四回戦が終わり、ついに五回戦。つまり最後、俺と芦戸の出番がやってきた。籤によって決められたのは相手のFチーム「口田・砂藤」ペアがヴィラン、俺たちEチームがヒーロー側だった。場所は一回戦で爆豪が潰したビルから代わり、二回戦で轟が氷漬けにし、現在水浸しのビルでもなく、区間分けにされたビルE。
外から確認すると、五階建ての口型モールになっている。制限時間は準備一〇分、実動二〇分。ヒーロー側は迅速な対応が求められる。Fチームの準備が完了するまでに、オールマイトから渡された地図を確認する。
「この形だと、どこに隠されてもおかしくないね」
「ああ……たしか、口田の個性は『生き物ボイス』。さっきから鳥が多く見えるのはそれか」
「砂藤のほうは『シュガードープ』。単純な増強型だけど、正面からの打ち合いは私は無理かな」
このモールならば中央から変身して入れる。鳥に関しても俺が対処できるか……。
「わかった。
初めは二人の目を俺が引き付ける。その間に芦戸は裏口から侵入。俺の姿は見せたことないから、向こうも多少の動揺があるはずだ。聴力も上がっている、居場所の目算がついたら連絡しよう」
「おっけー! じゃあよろしくね!」
「ああ」
第五話「 個性 」
五回戦の生徒と、病院に運ばれた緑谷を除いたAチームは今まで通りモニター室にいた。映像に映るのは龍滅木、芦戸、口田、砂藤の四名。準備時間に入ってすぐ口田は周囲から動物を集め、偵察と妨害工作を進めている。
動物の力を借りるという個性と、砂藤の強力な増強型個性。サポートと攻撃という相性の良さは龍滅木と芦戸に比べれば作戦が立てやすい。
しかしそれでも、オールマイトは言った。
「彼——龍滅木君の個性をよく見ておくと良い。
プロヒーロー、リューキュウと似た個性は単純が故に強力、間違いなくA組トップクラスの力を持つ。轟君や爆豪君にも引けを取らないだろう」
誰よりも背後で聞いていた爆豪と、どこか興味無さそうに見ていた轟の目蓋が僅かに動いた。
「なぜなら彼は、
——実技試験、ポイント100オーバーの雄英屈指の実力者だからね」
入試総合評価一位の爆豪を差し置き、実技試験一位。たしか、爆豪のポイントは70代だと言っていたはず。クラスメイトは驚き、そして冷静になって再び驚いた。
口にしたのはただ一人、八百万百だけだった。
「実技試験100ポイントを超えていながら総合評価一位じゃないですって……一体学力試験はどれだけ……」
オールマイトは本人知れずバレてしまった事実に、「Holy Shit」と静かに呟いた。
一、
渦のように魂が漏れ出す。
それは生態系の調停者。悪も正義も等しく裁く、天秤に浮かぶ形ある自浄作用——。
中華服の上から外套を纏い、下から膨れ上がるように変化する。再び外套を戻し、やがて太古の意思が顕現する。
喉が熱い——これは喜びか。
心の底から唸りを上げ、慟哭する。
その姿の名は——滅尽龍ネルギガンテ。
名付け親はリューキュウ。
冥界の神であるネルガルを文字り、語呂の良い名前をつけた。悉く殲ぼすとは、この個性が浮き上がった日の原初、あの事件の更地の一件から。
撫でるように風が吹くと、白い刺が黒く変色していく。
ようやく、窮屈な殻が破られた。
そして、
『G——G zy Aaaaaaaaaaaaッッッ!?!?』
産声を上げた。
二、
その鳴き声に一際耳の良かった口田は耳を押さえた。酷く怯えるような口田に、同じく鳴き声を聞いた砂藤は駆け寄った。感じるのはモールの中央広場に現れた威圧的な気配。自由に生きていたはずの人間が、唐突に生態系の沼に突き落とされたような感覚が襲った。
理解不能だったが、その正体が入学式初日放課後に話した龍滅木の個性であると二人は本能から悟った。
その間にも、凶悪な見た目だが理性を失うわけでもないので龍滅木は跳ね上がった心音を捉え、二人の居場所が三階東の方だと芦戸に連絡している。
「……っ」
耳を塞ぐ口田が見たのは集めた動物たちが散開していく様子。圧倒的生態系の山巓に、龍滅木は認識すらしていないのだが心臓を掴まれるほど威圧された小動物たちは我先にと消えていった。
「しょうがねぇな……でも、核を奥に設置しておいて正解だった。あの鳴き声からして龍滅木の大きさは結構ある。そのままこっちに来ることはないだろ」
「……っ……っっ!」
口田は焦った様子でジェスチャーを送る。何となく察した砂藤は肩を叩いて「気にするな」と言った。
「口田は俺が相手をしている間に捕獲テープでの無力化を狙ってくれ。単純なインファイトなら俺にも分がある。
——頼んだぜ!」
かくして口田と砂藤は芦戸と、人型に戻った龍滅木に発見された。力では砂藤が押していたが、触れればダメージを受ける芦戸の酸とリューキュウに訓練を付けてもらっている龍滅木にとって無力化するのに時間はかからなかった。
三、
「ジンちゃん。授業でわからないところがあったら遠慮なく言ってね。私も理系科目は得意だから教えてあげられるかもしれないし」
「そうだぜ、ジン。俺も勉強はそんな得意じゃねえけど頑張ろうな!」
「二年になったときA組が欠けているなどこの八百万百、許せませんわ!
だから放課後、週二日勉強会です!」
やけに優しくなったクラスメイトにたじろく龍滅木だが、その原因がオールマイトにあることを彼は知らない。
三、
『ヒーロー基礎学』を終え、それぞれが長所と短所を指摘された翌日の一限目、相澤先生が一部の生徒に改めて改善すべき点を指摘した。
初日のインパクトがまだ薄れておらず、相澤先生が「決めることがある」と言った途端静かだったクラスメイトがさらに重くなる。
「——学級委員長を決めてもらう」
と、身構えることなくまったく普通のことだった。
聳えたった挙手をそのままに、語った飯田曰くヒーロー科の委員長とは将来事務所を抱える可能性がある俺たちにとって良い経験となり、しかし生半可な気持ちで就任すればクラスの纏まりが崩れてしまう。故に、投票制にすることで他者からの信任がある者が相応しい役職であると。周りの反応を見てみると、どうやら全員やりたいらしくそわそわとしている。
ふむ……委員長なんて面倒だと思うのだが……。
「まあ、勝手に決めてくれ。投票するならここに紙を置いておくから使え」
相澤先生はそう言って寝袋に消えていった。
「ではみんな、一時的ではあるが俺が投票用紙を配らせてもらう。回収も行うつもりだが、当然不正は行わないと誓う。構わないだろうか?」
さすがにそこまでクラスメイトを疑っていないので、飯田の言葉に頷く。
配られ、適当な名前を書いた。
後ろから前に回収されると飯田が受け取り、教卓で開封していく。
緑谷 3票
八百万 2票
だった。
「僕——3票!?」
「なんでデクがっ!」
「まぁ、おめぇよりマシなのはわかるけどな」
「0票……わかっていたが、さすが聖職……」
「お前自分でやりたいって言ってたじゃないか」
どうやら飯田は自身の票を他のクラスメイトに入れたようだ。
俺の票数を見ると1票入っている。自分の名前は書いていないので、きっと誰かが入れてくれたのだろう。何となく周りを見渡してみると梅雨ちゃんと目があった。おそらく、彼女だろう。
「じゃあ今学期の委員長は緑谷、副委員長は八百万に決まりだ。なにか抱負でも行っておくか?」
「ぼ、ぼ僕が雄英の委員長……どうしよう……」
「……く、こんな人に負けるなんて」
前に立つ二人。緊張に押し負けそうな緑谷と、勝ち気で自信のありそうな二人は相変わらずであった。これでは票を入れた三人も報われないので頑張って欲しいものだ。
「ま、いい。二人には今から学級委員がこなす仕事を教えるからこっちに来い。それ以外は自習、意見交換は構わないがあまり騒ぐなよ」
一先ず終わった学級委員決め。一応二人に決まったわけだが、委員長は緑谷で大丈夫なのかと心配になるのも仕方のないことだろう。