現在はあまり成長していないが、障子目蔵に匹敵するくらいには高い。
   真っ黒、というよりは煤のような髪色が特徴的。

コスチューム:リューキュウコスチュームの黒色、動きやすいズボンを履いている。身体に刺があるためリューキュウのように伸び縮みで対応出来ないため、龍形態と人間形態の変化時には外套を展開させる。
 コスチューム変更について打診しており、自身の鱗で作ったコスチュームを用いることで外套の使用を省略できないかサポート科と相談している。


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