色々なテストのために書いた短文。
砂漠、夜。
空を埋め尽くす星の輝きは、まるで宝石を神々がまき散らしたかのようで、幼い私はそれに魅せられるばかりだった。
赤、青、白。ちらちらと瞬き、首をそらしてそれを見る私の顔を、冷たい夜風が撫でた。
「もうそろそろテントへ入りなさい」
父の優しい声が聞こえる。
「こんなに星が多い夜は、竜が通るから」
その言葉にはっとして、私は沈み込む砂に足を取られつつテントへ戻る。
防寒用のローブを纏っている父は、伸ばしたひげを撫でつつ、カセットコンロに鍋をかけ、ミルクを温めている。
それをマグカップに注ぐと、私へ手渡してくれた。顔に熱い湯気がかかる。
「お父さんは竜を見たことある?」
「ああ、何度もあるよ」
父が鍋を毛を編んで作った鍋敷きの上に置いた。
「怖くない……?」
「とっても怖いさ。それはね、竜がとても美しいから」
父は穏やかな声で語る。
「翼が風を切る音がぴゅうぴゅうと聞こえる、それが彼らが来た合図なんだ。
テントから出て、見上げてみれば、星の下を竜が飛んでいる。
胴も足も頭も、磨き上げられた宝石のように透き通った
私の頭の中では、父の語っている光景が美しく現れていた。
2対の翼持つ、綺麗な竜。
「あまりにも美しかったから、手を伸ばした。その瞬間……なにが起こったと思う?」
その質問に答えられず、私はマグカップを両手で包み込んだまま、押し黙る。
「──体がずぶりと地面に沈み込んだ!
しまった! 流砂だ! 私は我に返り、大声を出してしまった。
……結果、竜は驚いて逃げてしまった」
私はほっぺたを膨らませた。
「お父さんがおっちょこちょいだっただけじゃない」
「半分はそうだ。でも、もう半分は竜のせいだ!」
父の口調はおどけている。
「さぁ、星が目に焼き付かないうちにまぶたを閉じて。
明日も早くに出発だ、寝坊しないように」
そう言われると、子どもである私は従うしかない。
この砂漠の旅だって、ずいぶんとわがままを言い、条件付きで連れてきて貰ったのだ。
父が課した条件はたった1つ。
『旅の途中、お父さんの言うことは必ず聞くこと』
危ない旅だからこそ、約束を守らなければ。
「お休みなさい、お父さん」
「お休み。明日の目的地は七色のオアシスだ、楽しみにしているんだよ」
毛布にくるまると、電気ランプの灯りが消され、ほの暗さに包まれる。
すーすーと聞こえるのは父の寝息。あっという間に寝入ってしまったようだ。
「……」
そっと起きあがってみても、父は何も言わない。
防寒具代わりに毛布を巻きつけて、テントから抜け出す。
「わぁ……」
満天の星空。
「あれ……」
そして、空をよぎる巨大な影。
「……竜だ」
砂地に、竜が翼を畳んで寝そべっていた。
鱗の色は深い青色。頭を細かく動かし、爪や腕や翼を手入れしている。
──その竜と、目があった。
「……」
竜は私を見る。それだけで、私は動けない。
星の煌めきと、美しい竜の姿が目に焼き付いて。
「……あっ」
竜は飛び立ってしまった。砂が少しだけ舞って、すぐにおさまる。
足元に、何かが転がってきた。
急いで拾い上げ、星空にかざす。
「
サファイアを溶かしてから楕円に伸ばし、薄くなるまで叩いたかのような、見事な造形。
重さはほとんど感じず、飴細工のように軽やか。
私はそれを毛布の内にしまい、昔の父みたいに流砂に引っかからないよう、気をつけてテントへ帰った。
父との旅の最中、絶滅危惧種の竜を見ることが出来た話
おわり
ルビ機能などを使えるようになりたいですので、テストとして書きました。