英雄よ、生まれ給ふ事勿れ   作:おーり

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ざっくり原作登場人物紹介

シン=ウォルフォード
 孫

アウグスト(オーグ)
 王子

シシリー
 ヒロイン

マリア
 ヒロインの友人

カート
 踏み台



気になる男とゴールデンクラッシャー

「うーん……、いないなぁ……」

 

「? どうかしたのか、シン? 誰を探してるんだ?」

 

 

 入学試験終了後、まばらに帰宅していく受験生らを見回していると、丁度試験が終わったのか、出て来たオーグに声を掛けられた。

 あ、こいつはこの国の王子様ね。

 本名はアウグストなんとか、だったけれど、長いからオーグで良い。本人もそう言ってたし。

 

 

「いや、同じくらいだったから、ひょっとしたら此処に来てるかと思ってたんだけどな」

 

「ふむ? なるほど、女か」

 

「いや、ちげーよ!」

 

 

 女の子の知り合いなんて、こっちに来て直ぐに引き籠った俺にできるわけないじゃん!

 スレ違った子くらいなら居たけど、その後が続かなかったから顔見知りにもなれてないしな!

 

 

「なら男か。そういう趣味だったのか、お前……」

 

「趣味とか言うな……! 男なのは合ってるけど、そういう感じじゃねーよ」

 

 

 ディスおじさんの息子なので、俺からしたら会っていなかった従兄みたいな感じだ。

 王子だとか殿下だとか、そういう堅苦しい肩書を本人も好んでいないらしく、漫才の掛け合いみたいに気兼ねの無い会話で俺たちは連れ立って歩いた。

 

 

「もう探さなくて良いのか?」

 

「目立つ外見だったから、人ごみの中でもけっこう見つけやすいんだ。此処に居ないってことは、騎士養成学校の方に進学したのかもな」

 

 

 探知魔法で探ったのも理由にある。

 其処に居るのに居ない、みたいな、目立つ外見とは裏腹に隠れるのが上手い印象があったから、これに引っ掛からないのなら本当に此処に居ないのだろう、ってことがわかるんだ。

 

 そこまで詳しくは言わなかったけど、オーグは俺の言葉で気になったらしい。

 

 

「その『どちらか』というと、そいつは強いのか……?」

 

「そうだな。体術がすげーし、魔法を使ってないのに身体強化したみたいな動きしてたんだ。アレで一般人だ、なんて言ったら、俺なんて可愛い方じゃねーの?」

 

「それはない。無いが、気にはなるな……」

 

 

 否定が早すぎるぞお前……!

 

 

「もうやめてください!」

 

「ォ、っごぉ……!?」

 

 

 と、俺が口にする前に、女の子の叫び声が響いていた。

 慌てて振り向けば、

 

 

「……えーと、アレって、さっきの……カートくん、だっけ?」

 

「カート=フォン=リッツバーグ、だな……」

 

 

 ああ、それそれ、その子。

 

 試験前、凄い自信満々で俺に絡んできていたカートくん。

 そいつが、股間を抑えて蹲っている姿が目に映っていた。

 

 ……ええと、ひょっとしてアレは……。

 

 

「私は貴方の婚約者なんかにはなりません! これ以上関わってこないでください!」

 

「マ゜……、まて、ししりぃ……!」

 

「失礼します!」

 

 

 うん、あの声の震えよう、間違いが無いな。

 カートくん……、あの女の子に股間を潰されたのか……!

 

 

「なんって恐ろしい真似をするんだ……! この国の女の子って、アレがデフォルトなのか……!?」

 

「い、いや、そんなのばかりではない、ぞ……?」

 

 

 目を合わせて言ってくれ……!

 俺、この先の学園生活に不安しかないぞ……!?

 

 

 

  ■

 

 

 

「うわー……、吹っ切れたわねぇ……」

 

 

 ドン引きの表情で、マリア=フォン=メッシーナは友人の執った行動を評価した。

 シシリー=フォン=クロードがカート=フォン=リッツバーグに言い寄られていたことは以前から既知であったので、それにようやくはっきりとした拒絶を顕わとしたのだと、むしろ好意的に捉えている。

 

 ただ、僅かばかり意外には思っている。

 幼馴染でもあるシシリーは周囲で起こる事柄に対しては受け身なばかりで、自分からああした行動を執ることがなかった。

 その変化があまりにも唐突に見えたがために、マリアはこの表情を表すしかなかった。

 

 

「これって、やっぱりあの時の子が関わって……いるわよね、やっぱり……」

 

 

 なんとなく、その変化の理由に思い当たったマリアは、誰にともなく独り言ちる。

 シシリーが取った行動は、一カ月前に彼女たちを助けてくれた少年の、片方が残した助言そのままであったのだから。

 

 

「成長、成長って言って良いのかしら……。とにかく、自分で率先して行動に移してくれるようになったことは悪いことではないけれど……、其処に行き付いた理由が、どうにもね……」

 

 

 なんとなく、本当になんとなくだが、マリアはあの時の少年に対して、シシリーが何らかの感情を抱いているのでは、と推察していた。

 事実、行動に移していたのだから、それが影響を受けていないとは言い切れない。

 問題なのは、これが何某かの恋愛感情に置き換わっているかどうか、という点なのだが。

 

 

「……ま、其処はせめて、もういちど会えたら、ってことよね。この学院を受験しているとは思えないけど」

 

 

 呟くように言葉を締めて、マリアはシシリーの後を追う。

 詳しい部分までは理解していなかったが、魔力を使った素振りも無しに、あれだけの身体能力に体幹を備えていた人物を、魔導士系譜だとはマリアも想定していなかった。

 

 

 シンもそうだが、魔法学院を受験する彼らは総じて魔力の察知能力に敏感になっている。

 寄り明確にするなら、この世界全体がそうして魔力を察することに優れているようにも伺える。

 

 街中で魔法を使えば誰でも察せるし、高位の使い手が探索魔法を使っていることに拙い相手でも気づけるし、魔力波形を記録して魔物討伐の累計を取ることにも融通が利く。

 だからこそ、彼らは魔力制御に重点を置かず、安易に結果に繋がる魔法を、原理も把握せずに使用するのだろう。

 

 だからこそ、あの時の色黒白髪が魔力を隠蔽していたことには、誰一人として気づいていなかった。

 それより以前に、王都に隠れ潜んでいるオリバー・シュトロームが、洗脳魔法を使いカートを『改造』していた事実にも。

 

 

 ――そしてこの事件以降、シシリー・フォン・クロードの名は魔法学院に畏怖と共に拡散して逝くこととなる。

 彼の【黄金砕き】が、誕生した瞬間である――。

 

 ――喝采せよ!!!

 

 

 

  ■

 

 

 

「それでは、今年の『入試主席』は、シン=ウォルフォードくん、ということで」

 

 

 試験終了後、集まって会議を開いていた魔法学院の教師たちが、『賢者の孫』の規格外さに呆れるやら感嘆するやらといった感じで、実技試験の結果を纏めていた。

 自分たちの立つ瀬が無いが、入学する彼の立場、むしろ正確には背後関係から、魔法学院に入学する意義が見当たらなくとも、受け入れることに拒みはしない、とひとつの収束を見出していたところだ。

 

 むしろ常識を学びに来たのだから、逆説的に初等科または中等部に放り込む(投げる)ことが正解なのだろうが……。

 ……彼が『成人(いい歳)』に成ってしまったので、そのことには誰も気づけない。

 

 掘り下げれば、『背後関係』から其処を突くことを憚られて黙殺されたとも取れるが……。

 詳しいことは察しちゃいけない、イイネ?

 

 さておいて、ひとつの事柄を取りまとめたところで、教師のひとりが手を挙げた。

 

 

「ところで、実技の規格外というと『もうひとり』居るのですが……」

 

「え? そんな子、いましたっけ?」

 

 

 実技担当の試験官が疑問の声を上げる。

 手を挙げた教師は、手元の資料を見ながら言葉を続けた。

 

 

「いえ、正確には外部からの伝達です。シンくんほどの破壊性能は顕わとはしてなかったようですが、無詠唱で、『的のみ』を一瞬にして粉砕したそうです。この目で見ていなければ眉唾ものですが……」

 

「……それ、制御力がシンくんを超えていないか……?」

 

 

 たった今、『自分たちの手に負えない』と知らしめられた少年を、更に凌駕していそうな人材が。

 そんな目を覆いたくなるような報告に、誰もが目を逸らした。

 それを現実逃避と、人は言う。

 

 

「……何処から報告が入ったんです……? 外部というと、騎士養成士官学院ですか……?」

 

「宮廷魔術師採用試験とかじゃないのか……?」

 

「いえ、高等経法学院です」

 

 

 予想外過ぎる報告に、誰もが安堵の息を吐いた。

 

 

「なんだ……、あそこですか」

「魔法を重要視していない高等学院じゃないですか。王国が魔法主義だから、今でも実技として魔法試験を通用させている、っていう話の」

「じゃあこっちとは試験内容にも変化が出ているかもな。的までの距離が短い、とか」

 

「えーと……、じゃあ、見送りで良いですかね。本物の実力者だとしたら、編入生として囲い込む必要もあったかと思われたのですが……」

 

「ああ、問題ないでしょう」

「王国の三大高等学院に名を連ねているから『自分たちにも引けを取らない実力者も此処にいる』とでも言いたげなアピールなのでは?」

「まったく、頭でっかちはやり方が姑息ですな」

 

 

 そういうこととなった。

 

 そんなわけで、彼の手元にある【オブシディアス・ヴァヴランテ】の名前は早々に記憶から薄れて往く。

 またひとつ、這い拠ったことに誰もが気づいていなかった。

 




~主人公視点
 不敬が天元突破
 こういう点が元社会人としてダメなんだよ、と誰にも言われているはず

 あと身体能力や魔法ナシの戦い方なんかを理論では無く感覚で掴んでいる節が見当たるので、言葉のチョイスがすっごく書き難い
 『体幹』すら知ら無さそうなので、こんな言葉遣いです。イメージだけどね。下手な小学生の方がずっと言葉知ってない…?


~魔力察知
 原作読み返すと市民証とかメタクソハイテクノロジーな仕様。主人公はハイマジカルとか口遊んでいたが、技術なのでテクノロジーで間違ってないよ。めんどくさいこと言うなよ
 いや、技術は技術でもなんちゃって技術だから理論的にはかなり可笑しいのだけども…
 というか、これも魔道具の系列なのか
 魔法付与するのだから、そりゃあ申請してから一カ月かかるね!

 マリアの察知能力は実際高い。作中でも、シンが索敵魔法を秘かに行使していた点に気付いていた
 ちなみにその後でカートの襲撃があったのだが、害意を察してほぼオートモードで索敵の網を張っていそうな口ぶりであったのに「殺気…!? 何処だ!?」とか思考してるのが主人公。おい。…おい!


~常識を学びに王都まで来ました!
 じゃあ初等科からだね。とはならない
 …なんで?
 いや、ほんとになんでだったのか。やっぱり背後に賢者が居るからなのかね?


~高等経法学院
 原作では経済と法律を学ぶ王国の3大高等学院、と述べている
 …混ぜ込み過ぎだろう。せめて分けてやれよ…
 制服は同じデザインで緑が主体、とか設定してるのに、未だに作中に出てこない
 もう一方の騎士養成士官学院が戦闘専門だから共同になったのはわかるが、割と国の防衛に大事な『軍事』に関しては脳筋しか育まない、と述べているも同然
 …シンの扱える魔法に関して『軍事利用をしない』と取り決めたそうだけど、その辺りをしっかりと納得させるように脳みそもキチンと育てておくべきなのでは…。それとも部下を信用してないのかな…
 好戦的な者が多い、とか王様嘆いていたけども、そりゃあ自分の実力発揮できる部分が戦争だからね。働く場所を確保したがるのは当たり前さぁ


~オブシー
 生まれの裏設定からドイツ系ネーミング


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